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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科72巻4号

2018年04月発行

雑誌目次

増刊号 産婦人科外来パーフェクトガイド─いまのトレンドを逃さずチェック!

著者:

ページ範囲:P.1 - P.1

【症状編】代表的な症状からの疾患鑑別

著者:

ページ範囲:P.5 - P.5

《婦人科外来》

原発性無月経

著者: 齊藤真 ,   榊原秀也

ページ範囲:P.6 - P.10

鑑別診断のポイント
❖原発性無月経の原因は器質的な異常と内分泌学的な異常の両方を検索する必要があることを念頭におき,診察にあたる.
❖器質的な異常を認める場合,性腺摘出など早急な処置を必要とするものと,腟造設など適切な時期に処置を行うべきものとがあることを認識する.
❖内分泌学的な異常を認める場合,必要に応じて早期からのホルモン補充(エストロゲン,プロゲスチン)を行い,骨量の獲得を図って将来的な骨粗鬆症予防を行う.

不正性器出血/過多月経/希発月経

著者: 梶原健

ページ範囲:P.11 - P.15

不正性器出血

鑑別診断のポイント
❖妊娠,悪性腫瘍に関連する除外診断を早期かつ確実に行う.
❖内分泌的問題に起因する不正出血を機能性出血という.
❖多くの疾患が詳細な病歴聴取により鑑別可能となる.


過多月経

鑑別診断のポイント
❖過多月経の有無は臨床的には,鉄欠乏性貧血の有無によって判断してよい.
❖腟鏡診,双合診,経腟超音波検査により,子宮病変の有無を確認する.
❖若年者では白血病,先天性血液疾患,自己免疫疾患などにより過多月経を起こすことがあるので,注意を要する.


希発月経

鑑別診断のポイント
❖月経周期が39日以上3か月以内を希発月経と定義する.
❖希発月経の原因として最も多いのは多囊胞性卵巣症候群である.

帯下異常

著者: 江川美保

ページ範囲:P.16 - P.19

鑑別診断のポイント
❖帯下の増量,悪臭,膿性変化やそれに伴う不快感などの帯下異常・腟炎症状は最も頻度の高い婦人科的愁訴の1つであるが,その原因として細菌性腟症,外陰腟カンジダ症,腟トリコモナス症の3つが90%以上を占める1)
❖そのほか,年齢やsexual activityなどの背景因子および外陰・腟・子宮腟部の診察所見により,低エストロゲン状態に伴う萎縮性腟炎やクラミジア,淋菌による子宮頸管炎も念頭におく必要がある.
❖上記疾患は無自覚・無症候性であることもある.産婦人科プライマリ・ケア診療に際しては本人の訴えがなくても,骨盤内炎症性疾患への進展リスクや,妊婦においては妊娠経過や児へのリスクも念頭において適切に診断すべきである.

外陰部の発疹

著者: 小川真里子 ,   髙松潔

ページ範囲:P.20 - P.23

鑑別診断のポイント
❖外陰部の発疹の診断に際しては,まず発疹の種類を決定し,さらにその色や形状などを注意深く観察し診断を行う.
❖硬化性萎縮性苔癬に対しては原則としてステロイド外用治療を行うが,悪性腫瘍を合併することがあるため,必要に応じ生検を行う.
❖外陰部の悪性腫瘍の可能性を常に念頭に置き,診察をせずに漫然と外用薬処方を行うことは厳に慎まなければならない.

のぼせ/異常発汗/動悸

著者: 安井敏之

ページ範囲:P.24 - P.28

鑑別診断のポイント
❖更年期障害としてみられるのぼせは,頸部に熱感が生じたのちに急激に顔面や四肢に広がるもので,その持続時間は1〜2分,長くても5分程度である.
❖のぼせや発汗は,薬剤によって引き起こされる場合や不安障害やパニック障害が原因となることがある.
❖月経異常について確認するとともに,ほてり,のぼせ,動悸以外の症状についても問診が必要である.

卵巣の腫大

著者: 川口龍二 ,   小林浩

ページ範囲:P.30 - P.35

鑑別診断のポイント
❖卵巣の腫大を認めた場合,腫瘍性病変と卵胞囊胞,出血性黄体囊胞や卵巣子宮内膜症性囊胞(チョコレート囊胞)などの非腫瘍性病変との鑑別が必要である.
❖画像診断としては,まず経腟超音波検査を行い,さらに質的評価を行う場合や悪性が疑われる場合には骨盤MRIにて精査を行う.
❖卵巣子宮内膜症性囊胞は,0.72%の頻度で悪性化することがあり,その管理には注意が必要である.

《産科外来》

妊婦の頭痛

著者: 大野泰正

ページ範囲:P.36 - P.40

鑑別診断のポイント
❖頭痛を訴えた場合,臨床症状の特徴,神経学的異常所見の有無,患者背景や既往症,血圧値などにより,一次性頭痛と二次性頭痛の鑑別を試みる.
❖二次性頭痛を疑った場合,さらに詳細な鑑別診断を行う.特に生命予後不良な脳卒中の鑑別診断が重要であり,それは頭部画像検査(CTあるいはMRIなど)により行う.
❖脳卒中による頭痛の場合,脳神経外科医や脳神経内科医による早急な治療の開始が生命予後を左右する.日頃より関連科との連携を密にしておく必要がある.

妊婦の血小板減少

著者: 宮川義隆

ページ範囲:P.42 - P.45

鑑別診断のポイント
❖妊婦の血小板減少の7割は,生理的な妊娠性血小板減少である.
❖周産期管理に影響が出る特発性血小板減少性紫斑病(ITP)との鑑別診断が必要である.ITP合併妊娠の新生児の5%において,一過性に血小板数が5万/μL以下になる.
❖HELLP症候群と似ている血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は致死的な急性疾患である.HELLP症候群と異なり分娩で改善せず,専門的治療を要する.

妊婦の発熱

著者: 田中宏和

ページ範囲:P.46 - P.51

鑑別診断のポイント
❖発熱の原因は,感染症をはじめとして代謝疾患や膠原病,腫瘍など多岐にわたる.そのため,その他の症状・症候に注意を払う必要がある.
❖原因の鑑別には,発熱の程度,持続期間,他の症候を参考にして原因を推測し,必要な検査を行う.妊娠・分娩時は,胎児への影響を考慮する必要がある.
❖妊婦の発熱では,他の疾患に合併する場合を含めて,特に絨毛膜羊膜炎などの子宮内感染症に注意を払う必要がある.
❖A群溶連菌感染症・敗血症など,時として緊急を要する重篤な疾患の初期症状でみられることがあることに留意する.

妊婦の腹痛

著者: 堤誠司

ページ範囲:P.52 - P.57

鑑別診断のポイント
❖産科に関連する疾患か? : 妊婦が「腹痛」を訴えて外来を受診したときに,まずは妊娠に関連する「腹痛」なのかどうかを鑑別し,さらに胎児のwell-beingはどうなのかを判断することが重要である.
❖婦人科に関連する疾患か? : 妊娠には直接関連しないが,生殖器に起因する「腹痛」なのか否かを判断する.
❖妊婦であれば,どうしても子宮・付属器・胎児だけに目が行ってしまいがちであるが,それ以外に「腹痛」の原因がないか,全身的な診察が必要なのはいうまでもない.

