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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科64巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

今月の臨床 子宮内膜症・腺筋症の外科的治療─機能温存をめざして

子宮内膜症・腺筋症の治療指針

著者: 北脇城

ページ範囲:P.1172 - P.1177

はじめに

 子宮内膜症は,子宮内膜またはその類似組織が子宮以外の部位で増殖,発育し,機能する疾患である.これに対して,子宮腺筋症は子宮内膜またはその類似組織が子宮筋層内に存在する疾患である.両者は類縁疾患であり,従来それぞれ外性子宮内膜症,内性子宮内膜症と呼ばれていたが,現在では別の疾患として扱われている.子宮内膜症の発生機序には移植説と化生説とがあっていまだ不明であるのに対して,子宮腺筋症は1908年にCullen 1)によって提唱された正常子宮内膜の深部増殖説が一貫して支持されている.

 しかしながら,両疾患ともに性成熟期女性に発生し,両疾患が合併することもある.疼痛と不妊という類似の症状をきたすことによって女性のquality of life(QOL)を著しく損ねる.そこで,本稿では両疾患を総合的に捉えて,これらの治療指針を整理していく.

卵巣チョコレート嚢胞の機能温存外科治療のコツ

1.チョコレート嚢胞摘出術(核出術)

著者: 内出一郎 ,   森田峰人

ページ範囲:P.1179 - P.1185

はじめに

 子宮内膜症患者の受診割合は近年の晩婚化,少子化に伴い増加傾向にあり,その結果,卵巣チョコレート嚢胞を有する患者の割合も増加してきている.さらに,治療対象となる患者数も子宮内膜症発症年齢の低年齢化とも相まって,増加してきている.美容的側面や早期の社会復帰の必要性を考慮すると,低侵襲手術である腹腔鏡手術は,積極的に導入するべき手法であると考えられる.当教室においては,1980年代後半より積極的に卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下手術を行ってきた1, 2).日本産科婦人科内視鏡学会ガイドライン委員会報告(以下,内視鏡手術ガイドライン)においても,腹腔鏡下手術は開腹手術と比較して,より低侵襲であり,治療効果は開腹手術と同等であるが,妊娠率で腹腔鏡下手術のほうが有利であったとされており,明らかに腹腔鏡下手術のほうが有利であると報告されている3)

 卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下卵巣嚢胞摘出術は,単なる嚢胞摘出のみではなく,付属器周囲の癒着剥離やダグラス窩癒着の開放,さらには腸管癒着剥離の手技も要求される場合もあり,手術操作を行うに当たっては確実な手術手技の獲得と,正しい解剖学的知識が必要である.卵巣チョコレート嚢胞の診断においては,悪性化もしくは癌の合併という問題もあり,腫瘍マーカーや画像診断などの多角的な視野からの術前評価も非常に重要で,診断に当たっての正確な知識も要求される.

 卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下卵巣嚢胞摘出術の有効性に関するエビデンスとしてはCochrane Libraryにランダム化比較検討の報告がある.この報告によれば,嚢胞開窓術/嚢胞内面焼灼術を比較対象とすると,術後2年における疼痛再発率は嚢胞摘出群で顕著に低く,無症候期間の延長があり,また,術後妊娠率も高いとされている4).このことからも卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下嚢胞摘出術は非常に有効であると考えられる.術後再発は30%程度に認められるとされており,これについても十分に説明を行う必要がある.嚢胞摘出術後,卵巣機能の低下が懸念されるが,術後の生殖補助医療における成績のsystematic reviewによれば,チョコレート嚢胞に対する外科的治療の有無で,妊娠率や卵巣刺激に対する反応性には差がなかったとされている.また,この報告のなかで,IVFを施行するに当たり,治療既往のない5cmを超えるチョコレート嚢胞を有する症例においては,十分に手術に対するインフォームド・コンセントを行ったうえで,嚢胞摘出を施行してからIVFを施行することを推奨している5)

2.チョコレート嚢胞内壁焼灼術

著者: 奥田喜代司 ,   市川文雄 ,   楢原敬二郎 ,   苅田正子 ,   林篤史 ,   林美佳 ,   湯口裕子 ,   藤岡聡枝 ,   中村嘉弘 ,   山下能毅 ,   寺井義人 ,   大道正英

