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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科65巻2号

2011年02月発行

雑誌目次

今月の臨床 静脈血栓塞栓症─予防・診断・治療

産婦人科における静脈血栓塞栓症の現状

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.98 - P.103

はじめに

 静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)はこれまでわが国では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している1).血栓症で臨床的に問題となるのは,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)である.PTEはDVTの一部に発症する疾患であるが,一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので,急速な対処が必要となる.本稿では,産婦人科におけるVTEの現状を紹介する.

 日本産婦人科・新生児血液学会では,1991年から2005年までに2回全国調査(第1回調査 : 1991~2000年2),第2回調査 : 2001~2005年3))を行った.

静脈血栓塞栓症の病態と予防ガイドライン

著者: 小林浩 ,   春田祥司 ,   川口龍二

ページ範囲:P.105 - P.111

はじめに

 現在,静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症)の予防ガイドラインおよびそのダイジェスト版が各医療機関のみならずインターネットでも容易に入手できる.2004年の4月からは静脈血栓塞栓症の予防管理料として保険点数がつけられるようになり,合併症の危険を伴う血栓症の予防法の施行においては,患者に対して十分にインフォームド・コンセントを得なければならない.静脈血栓塞栓症とくに肺血栓塞栓症の予知,ならびに発症した場合の適切な対応が不可欠である.わが国でも肺塞栓症による死亡が最近10年間で約3倍と急増しており(厚生労働省人口動態統計),決して稀な疾患ではないことを認識することが大切である.

 また,予防ガイドラインを遵守し適切な予防法を行っても完全にその発症を予防することは困難であるといわれるが,それでは実地臨床医としてはどのようにして静脈血栓塞栓症の予防に対処していたらよいのであろうか.そのためには,(1)誰に予防するのか,(2)誰に予防する必要はないのか,(3)いつからいつまで予防すべきか,(4)どのような予防法を取るべきか,(5)静脈血栓塞栓症を発見するための検査は必要か,などに対する回答が必要である.

 本稿では,これらの疑問を現在の予防ガイドラインを参照して解説を加える.

静脈血栓塞栓症のリスク評価

著者: 平井久也 ,   金山尚裕

ページ範囲:P.113 - P.117

はじめに

 深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)および肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)は高齢化社会の到来や,生活習慣の変化に伴いわが国でも年々増加していると考えられている.平成20年厚生労働省の患者調査では約7,000人の患者がPTEの診断で治療を受けていると推定され,統計上も患者数は増加していることが示されている1).また,PTEはひとたび発症すると重篤な症状および致死に至る割合も非常に高いことが特徴で,日本臨床麻酔科学会調査では周術期発症のPTEの死亡率は28.8%となっている2).一方,産婦人科領域においても婦人科開腹手術症例における周術期DVT,PTEは増加傾向にあり,産科領域では平成21年の妊産婦死亡における産科的肺塞栓症の占める割合は53例中9例で,分娩後出血に続き第2位となっている3)

 DVT,PTEを予防する目的で2004年にガイドラインが作成され4),各施設で予防対策を講じることが広く普及してきているが,ガイドライン上も,個々の症例における背景因子や病状などを検討し,それぞれのリスクにあった対策を行うよう推奨されており,すなわち患者1人1人のDVT,PTE発症リスクを的確に把握することが有効な予防対策,治療戦略につながると認識することが重要である.本稿では産婦人科領域におけるDVT,PTEについて,ガイドラインに沿った疫学的リスクの評価,および血液凝固学的指標に基づいたDVTスクリーニングの知見について述べる.

産科領域での静脈血栓塞栓症の予防策

著者: 早田裕 ,   増山寿 ,   平松祐司

ページ範囲:P.118 - P.121

はじめに

 妊娠に関連する静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)の発症リスクは非妊娠時よりも5倍以上高く,また妊娠のどの時期でも発症するとされている1).血液凝固系の亢進,妊娠子宮による静脈圧迫など正常妊娠自体がVTEのリスク因子である上に,不育症の原因となる血栓性素因(抗リン脂質抗体症候群,プロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症,ATIII欠乏症など),切迫早産加療のため長期ベッド上安静,帝王切開術後などはさらにハイリスク因子となる.産科的肺塞栓症はいまだ妊産婦死亡の上位を占める原因であるため,産科領域において肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)およびその主な原因である深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)の予防は妊産婦死亡を減少させるうえで不可欠である.

