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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科65巻12号

2011年12月発行

雑誌目次

今月の臨床 早産─ワンランク上の予防と管理

わが国における早産の実態

著者: 齋藤滋

ページ範囲:P.1408 - P.1413

 早産は種々の要因により引き起こされる症候群であり,特に在胎32週未満の早産児は長期間のNICU入院が必要となり,また周産期死亡率や,種々の合併症の罹病率も高率となる.その一方で,母体合併症の臨床症状の悪化や,胎児well beingが障害された際,死産になる前に人工的に早産させるケースも増加してきている.われわれ,産婦人科医に与えられた命題は,自然早産を減少させること,在胎32週未満の早産を減少させること,胎児が死産になる前に適切な時期に児を娩出させることであろう.本稿では,わが国における早産の実態と,種々の早産防止対策の成果を統計学的なデータから考察したい.

早産発生機序

著者: 上妻志郎

ページ範囲:P.1414 - P.1420

早産とは何か

■進化と体内保育

 母親が体内で子供を育てるようになったことは,動物の進化における一大イベントであり,それがヒトの出現を可能にしたと言えるだろう.ヒトの絨毛細胞はより深く母体の子宮に侵入し,母体血に接するようになるため,胎児の発育にとって好条件が整えられる.胎児自らによる生存のための労力はできるだけ削減され,多くの時間とエネルギーが脳の発達のために費やされる.ヒトの場合には,出生後もしばらくはそのような状態が続く.体内での育児と同様な手厚い育児が必要なのである.体内から体外への育児の切り替えが出産であると言えるだろう.

 母体にとって胎児は異物であり,本来であれば拒絶の対象となるはずであるが,胎児期には拒絶反応は抑えられている.子宮内に大きな異物があれば,免疫学的な拒絶反応がなくても,子宮筋の収縮が誘発されてもおかしくないが,そのような子宮収縮も抑えられている.そして,適当な時期が来ると,それらの抑制が取れて,胎児は排出される.なぜ,体内から体外に切り替える必要があるのか.胎児の発育や成熟が決め手なのか.胎盤の寿命か.あるいは,脳のさらなる発育のためには外界からの刺激が必要なのかもしれない.妊娠現象そのものが,きわめて複雑なメカニズムから成り立っており,正常であることの意味や機序を正確に理解することはできていない.

早産の予防・診断

1.早産のリスク因子

著者: 朝倉啓文

ページ範囲:P.1422 - P.1427

 妊婦のもつ早産リスクをスクリーニングすることは,早産予防戦略として有効で,妊婦管理に役立つと考えられる.

 しかし,早産の原因はmulti-factorialで,1つだけの原因に限局することはできず,疫学調査の結果として見出されたリスク因子を知っても残念ながら早産症例の半数程度しか特定できない1).しかし,リスク因子として知られる患者背景や臨床的徴候を把握することは臨床診療の幅を広げ,早産に至る病的メカニズムを考える際に役立つと考えられる.

2.妊婦健診の要点

著者: 大槻克文 ,   大場智洋 ,   徳中真由美 ,   太田創 ,   澤田真紀 ,   岡井崇

ページ範囲:P.1428 - P.1436

 わが国における早産の頻度は5%強であり,近年やや増加傾向にある.図11)ならびに図21)に示すように分娩週数が早ければ早いほど死亡率やハンディキャップを残す可能性が高くなるため,早期の早産をいかに減少させるかが課題となる.一方,切迫早産は母体搬送の理由として最も頻度の高い疾患である.われわれの施設において,2004年1月~2006年8月の間に母体搬送の依頼があった381症例を見てみると(図3),母体搬送依頼理由(疾患)の約45.1%(172例)が切迫早産で,次いで,preterm PROM 26.5%(101例),PIH 8.7%(33例)の順であった.切迫早産とpreterm PROMとを併せると,搬送依頼症例の実に7割が広い意味での切迫早産であったことになる2)

 早産の原因について,当院での過去4年間の統計では,陣痛抑止不能・前期破水が6割程度を占める3).これらの状態は,炎症・感染が,腟,頸管,絨毛膜羊膜,羊水・胎児へと波及する後期の段階に至ったもので,初期段階で発見し治療することにより段階進行の予防に努めることが重要である.われわれの施設では10年ほど前より従来の「切迫早産」の定義(子宮の開大を伴う規則的子宮収縮)を満たさない段階での病態をHRPD(high risk for preterm delivery)と呼称し,症候ごとに分類した個別の管理を実施している(表1).これは病状の把握と治療方針の決定を容易にし,今後の管理の向上に結びつけるための試みであり,本稿では特に,この分類方法に準じて,早い段階での早産徴候の検出・診察・検査・治療について述べる.

