原著
術後のヘモグロビン値低下を用いたTVM手術ラーニングカーブの検討
著者:
三木明徳
,
木村真智子
,
新澤麗
,
仲神宏子
,
佐藤加寿子
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鈴木元晴
,
難波聡
,
梶原健
,
岡垣竜吾
,
永田一郎
,
石原理
ページ範囲:P.443 - P.448
▶要約
【目的】骨盤臓器脱に対するTension-free Vaginal Mesh(TVM)手術は,盲目的剝離操作が多いため血腫形成のリスクが高い.術前術後の血色素量(Hgb)の変化より推察した失血量と手術経験数を比較し,経験数増加による失血量低下を検討した.
【方法】2006年10月から2011年9月までの5年間に当科で行われたTVM症例316例について,術前・術後のHgbの変化,術中出血量,血腫の有無,手術経験数を検討した.
【成績】年齢は66.4±7.5(mean±SD)歳,出血量は62.8±97.4g(mean±SD)であった.術前Hgbは13.4±1.1g/dLであり,術後のHgbの低下は2.6±1.0g/dLであった.出血量が20g未満であった症例の23%,20g以上100g未満であった症例の37%,100g以上であった症例の56%に術後で3g/dL以上のHgbの低下を認めた.
当院ではTVM導入後20例までの術後Hgbの低下は3.3±1.2g/dL,21例から40例までの術後Hgbの低下は2.9±1.1g/dLであったが,その後2.5g/dL前後に落ち着いた.
術者別では,初期の3名の術者では最初の10例までの術後Hgbの低下は3.2±0.7g/dL,3.2±1.5g/dL,2.9±1.1g/dLと高値を示したが,その後は安定した.同じ指導体制のもとで後からTVM手術を始めた術者にはこのような傾向を認めなかった.
一方,Hgbが3以上低下し血腫の有無の検査を行った36例中17例(47.2%)で血腫の形成を認めたが,1例を除いてCTや経腟超音波による計測上直径5cm以下の小さな血腫であり,全例術後数か月以内に消失した.
【考察】TVM手術での失血量は術中カウントだけでは正確に把握することは難しく,術前・術後のHgbの変化が有効な指標となる.術後では予測以上にHgbの低下が認められ,一部には血腫形成をしていると考えられた.
TVM手術導入時には剝離の層と穿刺の方向が安定せず,察知しえない出血をきたしHgbの減少につながるものと考えられた.施設全体では約40症例,術者ごとでは約10症例で手術方法が安定すると考えられた.後から加わった術者では先行する術者の指導により早期に剝離と穿刺が安定すると考えられた.TVM手術の導入時には,剝離層の正否が重要なファクターとなりHgbの低下が手術のクオリティの指標となるため,術後のHgbの低下および血腫の形成に注意を払う必要があると考えられた.