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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科64巻5号

2010年05月発行

雑誌目次

今月の臨床 着床障害―生殖医療のブラックボックス

不妊治療に必要な着床の基礎知識

著者: 岡田英孝 ,   神崎秀陽

ページ範囲:P.823 - P.827

はじめに

 近年,体外受精胚移植法をはじめとする生殖補助医療技術の進歩により,採卵成功率や胚移植成功率は飛躍的に向上した.しかしその一方で,移植あたりの妊娠率はいまだに不良であり,着床障害という病態が想定されている.着床メカニズムを理解することにより,着床障害の診断と治療への新たな展望が開かれるものと期待されている.

 ヒトの着床現象研究には,直接生命の誕生にかかわる部分であるだけに,倫理的側面からの制約が大きく,また動物の種差による着床様式の違いが大きいために,動物実験の成績をそのままヒトに当てはめることができない.例えば,ヒトでは,胚が子宮内膜上皮に接着して上皮を貫通して間質内に埋没および侵入した後に,上皮細胞は修復されるが,マウスでは,胚周囲の上皮細胞はアポトーシスを起こして消失して,間質の脱落膜化が起こる.

 着床は,胚と卵巣性ステロイドホルモンの影響下にある子宮内膜の細胞相関が複雑に絡み合って成立している.これらの過程には,胚と子宮内膜との間の調和のとれた相互作用が必要であり,胚と子宮内膜の相互間で多くのシグナル伝達が行われている1).表1のように,ホルモン,成長(増殖)因子,サイトカイン,免疫因子,接着因子,酵素,プロスタグランジンなどのさまざまな物質が関与している2, 3).着床との関連がある多種多様の因子は,子宮内膜局所で巧妙なネットワークを形成し,その産生や作用発現は相互に調節されている.

子宮の器質的異常と着床障害

著者: 矢田有里 ,   細田容子 ,   小森慎二

ページ範囲:P.829 - P.833

はじめに

 卵管膨大部で受精した胚は卵管の収縮や卵管上皮の繊毛運動により子宮内へ輸送され,子宮内膜に着床する.子宮の着床過程には,子宮内膜の胚受容性の獲得,調和した着床前胚発育,胚と子宮内膜の接着,子宮内膜間質細胞における血管透過性の亢進および着床胚周囲の局在した脱落膜化,絨毛細胞の浸潤とその制御という過程がある1).それらになんらかの障害があると着床が成功しない.また,子宮内膜は月経周期に合わせて増殖期から,排卵を経て分泌期へと変化して,妊娠が成立しないと剥脱して月経を迎えるというように卵巣ホルモンにて制御されている.それに加えてサイトカイン,増殖因子,血管増生因子などのさまざまな因子が適切に発現・消失している1~4).さらに近年それらの因子の遺伝子発現にmicroRNAが関与することも明らかになってきた5)

 子宮に器質的な病変があるとさまざまな過程でそれぞれの因子の発現に影響が出てくると考えられる.子宮体部は解剖学的に,外側より漿膜─筋層─内膜と大きく分かれている.特に子宮内膜は卵巣ホルモンの影響で増殖期を経て分泌期になり着床に最適な環境を提供し,胚を待つことなる.しかし,そのような状況がさまざまな因子で妨げられると着床はうまくいかず妊娠は成立しない.一般に着床障害は2/3が内膜異常であり,1/3が胚自身の異常と考えられている6)

 そこで,本稿では,子宮の器質的な障害に焦点を当てて着床障害との関係についてまとめた.本稿では,子宮の器質的な障害として,子宮奇形,子宮筋腫,子宮内膜症,子宮腺筋症,子宮内膜ポリープ,アシャーマン症候群を取り上げた.そのほかについては成書を参考していただきたい.

子宮内膜症と着床障害

著者: 谷口文紀 ,   原田省

ページ範囲:P.834 - P.839

はじめに

 胚着床過程には胚と子宮内膜の適切な相互作用が必要である.子宮内膜と胚由来の多くのサイトカイン,増殖因子,接着因子,酵素などのさまざまな生理活性物質が,局所因子として胚着床を調節することが知られている.体外受精をはじめとする補助生殖医療(assisted reproductive technology : ART)の進歩により,胚発育過程は顕微鏡下に可視化され,胚発育不全の診断が可能となった.しかしながら,依然として胚移植当たりの妊娠率は高いとはいえず,形態良好胚を複数回移植したにもかかわらず妊娠が成立しない着床不全という概念が顕在化している.着床不全はその病態の把握が難しく,効果的な治療法もきわめて乏しいことから,不妊治療における最重要課題といえる.

