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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科73巻4号

2019年04月発行

雑誌目次

増刊号 産婦人科救急・当直対応マニュアル

著者:

ページ範囲:P.1 - P.1

Ⅰ.救急外来・当直に備えた心構え

著者:

ページ範囲:P.5 - P.5

救急外来からのコールに慌てずに対応するコツ

著者: 谷垣伸治 ,   野口健朗 ,   對馬可菜 ,   松島実穂 ,   松澤由記子

ページ範囲:P.6 - P.11

Point

■己を知り,相手を知る.

■イメトレする.

■Human relationship

当直で焦らない周術期管理のポイント

著者: 笠松由佳 ,   武隈宗孝

ページ範囲:P.12 - P.15

Point

■焦るのは当然,自分一人ですべて解決しようとしない.

■然るべき場合に備え,日ごろからチーム内,看護師,または他科との連携を緊密にしておく(何かあったらすぐ連絡がもらえる・コンサルトできるように).

■重篤なものから順に鑑別する.

分娩当直での心得

著者: 遠藤誠之

ページ範囲:P.16 - P.19

Point

■体調を整えておくべし

■チーム医療であることを再認識すべし

■いざというときのために,ゆめゆめ準備を怠りなきよう

■良好な人間関係を構築することに心を砕くべし

母体搬送をする・受ける際のポイント

著者: 金川武司 ,   光田信明

ページ範囲:P.20 - P.24

Point

■母体搬送をする際は,まず緊急度を判断し,依頼の際に「搬送依頼であること」と「緊急度」を最初に伝える.

■母体搬送の依頼があった際には,まず緊急度と受け入れ可否に必要な情報のみを聞き,対応スピードと受け入れ可否を決める.

■母体救命にかかわる搬送を受ける際は,初療を救命センターで救急科医と行うことができるような院内システムを構築する.

Ⅱ.婦人科編

著者:

ページ範囲:P.25 - P.25

症状・所見からみた疾患鑑別と病態把握

―救急外来―不正性器出血が主訴のとき

著者: 蝦名康彦

ページ範囲:P.26 - P.31

当直医へのコール

 不正性器出血の原因は多岐にわたり,その程度はさまざまであり,生命の危機に直結する大量出血も稀ではない.そのため,まず下記の3点に留意して診療を進める.
◉バイタルサインは安定しているか? 重症度・緊急性はどうか?
◉妊娠しているか? もししていれば,推定される妊娠の時期は?
◉妊娠していなければ,年齢からまず考慮しなければならない重要な疾患は何か?

―救急外来―下腹部痛を主訴とする患者がコンサルトされたとき

著者: 岩井加奈 ,   小林浩

ページ範囲:P.32 - P.35

当直医へのコール
◉救急隊からのコールは,婦人科疾患の既往のある患者や,性器出血を伴う患者,月経中の患者が多い.
◉コンサルトは,1次・2次輪番の内科からが多く,消化器疾患などが否定的な下腹部痛患者や,妊娠の可能性がある患者,下腹部腫瘤を伴う患者がコンサルトされる.
◉コール時はバイタルサインの異常の有無,妊娠の可能性の有無,下腹部痛の性状,発症からの時間などを確認する.

―救急外来―卵巣に腫大・腫瘤がみられる患者がコンサルトされたとき

著者: 本橋卓 ,   田畑務

ページ範囲:P.37 - P.40

当直医へのコール
◉下腹部痛・腹部膨満などの症状を伴っていることが多いが,症状が軽減傾向にあっても必ずしも重症度と比例しないため,一通りの婦人科診察を必ず行う.
◉問診内容とその方法が重要である.妊娠の可能性の確認は当然として,婦人科検診歴,不妊治療歴などはclosed questionが有用な場合もある.
◉通常CTで指摘されていることが多いため,子宮本体や子宮筋腫,消化管腫瘍など他臓器由来であることも珍しくない.別のモダリティでの評価も行い,鑑別を行うことが必要である.

―救急外来―更年期障害が疑われてコンサルトされたとき

著者: 後山尚久

ページ範囲:P.42 - P.45

当直医へのコール

 救急外来や夜間外来で一見更年期障害らしい様相を呈し,鑑別診断を要する場面の特徴は,以下の通りである.このようなケースでは,産婦人科当直医がコールされる可能性がある.
◉動悸,冷汗,胸苦しさ,不安状態で受診したが,内科診察,循環器系・呼吸器系検査では異常なし.
◉上半身が焼けるように熱く,顔面が紅潮し,焦燥感があるが,感染症は否定され,炎症反応も陰性.
◉めまい,ふらつき,日常生活不能な気分の落ち込みで動けなくなり,外出不能.

―入院患者の急変―意識障害

著者: 伊東史学 ,   杉浦敦 ,   喜多恒和

ページ範囲:P.46 - P.49

当直医へのコール
◉婦人科病棟入院患者の状態は,進行がん,化学療法・放射線治療中,手術後,best supportive care中など多岐にわたる.意識障害がみられた場合は,それぞれの患者の背景を把握し,原因を速やかに明らかにし対処することが重要である.
◉意識障害の重症度を判定し,循環動態に影響を及ぼすものであれば速やかに蘇生処置を行ったうえで,原因検索を行う.

―入院患者の急変―発熱

著者: 三木通保 ,   藤原潔

ページ範囲:P.50 - P.56

当直医へのコール
◉入院患者の発熱でコールされるときはさまざまだが,例えば以下のようなコールが想定される.

「術後の患者で帰室後は微熱だったが,徐々に上昇し,39℃台に上昇して来た.指示は解熱鎮痛薬投与で経過観察となっているが,それだけでよいか?」

「抗がん剤治療目的で入院中で,今回は単剤投与のみでもう終了している.明日退院予定だが,徐々に熱が上昇してきている」

「急性腹症で精査の結果,付属器腫瘍が見つかって,産婦人科に入院となった.痛み止めだけで対応するように指示が出ていたが,徐々に発熱も認め始めた」
◉コールの内容で特に注意すべき点は,以下の4点である.不十分であれば,実際にベッドサイドに行き,確認すべきである(「すぐに実施すべき処置」参照).