妊婦の嘔気・嘔吐

著者: 瀬山貴博

ページ範囲:P.58 - P.62

鑑別診断のポイント
❖妊娠初期の妊婦が嘔気・嘔吐を訴えて来院した場合,原因はほとんどが「つわり/妊娠悪阻」であるが,その他の原因による嘔気・嘔吐の可能性も考える.
❖「つわり/妊娠悪阻」以外の嘔気・嘔吐の原因疾患は多岐にわたるため,鑑別のためには丁寧な問診・身体検査が重要である.
❖妊娠後期に嘔気・嘔吐を呈する妊娠性疾患のなかには,妊娠高血圧症候群・HELLP症候群・急性妊娠脂肪肝が含まれる.

【疾患編1】思春期・月経異常

著者:

ページ範囲:P.63 - P.63

《月経異常》

視床下部・下垂体性無月経

著者: 矢野清人 ,   松崎利也 ,   柳原里江 ,   岩佐武 ,   苛原稔

ページ範囲:P.64 - P.68

外来管理のポイント
❖やせ状態では脂肪細胞からのレプチン分泌が低下してキスペプチンの産生が低下し,一方,摂食促進因子の分泌が亢進し,その結果GnRH分泌が抑制され無月経になる.
❖18歳になっても初経がないことを原発性無月経というが,実際には15歳を超えても初経がない場合には治療介入の必要がある.
❖続発性無月経の治療は,体型の是正など,誘因の除去が大切であるが,難治性の場合は第1度無月経であればHolmstrom療法,第2度無月経ではKaufmann療法を行う.体重が標準体重の70%以下の場合にはホルモン療法は控える.

早発卵巣不全

著者: 河村和弘

ページ範囲:P.69 - P.73

外来管理のポイント
❖現在および将来的な妊娠の希望の有無を確認し,治療方針を決定することが重要である.
❖進行性の疾患であり,妊娠を希望する場合には残存卵胞が枯渇する前に早期の治療が必要である.
❖妊娠を希望しない場合は,エストロゲン欠乏症状によるQOLの低下を予防するため,継続的なホルモン補充療法が必要である.

多囊胞性卵巣症候群

著者: 井上尚実 ,   河野康志 ,   楢原久司

ページ範囲:P.74 - P.78

外来管理のポイント
❖多囊胞性卵巣症候群における月経異常のコントロールは,黄体ホルモン療法(Holmstrom療法)が第一選択となるが,症例によってはエストロゲン,プロゲステロンの両者の補充が必要な場合もある.
❖挙児希望のある場合には,排卵誘発薬の使用を考慮するが,多胎妊娠と卵巣過剰刺激症候群の発症に注意が必要である.
❖多囊胞性卵巣症候群は罹患女性にとっては一生涯の問題であり,生殖期年齢の月経異常や不妊症のみならず,性成熟期以降には2型糖尿病,脂質代謝異常症,メタボリックシンドロームや心血管疾患などの発症に注意する必要がある.

月経困難症

著者: 百枝幹雄

ページ範囲:P.79 - P.81

外来管理のポイント
❖鎮痛薬,鎮痙薬,精神安定薬,漢方薬,ホルモン製剤を適切に組み合わせることが重要である.
❖配合薬の連続投与やレボノルゲストレル放出子宮内システムなどの新しい治療が登場している.
❖将来妊娠を希望している若年女性の月経困難症には,すでに初期の子宮内膜症が存在している可能性があることを念頭に置いて治療する.

月経前症候群

著者: 望月善子

ページ範囲:P.82 - P.86

外来管理のポイント
❖月経前症候群(PMS)とは,月経前に起こる不快な精神的あるいは身体的症状で,月経開始後すみやかに消退することを特徴とする.女性のQOLを著しく低下させるが,疾患の認知度は十分でない.
❖診断は,次の2周期の前方視的な症状日誌により,症状の再現性と発現時期を規定することで行う.PMDDも診断基準に則って診断するが,月経前に症状の悪化するPMEとの鑑別を要する.
❖主な薬物治療は,LEP製剤,SSRI,漢方療法である.

《性・性活動》

性同一性障害

著者: 石原理

ページ範囲:P.87 - P.89

外来管理のポイント
❖GIDの疾患概念の変化を踏まえ,当事者のさまざまな希望に対して,医学的・科学的専門家の見地から判断して適切な介入を提供する.
❖GIDのホルモン療法に際しては,その効果と限界および副作用を理解し,必要十分な医学的管理を行う.
❖妊孕性温存,生殖医療など産婦人科医が情報提供することが適切な関連事項については,最新の正確な情報を提供する.

経口避妊薬/緊急避妊

著者: 北村邦夫

ページ範囲:P.90 - P.96

外来管理のポイント
❖わが国で発売されている低用量経口避妊薬(OC)については,避妊効果に大差がない.したがって,どれを選ぶかは服用希望者に任せてもよい.また,一相性が周期調節性に適したOCであるという根拠は乏しい.
❖エチニルエストラジオール(EE)用量の低いOCほど血栓症リスクが低いこと,また思春期におけるOC選択に際しては,骨密度を維持するためにもEE用量の少ないほうが好ましい.
❖緊急避妊薬(ECP)の作用機序を踏まえて,ECP服用後にはOCなど効果が確実で女性が主体的に使用できる避妊法の選択を積極的に勧める.

月経周期調節

著者: 安達知子

ページ範囲:P.97 - P.103

外来管理のポイント
❖月経周期異常を治療する目的では,Kaufmann治療やHolmstrom治療を中心に行うが,低用量エストロゲン・プロゲスチン(EP)配合薬を用いることもある.
❖大切なイベントと月経周期の不調な時期を重ねないようにする目的では,基本的に月経を前方,あるいは後方へ移動するが,中用量EP配合薬を自費診療で用いることが多い.
❖月経困難症などの症状軽減を目的とする場合は,低用量EP配合薬を用いるが,ホルモン剤の連続投与を行うことにより月経回数を減少させることもできる.

【疾患編2】不妊・不育

著者:

ページ範囲:P.105 - P.105

《不妊の検査》

卵巣予備能の評価

著者: 邨瀬智彦 ,   岩瀬明

ページ範囲:P.106 - P.110

検査のポイント
❖卵巣予備能とは卵巣における卵の量と質を反映し,女性の生殖機能を規定する要因の1つである.卵巣予備能の評価法はovarian reserve test(ORT)と呼ばれる.
❖ORTのうち抗ミュラー管ホルモン(AMH),胞状卵胞数(AFC)は,卵巣の反応性予測における有用性が高い.妊娠・生産の予測因子として満足できるORTはいまだ確立されていない.
❖AMHは,抗がん剤治療やチョコレート囊胞手術の卵巣予備能への影響評価,多囊胞性卵巣症候群の補助診断などにも有用であることが報告されている.

卵胞発育モニタリング

著者: 折坂誠 ,   宮崎有美子 ,   山本輝

ページ範囲:P.112 - P.115

検査のポイント
❖卵胞発育モニタリングは,経腟超音波断層法による卵胞径計測と尿中LH測定をメインに,基礎体温測定・頸管粘液検査・子宮内膜エコー・血中E2測定を交えて総合的に行う.
❖卵胞径は1日あたり1.5〜2mmのペースで増大するが,発育速度に個人差がある(1〜3mm/日)ため,排卵予定日の数日前より経時的なモニタリングが必要である.
❖主席卵胞が排卵する卵胞径の目安は,自然周期20〜24mm,クロミフェン周期23〜28mmであり,ART周期で採卵の目安にする卵胞径は18〜20mmである.

卵管疎通性検査

著者: 髙見澤聡

ページ範囲:P.116 - P.120

検査のポイント
❖卵管疎通性の一次検査としてHSGとHyCoSyがあり,近年は診断能や簡便性,副作用の少なさからHyCoSyの評価が世界的に高い.
❖有効な造影剤が入手不可である本邦の現状ではHSGが標準であり,HyCoSyはHSG不可時(造影剤アレルギーなど)の代替手段である.
❖確定診断には二次検査である腹腔境検査が必要である.