 一方,子宮内膜症は不妊症を高率に合併することから,女性のquality of lifeを著しく損なう疾患である.晩婚化が進み,生殖年齢の女性が妊娠に至るまでの期間が長くなるとともに,妊娠回数が減少している.この結果,月経回数が増加して内膜症発生の機会が増加すると考えられる.内膜症合併不妊の発生機序についてはいまだ明らかではないが,本症の存在が胚着床に悪影響を及ぼすことで妊孕能が低下することが示唆されている.すなわち,内膜症合併不妊患者では,子宮内膜因子あるいは胚-内膜相互因子の機能不全の結果として,内膜の胚受容能が低下していることが推察される.

子宮内膜掻爬術と着床障害

著者: 東口篤司 ,   逸見博文 ,   斎藤学 ,   板橋詠子

ページ範囲:P.841 - P.845

はじめに

 人工妊娠中絶,流産における子宮内容除去,子宮内膜ポリープ切除,子宮内膜腫瘍の診断のために子宮内膜掻爬術が行われる.しかし子宮内膜掻爬術はときに着床障害をひき起こすことが知られる.本稿では,子宮内膜掻爬術がどのように着床障害をひき起こすのか,着床障害が起きてしまった場合どうしたらよいか,それを予防するには何が必要かを検証したい.

受精卵,透明帯の異常と着床障害

著者: 郡山純子 ,   柴原浩章 ,   鈴木光明

ページ範囲:P.846 - P.851

はじめに

 1978年に英国のSteptoeとEdwards 1)が世界で初めて体外受精・胚移植(in vitro fertilization-embryo transfer : IVF─ET)の成功を報告し,その後1992年にベルギーのPalermoら2)が受精障害を伴う重症男性不妊症を対象とする卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)に成功した.これらの生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)は難治性不妊症に対する最終的な治療法として位置づけられ,広く一般に普及するに至っている.

 一般にARTにおいては,調節卵巣刺激(controlled ovarian stimulation : COS)を行い,至適範囲内で複数の卵子を採取し,媒精後得られた受精卵の中から,良好胚を選択し移植を行う.また受精卵を凍結保存する場合も,一般に良好胚のほうが生存率・着床率とも高く,良好胚の選択は不可欠である.

 従来は受精後2~3日目の初期胚の形態学的評価法が一般的であった.最近では初期胚を連続的かつ非侵襲的に長期間観察可能な体外培養装置を用いて,ヒト胚の発生過程の動的解析(time-lapse cinematography : TLC)が可能になり,静止画像からでは解析できなかった新たな知見を認めている3).一方,胚発生に問題の少ないと考えられる良好胚移植後の反復不成功例では,hatching障害による着床障害がその一因と考えられる.われわれは,抗透明帯抗体の検出法を確立し,抗透明帯抗体による不妊発症機序の解明,ならびに抗体の生物活性の多様性を報告してきた4)

 本稿では,卵子・受精卵・透明帯の評価法について記述し,着床障害となる卵側の問題点について述べる(表1).

着床障害への対処法

1.血流改善による子宮内膜の発育促進

著者: 嶋村勝典 ,   高崎彰久 ,   森岡均

ページ範囲:P.853 - P.857

はじめに

 われわれは不妊外来の現場で,過去に子宮内膜掻爬術の既往がないのに排卵期の子宮内膜の厚さが薄い症例をしばしば経験する.このような子宮内膜発育不全は着床障害の大きな病因の1つであり,排卵期の子宮内膜が薄い症例では妊娠率が低いことが報告されている1~4)

 また,子宮内膜が薄い症例にエストロゲン製剤を投与したり,ゴナドトロピン製剤を投与して血中エストロゲン濃度を上昇させても子宮内膜の発育がみられない症例も多く,これまでは子宮内膜発育不全の病態について明らかになってない部分が多かった.