・バイタルサイン

・随伴症状の有無

・患者背景(入院理由)の把握

・発熱のタイミング

―入院患者の急変―呼吸・循環障害

著者: 竹村昌彦

ページ範囲:P.57 - P.60

当直医へのコール
◉まず症状の重症度を確認することが必要である.
◉呼吸停止,心停止の有無を含めバイタルサインの状態を確認し,事態の緊急度をまず判断する.
◉症状が急激に出現したものなのか,次第に悪化してきたものなのかを確認することも,対応に許される時間的余裕を見積もるために重要な情報となる.

―入院患者の急変―術後出血

著者: 平川八大 ,   二神真行 ,   横山良仁

ページ範囲:P.61 - P.65

当直医へのコール

 当直医へのコールとして3つの状況を想定した.あなたが当直医であればどう対処するだろうか?
◉状況1「尿量が時間20mLです.その他のバイタルサインは安定していますが,このまま様子をみてもいいでしょうか?」
◉状況2「腹腔ドレーンからの流出量は1時間で200mLでした.その後も血性の排液が持続しています」
◉状況3「血圧が60/30mmHgと低下し,脈拍数は120bpmとなっています.すぐに来ていただけないでしょうか?」

救急/時間外での対応法

機能性子宮出血

著者: 升田博隆

ページ範囲:P.66 - P.70

当直医へのコール
◉救急外来や当直帯に不正性器出血を主訴に受診される患者の多くは重症である.
◉機能性出血は除外診断のもとに確定される病名であり,妊娠および器質性疾患(外傷も含む)の有無は重要な情報である.
◉出血傾向を呈するような内科的疾患や投薬の有無も,重要な情報となる.

卵巣出血

著者: 齊藤亜子 ,   西井修

ページ範囲:P.71 - P.74

当直医へのコール
◉どのような状況が多いか : 多くは急激に発症する強い下腹痛の訴えであり,時に消化器症状を伴うこともある.発熱はない.月経があればどの年齢でも起こりうる.
◉特に要注意の情報 : バイタルサイン,全身状態が重要である.ショック,プレショックの場合は手術が必要になることもある.ショックに至る場合,血圧低下の前に脈拍数の増加がみられるので,注意が必要である.抗凝固薬の使用歴や血液疾患の有無を確認する.

卵管妊娠破裂/頸管妊娠出血

著者: 伊東宏絵

ページ範囲:P.75 - P.79

当直医へのコール
◉患者は,激しい腹痛あるいはショックバイタルであることが多く,本人と意思疎通が不可能なことも想定される.
◉必要な情報として,意識レベル(JCS),最終月経と妊娠の可能性,貧血の有無などについて確認する.
◉本疾患では,迅速に処置を行う必要があるので,自施設での対応が可能かどうか判断し,可能であればただちに人員および手術室の確保に努める.

卵巣腫瘍茎捻転

著者: 明樂重夫

ページ範囲:P.80 - P.83

当直医へのコール
◉女性が突然もしくは性交や運動後に発症した,左右どちらかに限局する強い下腹部痛を訴えて受診してくる.
◉血液や尿の検査で特別な所見はほとんど認められない.経腟エコーが最大の診断ツールとなる.
◉緊急手術になることもあるので,入院対応やスタッフ確保の可否についてまず確認しておく必要があることが多い.

卵巣チョコレート囊胞破裂

著者: 河野康志 ,   青柳陽子 ,   楢原久司

ページ範囲:P.84 - P.88

当直医へのコール
◉子宮内膜症性囊胞の破裂は急性腹症や炎症を伴う婦人科救急の代表的疾患である.
◉囊胞内から漏出した内容液による持続する下腹痛や骨盤内の感染のために,緊急手術が必要となる.
◉早期診断の指標はなく,正診率は低い.他の婦人科疾患や消化器疾患との鑑別がしばしば必要となる.

卵巣過剰刺激症候群

著者: 木田尚子 ,   中尾朋子 ,   岡田英孝

ページ範囲:P.89 - P.91

当直医へのコール

 救急外来からコンサルトされ,卵巣過剰刺激症候群と診断される症例は,下記のようなコール内容であることが多い.
◉38歳(20〜40代)の女性です.
◉腹部膨満感,悪心,呼吸困難感の訴えで受診しました.
◉病歴に不妊治療による排卵誘発,卵巣刺激があります.
◉超音波検査で卵巣腫大,腹水を認めます.

腟異物/性器外傷・出血

著者: 中林章

ページ範囲:P.92 - P.94

当直医へのコール

「腟の中に入れたものが取れません」

「陰部が傷ついて出血しています」

 このような問い合わせにときどき遭遇する.前者は「腟異物」,後者は「性器外傷・出血」であり,本稿ではその対応につき述べていく.

緊急避妊

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.96 - P.100

当直医へのコール
◉緊急避妊は,性交の後で行う避妊処置である.来院した女性が本人であり,かつ性交後であること,および性交から72時間以内であることを確認する.性交前に避妊手段を求めて来院した患者には,他の避妊法の実施を指導する.
◉現在の日本で緊急避妊に使用される薬剤は「ノルレボ®錠1.5mg」のみである.ノルレボ®錠1.5mgが自施設に採用されていて在庫があるか否か確認し,在庫がなければ,患者に他施設の受診を促す.

性暴力被害

著者: 宮国泰香 ,   安達知子

ページ範囲:P.101 - P.105

当直医へのコール
◉警察を介する受診では,患者の同意を得たうえで,警察が持参するキットを用いて証拠を採取する.検体は必要事項を正確に記載して,警察に保管してもらう.
◉警察に連絡を取ることなく受診した場合は,公費による費用負担などがあることを伝え,警察への届け出や性暴力・性犯罪被害者のためのワンストップ支援センターへの連絡を勧める.
◉待合場所も含めて,可能な限り他の患者と出会うことがないように,診療室に誘導する.
◉医療者の言動が被害者の心情をさらに傷つける「セカンドレイプ」と受け取られないように,言葉がけに留意する.

