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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科65巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

今月の臨床 卵巣がん─最新の治療戦略

分子標的治療薬の種類と作用機序

著者: 島田宗昭 ,   板持広明 ,   紀川純三

ページ範囲:P.946 - P.953

 最近の分子生物学の進歩に伴い,がん細胞に特有の質的あるいは量的変化を有する分子を標的とする分子標的治療薬が開発されてきた.その標的は,血管新生・増殖因子およびその受容体,シグナル伝達系,DNA修復,転写制御因子など多岐にわたる.また,分子標的治療薬はその作用機序から抗体医薬(大分子化合物)とチロシンキナーゼ阻害薬などの小(低)分子化合物に大別される.すでに,肺癌や大腸癌などではいくつかの分子標的治療薬が保険収載され広く用いられている.一方,婦人科領域では臨床的に使用できる薬剤はなく,卵巣癌を主体に臨床試験が行われている現状にある.

 本稿では卵巣癌に対して臨床応用が試みられている分子標的治療薬の種類と作用機序に関して概説する.

初回治療

1.進行卵巣癌の手術―Neo-adjuvant chemotherapyの有用性

著者: 保坂昌芳 ,   渡利英道 ,   櫻木範明

ページ範囲:P.862 - P.865

背 景

 わが国では毎年7,000人以上が卵巣癌に罹患し,死者数は毎年4,000人を超えている1, 2).卵巣癌は骨盤内臓器のため自覚症状が乏しく約40~50%の症例がIII,IV期の進行した状態で発見される1).パクリタキセルの登場により卵巣癌の治療成績は向上したが,進行卵巣癌の5年生存率は25~37%と依然として低く,進行例では手術治療と化学療法を組み合わせた集学的治療が必要となる.

 卵巣癌の手術療法で最も重要な点は腫瘍の完全摘出をめざすことであり,その完遂度によって患者の予後は大きく左右される.しかし,進行卵巣癌において腹腔内の状況によっては完全摘出が困難な場合も少なくない.そのような背景から,腫瘍減量手術前に施行する術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy : NAC)の有用性についての検討が進められてきた.このNACを行う前に組織型および腹腔内所見確認のための生検を目的とした手術を施行することもある.NACを行うことにより手術の完遂度を高めることの可能性とそれにより生存率改善効果がもたらされるか否かが議論の焦点である.

2.妊孕能温存の限界

著者: 梶山広明

ページ範囲:P.866 - P.871

はじめに

 一般的に,上皮性卵巣癌の発症ピークは50歳台にあるが,その10%前後は40歳未満の生殖可能年齢に発症する.現実に,日本産科婦人科学会が行っている卵巣悪性腫瘍登録調査では図1に示すように年々,40歳未満の卵巣癌患者数が増加してきている.もちろん,こうした患者すべてに当てはまるわけではないが,近年の未婚・晩婚化傾向に伴い本疾患における妊孕性温存の可否が議論される機会も少なくない.実際,われわれ産婦人科医にとっても日常臨床でこうしたケースに遭遇することは今後,ますます多くなっていくと考えられる.妊孕性温存手術は縮小手術であるため,適応を十分吟味する必要がある.しかしながら,この領域では満足しうるエビデンスが得られていないため,卵巣癌の妊孕性温存に関する臨床病理学的適応やその術式についても各種ガイドラインによって見解が異なっている実情がある.そこで本稿では,I期卵巣癌に対する妊孕能温存手術に関する最近までの知見を概説し,現時点における運用上の課題や今後の方向性などについて述べたい.

3.ファーストラインの化学療法

1)Dose-dense TC療法

著者: 菅野哲平 ,   勝俣範之

ページ範囲:P.874 - P.877

 卵巣癌患者に対する初回の主たる治療は手術療法であり,組織診断,病期決定とともに腫瘍減量術を確実に行う.しかし手術のみでは治癒は望めないため手術療法と化学療法を併用して治療を行う必要がある.