 以前より子宮内膜発育不全の原因の1つとして子宮内膜の血流障害が考えられていたが5~7),最近われわれは,子宮内膜の発育と子宮放射状動脈の血流との関係を明らかにし,子宮内膜の血流改善を目的とした薬物療法が子宮内膜発育不全症例に対する治療になり得る可能性を見いだしたので紹介する.

2.ホルモン療法による着床率の向上

著者: 梶原健 ,   石原理

ページ範囲:P.858 - P.861

はじめに

 着床現象には胚と子宮内膜のそれぞれ調和のとれた成熟・分化が必要であり,しかも時間的・空間的に同調していなければならない.子宮内膜には胚の受容が可能である一定の期間implantation windowがあり,この期間は基本的には卵巣性ステロイドホルモンのみにより制御されていると考えられる.しかし近年のさまざまな研究により,この卵巣性ステロイド以外に,着床局所におけるサイトカイン,ケモカイン,接着因子,細胞外器質などの発現,さらには胚と子宮内膜との適切なコミュニケーションが子宮内膜の受容能獲得に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある.

 生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)の発展により,これまでブラックボックスであった妊娠成立過程において,受精・分割を経た胚が得られるようになり,さらにはその過程が顕微鏡下に可視化されるようになった.したがって現在の着床不全の定義とは,形態的・機能的に良好と思われる胚を複数回移植しても妊娠が成立しない状態を指す1)ものと考えられる.しかしART以外の診療の場では子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど子宮内腔の器質的な異常がある場合以外はその診断は必ずしも明確なものではない.例えば着床不全の一因と考えられている黄体機能不全の診断と治療には,大きな幅がある.

 ARTの技術進歩に伴い,これまで難治性とされた多数の不妊症カップルが妊娠可能となり,これらのカップルに多大な福音をもたらしてきたが,近年妊娠・生産率は頭打ちの状態にある.現在のこの状況を打破するためには新たなる着床障害への対処法の確立が望まれる.本稿においてはこの着床不全に対するホルモン療法に関して概説する.しかし,前述したように着床不全そのものの定義自体が不確実なこともあり,いまだブラックボックスである着床現象には未解明な部分が多い.したがって,その治療に関してはいまだ研究レベルのものが多く,エビデンスレベルの高い治療法はない.

3.接着分子トロフィニンによる着床促進

著者: 杉原一廣

ページ範囲:P.862 - P.867

はじめに

 着床は哺乳動物の生殖に特異的な現象であるが,種によってさまざまな特徴がある1).さらに霊長類に属する動物間でも着床現象に微妙な差があることが報告されている.「ヒトの着床現象」を明らかするためには“ヒト”と“ヒト以外”では使われる分子が同一でも調節機構や機能に差がある可能性を念頭において研究を進める必要がある.現在まで,ヒト着床の解明を目指して分子レベルで膨大な研究が行われてきたがいまだ不明な点が多々存在する.われわれは子宮内膜と胚盤胞(blastocyst)の初期接着をmimicする系をin vitroで確立し,この系を用いてヒトの着床における接着分子トロフィニンを同定した1~11)

 ヒトでは卵管妊娠が全妊娠の約1%以上に起きるがヒト以外の霊長類を含む動物には基本的には起こらない1, 11).われわれは卵管妊娠の着床部位にトロフィニンが発現することを見いだした1, 2, 11).トロフィニンは絨毛のトロフォブラストと絨毛が隣接する卵管上皮に発現する.しかしながら着床部位からわずか5 mm離れた卵管上皮にはトロフィニンの発現は認められない.母体側ではヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin : hCG)が局所的にトロフィニンの発現を誘導することを明らかにした.さらにhCGと炎症性サイトカインであるIL-1βがヒト子宮内膜上皮細胞へトロフィニンの強発現を誘導することを報告した1).これらの基礎研究の成果を臨床へ応用すべくトランスレーショナルリサーチを進めている.

4.習慣流産,着床障害への着床前診断

著者: 大谷徹郎

ページ範囲:P.868 - P.871

はじめに

 着床前診断は体外受精で生じた受精卵が8分割~胚盤胞に育った段階で,一部の細胞を生検し,その細胞について,受精卵が着床する前,すなわち妊娠が成立する前に染色体や遺伝子の異常の有無を調べる技術である.当初は遺伝子疾患の回避を目的として開発され,1990年に最初の出産例がHandysideら1)により報告されている.妊娠成立後に実施される絨毛検査や羊水検査などの出生前診断に比べて,検査結果が意に沿わないものであった場合の人工妊娠中絶の可能性を回避できるというメリットがある.