3.早産マーカー

著者: 菊地信三 ,   天野完 ,   海野信也

ページ範囲:P.1438 - P.1442

 早産は妊娠22~37週未満の分娩で,この時期に分娩に至る恐れのある状態が切迫早産である.早産は,児の未熟性に起因する合併症が問題となり,周産期死亡や,神経後遺障害を残す原因となる.またNICU病床不足などの面からも早産を予防,予知することは,周産期管理の重要課題の1つである.

 早産の発生機序は,腟からの上行感染による絨毛膜羊膜炎(CAM)が主な原因であるため,感染やそれに伴う炎症性物質などが早産マーカーとなる.さらに,早産の危険因子の抽出,臨床症状の評価,頸管長計測などが切迫早産の診断,管理に重要である.本稿では,早産の予知や切迫早産の予後判定に有用と思われる早産マーカーについて記述する.

4.早産と細菌性腟症

著者: 田村直顕 ,   伊東宏晃

ページ範囲:P.1444 - P.1447

 早産はさまざまな要因によって生じる1つの症候群である.なかでも,絨毛膜羊膜炎は陣痛発来と前期破水に深くかかわることから,絨毛膜羊膜炎の発症を未然に防ぐことが,早産予防にとって重要である.絨毛膜羊膜炎の多くが,細菌性腟症からの感染・炎症が子宮頸管を経て上行性に波及し発症するため,発端となる細菌性腟症に対する適切な対応が,早産予防の鍵になると考えられる.本稿では,早産と細菌性腟症の関係,細菌性腟症を有する妊婦への対応について概説する.

5.早産と絨毛膜羊膜炎

著者: 山田俊 ,   水上尚典

ページ範囲:P.1448 - P.1452

 早産や早産期前期破水の多くに関与する絨毛膜羊膜炎は,妊娠期間の短縮と子宮内炎症への曝露を通じて,児の長期予後に多大な影響を及ぼす.本稿では,産婦人科診療ガイドライン-産科編20111)の「CQ303切迫早産の取り扱いは?」と「CQ304前期破水の取り扱いは?」の該当箇所(引用部分に下線)を参照しながら,早産と絨毛膜羊膜炎についての知見を整理した.

早産の管理

1.子宮収縮抑制薬の使用法

著者: 川越靖之

ページ範囲:P.1453 - P.1457

 切迫早産の原因・背景は多様であり,早産の予測は困難で有効な治療法は確立されていない.切迫早産の治療には子宮収縮抑制薬が用いられるが,欧米での検討では妊娠期間延長効果は48時間程度であり,母体搬送,もしくはステロイドの効果発現までの時間を稼ぐのに限り有効とされ,新生児予後改善の観点からは否定的である.

2.抗菌薬の選択

著者: 中井章人

ページ範囲:P.1458 - P.1463

 切迫早産の管理は大きく変化しようとしている.頸管長観察による早産予知に始まり,細菌性腟症など感染症の関与が注目され,従来の子宮収縮抑制を中心とした管理から,頸管縫縮術,抗菌薬投与,腟内洗浄治療,プロゲステロン療法など病態に応じた治療が選択されるようになってきた.

 本稿では,最も関心を集める感染症を取り上げ,早産との関連を解説し,抗菌薬の選択や使用方法を最新のエビデンスに基づき述べる.

3.ウリナスタチンの有用性

著者: 杉村基

ページ範囲:P.1464 - P.1468

 早産は児の生命予後の不良化ならびに脳性麻痺などの神経学的後遺症を引き起こし,産科臨床においていまだ完全に防止することのできないきわめて重要な疾患である.切迫早産は子宮収縮に伴う子宮頸管の短縮開大ならびに頸管熟化現象を主体としており,その機序解明から防止法の検討がなされてきた.

