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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科68巻4号

2014年04月発行

雑誌目次

増刊号 産婦人科処方のすべて─すぐに使える実践ガイド

本扉

ページ範囲:P.1 - P.1

婦人科編 I 婦人科感染症・類縁疾患

I章扉

ページ範囲:P.7 - P.7

腟炎―細菌性腟症/トリコモナス腟炎/カンジダ腟炎

著者: 岩破一博

ページ範囲:P.8 - P.12

疾患の概要

細菌性腟症

 腟内の常在乳酸菌が減少し,嫌気性菌などの複数の雑菌が異常増殖した状態である.クラミジア感染は症状が出にくく,細菌性腟症が症状の1つとなり,診断のきっかけとなることがある.性感染症のスクリーニングとしても細菌性腟症が注目され,また細菌性腟症は流・早産,前期破水のリスクファクターであり,早産既往症例,子宮頸管長短縮が認められるような早産のハイリスク症例に対しては,細菌性腟症を治療することにより周産期予後を改善できるという考えが主流である.

トリコモナス腟炎

 トリコモナス原虫(Trichonas vaginalis)が原因で,年齢層が幅広く,性交経験のない女性や幼児にも感染者がみられることから,性感染症以外の感染経路も考慮する必要があり,幼児虐待もあるので注意を要する.トリコモナス腟炎ではトリコモナスだけではなく,細菌性腟症関連細菌が増殖し,混合感染の形態をとることが多い.帯下の鏡検でトリコモナス原虫を確認できるのは約70%とされ,確認できない場合は,トリコモナス培地で培養する.

カンジダ腟炎

 Candida albicansや最近増加・難治性化しているCandida glabrataCandida tropicalisなどの増殖による真菌症である.その存在だけではカンジダ腟炎とはいえず,症状がなければ治療の必要がない.症状は,粥状,酒粕状,ヨーグルト状の白色帯下と外陰部搔痒感,灼熱感が特徴である.帯下の鏡検で分芽胞子や仮性菌糸体を検出し,かつ搔痒感,帯下増量などの症状を認めた場合にカンジダ症と診断する.

外陰毛じらみ症/疥癬

著者: 岩破一博

ページ範囲:P.13 - P.16

疾患の概要

外陰毛じらみ症

 陰毛を中心とした体毛に寄生する昆虫で,主に性行為に伴う陰毛の接触によって感染する.陰部のかゆみ,紅斑や丘疹を認めるが,ない場合もある.

疥癬

 ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var. hominis)が皮膚角質層に寄生して起こす掻痒の強い皮膚疾患で,ヒトの肌から肌への直接接触によって感染する.性感染症でもあるが,性行為と無関係でも感染する.診断は,(1)臨床症状(感染後,約1~2か月の潜伏期間をおいて発症する.きわめて強いかゆみを伴い,皮膚症状は丘疹,結節,疥癬トンネルが挙げられる.特に疥癬トンネルは疥癬だけに見られる特有なもの),(2)顕微鏡またはダーモスコピーによる検査で虫体,虫卵を検出,(3)疫学的流行状況,の3項目を勘案して行い,ヒゼンダニの虫体・虫卵の検出により確定診断する.

硬化性苔癬/外陰潰瘍/Behçet病

著者: 川名敬

ページ範囲:P.17 - P.19

疾患の概念

硬化性苔癬(lichen sclerosis)

 従来は外陰萎縮症,白斑症という病名もあったが,現在は硬化性苔癬として統括されている.閉経期,閉経後,思春期前に好発する.左右対称性に発生し,赤色,白斑,硬化,陰唇の癒合,腟狭窄など多彩な臨床像を呈する.また,外陰上皮内腫瘍(vulvar intraepithelial neoplasia : VIN)や外陰癌を併発する場合や,移行する場合があるので注意を要する.硬化性苔癬は高齢者の外陰癌の発生母地であるという考え方もある.硬化性苔癬は,頻度は少ないものの高齢者では外陰癌の発生母地となりうることを忘れてはならない.

急性外陰潰瘍

 急性外陰潰瘍(LipSchütz潰瘍)は,腟内の細菌叢に対するアレルギー反応であると考えられているが,厳密には病因はわかっていない.性器ヘルペスとの鑑別が問題となる疾患であるが,肉眼的には鑑別は難しい.稀に口腔内アフタを併発することもあり,Behçet病との鑑別も難しい.

 若い女性の外陰部に,性交と関係なく1個から数個の有痛性の深くえぐれたような潰瘍が生じ,再発を繰り返して慢性に経過する.潰瘍は,特に大・小陰唇や会陰に多く発症するが,腟や子宮腟部に発症することもある.癌と間違えられることがあるが,自然に治癒することや,細胞診・組織診で悪性所見のないことから鑑別できる.再発は月経時に起きやすいので,内分泌環境の変化が誘因として考えられている.潰瘍は,瘢痕を残して2~4週間で自然治癒する.

Behçet病

 外陰潰瘍,口腔粘膜のアフタ性病変,虹彩炎の三主徴を示す疾患にBehçet病がある.Behçet病には,この三主徴がすべて揃う完全型と,その一部しかみられない不全型がある.本症では,種々の免疫学的パラメータに異常がみられるところから,自己免疫疾患と考えている学者が多い.HLA拘束性があるといわれている.病理組織学的には,真皮と皮下脂肪組織間の血管炎と,それに伴う脂肪織炎が主である.

尖圭コンジローマ

著者: 池田美智 ,   高橋一広 ,   倉智博久

ページ範囲:P.20 - P.21

疾患の概要

 尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(human papillomavirus : HPV)の6,11型が原因である疣贅疾患であり,代表的な性感染症である.発生部位は,外陰,会陰,肛門周囲,腟,子宮頸部などに好発する.感染後,視診で観察できるまでに3週~8か月(平均2.8か月)を要するため,感染機会を特定できないことも多い.本邦での罹患率は増加傾向にあり,2008年の定点調査において年間患者数は約4万人,うち女性は約2万人と推定されており,特に20歳台女性では増加傾向が認められる.

クラミジア感染症

著者: 池田美智 ,   高橋一広 ,   倉智博久

ページ範囲:P.22 - P.24

疾患の概要

 クラミジア感染症はクラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)が尿道,子宮頸管,咽頭の円柱上皮に感染することで発症する性感染症である.感染女性は2002年をピークとして減少し,2009年にはほぼ半減しているが,性感染症のなかでは最も頻度が高い.20歳台女性に好発し,子宮頸管炎と骨盤内炎症性疾患を発症するが,50~70%は無症状であるため,無治療のまま症状が進行し,卵管性不妊症の原因となることがある.また,妊婦がクラミジアの感染による絨毛膜羊膜炎を発症したり産道感染した場合は,新生児結膜炎,新生児肺炎などの新生児クラミジア感染症の原因となる.これらの感染の蔓延を防止するためにも,積極的に検査・治療を行うことが勧められる.

性器ヘルペス

著者: 吉村和晃 ,   蜂須賀徹

ページ範囲:P.25 - P.27

疾患の概要

 性器ヘルペスは,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus : HSV)1型または2型の感染により,性器に浅い潰瘍性または水疱性病変を形成する性感染症の1つである.臨床的には初発と再発に分類され,初発は初感染初発と非初感染初発に分かれる.

 初感染初発例では,性的接触後2~10日間の潜伏期で激しい疼痛を伴って突然発症し,38℃以上の発熱や倦怠感,鼠径リンパ節の腫脹・圧痛,髄膜刺激症状,排尿困難・便秘などの末梢神経麻痺を伴うこともある.非初感染初発例では,初感染例に比べて症状は軽い.再発例の症状は軽く,再発前に外陰部違和感や,大腿から下肢にかけて神経痛様の疼痛などの前兆がある.

淋菌感染症

著者: 野口靖之

ページ範囲:P.28 - P.30

疾患の概要

 淋菌は,子宮頸管炎やバルトリン腺炎だけでなく子宮内膜炎,卵管炎,骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease : PID),肝周囲炎を引き起こし,卵管不妊や卵管妊娠,Fitz-Hugh-Curtis症候群(FHCS)の原因になる.このため,妊娠を控えた若年女性では,クラミジア感染症と同様に早期診断が重要となる.また,淋菌は,オーラルセックスなど性行動の多様化に伴い咽頭炎,直腸炎,結膜炎を引き起こすため,性器以外の自覚症状についても問診を行う.さらに,妊婦が淋菌性子宮頸管炎に罹患すると産道感染を引き起こし,新生児に結膜炎(新生児膿漏眼)を発症する.新生児膿漏眼は,現在稀であるが,治療が遅れ角膜穿孔を引き起こすと失明に至る.

骨盤内感染症―子宮内膜炎/子宮付属器炎/骨盤腹膜炎

著者: 坂本尚徳 ,   深澤一雄

ページ範囲:P.32 - P.34

疾患の概要

 骨盤内感染症と骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease : PID)はほぼ同義語として使用されている.女性ではその解剖学的構造により,女性性器下部(腟,頸管)の感染が上行性に進展して子宮内膜に波及し子宮内膜炎を起こし,さらに腹腔内に至り付属器炎から骨盤腹膜炎が生じる.女性の急性腹症で子宮頸部可動痛,子宮や付属器の圧痛と炎症,感染の検査所見や発熱があればPIDとして成立するが,重症化すればDouglas窩膿瘍をはじめとする膿瘍形成,肝周囲炎(Fitz-Fugh Curtis症候群),敗血症性ショックなどへ進展することもあり,適切な診断と治療が必要である.

II 内分泌・不妊

II章扉

ページ範囲:P.35 - P.35

原発無月経

著者: 岡田英孝 ,   神道寿勇 ,   神崎秀陽

ページ範囲:P.36 - P.39

疾患の概要

 原発無月経の定義は「満18歳になっても初経を認めないもの」とされている(日本産科婦人科学会用語委員会).本邦での平均初経年齢は約12歳で,98%以上が14歳までに初経を迎えるので,15歳になっても発来しない場合には検査を考慮する.原発無月経の発生頻度は,婦人科外来患者の0.3~0.4%と稀である.早期の治療開始により予後が改善されるために,第二次性徴の状態により15歳未満でも原発無月経の可能性を考えた対応が必要となる.その原因として染色体異常が最も多く,性腺分化異常などの先天性希少疾患が含まれていることに留意する.

 原発無月経の分類を以下に示す.

(1)性管性無月経 : 処女膜閉鎖,腟閉鎖,腟欠損,腟中隔

(2)子宮性無月経 : 先天性子宮欠損,結核性子宮内膜炎,Asherman症候群

(3)卵巣性無月経 : Turner症候群,卵巣形成異常,完全型性腺異形成,原発性FSH不応症候群,アンドロゲン不応症(精巣性女性化症)

(4)アンドロゲンによる無月経 : 副腎性器症候群

(5)視床下部・下垂体性無月経 : Kallmann症候群,Fröhlich症候群,Laurence-Moon-Biedl症候群,ゴナドトロピン単独欠損症

続発性無月経

著者: 布田孝代 ,   和泉俊一郎

ページ範囲:P.41 - P.45

疾患の概要

 これまであった月経が3か月以上停止した場合(妊娠中,産褥期など生理的な無月経は除く)を続発性無月経と定義する.臨床現場で遭遇する無月経はこの続発性無月経がほとんどを占める.さらに,3か月未満の月経遅延で来院するケースも多く,無月経の期間は1か月から数か月,あるいは,数年とさまざまである.

 重症度としては,エストロゲン基礎分泌量の程度により1度無月経と2度無月経に分類される.プロゲステロン負荷試験としてプロゲステロンを単独で投与し,消退出血があれば基礎的なエストロゲンの分泌が保たれている状態で,1度無月経と定義する.一方,プロゲステロン単独では消退出血がみられず,エストロゲン+プロゲステロンの投与にて消退出血がみられるものを2度無月経と定義する.

 原因別分類では主なものに,視床下部性無月経,下垂体性無月経,卵巣性無月経,その他として,多囊胞性卵巣症候群,高プロラクチン血症などが挙げられる.ここでは特に思春期続発性無月経の主病態である視床下部性無月経について述べたい.

 視床下部性無月経はダイエットによる急激な体重減少,精神的ストレス,過度の運動負荷などが誘因となる.視床下部性無月経では,クロミフェンに反応し血中エストラジオールの上昇を認め,排卵誘発される.このためクロミフェンの投与は診断的治療として用いられることもあり,クロミフェン投与で無反応の場合は,下垂体性,および卵巣性無月経が疑われる.

早発卵巣機能不全

著者: 和泉俊一郎 ,   布田孝代

ページ範囲:P.46 - P.48

疾患の概要

 早発卵巣機能不全(primary ovarian insufficiency : POI)は,40歳未満の高ゴナドトロピン性無月経を意味する.欧米ではpremature menopause(早発閉経)といわれていたが,この表現による2つの問題点から現在はPOIとの名称が一般的である.すなわちprematureは,患者の身体的・精神的な未熟成を示唆して誤解を生じる点と,この病態は必ずしもmenopauseという完全な排卵停止を意味するものではない点である.欧米でprematureがprimaryに変更されても,本邦での訳としては早発が妥当と考えられ,あえて原発性卵巣機能不全という用語は採用されていない.POIでは,その卵巣は排卵を休止しているか,稀に排卵する状態であり,卵巣からの性ホルモン(エストロゲン,プロゲステロン,テストステロン)の分泌も休止しているか,間欠的に産生されている状態である.