ページ範囲:P.1187 - P.1191

はじめに

 子宮内膜症では子宮内膜様組織が子宮内膜以外の卵巣,仙骨子宮靱帯,腹膜などに発生し,癒着とチョコレート嚢胞を形成する.このような病態が月経痛,慢性骨盤痛,排便痛や性交痛の疼痛症状,不妊症および嚢胞の癌化などを惹き起こす.子宮内膜症の治療には薬物療法と手術療法があるが,不妊症を合併する例や癌化の懸念がある場合は手術療法が選択される.その手術療法には根治療法(両側卵巣摘出)と保存療法があるが,月経のある成熟女性に多い疾患であるために卵巣を温存する保存療法(子宮内膜症病巣除去術)が選択されることが多い.また,アプローチの方法として開腹手術と腹腔鏡下手術があるが,最近では侵襲性や術後癒着の点から腹腔鏡下手術を選択されることが多い.ここではチョコレート嚢胞に対する卵巣機能を温存する外科治療としてチョコレート嚢胞内壁焼灼術を取り上げ,そのコツを文献的な考察を含めて述べる.

3.チョコレート嚢胞アルコール固定法

著者: 鈴木隆弘 ,   後藤優美子 ,   三上幹男

ページ範囲:P.1192 - P.1195

はじめに

 卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)は卵巣に発生した子宮内膜症が嚢胞を形成して腫大したものである.子宮内膜症は生殖年齢婦に多く認められる疾患であるため,妊孕性を温存した治療法の選択が必要である.現在,チョコレート嚢胞に対する保存治療としては待機療法,内容吸引術(経腟,腹腔鏡下),アルコール固定術(経腟,腹腔鏡下),嚢胞摘出術,嚢胞内腔蒸散術(腹腔鏡下)が挙げられる.子宮内膜症性不妊が疑われる場合は,癒着剥離や腹膜病変の焼灼,腹腔内洗浄が妊孕性の向上につながるため積極的な腹腔鏡手術の導入が勧められているものの,チョコレート嚢胞に対する処置法の選択については統一した見解が得られていない.腹腔鏡手術時は嚢胞摘出や蒸散術のどちらかを施すことが多い.嚢胞摘出術は病理組織学的診断ができ,比較的再発率が低く,最も普及している方法であるが,正常卵巣組織を損なう可能性も示唆されている1)

 アルコール(エタノール)注入固定法は1988年にわが国において赤松ら2)によって最初に報告された方法である.嚢胞内容吸引後にエタノールを嚢胞内に注入すると内側の分泌細胞が変性壊死に至り,再発をおさえる.本法について,再発や妊孕性温存に関してさまざまな検討がなされているものの広く確立した治療法とはなっていない.特に近年指摘されている子宮内膜症と卵巣癌の合併や子宮内膜症の悪性転化の点から組織学的診断の得られない本法を行わない施設も多いようである.

子宮腺筋症の機能温存手術

1.部分性腺筋症に対する保存術式

著者: 西田正人 ,   小曽根浩一 ,   市川良太 ,   高野克己 ,   新井ゆう子

ページ範囲:P.1197 - P.1201

はじめに

 子宮腺筋症の保存的手術が筋腫核出術と根本的に異なるのは,筋腫は正常筋層を圧排して発育するので,核出したのちの欠損部は圧排されていた正常筋層が戻ってきて充填されるのに対し,腺筋症は正常筋層に浸潤性に発育するため病巣を除去するとその部分の正常筋層も欠損する点である.

 このような発育の違いから,腺筋症を筋腫のように切除できないばかりか,病巣切除後の子宮の形成も筋腫核出術後とは根本的に異なり,腺筋症病巣切除後に生じた子宮の大きな欠損部を修復して機能を回復させることは大変難しい.

 腺筋症は後壁に発生する部分性腺筋症が最も多い.部分性腺筋症とは前壁は正常であることを意味しているので,後壁の病巣を除去したのちに前壁で子宮を形成することになる.

 今回は最も一般的な後壁の部分性腺筋症に対する保存術式,われわれがtype I術式と呼んでいる手術について述べる.