術後合併症への対応法

深部静脈血栓症/肺塞栓症

著者: 藤阪智弘 ,   星賀正明

ページ範囲:P.106 - P.112

当直医へのコール

 婦人科術後の患者で,以下のような症状がみられる場合にコールされる.
◉下肢に腫脹・疼痛を認める場合.
◉呼吸困難,胸背部痛,ショック状態,意識がない,心肺停止状態の場合.
◉上記状態が,体位変換・歩行・排泄行為を契機に出現した場合.

消化管穿孔

著者: 長尾昌二

ページ範囲:P.113 - P.116

当直医へのコール
◉消化管穿孔の初期症状は,突然に発症する強い腹痛および嘔吐,術後に持続する発熱,バイタルサインの異常(ショック症状)である.術後にこれらの症状でコールがあった場合には消化管穿孔を念頭に置く必要がある.ただし,高齢者や化学療法後などの免疫不全状態では自覚症状に乏しい場合もあるので,特に注意を要する.
◉下部消化管の穿孔では腸管内容液とともに大量の腸内細菌が腹腔内に流出するため,広範な腹膜炎を発症し,急速に敗血症に進展することが多い.婦人科手術に起因する消化管穿孔の1/4〜1/2程度は下部消化管に発生する.下部消化管穿孔が疑われる場合には,経過をみることなく速やかに対応を開始すべきである.

敗血症

著者: 嶋田知紗 ,   藤堂幸治

ページ範囲:P.117 - P.121

当直医へのコール
◉意識変容,頻呼吸,血圧低下が認められる場合にコールを受けることが多い.
◉意識変容が疑われる場合は,開眼,言語,運動機能に分けて病状を確認する.
◉細菌検査検体の採取の必要性を判断する.

重症薬疹

著者: 澄川靖之 ,   宇原久

ページ範囲:P.124 - P.127

当直医へのコール
◉スティーブンスジョンソン症候群(SJS)を疑う : 全身に紅斑を認め,さらに眼球結膜の充血や眼脂,口唇・口腔粘膜や陰部にびらんを伴うとき.
◉中毒性表皮壊死症(TEN)を疑う : 全身に紅斑を認め,さらに水疱やびらん,痂皮を伴うとき.
◉薬剤過敏症症候群(DIHS)を疑う : 全身に紅斑・潮紅や顔面のむくみを認め,さらに発熱,高度の肝障害や腎障害を伴うとき.

イレウス/腸閉塞

著者: 田中慶太朗 ,   藤原聡枝 ,   大道正英

ページ範囲:P.128 - P.131

当直医へのコール
◉術後の腹部膨満を伴う腹痛には注意を要する.
◉婦人科腹部手術後には腸管の蠕動不全により腹部膨満が頻発するが,時に腸管の捻れや手術部位への癒着や陥頓を伴うことに留意する.
◉腸管血流障害を伴う絞扼性腸閉塞となれば腸管壊死や腸管穿孔をきたし,急激なバイタルサインの悪化を生じる可能性があるため,早急に対応する.

術後の泌尿器合併症 : 尿路損傷

著者: 船内雅史 ,   小林栄仁 ,   上田豊 ,   木村正

ページ範囲:P.132 - P.136

当直医へのコール
◉「水っぽいオリモノが出ています」「薄いピンクのオリモノが増えています」

 →水溶性帯下が症状として現れる.
◉「尿量が少ないので,点滴負荷をしましたが,もう一度負荷してもいいですか」

 →乏尿,無尿が症状として現れる.
◉「創部とは別の側腹部を痛がっています」「お腹が張っているので下剤を使ってもいいですか」

 →側腹部痛,腹部膨満(腹水)が症状として現れる.

せん妄

著者: 近江翼 ,   池田学

ページ範囲:P.138 - P.143

当直医へのコール
◉最終的にせん妄と診断される入院患者が病棟から当直医にコールされるときは,輸液ルート類を抜去する,術後安静度を保てない,無断離院しようとしているなど,ハイリスクな状況であることが多い.
◉バイタルサインの変化を伴っている際には,全身状態が増悪している,術後合併症が続発しているなどの可能性もあり,十分な注意が必要である.
◉せん妄の直接因子の鑑別とその治療を実施する,治療を行う際に必要に応じて鎮静を行う,場合によっては家族への連絡および精神科医師との連携,などの対応が求められる.

コンパートメント症候群

著者: 高橋伸卓 ,   平嶋泰之

ページ範囲:P.144 - P.147

当直医へのコール

 下記3点で当直医にコールがあった場合,コンパートメント症候群を疑うべきである.
◉5時間を超える長時間手術後(特に術中に砕石位であった場合).
◉創部(下腹部)ではなく,下肢の疼痛を強く訴えている.
◉下肢全体ではなく,下腿に限局した強い疼痛を訴え,鎮痛薬の効果を認めない.

オンコロジック・エマージェンシーへの対応法

発熱性好中球減少症

著者: 伊藤亮治 ,   勝俣範之

ページ範囲:P.148 - P.151

当直医へのコール

Case

 併存疾患のない40歳台の卵巣がんstage Ⅳ期の患者.ドセタキセル・カルボプラチン(DC)療法中.施行中のレジメンによる発熱性好中球減少症(FN)発症リスクは頻度11%と中等度であるが,患者側のリスクは低いと見積もり,抗菌薬予防内服やG-CSF投与は行わず治療を開始した.