思春期子宮出血

著者: 氏原悠介 ,   前田長正

ページ範囲:P.49 - P.51

疾患の概要

 初経後間もない低年齢(11~13歳)で起こる不正出血は,性中枢機能の未熟によるものである.無排卵に起因したエストロゲンの持続的作用による機能性子宮出血が多く,出血量は少なく,腹痛などを伴わないことが多い.一方,初経後2~3年以降に起こる不正出血は黄体機能不全によるものが多い.排卵痛を伴うことや,長期の性器出血を認めることもあり,時に貧血をきたすこともある.これらのほかに,多囊胞性卵巣症候群や外傷,炎症性疾患,腫瘍性疾患,高プロラクチン血症,甲状腺機能亢進症,薬剤(特に抗うつ薬や精神安定剤など),妊娠および流産などが原因となることもあるので,鑑別を要する.

機能性子宮出血

著者: 氏原悠介 ,   前田長正

ページ範囲:P.52 - P.54

疾患の概要

 機能性子宮出血は日本産科婦人科学会の定義では,「器質的疾患を認めない子宮からの不正性器出血」とあり,出血傾向をきたす内科的疾患(血液疾患,肝疾患,抗凝固薬などの薬剤服用)も含まれる.妊娠と器質的疾患(炎症,腫瘍,外傷など)が除外された場合に機能性子宮出血と診断する.

 有経婦人においてどの年代でも起こり,不正性器出血の約30%を占める.ホルモン分泌様式からは,エストロゲンの持続による破綻出血とエストロゲン・プロゲステロンの減少による消退出血に分類される.また,排卵の有無によって,排卵性出血と無排卵性出血に分類される.

更年期不正出血

著者: 氏原悠介 ,   前田長正

ページ範囲:P.56 - P.58

疾患の概要

 更年期不正出血は,機能的な原因と器質的疾患による不正出血に大別される.機能性出血の原因としては,無排卵による破綻出血をきたすことが多い.卵巣の異常(卵巣機能の低下や多囊胞性卵巣,機能性卵巣腫瘍)や甲状腺機能障害,薬剤性のものも考慮しなければならない.器質的な異常としては子宮腫瘍(子宮頸がん,子宮体がん,子宮内膜ポリープ),下垂体腫瘍,腟・外陰部の異常,卵巣・卵管の異常のほか,妊娠に関連した出血(流産,絨毛性疾患など)も鑑別に挙がる.

高プロラクチン血症

著者: 福田真 ,   折坂誠 ,   吉田好雄

ページ範囲:P.59 - P.61

疾患の概要

 月経異常,乳汁漏出の症状を呈し,血中プロラクチン(prolactin : PRL)値が基準値を超え,異常高値を示した場合,高プロラクチン血症と診断される.PRL値は変動しやすいため,採血は,卵胞期初期,食後2時間以降の安静時に行うことが推奨され,再検が必要な場合もある.血中PRLを上昇させる因子として,運動,ストレス,授乳などの生理的因子のほかに,PRL産生下垂体腫瘍(プロラクチノーマ),視床下部機能障害(分娩後に発症するArgonz-del-Castillo症候群,分娩と無関係のChiari-Frommel症候群),薬剤服用,原発性甲状腺機能低下症などの病的因子が挙げられる.

機能性月経困難症

著者: 高井泰

ページ範囲:P.62 - P.64

疾患の概要

 月経困難症は,月経時の下腹部痛や腰痛などのために就労や学習に支障があるものをいう.疼痛に伴って悪心,嘔吐,下痢,徐脈などの随伴症状が出現することもある.子宮内膜症や子宮筋腫などの器質的疾患に伴う場合は器質性月経困難症といい,原疾患に対する治療を優先する.器質的疾患が認められない場合は機能性月経困難症といい,月経困難症の90%以上を占める.後者の主な機序として,子宮内膜で産生されたプロスタグランジン(PG)による子宮収縮や血流に入ったPGによる副交感神経刺激などが推定されている.

月経前緊張症

著者: 高井泰

ページ範囲:P.66 - P.68

疾患の概要

 月経前3~10日の黄体期に周期的に発来する精神的,身体的症状であり,月経発来とともに減退ないし消失するものを月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)または月経前緊張症という(後者のほうが古典的な表現).症状は,疲労感,イライラ,腹部膨満感,乳房痛,情緒不安定,抑うつ,食欲亢進,浮腫,頭痛など多彩である.月経を有する女性の70~90%は何らかの月経前症状を有するが,そのなかで日常生活に支障をきたす中等度以上のPMSは5~9%である.さらに,重症のPMSまたは精神症状が主体となるものを月経前不快気分障害(premenstrual dysphoric disorder : PMDD)という.

 血中性ステロイドホルモンの周期的変化に対する感受性が高いことが発症に関与しているとされており,精神症状についてはプロゲステロンに対するセロトニン作動性システムの感受性が高いことが誘因と考えられている.

排卵障害

著者: 藤本晃久

ページ範囲:P.69 - P.73

疾患の概要

 正常な排卵周期を有する女性では,視床下部から律動的に分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が下垂体前葉に作用し,下垂体からゴナドトロピン〔卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体化ホルモン(LH)〕が放出される.FSH,LHは卵巣に存在するおのおのの受容体に結合し,卵胞発育─排卵─黄体形成─退縮─月経発来に至るまでの,月経周期の制御に関与している.また,卵巣中の卵胞細胞,黄体から分泌されるエストラジオールおよびプロゲステロンは,子宮内膜の増殖期変化・分泌期変化に関与するとともに,視床下部・下垂体の受容体に作用し,中枢性ホルモンの分泌を制御している.

 排卵障害は,このような視床下部─下垂体─卵巣系のいずれかが原因となって起こる,卵巣からの卵子の放出が起きない状態である.原因は大きく視床下部性,下垂体性,卵巣性に分類されるが,別項で述べられるプロラクチンも排卵周期調節に密に関与している.排卵障害はしばしば原発性・続発性無月経の症状をきたし,また機能性不正出血の多くも排卵障害が原因となりうる.

 本項では,こうした多岐にわたる排卵障害のうち,特に挙児希望を有する症例で,かつ別項で述べられる高プロラクチン血症,多囊胞性卵巣症候群を除いた症例に対する治療方針に限定して解説する.

黄体機能不全

著者: 藤本晃久

ページ範囲:P.74 - P.76

疾患の概要

 黄体機能不全は,黄体からのエストロゲンとプロゲステロンの分泌不全により,子宮内膜の分泌変化が完全に起こらないものをいう.黄体期中期のエストラジオール・プロゲステロンの低値や,基礎体温上高温期の短縮をきたし,不妊症や不育症,機能性出血などの原因となる.黄体機能不全の病態は,理論的には中枢性,卵巣,子宮のいずれかに要因がある場合に分類されるが,臨床上これらを厳密に区別することは困難である.また,黄体機能不全を起こしうるそのほかの要因として,hMGなどの薬物性や生殖補助医療目的のGnRHアナログを使用した調節卵巣刺激によるものなどがある.

多囊胞性卵巣症候群

著者: 宮本敏伸 ,   水無瀬学 ,   千石一雄

ページ範囲:P.77 - P.79

疾患の概要

 多囊胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は1935年にSteinとLeventhalにより報告されたのをきっかけに,1960年代になってから,多囊胞性卵巣を伴う月経異常を呈する症候群をPCOSという疾患概念で取り扱われるようになってきた.診断基準は月経異常,多囊胞卵巣,ホルモン値異常の3項目の存在を必須とし,月経異常として「無月経,希発月経,無排卵周期症のいずれかの存在」を,また多囊胞卵巣所見としては「超音波検査にて両側卵巣に多数の小卵胞が認められ,少なくとも一方の卵巣において2~9 mmの小卵胞が10個以上存在する」こと,またホルモン値異常としては「血中男性ホルモン値高値,またはLH基礎値高値かつFSH値正常」とされている.

卵巣過剰刺激症候群

著者: 宮本敏伸 ,   水無瀬学 ,   千石一雄

ページ範囲:P.80 - P.82

疾患の概要

 卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)とは,排卵誘発剤投与によって多数の卵胞が発育し,hCG投与後に囊胞化と卵巣腫大を示し,血管外に蛋白の豊富な水分が流出し,結果的に血管内脱水になることで発症する医原性疾患である.脱水,血液濃縮,胸腹水の貯留,adult respiratory distress syndrome(ARDS),乏尿,電解質不均衡(低ナトリウム血症,高カリウム血症)などの症状を呈する.また同時に,低血圧,頻脈,中心静脈圧の低下が引き起こされ,重症型では生命予後にかかわる.ハイリスク群として,35歳以下,多囊胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS),体外受精さらには妊娠が成立した場合などが挙げられるが,排卵誘発を行う際に本疾患を100%予防することは不可能であるため,排卵誘発を試みる際には外来にて事前に十分な説明を行うことが必須である.

不育症―抗リン脂質抗体症候群/凝固因子の欠乏または低下

著者: 千島史尚 ,   市川剛 ,   山本樹生

ページ範囲:P.83 - P.85

疾患の概要

 不育症は,生殖年齢の男女が妊娠を希望し,妊娠は成立するが流産や早産を繰り返して生児が得られない状態と,産科婦人科用語集(日本産科婦人科学会編)には定義されている.流産を3回以上繰り返す習慣流産とほぼ同義語とも考えられるが,妊娠22週以降の胎内死亡や死産を繰り返す症例も包括する概念とされる.原因として,胎児側では,染色体異常が最も多い.母体側因子としては,子宮の形態異常,内分泌異常,血液凝固異常,感染症,自己免疫性疾患,染色体異常,抗リン脂質抗体症候群などがある.

 抗リン脂質抗体には,抗カルジオリピン抗体,抗β2─GPI抗体,抗ホスファチジルセリン抗体,抗ホスファチジルエタノールアミン抗体,ループスアンチコアグラント(LAC)などがある.抗リン脂質抗体の出現頻度は10~20%である.抗リン脂質抗体症候群の診断基準は2006年に改訂されており,これにより診断する.

 本稿では,薬物療法に関してエビデンスのあるもの,特に抗リン脂質抗体症候群,凝固因子の欠乏または低下について概説する.

乏精子症/精子無力症

著者: 吉田淳

ページ範囲:P.86 - P.87

疾患の概要

 乏精子症とは精子濃度が1500万/mL未満のことで,精子無力症とは精子運動率が40%未満または前進精子運動率が32%未満のことである.乏精子症や精子無力症などの男性不妊症の原因は,精子形成障害や副性器障害など多岐にわたる.男性不妊症の原因の約90%は精子形成障害で,その約1/3は精巣の周りに暖かい血液がうっ滞する精索静脈瘤,残る原因の大半は,原因がわからない特発性精子形成障害である.問診を詳しく聴取したのち,精液検査,ホルモン検査,視診,触診,超音波検査,染色体検査などを行って,診断・治療を行う.

逆行性射精/勃起障害

著者: 吉田淳

ページ範囲:P.88 - P.89

疾患の概要

 逆行性射精とは,外尿道口から射精される精子が,逆に膀胱に射精される疾患である.オーガズムと射精感はあるが,精液量はゼロかごく少量で,すべての精液が膀胱に射精される完全逆行性射精と一部の精液が膀胱に射精される部分逆行性射精がある.射精時の内尿道口の閉鎖不全により発生し,糖尿病などで神経が障害された場合,経尿道的前立腺切除術(TURP)などで内尿道口の閉鎖機能が障害された場合や前立腺肥大症の治療薬であるα1受容体遮断薬の副作用として発現する場合がある.

 勃起障害(ED)は,性交時に有効な勃起が得られないために満足な性交が行えない状態で,通常,性交のチャンスの75%以上で性交が行えない状態と定義されている.わが国のEDの有病率は,40歳台で約20%,50歳台で約40%,60歳台で約60%と報告されている.EDは,機能性(心因性)ED,血管性ED,神経性ED,内分泌性ED,陰茎性EDに分類される.

子宮内膜症

著者: 甲斐健太郎 ,   奈須家栄 ,   楢原久司

ページ範囲:P.90 - P.93

疾患の概要

 子宮内膜症は,生殖年齢女性の約10%にみられる慢性の良性疾患であり,子宮内膜組織と類似した組織がエストロゲン依存性に子宮外で増殖する疾患である.異所性子宮内膜組織の多くは骨盤内に発生するが,稀に肺,腸管,鼠径部,臍,腟などにも発生しうる.発生機序については,子宮内膜移植説や体腔上皮化生説など諸説あるが,いまだ解明されていない.自然史もいまだ不明であるが,妊娠中や閉経後は本疾患が軽快することが知られている.一方で,子宮内膜症発症のリスク因子として,未産婦,早発初経や遅発閉経,頻発月経,過長月経,子宮形態異常などが報告されている.生殖年齢女性における主な症状は,月経困難症,慢性骨盤痛(性交痛,排便痛),卵巣子宮内膜症性囊胞,そして不妊(卵管周囲癒着,各種サイトカイン産生による骨盤内環境悪化)である.また囊胞径の大きな腫瘍や40歳以上の症例においては,卵巣子宮内膜症性囊胞から明細胞腺癌や類内膜腺癌へ癌化するリスクが上昇する.

 子宮内膜症の確定診断は,腹腔鏡や開腹手術により組織学的に病変を確認して行われ,重症度分類には一般的にアメリカ生殖医学会の進行期分類が用いられる.しかしながら,臨床的に子宮内膜症による疼痛を疑う場合には,腹腔鏡検査に先立って各種薬物療法が開始されることが多い.近年の晩婚化により妊孕性の温存が必要な症例が増加し,薬物療法による保存的治療を行う機会も増加している.