 子宮収縮抑制による早産の防止という考えであるが,北米においては現状ではその効果は一時的と考えられ,むしろ分娩後の児の予後改善を目的としたステロイド投与を重視し,その有効性が生じる48時間の短期陣痛抑制療法が基本的な考え方である.これは子宮収縮抑制剤に関し妊娠維持期間の延長について偽薬と比較して有意差がないとする北米から発表された前方視的比較試験論文1, 2)に基づいている.ただ,北米では切迫早産を規則的な子宮収縮を呈し,かつ経時的に子宮頸管開大が進行するものとの定義3)に基づいた臨床研究,すなわち満期前に陣痛(preterm labour)発来した患者を対象することを原則としている.経腟超音波診断による頸管長の評価や,がん胎児性フィブロネクチン測定による早産の危険度の評価,そして切迫早産発症時の硫酸マグネシウムや塩酸リトドリンの投与は限られた役割でしかない.一方,日本では頸管の変化を伴わなくても自覚される規則的収縮がある場合,または子宮収縮は不規則であっても内子宮口の楔状開大,または頸管長が超音波診断にて25 mm以下に短縮している場合を切迫早産(threatened preterm labour)と定義し,早期からの子宮収縮抑制を行う予防的長期子宮収縮抑制療法が基本となっている.その他,自然早産の発症機序の中心が炎症であることから,抗炎症に注目した独自の治療戦略を導入していることも日本での自然早産率が他国と比較して低い理由となっている可能性がある.ただ残念ながら前方視的無作為比較試験が日本に十分ないことや,定義の違いから北米での結果と単純に比較することはできない.

4.頸管縫縮術の実際

著者: 小嶋伸恵 ,   山崎峰夫

ページ範囲:P.1469 - P.1474

 子宮頸管縫縮術(以後,頸管縫縮術)は,もともと子宮頸管無力症(以後,頸管無力症)による習慣流早産を予防するための手術として開発された.その後,本術式は頸管無力症既往者にとどまらず,その発生が予測される異常を持つ妊婦の流早産予防目的でも施行されている.一方,妊娠中に頸管の軟化・開大や胎胞形成など切迫流早産徴候を示す症例に対しては,妊娠期間延長を目的とした治療的頸管縫縮術が実施される.しかし,臨床現場では予防,治療いずれの目的であっても手術適応決定にかかる医師ごとの方針の違いや病態経過の個人差がいずれも大きい.また,Shirodkar法とMcDonald法の2つの術式の優劣についても,科学的エビデンスに基づくコンセンサスは得られていない.本稿では,頸管縫縮術に関するいくつかの臨床研究報告を紹介するとともに,われわれが通常採用している方針を述べる.

5.preterm PROMの管理

著者: 平野秀人

ページ範囲:P.1475 - P.1480

 preterm PROMは早産の主な原因の1つで,産科日常臨床において,よく遭遇する疾患である.切迫早産と同様,絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis : CAM)と深い関連(原因の場合もあるし,続発する場合もある)がある.したがって母児の感染や胎児炎症反応症候群(fetal inflammatory response syndrome : FIRS)を念頭においた管理が求められる.切迫早産と異なるところは,羊水の持続的流出の結果,羊水過少に起因する胎児異常,すなわち臍帯圧迫による胎児機能不全が発生しやすいことである.また,羊水過少の期間が長期化する場合,胎児肺低形成や姿勢の異常,骨格の変形が見られることもある.その他,臍帯や四肢の脱出,さらに常位胎盤早期剥離など,突発的な産科異常発生の危険性をともなう場合もある.したがって,分娩に至るまで,常に綿密な母児管理が求められる疾患であるといえる.

6.FIRS(fetal inflammatory response syndrome)の病態と管理

著者: 三浦裕美子 ,   西村陽子

ページ範囲:P.1481 - P.1486

 FIRS(fetal inflammatory response syndrome)とは,子宮内の炎症が惹起した高サイトカイン状態による胎児の炎症性多臓器障害として提唱された概念で,早産の原因となるのみならず,種々の新生児疾患との因果関係が指摘されている.本稿では,FIRSの病態および関連新生児疾患,診断,妊娠中の臨床所見などについて述べる.

7.早産児の娩出方法

著者: 村越毅

ページ範囲:P.1488 - P.1493

 早産児の分娩は児が未熟なため圧迫などのストレスで容易にAsphyxiaや循環不全などに陥りやすいことから,満期産の分娩に比較して後遺症を残すリスクが増加すると考えられる.特に32週未満の早産児では神経学的後遺症の発症リスクが高い.これらの後遺症をできるだけ回避するためには早産児に対して低侵襲に分娩を終了させることが分娩管理のポイントとなる.しかし,帝王切開分娩が必ずしも児の予後改善に寄与するわけでもない1).経腟分娩でも低侵襲でスムーズに分娩が終了することもあれば,帝王切開を選択しても娩出に難渋し侵襲度の高い帝王切開となることもある.さらに,児への低侵襲を追求するあまり母体の安全性を損なってはならない.特に26週未満などのきわめて未熟な児の分娩方法は施設間による治療成績の差も考慮すべきである.早産児の娩出方法は在胎週数や推定体重・胎位などを考慮したうえで各施設の治療成績(生存率や後遺症の有無など)を加味して個別に対応することが重要である.