間質性肺炎

著者: 少路誠一

ページ範囲:P.152 - P.156

当直医へのコール
◉婦人科オンコロジック・エマージェンシーで,最終的に間質性肺炎と診断される症例が病棟や救急外来から当直医にコールされるのは,乾性咳嗽や呼吸困難が次第に増強するという状況が多い.
◉感染による肺炎とは違い,発熱や喀痰はあまりみられない点が鑑別に有用である.
◉症状出現からの経過(数日〜1週間程度で次第に増強しているのかそれ以前からあるのか)と呼吸状態(呼吸数,SpO2)により対応を判断する.

腫瘍崩壊症候群

著者: 緒方美里 ,   松本光史

ページ範囲:P.157 - P.160

当直医へのコール
◉尿量低下や不整脈,痙攣などが臨床症状であり,化学療法開始当日から数日以内に発症する.ただし,発症前の予防が肝要であり,腫瘍量が多い,あるいは腎機能障害があるなどリスクの高い症例ではあらかじめ補液を行うなど,発症させない工夫を行う.
◉免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬では10日目以降に発症するという報告があるため,注意を要する.

腫瘍による脊髄圧迫

著者: 山本和宏

ページ範囲:P.161 - P.166

当直医へのコール

 麻痺の予兆を見抜くには?
◉背骨や胸回り,腰回りの痛みがある.
◉足のしびれがある.
◉足のふらつき,歩きにくさが出てきた.

Ⅲ.産科編

著者:

ページ範囲:P.167 - P.167

妊婦の症状からみた疾患鑑別

神経系の症状―頭痛・めまい・意識障害

著者: 桑田知之

ページ範囲:P.168 - P.172

 当直中に注意すべき妊婦の非産科的症状として,頭痛や意識障害が挙げられる.いずれも妊娠の中断(termination)に帰結させねばならない場合があるため,注意が必要である.本項では,妊婦の神経系の症状のうち代表的な頭痛,めまい,意識障害について,主に救急・当直時に遭遇した場合のポイントを解説する.

呼吸器系の症状―呼吸困難・息切れ

著者: 加地剛

ページ範囲:P.173 - P.175

当直医へのコール
◉いずれの場合もまず意識状態,バイタルサイン,酸素飽和度(SpO2)を確認する.
◉病棟からのコールでは,分娩中であれば羊水塞栓症,切迫早産であれば薬剤性もしくは肺血栓塞栓症を考える.
◉他科からコンサルトされる場合は,気管支喘息や過換気症候群などを妊娠前から合併している場合が多い.
◉発熱,咽頭痛,子宮収縮などを伴う場合は劇症型A群溶連菌感染症を念頭に置いておく.

循環器系の症状―胸痛・動悸・息切れ

著者: 神谷千津子

ページ範囲:P.176 - P.179

当直医へのコール
◉突然発症の激烈な胸痛・背部痛に対して,生命を脅かすリスクのある心筋梗塞・肺塞栓・大動脈解離から鑑別(除外)診断を行う.
◉妊娠中の放射線検査の安全性について知っておく.胸部X線検査はほぼ無害.必要時には造影CT検査も行ってよい.
◉妊婦の動悸の多くは,洞性頻脈もしくは治療介入が必要ない不整脈によるものだが,重篤な不整脈のこともある.QT延長症候群では産後に不整脈イベントリスクが高い.

消化器系の症状―腹痛・下痢・下血・嘔吐

著者: 石原佳奈 ,   田中幹二 ,   大石舞香

ページ範囲:P.180 - P.185

当直医へのコール
◉消化器症状を訴える妊婦を産婦人科当直医が診察するケースの特徴として,それが本当に消化器疾患なのか妊娠合併症なのかの鑑別が必ずしも容易ではないことが挙げられる.
◉救急外来や他科からのコールは「妊娠○週の女性が腹痛と嘔気を訴えて受診している」「妊娠○週の女性が激しい腹痛と性器出血を訴えている」といったものが多い.

妊娠初期の性器出血

著者: 野田佳照 ,   関谷隆夫

ページ範囲:P.186 - P.193

当直医へのコール
◉女性の性器出血があれば,まず最終月経を聴取し,通常の月経と同じ出血状況(量,持続時間,開始時期)であったか確認する.少しでも妊娠の可能性が疑われる場合には,必ず妊娠反応検査を行う.
◉妊娠が確認された場合には,問診(最終月経,生殖補助医療による妊娠であれば胚移植日など)を行って妊娠週数を推測し,超音波検査を実施する.
◉常に異所性妊娠の可能性を念頭に置き,全身状態やバイタルサインを確認する.

妊娠中期以降の性器出血

著者: 小野義久

ページ範囲:P.194 - P.197

当直医へのコール
◉正常の妊娠経過において,“妊娠中期に性器出血を認めることはない”ということを念頭におく.
◉出血の量や性状によっては母児の生命予後にかかわることがある.このとき,胎動や子宮収縮感に関しても聴取することが大切である.
◉性器出血の訴えがあっても,血尿や血便の可能性も考慮して診察をする.

周産期救急疾患への初期対応

切迫早産/早産

著者: 大槻克文

ページ範囲:P.198 - P.201

当直医へのコール
◉下腹痛や腰痛,性器出血,破水などを伴う子宮収縮を主訴に,来院したり救急搬送されたりする症例が多い.
◉軽度の子宮収縮のみを認める軽症から子宮口の開大や胎胞膨隆を認める重症までさまざまな状態がある.
◉妊娠週数,外来受診時の徴候,無痛性の出血,突然の激しい腹痛,発熱の有無などに注意を払う.
◉常位胎盤早期剝離の鑑別を常に念頭に置く(鑑別が困難であることが多い).

警告出血を伴う前置胎盤

著者: 古谷菜摘 ,   長谷川潤一 ,   鈴木直

ページ範囲:P.203 - P.206

当直医へのコール
◉警告出血はいずれのタイプの前置胎盤にも起こり,事前に予測することは不可能である.
◉前置胎盤の警告出血でコールされた場合は,出血量の把握,母体の全身状態の把握を行う.
◉前置胎盤は,少量であっても一度出血をすると,再出血のリスク,緊急帝王切開のリスクが高くなるため,警告出血がみられた場合は入院管理が必要である.