子宮鏡検査

著者: 升田博隆

ページ範囲:P.121 - P.124

検査のポイント
❖子宮鏡検査施行前には骨盤内感染を否定し避妊期間を確認すること,検査は月経周期上の適切な時期に施行することが重要である.
❖子宮腔内の病変の鑑別には,子宮鏡検査だけに頼らず,細胞診,超音波,MRIなども併せた複合的診断が必要である.
❖軟性子宮鏡,硬性子宮鏡それぞれの利点と欠点を知り,使用方法や操作方法の違いも理解したうえで使い分ける.

精液検査/抗精子抗体検査

著者: 脇本裕 ,   杉山由希子 ,   柴原浩章

ページ範囲:P.125 - P.130

検査のポイント
❖不妊症の三大原因とは,内分泌因子・卵管因子・男性因子であり,簡便に実施可能な精液検査は不妊治療の早期に実施する必要がある.
❖免疫性不妊症の一因となる抗精子抗体は,女性では同種抗体として,男性では自己抗体として産生される.
❖精液検査の際に,運動精子上に結合する抗精子抗体の検出が推奨されている(WHO).

続発性不妊症の検査

著者: 原田竜也

ページ範囲:P.132 - P.135

検査のポイント
❖続発性不妊症の原因は,原発性不妊症と多くの面で共通することから,検査についても同様に行うことが必要であり,特別な検査があるわけでも省略してよい検査があるわけでもない.
❖続発性不妊症患者において,原発性不妊症と比較して卵管通過障害が多いとされており,子宮卵管造影検査は必須と考えられる.
❖帝王切開術を施行した患者は,経腟分娩と比較し妊娠率・生産率が低下するとされており,帝王切開術後の不妊症についてはその点に留意する必要がある.

《一般不妊治療》

クロミフェン療法

著者: 西村杏子 ,   川越淳 ,   永瀬智

ページ範囲:P.136 - P.139

外来管理のポイント
❖クエン酸クロミフェン はWHO GroupⅡ(主にPCOSなどの第一度無月経)の排卵障害に対する排卵誘発に使用するが,原因不明不妊症の治療薬としても効果を認める.
❖原因不明不妊症への使用では,タイミング法では有用性を認めない報告があり,その使用に際しては人工授精の併用を検討する必要がある.
❖クエン酸クロミフェンの使用によって排卵する症例では3〜6周期までに妊娠しやすいため,6周期を越える投与は勧められない.

ゴナドトロピン療法

著者: 木田尚子 ,   松本みお ,   岡田英孝

ページ範囲:P.140 - P.144

外来管理のポイント
❖ゴナドトロピン療法とは,FSH作用を有する製剤で卵胞発育を促し,LH作用をもつhCGで排卵を惹起させる強力な排卵誘発法である.
❖ゴナドトロピン療法は,多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群などの副作用に注意が必要である.
❖遺伝子組み換え技術の進歩により,rec FSH製剤やrec hCG製剤が開発され,患者の通院負担の軽減が可能となった.また,海外では長時間作用型のFSH製剤が臨床応用されており,投与回数を減少できるという特徴がある.

ドパミンアゴニスト療法

著者: 北原慈和 ,   岸裕司

ページ範囲:P.145 - P.148

外来管理のポイント
❖プロラクチノーマや機能性高プロラクチン血症による不妊症に対しては,ドパミンアゴニストによる薬物療法が第一選択となる.
❖無症候性高プロラクチン血症の場合,マクロプロラクチン血症も念頭におき,不必要な薬物療法は行わない.
❖薬剤性高プロラクチン血症による不妊症の場合,原因となっている薬物の処方医に相談することなく休薬や薬剤変更は行わない.
❖保険適応外での使用となるが,卵巣過剰刺激症候群の発症予防としてドパミンアゴニストが使用されるようになってきている.

メトホルミン療法

著者: 髙橋俊文

ページ範囲:P.149 - P.151

外来管理のポイント
❖挙児希望PCOS患者の排卵誘発法の第一選択はクロミフェンであり,クロミフェン無効例に対してメトホルミン併用療法を考慮する.
❖挙児希望PCOS患者に対するメトホルミン療法は,肥満・耐糖能異常またはインスリン抵抗性を有する場合に考慮する.
❖メトホルミン療法は,PCOS患者の流産率の低下に関して十分なエビデンスがなく,妊娠初期にメトホルミンを中止しても流産率に影響を与えない.

卵管鏡下卵管形成術

著者: 福田愛作

ページ範囲:P.152 - P.158

外来管理のポイント
❖卵管造影検査(HSG)は,不妊治療を行うにあたって必須検査であることを患者に認識させる必要がある.さらにHSGが客観性および再現性をもって卵管の通過性を検証できる唯一の検査であることを説明する.
❖卵管の通過障害が女性の不妊原因の最大の要因である.現在の不妊治療では卵管通過障害すなわち体外受精治療と短絡的に結び付けることが一般に行われているが,卵管の通過性回復により自然妊娠が可能であることを説明する.
❖外来で腹腔鏡を併用することなく卵管の通過性の回復や改善を実施できる,卵管鏡下卵管形成術(FT)の存在を認知させる.FTが体外受精に代わる選択肢であること,またFTが健康保険の適用となることを説明する.さらに高額医療の認定証を取得すれば,外来での支払いが高額医療の限度額で受けられることを告知する.
❖FTにより卵管性不妊の外来での治療が可能であり,体外受精を受けることなく一般不妊治療により自然妊娠が期待できることを説明する.
❖遠隔地などの体外受精を受けられない環境にあっても,FTによる卵管通過性回復手術を受ければ,一度の外来治療により6か月程度は自然妊娠が期待できることを説明する.

《人工授精》

配偶者間人工授精(AIH)

著者: 笠井剛

ページ範囲:P.159 - P.162

外来管理のポイント
❖精液検査のための禁欲期間は2〜7日間である1)が,AIHを実施する場合3日以内が望ましい.
❖post-coital test(PCT)が良好な場合でもAIHが有効な症例も存在するので,AIHの適応がないわけではない2)
❖検体の受け取り,処理,注入時には,患者氏名と検体の氏名のダブルチェックを毎回行う.

提供精子を用いた人工授精(AID)

著者: 浜谷敏生 ,   小川誠司 ,   久慈直昭 ,   田中守

ページ範囲:P.163 - P.166

外来管理のポイント
❖提供精子を用いた人工授精は,日本産科婦人科学会の会告に従い,匿名提供者の協力のもと行われている.
❖提供精子を用いた人工授精は1回当たりの妊娠率が約5%と決して高くはない.しかし,本邦では提供精子を用いた体外受精・顕微授精は実質的に許されていない.
❖生まれた子への告知が望まれるが,本邦では出自を知る権利や親子関係の法的規定などに関する問題がいまだ整備されていない.

《不育症診療》

不育症の診断法

著者: 竹下俊行

ページ範囲:P.168 - P.172

外来管理のポイント
❖2回以上の反復流・死産を不育症,3回以上連続する流産を習慣流産と定義する.なお,生化学的妊娠は流産回数には数えない.
❖不育症のリスク因子は多岐にわたるが,エビデンスが確立しているリスク因子としては,抗リン脂質抗体症候群,子宮奇形,夫婦染色体異常(染色体転座)があり,3大リスク因子である.
❖子宮形態異常・子宮奇形の診断には超音波検査を中心に子宮卵管造影,子宮鏡検査を行い,中隔子宮と双角子宮の鑑別には3D超音波検査が有用である.