子宮腺筋症

著者: 甲斐健太郎 ,   奈須家栄 ,   楢原久司

ページ範囲:P.94 - P.96

疾患の概要

 子宮腺筋症は,子宮内膜組織と類似した組織が子宮筋層内に発生,増殖する疾患である.びまん性の子宮腫大による過多月経,月経困難症を呈し,罹患率は約20%と報告されている.以前は病理学的に子宮内膜症と同一に扱われたが,現在は臨床像,病因,病態においてこの両者は独立した疾患と考えられている.また,子宮腺筋症は,筋層内子宮筋腫と類似した病状を呈するが,その病態は複雑で,治療はより困難な場合が多い.近年の晩婚化により,妊孕性の温存が必要な症例が増加し,薬物療法による保存的治療を行う機会も増加している.

低用量経口避妊薬/緊急避妊薬

著者: 蓮尾豊

ページ範囲:P.97 - P.101

背景・目的

 1999年に国内で初めて低用量経口避妊薬(OC)が避妊薬として承認され,その普及が期待されたが,それまでのピルに対する理解不足や副作用に対する不安・誤解などから服用者は低率にとどまっていた.2008年にはLEP製剤と呼ばれ月経困難症などの保険適用を得たOCが登場し,普及に貢献してはいるが,まだまだ不十分といわざるをえない.LEP製剤も含めて,OCは最も確実な避妊法の1つであるだけでなく,さまざまな副効用(利点)により女性のQOL向上に大きな役割を果たすことができる.この点をOC処方時に女性に伝えることがOC普及につながる.

 2011年に緊急避妊薬(ECP)としてノルレボ®錠が処方可能になったが,価格的なことなどでプラノバール®によるYazpe法もまだまだ多く処方されている.ECP処方にあたって一番大事なポイントは,今後の確実な避妊法としてのOC処方につなげることである.

月経周期移動法

著者: 蓮尾豊

ページ範囲:P.102 - P.104

背景・目的

 女性は平均して12~50歳まで約38年間もの期間,月経を経験する.月経があるというだけで生活に支障をきたすこともあるが,月経痛や過多月経などの月経トラブルがあれば,その負担はさらに深刻となる.月経は仕方がないものと考えるのではなく,それぞれの女性の生活に合わせて月経周期をコントロールすることは,むしろ有益であることを伝える必要がある.中・高校生への性教育の機会に,経口避妊薬(OC)は確実な避妊法というだけでなく,月経周期移動に対する役割もあることを紹介している.特に男子生徒に対して,女性が担っている月経の役割や辛さを理解してくれるよう話している.

III 更年期・老年期

III章扉

ページ範囲:P.105 - P.105

更年期障害

著者: 寺内公一

ページ範囲:P.107 - P.109

疾患の概要

 閉経の前後合わせて10年間を「更年期」といい,この期間に器質的変化に起因しない多彩な症状が現れ日常生活に支障をきたす病態を「更年期障害」と呼ぶ.更年期症状は,ほてり・発汗などの血管運動神経症状,めまい・動悸・胸部絞扼感・頭痛・肩こり・腰背部痛・関節痛・冷え・しびれなどの身体症状,不眠・不安・うつなどの精神症状から構成される.エストロゲン低下をはじめとする身体的因子に加えて,性格を基盤とする心理的因子,家庭や職場における対人関係などの社会的因子が総合的に関与して発症に至る.

 明確な診断基準はないが,各種の症状質問票を診療の基礎とすることが多い.閉経の前後合わせて約4年間はE2やFSHの変動が大きいので,これらホルモンの血中濃度測定は必ずしも診断に有用ではない.

更年期のうつ

著者: 寺内公一

ページ範囲:P.110 - P.112

疾患の概要

 更年期女性の診療において,うつは頻度が高く,かつその対処に苦慮することの多い症状の1つである.うつには不安・不眠も高率に随伴する.

 うつ症状の有症率,大うつ病性エピソードの有病率が更年期に増加することは多くの研究によって明らかにされているが,一方でE2を含む各種ホルモンの基礎値あるいは変動がうつにどのように寄与するかについては一定の知見がなく,「更年期のホルモン変動に伴ううつ」という特異的な病態の存在に対して懐疑的な識者も少なくない.

 いずれにせよ,更年期のスクリーニングとして行われる各種の自記式質問票によって強いうつ症状があることが明らかになった場合,更年期障害の特殊型として対処することになる.

骨粗鬆症

著者: 篠原康一

ページ範囲:P.113 - P.118

疾患の概念 『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版』より

 わが国でも1996年に骨粗鬆症の診断基準が作成された.脆弱性骨折のある例では骨折リスクが高いという事実を取り入れ,脆弱性骨折のある例では骨密度が若年成人平均値(young adult mean : YAM)の80%未満,脆弱性骨折のない例ではYAMの70%未満を骨粗鬆症とする診断基準を設定した.

 その後,骨密度以外の多様な骨折危険因子の存在が明らかになってきた.また,骨吸収抑制薬による骨折抑制効果が,骨密度上昇には大きく依存しないことも明らかになった.2000年の米国国立衛生研究所(NIH)におけるコンセンサス会議では,骨粗鬆症の定義を「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」とすることが提案された.さらに,「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとした.残りの30%の説明要因を「骨質」という用語に集約し,その内容には,微細構造,骨代謝回転,微細骨折の集積,骨組織の石灰化の程度などを挙げている.

脂質代謝異常

著者: 篠原康一

ページ範囲:P.119 - P.122

疾患の概念

 従来は,総コレステロール値220 mg/dL以上が「異常」とされてきた.しかし心臓病などのリスクが高いのはLDLコレステロール値の高い人で,逆にHDLコレステロール値は低いと良くないことが明らかとなり,総コレステロール値だけではそのリスクを正確に把握することができないため,「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」では,診断・管理は総コレステロール値ではなく,LDLコレステロール値,HDLコレステロール値,そして中性脂肪(トリグリセライド/TG)値を用いて行うべきだと変更された.また,以前から使用されていた「高脂血症」という名前は,低HDLコレステロール血症の場合に適切でないことから,「脂質異常症」に改められた.

過活動膀胱/尿失禁

著者: 中田真木

ページ範囲:P.123 - P.125

疾患の概要

 蓄尿障害(尿を膀胱内にためておく機能の故障)には,尿もれと尿意のトラブルがある.前者で最も数が多いのは腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence : SUI)で,これは,尿道の内圧の不足や緩みやすさにより,腹部に力が入る瞬間に尿がもれる現象である.後者は,尿意の増強や唐突に湧き上がる尿意による問題で,過活動膀胱(overactive bladder : OAB)と呼ばれる.OABの診療では,尿もれの有無を診断の要件とせず,増強した尿意によるQOL低下に対して介入が行われる.

高血圧

著者: 河野宏明

ページ範囲:P.127 - P.129

疾患の概要

 高血圧は虚血性心疾患や脳血管障害をはじめとする動脈硬化性疾患の第一の危険因子であり,日本においては急性心筋梗塞に対する最大の危険因子である.高血圧は男性に比較的多い傾向があるが,女性も閉経前後で急激に増加してくるという特徴がある.

 診断基準としては血圧140/90 mmHg以上を高血圧と定義している.

糖尿病

著者: 河野宏明

ページ範囲:P.130 - P.133

疾患の概要

 2006年に発表された国民健康・栄養調査では1870万人が耐糖能障害あるいは糖尿病と診断されており,5.6人に1人が耐糖能障害か糖尿病である.また,その頻度は年齢に従い増加することも併せて報告されている.

 糖尿病が急性心筋梗塞の危険因子であることは広く知られており,過去に心筋梗塞の既往がある患者の再梗塞発症リスクと糖尿病患者の心筋梗塞発症リスクは,ほぼ同等であることが報告されている.糖尿病に罹患すれば糖尿病性神経障害,網膜症,腎症などの糖尿病3大合併症が発症するが,糖尿病前段階である耐糖能障害の時期から動脈硬化は進展していることから,冠動脈疾患などの大血管合併症は早期から発症することとなる.

腰痛/肩こり

著者: 岡野浩哉

ページ範囲:P.134 - P.136

疾患の概要

 腰痛と肩こりは,ともに一疾患単位ではなく「症状」であり,日本人によくみられる身体症状である.2010年に実施された国民生活基礎調査によると,女性では肩こりが第1位,腰痛が第2位に訴えの多い自覚症状であった.両者とも症状であるため,治療にあたっては,まず症候別にその原因を分析する必要がある.重篤な疾患が背景にあることを念頭に鑑別診断を行い,治療・処方につなげることが大原則であり,診断のついていない段階での処方には,慎重な配慮が必要であることを十分に認識して行うべきである.

萎縮性腟炎/性交痛

著者: 岡野浩哉

ページ範囲:P.137 - P.138

疾患の概要

 萎縮性腟炎は診断名であるが,性交痛は疾患単位ではなく症状である.性交痛は原因により治療法が異なるため,本稿では萎縮性腟炎の一症状としての性交痛に限定して取り扱う.エストロゲンは泌尿生殖器粘膜の機能に重要な役割を有しており,その低下により腟や外陰部の萎縮が起こり,腟の乾燥感,腟壁の脆弱性,性交痛,外陰部の痒み,易刺激性などの症状が現れる.また,腟内の乳酸桿菌が減少し細菌叢が変化するため,腟炎や尿路感染症が起こりやすくなる.閉経後女性に日常的によく認められる症状であるが,治療を受けているのは25%以下といわれている.

皮膚搔痒症/脱毛

著者: 樋口毅

ページ範囲:P.139 - P.142

疾患の概要

皮膚搔痒症

 皮膚に皮疹などを欠くにもかかわらず,痒みを訴える疾患群が皮膚搔痒症である.同部位には掻破による紫斑や掻破痕を認めることが多い.男女比では男性に多く,それぞれ,50~60歳代,40~50歳代が好発年齢である.汎発性搔痒症と限局性搔痒症に分けられる.前者は身体の主要部分(頭頸部,体幹,四肢)の複数部位に症状がまたがるもので,後者では外陰部,肛門周囲に生じることが多い.

脱毛症

 脱毛症とは脱毛が生理的な程度を超え,毛髪の間から頭皮が透けて見える状態である.中高年女性に多い脱毛症は,毛髪サイクルの変化で休止期毛が過剰に増えるために頭部に均等に起きる休止期脱毛症と,男性ホルモンにより毛包の成長期が短縮かつミニチュア化した結果,前頭と頭頂で頭髪が軟毛化する男性型脱毛症に大別できる.後者に女性がなった場合,男性症例と異なり,前頭の脱毛部の境界が不明瞭なことが多く,女性型脱毛症とも呼ばれる.

冷え症

著者: 樋口毅

ページ範囲:P.144 - P.145

疾患の概要

 外気温が下がれば冷えを感じる.これは生理現象であり,厚着をする,暖をとるなどで解決可能である.このようなことをしても冷えを感じ,日常生活に不都合を生じる状態,これが病的な冷え,「冷え症,または冷え性」といわれるものである.“通常の人が苦痛を感じない温度下において,腰背部,四肢末端,両下肢,偏身,あるいは全身的に異常な冷感を自覚し,この異常を年余にわたって持ち続けるもの”と定義される.西洋医学では疾患単位として扱われず,個人の感覚とされるのが一般的である.本症が,白人には少なく,アジア民族に多いというのも関連しているのかもしれない.

 原因は,西洋医学的には手足の末端の毛細血管の血行障害,自律神経の調節障害と考えられる.冷え症と遺伝との関係もはっきりとしたものはないが,女性が冷え症の場合,その母親も約半数は冷え症であるという報告もあり,遺伝的要素は多少なりともあるかもしれない.女性全体の頻度としては30~50%で,男性の約3倍といわれている.

不眠

著者: 岩元一朗

ページ範囲:P.146 - P.149

疾患の概要

 睡眠障害国際分類(第2版)によれば,入眠困難,早朝覚醒などの夜間睡眠困難があり,適切なタイミングと環境下で起こり,さらに夜間の睡眠困難により疲労感や注意・集中力低下などが日中に起きている場合が不眠症と診断される.日本成人の30%以上が不眠症状を有しており,高齢者や無職の人の有病率が高いとされる.不眠は慢性に経過することが多く,その後の高血圧や糖尿病発症,うつ病との関連が明らかにされている.不眠症状には,入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒,熟眠困難などがある.

片頭痛

著者: 岩元一朗

ページ範囲:P.151 - P.154

疾患の概要

 国際頭痛分類(第2版)では,片頭痛はいくつかの病型に分類されているが,概して前兆のない片頭痛と前兆のある片頭痛に2分される.片頭痛は片側性,拍動性の頭痛で,中等度から重度の強さで,4~72時間持続する.わが国の有病率は約8.4%で,女性が男性より3~4倍多いことが知られている.随伴症状として悪心や嘔吐,音や光過敏を伴うことが多く,日常的な動作により頭痛が増悪する,あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける.前兆は5分以上かけて徐々に進展し,かつ持続時間は60分未満で可逆性脳局在神経症状である.典型的前兆として,視覚症状,感覚症状,言語症状がある.前兆出現中または前兆後60分以内に片頭痛が生じる.片頭痛の発生メカニズムはいまだに明らかにされていないが,セロトニンとの関連性が示唆されている.

甲状腺機能異常

著者: 小川真里子 ,   髙松潔

ページ範囲:P.155 - P.158

疾患の概要

 甲状腺機能異常は女性に多く,月経不順をきたしたり,甲状腺機能亢進症であれば頻脈やほてり,機能低下症であれば意欲の低下,冷え,倦怠感といった更年期障害に類似した症状を呈するため,婦人科疾患を疑って患者が外来受診することがしばしばみられる.当科の更年期外来を受診した317例の女性のうち,TSH,FT3,FT4のいずれかが基準値範囲外であったのは56例(17.7%)であり,そのうち6例(1.9%)に治療の必要な甲状腺疾患を認めた.

