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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科68巻1号

2014年01月発行

雑誌目次

合併増大号 今月の臨床 生殖医療の進歩と課題─安全性の検証から革新的知見まで

著者: 吉村𣳾典

ページ範囲:P.5 - P.5

 ヒトはあくまで生物であり,ヒトもまた生物の例外ではなく,生殖によって子孫をつくり出す.その一方で,あくまで哺乳動物であるヒトはその生殖能力に限界があり,生殖により次世代をつくり出すことができない場合もある.超少子化社会を迎えたわが国においても,子供を望むカップルの約15%が不妊症・不育症に悩んでおり,女性の社会進出に伴う晩婚化によって不妊を訴え,医療機関を訪れる女性が多くなってきている.

 近年の生殖医療の進歩にはめざましいものがあり,生殖現象の解明のみならず,ヒトの生殖現象を操作する新しい技術も開発されている.細胞生物学や先端生殖工学技術の飛躍的進歩に伴って生殖医学も革命を受けつつあるといっても過言ではない.このような生殖医学の発展は,実は発生生物学や生殖内分泌学の進歩に負うところが大きい.この生殖現象の深くかかわる生殖医療は,新しい生命の誕生がある点で,すでに存在する生命を対象とする他の医療と根本的に異なった特性をもっている.21世紀に入り,ますます先端生殖工学技術は進歩をつづけている.とりわけ体細胞クローン技術や胚性幹細胞の再生医療への応用は,今後の生殖医療の展開にブレークスルーをもたらすかもしれない.

ARTにおける新技術

1.IVM

著者: 佐藤学 ,   森本義晴

ページ範囲:P.6 - P.11

●hCGを投与するIVM周期では,回収卵子の成熟状態がさまざまで,成熟卵子が含まれる場合がある.

●採卵数が多い場合に成熟卵子が含まれる可能性が高く,臨床成績が向上する傾向がある.

●hCGを投与するIVM周期では,成熟培養前と成熟培養後の2回,顕微受精する機会がある.

2.タイムラプスによる胚観察

著者: 井庭裕美子 ,   見尾保幸

ページ範囲:P.12 - P.19

●ヒト初期胚発生過程の動的解析を目的としてtime-lapse cinematography(TLC)を構築し,さまざまなヒト初期胚発生動態を捉えることに成功した.

●TLC解析により,胚発生速度,細胞内小器官動態を含めた胚の形態学的評価に関する新知見が得られた.

3.酸素消費と胚評価

著者: 阿部宏之

ページ範囲:P.20 - P.27

●細胞呼吸 : 細胞が外部から取り入れた酸素や酸素以外の酸化剤を用いて,養分を分解してエネルギーを発生させる生物現象.

●電気化学計測 : 化学物質の性質を電気的に計測する方法.局所領域における生体反応を高感度・リアルタイムに計測できる.

●走査型電気化学顕微鏡 : マイクロ電極をプローブとして,目的試料の上部や近傍を走査し,プローブ電流を検出する装置.

4.着床前診断(PGD)

著者: 末岡浩

ページ範囲:P.28 - P.33

●出生前診断と着床前(遺伝子)診断 : 産まれてくる児の遺伝病を診断する意味で共通しているが,妊娠してから行う絨毛検査や羊水検査による出生前診断に対し,子宮へ移植する前の体外受精によってできた胚から診断する着床前(遺伝子)診断(preimplantation genetic diagnosis : PGD)は妊娠前に診断し,予防的に判断できる点で大きく異なる.

●臨床研究 : PGDは,臨床研究として対応することが求められ,生まれてきた児の予後も含め調査管理することが必要である.また,通常の診断とは異なり,特に倫理審査と情報の管理が求められる.

●染色体診断と遺伝子診断 : PGDにおいて染色体の診断も旧来行われてきたFISH法に代わり,マイクロアレイを用いた解析法へ急速に進歩し,単一遺伝子病に対する診断法と同様に遺伝子抽出を行ったうえで解析する遺伝子診断法へ共有化されつつある.

5.着床前スクリーニング(PGS)

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.34 - P.41

●わが国では,日本産科婦人科学会の見解により,現在PGSを行うことは認められていない.

●FISH法でPGSを行っても,生児獲得率の上昇にはつながらない.array CGH法についてはRCTが進行中である.

●遺伝情報を包括的にスクリーニングすることにより,児の遺伝性疾患だけでなく,一般的な健康状態や健康と関係のない個人の特徴まで,胚移植時の選択の対象となりうる.