 しかし,その後,着床前診断によって,染色体転座を原因とする習慣流産患者の流産を予防することができることが明らかになった.さらに,体外受精反復不成功例において,着床前診断によって受精卵の染色体の異数性を検査することが,不成功の原因の検索ならびに予後の推測に有効ではないかとする報告が増えている2)

ARTにおける着床率向上の工夫

1.新しい胚移植法―子宮内膜刺激胚移植法(SEET)

著者: 後藤栄 ,   塩谷雅英

ページ範囲:P.873 - P.877

はじめに

 生殖補助医療における反復不成功例のなかに,形態良好胚を移植しているにもかかわらず妊娠に至らない着床不全症例が存在する.着床不全の原因のうち,子宮および卵管側の器質的要因として子宮粘膜下筋腫,子宮内膜ポリープ,子宮内膜症,子宮奇形,卵管水腫などが挙げられる.一方,機能的要因として性ステロイドホルモンや胚因子の刺激に対する子宮内膜の反応異常に起因する胚受容能の異常などが考えられている1).これらのうち胚由来因子の欠如または減少による子宮内膜の胚受容能の低下に起因する着床率低下を改善する方法として,1999年に滋賀医科大学にて二段階胚移植が考案された2, 3).二段階胚移植は着床周辺期の胚と子宮内膜はシグナル交換(クロストーク)をしており,胚は着床に向けて子宮内膜の局所環境を修飾していることを示したマウスを用いた基礎研究に基づいている4~6).二段階胚移植法ではday 2に初期胚を移植し,残りの胚は培養を継続し,引き続きday 5に胚盤胞を移植する.初期胚にはクロストークにより子宮内膜の胚受容能を高める働きを期待し,継続培養によって選択された胚盤胞がより高い確率で着床することを期待している.以来,特に反復ART不成功例に対する移植方法として他施設にても用いられ良好な成績を挙げており,誌上報告もなされている7~9).しかしながら,二段階胚移植法は少なくとも胚を2個移植するため,多胎の問題を回避することはできなかった.近年,多胎予防を目的として単一胚移植が推奨されるようになってきた.単一胚移植を行う場合は,初期胚移植か胚盤胞移植のいずれかを行うことになるが,これらの移植方法では二段階胚移植法のように胚と子宮内膜の相互作用を利用することができない.この問題を克服するために新たに考案した方法が子宮内膜刺激胚移植法(stimulation of endometrium─embryo transfer : SEET)10, 11)である.

 近年,胚培養液上清には子宮内膜胚受容能促進に関与する胚由来因子が存在することが報告されている12, 13).そこで,胚培養液上清を子宮腔内に注入することにより子宮内膜が刺激を受け,胚受容に適した環境に修飾される可能性があると考え,胚盤胞移植(BT)に先立ち胚培養液上清を子宮腔内に注入する方法を考案し,これをSEETと命名した.SEETでは,二段階胚移植法における一段階目に移植する初期胚の代わりに胚培養液上清を子宮に注入することにより,培養液中の胚由来因子により子宮内膜の分化誘導の促進が期待でき,かつ,移植胚数は胚盤胞1個に制限することが可能となり,多胎の問題を克服することができる.本稿では新しい移植法であるSEETについて紹介したい.

2.私はこうしている―IVF大阪クリニック

著者: 福田愛作

ページ範囲:P.879 - P.883

はじめに

 日本でも1983年の体外受精(IVF)による初めての妊娠出産の成功以降,IVFの実施件数は確実に増え続け,今や日本は質量ともに世界のIVF大国となりつつある.IVFによる妊娠成立効率は年々向上しわが国でも年間2万人以上のIVF児が誕生している半面,患者年齢の上昇やIVF反復不成功例の増加が不妊専門医にとって,大きなそして困難な課題となっている.筆者のクリニックではこのような症例に対して数年前より着床障害の専門外来を設置し,医師,看護師,胚培養士,心理カウンセラーによるチームを作り,その治療に当たっている.本稿ではわれわれが行っているIVF反復不成功に対する着床障害外来での検査と治療の試みについてその概要を解説する.