 甲状腺疾患の診断に関するガイドラインとして,日本甲状腺学会による「甲状腺疾患診断ガイドライン2013」がホームページ上で閲覧可能となっている(http://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html).Basedow病,甲状腺機能低下症,無痛性甲状腺炎,慢性甲状腺炎(橋本病),亜急性甲状腺炎(急性期)のそれぞれについて,診断基準が示されている.

 ここでは,主として婦人科外来においても遭遇しやすい,Basedow病および橋本病の治療について述べる.

悪性腫瘍術後のホルモン補充療法

著者: 小川真里子 ,   髙松潔

ページ範囲:P.159 - P.161

疾患の概要

 婦人科腫瘍手術での両側卵巣摘出や乳癌治療に際しての抗エストロゲン薬の使用,また各種悪性腫瘍に対する化学療法など,悪性腫瘍の治療により卵巣機能の廃絶がしばしば起こる.近年では,悪性腫瘍治療によるsurgical menopauseが将来的に虚血性心疾患や骨粗鬆症による骨折のリスクを上昇させ,生命予後にも影響することが議論されるようになっている.悪性腫瘍に対する治療成績の向上により,以前はあまり目を向けられなかった悪性腫瘍術後患者のQOLに対する関心が高まるなか,治療ツールの1つとしてホルモン補充療法(HRT)も重要な役割を担うものであると考えられる.

 2012年に刊行された「ホルモン補充療法ガイドライン 2012年度版」では,改訂に伴い「CQ6 : 悪性腫瘍治療後のHRTと再発リスクは?」の項目が設けられ,婦人科悪性腫瘍および乳癌の治療後のHRTについて解説されている.本稿ではガイドラインの記載に準じ,悪性腫瘍術後のHRT(estrogen therapy : ET,estrogen-progestogen therapy : EPT)の処方の実際について述べる.

IV 腫瘍

IV章扉

ページ範囲:P.163 - P.163

子宮頸がんの術前化学療法

著者: 喜多川亮

ページ範囲:P.164 - P.166

適応と治療方針

 初発時の臨床進行期でいえばIB2~IIB期,もしくはCTやMRI検査の結果でbulky症例,傍子宮結合織浸潤あり,骨盤内リンパ節転移陽性,などの再発高リスク因子を明らかに保有する対象が適応となりうる.(初回手術+)放射線療法とのランダム化比較試験のうちBOMP療法(ブレオマイシン+ビンクリスチン+マイトマイシンC+シスプラチン)を用いたJCOG0102試験は無効中止に終わったが有用性を示した試験もあり,術前化学療法のレジメン選択は重要な要素の1つと思われる.TIP療法(パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン)をIP療法(イリノテカン+シスプラチン)とランダム化比較したBudaらの報告では,奏効割合は高くなったものの毒性も強く,全生存期間(OS)に有意差はみられなかった.よって,2剤併用療法を安全に行い,主治療である手術に結びつけることが肝要である.現在の標準治療である(手術+)化学放射線療法とのランダム化比較試験がないため有用性は定かではないが,奏効すれば術後の放射線治療を省略できる可能性があり,リンパ浮腫をはじめとする晩期毒性を軽減し治療後長期のQOL向上が期待できる.よって,臨床試験としての積極的な治療開発が望ましい.

 そのほかに術前化学療法の利点として,早期の遠隔微小転移制御による治癒率向上,腫瘍縮小による手術の根治性・安全性向上も期待できる.

子宮頸がんの術後アジュバント

著者: 喜多川亮

ページ範囲:P.168 - P.170

適応と治療方針

 手術療法にて完全切除が行えた臨床進行期IB~IIB期のうち再発リスクを有するものが対象といえる.傍子宮結合織浸潤あり,骨盤内リンパ節転移陽性といった術後再発高リスク因子群は局所にとどまらず遠隔再発の可能性も高く,現時点では化学放射線療法により全身制御も行う有用性が示され,術後治療の標準となっている.しかし,化学放射線療法での全身制御は十分とはいえず,術後化学療法をしっかり行い全身の微小転移を制御することが予後改善に繋がる可能性がある.さらには,初回治療体系から術後の放射線治療を省略できる可能性があり,排尿障害・リンパ浮腫・イレウスなどの長期にわたる毒性軽減による治療後のQOL向上も期待できる.このメリットはbulky症例,深い頸部間質浸潤,もしくは脈管侵襲陽性といった術後再発中リスク因子群でも同様である.万一,骨盤内制御に劣り再発したとしても,その時点で化学放射線療法を行えばレスキューしうる.

 TakeshimaらはBOMP(ブレオマイシン+ビンクリスチン+マイトマイシンC+シスプラチン)療法と古いレジメンではあるが,中リスク群で93.3%,高リスク群で85.7%の良好な5年無再発生存割合を報告した.術後放射線療法と比較し生存割合が同等であったとする報告があるが,Lahousenらのランダム化比較試験は症例数が少なく,Iwasakaらの報告は後方視的である.よってエビデンスとしては十分ではない.さらに,現在の標準治療である(手術+)化学放射線療法とのランダム化比較試験もないが,化学療法レジメンの有効性も高くなっており,積極的に臨床試験を行い検証することが望まれる.

子宮頸がんの進行・再発例への化学療法

著者: 喜多川亮

ページ範囲:P.171 - P.173

適応と治療方針

 新FIGO進行期分類のIVB期および再発症例が対象となる.ただし,本邦の実地臨床においては治療前評価としてCT検査が行われることが通例であり,そこで判明した切除不能な多発肺転移などの遠隔転移を有する症例も適応となる.また,病巣が未照射領域に限局していたり,根治切除可能と思われる場合には化学放射線療法(CCRT)や手術療法が優先される.

 よって,根治不可能な対象が適応となり,治療目標は症状緩和とそれに伴うQOL向上,さらには延命である.厳密には全身化学療法と緩和治療(best supportive care : BSC)を比較した試験が存在しないため,化学療法が標準治療とは断言できない.しかし,ここ10年ほどの臨床試験において徐々に全生存期間(OS)の延長がみられており,全身状態(PS)良好,高齢でない,重篤な合併症を有さない,などの条件を満たせば十分な治療適応として提示できる.

 一方,子宮頸部局所からの多量出血,骨転移による痛み,脳転移など制御困難な局所症状が存在する場合には,緩和的放射線治療を行ったあとに残存病巣を再評価して全身化学療法開始の是非を検討,という方針が望ましい.

子宮筋腫

著者: 高橋一彰 ,   岡本愛光

ページ範囲:P.174 - P.176

疾患の概要

 子宮筋腫は,婦人科腫瘍疾患のなかで最も頻度の高い良性腫瘍で30歳以上の女性の20~30%に認められる.子宮筋腫の約半数は無症状で経過するが,筋腫の発生部位により,臨床症状が異なる.代表的な症状としては,過多月経と月経困難症,下腹部腫瘤感や不妊などが挙げられる.近年の女性のライフスタイルの変化,晩婚化により子宮温存を望む女性も増え,腹腔鏡下手術が普及し,子宮筋腫に対する治療は多種多様となっている.

子宮肉腫

著者: 高橋一彰 ,   岡本愛光

ページ範囲:P.177 - P.180

疾患の概要

 子宮肉腫は子宮体部悪性腫瘍の2~8%を占め,稀な腫瘍である.子宮肉腫は,癌肉腫(47%),平滑筋肉腫(38%),子宮内膜間質肉腫(11%)の3つに大別される.子宮内膜間質肉腫はさらに低悪性度(endometrial stromal sarcoma : ESS)と高悪性度(undifferentiated endometrial sarcoma : UES)に分けられる.平滑筋肉腫とESSは閉経前の発症が多く,癌肉腫とUESは閉経後に多い.生存期間中央値は,癌肉腫(28か月)と平滑筋肉腫(31か月)は不良であり,子宮内膜間質肉腫(76.1か月)は比較的良好である.その頻度が低いため,標準治療が確立していない.

子宮内膜増殖症・子宮体がんの黄体ホルモン療法

著者: 飯田美穂 ,   阪埜浩司

ページ範囲:P.181 - P.182

適応と治療方針

 子宮体がんおよび複雑型子宮内膜増殖症に対する標準治療は子宮全摘出であるという認識を前提としたうえで,当科における黄体ホルモン療法(妊孕性温存療法)の適応や治療方針について解説する.

 子宮体がんおよび子宮内膜増殖症における黄体ホルモン療法の適応条件は,(1)子宮内膜全面掻爬で高分化型(G1)の類内膜腺癌または複雑型子宮内膜異型増殖症(atypical endometrial hyperplasia, complex : AEHC)と組織学的に診断されること,(2)腫瘍が子宮内膜に限局しており,画像診断上,筋層浸潤や子宮外進展がないこと,(3)肝機能障害や血栓症の既往または治療中でないこと,(4)患者・家族が治療内容および合併症を理解したうえで,なおかつ強い妊孕性温存の希望があること,(5)42歳以下であること,が挙げられる.当科における病変消失率は,AEHCで96%,類内膜腺癌G1で89%であるが,治療後5年の時点でそれぞれ約60%,80%が再発し,また治療中に進行・転移することもある.治療中および治療後は,数か月に一度の子宮内膜全面掻爬で病変の消失を確認する.再発例に対しては,原則として子宮全摘出術を検討する.

 なお,当科における174例(治療開始年齢中央値35歳)の治療後の妊娠率は,AEHCで37%,類内膜腺癌G1で34%である.本治療が適応となる症例には背景に排卵障害が存在することが多く,また最短での妊娠成立を実現するため,排卵誘発や体外受精・胚移植を受けている患者も多い.また,分娩時には癒着胎盤のリスクが軽度上昇するとされており,これらについて患者・家族に十分に説明し,インフォームド・コンセントを得る必要がある.

 本治療は,あくまでもオプションであることを患者および医療者側双方が認識し,個々の症例や患者の意向を考慮したうえで,治療経験が十分にある施設での医師の裁量で行われるべきである.

子宮体がんの術後アジュバント

著者: 中村加奈子 ,   阪埜浩司

ページ範囲:P.183 - P.185

適応と治療方針

 子宮体がんの術後療法は再発リスクの評価に基づき決定される.術後放射線療法についての系統的レビューによると,術後放射線療法は局所再発を減少させるとしたエビデンスがあり,欧米で広く用いられている一方で,本邦では化学療法が術後療法として広く用いられている経緯がある.術後療法として化学療法と放射線療法を比較した臨床試験にはJGOG2033のランダム化比較試験がある.この試験では,術後再発中~高リスク症例に対して,化学療法群と骨盤外照射群の間に全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)の有意な差がなかったが,中リスクのなかでlow-intermediateリスク群・high-intermediateリスク群に分けたサブセット解析ではhigh-intermediateリスク群においてのみ化学療法群のほうが骨盤外照射群よりOSとPFSが有意に良好であることが示された.現在では,欧米でも術後療法としての化学療法の成績が多く報告されるようになっており,さらなるエビデンス構築が期待される.

 本邦の2009年子宮体がんガイドラインでは,「高リスク群では残存腫瘍2 cm未満の症例に対して,術後補助化学療法が奨められる(グレードB)」「中リスク群に対する術後補助化学療法は,予後を改善する可能性がある(グレードC1)」「低リスク群に対する術後補助化学療法は奨められない(グレードD)」とリスク分類によって術後化学療法の推奨度を分けている.本稿では本邦で主に用いられる化学療法のレジメンについて述べる.

子宮体がんの進行・再発例への化学療法

著者: 安達将隆 ,   阪埜浩司

ページ範囲:P.186 - P.187

適応と治療方針

 進行性子宮体がんでは,症例ごとに治療方針を検討する必要がある.進行症例であっても手術可能症例であれば,予後改善をめざした集学的治療の1つとして腫瘍量を可及的に減量させる目的や出血制御などの症状緩和のための姑息的治療として,子宮摘出ならびに腫瘍減量術を行い,追加治療として化学療法や放射線療法を行うことがある.再発がんの場合は,肺や腟の孤発転移であれば手術療法や放射線療法も検討されるが,腹膜播種や遠隔転移を伴うことが多く,化学療法が選択されることもある.また局所再発でも,年齢や全身状態によっては手術が不可能な症例が少なくない.したがって,子宮体がんの進行・再発例では化学療法が治療の中心になると考えられる.子宮体がんに対するkey drugはドキソルビシン(アドリアマイシン)であり,シスプラチンとの併用であるAP療法に加え,近年ではタキサン系薬剤との併用を推奨する報告が散見される.

卵巣がんの術前化学療法

著者: 庄子忠宏 ,   三浦雄吉 ,   杉山徹

ページ範囲:P.188 - P.190

適応と治療方針

 初回手術が試験開腹術に終わる可能性が高いと判断された症例,合併症や高齢,腹水・胸水貯留などによりperformance statusが不良で初回手術が安全もしくは十分に行えない症例に対して,術前化学療法(neoadjuvant chemotharepy : NAC)が試みられている.本邦で行われたJCOG0602「III期/IV期卵巣癌,卵管癌,腹膜癌に対する手術先行治療vs化学療法先行治療のランダム化比較試験」では,臨床的に卵巣,卵管,腹膜いずれかの原発の悪性腫瘍と診断され,細胞診所見で上皮性卵巣がんに相当する組織型が推定されること,CA125>200 U/mLかつCEA<20 ng/mLであることがNACを行う規準としている.

 NACは,(1)早期に全身的化学療法を開始できる,(2)腫瘍の縮小,腹水・胸水の減量により,interval debulking surgery(IDS)では他臓器合併切除の頻度を減少させ,周術期合併症の減少が期待できる,(3)IDSを1回ですませることができる,などの利点がある.しかし問題点としては,(1)primary debulking surgery(PDS)を省略しNACを行うため,対象疾患や進行期の診断が不正確となる危険がある,(2)NACが奏効しない場合は,手術の機会を逸する危険がある,(3)手術に際して,術式を縮小しすぎて根治性を損なう危険がある,などが挙げられる.実際のNACは,診断を確認し,NACを行ったのちにIDSを施行し,さらに化学療法を追加するのが一般的な治療法である.NCCNのガイドラインでは明らかな切除不能症例に限り細胞診の結果だけでNACを行うことが認められているが,いまだ実験的治療の側面があり,患者への十分な説明と同意が必要である.