6.卵巣組織凍結

著者: 吉岡伸人 ,   鈴木直

ページ範囲:P.42 - P.48

●卵巣組織凍結・自家移植により,これまでに30名を超える児が誕生している.

●至適な卵巣組織凍結・移植方法,MRD等の安全面への配慮など,検討すべき項目も多く残されている.

●卵巣組織凍結・自家移植は,妊孕性温存方法の主翼となりうる方法であり,早急な普及が望まれる.

ARTの発展

1.老化卵子救済のための卵細胞質置換

著者: 田中温 ,   田中威づみ ,   永吉基

ページ範囲:P.49 - P.53

●老化卵子は救済できる可能性が高い : Baiらの論文1)では,老化卵子の核を若い卵子の細胞質に注入した卵子の胚盤胞発生率は86.2%と高値を示した.

●M-II期の染色体はほぼ100%確認できる : ノマルスキー微分干渉装置を装着した倒立顕微鏡下で染色体の位置を確認したところ,約80%は第一極体の近傍にあり,約20%は離れた部位に認められた.また,この結果はスピンドルビューを用いた方法でもほぼ一致した.

●ヒトM-II期卵子の細胞膜は軟らかいので直接注入ができる可能性がある : 今までの実験の経験則から,直接注入ができるのではないかと考えている.

2.精巣組織の凍結保存

著者: 横西哲広 ,   小川毅彦

ページ範囲:P.54 - P.63

●生殖腺毒性を有する治療を行う際に,後遺症の1つとして不妊症があることを説明する必要がある.性成熟した男性がん患者が妊孕能の温存を希望した場合は治療前の精液保存が奨励される.

●性未成熟な患者においては,研究段階であるが精子幹細胞凍結保存法,精巣組織凍結保存法がある.しかし臨床応用において安全な分化誘導技術がない.近年マウス精巣組織の器官培養法が改良され,精子産生が可能となった.これは凍結精巣組織の分化誘導法として多くの恩恵があると考えられる.

●今後,効率的な精巣組織の凍結保存法の確立と,ヒト精巣組織のin vitro分化誘導法の開発が期待される.

3.多能性幹細胞からの生殖細胞作成研究―現状と展望

著者: 斎藤通紀 ,   林克彦

ページ範囲:P.64 - P.70

●マウス多能性幹細胞から始原生殖細胞様細胞の誘導系が確立した.

●始原生殖細胞様細胞は,精子,卵子,健常な子孫に寄与する.

●ヒトへの応用には霊長類やヒト細胞を用いた基礎的研究が必須である.

4.子宮内膜と幹細胞

著者: 丸山哲夫

ページ範囲:P.71 - P.75

●ヒトの子宮内膜には,自己複製能,多分化能,増殖能,および自己組織構築能を有する少数の幹様細胞集団が存在する.

●複数の子宮内膜の幹様細胞がさまざまな方法で同定・分離されているが,それらの細胞特性は必ずしも一致していない.

●内膜幹細胞は,子宮内膜の再生を担うだけでなく,子宮内膜症などの内膜関連疾患の病態に起源細胞として関与する可能性がある.

5.子宮移植

著者: 三原誠 ,   木須伊織 ,   原尚子 ,   飯田拓也

ページ範囲:P.76 - P.82

●形成外科・再建外科学と産婦人科学,移植学の異分野融合により子宮移植が可能となる.

●霊長類における世界初の(自家)子宮移植後の自然妊娠・出産,(他家)移植後の月経再開に成功した.

●より安全性の高い他家子宮移植プロトコールを確立することが今後の課題である.

ARTの安全性評価

1.ART登録からみた周産期異常

著者: 齊藤英和

ページ範囲:P.84 - P.89

●2008年の日本産科婦人科学会会告での「胚移植数を原則1個とする」によりARTの多胎率は約5%に低下した.

●これに伴い,早産率や低出生体重児の率も急激に減少した.

●新鮮胚移植に比較し凍結融解胚移植の治療で出生した単胎正期産児の体重は重かった.

2.ARTにおける先天異常と遺伝的問題点

著者: 緒方勤 ,   松原圭子

ページ範囲:P.90 - P.96

●近年,疫学研究から,ART出生児における先天異常や周産期異常の発症増加が危惧されている.

●インプリンティング疾患が注目されているが,これは,ARTに関連しうる先天異常のなかの氷山の一角にすぎない.

●ARTにおけるリスクの評価では,ART固有のリスク因子とARTに関連する交絡因子を識別しなければならない.

