臨床婦人科産科64巻4号

2010年04月発行

今月の臨床 これを読めばすべてわかる―最新の産婦人科超音波診断

II　婦人科領域における超音波診断 ［付属器疾患の超音波診断］

2．卵巣良性腫瘍

著者： 箕浦茂樹¹ 中西美紗緒¹

所属機関： ¹国立国際医療センター戸山病院産婦人科

ページ範囲：P.446 - P.453

文献概要

　良性腫瘍の多くは嚢胞性であるが，線維腫，莢膜細胞腫，ブレンナー腫瘍のように充実性腫瘍もある．卵巣には腫瘍性病変以外にも，貯留嚢胞がしばしばみられる．またときとして炎症性腫瘤がみられることもあり，卵巣腫瘍との鑑別を要する．ちなみに当科における良性卵巣腫瘍手術例306例の検討では，成熟奇形腫（100例，32.6％）と子宮内膜症性嚢胞（96例，32.2％）で全体の約3分の2を占めた．なお，成熟奇形腫の96.0％（96例）が成熟嚢胞性奇形腫であり，その他は成熟充実性奇形腫であった．次いで，粘液性胞腺腫が37例（12.0％），漿液性嚢胞腺腫が28例（9.1％）であった．このほかに，線維腫6例（1.9％），単純性嚢胞6例（1.9％），莢膜細胞腫3例（0.9％），卵巣甲状腺種2例（0.6％），傍卵巣嚢腫14例（4.5％），卵胞嚢胞7例（2.3％），黄体嚢胞4例（1.3％）であった^1）．また，腫瘍の大きさと良性・悪性との関係については，腫瘍の最大長径が15cmを超えると約半数が悪性もしくは境界悪性というデータもあり^2），読影に注意を要する．

　最近は多くの病院でCTやMRIが比較的容易に撮れるようになり，特に研修病院ではややもすればそれらに頼りがちになるきらいがあるが，実際には超音波でほとんどの卵巣腫瘍は診断可能であり，できるだけ詳細に超音波所見を読み取る努力をすることが肝要である．

参考文献

1）堀川　隆，服部里佳，五味淵秀人，他 : 当科における卵巣腫瘍手術例の検討　1．良性例での比較．日産婦関東連合地方部会会報39 : 353-357，2002

2）服部里佳，堀川　隆，五味淵秀人，他 : 当科における卵巣腫瘍手術例の検討　2．最大径からの比較．日産婦関東連合地方部会会報39 : 359-362，2002

3）http://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/ranso.pdf

4）赤松信雄，岡井　崇，中野仁雄，他 : 卵巣腫瘍のエコーパターン分類と組織診との関連について（2）．第62回日超医論文集，pp579-580，1993

5）Natori M, Satoh M, Udagawa Y, et al : Evaluation of the echo-pattern classification of ovarian tumors as proposed by the Japan Society of Ultrasonics in Medicine : Its usefulness and reliability. Jpn J Med Ultrasonics 22 : 527-531, 1996

6）催　　華，竹内久彌，福久健二郎 : ROC解析による超音波断層法およびカラードプラ法の卵巣腫瘍診断成績の評価．J Med Ultrasonics 29 : J545-J555，2002

7）田中善章，生田明子 : 婦人科疾患の超音波診断．Jpn J Med Ultrasonics 33 : 195-209，2006

8）京　　哲，竹村美幸保，中沢愛子，他 : 卵巣皮様嚢腫の内部エコーに関する検討．第56回日超医論文集，pp639-340，1990

9）牧野英博，本田育子，小林善宗，他 : 急性腹症におけるチョコレート嚢胞破裂と卵巣出血の経腟超音波診断．第61回日超医論文集，pp333-334，1992

10）岩田　卓，山下　博，新井宏治，他 : Peritoneal inclusion cyst─嚢胞性卵巣腫瘍との鑑別．産と婦74 : pp676-682，2007