常位胎盤早期剝離

著者: 進藤亮輔 ,   青木茂

ページ範囲:P.207 - P.210

当直医へのコール
◉妊婦が腹痛・出血を訴える場合は,必ず常位胎盤早期剝離(以下早剝)を念頭に置いて可及的速やかに来院を指示し,診察を行う.
◉性器出血を生じないタイプの早剝の場合,切迫早産や前駆陣痛との鑑別は容易ではない.切迫早産の診断で他院より搬送されてくる症例についても,早剝の可能性を考慮する.
◉胎児機能不全を伴う早剝と診断した場合は,速やかな児の娩出を行う.播種性血管内凝固症候群(DIC)のハイリスクのため,凝固因子を含めた十分な輸血の手配,医療スタッフの招集が必要である.一方,子宮内胎児死亡の場合は娩出を焦らず,DICの治療を優先した管理を行う.

HELLP症候群/急性妊娠脂肪肝

著者: 大井手志保 ,   王良誠 ,   高木健次郎

ページ範囲:P.212 - P.218

当直医へのコール
◉どのような状況でコールされるか : 患者・救急隊・院内(病棟・救急外来)からは「周産期に急性発症した嘔気・嘔吐,上腹部痛」で依頼を受けることが多い.他院からは本疾患を疑って紹介されることがある.
◉特に要注意な情報は何か : バイタルサインの変化,腹痛・嘔吐の程度,発熱・頭痛・意識障害の有無,出血(不正出血,吐下血)の有無を確認する.子癇既往,妊娠高血圧,多胎妊娠,また,肝腎疾患,膠原病などの基礎疾患がないかについても確認する.

周産期心筋症

著者: 松村英祥

ページ範囲:P.219 - P.225

当直医へのコール
◉「産褥1か月未満の患者さんで最近横になると息苦しくなったり,咳が出るようになり,時間外受診したいとのことです.受診してもよいですか?」
◉「切迫早産で入院中の妊娠32週の双胎妊娠の患者で,急に息苦しいとcallがあり,SpO2モニターを装着しても90%ぐらいしか上昇しません.診てください!」
◉「重症妊娠高血圧症候群の適応で緊急帝王切開になった術後の患者さんですが,SpO2モニターで90%前後で尿量も20mL/時ぐらいしかないので診てもらえませんか?」

劇症型A群β溶血性レンサ球菌感染症

著者: 田丸俊輔

ページ範囲:P.226 - P.229

当直医へのコール
◉劇症型A群β溶血性レンサ球菌感染症(劇症型GAS感染症)は,発熱,上気道炎症状,筋肉痛などの非特異的なウイルス感染症のような症状で発症することが多く,初期段階での診断は困難な場合がほとんどである.
◉劇症化した際には病状が急速に増悪し,集学的治療を行っても敗血症性ショック,DICから母体・胎児死亡に至る危険性が高いため,疾患を疑った段階で高次医療機関へ速やかに搬送し,診療科横断的に治療を開始することが重要である.
◉感染の関与が疑われ,急速な経過を辿った流産・胎児死亡・早産例では,本疾患の可能性も念頭に置いて精査を進めることが重要である.

分娩当直での緊急対応

肩甲難産

著者: 小川正樹

ページ範囲:P.230 - P.234

当直医へのコール
◉肩甲難産が発生した段階でコールされることはなく,むしろ遷延分娩や糖尿病合併妊娠,巨大児分娩などで,発症前に「遷延分娩である」または「怒責しているが児頭が娩出しない」という理由でコールされることがある.

臍帯下垂・脱出

著者: 仲村将光

ページ範囲:P.235 - P.238

当直医へのコール
◉妊産婦が破水時に「羊水以外のものを腟から触知する」と訴えた場合,また,助産師が触知した場合に,臍帯脱出を疑って当直医がコールされる.
◉分娩進行中に原因不明の一過性徐脈または徐脈を認めた場合に,臍帯下垂・脱出の可能性を考え,当直医がコールされることがある.その際には,カルテから子宮内での臍帯位置や臍帯付着部位を確認するよう指示したうえで訪室する.
◉コール内容から臍帯下垂・脱出と判断される場合は,児頭を下降させないよう骨盤高位や内診による児頭挙上を行いながら,マンパワーを確保し,超音波機器やcardiotocogram(CTG)を準備しておくように伝える.

羊水塞栓症

著者: 小田智昭 ,   伊東宏晃 ,   金山尚裕

ページ範囲:P.239 - P.246

当直医へのコール

 羊水塞栓症と診断される症例は,下記のようなコール内容であることが多い.
◉破水後,分娩中の妊婦が呼吸困難を訴えて,血圧とSpO2が下がっている.
◉分娩後の出血がサラサラして止まらない.
◉帝王切開中,児娩出後に呼吸が苦しいと暴れだして,その直後に意識消失・心停止した.

子宮破裂

著者: 牧野真太郎

ページ範囲:P.247 - P.251

当直医へのコール
◉子宮破裂の最初の徴候は異常胎児心拍パターンの出現であり,突然の胎児徐脈でのコールが多くなる.
◉子宮破裂を起こした際には母体はショック状態となるため,バイタルサインの確認を併せて行うことが重要である.
◉子宮破裂に伴う遷延一過性除脈の出現から18分以内に分娩に至らなかった例では,母体死亡,新生児死亡,後遺症の発症が有意に高かったという報告もある.

産褥血腫

著者: 新垣達也 ,   関沢明彦

ページ範囲:P.252 - P.256

当直医へのコール
◉「夕方にお産をした患者さんが,創部痛がひどく,痛み止めが効きません!」

 →痛み止めが効かないというコールは,第一に血腫の存在を想起させる.また,それ以前に痛み止めを使う段階での診察が望ましい.
◉「夕方にお産をした患者さんが,創部の痛みと便がしたい感じがあると訴えています!」

 →排便感があるというコールは血腫による肛門圧迫を示唆する.
◉「1時間前にお産した患者の外陰部が腫れて出血も続いています!