 1990年代後半に,パクリタキセル(TXL)の導入後,多くのランダム化比較試験を経て上皮性卵巣癌に対する,現在の標準的な初回化学療法はTri-weekly TC療法〔TXL 175 mg/m2+カルボプラチン(CBDCA)AUC 6〕となった1, 2)

2)第3の化学療法薬の追加

著者: 堀内晶子 ,   塩沢丹里

ページ範囲:P.878 - P.882

はじめに

 わが国の卵巣癌(上皮性卵巣癌)による死亡数は1996年4,006人,2007年4,467人と明らかに増加傾向にあり婦人科悪性腫瘍の中で最も死亡数の多い疾患である1).このような予後不良の卵巣癌に対する治療において化学療法はきわめて重要な役割を果たしている.早期卵巣癌の治療はまず手術療法であるが,初期がんであっても再発リスクがある症例には化学療法を行う.また,進行がんに対しては手術による腫瘍減量術(debulking surgery)が不可能な場合,化学療法が主な治療法になる.現時点では卵巣癌の標準化学療法としてTC療法(パクリタクセル+カルボプラチン)が定着しているが,卵巣癌の予後を改善するためには化学療法の治療成績を改善することが不可欠であり,TC療法を超えるレジメンの探索が取り組まれている.本稿ではTC療法に加えて第3の薬剤投与が標準治療を上回る効果があるのかを解析した結果をまとめる.

3)ベバシズマブ(bevacizumab)の追加

著者: 杉山徹

ページ範囲:P.884 - P.890

 卵巣癌治療の臨床研究において国際コンセンサスが得られているのは,(1)dose-dense paclitaxel(dd─TXL)と(2)腹腔内化学療法(IP)であり,これに分子標的薬を加えた臨床試験が加速している.現時点で大規模なランダム化試験(RCT)でエビデンスが示されている分子標的薬はベバシズマブのみである.ベバシズマブをTC療法と併用し,さらにベバシズマブでの維持療法を行うことで無増悪生存期間(PFS)の改善が示されたが,全生存期間(OS)の改善はなく,費用対効果が現実的な課題である.

4)腹腔内化学療法

著者: 藤原恵一 ,   岩佐紀宏 ,   長尾昌二

ページ範囲:P.891 - P.896

 進行卵巣癌の標準治療は,原発巣と周囲の臓器切除に加えて,播種した転移巣を含む腫瘍減量手術と化学療法の集学的治療である.

 腫瘍減量手術に引き続いて行われる化学療法の内容は,国際的に標準化されており,パクリタキセル175 mg/m2とカルボプラチンAUC 6の点滴静注(TC療法)で,3週間ごと6サイクル投与される.卵巣がんの化学療法は,1975年にシスプラチンが開発されて以来大きな進歩を遂げ,TC療法に至っているが,この間,化学療法の効果をいっそう高めるためのさまざまな試みが行われてきた.そのなかの1つが腹腔内化学療法(IP療法)である.

4.組織亜型別の治療法

1)明細胞腺癌の疫学と治療

著者: 礒西成治 ,   上田和

ページ範囲:P.898 - P.901

疫 学

 日本産科婦人科学会婦人科腫瘍登録1)によると明細胞腺癌の発生頻度は漿液性腺癌の34.7%に次いで22.4%と高頻度であり,20~39歳の若年層では漿液性腺癌1.5%に対し1.9%と逆転している.人種別ではわが国の明細胞腺癌症例は欧米と比較して高頻度である.NCI, Surveillance Epidemiology and End Results(SEER)2)による米国の卵巣癌組織型の比較ではAsian/Pacificの明細胞腺癌の頻度は11.6%でWhite : 4.8%,Black : 2.4%,Hispanic : 3.9%,American-Indian : ごく少数のいずれよりも有意に高頻度であった.ちなみにほかの組織型ではこれら人種間に発生頻度の差は認めていない.

2)粘液性腺癌

著者: 嵯峨泰 ,   藤原寛行 ,   鈴木光明

ページ範囲:P.902 - P.906

 上皮性卵巣癌に対する初回標準化学療法としては,タキサン製剤とプラチナ製剤による併用療法が確立している.しかしながら近年,粘液性腺癌においては奏効しないとの報告が相次いでいる1~4).本稿では粘液性腺癌の臨床病理学的,分子細胞生物学的特徴を整理し,現状における治療戦略と将来的な展望を述べる.

3)胚細胞腫瘍

著者: 小倉寛則 ,   森重健一郎

ページ範囲:P.908 - P.913

 胚細胞腫瘍は病理学的に良性腫瘍,境界悪性腫瘍,悪性腫瘍に分類されている.胚細胞腫瘍は卵巣腫瘍全体の20~25%を占めるが,本悪性腫瘍となると卵巣癌全体の3%ほどである1).SEERによる胚細胞腫瘍(悪性腫瘍)760症例のデータ解析の結果,組織学的には未熟奇形腫が最も多く,次にディスジャーミノーマ,卵黄嚢腫瘍と続きこれ以外の胎芽性癌や絨毛癌はまれであるが悪性度が高い腫瘍群である2).また複数の組織型が混在する混合型胚細胞腫瘍も認められる.わが国では成熟嚢胞奇形腫の悪性転化が36%と最多で,卵黄嚢腫瘍(26%),ディスジャーミノーマ(18%),未熟奇形腫grade 3(9%),そしてそのほかへと続く3).若い女性に多く発生し,悪性度の低いものから高いものまでさまざまであるが,近年の化学療法の進歩により劇的に治癒が見込めるようになってきたことが特徴的である.