抗リン脂質抗体症候群

著者: 杉浦真弓

ページ範囲:P.173 - P.178

外来管理のポイント
❖2回以上の早期流産,1回以上の子宮内胎児死亡,妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による34週未満の早産のときに疑う.
❖2種類のループスアンチコアグラントとして,リン脂質中和法,希釈ラッセル蛇毒法の両方とも測定する.
❖抗カルジオリピン・β2GPⅠ複合体抗体もしくは抗カルジオリピン抗体のどちらかを測定する.

頸管無力症

著者: 大槻克文 ,   小松玲奈 ,   西健 ,   安藤智

ページ範囲:P.179 - P.184

外来管理のポイント
❖最善の妊娠管理方針を決定するためには,詳細な問診により後期流産や早産のリスクをもれなく抽出することが肝要である.
❖過去の不幸な転帰の原因が頸管無力症因子であるのか,あるいはそれ以外の因子によるものなのかによって対応は異なる(複合因子であることもありうる).
❖広義の不育症(習慣流産)の症例に対して実施する頸管縫縮術の予後に関して,頸管縫縮術の実施が有用であるという明らかなエビデンスは示されておらず,その適応については,手術のリスクも含め,保存的管理(縫縮術を実施しない場合)の予後とよく比較し,症例ごとに十分に検討する必要がある.

染色体構造異常

著者: 小澤伸晃 ,   丸山哲夫

ページ範囲:P.185 - P.189

外来管理のポイント
❖均衡型構造異常は,保因者自体の表現型には異常をきたさないものの,減数分裂で不均衡型配偶子を生成するため,流産(習慣流産),不均衡児出産といった生殖異常をきたす染色体異常である.
❖習慣流産症例に対する夫婦染色体検査では,遺伝学的検査として検査前の遺伝カウンセリングが重要であり,異常が検出された際は保因者の特定も含めて細心の配慮が必要となる.
❖均衡型構造異常保因者に対しては,検出された構造異常による生殖への影響について必要な情報提供を行い,着床前診断の可能性と自然妊娠予後に関して十分なカウンセリングが必要である.

【疾患編3】周産期

著者:

ページ範囲:P.191 - P.191

《周産期疾患》

異所性妊娠

著者: 難波聡 ,   岡島多希

ページ範囲:P.192 - P.195

外来管理のポイント
❖異所性妊娠の可能性を考慮して外来で血中hCG測定を行った場合には,本人が来院しなくとも,結果が出次第ただちに値を確認すべきである.
❖異所性妊娠が疑われ,外来管理を行う場合には,腹痛などの起こりうる症状,発症時の連絡先の説明など,患者とのコミュニケーションを十分に行う.できれば注意事項を文書にして渡すのが望ましい.
❖外来で薬物療法や待機療法の管理を行う際,腹腔内出血により急激に状態が悪化することがあるので,緊急手術対応が可能な条件下で行うことが必要である.

胞状奇胎/存続絨毛症

著者: 松井英雄 ,   菅野俊幸

ページ範囲:P.196 - P.200

外来管理のポイント
❖胞状奇胎は稀な疾患ではあるが,妊娠中に不正出血を訴える患者を診察するときに胞状奇胎を疑い,典型的な超音波所見を認めれば診断は容易である.

切迫流早産

著者: 高橋聡太 ,   齋藤昌利 ,   菅原準一

ページ範囲:P.202 - P.207

外来管理のポイント
❖早産/切迫早産は子宮─胎盤の炎症を中心とする種々の原因が組み合わされた「症候群」として考えられている.
❖個々の症例の早産リスク因子を把握し,切迫早産徴候の原因および炎症の主座を推定することで,適切な治療方針を決定していく.常位胎盤早期剝離の除外診断は特に念頭におく.
❖最近の米国産婦人科学会(ACOG)ガイドラインの改訂では,分娩前「経母体副腎皮質ステロイド投与」の有用性が強調されており,今後「早産の予知」に対する重要性はますます高まると思われる.

絨毛膜羊膜炎

著者: 佐藤昌司

ページ範囲:P.208 - P.211

外来管理のポイント
❖前期破水,切迫早産,頸管無力症と判断される症例では,背景に絨毛膜羊膜炎が存在する可能性を常に念頭に置き,臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準を念頭に置いた現症観察と血液生化学的検査を行う.
❖絨毛膜羊膜炎を疑う症例は基本的に入院管理とし,母体炎症の増悪の有無,胎児健常性のチェックを行うとともに,妊娠週数を考慮しながら早産予防あるいは娩出のいずれかを判断する.

胎児機能不全

著者: 藤森敬也 ,   経塚標 ,   安田俊

ページ範囲:P.212 - P.215

外来管理のポイント
❖胎児機能不全(non-reassuring fetal status : NRFS)とは,胎児well-being評価法を用いても,胎児状態が良好であること(reassuring fetal status)を確認できない状態であり,決してすべてが胎児状態の悪化を意味しているわけではない.
❖子宮内環境と胎児発育とは関連性が強いので,外来では胎児発育に注意を払う必要がある.胎児成長が良好であれば子宮内環境は良好であるが,胎児発育不全の場合は胎児機能不全となりやすい.
❖羊水量減少や胎児血流ドプラ波形異常,胎児発育停止は,慢性的な子宮内環境の悪化を示唆している.外来で胎児発育不全を認める場合は,羊水量減少や胎児血流ドプラ波形異常がないかに特に注意し,入院管理を考慮する.

前置胎盤

著者: 仲村将光

ページ範囲:P.216 - P.219

外来管理のポイント
❖前置胎盤を正しく診断し,高次施設に紹介するためには,妊娠30週までに組織学的内子宮口と胎盤辺縁との位置関係に加えて子宮下節長を考慮した評価が重要である.
❖前置胎盤と診断した症例では,妊娠35〜37週の時期に帝王切開を予定し,その予定に沿って分娩時出血に備えるための自己血貯血を行う(自己血の保存期間に注意!).
❖前置胎盤症例に出血を認めた場合,いったん止血していたとしても,のちの緊急帝王切開に備えて入院管理を行う(出血を認めた前置胎盤の約6割は緊急帝王切開となる).

常位胎盤早期剝離

著者: 進藤亮輔 ,   青木茂

ページ範囲:P.220 - P.223

外来管理のポイント
❖常位胎盤早期剝離(早剝)には性器出血を伴うrevealed abruptionと性器出血のないconcealed abruptionがあるが,後者では胎盤の中央部が剝離するためより重篤な症状を呈し,予後不良である.
❖出血や胎盤後血腫などの典型的な所見のないことも多く,むしろ出血よりも腹痛のほうがより重症度に関連する所見である.妊婦が腹痛を訴える場合,早剝を常に念頭におき,切迫早産や前駆陣痛との鑑別を進めることが肝要である.
❖胎盤辺縁部の静脈性出血であるchronic abruptionは,らせん動脈の破綻によって生じる真の早剝とは病態が異なり,待機的に管理することも可能である.ただし,真の早剝に移行するリスクが高いため,入院管理は必須である.

妊娠高血圧症候群

著者: 森川守

ページ範囲:P.224 - P.229

外来管理のポイント
❖妊婦自身に妊娠高血圧症候群(HDP)に伴う自覚症状や随伴症状が続くようであれば,経過観察せずに早めにかかりつけ産科医を受診いただくことが,HDP発症の早期発見につながる.
❖HDP妊婦は入院管理により,的確な児娩出時期の決定および遂行,ならびに可能であれば妊娠期間の延長が可能となる.外来で管理する場合には,入院管理の開始が遅れないように注意する.
❖妊娠高血圧腎症(PE)では原則として入院管理する.また,重症妊娠高血圧では,PEに準じて管理する.妊娠蛋白尿の約半数が2〜3週後に高血圧も合併しPEとなるので注意する.