 →外陰部の腫脹は外陰血腫を示唆する.

子宮内反症

著者: 鈴木研資 ,   入山高行

ページ範囲:P.257 - P.260

当直医へのコール
◉分娩直後から患者が腹部の激痛を訴えている.
◉分娩第3期または胎盤娩出後に腟内に異常な腫瘤状のものを触れる.経験に乏しい場合には「大きな胎盤が出た」「胎盤がもう1つ出てきた」「子宮筋腫や腫瘍が出てきた」などと感じることがある.
◉分娩直後から大量出血を認め,子宮収縮を確認しようと子宮底を触診しても,子宮底を触れない,もしくは子宮底が著しく下降している.

分娩時の大量出血/弛緩出血

著者: 堤誠司

ページ範囲:P.261 - P.264

当直医へのコール
◉「先ほど分娩された方が,ぐったりとした感じで全身倦怠感を訴えています.皮膚も湿潤していて,呼吸が速くなっています」

 (全身状態が,通常の産後経過に比べ違和感がないかどうか?)
◉「分娩後の出血が持続しており,触診にて子宮の収縮が不良です」

 (出血量の総量と時間当たりの出血量がどれくらいか?)
◉「血圧は○○/○○mmHg,脈拍は○○拍/分,酸素飽和度は○○%でショックインデックス(shock index : SI),JCSは○○です」

 (見かけの出血量とバイタルサインの乖離がないか,意識状態の変化はどうか?)

 当直医師の診察を依頼する際には,以上の情報を伝えてもらう.状況(S : situation),背景(B : back ground),評価(A : assessment),提案(R : recommen dation)のいわゆるSBARを用いて,シンプルかつ効果的に報告してもらうようにしておくことが有効である.

産科DIC

著者: 末光徳匡 ,   鈴木真

ページ範囲:P.265 - P.271

当直医へのコール
◉当直医コールのキーワード : 性器出血が止まりません,血液がサラサラしています,血尿があります,ショック状態です(血圧低下,意識障害,末梢冷感)

 →凝固異常とショックの症状が重要なポイント.
◉全身状態の初期評価と対応 : ABCDを評価し,不安定な項目に対し介入する.

 →産科DICは急激に進行しショック状態へ陥る危険性がある.
◉基礎疾患の鑑別と除去 : DICの原因となる基礎疾患を素早く鑑別し除去する.

 →DICは基礎疾患を背景として二次的に発症するため,これを鑑別し迅速に治療することが重要である.

妊産褥婦の合併疾患への対処法 呼吸器疾患

喘息発作

著者: 久野道

ページ範囲:P.272 - P.276

当直医へのコール
◉喘息を合併した妊婦の約2割が急性増悪をきたし,喘息の重症度が高い患者ほどそのリスクは高くなる.
◉妊娠中に喘息の急性増悪を引き起こす最大のトリガーは,ウイルス感染症と服薬アドヒアランスの低下である.
◉一般に急性増悪のハイリスクグループとして以下のような喘息患者が挙げられる.

・全身性ステロイド薬を投与中あるいは中止したばかりである.

・過去1年間に喘息発作による入院歴あるいは救急外来への受診歴がある.

・喘息発作により気管挿管をされたことがある.

・吸入ステロイド薬を使用していない.

・短時間作用性吸入β2刺激薬に対する過度の依存がある.

循環器疾患

高血圧/高血圧性脳症

著者: 森川守

ページ範囲:P.277 - P.281

当直医へのコール
◉「高血圧+心窩部痛」は,「HELLP症候群」を疑う必要がある.「心窩部痛」を単なる「胃痛(胃炎)」と判断すると危険な場合がある.
◉「高血圧+眼華閃発,頭痛」は,「子癇」の前駆症状である可能性を疑う必要がある.「前駆症状」を見落とすと,その後に「痙攣」(「子癇」や「脳出血」の発症)を起こし危険な場合がある.
◉「高血圧+呼吸障害,動悸」は,「肺水腫」や「周産期心筋症」を疑う必要がある.妊娠高血圧症候群では肥満が多い.肥満による「呼吸苦」と判断すると危険な場合がある.

妊産婦脳卒中

著者: 大野泰正

ページ範囲:P.282 - P.286

当直医へのコール
◉「分娩中の患者さんが,先程から『頭が割れるように痛い』と訴えており,1回嘔吐しました.受け答えも何となくはっきりせず,血圧も180/105mmHgと高いです」
◉「『目が霞んで眩しい』と訴えていた妊娠高血圧症候群で管理入院中の患者さんが全身の痙攣を起こしました.受け答えに答えず,痙攣が止まりません.血圧も205/123mmHgと異常に高いです」
◉「産後3日目の患者さんから『右手と右足が動きにくい』との訴えがあり訪室したところ,呂律が回らずはっきりと話せないのでおかしいです」

消化器疾患

食中毒

著者: 松岡隆 ,   関沢明彦

ページ範囲:P.288 - P.293

当直医へのコール

 食中毒が疑われる,または最終的に食中毒と診断される妊産褥婦が救急外来から産婦人科医にコールされるのは,以下のような場合が考えられる.
◉嘔気嘔吐・下痢などの消化器症状を訴える妊婦
◉発熱や腹痛を訴える妊婦
◉特に症状はないが,感染源となるような食品を摂取した場合

急性虫垂炎/急性胆囊炎

著者: 田中利隆

ページ範囲:P.295 - P.300

当直医へのコール
◉妊婦が「腹痛」「悪心・嘔吐」「発熱」などの症状を訴え受診した場合,産婦人科当直医が最初にコールを受けることが多い.その原因は産科疾患だけではなく,婦人科疾患や消化器疾患など多岐にわたるため,鑑別が必要である.
◉「腹痛」の部位(左右および正中,下腹部,上腹部,季肋部,心窩部など)と性状(持続的か,間欠的か,間欠的であれば規則的な痛みなのか)を確認する.
◉妊娠週数と性器出血の有無を確認し,児心拍もできるだけ早く確認する(ドップラー,胎児心拍数陣痛図,超音波検査など).