 胚細胞腫瘍(悪性腫瘍)は上皮性卵巣癌に比べて増大が早く,通常は巨大嚢胞化や出血,壊死に伴って腫瘤触知や腹痛といった症状を呈してくるため比較的早期に診断・治療されることが多い.積極的に妊孕性温存手術を行い,必要に応じてプラチナベースの化学療法を行う治療がスタンダードと考えられ,進行癌の患者でさえ治癒するようになってきた.本稿では胚細胞腫瘍(悪性腫瘍)の治療について記すが,日常診療には『卵巣がん治療ガイドライン』をぜひ参考にしていただきたい.

再発卵巣がん治療

1.再発卵巣癌の手術療法

著者: 津田尚武 ,   牛嶋公生 ,   嘉村敏治

ページ範囲:P.914 - P.918

 進行卵巣癌(III期,IV期)では,2年以内にはおよそ55%が,5年以内にはおよそ70%以上が再発するとされている1).また再発例の半数は初回治療後約1年で認められ,1/4は半年以内に認められる.再発後の生存期間の中央値はおよそ2年であり,再発卵巣癌に対する化学療法の奏効期間は初回化学療法の奏効期間を超えることはない.一方,再発卵巣癌に対しての手術療法secondary cytoreductive surgery(SDS)は後方視的検討により報告されているが,その適格基準はまだ明確でない.本稿ではSDSに関する主な報告を紹介し,現時点でのSDSに関する問題点を述べる.

2.いわゆる「マーカー再発」への対応

著者: 山下博 ,   新井宏治 ,   青木大輔

ページ範囲:P.919 - P.923

 卵巣癌の治療成績は1980年代にシスプラチンの登場に伴い飛躍的に向上した.また1990年代にパクリタキセルが登場したことにより,III・IV期の進行卵巣癌の5年生存率がさらに改善したことは周知の事実である1).しかしながら,III・IV期の進行卵巣癌はその約9割が再発し,セカンドラインあるいはサードラインの化学療法へ移行するため,根治は困難といわざるをえないのが現状であり,再発卵巣癌治療のゴールとしてはQuality of Lifeを第一に考える必要がある.本稿においては,画像検査で発見される再発巣や症状の出現に先立って認められることのある,いわゆる「マーカー再発」の意義についての最近の知見を紹介したいと思う.

3.TC療法の適応と限界

著者: 有吉和也 ,   齋藤俊章

ページ範囲:P.924 - P.930

 パクリタキセル+カルボプラチン(TC)療法が初回化学療法の標準治療となった現在でも初回治療時に進行したIII~IV期の卵巣癌は高頻度に再発し,その長期予後は不良である.またI~II期であってもひとたび再発した場合には,進行卵巣癌の再発後とほぼ同様の生存曲線を示すことが報告されている1).再発卵巣癌の大部分は初回の最も有効とされる化学療法に耐性を示したがんであり,ほぼ根治することはない.したがって再発治療の目的は,延命効果を得ること,症状を緩和しQOLを改善し維持することであり,この意識を医療者,患者,家族が共有することが重要である.本稿では,最近改訂して刊行された『卵巣がん治療ガイドライン2010年度版』や国外のガイドラインを参考に,再発卵巣癌に対する一般的な考え方を述べながらTC療法の適応とその限界を概説する.

4.セカンドライン化学療法

著者: 松本光史

ページ範囲:P.931 - P.938

 本稿では,セカンドライン化学療法のうち,イリノテカン(CPT),リポゾーマルドキソルビシン(PLD),ゲムシタビン(GEM),エトポシド(ETP),トポテカン(TPT)などを用いた化学療法について述べる.OV05/EORTC試験など,いわゆる「マーカー再発」および,ICON4試験などの「セカンドラインにおけるTC療法」については別稿に譲り,本項の主旨に必要な最低限度のみ言及する.