周産期心筋症

著者: 松永茂剛 ,   中村永信

ページ範囲:P.230 - P.235

外来管理のポイント
❖周産期心筋症の初発症状は感冒様症状に類似しているため,同主訴で来院した患者の診察にあたっては周産期心筋症を念頭におく必要がある.
❖心不全既往のない妊娠後期の妊婦や産褥婦に,息切れや咳嗽,浮腫を認める場合には周産期心筋症を疑い精査を行う.心不全診断時の心機能が母体の予後と相関する.
❖周産期心筋症に対する初期治療は,診断と治療を同時に進行すべきであり,外来対応においてはリーダー医師のもとに産科医師のほか,救急科医,循環器科医,麻酔科医などが連携したチーム医療を必要とするため,集学的治療が可能な施設での管理が望ましい.

羊水塞栓症

著者: 田村直顕

ページ範囲:P.236 - P.241

外来管理のポイント
❖分娩周辺期の突然のショック,呼吸困難,意識障害,胎児機能不全は羊水塞栓症の可能性を念頭に置く.
❖分娩後早期からフィブリノゲンが著しく減少し,重症の子宮弛緩症を呈する場合,羊水塞栓症の可能性を念頭に置く.
❖初期対応と並行してマンパワーを集め,速やかにICUなどに移動させて集学的管理を行い,同時に患者・家族への丁寧な説明を心掛ける.
❖DICが先行している場合,初期から新鮮凍結血漿を十分量投与する.

子宮復古不全

著者: 成瀬勝彦

ページ範囲:P.242 - P.246

外来管理のポイント
❖分娩直後に異常がなくても,産後1か月までの出血と感染徴候・発熱には要注意.おかしいなと感じたら早めに来院するよう指導する.
❖退院時診察や産後健診では積極的に超音波を併用する.経験的に内診のみで行われることも多い産後診察だが,産婦健診補助の拡大で医療行為へのコスト面の裏付けができた.
❖子宮収縮薬の投与のほか,抗菌薬も考慮されるが,使用するなら組織移行性のよいものを勧める.

乳腺炎

著者: 西口富三

ページ範囲:P.247 - P.250

外来管理のポイント
❖以前は乳腺炎を起こしている乳房からの授乳を禁止する指導が行われていたが,乳腺炎治療中でも搾乳のうえ,授乳を継続するよう指導する.
❖抗菌薬投与にあたっては,2〜3日後に受診を勧め,病状の改善状況を評価する.症状が軽快していない場合は,MRSA感染の可能性を考慮する.
❖難治性の場合,MRSA感染や悪性腫瘍(妊娠関連乳がん)の可能性を考慮し,躊躇せず感染症専門医あるいは乳腺外科医にコンサルトする.

《妊婦のコモンディジーズ》

かぜ症候群/インフルエンザ

著者: 中里紀彦 ,   兵藤博信

ページ範囲:P.251 - P.254

外来管理のポイント
❖感冒薬を処方する際は妊娠週数を踏まえたうえで,薬剤投与による有益性が十分あると判断される場合に処方をする.
❖インフルエンザワクチンの予防接種は妊娠中のいずれの時期においても勧められ,治療薬も有益性があると判断されれば処方できる.
❖かぜ症候群/インフルエンザは臨床症状をもとに診断することが基本であり,インフルエンザ迅速キットを用いる場合,偽陰性に注意する.

単純ヘルペスウイルス感染症

著者: 川名尚

ページ範囲:P.255 - P.260

外来管理のポイント
❖単純ヘルペスウイルスの感染症(主として性器ヘルペス)であることを臨床症状だけでなく,病変部から検体を採取し病原診断を用いて確定すること.病原診断で陰性であるからといって性器ヘルペスを否定せず,臨床経過や血清診断(型特異抗体の検出)も参考にする.現病歴や既往歴によって初発か再発かを決めること.この際,血清抗体(IgG抗体,IgM抗体)を参考にするとよい.
❖治療はバラシクロビル,アシクロビルの経口投与を用いる.ただし,妊娠初期はアシクロビル軟膏を用いる.
❖母子感染(産道感染)を予防するための分娩様式は,初発例では発症より1か月以内,再発例では1週間以内の場合は帝王切開分娩が推奨される.筆者は性器ヘルペス合併妊婦に,妊娠36週から分娩まで性器ヘルペス再発抑制療法を一律に行うのではなく,症例を選択して行うのがよいのではないかと考えている.

B群溶連菌(GBS)感染症

著者: 鈴木俊治

ページ範囲:P.262 - P.267

外来管理のポイント
❖正期産児早発型B群溶連菌(GBS)感染症予防のため,「産婦人科診療ガイドライン─産科編」に示された保菌妊婦の診断方法を徹底する.
❖遅発型GBS感染症の割合が増加していることに留意して,GBS感染症の初発症状に関する指導を行う.

片頭痛

著者: 小畠真奈

ページ範囲:P.268 - P.272

外来管理のポイント
❖半数以上の片頭痛患者で妊娠中に症状の改善が認められる.一方,妊娠中に片頭痛が新たに発症することもあり,この場合は二次性頭痛との鑑別が重要となる.
❖片頭痛患者は妊娠高血圧症候群と分娩後の脳卒中のリスクが上昇することが指摘されている.頭痛症状とともに血圧,蛋白尿の慎重な観察を行う.
❖片頭痛発作頓挫薬の第一選択はアセトアミノフェンである.ただし,妊娠中のアセトアミノフェン投与と出生した児のADHD罹患との関連が近年指摘されており,長期間の多量投与は避けるべきである.
❖妊娠中の発作予防には食事を含めたライフスタイルの改善が重要であることを患者に伝える.

腰痛/骨盤周囲痛

著者: 小西久也 ,   大鷹美子

ページ範囲:P.273 - P.280

外来診療のポイント
❖妊娠に関連する腰痛(PLBP)・骨盤周囲痛(PGP)は妊娠による重心の変化やホルモンによる関節の緩みによって多くの妊婦に認めるものである.
❖さまざまな疼痛誘発テストを行い,症状の有無や度合いを把握し,運動療法や薬物療法を適切に使用することが望ましい.
❖正しい患者教育や枕・ベルトなどの適切な使用にて症状の悪化の予防やQOLの向上が可能である.

尿路感染症

著者: 田中幹二 ,   小玉都萌

ページ範囲:P.281 - P.284

外来管理のポイント
❖妊婦においては,腎盂腎炎の発症予防のため妊娠早期に細菌尿のスクリーニング検査を行い,陽性の場合は無症候性細菌尿であっても治療すべきである.
❖妊婦の尿路感染症(無症候性細菌尿,急性膀胱炎,急性腎盂腎炎)の原因菌として検出されるのは,主に大腸菌である.
❖治療の際には胎児への安全性を考慮し,抗菌薬はペニシリン系薬あるいはセフェム系薬を第一選択とするが,近年の薬剤耐性菌の出現も考慮し選択する.

下肢静脈瘤

著者: 永松健

ページ範囲:P.285 - P.287

外来管理のポイント
❖下肢静脈瘤は妊婦において高頻度に発生するが,多くは出産後に自然消失する.
❖血栓性静脈炎や下腿潰瘍を形成する場合は,圧迫療法による治療を必要とする.
❖程度や範囲が著しい場合には,深部静脈血栓症に続発した発生の可能性を念頭に置いて精査を行う.