3.ARTとエピジェネティックな異常

著者: 濱田裕貴 ,   岡江寛明 ,   有馬隆博

ページ範囲:P.98 - P.105

●ゲノムインプリンティング : 特定の片方の親から受け継いだ遺伝子のみが発現する現象(刷り込み)で,この発現の調節には,DNAメチル化が関与している.

●エピジェネティックス : 遺伝子の発現を制御し,ゲノム情報を正しく制御し,細胞の状態を決定する仕組みで,DNAメチル化やヒストンテールの修飾などが知られている.これらの化学修飾は,生殖細胞および初期胚では,ダイナミックな変化がみられる.

4.ART児の発達・長期予後

著者: 久慈直昭 ,   竹本崇史 ,   上條慎太郎 ,   戸田里実 ,   若松修平 ,   菅原かな ,   小川誠司 ,   山田満稔 ,   浜谷敏生 ,   吉村𣳾典

ページ範囲:P.107 - P.113

●ART由来出生児は自然妊娠に比べ,早産・低出生体重・先天性異常・小児/青年期の癌の発生率,脳性麻痺の罹患率が有意に高いが,その病因は両親の不妊形質によるものと考えられる.

●出生児の精神運動発達に関しては,これまでの報告では自然妊娠と差がない.

●インプリント異常疾患はART児で多くなる可能性が懸念されているが,現時点ではその発生率に有意差は認められない.

生殖医療と倫理・法

1.配偶子提供と出自を知る権利

著者: 宇津宮隆史

ページ範囲:P.115 - P.122

●出自を知る権利 : 1989年,国連で採択された.人は誰でも父母を知る権利がある.

●告知の時期 : 早ければ早いほうがよい.できれば物心つくときから.

●告知を取り巻く環境 : 世界的には告知を法制化.日本にもその傾向が出てきた.

●知らないでいる幸福 : ありえない.秘密が家族内にあること自体が不幸の元.

2.卵子提供・代理懐胎

著者: 竹下俊行

ページ範囲:P.123 - P.128

●第三者の関与する生殖補助医療に関する議論が開始されて10年以上が経過したが,いまだ法制化が具体化していない.

●卵子提供による生殖補助医療は,厚生科学審議会,日本生殖医学会がこれを容認する方向性を示している.

●代理懐胎は禁止するのが,諸学会,会議の共通認識である.

●第三者の関与する生殖補助医療についての法制化,公的機関による管理運営が望まれる.

3.シングル女性・同性カップルを対象とするART

著者: 石原理 ,   出口顯

ページ範囲:P.130 - P.136

●不妊治療を希望するカップルに,法律婚を要件とするのはもはや妥当でない.

●シングル女性,同性カップルにも治療を行う国が増加しており,これは同性婚の許容と呼応している.

●わが国では,医療介入により生まれる子どもたちの権利を守る法と環境の整備が,まず必要である.

4.非医学的理由による自己卵子の凍結

著者: 森崇英

ページ範囲:P.138 - P.146

●胚凍結保存は過去35年間の生殖補助医療の歴史のなかでその一翼を担って発展してきたが,卵子の凍結保存は技術的困難性のゆえに停滞していた.他方,女性の社会進出は貴重な社会資本としての位置を確立してきたが,女性の生殖サイクルに犠牲を強いるため,社会性不妊という新たな難問が浮上した.

●近年,優れた卵子凍結技術として登場した自己卵子凍結保存の加齢卵子対策としての有用性が証明されてきた.

●社会性不妊という実態について解説するとともに,この適応に対し自己卵子凍結保存が実施可能な態勢を整備する必要があるとの認識のもとに,日本生殖医学会が今回提示するガイドラインについても紹介した.

連載 FOCUS

遺伝性腫瘍における婦人科疾患―HBOC,Lynch症候群を中心に

著者: 新井正美 ,   古田玲子 ,   竹島信宏

ページ範囲:P.147 - P.153

遺伝性腫瘍と診療上の意義

 遺伝性腫瘍とは,遺伝的な素因に基づく癌の易罹患性症候群である.かつては大腸に数千の腺腫が発症する家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis : FAP)のように臨床所見で診断が可能な疾患がもっぱらの対象であった.しかし,1990年代にメンデルの遺伝の法則に従う単一遺伝子性疾患の原因遺伝子が相次いで同定された.この中には,個々の癌を診ただけでは診断できない癌を発症しやすい病態も含まれており,これらの遺伝性腫瘍は原因遺伝子の病的変異を根拠に,1つの疾患単位として独立することになった.現在では,遺伝性腫瘍の診断は主に生殖細胞系列の遺伝子診断(遺伝学的検査)により行われる.