 現時点では,初回optimal surgeryが不可能と予想されるIIIc/IV期症例に対してはNAC後のIDSは妥当な治療戦略であると考えられる.

卵巣がんの術後アジュバント―漿液性腺癌/類内膜腺癌

著者: 髙田杏奈 ,   庄子忠宏 ,   杉山徹

ページ範囲:P.191 - P.193

適応と治療方針

 卵巣がんの治療は一般的に,手術療法により診断を確定し,それに基づいて術後アジュバントとしての化学療法が行われる.60%前後を占める進行がんにおいて,その予後は初回腫瘍減量術による残存腫瘍の大きさと相関する.また,化学療法の効果は組織型にも関係し,特に漿液性腺癌と類内膜腺癌では奏効するものが多い.

 卵巣がんの術後アジュバントとして標準的な化学療法はタキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法である.なかでもパクリタキセルとカルボプラチンによるTC療法はGOG111,OV-10,GOG158,AGOなど多くの臨床試験で有効性が示されている.特に漿液性腺癌および類内膜腺癌においては奏効率が70~80%と報告される.さらに,JGOG3016により3週ごとに投与する標準療法のTC療法とパクリタキセルを1週間ごとに投与するdose-dense TC(dd-TC)療法の比較試験が施行され,dd-TC療法において従来のTC療法を凌ぐ予後改善効果が示された.パクリタキセルのweekly投与は欧米ではすでに標準的な治療として用いられ,本邦でも2011年に厚生労働省で認可され,パクリタキセルの週1回投与が保険適応とされた.

卵巣がんの術後アジュバント―明細胞腺癌/粘液性腺癌

著者: 髙取恵里子 ,   庄子忠宏 ,   杉山徹

ページ範囲:P.194 - P.196

適応と治療方針

 GOG111,OV-10,GOG158,AGOなどの臨床試験により,卵巣がんの術後化学療法はTC療法(パクリタキセル175 mg/m2,カルボプラチンAUC 6)が標準的レジメンとして推奨されている.しかし近年,明細胞腺癌や粘液性腺癌の化学療法低感受性が報告され,組織型別による治療戦略の必要性が提唱されている.Sugiyamaらは,前述の試験に登録された症例の大部分(66~72%)は漿液性腺癌であり,明細胞腺癌および粘液性腺癌はそれぞれ2.1~4.9%,2.4%~4.4%にすぎないと報告した.すなわち,TC療法は未分化がんや類内膜腺癌を含む低分化~高分化型漿液性腺癌に対する標準的治療法ではあるものの,明細胞腺癌や粘液性腺癌に対しても同様の治療をすべきであるという科学的根拠はない.2010年バンクーバーで開催された4th Ovarian Cancer Consensus Conferenceでは,卵巣がんはそれぞれ組織型で異なるgenetic/molecular profileを有することより,明細胞腺癌,粘液性腺癌と漿液性腺癌(low grade)は別個な臨床研究が必要であるという国際コンセンサスが形成された.卵巣がんに対する化学療法は組織型別にレジメンを変えるべき,あるいは変えて臨床試験を進めるべきである.現在のところ卵巣がんに対する化学療法はTC療法が標準治療とされているが,本稿では明細胞腺癌と粘液性腺癌の化学療法について,これまで行われた臨床試験のレジメンについて概説する.

卵巣がんの再発例への化学療法―プラチナ感受性

著者: 西野幸治 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.198 - P.200

適応と治療方針

 卵巣がんは,固形がんのなかでは比較的抗がん剤感受性が高いがん腫であり,術後あるいは術前に行われるタキサン・プラチナを中心とした初回化学療法がいったんはよく奏効する.しかし,発見時にすでにIII,IV期の進行がんであることが多く,その半数~70%以上は再発するため,進行卵巣がんの予後は依然として厳しいといわざるをえない.

 再発後の治療については,初回化学療法の奏効期間(再発までの期間)が長く,かつ孤立性再発の場合などでは再発病巣の切除が選択される場合もあるが,そのような状況はごく限られており,治療の主体は化学療法に委ねられることになる.

 卵巣がんでは,最終化学療法から再発までの期間(platinum free interval : PFI)によりその後の抗がん剤感受性が異なることが報告されており,PFIに応じて治療方法を変えることが一般的である.PFIが6か月以上のものを「プラチナ感受性再発(platinum sensitive recurrence : PSR)」と呼び,一般に初回治療と同様のタキサン・プラチナ併用療法が奏効することが多い.また,近年プラチナのパートナーとしてタキサンに代わる薬剤も報告されており,タキサンの蓄積毒性がある場合などには有効な選択肢となっている.

 ただし,再発卵巣がんに対する化学療法の奏効期間は初回治療の奏効期間を超えることはなく,基本的には治療の目標が「Cure」ではなく「Care」や「延命」であることを忘れてはならない.

卵巣がんの再発例への化学療法―プラチナ抵抗性

著者: 西野幸治 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.201 - P.203

適応と治療方針

 再発卵巣がんに対する治療方針の決定については,platinum free interval(PFI)を考慮して化学療法レジメンの選択を行うことが一般的である.PFIが6か月未満のものを「プラチナ抵抗性再発(platinum resistant recurrence : PRR)」と呼び,プラチナ感受性再発(PSR)とは異なり初回治療と同様のタキサン・プラチナ療法の効果は期待できず,初回治療と交叉耐性のない単剤治療が原則となる.

 前項でも述べた通り,再発卵巣がんの治療目標は「Cure」ではなく「Care」や「延命」であるが,PSRに比べPRR症例における治療の奏効率は低く,その予後はさらに厳しい.よってこの群に対する治療においては,「延命」を図るなかでより「Care」や「QOLの維持」といった側面の重要性が増してくることを念頭に置いて,かつ治療の限界についても患者と共有しながら管理を行っていく必要がある.

悪性胚細胞腫瘍

著者: 北出尚子 ,   加藤聖子

ページ範囲:P.204 - P.206

疾患の概要

 悪性卵巣胚細胞腫瘍は卵巣がん全体の3~5%程度と発生頻度は低い.その臨床学的特徴は,(1)若年者に好発,(2)ほとんどが片側性(ディスジャーミノーマでは10%が両側性),(3)化学療法が著効する,である.その病理学的組織型は多彩で,日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会の患者年報(2003~2007年)によると,悪性転化を伴う成熟囊胞性奇形腫が36%と最多で,卵黄囊腫瘍26%,ディスジャーミノーマ18%,未熟奇形腫grade 3が9%.混合性胚細胞腫瘍7%,そしてそのほかの組織型となる.

性索間質性腫瘍

著者: 北出尚子 ,   加藤聖子

ページ範囲:P.207 - P.209

疾患の概要

 性索間質性腫瘍は性索に由来する顆粒膜細胞とセルトリ細胞,間質から分化した莢膜細胞とライディッヒ細胞などが腫瘍化したもので,その組織像は多彩である.これらの細胞はホルモンを産生することから,内分泌活性腫瘍として特徴的な臨床像を示すことが多い.その発生頻度は全卵巣悪性腫瘍の5%以下であり,日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会の患者年報(2000~2006年)によると,顆粒膜細胞腫が2.2%,セルトリ・間質細胞腫瘍(中分化型+低分化型)が0.4%,線維肉腫が0.07%であった.稀な腫瘍のためエビデンスに乏しく,手術および化学療法に関しての標準的治療法は未確立である.

絨毛性疾患

著者: 谷﨑優子 ,   南佐和子 ,   井箟一彦

ページ範囲:P.210 - P.212

疾患の概要

 絨毛性疾患は,胞状奇胎,侵入奇胎,絨毛癌,胎盤部トロホブラスト腫瘍(placental site trophoblastic tumor : PSTT),類上皮性トロホブラスト腫瘍(epithelioid trophoblastic tumor : ETT),存続絨毛症の6つに分類される.胞状奇胎は異常妊娠の1つで子宮内容除去術が行われるが,ほかは腫瘍として扱われている.

 侵入奇胎と絨毛癌は抗がん剤が著効するため,治療の中心は化学療法である.一方PSTTとETTは抗がん剤の感受性は低く,手術療法が中心となる.したがって本稿では,侵入奇胎・絨毛癌・存続絨毛症の化学療法における薬剤処方の実際を解説する.

抗がん剤副作用対策―急性過敏性反応

著者: 高瀬直人 ,   松本光史

ページ範囲:P.213 - P.215

疾患の概要

 急性過敏性反応はカルボプラチンやシスプラチンなどのプラチナ製剤,パクリタキセルやドセタキセルなどのタキサン製剤のほか,ゲムシタビンやリポソーム化ドキソルビシンなどで起こることが知られている一種のアレルギー反応である.軽症な場合には皮疹や搔痒感,咽頭不快感などで休薬のみで軽快する場合もあるが,重症な場合には呼吸困難や血圧低下,意識障害などアナフィラキシーショックを起こすことがあり,薬剤によっては命にかかわることがある.早急かつ適切な対処が望まれる疾患である.

抗がん剤副作用対策―骨髄抑制

著者: 高瀬直人 ,   松本光史

ページ範囲:P.216 - P.218

疾患の概要

 骨髄抑制は婦人科がんに限らず,多くのがんにおいて化学療法を行う際に問題となる疾患である.カルボプラチン+パクリタキセルなどのプラチナダブレットをはじめ,イリノテカンやトポテカン,ゲムシタビン,リポソーム化ドキソルビシンなど,卵巣がんや子宮体がん,子宮頸がんなどの婦人科がんで使われる薬剤では必発である.多くの薬剤では投与後10~14日目が好発時期であり,その時期のことをNadir(ナディア)と呼ぶ.次コース開始までには回復することも多いが,抗がん剤の投与回数が多くなればなるほど骨髄は疲弊していき,回復が遅くなることも知られている.

抗がん剤副作用対策―悪心・嘔吐

著者: 高瀬直人 ,   松本光史

ページ範囲:P.219 - P.221

疾患の概要

 抗がん剤における悪心・嘔吐は最もメジャーな副作用の1つである.婦人科領域では高リスクに分類されるシスプラチンをはじめ,中リスクのカルボプラチン,ドキソルビシン,イリノテカンなども悪心・嘔吐のリスクが高い薬剤である.抗がん剤治療が外来でできるようになり,多くの患者が外来で治療を受けるなかで,緊急入院の原因となる頻度が高いものの1つに悪心・嘔吐が挙げられる.抗がん剤治療を続けていくなかで患者の生活の質(quality of life : QOL)を落とさないためにも,悪心・嘔吐をうまくコントロールすることは非常に重要である.

抗がん剤副作用対策―末梢神経障害

著者: 山本阿紀子 ,   宇津木久仁子 ,   竹島信宏

ページ範囲:P.222 - P.224

疾患の概要

 パクリタキセル(タキソール®)は婦人科領域の悪性腫瘍において頻用される抗がん剤の1つである.治療に伴う副作用として,骨髄抑制やアナフィラキシー,嘔吐といった時に生命を脅かすような有害事象に対しては,積極的な治療が行われる.一方,末梢神経障害に伴う手足のしびれや疼痛に関しては,患者の訴えによるところが大きく客観的な評価が難しいため,発見が遅れることも少なくない.しかし,末梢神経障害は患者のQOLを低下させるのみでなく,化学療法の投与用量や期間を規定する因子となりうる重要な有害事象であり,早期発見,早期治療に努めることが肝要である.

がん疼痛対策

著者: 宮崎雅之 ,   安藤雄一

ページ範囲:P.226 - P.230

疾患の概要

 がん疼痛は,原因および神経学的機序によって分類される.痛みの原因からは,(1)がんによる疼痛,(2)がん治療に起因する疼痛,(3)がん・がん治療と直接関連のない疼痛に分類される.一方,痛みの神経学的機序の観点からは,侵害受容体性疼痛である体性痛と内臓痛,そして神経障害性疼痛に分類される.

がんによる疼痛

 日本緩和医療薬学会が発行している「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」では,「がんによる疼痛」を「がん疼痛」と定義している.

《体性痛》

 皮膚や骨,関節,筋肉,結合組織への機械的刺激が原因で発生する.ほとんどのがん患者が急性あるいは慢性に経験する痛みであり,叩打,体動により増強する場合がある.骨転移は疼痛,病的骨折,脊髄圧迫症状,高カルシウム血症などの骨関連事象の原因となり,患者のQOLを著しく損なう場合がある.骨転移痛は,体性痛の一部であるが,腫瘍による骨浸潤の程度によって,侵害受容体性疼痛,神経障害性疼痛および両者が混在する.

《内臓痛》

 食道,胃,小腸,大腸などの消化管の炎症や閉塞,肝臓や腎臓,膵臓など実質臓器の腫瘍による圧迫,被膜伸展などが原因となる.痛みの性状は,圧痛や漫然とした疼痛であり,部位は不明確な場合が多い.

《神経障害性疼痛》

 末梢,中枢神経の直接的損傷および浸潤に伴って発生する.障害された神経の支配領域に一致して,さまざまな痛みや異常感覚が発現する.しばしば機能障害や自律神経系の異常(発汗異常,皮膚色調の変化など)を伴う.