《妊婦・褥婦の合併疾患とその増悪》

糖尿病性ケトアシドーシス/劇症1型糖尿病

著者: 杉山隆

ページ範囲:P.288 - P.295

外来管理のポイント
❖糖尿病女性(特に1型糖尿病)が糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis : DKA)を合併した場合,強い全身倦怠感と意識障害が特徴である.
❖DKAでは昏睡の可能性も高く,そのほとんどは救急車で搬送される.意識がないとの情報が入れば,妊婦であっても産科病棟に搬入せず,ICUへ収容すべきである.多くは1型糖尿病であるが,耐糖能異常の既往がない場合,劇症1型糖尿病の可能性を留意する.患者の呼吸状態(大呼吸,ケトン臭),尿定性検査での尿糖強陽性,尿ケトン強陽性が特徴である.もちろん高血糖(>300mg/dL)の情報も重要である.
❖治療の要は,脱水に対する急速補液および高血糖に対する血糖コントロールであるが,急激な低下は脳浮腫のリスクを伴うので注意を要する.
❖劇症1型糖尿病の場合,耐糖能異常の既往がない女性がDKAを発症して診断される(表1参照 : ①すでにケトーシスやケトアシドーシスを生じている.②初診時の随時血糖値は≧288mg/dL,かつHbA1c値<8.7%,③発症時の尿中Cペプチド<10μg/日または血清Cペプチド<0.5ng/mL)1).妊娠と関連することが知られており,特に妊娠後半期から産褥期に発症し,発症1週間ほど前に感冒様症状を伴うことが多い.また,子宮内胎児死亡の頻度が高い(約60%)2)

気管支喘息の増悪

著者: 牧野郁子 ,   牧野吉朗 ,   牧野康男

ページ範囲:P.296 - P.302

外来管理のポイント
❖妊娠前および分娩前に喘息に対して最適な管理を行えば,母体ならびに胎児死亡のリスクを軽減でき,分娩中の重症喘息発作は起こさない.
❖妊婦の60〜70%が妊娠期間中に呼吸困難感を経験するが,その多くは生理的な過換気を妊婦が自覚することによる.喘息発作を起こす妊婦のほとんどは喘息の既往歴があるため,問診が重要となる.
❖長期管理薬としては,成人喘息の通常治療と同じく吸入ステロイド薬が,妊婦でも第一選択薬となる.

Basedow病の再燃・増悪

著者: 荒田尚子

ページ範囲:P.303 - P.306

外来管理のポイント
❖妊娠中のBasedow病の治療では,抗甲状腺薬が第一選択薬になるが,器官形成期,特に妊娠5〜9週はチアマゾールの使用を避ける.妊娠中期以降はチアマゾールを第一選択薬とする.
❖Basedow病で妊娠後期になっても抗甲状腺薬が中止できない場合には,胎児甲状腺腫に留意する必要がある.
❖妊娠後期のTSHレセプター抗体が10μIU/mL以上のBasedow病合併妊娠の場合は,新生児科(小児科)医との連携が必要である.

潜在性甲状腺機能低下症の管理

著者: 岡﨑有香 ,   荒田尚子

ページ範囲:P.307 - P.310

外来管理のポイント
❖潜在性甲状腺機能低下症は流死産などの妊娠転帰に関連し,産後にも甲状腺機能異常をきたすことがあるため,周産期における甲状腺機能の管理が重要である.
❖甲状腺疾患のハイリスク女性では,妊娠初期に甲状腺機能のスクリーニング検査を行う.
❖妊娠前,妊娠中および産後それぞれの潜在性甲状腺機能低下症の管理指針を示す.

てんかん発作

著者: 加藤昌明

ページ範囲:P.311 - P.314

外来管理のポイント
❖妊娠に先立って,その患者に最適な薬物(発作リスク最小,胎児へのリスク最小)にあらかじめ調整しておく.患者に服薬の意義を十分に説明し,妊娠後の自己判断による怠薬を防ぐ.妊娠に先立って葉酸少量を適宜補充開始する.
❖近年では,胎児への安全性が高いレベチラセタム,ラモトリギンが広く用いられはじめている.それらは妊娠中に血中濃度が低下しやすく,発作を予防するために妊娠中に増量する必要がある.
❖基本的に自然分娩が可能.妊娠中に薬物を増量した場合には,産後1週間程度で元の量に減量する.授乳は基本的に可能であるが,一部注意を要する薬物がある.

精神疾患の増悪/産後うつ

著者: 鈴木利人

ページ範囲:P.315 - P.318

外来管理のポイント
❖産後うつ病はおよそ半数が出産前からうつ状態にあり,症状も産後に重症化しやすい.したがって妊娠期からの注意深い精神面の管理が必要である.
❖産後うつ病は悪化すると訂正不能な自責的・絶望的な妄想に発展し,自殺企図に及ぶことに留意する.自殺企図は致死性の高い縊首などの手段をとることが多いので早期に精神科を紹介する.
❖患者を児とともに孤立させず,家族による献身的な援助や保健師の頻回の訪問,行政サービスの紹介・導入などを行い,患者の心身両面における負担を軽減させ,愛着障害や虐待などへの発展を予防することに努める.

【疾患編4】更年期・老年期

著者:

ページ範囲:P.319 - P.319

更年期障害

著者: 髙松潔 ,   吉丸真澄 ,   小川真里子

ページ範囲:P.320 - P.329

外来管理のポイント
❖更年期障害の診断は除外診断によるため,愁訴の背景に隠れている可能性のある疾患,特に気分障害や不安障害,甲状腺機能異常などのチェックが欠かせない.
❖更年期障害の治療法としては,薬物療法としてホルモン補充療法(HRT),漢方療法,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)を中心とした向精神薬投与などが,非薬物療法としてカウンセリングや心理療法などが用いられる.近年,エビデンスのあるサプリメントも利用できる.
❖HRTについては,懸念されていた乳がんリスクについても,HRTの寄与は小さいことにコンセンサスが得られている.『HRTガイドライン2017年度版』も発刊され,安心・安全かつ有効に施行できる.

月経不順/不正性器出血

著者: 尾林聡

ページ範囲:P.330 - P.334

外来管理のポイント
❖更年期以降の不正出血は婦人科医ならばしばしば経験する症状であるが,その原因となる疾患の鑑別には,悪性腫瘍の除外診断は必須である.
❖不正出血はまず出血部位を目視で確認し,その部位に対して適切に検査を行いながら,出血原因を探ることが重要である.
❖閉経後の出血や帯下の原因として萎縮性腟炎が散見されるが,他疾患の鑑別を行ったうえで,エストロゲン腟剤を使用する.

萎縮性腟炎

著者: 寺内公一

ページ範囲:P.335 - P.339

外来管理のポイント
❖閉経後女性が腟乾燥感・性交痛・出血・帯下を訴えて来院した場合には萎縮性腟炎および細菌性腟症である可能性が高いが,子宮頸部・体部腫瘍の除外は必要である.
❖外陰腟萎縮症状以外にエストロゲン欠乏症状がない場合には,局所的ホルモン療法を選択する.エストリオール(E3)腟剤の効果は投与開始2週間後に認められる.
❖ホットフラッシュや発汗などの血管運動神経症状をはじめとする更年期症状を合併する場合には,ベネフィットとリスクについて検討したうえで,全身的ホルモン療法を行う.