周術期での静脈血栓症の予防策

著者: 高橋俊文 ,   清野学 ,   倉智博久

ページ範囲:P.123 - P.129

はじめに

 肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)は,静脈系の血管内に形成された血栓が遊離して肺動脈を閉塞する疾患である.急性広汎性PTEの大部分は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)からの血栓遊離が原因である1).PTE患者の60%以上にDVTが発見され,逆にDVT患者の70%以上に無症状のPTEが見つかることから,DVTとPTEを分けずに静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)と呼ばれている2)

 PTEは一端発症するとその死亡率は14%で,特にショックを伴う重症例では30%になる予後不良の疾患である3).PTEは手術(特に下肢・骨盤内手術),悪性腫瘍,妊娠,帝王切開などが契機に起こることが多く,産婦人科領域でその発生頻度が高い疾患である1).これまで,欧米との比較ではわが国ではPTEは発生頻度が低い疾患とされていたが,最近の報告では確実に増加していることがわかってきた.PTEの発生頻度は1996年では推定3,500人/年であったが4),2006年には7,900人/年となり10年間で倍増している5).周術期に限ってみても,日本麻酔科学会の「周術期肺血栓塞栓症調査」(JAS調査)によれば2002年および2003年における手術例に対するPTEの発症数は4.6例/1万手術,死亡数は0.8例/1万件である6).さらに,左近らは国内の前向き多施設共同疫学研究において,腹部外科手術後に173例中24例(24.3%),約4人に1人がVTEを発症していたと報告した7)

 周術期においてPTEは,(1)一端発症すると予後不良の疾患であること,(2)PTEの原因となるDVTは臨床症状に乏しく早期発見が困難であること,(3)VTEの予防は費用対効果に優れることなどの理由により,その発症予防が重要である8).産婦人科領域での周術期のVTE予防の対象となるのは,産科手術(主に帝王切開術)と婦人科手術がある.産科領域でのVTE予防については,本特集の別稿を参照していただきたい.本稿では,主に婦人科手術におけるVTE予防法について述べることにする.

深部静脈血栓症の診断

著者: 山本嘉一郎

ページ範囲:P.130 - P.135

はじめに

 深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)は肺血栓塞栓症(pulmonary embolism : PE)の発症に深く関連しており,両疾患は静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)に含まれる連続した1つの病態として理解し,深部静脈血栓症を適切に管理することが重要である.四肢の静脈には筋膜より浅い表在静脈と深い深部静脈があり,急性の静脈血栓症は深部静脈の深部静脈血栓症と表在静脈の血栓性静脈炎に区別される.深部静脈血栓症は,発生部位(頸部・上肢静脈,上大静脈,下大静脈,骨盤・下肢静脈)により症状が異なる1).上肢や腸間膜のような稀な部位の深部静脈血栓症は全体の10%未満に過ぎず2),欧米では発生頻度の高い下肢の深部静脈に発生するものを深部静脈血栓症としている.本稿では症例の多い下肢静脈の深部静脈血栓症の診断について解説する.

肺血栓塞栓症の診断

著者: 小野雄一 ,   山本剛 ,   横田裕行

ページ範囲:P.137 - P.141

はじめに

 わが国での2006年の疫学調査によると,急性肺血栓塞栓症の発症数は約8,000例であり,この10年間で約2倍に増加している1).急性肺血栓塞栓症は緊急を要する重症疾患の1つであり,救命のためには迅速な診断,重症度に応じた適切な治療が必要である.本症は特異的な症状や理学所見に乏しいため,診断が困難であるといわれている.一方,産科・婦人科領域ではその疾患や治療法の特徴から(表1),本症を併発する可能性は決して少なくない2).本稿では典型的な画像所見と早期診断のポイントを中心に概説する.