2.子宮筋フラップ法による子宮腺筋症摘出術

著者: 長田尚夫 ,   永石匡司 ,   山本樹生

ページ範囲:P.1202 - P.1208

はじめに

 子宮腺筋症は,子宮筋層に発生する子宮内膜症で好発年齢は,30歳代であるが,最近の結婚年齢の高齢化に伴いますます増加傾向にある.子宮筋層内に広範囲に広がる重症子宮腺筋症は,強度な月経痛,過多月経による貧血などによって日常生活に支障をきたすばかりでなく長期にわたるホルモン療法や鎮痛剤の服用を余儀なくされる.また不妊症も合併することも多い.子宮腺筋症の治療には,GnRHアナログ,ピル,アロマターゼ阻害剤などを用いる薬物療法,子宮腺筋症塞栓術,開腹術や腹腔鏡下手術による子宮腺筋症摘出術など多くの選択肢がある.しかし薬物療法や手術療法にも限界があることから,最後には子宮全摘術に至るケースも少なくない.

 本稿では,子宮壁の広範に存在する,いわゆる重症子宮腺筋症に対する子宮筋3重フラップ法による子宮腺筋症摘出術について術式とその臨床効果を紹介する.

性器外子宮内膜症病変への外科治療のポイント

著者: 杉並洋

ページ範囲:P.1210 - P.1215

はじめに

 子宮内膜症の初発部位は骨盤腹膜,特にダグラス窩腹膜である.骨盤腹膜に発症した子宮内膜症はその深部あるいは周辺へと浸潤していく.したがって,骨盤内臓器,例えば卵巣や直腸などは子宮内膜症の好発部位となる.また,発症頻度は低いものの,膀胱,尿管,肺,関節,臍,鼠径部などに発症することも知られている1).臨床症状は月経痛や慢性痛など疼痛が主たるものであるが,発症部位に特異的なものもあり多岐にわたる.そのいずれもがエストロゲンの変動に関連しており月経時に増悪することが多い.

 子宮内膜症の治療法は外科治療と内科治療とに大別できる.内科治療では種々の薬剤が使われる.GnRHアゴニストは卵巣でのエストロゲン産生を抑制することによって,また,低容量ピルやプロゲスティン製剤は血中エストロゲンのレベルを低値の状態で維持し続けることによって子宮内膜症に付随する臨床症状を軽減させる.これらはいずれもsuppressive treatmentであり,子宮内膜症そのものは残存しているのである.子宮内膜症性疼痛に対する対症療法として非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)が一般的に広く使用されている.これも一種のsuppressive treatmentである.現時点において,子宮内膜症に対する唯一のcurative treatmentは外科治療である.治療効果を高めるには子宮内膜症を完全に除去することが重要である2).子宮内膜症の完全除去が困難な場合には卵巣摘出が行われることもあるが,このような症例において卵巣欠落症状治療の目的でホルモン補充療法を行うと,子宮内膜症は残存しているのであり,当然の結果ではあるが症状再発が起こる3)

 性器外子宮内膜症の治療についても同様の議論が成り立つ.臨床症状を根治的に消失させるには外科的に子宮内膜症病巣を完全に除去することが肝要である.以下にいくつかの性器外子宮内膜症の外科治療について述べる.

子宮内膜症術後再発への対応―予防と再発後の対応

著者: 樽本祥子 ,   清水良彦 ,   髙島明子 ,   竹林明枝 ,   喜多伸幸 ,   髙橋健太郎 ,   村上節

ページ範囲:P.1217 - P.1219

はじめに

 子宮内膜症は生殖年齢の女性に好発するため,妊孕能温存を希望する例や不妊症例が多く,初回治療では,根治手術よりも薬物療法や保存手術が選択されることが多い.卵巣機能を温存する保存手術は再発のリスクを有しているため,子宮内膜症の診療において再発は不可避といっても過言ではなく,対応に苦慮する症例に遭遇することも稀ではない.

 本稿では,再発に関して最近の知見を基に考察する.

