icon fsr

文献詳細

雑誌文献

臨床婦人科産科74巻8号

2020年08月発行

文献概要

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

妊娠中に強い頭痛・発熱・嘔吐症状で搬送され,リンパ球性下垂体炎と診断された2症例

著者: 清水美代1 加藤淑子1 福岡正晃1

所属機関: 1済生会京都府病院産婦人科

ページ範囲:P.844 - P.849

文献購入ページに移動
はじめに

 リンパ球性下垂体炎はリンパ球の浸潤を主体とする自己免疫性の慢性炎症性疾患である.特にリンパ球性下垂体前葉炎は女性に発症することが多く,妊娠後期や産後に発症しやすいといわれる.初発症状として下垂体腫大による頭痛や視力・視野障害が多い.しかし,そのほかにも全身倦怠感や胃腸症状などさまざまな症状が起こりうるため,診断が難しい場合がある.

 確定診断には下垂体生検が必要となるが侵襲を伴うため,臨床症状,MRI,下垂体ホルモン値の低下により診断される例が多い.

 今回,頭痛・発熱・嘔吐を認め救急搬送となり,下垂体炎が疑われた妊娠32週,妊娠30週の2症例を経験した.最初の症例では,治療抵抗性の強い頭痛・発熱がみられ,診断に苦慮したが,尿崩症が契機となり診断に至った.約1年後に経験した2症例目では,1症例目に比べ症状が少し軽く,初めは診断できなかったが,1症例目を経験していたことで診断に至った.

 妊婦の下垂体炎は稀であるが,認識することで不要な検査や投薬を行わずに済むため,知っておくべき疾患と考えられた.

参考文献

1)Caturegli P, et al : Autoimmune hypophysitis. Endocr Rev 26 : 599-614, 2005
2)Rivera JA : Lymphocytic hypophysitis : Disease spectrum and approach to diagnosis and therapy. Pituitariy 9 : 35-45, 2006
3)片上秀喜 : リンパ球性下垂体炎.medicina 53 : 2122-2128, 2016
4)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究(主任研究者:大磯ユタカ),自己免疫性視床下部下垂体炎の診断と治療の手引き(平成21年改訂),2009
5)山口秀樹,他 : 下垂体炎,尿崩症.産と婦80 : 99-103, 2013
6)北条雅人,他 : 下垂体炎の診断と治療.日内分泌会誌88  (Suppl) : 75-76, 2012
7)Thodou E, et al : Lymphocystic hypophysitis : clinicipathological findings. J Clin Endocrinol Metab 80 : 2302-2311, 1995
8)Kristof RA, et al : Lymphocytic hypophysitis : non-invasive diagnosis and treatment by high dose methylpresdnisolone pulse therapy? J Neurol Neurosurg Psychiatry 67 : 398-402, 1999
9)矢島 文,他 : ステロイド治療で腫瘍縮小と前葉機能回復が得られた妊娠後期発症のリンパ球性下垂体炎の一例.日内分泌会誌76 : 25-28, 2000
10)Foyouzi N : Lymphocytic adenohypophysitis. Obstet Gynecol Surv 66 : 109-113, 2011
11)平山純也,他 : リンパ球性下垂体前葉炎合併妊娠の妊娠・分娩管理経験.和歌山医69 : 119-122, 2018
12)安田一平,他 : 妊娠中期の食欲不振から診断に至ったリンパ球性下垂体炎の2症例.日周産期・新生児会誌52 : 1115-1120, 2016
13) Karaca Z, et al : Pregnancy and pituitary disorders. Euro J Endocrinol 162 : 453-475, 2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1294

印刷版ISSN:0386-9865

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?