深部静脈血栓症合併妊婦の管理

著者: 松岡隆 ,   長谷川潤一 ,   市塚清健 ,   関沢明彦 ,   岡井崇

ページ範囲:P.142 - P.147

妊娠中の深部静脈血栓症(DVT)発症

 周産期領域における症候性の下肢深部静脈血栓症(deep venous thrombosis : DVT)の頻度は,欧米で分娩1,000に対して0.5~7例と報告されているが,近年は予防法の進歩により減少傾向にある1).しかし,妊娠は生理的に凝固系が亢進している状態であり,妊娠そのものが深部静脈血栓症(DVT)のリスクとなる(表1).日本産婦人科・新生児学会が行った全国調査によると静脈血栓塞栓症の妊娠中発症は初期・後半期・分娩後の3相性のピークがみられたが2, 3),DVTの発症のピークは妊娠初期にあることが分かった.この理由はエストロゲンによる凝固因子の増加,重症妊娠悪阻による脱水と安静臥床,妊娠前には症状を呈さなかった先天性凝固異常の顕在化などが原因とされている(表2).当院でのDVTの発症も妊娠初期が多く,産褥・帝切後など周術期の発症に注意を払うのは当然であるが,妊娠初期にも注意が必要なことを忘れてはならない.また,先天性の血栓症素因の家族歴や鑑別診断も重要である.

静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法

著者: 山田典一

ページ範囲:P.148 - P.153

はじめに

 抗凝固療法は,静脈血栓塞栓症の基本的治療法であり,原則として禁忌例を除く全症例に用いられる.わが国で治療薬として承認されている薬剤は,主に急性期に用いられる未分画へパリンと急性期から慢性期にかけて用いられるワルファリンのみであるが,今後は欧米ですでに承認されている新しい薬剤がわが国でも使用可能となることが期待されている.治療目的で使用する抗凝固薬は,肺動脈や深部静脈に存在する血栓への二次血栓形成を抑制するとともに内因性線溶による血栓溶解を促すことになる.また,静脈血栓塞栓症の一次予防においても,高リスク例に対しては抗凝固薬を用いた薬物予防が推奨されている.予防目的では,従来の未分画へパリン,ワルファリンに加えて,腹部外科や整形外科領域の手術時にフォンダパリヌクスやエノキサパリンが使用可能である.本稿では,静脈血栓塞栓症に対する治療・予防における抗凝固薬の使い方,効果,合併症などの現状について解説する.

ホルモン補充療法と静脈血栓塞栓症

著者: 田辺晃子 ,   丸岡理紗 ,   大道正英

ページ範囲:P.155 - P.159

はじめに

 ホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)は主に更年期障害の治療法の1つとして位置づけられ,特にhot flushや腟乾燥感,更年期うつ病に対し良好な治療成績が期待できる.それ以外にも,骨粗鬆症予防や脂質プロファイル改善,皮膚萎縮予防といった副効用も認められているのは周知のことである.一方2002年にWomen's Health Initiative(WHI)が報告した,経口の結合型エストロゲン(conjugated equine estrogen : CEE)とメドロキシプロゲステロン(medroxyprogesterone : MPA)を用いたHRTに関する大規模ランダム化比較試験の結果から,これまで心血管疾患リスクを低下させると信じられていたHRTがむしろリスクを上昇させることがわかり1),世界中に大きな衝撃が走った.またサブ解析により静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)がHRT開始直後から約2倍に上昇しており2),経口のHRTがもたらすVTEのリスクを重要視しなければならない.一方で,2002年以降にサブ解析とともにさまざまな研究がなされ,VTEリスクの大きい対象患者の選別や,リスクのより少ないHRTレジュメがかなり明らかになってきた.

 そこで本稿では,VTEリスクの少ない患者選びとHRTレジュメ選択について文献的に考察し,更年期~閉経後女性のQOL向上を後押しできるHRTについて考えたい.

抗リン脂質抗体症候群と静脈血栓塞栓症

著者: 杉俊隆

ページ範囲:P.161 - P.165

Thrombophilia(血栓症素因)と妊娠

 正常妊娠中は,血液凝固系が亢進することが知られている.その理由としては,フィブリノーゲン,第VII,VIII,IX,X因子,von-Willebrand factorの血漿レベルの増加,機能的に活性化プロテインCに対する抵抗性が増すこと,プロテインSが減少すること,PAI─1やPAI─2の増加,tPAの減少,血小板活性化などが挙げられる.よって,妊娠中の静脈血栓症のリスクは,非妊時より6倍高いといわれている.したがって,血栓症素因を背景にもつ患者の場合,非妊時に無症状であっても,妊娠するとさまざまな血液凝固系異常に起因するトラブルを発症し得る.これらの血栓傾向は,分娩時がピークであり,一般的に分娩後3週間で凝固,線溶系は正常化する.