 遺伝性腫瘍ではその病態からも推測されるように,通常の各種癌の好発罹患年齢よりも若くして癌が発症する,癌が同時性あるいは異時性に多発したり何回も癌に罹患した血縁者がいる,疾患に特徴的な癌が本人あるいは血縁者に発症する,などの臨床的な特徴を有する.

教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

卵巣癌と診断した性腺外胚細胞性腫瘍の1例

著者: 西川鑑 ,   安田紗緒里

ページ範囲:P.154 - P.160

症例

患者

 29歳,0経妊.

主訴

 下腹痛.

既往歴

 18歳 : 椎間板ヘルニア.

家族歴

 特記すべきことなし.

現病歴

 下腹痛,腰痛のため初診.内診にて子宮は可動性不良,ダグラス窩にソフトボール大の腫瘤を触知した.経腟超音波検査にて,左付属器に75×55 mmの充実性腫瘍を認めた.卵巣癌を強く疑い,腫瘍マーカー検査,CT,MRI検査を施行した.手術を予定し,入院となった.

Obstetric News

分娩活動期の開始―子宮頸管開大6cm以降?

著者: 武久徹

ページ範囲:P.161 - P.163

 活動期に至るまでの時期を潜伏期と定義したのは,Friedmanらの1950年代の研究(Friedman EA : Clin Perinatol 8 : 15,1981/Friedman EA, et al : Obstet Gynecol 33 : 145, 1969)からであり,現在に至っている.

 Friedmanらは,1950年代当時,“理想的分娩”と考えられていた妊婦500人の子宮頸管開大(開大)進行をグラフ化した.理想的分娩とは,満期,頭位,単胎妊娠であった.しかし,当時,妊婦は相当量のモルヒネ投与を受けることが多く,出口鉗子を使用した器械的分娩も少なくなかった.現在は,そのような分娩を理想的とは考えないであろう.

Estrogen Series

エストロゲンと乳癌の発生

著者: 矢沢珪二郎

ページ範囲:P.164 - P.164

 2002年7月,米国National Institute of Health(NIH)は,エストロゲン療法が乳癌リスクを増加させると発表した.この発表はその後多くの一般雑誌,新聞に引用され,エストロゲンの使用は急速に減少した.このデータはそれ以前に行われたWomen’s Health Initiativeのデータに基づいていた.

 この発表により,それまで隆盛をきわめていたエストロゲンの使用は2002年以降,急速に減少した.そして驚いたことに,エストロゲン使用の減少に伴って,乳癌の発生も急速に減少した.

原著

子宮頸部神経内分泌癌6例の解析

著者: 長谷川歩美 ,   太田剛 ,   倉智博久

ページ範囲:P.165 - P.170

要約

 子宮頸部神経内分泌癌は早期から遠隔転移を起こし,集学的治療を行っても予後不良な疾患である.2001年7月~2012年12月に当科で治療を行った子宮頸部悪性腫瘍307例のうち子宮頸部神経内分泌癌6例(1.9%)における臨床的特性と腫瘍径,初回治療,化学療法,再発の有無について検討した.

 子宮頸部神経内分泌癌6例における患者の平均年齢は48歳,臨床進行期はIB期が4例,IIB期が1例,IIIB期が1例であった.特異的な腫瘍マーカーはなかった.初回治療は手術可能な5症例で広汎子宮全摘術が施行された.術後補助化学療法としては,4例でEP療法が,1例でCPT-11/CDDP療法が施行された.再発は6例中3例に認め,再発症例は進行期IB2以上の症例,腫瘍径が大きい症例(>4 cm)であった.EP療法施行後の再発症例でTC療法が有効であった.

 子宮頸部神経内分泌癌に対する有効な治療法を確立させるために,さらなる症例の蓄積や検討が必要であると考えられる.

