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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科76巻4号

2022年04月発行

雑誌目次

増刊号 最新の不妊診療がわかる!―生殖補助医療を中心とした新たな治療体系

親子関係に関する民法の特例法について

著者: 石原理

ページ範囲:P.6 - P.8

▶2021年12月に施行された「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」は,わが国初の生殖補助医療関連法である.
▶提供配偶子を用いる治療による母子関係を定義したが,父子関係そのものを定義せず,夫による「嫡出否認」の禁止のみ規定した.
▶出生子の出自を知る権利,配偶子提供者の義務・権利などには言及せず,附則で二年を目途として検討し,法制上の措置などをするとした.

第1章 生殖補助医療の適応と意義―どんな患者さんが体外受精・顕微授精を受けるのか

体外受精・顕微授精の適応―体外受精・顕微授精の絶対適応とstep upの基準

著者: 小田原圭 ,   小田原靖

ページ範囲:P.10 - P.13

▶両側卵管閉塞症例と非閉塞性無精子症に対して精巣内精子採取術(TESE)で精子を回収した場合,体外受精の絶対適応となる.
▶妊娠予後を考えて,体外受精へのstep upのタイミングを症例ごとに検討する必要がある.
▶妊孕性温存で体外受精を希望する場合には十分なインフォームドコンセントのうえ,治療を行うか慎重に判断する必要がある.

生殖補助医療の成功率を規定する因子

著者: 髙橋俊文 ,   太田邦明 ,   神保正利

ページ範囲:P.14 - P.17

▶女性の年齢の増加と卵巣予備能の低下はIVF-ET治療の成績を低下させる.
▶喫煙,肥満などの患者背景因子はIVF-ET治療の成績を低下させる.
▶卵管留水症はIVF-ET治療の成績を半減させるため,事前に卵管切除を勧めるべきである.

子宮筋腫・内膜症と体外受精―その不妊機序と一般不妊治療・体外受精の有効性

著者: 小野政徳 ,   山田悦子 ,   河村ともみ ,   久慈直昭 ,   西洋孝

ページ範囲:P.18 - P.22

▶子宮筋腫と子宮内膜症は生殖年齢女性に高頻度に認められる疾患で,妊娠に対する負の影響が大きな問題となる.
▶粘膜下子宮筋腫は,妊娠率を低下させる.また,腫瘍径4cmを超える筋層内筋腫も妊娠率を低下させる可能性がある.一方で,漿膜下子宮筋腫の多くは妊娠に影響を与えない.
▶子宮内膜症に対する適切な腹腔鏡手術で自然妊娠率が改善される可能性がある.
▶子宮内膜症合併不妊でARTを要する場合には原則としてARTを先行させる.
▶有症状の子宮内膜症でARTを要する場合には採卵・胚凍結保存後の腹腔鏡手術が検討される.
▶悪性化した可能性のある子宮内膜症では手術を先行する.

第2章 生殖補助医療とその手技 採卵と麻酔―低侵襲な採卵手術

採卵困難症例と対応―採卵針の工夫など

著者: 瀬川智也

ページ範囲:P.24 - P.28

▶当院で使用している22G採卵針はより細く先端が鋭利な特殊加工をされているので,組織への刺入が容易となり患者の痛みや出血が少ない.
▶採卵時に内膜症性囊胞を穿刺した場合は術後の骨盤内感染に注意が必要であり,稀ではあるが内膜症性囊胞悪性化の可能性にも留意する.
▶骨盤内には大小多くの血管が存在し,穿刺後の出血量によっては急性腹症で開腹手術などを要することがあるので注意する.

体外受精―受精失敗を回避して,多くの良好受精卵を獲得する

体外受精で受精失敗を回避するために―split-ICSI・rescue-ICSIの意義

著者: 平岡謙一郎 ,   川井清考

ページ範囲:P.29 - P.32

▶体外受精(卵子と精子を共培養して受精させる方法)をしたのちに1個も受精しない“受精失敗”は10〜15%の頻度で起こる.
▶“split-ICSI”は採取した卵子の半数ずつに体外受精と顕微授精(卵子の中に1個の精子を注入)をする方法である.
▶“rescue-ICSI”は体外受精後,早期に受精判定を行い,受精していないと判断した卵子に直ちに顕微授精をする方法である.

顕微授精で受精失敗を回避するために―人為的卵子活性化

著者: 長谷川久隆

ページ範囲:P.33 - P.36

▶ヒトを含む多くの哺乳動物種において,卵子活性化は受精およびその後の胚発生にきわめて重要である.卵子の活性化はカルシウムイオン(Ca2+)の上昇を伴うプロセスである.
▶顕微授精後の受精障害に対して,人為的卵子活性化は有効であることが多数報告されている.人為的卵子活性化法には,主に電気刺激,ストロンチウム,カルシウムイオノフォアがある.
▶人為的卵子活性化の効果と安全性についてはエビデンスが十分とはいえず,その適応については慎重に決定する必要がある.