5.分子標的薬の役割

著者: 本原剛志 ,   田代浩徳 ,   片渕秀隆

ページ範囲:P.940 - P.945

 卵巣癌は早期診断が困難であり,腹膜播種をすでに形成した進行癌で診断されることが多い.白金製剤やタキサン系薬剤の登場以来,5年生存率の向上をみてきたが,先の臨床背景から長期生存率は依然として不良である1, 2).初回治療が奏効し寛解が得られた場合でも,その多くは再発をきたし,上記の化学療法に加え種々の集学的治療をもってしても治療成績の向上はみられていない3, 4).その克服には,がん細胞の無秩序な増殖にかかわるシグナル伝達,血管新生や浸潤にかかわる分子機構5),腹膜播種および転移臓器における微小環境因子の解明,さらには最近注目されているがん幹細胞についての理解がきわめて重要な役割を担っている.

 近年,がん治療の領域において,がん細胞の特性を規定する分子機構が明らかにされるに伴い,それらの機構に関与する分子標的を明確にし,その機能を特異的に制御する分子標的治療が,抗悪性腫瘍薬開発において中心的な役割を果たすようになってきた6, 7).事実,多くの悪性腫瘍において新たな分子標的薬が続々と臨床に導入されその有効性が示されているが8),卵巣癌に対する分子標的薬はいまだ承認取得には至っていない.その中で,American Society of Clinical Oncology(ASCO)2010において,再発卵巣癌に対するさまざまな新規抗悪性腫瘍薬の臨床試験の結果が報告されたが,その大部分は分子標的薬を用いた検討であった.卵巣癌の再発症例,特に従来の抗がん剤治療に抵抗性の腫瘍において,分子標的薬への期待が今後さらに高まっていくことが予想される.このことから,新規分子標的薬の開発は現在の卵巣癌治療に課せられた焦眉の命題である.

連載 病院めぐり

済生会横浜市東部病院

著者: 小西康博

ページ範囲:P.954 - P.954

 済生会横浜市東部病院は横浜市地域中核病院構想の一環として,主に鶴見区,神奈川区方面の東部中核病院として2007年3月30日に開院しました.建物は地上10階建ての免震構造を採用し,災害時の拠点病院として機能を発揮できるよう,防災機能の向上を図っています.病床数は554床で救命救急センター,総合診療センター,消化器センター,呼吸器センター,心臓血管センター,腎泌尿器センター,糖尿病・内分泌センター,脳神経センター,整形外科・リウマチセンター,リハビリテーションセンター,こどもセンター,こころのケアセンター,内視鏡センター,化学療法センター,眼科,耳鼻咽喉科,皮膚科,放射線科,口腔外科と,産婦人科はレディースセンターおよびリプロダクションセンターの16疾患別センター,5診療科があります.

 当院産婦人科は済生会神奈川県病院産婦人科を前身として,その機能をすべて東部病院に移管しました.2010年度の産婦人科医局スタッフは,専門医7名,産婦人科専攻医3名,研修医1名です.地域周産期母子医療センターとなっており,神奈川県・横浜市周産期3次救急病院の役割を担っています.また,日本周産期・新生児医学会暫定研修施設,日本婦人科腫瘍学会専門医制度指定修練施設,日本産科婦人科内視鏡学会登録施設,日本産科婦人科学会生殖補助医療実施登録機関となっています.日本婦人科腫瘍専門医1名,日本臨床細胞学会細胞診指導医2名,日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医2名,臨床遺伝専門医が1名おり,周産期医療,進行がん手術治療,腹腔鏡下手術治療,不妊治療の4本柱を中心に診療を行っています.

Estrogen Series・96

ホルモン療法と乳癌の発生について  WHIのフォローアップ

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.955 - P.955

 米国で2002年に発表されたWHI(Women's Health Initiative)の結果は大規模なRCTとして米国における(そして世界における)ホルモン療法(Hormone Therapy : HT)に大きな影響をおよぼした.HTは1970年代当たりから普及し,その後,更年期およびそれ以後に対するあたかも万能薬のごとく受け入れられた.一時は「永遠の若さ,永遠のホルモン」という風な受け入れ方が,患者,マスコミ,医療者側に存在し,その後ろで製薬業界は大いに攻勢を仕掛けた.しかし,2002年に発表されたWHIの結果は,これまでのエストロゲン万能の態度に深刻な疑問を投げかけることになり,現在にいたるまでフォローアップと見直しが続いている.しかし,WHIのもつデータとしての力は大きく,その統計の意味するところは決して無視できない.