がん治療に起因する疼痛

 外科治療,化学療法,放射線治療など,がんに対する治療が原因となって生じる.術後痛症候群,化学療法後神経障害性疼痛,放射線照射後疼痛症候群が含まれる.婦人科腫瘍に対する化学療法の有害事象として,パクリタキセルやドセタキセル,シスプラチンによる末梢神経障害に伴う神経障害性疼痛がある.通常は経過とともに疼痛は軽減されるが,残存する場合および継続治療に影響する場合には鎮痛補助薬などで対応する.

がん・がん治療と直接関連のない疼痛

 脊柱管狭窄症など,もともと患者が有していた疾患による痛み,新しく合併した疾患による痛み,あるいは廃用症候群による筋肉痛などのがんにより二次的に生じた痛みが含まれる.これらはそれぞれの疾患に合わせた鎮痛治療を行う.

婦人科がん術後リンパ浮腫

著者: 吉田彩子 ,   鈴木直

ページ範囲:P.231 - P.233

疾患の概要

 リンパ浮腫とは,毛細血管から漏出して生成された組織間液を排除するために機能しているリンパ管系の異常により発生する浮腫であり,がんの治療によるリンパ浮腫は全体の80%以上と圧倒的に多い.婦人科悪性腫瘍に対する手術療法では,骨盤内リンパ節郭清や傍大動脈リンパ節郭清を施行する場合が多いことから,術後下肢からのリンパ液は,下腹部や臀部皮下などにあるリンパ管などバイパスを発達させながら,腋窩リンパ節を経て静脈角へ流れていくことになる.しかし,術後1週間程度はバイパスが不十分であるため,一過性のリンパ浮腫が出現する.通常,術後一過性リンパ浮腫は消失するが,リンパ管の予備力が少ない状態の際に負荷がかかると持続するリンパ浮腫が発症する.また,リンパ節郭清後に放射線治療を併用した場合は,手術単独の場合よりもリンパ浮腫が発症しやすいと報告されている.

婦人科がんへの漢方療法

著者: 髙松潔 ,   仲村勝 ,   小川真里子

ページ範囲:P.235 - P.239

治療方針 薬物療法の概要と狙い

 がん患者の増加と近年の医学の進歩に伴う治療成績の向上により,いわゆるがんサバイバーは増加している.また,患者のQOLの維持・向上を視野に入れた治療の必要性が強調されるようになり,治療時の合併症や治療後に残存する不快な諸症状に対しての対応が不可避となっている.しかし,これらの諸症状に対して,西洋薬による対応には限界があることはよく知られているところであり,いわゆる統合医療として,西洋医学的治療法以外の治療が試みられている.なかでも漢方療法は従来から産婦人科領域で頻用されてきたこともあり,残念ながら直接的な抗がん作用を持つ方剤はないものの,その安全性や西洋薬と併用可能であることも考慮して,さまざまな状況で利用されている.

 本来,漢方療法は「証」に従って方剤が選択される「随証療法」をすべきものとされているが,「証」の考え方が西洋医学とはやや離れた概念であること,また,よく漢方療法は「中国四千年の歴史にもとづく」といわれるが,「癌」という漢字自体が近世の作といわれており,漢方療法が発祥した頃にはその概念がなかったと考えられることから,「症状」から選択する「随症療法」を行ったエビデンスにもとづき施行されている.

 なお,漢方療法のエビデンスについては,日本東洋医学会の「漢方治療エビデンスレポート2010─345のRCT(EKAT2010)」にもまとめられているので,参照いただきたい.

V 婦人科手術

V章扉

ページ範囲:P.241 - P.241

婦人科周術期の予防抗菌薬投与法

著者: 高江洲陽太郎 ,   大石康文 ,   向田利一

ページ範囲:P.242 - P.244

背景・目的

 一般的に予防的抗菌薬の投与の目的は,術部位の感染(surgical site infection : SSI)の予防とされており,遠隔部位の感染は対象としない.抗菌薬を投与することで組織レベルの無菌化を目標とするのではなく,術中汚染による細菌量を宿主防御機構でコントロール可能なレベルにまで下げるための補助的なものである.よって手術の対象臓器ごとに可能性の高い術野汚染菌に対して有効な抗菌薬を選択するのが望ましい.

 むやみやたらな抗菌薬の投与はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やpenicillin-resistant Streptococcus pneumoniae(PRSP)をはじめとする耐性菌などの発生を助長する可能性がある.無利益な抗菌薬の投与を避け,適切な周術期管理を行うことが手術の成果を左右するといっても過言ではない.今後,適切な抗菌薬の投与により婦人科領域におけるさらなる改善が望まれる.

婦人科術後の静脈血栓予防法

著者: 田畑務

ページ範囲:P.245 - P.246

背景・目的

 静脈血栓症は,産婦人科手術後の合併症の1つとして特に注意を払わなければならない.術後血栓症の予防としては,早期離床を心がけ,十分な歩行が可能となるまでは理学療法を行い,血栓症に対する高リスク群では抗凝固療法を併用する.特に,婦人科悪性腫瘍手術はすべて高リスク群であり,術後血栓症の発症頻度が高く,その予防が大切である.予防としては理学療法単独ではなく,必ず抗凝固療法を用いるべきである.また,悪性腫瘍のなかでも卵巣がんは術前から1割前後に血栓症の発症が認められるため,術前のチェックも大切である.

産科編 VI 異常妊娠

VI章扉

ページ範囲:P.247 - P.247

妊娠悪阻

著者: 松原茂樹

ページ範囲:P.248 - P.250

疾患の概要

 妊娠悪阻(hyperemesis gravidarum)はつわり(nausea and vomiting of pregnancy)の重症型である.妊婦のおおよそ80%程度がつわりを経験する.どこまでがつわりで,どこからが妊娠悪阻なのかの明確な基準はないが,海外でも本邦でも,以下を示す場合には妊娠悪阻と診断されることが多い.すなわち,毎日嘔吐し,尿中ケトン体陽性で,持続的に体重が減少する場合,ことに5%以上体重減少する場合.

 通常,妊娠4~9週に発症し,12~15週に最も重症になり,20週までには改善する.20週になっても症状が改善しない場合には,「つわり様症状を示す」他疾患の存在を検索する必要がある.ただし,稀には「つわりが妊娠末期まで続く」例もある.

 hCG高値や消化器疾患の併存,Helicobacter pyloriの存在などが悪阻の要因・誘因・risk factorだと認識されているが,悪阻がなぜ起こるかは解明されていない.

切迫流産

著者: 鈴木一有 ,   伊東宏晃 ,   金山尚裕

ページ範囲:P.251 - P.253

疾患の概要

 流産とは,わが国では妊娠22週未満の妊娠中絶のことである.切迫流産とは,「胎芽あるいは胎児およびその付属物は全く排出されておらず,子宮口も閉鎖している状態で,少量の子宮出血がある場合」と定義されている.一般には妊娠初期に少量の子宮出血がある場合は「切迫流産」と診断される場合が多いと考えられる.その原因はさまざまであるが,妊娠12週未満の早期流産においては,胎児の染色体などの異常が多いとされ,妊娠12週以降の後期流産においては,絨毛膜羊膜炎や頸管無力症などが多いとされている.本稿では,早期流産の時期における切迫流産に対する治療について概説する.

妊娠高血圧症候群/子癇

著者: 関博之

ページ範囲:P.255 - P.258

疾患の概要

 妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension : PIH)は母体死亡や未熟児出生の原因疾患の1つであり,母児双方の予後に重要な影響を及ぼす疾患である.PIHの原因の詳細は不明であるが,two-stage disorder theoryが提唱され,かなり明らかになってきた.すなわち,immunogenic maladaptationによるabnormal placentationとその後のらせん動脈のremodeling障害により,低酸素状態が惹起され,絨毛細胞から抗血管新生因子(sFlt-1,sEng)が産生され,胎児胎盤循環や母体循環での血管内皮障害が発症する.血管内皮細胞障害によって惹起された血管攣縮と血液濃縮は,母体では高血圧,蛋白尿,凝固線溶系の亢進など,胎児では子宮内胎児発育遅延(intrauterine growth restriction : IUGR)や胎児機能不全などの臨床症状を発症させる.

 子癇は「妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし,てんかんや二次性痙攣が否定されるもの.痙攣発作が起こった時期により,妊娠子癇,分娩子癇,産褥子癇とする」と定義される.その病態は,高血圧に伴う脳還流圧上昇が脳細動脈血管の脳循環自動調節能力(平均動脈圧が60~150 mmHgでは脳血流の恒常性が保たれている)を破綻させ,脳血管が強制的に拡張させられ,血液が血管外に漏出して脳浮腫を生じ,高血圧脳症(子癇)が発症すると考えられている.

早産/切迫早産/前期破水

著者: 小谷友美

ページ範囲:P.259 - P.263

疾患の概要

 上行性に子宮内へと感染・炎症が波及することによって,子宮収縮や卵膜の脆弱化が惹起される結果,早産や前期破水に至ると考えられている.早産や破水に至る前段階が切迫早産と考えられるが,臨床的には10分間に1回以上の子宮収縮がある場合や性器出血などの症状がある場合に,さらに,内診所見で子宮頸管開大および展退を認めたときに診断される.しかし,近年は経腟超音波検査が普及し,自覚症状がなくても子宮頸管長の短縮で診断されるケースも多くなってきた.妊婦健診で妊娠18~24週頃に経腟超音波検査で頸管長が4 cm未満と診断された場合には,経過観察も含めた予防策をとることが勧められる.また,円錐切除術や早産の既往歴のある症例や多胎症例も慎重な経過観察が望ましい.最近では広汎子宮頸部摘出術後の妊娠成立症例もあり,より慎重な対応が必要である.そのほか,喫煙や痩せすぎも早産のリスクが高くなるので,生活習慣などにも目を向けて問診するとよい.

胎児不整脈

著者: 堀越嗣博

ページ範囲:P.264 - P.266

疾患の概要

 近年,先天性心疾患の胎児診断率が向上したように,一般的に行われている妊婦健診でも胎児不整脈が数多く診断されるようになってきた.よく目にするものとして心房性もしくは心室性の期外収縮があるが,周産期管理が困難でまた新生児治療にも影響を及ぼすものとしては徐脈性不整脈と頻拍性不整脈が挙げられる.徐脈性不整脈は胎児心室心拍数が100 bpm未満,頻拍性不整脈は200 bpm以上で診断される.

 治療の原則は早期娩出を図ることだが,未熟性のために新生児治療が困難と判断される場合には,胎児も患者であるという“fetus as a patient”の姿勢で経母体的薬物療法が検討される.しかし,経母体投与は健康な母体への薬物投与という倫理面の検討や副作用の管理を厳密にしなくてはならない.

 本稿では徐脈性不整脈と頻拍性不整脈について述べる.

VII 偶発合併症妊娠

VII章扉

ページ範囲:P.267 - P.267

心疾患

著者: 小松篤史

ページ範囲:P.268 - P.271

疾患の概要

 心疾患合併妊娠は全分娩のおよそ0.5~1%程度と考えられているが,先天性心疾患(congenital heart disease : CHD)の予後の改善による成人CHD患者の増加のために,今後,増加していく可能性がある.心疾患のなかには,幼少期から管理された先天性心疾患や健康診断で発見された不整脈,妊娠を契機に偶然発見された心疾患・不整脈などがあり,多種にわたる.いずれの場合においても,速やかにNYHA心機能分類・心電図・心エコー・胸部X線写真などによる診断および心機能の評価を行うことが重要である.妊娠によって循環血液量の増加・体血管抵抗の低下・凝固能亢進などの変化が起こり,それらは妊娠週数の経過とともに変動することがわかっている.したがって,妊娠期間を通じて定期的に血行動態を把握し,産科・循環器科を中心とするチーム医療により詳細に観察していく.

 今回は紙幅の都合上,処方以外に関しては十分に述べられないが,詳細は「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」や「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン」を参照されたい.

鉄欠乏性貧血

著者: 河合有希

ページ範囲:P.272 - P.273

疾患の概要

 妊娠中は循環血漿量が非妊時の30~50%増加するのに対し,赤血球数は15~20%しか増加しないため,元来健康な女性であっても生理的に希釈性のヘモグロビン濃度低下が起こる.この傾向は12週頃より始まり,28週から36週にかけて最も顕著にあらわれる.加えて妊娠中は胎児発育,胎盤形成に伴い鉄需要も増加する.このため多くの妊婦が鉄欠乏性貧血となる.

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 河合有希

ページ範囲:P.274 - P.275

疾患の概要

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura : ITP)は後天性血小板減少症である.自己血小板に対する抗血小板抗体の結合した血小板が脾臓などの網内系で破壊されるという免疫学的な機序で起こる.抗体産生の機序は不明である.慢性型ITPは20~30歳台の女性に多く発症するため,妊娠と合併する頻度が高い.妊娠を契機としたITPの再燃や悪化は起こらないとされる.

血栓傾向/抗リン脂質抗体症候群

著者: 杉浦真弓 ,   尾崎康彦 ,   片野衣江 ,   北折珠央

ページ範囲:P.277 - P.279

疾患の概要

 習慣流産,子宮内胎児死亡,早発型妊娠高血圧症候群や胎盤機能不全による34週未満の早産の既往があり,ループスアンチコアグラント(希釈ラッセル蛇毒時間法とリン脂質中和法),(β2glycoprotein I依存性)抗カルジオリピン抗体が健常人の99パーセンタイルを基準値として12週間以上陽性が持続する場合に,抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid antibody syndrome : APS)と診断する.2回の流産,子宮内胎児発育遅延,羊水過少,血小板減少症,SLEも測定を考慮する.

 APSと診断したら,次回妊娠初期から低用量アスピリンと未分画ヘパリンを予防投与する.