 抗リン脂質抗体症候群に関連する合併症には,静脈血栓,動脈血栓,反復流産,妊娠高血圧症候群,常位胎盤早期剥離,子宮内胎児発育遅延(intrauterine growth restriction : IUGR),子宮内胎児死亡(intrauterine fetal death : IUFD)が代表的である.静脈血栓は,下肢の深部静脈血栓が最も多く,その他網膜,腎,肝静脈などがある.動脈血栓は静脈血栓より頻度が低い.脳血栓,末梢動脈血栓,狭心症および心筋梗塞が報告されている.

遺伝性の凝固異常と静脈血栓塞栓症

著者: 根木玲子 ,   宮田敏行

ページ範囲:P.166 - P.169

はじめに

 妊娠中の静脈血栓塞栓症と遺伝的素因(先天性血栓性素因)については,欧米では多くの報告がなされている.また,凝固関連の遺伝子異常と,静脈血栓塞栓症との関連性が詳しく検討され,抗凝固療法による予防が,ガイドライン化されている.特に,Factor V Leiden変異1~3)は,欧米人の1~15%に認められる最も頻度の高い遺伝子変異であり,変異キャリア妊婦に対する予防が広く行われている.

 一方,わが国においては,凝固関連遺伝子をもとにした,妊産婦のテーラーメード医療は行われていない.

 また一般に,静脈血栓症の先天性血栓性素因として,アンチトロンビン,プロテインC,プロテインSの先天性欠損症が知られているが,これらに加え,白人種ではFactor V Leiden変異,プロトロンビンG20210A変異が血栓性素因として明らかになっている.しかし,両変異は日本人には報告されておらず,欧米とは異なる背景が存在すると考えられる.そこで,日本人の静脈血栓塞栓症と先天性血栓性素因を中心に紹介したい.

連載 病院めぐり

独立行政法人 労働者健康福祉機構 関東労災病院

著者: 香川秀之

ページ範囲:P.172 - P.172

当院は,昭和32年に労働福祉事業団を母体として創立された総合病院で,平成16年に独立行政法人化され,労働者健康福祉機構 関東労災病院となりました.

 所在地は神奈川県川崎市中原区で,当院周辺は川崎市の重点再開発地区に指定されており,50階建てを超える高層マンション群がそびえたち,15,000人の人口増加とそれに伴う爆発的な医療需要の増加が生じています.

Estrogen Series・92

エストロゲンの経口投与vs経皮投与 : First pass effectについて

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.173 - P.173

 経口投与された薬剤は,腸管から吸収され,肝─門脈系(hepatic-portal system)に入り,肝臓を通過してから,全身循環に入る.このとき多くの薬剤は肝臓内で代謝され,その結果,全身に分布される薬剤量は減少する.このような肝臓通過による効果はfirst pass effect(第一通過効果),first pass metabolism(第一通過代謝),presystemic metabolism(全身循環以前の代謝)などと呼ばれている.

 投与法が経口ではなく,経腟,静脈内,筋注,舌下,エロソールによる吸入などの場合には,肝門脈系を介さないので,first pass effect発生しない.薬剤に対するfirst pass effectに影響を与えるのは,消化管腔の状態,消化管壁内酵素,消化管内細菌酵素,肝酵素などである1)

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

腹腔鏡下子宮筋腫核出術後に発生したparasitic myomaの症例

著者: 渡り綾子 ,   熊切優子 ,   小堀宏之 ,   山本勉

ページ範囲:P.176 - P.179

症 例

■患者 34歳,0経妊0経産.

■主訴 過多月経,貧血.

■既往歴 特記事項なし.

■家族歴 特記事項なし.

症例

頸部リンパ節転移を契機として発見された原発性卵管采癌IV期の1例

著者: 朝野晃 ,   松浦類 ,   島崇 ,   早坂篤 ,   斎藤涼子 ,   鈴木博義 ,   和田裕一

ページ範囲:P.180 - P.183

 症例は50歳で,主訴は左側頸部腫瘤であった.頸部腫瘤の穿刺吸引細胞診の結果は腺癌であり,原発巣の検索にPET/CTを施行した結果,卵巣癌を疑い手術を施行した.開腹所見では,右卵管采に接して3cm大の黄白色の充実性の腫瘤を認め,子宮全摘術,両側付属器切除術,虫垂切除術を施行した.病理診断は右卵管采の漿液性腺癌であった.また,左卵管には表層上皮のごく小範囲に腺癌を認め,臨床進行期IV期の原発性卵管癌であった.術後TC療法を6コース施行した.