3.私はこうしている―京野アートクリニック

著者: 京野廣一 ,   土信田雅一 ,   戸屋真由美

ページ範囲:P.885 - P.887

はじめに

 着床率向上には胚と子宮内膜の双方に対する工夫が必要である.大部分は胚側の因子であり,子宮内膜側の因子は少ないと考えられている.その例として自己の卵子を使用した場合と,若い女性の提供卵子を使用した場合の加齢による生産率の変動がそれを証明している.しかし日本では,卵子を提供する土壌が成熟しておらず,姉妹や親しい友人に頼らざるを得ず,卵子提供による治療も困難をきわめている.そのなかでいかにしてカップルの間で工夫し,着床率を上げるかについて,日常の診療で実施していることを紹介したい.

連載 産婦人科PET 何を考えるか?・12

卵巣腫瘍の診断

著者: 細木拓野 ,   高見元敞 ,   長谷川義尚

ページ範囲:P.819 - P.821

 58歳女性,乳癌手術1か月後に他院にてエコーで腹部に15 cm径の腫瘍を指摘された.卵巣転移の疑いもあり,精査治療目的で入院となり,MRI検査,FDG PET/CT検査が施行された.

 入院時CA 125は36 U/mlとほぼ正常であったが,SCCは18.0 ng/mlと上昇していた.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・53

急性妊娠性脂肪肝と思われた1例

著者: 田中幹夫

ページ範囲:P.890 - P.893

症 例

■患者

 39歳,1妊1産(自然分娩2,934 g)

■既往歴

 特記すべきことなし.

■現病歴

 2008年4月上旬,妊娠10週,分娩予定日を2008年10月下旬に決定した.その後,異常なく通院し,妊婦健診していた.児の発育も正常であった.妊娠33週まで,血圧正常,尿蛋白(-).妊娠35週ごろより,食欲不振,全身倦怠感,手足のむくみ,皮膚の黄色変化を目覚していたが,受診時に異常は指摘されず,経過をみていた(採血なし).

 2008年10月中旬(妊娠37週5日),朝から性器出血があり受診.受診時,子宮口は全開大であった.人工破膜を実施すると羊水混濁(++)・児心拍の低下を認め,急速遂娩のため吸引分娩となった.児は2,360 g,男児,アプガースコア1/7点.呼吸障害があり,挿管・酸素投与のうえ当院NICUへ搬送となった.

 母体は分娩後,血圧上昇(180/110 mmHg),血小板低下(5.3×104/μl)を認め,HELLP症候群を疑って当科へ母体搬送となった.

サクラの国のインドネシア・8

目前の看護師国家試験と文化人類学

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.896 - P.897

目前の看護師国家試験

 数日後に看護師国家試験を控えたインドネシア人看護師たちに会いに受け入れ施設に行った.

 年明けに合格はムリと繰り返していたので,合格の見込みのない試験であれば,受験も気楽なものではないかと思ったりしていた.会ってみると心なしか痩せて,顔色も良くなく悲壮感すら漂わせて,多くの期待を背負って試験を受けることがいかに重圧であるかを思わせた.

病院めぐり

社会医療法人ハートライフ病院

著者: 大西勉

ページ範囲:P.899 - P.899

 中城(なかぐすく)村は沖縄本島中部の東海岸に位置する,人口約1万7千人ののどかな村です.隣接する西原町の高台には琉球大学医学部とその附属病院があります.また,車で5分たらずの海岸には白砂のビーチがあり,エメラルドグリーンの海を満喫できます.病院は小高い丘陵地にあるため,太平洋が一望できます

 当院は昭和63年に設立された病床数300床の小規模の病院ですが,19の診療科を有し,24時間救急を行っている2次救急指定病院です(残念ながら産婦人科は24時間救急ではありません).常勤医師は64名,非常勤医師16名ですが,年々増加しています.また,昨年沖縄県で最初に社会医療法人の認定を受けました.“ハートライフ”と名づけられた理由は定かではありませんが,特別な意味合いはないようで,ごく一般の病院です.

原著

当院における結核合併妊娠症例に関する検討

著者: 水主川純 ,   中西美紗緒 ,   桝谷法生 ,   定月みゆき ,   五味淵秀人 ,   箕浦茂樹 ,   松下竹次 ,   小林信之

ページ範囲:P.901 - P.905

 2008年の新規登録結核患者数は24,760人であり,生殖年齢の女性の結核は稀ではない.2007年1月から2008年12月の間に,40床の結核病棟を有する当院で分娩した結核合併妊娠4例について検討した.