 本稿では,早産分娩の管理基準および早産帝王切開における手技(特に幸帽児帝王切開)につき聖隷浜松病院総合周産期母子医療センターでの方針も含めて解説する.

8.早産における母体搬送の要点と問題点

著者: 鈴木真 ,   柾谷由香

ページ範囲:P.1494 - P.1497

 早産,低出生体重児をはじめ,横隔膜ヘルニアやCCAMなどの新生児外科疾患,先天性心疾患,脊髄髄膜瘤や水頭症などの脳神経外科疾患の児では,出生直後より適切な医療が提供されることにより予後が著しく改善することは明らかである.このため診断された時点で,胎児期から新生児期へ連続して管理ができる周産期母子医療センターなどの高次医療機関への紹介や母体搬送が行われている.前期破水を含めた早産では子宮収縮,性器出血,子宮頸管長短縮などの早産に至る可能性の高い状況が生じた時点で母体搬送となることが多い.母体搬送にかかわる問題点と早産の母体搬送時に必要な情報,注意点などについて述べる.

連載 Estrogen Series・101

内診はピル処方の条件か?ピルを処方するときに,内診は本当に必要なのか?

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.1498 - P.1498

 内診はピルを必要とする若い女性にとって,かなりの障害物となっているのではないか,との疑問を持つ医療従事者は多い.内診を条件とせずピルを処方することができれば,ピルはもっと容易に入手でき,結果として望まない妊娠は減少するのではないか?

 この疑問に対して,WHOおよびACOG(米国産婦人科医会)は,内診なしでも安全にピルの処方(特に初回処方)をすることは可能である,としている1, 2).ピルの服用開始にあたり,体重,血圧,既往歴は必要であるが,性感染症や子宮頸部癌のスクリーニングは必須ではない3).なお,ACOGのガイドラインによれば,PAPスメアは初回性交3年以内,あるいは21歳以前に行えばよい,としている4).その真意は,初回処方時には内診や検査なしで出しておいて,あとになってから内診や検査をしようとするものである.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

子宮筋腫核出部において嵌入胎盤を生じた1例

著者: 川北かおり ,   小菊愛 ,   秦さおり ,   伊藤嵩博 ,   奥杉ひとみ ,   近田恵里 ,   佐原裕美子 ,   竹内康人 ,   片山和明

ページ範囲:P.1499 - P.1503

症 例

■患者

 38歳,初産婦.

■既往歴

 34歳 : A病院にて子宮筋腫核出術(術後イレウスとなる).

 36歳 : Bクリニックで不妊治療を行う.両側卵管閉鎖のため体外受精を繰り返すが妊娠に至らず,左卵管水腫を含む両側卵管の切除を当院に依頼された.

 37歳 : 腹腔鏡下両側卵管焼灼術を施行(子宮後面と両側付属器および腸管・腸間膜が広範囲に癒着しており,卵管は同定不可能.卵管狭部を焼灼・切断して手術を終了した.子宮前壁には癒着はみられなかった).2か月後,Bクリニックでの胚移植後に腹膜炎となったが,保存的に治療された.

サクラの国のインドネシア・19【最終回】

引き寄せられた未来

著者: 東梅久子

ページ範囲:P.1504 - P.1505

インドネシア人看護師の結婚

 7月上旬,インドネシア人看護師が日本人女性と結婚した.一目惚れであったらしい.ふたりの結婚を祝う会には日本人のみならず,たくさんのインドネシア人看護師が出席して結婚を祝福した.参加費の一部はふたりの意思により東日本大震災の支援のために寄付されるという.ジャカルタからご両親が見えていたものの,インドネシア人看護師たちのスピーチはすべて日本語であった.ご結婚おめでとうございます,たくさん子供を作ってくださいとはにかみながら祝辞を述べたインドネシア人看護師も結婚が近いらしい.