骨粗鬆症

著者: 岡野浩哉

ページ範囲:P.340 - P.350

外来管理のポイント
❖いったん骨折を起こすときわめて予後不良な疾患である骨粗鬆症に対し,骨折の一次予防が婦人科医の役割といえる.
❖婦人科外来受診患者を診る際には,骨粗鬆症および骨折予防の観点も念頭に入れ問診を行い,積極的な骨の健康評価を行う.
❖長期管理が原則となるため,多くの骨折予防効果の明らかな薬剤の特徴を理解し,有害事象の発現に留意し適切な処方を行う.

下部尿路症状

著者: 田辺晃子

ページ範囲:P.351 - P.359

外来管理のポイント
❖訴えのある下部尿路症状が,①蓄尿症状,②排尿症状.③排尿後症状のいずれに分類できるか見きわめるのが診療の鍵である.以上の症状は重複することが多い.
❖下部尿路機能の障害は,泌尿器臓器の器質的異常のみならず,骨盤臓器脱や子宮筋腫など女性特有の腫瘤性病変が原因となる場合も多いため,婦人科的診療が治療法選択のキーポイントとなりえる.
❖女性の下部尿路症状のうち有症状率が高い過活動膀胱は,婦人科外来においても問診(OABSS)と簡単な検査(検尿と超音波による残尿測定)で診断でき,薬物治療することができる.

骨盤臓器脱(POP)

著者: 古山将康

ページ範囲:P.360 - P.365

外来管理のポイント
❖骨盤臓器脱は腟の支持破綻によって尿道,膀胱,子宮,直腸が腟ヘルニアとなって出現し,現在の超高齢社会では11%の女性に医学的介入が必要となる.
❖75%の骨盤臓器脱患者は骨盤底筋トレーニングや腟ペッサリーによる保存的治療で対応可能で,過活動膀胱や排尿困難などの付随症状を軽減することができる.
❖手術療法では従来からの腟式子宮全摘出術,腟壁縫縮術(上部腟管の固定手術),腟閉鎖術,TVM手術,腹腔鏡下仙骨腟固定手術が施行される.
❖TVM手術はメッシュによる合併症(メッシュびらん,感染症,性交痛)のため米国FDAのアラートで世界的に減少し,腹腔鏡下仙骨腟固定手術が増加しつつある.

【疾患編5】性感染症

著者:

ページ範囲:P.367 - P.367

クラミジア感染症

著者: 岩破一博

ページ範囲:P.368 - P.371

外来管理のポイント
❖クラミジア(CT)感染症は,定点報告では減少しているとされているが,性感染症発症受診者の年間推計数の推移,妊婦,郵送検査などでは増加傾向にあるので注意が必要である.
❖CTの検査法には,分離培養法,遺伝子検査法,抗原検出法,血清診断法などがある.各種ガイドラインでは,核酸増幅法が感度と特異性が高く,検体の保存や搬送も容易であることから推奨されている.
❖CTの治療は,アジスロマイシン1,000mg(単回投与)がfirst choiceで,妊婦でも,アジスロマイシンが推奨されている.またパートナーの治療を同時に行わなければならない.

尖圭コンジローマ

著者: 野口靖之 ,   嶋津光真

ページ範囲:P.372 - P.374

外来管理のポイント
❖臨床症状や肉眼所見により診断を行うが,必要に応じて組織診により鑑別診断を行う.
❖イミキモド5%クリームによる保存的治療と切除,冷凍療法,電気焼灼,レーザー蒸散などの外科的療法がある.
❖4価HPVワクチンにより予防が可能である.

梅毒

著者: 宮内彰人

ページ範囲:P.376 - P.379

外来管理のポイント
❖日本では2011年ごろから患者数が急増し,男女間の性交渉による感染が,特に若い女性で増えている.
❖診断は梅毒血清反応(STSとTPHA)または病原体の検出により行う.
❖治療はペニシリン内服を第一選択とし,第1期は2〜4週間,第2期では4〜8週間,第3期以降では8〜12週間投与し,STSで治癒判定する.
❖梅毒の診断が確定した場合,診断した医師は感染症法に基づき,届け出を行う.

淋菌感染症

著者: 岩破一博

ページ範囲:P.380 - P.384

外来管理のポイント
❖女性では,淋菌(NG)の治療失敗例を放置すると不妊症の原因となるため,感度の高い核酸増幅法により治療効果判定を行う.性器および咽頭にクラミジア(CT)を混合感染することがあるので,NGだけでなく同時にCT検査を行うことが必要である.
❖性成熟前の小児にNG感染症を診た場合,治療と同時に性的虐待の有無を疑う.
❖セフトリアキソン(CTRX)は世界的にもNG感染症治療の第一選択薬であるが,CTRX耐性NGの出現と拡散は,NG感染症治療をきわめて困難にすることが危惧される.適切な抗菌薬治療を徹底するためにも,NGの分離同定と薬剤感受性試験の実施が重要になる.薬剤感受性の低下した耐性株の存在から,治療後の治癒判定検査が必要である.

トリコモナス症

著者: 野口靖之 ,   嶋津光真

ページ範囲:P.386 - P.388

外来管理のポイント
❖泡状で悪臭を伴う黄緑色帯下を自覚したら本疾患を疑う.
❖治療は,メトロニダゾールもしくはチニダゾールを用いる.トリコモナス原虫は,腟内だけでなく膀胱や直腸に感染するため経口薬を用いた全身投与が原則である.
❖ニトロニダゾールもしくはチニダゾール内服中の飲酒により,相互作用として腹痛,嘔吐,潮紅などが出現する.これら投与中および投与後3日間は,飲酒を避けるよう指導する.

性器カンジダ症

著者: 宮内彰人

ページ範囲:P.389 - P.391

外来管理のポイント
❖性器カンジダ症は性感染症であるが,日和見感染症としての側面をもつことに留意する.
❖トリコモナス腟炎,細菌性腟症などとの鑑別のため,一連の問診,外陰部所見,腟鏡診,腟内pH測定,鏡検,培養を行って診断する.
❖治療は,局所の清潔と安静を保つなどの一般的注意をしつつ,治療薬として腟錠,腟坐剤,軟膏,クリーム,経口錠などを用いる.

【疾患編6】良性婦人科疾患

著者:

ページ範囲:P.393 - P.393

子宮筋腫

著者: 秋野なな ,   平池修

ページ範囲:P.394 - P.397

外来管理のポイント
❖治療には手術と薬物治療があり,効果や副作用も大きく異なるため慎重に検討する!
❖子宮筋腫の治療は,その大きさや場所だけでなく,患者の年齢や症状,妊娠希望などを考慮して個別に対応する!
❖子宮動脈塞栓術など新たに保険適応された治療法もあり,常に知識のアップデートが必要である!

子宮内膜症/子宮腺筋症

著者: 百枝幹雄

ページ範囲:P.398 - P.401

外来管理のポイント
❖妊孕性温存を希望する場合にはホルモン療法を優先するが,薬物療法では疼痛コントロール困難な場合や卵巣チョコレート囊胞が大きい場合には手術を行う.
❖特に妊孕性温存を目的とする場合には,術後再発予防のためのホルモン療法が望ましい.
❖卵巣チョコレート囊胞をフォローする場合には悪性化に注意して経過観察する.

卵巣腫瘍/卵巣囊胞

著者: 樋口毅

ページ範囲:P.402 - P.406

外来管理のポイント
❖良性卵巣腫瘍の治療前診断は,あくまでも推定診断であることを説明し,症状出現やサイズ増大で精査や手術が必要となる可能性を理解してもらう.
❖現在症状がなくとも腫瘍が変化する可能性を説明し,定期的なフォローの必要性を理解してもらう.
❖子宮内膜症性囊胞や成熟奇形腫などの長期的変化(フォロー中の悪性腫瘍の発生や悪性転化など)についても説明が必要である.