糖尿病/妊娠糖尿病

著者: 金井誠

ページ範囲:P.280 - P.281

疾患の概要

 糖尿病(diabetes mellitus : DM)合併妊娠または妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus : GDM)は,児の周産期予後の悪化や母体の妊娠・分娩合併症の増加をきたすため,糖尿病専門医と連携した厳重な妊娠・分娩管理を要する疾患である.

 GDMとは,妊娠中に初めて発見または発症したDMに至っていない糖代謝異常で,妊娠時に診断された明らかなDMは含まない.妊娠初期と中期に行うスクリーニング検査(随時血糖測定)陽性妊婦には75gOGTTを行い,以下の1点以上を満たした場合にGDMと診断する(DMと臨床診断されるものは除外する).

  ・空腹時血糖値92 mg/dL以上

  ・1時間値180 mg/dL以上

  ・2時間値153 mg/dL以上

甲状腺機能異常

著者: 大柴葉子

ページ範囲:P.283 - P.286

疾患の概要

 甲状腺機能異常は周産期アウトカムに負の影響があると考えられる.若年女性に多い疾患のため,妊娠前,妊娠中に甲状腺腫大や以下の臨床所見を認めた場合には,積極的に甲状腺機能検査を行う.甲状腺機能亢進症では,頻脈,体重減少,手指振戦,発汗増加,神経過敏,息切れ,易疲労感など,低下症では,無気力,眼瞼浮腫,寒がり,体重増加,動作緩慢,記憶力低下,便秘,嗄声といった臨床症状があるので留意する.妊娠初期には胎盤からのホルモンによる甲状腺刺激作用のため,甲状腺機能は一時亢進状態(甲状腺中毒症)となるが,多くの場合は自己抗体陰性であり,Basedow病とは鑑別を要する.

 甲状腺機能亢進症の薬物治療では,チアマゾールによる妊娠初期の催奇形性の問題から,妊娠を考える前に薬物療法以外の代替療法についてあらかじめ患者と話し合っておくことがよい.甲状腺機能低下症では,流産との因果関係が示唆され,不妊・不育症においては診断を確定したら早期に治療を開始する.

 甲状腺機能異常のある患者は産後も甲状腺機能は不安定であり,さまざまな甲状腺の病態を示す.

SLE/リウマチ様関節炎/Sjögren症候群

著者: 山下隆博

ページ範囲:P.287 - P.290

疾患の概要

全身性エリテマトーデス(SLE)

 全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫疾患の1つで,多臓器障害を示す慢性全身性炎症性疾患である.生殖可能年齢女性に好発するため合併妊娠も珍しくない.多くはすでにSLEの診断・治療がなされたうえでの妊娠であり,妊娠前から内服しているステロイドの量の調節を内科医と相談しつつ行うことになる.SLEは妊娠後に増悪することが多いとされ,SLEの病態が安定していない時期の妊娠は避けるよう指導する.SLE合併妊娠は流産,早産,妊娠高血圧症候群,母体血栓症,胎児発育不全,子宮内胎児死亡,新生児ループスなどが増加するハイリスク妊娠であり,ループス腎炎による腎機能障害の妊娠中の評価も重要である.

リウマチ様関節炎

 リウマチ様関節炎は関節の炎症を主体とする慢性炎症性疾患で,やはり生殖可能年齢の女性に多い.SLEと異なり妊娠中は軽快することが多いが,出産後には逆に増悪することが多い.リウマチ様関節炎の妊娠・胎児への直接的影響は否定的である.病態が安定していない時期には妊娠中に使用できない薬剤が必要であり,妊娠は避けるよう指導する.

Sjögren症候群

 Sjögren症候群は涙腺や唾液腺の分泌低下を特徴とする慢性炎症性疾患である.女性に多いが,発症のピークは40~50歳台で,妊娠に合併する頻度はそれほど高くはない.通常,妊娠前に診断されており,妊娠が症状を悪化させることはないとされる.重症例では早産や低出生体重児の頻度が上昇する可能性が指摘されている.また抗SS-A抗体,抗SS-B抗体が胎児房室ブロックや新生児ループスの原因となりうるため,注意が必要である.

アレルギー性鼻炎/結膜炎

著者: 山下隆博

ページ範囲:P.291 - P.293

疾患の概要

 アレルギー性鼻炎とはくしゃみ,鼻閉,水溶性鼻漏を主症状とするI型アレルギーである.妊娠中は非妊時と比較し生理的に鼻粘膜の浮腫,充血が起こるため,もともとの鼻炎症状が悪化することがある.特に春先には花粉症が増悪するケースが多い.鼻炎と同時に目の搔痒感,充血,眼瞼結膜の浮腫などの結膜炎を伴うことが多い.花粉症以外のアレルギー性鼻炎・結膜炎ではハウスダストやダニアレルギーがあるが,これらは妊娠前から診断・投薬されているケースが多く,その場合は常用薬を妊娠中も継続してよいかの判断が必要である.

梅毒

著者: 土屋裕子 ,   西井修

ページ範囲:P.294 - P.295

疾患の概要

 梅毒の母子感染は,主にTreponema pallidum(Tp)血症による経胎盤感染で起こる.児に感染した場合,流早産,胎児死亡,子宮内胎児発育不全,新生児死亡,早発性先天梅毒(梅毒疹),遅発性先天梅毒(実質性角膜炎,内耳性難聴,歯の発育異常 ; Hutchinsonの3徴)をきたす可能性がある.大半の感染妊婦は無症候梅毒(潜伏梅毒)であるが,潜伏梅毒の場合でも胎児に感染することがある.梅毒は,妊娠20週以前に母体の適切な治療を行えば胎内感染を十分予防できる,スクリーニングの有用性がきわめて高い母子感染症の1つである.

HIV

著者: 谷口晴記 ,   千田時弘 ,   塚原優己

ページ範囲:P.296 - P.299

疾患の概要

 当初,HIV母子感染は,治療しなければ約40%に成立し,約5%は子宮内感染,約15%は分娩時感染で,その約半分は産道感染,そして出生後母乳を介しての感染は約20%と考えられていた.1990年代初め,ジドブジン(別名 : アジドチミジン,商品名 : レトロビル®)の内服が,ほかの方法と組み合わせることにより,母子感染率を下げることが判明した.現在では,HIV感染妊婦に対してジドブジン単剤療法ではなく,多剤併用療法(combination antiretroviral therapy : cART)が施行されている.

 本邦における現時点でのHIV母子感染予防対策は,(1)妊娠初期のHIV検査実施による感染診断,(2)妊娠中の抗HIV療法,(3)陣痛発来前の選択的帝王切開術,(4)帝王切開時のジドブジン点滴投与,(5)出生児へのジドブジンシロップ予防投与,(6)出生児への人工乳哺育である.これらの組み合わせで,HIV母子感染率は,1%以下に抑えられている.

細菌性腟症/GBS感染症

著者: 倉澤健太郎 ,   高橋恒男

ページ範囲:P.300 - P.302

疾患の概要

 細菌性腟症(bacterial vaginosis : BV)は,乳酸桿菌を主体とする正常腟内細菌叢が好気性・嫌気性の複数の過剰増殖した菌種に置き換わった状態である.30%程度の妊婦が罹患しているともいわれているが,半数以上は無症状である.診断はWHO(Amsel)の診断基準が臨床的であるが,近年では客観的な評価としてNugent Scoreを利用することが多い.有症状の場合は治療が必要になるが,無症状でも20週未満の早期治療介入が早産を予防しうることがわかってきた.

 B群溶血性連鎖球菌(Streptococcus agalactiae : GBS)は,10~30%程度の妊婦の腟・大便中から検出される比較的ありふれた菌であるが,時に新生児の敗血症や髄膜炎を起こす.わが国ではGBS保菌者から感染児が出生する確率は約2%と推計されている.検査では,妊娠33週から37週に1本あるいは2本の綿棒を用いて腟鏡を使用せず腟入口部と肛門内(あるいは肛門周囲部)から検体を採取する.

気管支喘息

著者: 草西多香子 ,   坂井昌人

ページ範囲:P.303 - P.306

疾患の概要

 喘息は頻度の高い妊娠合併症であり,全妊婦の3.7~8.4%に合併する.妊娠中の喘息発作は,報告によれば17.1%といわれている.喘息合併妊婦では非合併妊婦に比べて,周産期死亡率,早産,妊娠高血圧症候群,低出生体重児が15~20%増加し,コントロール不良例ではその頻度はさらに増加する.

 妊娠中の喘息は,増悪例,軽快例,不変例がほぼ同頻度である.妊娠前の重症度と妊娠中の重症度は相関している.妊娠中の喘息のコントロールが不良であると,低酸素症などのため胎児にリスクが高まるが,コントロールが良ければ非喘息患者との差はほぼないとする報告も多い.

 分娩後は1年以内に悪化する例がかなり多い.

かぜ症候群/インフルエンザ

著者: 飯塚美徳

ページ範囲:P.308 - P.310

疾患の概要

 かぜ症候群は,鼻汁・咽頭痛・咳嗽などの臨床症状を呈する急性上気道感染性疾患であり,38℃以上に発熱することは稀である.特に流行期はなく,成人は1年に3~4回かぜ症候群に罹患するとされる.かぜ症候群の原因はウイルス感染によるものが80~90%を占め,主なウイルスはライノウイルス(30~50%),アデノウイルス(15~20%),コロナウイルスが(15~20%)などである.

 インフルエンザは主に冬期に流行するインフルエンザウイルスによる感染症であり,38℃以上の発熱・頭痛・関節痛・筋肉痛などの症状を認める.

膀胱炎/腎盂腎炎/尿路結石症

著者: 香川秀之

ページ範囲:P.311 - P.314

疾患の概要

膀胱炎

 妊娠時には,上行性感染による尿路感染症の頻度が増加する.膀胱炎は,排尿時痛,頻尿,残尿感,尿混濁などの臨床症状および尿沈渣検査で膿尿,細菌尿を認めることで診断する.また,尿中細菌数が105/mL以上で症状を認めない無症候性細菌尿の場合も,妊婦においては高率に膀胱炎,腎盂腎炎に移行するため,治療の対象である.原因菌の多くは,大腸菌である.

腎盂腎炎

 無症候性細菌尿や膀胱炎の状態が悪化し,上部尿路に感染が広がると,腎盂腎炎を発症する.症状は,発熱,悪寒,倦怠感,腰背部痛のほか,側腹部痛,悪心・嘔吐など消化器疾患と紛らわしいことも多い.診断は,臨床症状および肋骨脊柱角の叩打痛,尿沈渣での白血球の増加,細菌の増加,血液検査での白血球増加,炎症反応の上昇などで行う.膀胱炎と同様,原因菌の多くは大腸菌であるが,腸球菌,クレブシエラ,プロテウス,ブドウ球菌なども原因菌となる.妊婦の腎盂腎炎は,敗血症を起こすことも稀ではないため,治療に先だって,尿とともに,血液の細菌培養検査を行うことが望ましい.

尿路結石症

 妊娠中の尿路結石症の発症は1,500~3,000妊娠に1例とされ,比較的稀な合併症である.症状は,腰背部・側腹部の疼痛,血尿,悪心・嘔吐などで,妊娠中の診断は超音波検査による腎盂拡張・尿管拡張の有無,尿路内結石の同定が第一選択となる.妊娠中は生理的な尿管拡張があるため,経過観察による自然排石が期待できることが多い.

統合失調症/うつ病/不安障害

著者: 岡垣竜吾 ,   新澤麗

ページ範囲:P.315 - P.318

疾患の概要

 妊娠に合併する精神科疾患には,統合失調症,うつ病,不安障害(恐怖症,全般性不安障害,強迫性障害,パニック障害など),人格障害,てんかん,精神発達遅滞,解離性障害などが含まれる.各疾患の診断は米国精神医学会の「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル」(DSM-IV-TR.2014年からはDSM-5が導入される予定)に準拠して,精神科の専門医によりなされる.

 精神疾患合併妊娠は妊娠・分娩管理が困難であると認識されている.特に統合失調症では精神科的な介入を要する率が高い.急性期には幻覚・妄想,興奮,昏迷などがみられ,自傷や他害に至る場合があり,慢性期では感覚鈍麻や意欲低減,自閉などをきたす.入院管理を要する場合は,統合失調症妊婦において約35%,うつ病では約10%,不安障害の場合には稀である.入院管理の必要性についての判断は,基本的に精神科医師が精神医学的所見をもとに下す.本人の同意がなくとも家族の同意で入院とできる「医療保護入院」,自傷他害のおそれがある場合に2名の精神保健指定医の判断により入院とできる「措置入院」を要す場合がある.本人の精神状態を考慮して決定される帝王切開は統合失調症で最も高く,約10%である.

VIII 妊娠中のマイナートラブル

VIII章扉

ページ範囲:P.319 - P.319

痔/便秘/下痢/胃腸炎

著者: 松田秀雄

ページ範囲:P.320 - P.322

疾患の概要



 妊娠中の子宮増大に伴い直腸周囲の血管が圧迫されることと,慢性的な便秘により痔核が発症すると考えられている.妊娠中に合併することが非常に多いので安易に捉えがちであるが,患者が訴える「いわゆる痔」には,時に裂肛・肛門周囲膿瘍・痔瘻などの手術を要する肛門周囲疾患が含まれている可能性があるので注意を要する.

便秘

 プロゲステロンによる腸管運動抑制作用と子宮の増大による物理的な圧迫が原因といわれる.ほとんどの妊婦が便秘を訴えるので,症状に応じた処方の工夫が必要である.過度の直腸内圧の亢進は,痔の悪化はもとより,稀ではあるが直腸憩室の形成などの思わぬ疾患の原因となりうるので注意が必要である.

下痢

 妊婦はしばしば消化不良が原因と考えられる下痢を訴えることがある.また,便秘により硬い便が出た後に下痢様の便が出ることがある.整腸剤の使用でも改善がみられない場合には,潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の可能性を検討する必要があり,肛門びらんなどのトラブルにも注意が必要である.