子宮腺筋症のUAE治療

著者: 本田育子 ,   佐藤哲也 ,   安達英夫

ページ範囲:P.1220 - P.1227

はじめに

 子宮腺筋症は30代からよくみられる疾患であるが,過多月経と月経困難症が高度になると日常生活の質は著しく損なわれる.有症状の子宮腺筋症に対しては子宮全摘術が行われてきたが,近年,出産年齢の高齢化に伴い子宮温存治療を希望する患者が,子宮筋腫同様,腺筋症患者でも増加の傾向にある.子宮筋腫に対する子宮全摘術や筋腫核出術の術前療法として1995年に紹介された子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization : UAE)は,現在では根治療法としてその有効性は広く認められるに至った1~3).UAEは子宮腺筋症に対しても試みられ4),最近では中~長期的な有用性を検討した報告がみられるようになった5~7).われわれは,2002年に高度子宮腺筋症56例の中期的follow up期間から満足できる結果を発表したが,このなかでUAE後に自然妊娠し健児を得た症例を初めて報告した8).当初,UAEは開腹手術や腹腔鏡手術と比較して,子宮に切開創を加えずに病巣を除去,縮小することができ,術後の子宮付属器周囲癒着という新たな不妊原因の発症がきわめて少ないことから妊娠希望の患者では理想的な治療方法と考えられた.しかしながらUAEによって子宮内膜や子宮筋層も影響を受けることがわかり(図1),われわれは2001年にUAE後の子宮内膜の損傷を報告した9).UAEは「子宮動脈の塞栓」であり,子宮全体に塞栓効果が及ぶことによる正常子宮筋層,子宮内膜の損傷と,塞栓物質の流入による卵巣血管の塞栓が原因と考えられる卵巣機能低下により妊孕性を損なうリスクがあり,この新たな不妊原因はしばしば高度で難治性である10~17).このためUAEは子宮筋腫挙児希望例では相対的禁忌とされ18),個々の症例で慎重に適応を検討せざるを得ない.UAE後の妊娠報告はきわめて少なく,また不妊原因は複数あり,UAEの妊娠率を検討するのは困難であるが,今日までの報告や自験例から子宮筋腫UAE後の妊娠率は10~40%と考えられる19~23).一方,子宮腺筋症に対してはUAEの適応そのものが結論に達していない状況である.1998年から2009年までに当施設で213例の有症状の子宮腺筋症患者にUAEを施行したが,MRI造影検査で腺筋症病巣の完全梗塞に至った割合は66%にとどまり,筋腫の92%と比較して低い結果であった.

 われわれは原則として挙児希望例に対するUAEは,筋腫,腺筋症とも適応外としているが,リスクを説明したうえでUAEを希望した挙児希望腺筋症例を経験したのでUAE後の妊孕能への影響を検討した.今日までに当施設でUAEを施行した腺筋症患者のなかで6名が妊娠を希望し,うち3名が5回妊娠し2回の正期産に至った.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール・56

胎児期片側胸水を認め出生後重度の呼吸障害で死亡した総肺静脈環流異常の1例

著者: 漆川邦 ,   藤木豊 ,   雪竹義也 ,   新井順一 ,   宮本泰行 ,   菊地斉 ,   塩野淳子

ページ範囲:P.1230 - P.1232

症 例

■患者 24歳,初回経妊・初回経産

■主訴 胎児右胸水

■既往歴 特記事項なし

■家族歴 特記事項なし

病院めぐり

兵庫県立塚口病院

著者: 濵西正三

ページ範囲:P.1233 - P.1233

 尼崎市は,人口46万人,大阪湾の西岸に位置し,南部が重軽工業地帯,北部は近郊住宅地として発展してきました.兵庫県立塚口病院はその北部にあり,昭和28年,南部に所在する県立尼崎病院の塚口分院として開設され,社会のニーズに応じて診療科を増設し,昭和49年400床の総合病院として独立しました.

 平成19年4月から「県立病院の基本的方向」により,周産期・小児を中心にした成育・性差医療,小児救急などを特色とすることが定まり,現在,稼動病床300床のうち,産婦人科が68床(産科46,婦人科22),小児科が54床(NICU 6,GCU 14,小児外科4を含む)を占めています.

サクラの国のインドネシア・10

看護師誕生の陰

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.1236 - P.1237

経済連携協定に基づく看護師誕生

 6月10日「EPAに基づく看護師誕生記念講演─看護師国家資格取得までの道程─」がJICA地球ひろばで開催された.主催は一般社団法人 外国人看護師・介護福祉士支援協議会,BIMA CONC(ビマ・コンク),協賛は社団法人 日本・インドネシア経済協力事業協会,後援はJICA(独立行政法人 国際協力機構Japan International Cooperation Agency),財団法人 結核予防会,社団法人 全国老人保健施設協会,一般社団法人 日本慢性期医療協会,一般社団法人 メディカル・プラットフォーム・エイシア,特定非営利活動法人 国際労働研修協会である.