 ふたりの結婚をあるインドネシア人看護師に伝えたところ,彼はクリスチャンだからという言葉が返ってきた.インドネシアでは宗教の異なる者同士の結婚は許されていない.イスラム教徒のインドネシア人が日本人のパートナーを見つけることは容易なことではない.ジャカルタで働いていたとき,好きになった人の宗教が異なるとわかったらどうするか尋ねたところ,私たちはブランインドデートはしないと言われて驚いたことがある.

OBSTETRIC NEWS

子宮頸管長計測 : カナダ産婦人科学会臨床医療ガイドライン

著者: 武久徹

ページ範囲:P.1506 - P.1507

 2011年5月,カナダ産婦人科学会(SOGC)は,早産率の減少,早産ハイリスクのより適切な診断,および不要な介入の予防を目的に,単胎妊娠における早産予知目的での超音波による子宮頸管長計測に関する臨床医療ガイドラインを発表した.検討されたのは以下の2点である.

(1) 早産を予知する目的で行う,超音波による子宮頸管長計測

(2) 子宮頸管短縮に関連する介入

原著

子宮体部原発横紋筋肉腫の1例

著者: 濵﨑晶 ,   谷本博利 ,   秋本由美子 ,   本田裕 ,   永井宣隆 ,   三田尾賢 ,   金子真弓

ページ範囲:P.1509 - P.1512

 症例は70歳,2経妊1経産,47歳で閉経,多量の不正性器出血を主訴に救急受診した.CT・MRIで骨盤内に内腔に充実性隆起を伴う16 cm大の単房性嚢胞を認めた.術前組織診断では大細胞神経内分泌癌が疑われ,単純子宮全摘術・両側付属器切除術・骨盤リンパ節郭清・傍大動脈リンパ節生検を施行した.摘出標本の病理所見で腫瘍は横紋筋の特徴を持つ細胞から構成され癌腫の成分は認められず,子宮横紋筋肉腫胞巣型臨床進行期Ib期と診断した.術後8日目に退院し,術後化学療法としてパクリタキセル+カルボプラチン(TC)療法6コースを施行した.現在外来で経過観察中であるが,再発徴候は認めない.子宮肉腫に対する標準化学療法は確立されていないが,Epithelial Mesenchymal Transition(EMT)モデルに基づいて子宮体癌での化学療法に準ずる考え方もあり,本症例でも子宮体部上皮性腫瘍の標準治療であるTC療法を選択した.

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投稿規定

ページ範囲:P.1514 - P.1514

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1515 - P.1515

バックナンバー

ページ範囲:P.1517 - P.1517

アンケート用紙

ページ範囲:P.1518 - P.1518

次号予告

ページ範囲:P.1519 - P.1519

編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.1520 - P.1520

 「天災は忘れた頃にやってくる」という誰もが知っている有名な警句がありますが,今年早春の震災と津波や早秋の豪雨災害はまさにこのような状況でした.正確ではないのですが,寺田寅彦は大正の関東大震災の後,「この程度の局地的な震災はわが国ではたびたび起こってきたものであり,もっと大きな震災や津波が,過去の記録では何度も見られている」と述べ,起こりえる災害への政府の無策を批判したと記憶しています.しかしこの箴言にもかかわらず,国家予算の過半数が軍備に費やされていた当時の状況は大きく変わることなく,防災意識は薄れていきました.そして地域により被災規模はさまざまであるものの,昭和以後も地震や津波の被害は繰り返されながら平成の現在に至っています.いつかは必ず起きることが分かっていても,自分の身には,あるいは自分が生きている間は大丈夫だろうという楽観もしくは諦観は,人の本性ともいえるもので,自然災害(natural calamityあるいはnatural disaster)を一語で天災と呼ぶ日本人の意識とも通じるものでしょう.

 他方,付随して起こった原子力発電所事故は明らかに人災です.関係者すべてが,本質的にはコントロールに細心の注意を要するパワーソースである原子力を利用しているとの意識に乏しかったことは否めず,その代償はあまりに大きいといえます.まだ原子力発電が商業化される前の昭和40年台初めに,教養課程実習として京都大学の実験用原子炉(熊取)の内部を見学したことがありました.規模は現在の原発1基の数百分に1に過ぎない小さなものでしたが,それでも原理の単純さと比べると,いかに周辺設備を精緻に構成して管理する必要性があるかという事実に驚かされました.今回の事故以外での情報からも,原子力の平和利用については,商業主義がその安全性担保を若干軽視しながら進められてきたことが明らかになってきた一方,脱原発が可能かどうかという情報も不確実です.明年以降,正確な情報開示によって議論がどのように進められるのかを注視したいと思っています.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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