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文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科65巻6号

2011年06月発行

今月の臨床 ART─いま何が問題か

非配偶者間ARTへの提言

著者: 岡垣竜吾1 石原理1

所属機関: 1埼玉医科大学産婦人科

ページ範囲:P.820 - P.828

文献概要

はじめに

 しばしば「人間を生殖の道具としてはならない」といわれる.しかしながら,生物個体はそもそも生殖のための道具としての側面を有し,生殖は個体を犠牲とする可能性を内包する行為である.したがって生殖を補助することは個体の健康をおびやかし,個体を道具化する危険をはらんだ行為であるということも可能で,配偶者以外の第三者を介入させることはその危険を広げることでもある.こうした認識に立ったとき,子どもを得ようとすることがどこまで基本的な権利と考えられるか,他人の健康を危険に曝すことがどこまで許されるのか,議論の分かれるところである.

 1799年にイギリスのJohn Hunterが射出精液を用いて人工授精を行って以来,「生殖の性交からの分離」が可能となった1).Hunterが行ったのは配偶者間の人工授精であるが,性交から分離されたことにより,生殖への第三者(非配偶者)の介入が容易になったといえる.夫以外の男性から提供された精子を用いて人工授精法を行うAIDは,無精子症を適応として,1930年代には行われていたと推定されており,日本でも1948年から慶應大学などの限られた施設で行われている.

 体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI)を含むARTの発達は生殖への非配偶者の介入をさらに加速した.提供卵子を用いたIVFは1985年に報告され2),2011年時点では多くの国で,提供配偶子を用いたARTがすでに日常診療として確立している.

 提供配偶子を用いたARTとは別に,第三者女性の子宮に依頼者カップル配偶子に由来する胚を移植する方法(IVFサロガシー)が存在する3).第三者女性(サロゲートキャリア)が妊娠分娩に伴う医学リスクを負うことから,より複雑な倫理的・法的問題を内包している.IVFサロガシーについては,商業的なサロガシーを法的に規制している国が大多数であり,配偶子提供とは状況が全く異なることを認識すべきである4,5)

 本稿ではこれらの非配偶者間ARTに関して,(1)倫理的問題,(2)医学的問題,(3)法的・社会制度的問題に分けて論じる.

参考文献

1)石原 理:生殖革命.筑摩書房,東京,1998
2)Buster JE, Bustillo M, Thorneycroft I, et al:Non-surgical transfer of an in-vivo fertilised donated ovum to an infertility patient. Lancet 1:816-817, 1983
3)神里彩子,成澤 光(編): 生殖補助医療生命倫理と法─基本資料集3.信山社,東京,2008
4)石原 理,梶原 健,出口 顯:卵子子提供,代理懐胎(IVFサロガシー)の実態と展望.臨床婦人科産科61:1496-1501, 2007
5)石原 理:生殖補助医療の規制─ガイドラインか法規制か,それとも?医学のあゆみ213:175-178, 2005
6)2010.6.30のESHRE(European Society for Human Reproduction and Embryology)におけるICMARTの発表
7)松田晋哉:「諸外国の精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療に係る制度および実状に関する調査研究」厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究事業平成13年度総括研究報告書
8)吉村泰典:「配偶子・胚提供を含む統合的生殖補助技術のシステム構築に関する研究」厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究事業平成15年度総括研究報告書
9)日本生殖医学会倫理委員会報告「第三者配偶子を用いる生殖医療についての提言」 http://www.jsrm.or.jp/
10)CDC reproductive health(2007): 2006 assisted reproductive technology success rates:National summary and fertility clinic reports. http://www.cdc.gov/reproductivehealth/ART02/index.htm
11)岡垣竜吾,石原 理,出口 顯:卵子提供の現況とその倫理的諸問題.日本哺乳動物卵子学会誌24:142-152,2007
12)米国生殖医療学会(American Society for Reproductive Medicine:ASRM)による「卵子提供のためのガイドライン」2008 Guideline for gamete and embryo donation:a Practice Committee report. Fertil Steril 90(suppl 3): S30-34, 2008
13)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案http://www.moj.go.jp/PUBLIC/MINJI35/refer01.html
14)石原 理:第三者配偶子による生殖の可能性と問題点.産婦の実際59:389-395, 2010
15)家永 登:日本における非配偶者間生殖医療の法的課題.産と婦72:1233-1239,2005
16)石原 理,出口 顯:提供配偶子を用いる生殖医療の北欧における事情.産と婦71:938-944,2004
17)石原 理,出口 顯:生殖医療をめぐる最近の話題─第三者配偶子を用いる治療の法的規制について. 産婦治療90:1-6,2005
18)石原 理,岡垣竜吾,梶原 健:海外における卵子提供プログラムとその問題点.産と婦72:1251-1258,2005
19)出口 顯:養父母になった国際養子たち:スカンジナビアの国際養子縁組におけるアイデンティティと親子関係.第13回リプロダクション研究会共催講演会発表,2011
20)石原 理:生殖医療と家族のかたち.平凡社新書,東京,2010
21)Code of practice 8th edition. HFEA, 2009
22)日本学術会議生殖補助医療の在り方検討委員会:代理懐胎を中心とする生殖補助医療の課題─社会的合意に向けて,2008
23)石原 理:生殖補助医療に関する会告.「生殖補助医療マニュアル」.産婦の世界56:35-42, 2004
24)Reichman DE, Laufer MR:Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser syndrome:fertility counseling and treatment. Fertil Steril, 2010(E-pub)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

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