 頸部リンパ節転移を契機として発見された卵管采癌で,PET/CTが診断に有用であった.

MRIにて脂肪抑制を示さないfat balls様所見を認めた成熟嚢胞性奇形腫の1例

著者: 佐藤賢一郎 ,   森下美幸 ,   鈴木美紀 ,   北島義盛 ,   水内英充 ,   水内将人 ,   塚本健一 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.184 - P.187

 今回,MRIにて脂肪抑制を示さないfat balls様所見を認めた卵巣成熟嚢胞性奇形腫の1例を経験した.

 症例は71歳(閉経56歳),0経妊で,消化器内科で膵炎治療中にCTで骨盤内腫瘤を認め,紹介された.腫瘍マーカーは基準範囲内で,経腟超音波では嚢胞奇形腫と思われる腫瘍を認めた.MRIでは子宮後方に9.4×8.7 cmのT1強調像で中信号,T2強調像で高信号を示す嚢胞性病変を認め,さらに内部には1~1.5 cm程度のT1強調像で中信号,T2強調像で低信号を示す小嚢胞を含んでおり,脂肪抑制像では抑制されなかった.手術を施行したところ,右卵巣腫瘍は重量280 g,内容物は大部分が薄い褐色調の砂状の組織で満たされていた.病理組織検査では成熟嚢胞性奇形腫と診断され,嚢胞内に多量に認められた砂状物質はケラチン物質とそれを含めた変性・壊死物質であった.

 稀ではあろうが,卵巣嚢胞性奇形腫の診断の際にはこのようなケースの存在も考慮すべきである.

お知らせ

第23回産科中小施設研究会

ページ範囲:P.169 - P.169

日 時 : 平成23年3月12日(土)18 : 00~20 : 30

場 所 : 持田製薬株式会社本社 ルークホール

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投稿規定

ページ範囲:P.190 - P.190

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.191 - P.191

バックナンバー

ページ範囲:P.193 - P.193

アンケート用紙

ページ範囲:P.194 - P.194

次号予告

ページ範囲:P.195 - P.195

編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.196 - P.196

 病院における医療安全管理施策は,現場のシステムはなお不完全で,かつ個人がミスを犯すことは避けられないとの前提で行われています.昨今の統計解析データに基づく専門家の意見では,総合病院や大学病院では,年間のインシデントレポート報告が少なくとも病床数の5倍以上の件数は出され,その10%程度が医師からの報告であることが望ましいとのことです.また全インシデントの1%は患者に何らかの処置を要し,かつそれによる永続的な後遺症がみられるもの,すなわちレベル3b以上となるという統計もあります.概算すると,1,000床規模の病院では,毎年5,000~6,000件のインシデントがあり,少なくとも50件程度が3b以上となりますが,もちろんこれには処置や手術の合併症とみなされるものもありますので,医療事故とされ事故対応委員会や調査委員会などで検討されるのはその半数以下です.全国の大学病院での医療事故の実態は,おおむねこの数字に近いものと思われ,レベル0~2程度のインシデント報告をさらに増加させて全職員に個々の医療行為に潜むリスクを認識させ,大きな事故となる芽をいかに摘むことができるかが,各施設の医療安全管理部の重要な役割でしょう.

 多くの施設で問題とされているのは,看護師やその他のコメディカルに比べると医師からの報告件数が少なく,同一例がまず看護師などから報告されたのちに,指摘を受けて初めて医師からの報告が出ることも珍しくないことです.インシデント報告に関しては医師は過小評価するきらいがあり,また多忙なこともあって,レベル3a以下の報告が医師から出ることが少ない現状があります.しかし他科の問題事例をみていると,医師あるいは診療科が偶発合併症と判断した例でも,患者からはミスと捉えられることも増えており,その中には早期から医療安全管理部に報告して対応策を立てておけばよかったと考えられるものも含まれています.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻5号(2019年5月発行)

今月の臨床 妊婦の腫瘍性疾患の管理―見つけたらどう対応するか

73巻4号(2019年4月発行)

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

73巻3号(2019年4月発行)

今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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