バルトリン腺囊腫

著者: 北出尚子 ,   齋藤俊章

ページ範囲:P.407 - P.410

外来管理のポイント
❖片側性に発生する外陰部の囊胞性疾患である.感染の有無,サイズ,症状により対応が異なる.小さい無症状のものは経過観察でよい.感染を伴っている場合は抗菌薬投与を行う.
❖疼痛が強い場合,サイズの大きなもの,再発を繰り返す場合は小手術の対象となる.穿刺・切開,ドレナージ,開窓術が従来からの方法であるが,特有の処置用カテーテルも国外では利用されている.
❖稀ではあるがバルトリン腺癌など悪性疾患の併存もあり,年齢(閉経後),充実性腫瘤など非典型例では積極的に病理組織学的評価を行う.

【疾患編7】悪性腫瘍

著者:

ページ範囲:P.411 - P.411

《がん検診》

子宮頸がん検診/検診異常の精査

著者: 山口真奈子 ,   石黒竜也 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.412 - P.416

がん検診のポイント
❖わが国の子宮頸がん検診受診率は低く,平均で50%未満である.
❖細胞診単独検診では感度の低さに留意する必要があり,特に腺癌は扁平上皮癌よりも細胞診で偽陰性となりやすい.
❖世界ではHPV検査単独または細胞診との併用検査でのスクリーニングに移行しつつある.

子宮体がん検診/検診異常の精査

著者: 進伸幸 ,   齋藤英子 ,   田中都生

ページ範囲:P.418 - P.423

がん検診のポイント

 がん検診は,行政検診でのスクリーニングの場合と,精査目的の外来診療としての内膜検査の場合とがある.
❖子宮体がん検診は,子宮頸がん検診の際に,不正性器出血があって,50歳以上または閉経以後の者または月経不規則の者を対象として行われることがあるが,実施されていない市町村も多い.子宮体がん検診は,死亡率減少を指標とした場合の有効性は示されていない.
❖不正性器出血,内膜肥厚,内膜細胞診異常,過多月経などを主訴に受診となることが多い.最終月経,月経周期,妊娠の可能性,基礎体温などの情報を確認し,経腟超音波検査にて内膜の厚さ,内腔の方向,エコー輝度不均一性などを細胞診や組織診の前に確認しておく.
❖内膜細胞診は擦過式と吸引式があり,出血状態により選択する.マルチン鉗子で過度に頸部を牽引すると迷走神経反射をきたすことがあり,注意が必要である.内膜組織診は,擦過式の場合は子宮の前屈後屈の程度に合わせてキュレット鉗子の曲げ方を調節して,4方向以上でゆっくり掻爬を行う.

乳がん検診

著者: 藤野敬史 ,   小林範子

ページ範囲:P.424 - P.428

がん検診のポイント
❖乳がん検診による利益と不利益は年齢により異なるので,受診者によく情報を提供する.
❖受診者の背景,個別のリスクを考慮したうえで最適な検診の方法を選択する.
❖検診の精度管理を行い,過剰な要精検を避ける.

《予防・治療》

子宮頸がんワクチン

著者: 角張玲沙 ,   上田豊 ,   木村正

ページ範囲:P.429 - P.432

外来診療のポイント
❖近年子宮頸がんの罹患率が上昇しており,特に若年女性での増加が著しい.
❖子宮頸がんのほとんどはHPV感染が原因であり,子宮頸がんワクチンによる感染予防に期待がかかる.
❖子宮頸がんワクチンは2013年に本邦において改定定期接種法に定められ,定期接種化された.しかし,いわゆる副反応報道により勧奨の一時中止が厚労省から発表され,現在も継続されたままである.
❖国内外の慎重な検討によると,子宮頸がんワクチンと副反応を関連付けるエビデンスに明らかなものはなく,勧奨中止継続による将来の子宮頸がん増加が危惧される.

子宮体がんに対するMPA療法

著者: 田中良道

ページ範囲:P.433 - P.436

外来診療のポイント
❖MPA療法の適応は,挙児希望の強い子宮内膜異型増殖症と子宮内膜に限局する類内膜がんG1である.本邦の類内膜がんG1症例に対する奏効率は約70%,再発率は約50%,妊娠率は約35%である.
❖MPA投与中は定期的な子宮内膜組織診による評価が必要である.有害事象として特に脳梗塞,心筋梗塞,肺塞栓症などの重篤な血栓症に注意が必要である.
❖再発例に対するMPA再投与の有効性は明らかではなく,再発時は子宮全摘出術が原則である.

侵入奇胎・絨毛がんに対する薬物療法

著者: 井箟一彦 ,   岩橋尚幸 ,   野口智子 ,   八幡環

ページ範囲:P.437 - P.440

外来診療のポイント
❖胞状奇胎後の管理として定期的なhCG測定を外来にて行い,続発症を疑った場合は,適切な画像診断に基づくスコアリングを用いて,侵入奇胎と絨毛がんを正確に分類し,治療方針を立てる.
❖侵入奇胎に対してはメトトレキサート単剤療法を第一選択とし,外来化学療法で十分可能である.アクチノマイシンD単剤の場合は,悪心・嘔吐などの有害事象の程度により,外来または入院で治療を行う.
❖絨毛がんに対しては多剤併用化学療法を行うため,化学療法中は入院管理が望ましいが,休薬期間中は,毎週の血中hCG測定と,好中球減少に対するG-CSF投与などの有害事象対策が外来診療において重要である.

《術後フォロー》

子宮頸がんの治療後フォロー

著者: 宇津木久仁子

ページ範囲:P.441 - P.445

術後フォローのポイント
❖再発の早期発見のために,リスクに応じ診察間隔やフォローアップ期間を調整する.細胞診異常や腫瘍マーカー上昇が発見のきっかけになる.
❖合併症のケアも行うこと.特に慢性的なリンパ浮腫は重症化しないうちに複合的治療を開始すること.
❖照射後は腟壁が癒着することがあるので,内診で癒着を剝がしておく必要がある.癒着すると子宮腟部や腟断端部の細胞が採取できなくなる.

子宮体がんの術後フォロー

著者: 寺田貴武 ,   牛嶋公生

ページ範囲:P.446 - P.449

術後フォローのポイント
❖子宮体がん術後の経過観察の間隔,検査項目について十分なエビデンスはなく,確立されていない.また,再発の早期発見が予後の改善につながる十分なエビデンスはない.
❖経過観察の目的は再発早期発見による予後の改善と生活の質の維持・向上にある.また,心理的な安心感を得ることで患者・家族の生活の質が改善されることも重要である.
❖再発の早期発見のみならず,排尿障害,下肢リンパ浮腫,外科的閉経などの,治療による合併症の発見や患者に対する情報提供,およびその際の早期対応も重要である.

卵巣がんの術後フォロー

著者: 藤原聡枝 ,   大道正英

ページ範囲:P.450 - P.453

術後フォローのポイント
❖初回治療終了後のフォローアップの間隔は,最初の2年間は短い間隔で行い,それ以降は徐々に間隔を延ばすことが可能である.
❖問診,内診は毎回行うことが勧められ,CA125測定,経腟超音波断層法検査,CT画像検査は適宜考慮する.
❖術後のエストロゲン欠落症状を有する患者には,ホルモン補充療法を行うことの安全性と有効性が示されている.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.4

奥付

ページ範囲:P.454 - P.454

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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