症例

肥満患者に対して施行した単孔式腹腔鏡下手術の2症例

著者: 山本善光 ,   佐々本尚子 ,   三好ゆかり ,   雨宮京夏 ,   足立和繁

ページ範囲:P.171 - P.175

要約

 肥満患者に対する,単孔式腹腔鏡下手術を2例経験した.症例1は53歳,BMIが43.6 kg/m2の高度肥満,高血圧症,糖尿病合併症例.下腹部の皮下脂肪が厚く,下腹部のトロッカー穿刺が困難と思われた.体重コントロール後,83 mmの左卵巣囊腫に対し,単孔式腹腔鏡下両側付属器摘出術が施行された.周術期合併症もなく術後7日目に退院となった.症例2は,59歳,BMIは31.6 kg/m2の肥満,高血圧症,脂質異常症合併症例.84 mmの右卵巣囊腫が指摘された.腹腔鏡手術の既往があり,臍下部に陥凹を認めた.傍臍ヘルニアの診断となり,傍臍ヘルニア根治術とヘルニア部分を利用した単孔式腹腔鏡下両側付属器摘出術が施行された.周術期合併症はなく,術後7日目に退院となっている.適切な術前評価,周術期管理を行えば肥満症例でも安全に単孔式腹腔鏡下手術は施行できると考えられた.

妊娠中の正常卵巣茎捻転の1例

著者: 伊藤理恵 ,   藤田太輔 ,   田中健太郎 ,   佐野匠 ,   神吉一良 ,   鈴木裕介 ,   渡辺綾子 ,   加藤壮介 ,   兪史夏 ,   荘園ヘキ子 ,   亀谷英輝 ,   大道正英

ページ範囲:P.177 - P.180

要約

 子宮付属器腫瘍の茎捻転は婦人科領域において稀ではなく,特に妊娠中は妊娠初期でしばしば発症する.今回,自然妊娠成立後に妊娠31週において正常卵巣茎捻転を経験したので文献的考察を含めて報告する.

 33歳,G1P1,妊娠31週2日に突然左下腹部痛が出現し,当院へ搬送された.骨盤MRIで左子宮付属器の腹側への変位を認め,鎮痛剤を使用したが下腹部痛の改善を認めず,正常卵巣茎捻転を疑い緊急試験開腹術を施行した.開腹所見では,左子宮付属器は子宮の腹側へ変位し,左卵巣の茎捻転を認めた.左卵巣は正常大で暗赤色を呈しており,左子宮付属器摘出術を施行した.術後の経過は良好で術後15日目に退院した.その後外来で経過を観察し,妊娠40週0日,経腟分娩で3,184 gの女児を娩出した.正常卵巣の茎捻転はきわめて稀であるが,妊娠中に激しい腹痛を認めた場合には正常卵巣茎捻転も想定した対応が必要であることが示唆された.

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投稿規定

ページ範囲:P.182 - P.182

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.183 - P.183

バックナンバー

ページ範囲:P.184 - P.184

次号予告

ページ範囲:P.186 - P.186

編集後記

著者: 神崎秀陽

ページ範囲:P.188 - P.188

 医科大学あるいは医学部の新設をめぐる議論と共に,医師数の将来需給に関しても,実数不足か地域や診療科の偏在なのか,双方の立場からの意見はかみ合っていません.一方,少子高齢化や要介護者の急増を見越し,近年多くの医療系大学,学部や専門学校が全国各地で申請・認可されました.そして医師以外の医療関係者の需給予測を見ると,看護師と特殊な医療技術職,例えば言語聴覚士などを除く,薬剤師,放射線技師,臨床工学士,作業療法士,栄養士,臨床心理士などは充足し,一部では過剰となります.

 しかし看護師については,医師同様に将来の需給予測は困難です.過去数年と今後の1~2年以内をみても,新たな看護大学,看護学科などの申請が各地域で出されており,例えば近畿地方でも2015年になれば一部以外では充足率が100%を超えると予測されています.大学病院での看護師の平均在職年数は9年前後となっていますので,毎年1割程度の看護師が入れ替わる計算で,現場の感覚では常に看護師不足に悩まされており,1年中募集を継続している状況です.教育の主体が3年制の看護専門学校から4年制の大学へと移行してきており,4年生大学卒では確かに個々人の能力と専門意識,上昇志向があり,総じて看護の質も向上します.各領域での専門看護師の増加は医療現場での看護師の役割を増加し,医師の過重労働軽減につながることが期待されており,そのためにはまず定着率の改善が必要で,医師同様,職場環境・待遇を改善する必要があることは明らかです.しかし数年ごとに見直されて変動している診療報酬制度下では,経営的にどこまでが可能かの判断が難しいのが現実です.

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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73巻1号(2019年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 エキスパートに学ぶ 女性骨盤底疾患のすべて

72巻12号(2018年12月発行)

今月の臨床 女性のアンチエイジング─老化のメカニズムから予防・対処法まで

72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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