腎・泌尿器疾患

尿路結石

著者: 金井雄二

ページ範囲:P.302 - P.305

当直医へのコール
◉「妊婦が突然の腰背部痛・側腹部痛を訴えて受診している」
◉「左右どちらか片側性に痛みがある」
◉「痛みに強弱がある」
◉「痛みの位置が移動する.外陰部への放散痛を訴えている」

内分泌・自己免疫疾患

糖尿病性ケトアシドーシス

著者: 和栗雅子

ページ範囲:P.306 - P.309

当直医へのコール
◉1型糖尿病妊婦が全身倦怠感で来院,高血糖,尿ケトン強陽性,アシドーシスを認めた場合.
◉意識レベル低下,脳卒中疑いの妊産褥婦が搬送された場合(その後,緊急検査で高血糖判明).
◉急性腹症,胃腸症状(悪心・嘔吐・下痢)を伴う感冒のため来院,尿検査で糖・ケトン体陽性の場合.

甲状腺クリーゼ

著者: 脇野修

ページ範囲:P.310 - P.316

当直医へのコール
◉甲状腺クリーゼは疑うことから診療が始まる.甲状腺疾患の既往歴や診断基準の症状がそろった時は,甲状腺ホルモン値をオーダーすることが肝要である.
◉妊娠による甲状腺機能亢進症から甲状腺クリーゼとなることは少ない.甲状腺機能亢進症の既往を有する患者に感染,耐薬などのさまざまな背景で発症する.
◉中枢神経症状,発熱(38℃以上),頻脈(130回/分以上),心不全症状,消化器症状が3つ以上か2つ以上そろっていた場合,積極的に疑うこととなる.
◉疑ったら初期治療が重要であるのでICU,HCU管理として,循環器医,内分泌医,神経内科医,麻酔科医などさまざまな科への依頼を行い集学的に治療を進める.

SLEの増悪

著者: 城戸咲 ,   加藤聖子

ページ範囲:P.318 - P.323

当直医へのコール
◉血圧上昇 : SLE合併妊娠は妊娠高血圧症候群(妊娠高血圧・妊娠高血圧腎症)の合併頻度が高い1〜5).また,SLEの増悪でも血圧上昇をきたすことがあるため,鑑別が必要である.
◉腹痛 : SLE合併妊娠は早産率が高く,自然早産も多い1〜5).腹痛の訴えがある場合は,必ず子宮収縮の有無と内診所見を確認する.
◉悪心・嘔吐 : 妊娠初期の悪心・嘔吐は妊娠悪阻と判断しがちだが,背景にSLEの増悪が存在する場合がある.症状の強さや期間に注目し,血液検査所見でも鑑別する必要がある.
◉その他の非特異的症状 : SLEの臨床症状は多彩で全身性に出現しうる.感冒症状,呼吸苦,動悸,神経症状などの非特異的な症状からSLEの増悪と診断されることもある.非特異的で軽微な症状であっても,それが持続・増悪する場合は必ず内科主治医の診察を受けるよう患者に説明する.

血液疾患

血小板減少症

著者: 宮川義隆

ページ範囲:P.324 - P.327

当直医へのコール
◉周産期の痙攣,右上腹部痛,高血圧,血小板減少,溶血性貧血,肝障害があれば,HELLP症候群を疑い上級医を呼ぶ.
◉HELLP症候群は高次医療機関に搬送することが望ましい.
◉出血症状がない場合,偽性血小板減少または妊娠性血小板減少を疑う.

精神疾患

希死念慮(自殺未遂)

著者: 畠中健吾 ,   上條吉人

ページ範囲:P.328 - P.331

当直医へのコール

 希死念慮がみられる,または希死念慮をもちうる妊婦・褥婦を産婦人科医が診察する場面やそのような患者が救急外来から産婦人科医にコールされる場面については,下記のような状況が想定される.
◉妊娠中もしくは産後の患者が抑うつ状態や希死念慮を疑わせる主訴を訴え,その対応に迫られる場合.
◉妊娠中または産後に発症した精神症状に対して薬物療法が必要となる場合や,入院加療が必要となり産婦人科による周産期管理が必要となる場合.
◉妊娠中の自傷行為・自殺企図により生じた外傷や過量服薬に対して,母体評価ならびに胎児評価が必要となる場合.

 本稿では,妊婦・褥婦のこのような状況への対応ついて解説する.

その他

てんかん

著者: 赤松直樹

ページ範囲:P.332 - P.335

当直医へのコール
◉子癇(eclampsia) : 妊産褥婦の初発全身痙攣発作には子癇発作がある.妊娠28週からみられるが,分娩時から出産48時間後までの発症が多い.妊娠高血圧症候群が子癇のリスクファクターである.
◉慢性のてんかん : 妊娠前からてんかんと診断されていた患者で,妊娠中にてんかん発作をきたす場合がある.誘因の除去および抗てんかん薬の調整が必要となる.
◉急性症候性発作 : 稀ではあるが妊婦が脳静脈洞血栓症,脳出血,クモ膜下出血,脳炎,脳腫瘍,代謝異常,薬物中毒などを発症しその症状として急性のてんかん発作をきたすことがある.

脱水症/熱中症

著者: 三宅康史

ページ範囲:P.336 - P.340

当直医へのコール
◉脱水,熱中症の初期は当直医にお願いし,婦人科医は胎児の状況の確認と,脱水,高体温の原因となりうる産科的原因の検索を,当直医と相談しながら進める.
◉脱水が疑われる場合,まず体液喪失なのか,自由水の喪失なのかを考える.
◉熱中症は,暑熱環境の程度と時間の長さ,臨床症状から診断する.