 ここでご紹介するのは,2010年にJAMA誌上に発表されたChlebowskiらによる論文である.WHIに参加した50~79歳の女性たちのうち12,788人に関するものである.WHI発表後の期間を含めた11年間にわたるフォローアップで,特にHTと乳癌との関連に焦点を当てたものである.文中,Eはエストロゲン,Pは黄体ホルモンを表すが,実際には,WHIにおいてはPremarin 0.625 mgとProvera 2.5 mgの2種のホルモン製剤に限定されて使用されている(この限定は,WHIという大規模研究の弱点でもある).この調査でE+P使用群はプラセボ群と比較検討された.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

UAE後の子宮筋腫に感染を生じ,肝機能障害を併発した1例

著者: 村木紗知 ,   疋田裕美 ,   石田友彦 ,   森田豊

ページ範囲:P.956 - P.959

症 例

■患者

 47歳,0経妊0経産.

■主訴

 下腹部腫瘤感,過多月経.

■既往歴

 特記事項なし.

■家族歴

 特記事項なし.

OBSTETRIC NEWS

子宮頸管短縮妊婦に対する天然型プロゲステロン使用で,早産率を有意に減少させられる

著者: 武久徹

ページ範囲:P.960 - P.964

 2005年当時,世界中の早産は1,290万例であった(Beck S, et al : Bull World Health Organ 88 : 31, 2010).

 早産率を減少させられる有力な戦略がないためである.

症例

分娩後に筋腫分娩に伴う大量出血を来たした1例

著者: 上田大介 ,   伊勢由香里 ,   國久有香 ,   上田智弘 ,   西島光浩 ,   岩崎正憲 ,   堀口英久

ページ範囲:P.965 - P.968

 今回われわれは,妊娠中には特に症状なく経過したが,分娩後に筋腫分娩に伴う大量出血を来たし,経腟的子宮筋腫核出術を施行した粘膜下子宮筋腫合併妊娠の1例を経験したので報告する.

 症例は37歳,2経妊2経産の女性.約4 cm大の粘膜下子宮筋腫があり,外来管理していた.自然妊娠が成立し,妊娠中も順調に経過した.妊娠38週に自然陣痛が発来し,児を経腟分娩にて娩出した.出産直後の診察では外子宮口から突出する腫瘤は認めなかった.その後に持続出血を認め,再度診察を試みたところ,腟内は腫瘤によって充満状態で腫瘤の茎部から出血を認めた.筋腫分娩と診断し,内子宮口部付近で腫瘤茎部を結紮のうえ核出術を施行した.手術後経過は良好であり,病態の悪化はなかった.

 粘膜下子宮筋腫合併妊娠においては筋腫分娩を合併し,大量出血の原因となりうることが確認された.出産前に大量出血への対応を考慮することが重要であると再確認した.

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投稿規定

ページ範囲:P.970 - P.970

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.971 - P.971

バックナンバー

ページ範囲:P.973 - P.973

アンケート用紙

ページ範囲:P.974 - P.974

次号予告

ページ範囲:P.975 - P.975

編集後記

著者: 倉智博久

ページ範囲:P.976 - P.976

 「東日本大震災」についての編集後記が続きますが,山形での経験を記します.「3.11」は私にも忘れられない日となりました.突然,1人の医局員の携帯電話が地震速報を告げたのがことの始まりで,数分後には猛烈な揺れが始まり停電しました.すぐに病院幹部が「防災センター」に集まりましたが,患者と職員の安全が確認されたあと最初の問題は停電でした.重油による自家発電にはタイムリミットがあり,病院への電気供給を確保するため,医学部はすべて電気供給をストップしました.医学部内には全学的に取り組んできた分子疫学の貴重な血清サンプルなどもありましたが,それらを保管していた冷蔵・冷凍庫もすべて電気の供給をストップせざるを得ませんでした.幸い,比較的早期に電気が回復し,実害はありませんでしたが,このような状況でのすばやい正しい判断はリーダーの重要な資質であると思います.次の問題は,「物流」が機能しなかったことです.まず,患者給食の食材の確保が困難で,医療材料は3日分,医薬品は7日分しか在庫がありませんでした.3.11から2週間以上にわたって,週末を含めて毎日8時,12時,17時の3回,3週目は朝,夕の2回病院の幹部が集まって対策会議を開催し,手術を含めすべて優先順位をつけて診療に当たりました.私が産婦人科医として感謝しているのは,病院全体で周産期の診療を何より優先していただけたことです.今回は,周産期医療の重要性を改めて考えさせられました.

 被災地の近くにいて強く感じたことのひとつは,被災地に近いほど,よりすばやく正確な情報が必要なところに情報がないことです.これは,津波の被害の大きな要因であったと考えられます.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 いまさら聞けない 体外受精法と胚培養の基礎知識

73巻2号(2019年3月発行)

今月の臨床 NIPT新時代の幕開け―検査の実際と将来展望

73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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