顕微授精で受精卵の障害を低減するために―紡錘体の確認とPiezo-ICSI

著者: 奥山紀之 ,   京野廣一

ページ範囲:P.37 - P.40

▶紡錘体を観察することで減数分裂の状況を予測することができる.
▶Piezo-ICSIは変性率の低下などが期待できる低侵襲的な手法である.
▶安定した成績にはセッティングから温度管理までの厳密な培養室管理が必要である.

ヒアルロン酸結合能による精子選別―PICSIの有用性

著者: 清水勇聡 ,   神山洋

ページ範囲:P.41 - P.45

▶正常に成熟した精子はspermiogenesisの過程で,①原形質膜の再構築,②細胞質の押し出し,③核の成熟が起こる.また,HspA2の発現により高密度のヒアルロン酸レセプターが形成される.
▶成熟精子はヒアルロン酸に結合でき,ヒアルロン酸に結合した精子は染色体異数性やDNA断片化の割合が低い.顕微授精(ICSI)では,形態的評価と生理学的評価で精子を選ぶ必要がある.
▶HBA® assayで精子のヒアルロン酸結合能・受精能を評価してからPICSI® DishやSpermSlowTMで生理学的な精子選別をするとICSIの効果は高まり,流産率などの改善が見込まれる.

高倍率観察による精子選別―IMSIとZyMotの有用性

著者: 家田祥子

ページ範囲:P.46 - P.52

▶IMSIによる精子形態観察が重要とされている.
▶IMSIはDNA Fragmentationの少ない精子を選別し,培養成績ならびに臨床成績を向上させる.
▶ZyMotスパームセパレータにより前進運動性の高い精子が選別できる.

胚培養―着床率の高い受精卵を選別して妊娠率を向上させる

培養液と培養環境―one-step培養液とsequential培養液,pH測定など

著者: 泊博幸 ,   詠田由美

ページ範囲:P.53 - P.57

▶最適な培養環境を構築するためには,以下の3点が必要である.

 1.胚発生における生理的環境を理解すること.

 2.培養液の役割を理解すること.

 3.培養環境ならび培養液の有用性を自施設において検討すること.

ヒト胚の発生と形態学的胚評価

著者: 大月純子

ページ範囲:P.58 - P.62

▶卵細胞膜への精子融合地点と第二極体放出地点が近接していると高頻度に雌雄のゲノムを含む1前核(1PN)を形成する.
▶出産に至る胚の雌雄前核形成初期は雄性前核サイズが大きく,雌性前核サイズは徐々に雄性前核サイズに近づき核膜消失直前までに差が縮まる.
▶sERCを呈する卵母細胞は細胞分裂,細胞骨格機構,ミトコンドリア活性などにかかわる遺伝子発現が減少しており,細胞分裂失敗やアクチン分布異常の頻度が高いことが報告されている.

タイムラプスによる胚評価法―その臨床的意義

著者: 湯本啓太郎 ,   見尾保幸

ページ範囲:P.63 - P.70

▶タイムラプス培養器は通常培養器に比して,扉の開閉回数が減少し,安定した培養環境の維持が容易であるが,無加湿環境では培養液中浸透圧上昇などに注意が必要である.
▶タイムラプスにより,形態評価に動態評価を加味することで,より質の高い胚評価につながる.
▶初期分割不良を呈する難治症例において,前核期人為的透明帯除去法は有益な手技である.

PGT-Aによる染色体正常胚の選別―その適応と臨床的意義

著者: 原田枝美 ,   河野康志

ページ範囲:P.71 - P.76

▶PGT-Aの施行は,特に高齢女性(AMA)の患者に高い有効性が示される.ただし,胚移植あたりの臨床成績は有意に改善するが,患者あたりの臨床成績改善には至っていない.
▶モザイク胚を移植する際は,慎重に移植胚の選択を行い,十分な遺伝カウンセリングのもとに施行する.
▶現時点ではPGT-Aが出生児にもたらす負の影響は報告されていないが,長期的な予後については不明であり,今後のデータ集積が待たれる.

胚移植と子宮内環境―良好な子宮内環境に受精卵を確実に移植する

胚移植失敗の原因と回避―移植胚数と胚移植の基本的手技

著者: 佐藤卓 ,   水口雄貴

ページ範囲:P.77 - P.82

▶わが国においては,日本産科婦人科学会の会告により移植胚の数は原則として1つと定められているのだが,本来であれば患者の特性や過去の治療成績などを考慮した個別化された対応が望まれる.
▶胚移植の実施上で留意すべき事項として,超音波ガイド下での実施およびソフト・カテーテルの使用が強く推奨される.また,移植後のbed restは推奨されない.

着床を促進する因子―内膜スクラッチ・エンブリオグルー

著者: 大石元

ページ範囲:P.83 - P.86

▶近年の生殖補助医療では,さまざまな技術的な進歩にもかかわらず,胚移植あたりの妊娠率がさほど改善しておらず,良好胚を移植しても妊娠成立しない反復着床不全に対する対応が課題となっている.
▶胚移植前に子宮内膜へ局所的損傷(器械的刺激)を加えることで着床率が上昇するとの報告があり,着床不全症例に対して子宮内膜スクラッチが導入されているが,エビデンスが不十分である.
▶高濃度ヒアルロン酸含有培養液であるエンブリオグルーを用いることで,着床率が上昇し臨床妊娠率と出生率が向上することが示されている.