 経済連携協定(economic partnership agreement : EPA)に基づいて来日した外国人看護師たちは母国の看護師資格をもっているにもかかわらず,日本では看護師候補者,時に略して候補者と呼ばれる.今回の国家試験合格は,日本側からすれば看護師候補者が看護師になったことになる.EPAに基づくと冠した看護師誕生記念講演のタイトルは,多くの問題をかかえる制度のなかで母国の看護師資格をもつ外国人看護師に配慮したと考えるのは穿ち過ぎであろうか.

症例

子宮筋層内に多嚢胞所見を認めた子宮体部分泌型類内膜腺癌の1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   森下美幸 ,   鈴木美紀 ,   水内英充 ,   水内将人 ,   鈴木美和 ,   松浦基樹 ,   北島義盛 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1238 - P.1243

 今回,子宮体部分泌型類内膜腺癌の稀な1例を経験した.

 症例は73歳,閉経54歳で2経妊・2経産,71歳時に子宮筋腫を指摘されていた.2008年7月下旬に,子宮内膜増殖症の疑いで他院産婦人科より新日鐵室蘭総合病院産婦人科を紹介された.経腟超音波,MRI,CTで子宮筋層内に多嚢胞所見を認め,子宮鏡検査,子宮内膜細胞診,子宮内膜組織診では異常なく,腫瘍マーカーは,CA 125 167.6 U/ml(基準≦35 U/ml),CA 19-9 212.2 U/ml(基準≦37 U/ml)が高値であった.腹式子宮全摘術,両側子宮付属器摘出術,腹腔内洗浄細胞診を施行した.

 摘出物の病理組織検査では,脂肪平滑筋腫に隣接して癌病巣が認められ,子宮内膜の一部と子宮筋層内に嚢胞状の拡張や浸潤が目立つ腫瘍腺管を認めた.高円柱状上皮と淡明な胞体,グリコーゲンと思われる分泌像が特徴的で,核下空胞は目立たないが核上空胞や内腔への分泌像があり,分泌型類内膜腺癌と考えられた.

子宮体部悪性リンパ腫の1症例

著者: 笹倉勇一 ,   林博章 ,   中田俊之 ,   市川英俊

ページ範囲:P.1245 - P.1249

 症例は76歳で,全身倦怠感を主訴に近医を受診し,急性腎不全の診断にて両側尿管ステント留置後,CTにて子宮腫瘤を認め紹介来院した.初診時,子宮は手拳大に腫大し,骨盤MRIにて膀胱浸潤を疑う肉腫様所見を認めた.試験開腹術を施行,術中・術後の病理組織診より悪性リンパ腫(malignant lymphoma : ML),病期診断はStage IV,組織型はびまん性大型細胞,B細胞型非ホジキンリンパ腫と診断された.現在は血液内科にて多剤併用化学療法,R-THP-COP療法(rituximab,pirarubicin,cyclophosphamide,vincristine,prednisolone)を施行中である.

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編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.1258 - P.1258

 サッカーのワールドカップ報道を見ていると,不謹慎かも知れませんが「勝てば官軍,負ければ賊軍」,あるいは,「熱しやすく冷めやすい」というフレーズが浮かびました.日本人だけはありませんが,時代や世代を超えた,人の本性を言い得て妙のことわざです.われわれの世代ではなかなかついていけないほどにまで,インターネットや多機能携帯電話が普及し,リアルタイムでさまざまな情報があふれています.ニュースはたちまち旧聞となり,一般の認識からは急速に薄れていきます.

 周産期医療の崩壊,あるいは病院や医師数の危機的な不足といった実情が繰り返し報道され,分娩施設の集約化や医学部定員増が話題となってからまだ2年程度しか経ちませんが,最近ではこの問題が報道されることはほとんどなくなりました.昨年からは徐々に産婦人科志望者が増加してきたとはいえ,一部の地域を除けばなお絶対的な産科医師不足の状況にあることは明らかです.各地域での搬送や連携体制がある程度強化されてきたことで,問題視される例が減少した事実は喜ぶべきでしょうが,根本的な解決にはまだまだ遠い道のりです.世間一般は,まさに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という状態ではないかと危惧しています.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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