胃腸炎

 妊婦がノロウイルスなどの感染性胃腸炎や食中毒などに罹患する可能性もある.直近の海外渡航歴などがなければ,すなわち,本邦に稀な危険なウイルス感染症でなければ,原則として胎児に奇形などの影響が出ることはないと考えて対応してよい.

片頭痛/腰痛

著者: 松田秀雄

ページ範囲:P.323 - P.324

疾患の概要

片頭痛

 原因は,「脳血管の血小板からセロトニンが異常に放出されて起こる血管収縮による血流障害→セロトニンが枯渇すると血管が拡張し周囲の三叉神経を刺激→サブスタンスPを放出する」ことによるとされる.

腰痛

 頻度としては,筋肉疲労,椎間板ヘルニア,その他の筋骨格神経系疾患の順に多い.特に妊娠後半では,腰背部から骨盤の筋肉にかかる物理的負荷が増大するので,腰痛のリスクが高い.

IX 分娩処置・異常分娩

IX章扉

ページ範囲:P.325 - P.325

分娩誘発/微弱陣痛/過強陣痛

著者: 渋谷祐介 ,   斎藤昌利 ,   杉山隆

ページ範囲:P.326 - P.329

疾患の概要

 分娩とは本来生理的な現象であるが,安全な分娩を遂行するうえで重要なことは自然経過を観察するだけではなく,適切な介入を図ることである.そのため分娩の進行状況によっては,陣痛促進を考慮する.分娩誘発の適応は多岐にわたり,微弱陣痛による遷延分娩や妊娠高血圧症候群などの母体適応,過期妊娠,子宮内胎児発育遅延,子宮内胎児死亡といった胎児適応,自宅から医療機関までのアクセスが悪いなどの非医学的な社会的適応がある.日常臨床でよく遭遇するものは,前期破水など母児ともに感染のリスクがある場合や,母体合併症などで管理体制の整った日中に分娩に至ることが望ましい場合など,複合的な理由で分娩誘発が行われる.

 陣痛の強さは子宮内圧で表現されるが,日常臨床においては非侵襲的な外測法による陣痛周期や発作持続時間で判断される.微弱陣痛,過強陣痛の定義は以下の基準で判定される(表1,2).

弛緩出血

著者: 板倉敦夫

ページ範囲:P.330 - P.332

疾患の概要

 分娩第3期または胎盤娩出直後に,子宮筋の収縮不全に起因して起こる異常出血をいう.胎盤剝離後の脱落膜には,子宮─胎盤血流の血管の断端が開口しており,子宮筋の収縮により,外部から血管を圧迫して血流を遮断する機序は,止血に最も重要である.子宮─胎盤血流は胎児を保育するために分娩時には増量しており,この機序が機能しないと,剝離面からの出血は制御できず危機的出血に陥る.弛緩出血は産後の過多出血の原因として最も頻度が高い.弛緩出血は胎盤娩出後の子宮筋収縮不全に伴う子宮出血であり,血管平滑筋の収縮不全あるいは凝固因子不足による出血に対する処方は別項に委ねる.

産科DIC

著者: 金山尚裕

ページ範囲:P.334 - P.338

疾患の概要

 産科DICは大きく2つに分類される.1つは出血→DICとなるもの,もう1つはDIC→出血である.前者は血管の断裂により大量出血となり,その結果,血液凝固因子が枯渇しDICとなるものである.子宮破裂,産道裂傷,帝王切開の縫合不全などが代表的なものである.DIC→出血は,常位胎盤早期剝離,羊水塞栓症,子癇,HELLP症候群,敗血症などが代表的である.出血も短時間に大量出血となることが多い.常位胎盤早期剝離の初期では切迫早産と同じような陣痛様の子宮収縮があるので,エコーや分娩監視装置による鑑別が重要である.胎盤に一致した圧痛も常位胎盤早期剝離の重要な所見である.出血は外出血を主体とするものと内出血を主体とするものがあり,内出血型は診断が遅れることがあり,常位胎盤早期剝離が疑われる例は注意して管理する.羊水塞栓症のDICは分娩後のサラサラした性器出血と重症の子宮弛緩症が特徴である.子癇では頭痛,眼華閃光,HELLP症候群では上腹部痛などがDICに先立って発生することが多い.子癇やHELLP症候群でもDICが先に発症するが,大量出血よりも脳出血,肝臓出血など重症の臓器障害をきたすことが多い.敗血症性のDICは感染兆候や原因不明の発熱などがDICに先行することが多い.

無痛分娩

著者: 坊垣昌彦

ページ範囲:P.339 - P.341

背景・目的

 欧米では無痛分娩がごく日常的に行われているが,日本ではまだ普及率は低い.普及しない理由として,陣痛の痛みに耐えることを美徳とする日本人特有の文化的背景も挙げられるが,実際には各施設での産科医・麻酔科医のマンパワー不足によるところも大きい.マンパワー不足の問題はすぐに解決するものではないが,近年の少子化・出産年齢の高齢化といったライフスタイルの変化に伴って,無痛分娩に興味をもつ妊婦は着実に増加している.こうした妊婦側の需要の増加を受けて供給する医療従事者側の意識も変化してきている.今後は無痛分娩を実施する施設が増加し,日本でも徐々に無痛分娩が普及していくものと思われる.

X 産褥期処置・異常産褥

X章扉

ページ範囲:P.343 - P.343

子宮復古不全

著者: 板倉敦夫

ページ範囲:P.344 - P.345

疾患の概念

 一般には正常の産褥経過よりも子宮の復古が遅れ,子宮収縮不良と悪露が長く続く場合や悪露滞留症を子宮復古不全という.胎盤片や卵膜遺残,感染,筋腫合併,胎盤ポリープが原因となり,子宮壁の過伸展,産褥初期の不摂生,非授乳婦人,膀胱直腸の充満,内分泌異常,創傷治癒機転障害などにより助長される.産褥日数に比し子宮底は高く,子宮は柔軟で血性悪露排出が続いて量も多く,血栓剝離により比較的大量の出血をきたすこともある.

産後抗菌薬投与/産褥熱

著者: 田口彰則 ,   木戸浩一郎 ,   綾部琢哉

ページ範囲:P.346 - P.348

疾患の概要

 産褥熱とは産褥期に生じた発熱性疾患のうち,産後24時間以降,10日以内に2日以上38℃以上の発熱が生じた場合とされる.通常,膀胱炎・腎盂腎炎などは含まず,臨床的には子宮を中心とした骨盤内感染症とほぼ同義語として使用される.分娩の際に,主として上行性に侵入した細菌が会陰,腟,胎盤剝離面などの子宮内腔において増殖して成立する.分娩環境の清潔化や周産期処置の清潔操作が徹底されている現代の日本のような環境では少なくなっている.ただ根絶されているわけではなく,劇症型A群溶血性連鎖球菌によるtoxic shock syndrome(TSS)などの敗血症性の全身的な産褥熱も稀ながらみられるため,周産期管理上,注意を要する.

乳腺炎/乳汁分泌抑制

著者: 田口彰則 ,   木戸浩一郎 ,   綾部琢哉

ページ範囲:P.349 - P.352

疾患の概要

 乳腺炎とは,文字通り乳腺に起こった「炎症」で,乳房の圧痛,熱感,腫脹を主徴とし,発熱,悪寒,インフルエンザ様の身体の痛み,全身症状を伴う.

 産後の乳汁分泌量の増加に対し哺乳や搾乳が不十分だったり乳管の狭窄・閉塞があると乳汁のうっ滞が生じ,乳房の緊満,乳管の狭窄・閉塞が惹起される.乳頭などから侵入した細菌の感染が成立すると,38.5℃以上の高熱,悪寒を伴う感染性乳腺炎,膿瘍を形成する化膿性乳腺炎と悪化し,外科的な切開・排膿を要するに至る.授乳女性の3~20%において発生していると推定されている.多くは産後6週間以内に起こる(図1).

マタニティ・ブルーズ/産後うつ病

著者: 岡垣竜吾 ,   新澤麗

ページ範囲:P.354 - P.356

疾患の概要

 マタニティ・ブルーズは,分娩直後から数日以内に出現する涙もろさ,抑うつ気分,情動不安定などの気分と体調の変調である.緊張,不安,集中困難などの精神症状に加えて,食欲不振,不眠,頭痛などの身体症状を伴うこともある.急激な内分泌変化によって生じる正常な反応であり,自然に消失する.10~30%の褥婦にみられる.

 産後うつ病は産後4~6週間から3か月以内に多く発症し,双極性障害に移行する場合もある.抑うつ気分,興味と喜びの喪失,易疲労感,活動性の減少のほか,食欲不振,不眠,頭痛,吐き気などの身体症状を示す.また,多弁や多動などの躁症状が出現する場合がある.精神疾患罹患歴やストレス,社会的支援の不足がリスク因子となるが,原因や予防法は不明である.

XI 産褥期のマイナートラブル

XI章扉

ページ範囲:P.357 - P.357

後陣痛/創部痛

著者: 有馬香織 ,   宮内彰人

ページ範囲:P.358 - P.360

疾患の概要

後陣痛

 産後の子宮復古に伴い後陣痛が生じる.後陣痛は生理的なものであり,胎盤娩出直後から産後数日以内に多いが,産後数週間にわたってみられることもある.授乳により子宮復古が促進されるため,後陣痛が強まることがある.経産婦のほうが初産婦より子宮復古が早いため,後陣痛も強くなりやすい.

創部痛

 帝王切開後や,会陰縫合を伴う経腟分娩後では,創部痛が出現することがある.麻酔の効果が消失すると疼痛が出現するが,血腫,感染などにより疼痛が増強することもあるため注意が必要である.褥婦が強い創部痛を訴える場合には,創部を頻回に観察し,異常の早期発見が重要である.

尿閉/尿失禁

著者: 有馬香織 ,   宮内彰人

ページ範囲:P.361 - P.362

疾患の概要

尿閉

 尿閉は,膀胱に貯留した尿を排出できない状態である.分娩の0.5%程度に合併するが,多くは退院前に自然に改善する.妊娠中は増大した子宮により膀胱が引き伸ばされ,尿管の運動機能も低下,拡張しやすい.分娩時には児頭の圧迫により膀胱粘膜が障害され,神経麻痺による排尿困難を引き起こす.さらに会陰の創部痛により排尿時に腹圧がかけにくいこともあり,産褥期には尿閉が起こりやすい.

尿失禁

 尿失禁は3~26%の褥婦に分娩後3~6か月みられる.帝王切開分娩に比べ経腟分娩ではリスクが高い.切迫性尿失禁が多く,妊娠中に多い腹圧性尿失禁は産褥期には改善する.

乳頭びらん/乳頭亀裂

著者: 有馬香織 ,   宮内彰人

ページ範囲:P.363 - P.364

疾患の概要

 乳頭びらん・乳頭亀裂は,産褥初期の乳汁分泌がまだ不十分な時期に,不慣れな授乳方法や新生児の吸啜により発生し,乳頭潰瘍・乳腺炎に至る場合もある.乳頭トラブルは,母乳育児の妨げとなるため,予防・管理は重要である.

 乳汁分泌は分娩後3~4日以降に亢進してくるが,乳頭裂溝や湿疹などによる乳管開口部の閉鎖,血管・リンパ管のうっ滞による乳管の圧迫,乳汁分解産物や脱落上皮による乳管の閉鎖などにより乳汁の排出障害が起こると乳汁のうっ滞が発生する.産褥初期に乳管の開口が不十分な場合に乳汁がうっ滞し,乳房の発赤や腫脹,疼痛などを訴えるのが乳汁うっ滞性乳腺炎である.乳汁のうっ滞・乳頭裂溝が誘因となり感染すると化膿性乳腺炎となる.

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バックナンバー

ページ範囲:P.365 - P.365

投稿規定

ページ範囲:P.366 - P.366

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.367 - P.367

奥付

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基本情報

臨床婦人科産科

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72巻11号(2018年11月発行)

今月の臨床 男性不妊アップデート─ARTをする前に知っておきたい基礎知識

72巻10号(2018年10月発行)

今月の臨床 糖代謝異常合併妊娠のベストマネジメント─成因から管理法,母児の予後まで

72巻9号(2018年9月発行)

今月の臨床 症例検討会で突っ込まれないための“実践的”婦人科画像の読み方

72巻8号(2018年8月発行)

今月の臨床 スペシャリストに聞く 産婦人科でのアレルギー対応法

72巻7号(2018年7月発行)

今月の臨床 完全マスター! 妊娠高血圧症候群─PIHからHDPへ

72巻6号(2018年6月発行)

今月の臨床 がん免疫療法の新展開─「知らない」ではすまない今のトレンド

72巻5号(2018年5月発行)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

72巻4号(2018年4月発行)

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

72巻3号(2018年4月発行)

今月の臨床 ここが知りたい! 早産の予知・予防の最前線

72巻2号(2018年3月発行)

今月の臨床 ホルモン補充療法ベストプラクティス─いつから始める? いつまで続ける? 何に注意する?

72巻1号(2018年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 産婦人科感染症の診断・管理─その秘訣とピットフォール

71巻12号(2017年12月発行)

今月の臨床 あなたと患者を守る! 産婦人科診療に必要な法律・訴訟の知識

71巻11号(2017年11月発行)

今月の臨床 遺伝子診療の最前線─着床前,胎児から婦人科がんまで

71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

今月の臨床 産科麻酔パーフェクトガイド

71巻1号(2017年1月発行)

合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

69巻12号(2015年12月発行)

今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

今月の臨床 がん妊孕性温存治療の適応と注意点─腫瘍学と生殖医学の接点

69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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