外傷/交通外傷

著者: 細川義彦 ,   小畠真奈

ページ範囲:P.341 - P.346

当直医へのコール
◉妊婦の外傷・交通外傷でバイタルサインに異常を認める場合や高エネルギー外傷(表1)1)の場合は,救急医がファーストコールとなることが多いが,同時に産婦人科当直医がコールされることがある.
◉外傷の程度が軽く,バイタルサインが安定している場合,産婦人科当直医がファーストコールとなることもある.
◉妊娠週数,性器出血や腹痛の有無,外傷の部位や程度,既往帝王切開後妊娠や子宮筋腫核出術の有無などの情報は非常に重要である.

Ⅳ.蘇生法・救急対処法

著者:

ページ範囲:P.347 - P.347

成人・妊婦の心肺蘇生法

著者: 野口翔平

ページ範囲:P.348 - P.354

Point

■産婦人科当直医はbasic life supportを実践できる能力が必要である.

■心肺蘇生時には救命チームの招集もしくは高次医療機関への搬送を考慮する.

■妊婦に対する心肺蘇生の通常成人と異なる点を知る.

新生児の心肺蘇生法

著者: 細野茂春

ページ範囲:P.355 - P.359

Point

■日本版救急蘇生ガイドライン2015に準拠した日本周産期・新生児医学会公認の講習会が行われているので,これを受講し認定を受けることで最低限の蘇生法の知識・技術の修得が可能となっている.

■蘇生処置を必要とする正期産児は15%いるが,蘇生の初期処置およびマスクとバッグによる人工呼吸で多くは救命可能である.

■アルゴリズムに従って人工呼吸が必要と判断したら,出生から60秒以内に人工呼吸を開始する.30秒後の評価は,手技が適切に行われていなければ評価せず,正しい手技を30秒間行った場合にのみ評価する.

死戦期帝王切開

著者: 鈴木俊治

ページ範囲:P.360 - P.362

Point

■妊婦の心肺蘇生処置の一環として行う.

■妊婦の心肺停止が4分間持続すれば実施を考慮する.

■術後はDICや大量出血が高頻度で発症することに留意する.

アナフィラキシーショックへの対応法

著者: 土肥聡

ページ範囲:P.363 - P.367

Point

■S-ABCD(Skin : 皮膚・粘膜症状,Airway : 上気道狭窄,気管支痙攣,Breathing : 呼吸困難,Circulation : 循環異常,Diarrhea : 下痢,下腹部痛)からアナフィラキシーの早期診断をせよ!

■アナフィラキシーショックを少しでも疑ったら,まず人を呼び,仰臥位+下肢挙上(+子宮左方偏位 : 妊婦の場合)をしながら,躊躇せずエピネフリン0.3〜0.5mg筋注(大腿部中央・前外側)をせよ!

■ABC(Airway : 気道,Breathing : 呼吸,Circulation : 循環)の安定化,OMI(酸素投与,モニター装着,点滴確保)・FRESH(Fluids : 輸液負荷,Remove offending agents : アナフィラキシー誘因を除去,Epinephrine : アドレナリン,Steroids : ステロイド,Histamine blocker : 抗ヒスタミン薬)を忘れずに!

救急で必要な薬剤

著者: 山下公子 ,   成瀬勝彦

ページ範囲:P.368 - P.374

Point

■救急外来・産婦人科外来・病棟にある薬剤・血液製剤の種類(血液製剤では単位数も)を把握しておく.

■優先度が高い薬剤や静脈ライン,採血管などは手元に準備しておく.

■緊急性が高い・重症・予想外や原因不明の変化が見られる場合は救急科・他科当直・看護師などの助けを呼ぶ.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.4

奥付

ページ範囲:P.376 - P.376

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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71巻10号(2017年10月発行)

今月の臨床 最新! 婦人科がん薬物療法─化学療法薬から分子標的薬・免疫療法薬まで

71巻9号(2017年9月発行)

今月の臨床 着床不全・流産をいかに防ぐか─PGS時代の不妊・不育症診療ストラテジー

71巻8号(2017年8月発行)

今月の臨床 「産婦人科診療ガイドライン─産科編 2017」の新規項目と改正点

71巻7号(2017年7月発行)

今月の臨床 若年女性のスポーツ障害へのトータルヘルスケア─こんなときどうする?

71巻6号(2017年6月発行)

今月の臨床 周産期メンタルヘルスケアの最前線─ハイリスク妊産婦管理加算を見据えた対応をめざして

71巻5号(2017年5月発行)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

71巻4号(2017年4月発行)

増刊号 産婦人科画像診断トレーニング─この所見をどう読むか?

71巻3号(2017年4月発行)

今月の臨床 婦人科がん低侵襲治療の現状と展望〈特別付録web動画〉

71巻2号(2017年3月発行)

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合併増大号 今月の臨床 性ステロイドホルモン研究の最前線と臨床応用

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今月の臨床 婦人科がん診療を支えるトータルマネジメント─各領域のエキスパートに聞く

69巻11号(2015年11月発行)

今月の臨床 婦人科腹腔鏡手術の進歩と“落とし穴”

69巻10号(2015年10月発行)

今月の臨床 婦人科疾患の妊娠・産褥期マネジメント

69巻9号(2015年9月発行)

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69巻8号(2015年8月発行)

今月の臨床 体外受精治療の行方─問題点と将来展望

69巻7号(2015年7月発行)

今月の臨床 専攻医必読─基礎から学ぶ周産期超音波診断のポイント

69巻6号(2015年6月発行)

今月の臨床 産婦人科医必読─乳がん予防と検診Up to date

69巻5号(2015年5月発行)

今月の臨床 月経異常・不妊症の診断力を磨く

69巻4号(2015年4月発行)

増刊号 妊婦健診のすべて─週数別・大事なことを見逃さないためのチェックポイント

69巻3号(2015年4月発行)

今月の臨床 早産の予知・予防の新たな展開

69巻2号(2015年3月発行)

今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

69巻1号(2015年1月発行)

今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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