 母体年齢は29~33歳,肺結核2例,肺外結核2例であった.診断法は喀痰抗酸菌塗沫検査,胸部X線検査,頸部リンパ節生検であり,症状出現から診断までに長時間を要していた.全例,rifampicin,isoniazid,ethambutolによる内服治療を施行し,分娩前に喀痰抗酸菌培養検査陰性を2回以上確認できた2例は,産科一般病棟に入院し,分娩室で正常分娩した.確認できなかった2例は,結核または有料個室病棟に入院し,陰圧換気可能な手術室で帝王切開分娩した.出生児のうち3例は他院での感染隔離を要したが,先天性結核や新生児結核を認めなかった.

 結核の早期診断,そして,産科,呼吸器科,小児科が連携した診療が重要であると考えられた.

臨床経験

子宮平滑筋肉腫14例の臨床的検討

著者: 朝野晃 ,   松浦類 ,   島崇 ,   早坂篤 ,   藤田信弘 ,   和田裕一

ページ範囲:P.906 - P.909

 1988年1月から2008年12月までの21年間に当科で治療した子宮平滑筋肉腫14例について臨床的検討をした.年齢は35~82歳,主な症状は,過多月経・不正性器出血,腹痛,腹部腫瘤であった.摘出子宮重量は,200~4,600 gであった.臨床進行期は,I期11例,II期1例,III期2例,IV期0例であった.手術は全例に子宮全摘術が行われた.子宮平滑筋肉腫14例中10例が再発し,再発の全症例が5年以内に死亡し,5年生存率は17.4%であった.再発から死亡までの平均期間は13.6±10.3か月であった.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.918 - P.918

 大学病院の各部署担当者は,4月からの新入職者を迎えてガイダンスや研修に追われています.例年最も多いのは看護師で今年も120名以上となっていますが,新研修医は今年から定員が削減されたこともあり,40名弱しかいません.分院採用の新研修医を加えても,大学全体で50名に達しない状況です.初期研修医が少なかったとしても,2年後に大学病院で勤務する専修医が確保できるなら将来への人材育成に問題はないとして,初期研修医の減少をあまり気にしていない恵まれた大学もあります.しかし現実には初期研修後そのまま市中病院で後期研修へと移行する場合が多いようで,これまでもしばしば指摘されているように,研修制度の変化に伴う大学病院勤務医師数の減少は必然的に大学院生の減少に繋がっています.基礎講座や附属研究所などでは研究者(医師)の確保は困難となっていますので,善し悪しは別として,日本も欧米のように,基礎医学研究を担う主体が医師以外の農学,理学,工学などの出身者で占められるようになってきました.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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増刊号 産婦人科処方のすべて2020―症例に応じた実践マニュアル

74巻3号(2020年4月発行)

今月の臨床 徹底解説! 卵巣がんの最新治療―複雑化する治療を整理する

74巻2号(2020年3月発行)

今月の臨床 はじめての情報検索―知りたいことの探し方・最新データの活かし方

74巻1号(2020年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 周産期超音波検査バイブル―エキスパートに学ぶ技術と知識のエッセンス

73巻12号(2019年12月発行)

今月の臨床 産婦人科領域で話題の新技術―時代の潮流に乗り遅れないための羅針盤

73巻11号(2019年11月発行)

今月の臨床 基本手術手技の習得・指導ガイダンス―専攻医修了要件をどのように満たすか?〈特別付録web動画〉

73巻10号(2019年10月発行)

今月の臨床 進化する子宮筋腫診療―診断から最新治療・合併症まで

73巻9号(2019年9月発行)

今月の臨床 産科危機的出血のベストマネジメント―知っておくべき最新の対応策

73巻8号(2019年8月発行)

今月の臨床 産婦人科で漢方を使いこなす!―漢方診療の新しい潮流をふまえて

73巻7号(2019年7月発行)

今月の臨床 卵巣刺激・排卵誘発のすべて―どんな症例に,どのように行うのか

73巻6号(2019年6月発行)

今月の臨床 多胎管理のここがポイント―TTTSとその周辺

73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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