慢性子宮内膜炎・子宮内細菌叢と着床―子宮内環境の評価法と治療法

著者: 黒田恵司

ページ範囲:P.89 - P.92

▶子宮内細菌叢の異常は,妊孕能の低下に関与する可能性はあるが,はっきりしていない.
▶慢性子宮内膜炎は子宮内膜局所のCD138陽性形質細胞を伴う持続的な炎症疾患である.
▶慢性子宮内膜炎は妊娠における着床を阻害し,流産率を上げる可能性があり,治療するとその後の妊娠成績が向上する.
▶治療は原則,ドキシサイクリンなどの抗菌薬であるが,子宮内膜ポリープを認める場合には,抗菌薬を用いずに子宮鏡手術を優先する必要がある.

着床時期検査の実施法と有用性

著者: 松林秀彦

ページ範囲:P.93 - P.96

▶反復着床不全に対する検査として,胚因子としてはPGT-A,子宮(内膜)因子としては慢性子宮内膜炎,着床時期検査,子宮(腟)フローラ,免疫,血液凝固,銅・亜鉛などがある.
▶着床時期検査は着床できる時期(着床の窓)を推測する検査.現在の日本で実施可能なのは,スペインIgenomix社のERA検査と米国Cooper Surgical社のERPeak検査である.
▶ERA検査の有用性に関する論文には賛否両論がある.一方で,ERPeak検査は新しい検査のためエビデンスが乏しい.いずれの検査も,今後の前方視的検討が待たれる.

子宮内膜増殖不全に対する多血小板血漿(PRP)療法

著者: 久須美真紀 ,   堤治

ページ範囲:P.97 - P.101

▶PRP療法とは血小板から放出されるサイトカインによる細胞増殖,血管新生,抗炎症作用などを利用した治療法で自己由来のため感染や免疫応答のリスクがなく,安全性が高い.
▶増殖期子宮内膜に投与することにより,子宮内膜増殖作用が期待でき,着床環境を改善する可能性がある.
▶PRP療法は菲薄化子宮内膜以外の着床障害や,卵巣機能不全に対する卵巣注入など可能性が広がっている.

SEET法による子宮内環境の調整法

著者: 後藤栄

ページ範囲:P.102 - P.106

▶SEET法は着床の窓(implantation window)を拡げ着床率を高める可能性がある移植方法である.
▶反復移植不成功例だけでなく,初回移植から適応しても良好な成績が得られている.
▶特に,凍結融解良好胚盤胞をHRT周期で移植する場合は,SEET法を併用するほうが妊娠率が上昇する.

免疫操作法(1)―Th1/Th2とタクロリムス

著者: 中川浩次

ページ範囲:P.107 - P.110

▶反復着床不全症には免疫学的評価を実施し,免疫療法が必要か否かの判断を要する.
▶免疫学的拒絶が疑われる症例では,免疫療法としてタクロリムスを胚移植前から使用する.その管理はタクロリムスの血中濃度で行うことが好ましい.
▶Th1/Th2が高値の反復着床不全症例では,子宮内膜においてもINF-γの発現が高く,IL10の発現が低い(血中も同傾向).タクロリムスの使用でこの拒絶バランスが是正される.

免疫操作法(2)―アスピリン・ヘパリン・免疫グロブリン・脂肪乳剤・プレドニゾロン・ヒドロキシクロロキン

著者: 福井淳史 ,   山谷文乃 ,   柴原浩章

ページ範囲:P.111 - P.116

▶着床期の子宮内膜にはT細胞,NK細胞などの免疫担当細胞が存在し,妊娠の成立・維持に重要な役割を果たしている.
▶T細胞,NK細胞などの免疫担当細胞の異常を有する反復着床不全症例に対して免疫調整療法が有効である可能性がある.
▶反復着床不全症例に対する免疫調整薬として,アスピリン,ヘパリン,免疫グロブリン,脂肪乳剤,プレドニゾロン,ヒドロキシクロロキンなどが試みられている.

胚凍結―受精卵を効率的に安全に凍結する

凍結胚移植の内膜調整―自然周期・ホルモン補充周期・排卵誘発周期移植の概要と特質

著者: 向田哲規

ページ範囲:P.117 - P.121

▶受精後,胚の発達段階において最も適切な凍結保存時期を低温生物学的に考慮すると,それは胚盤胞であり,なかでも拡大胚盤胞が臨床成績の点で最も生存性が高い.
▶ガラス化保存融解後の胚盤胞の生存性確認において最も重要な特徴は,中心細胞塊(ICM)や栄養外細胞層(TE)の細胞形態と胞胚腔の再拡大である.
▶凍結保存および融解ステップと液体窒素内での保存は非生理学的状態であり胚の透明帯は硬化するため,融解移植する際には透明帯補助孵化法(assisted hatching)は必須である.
▶融解胚移植周期の子宮内膜調整法には,大別して排卵後の黄体から分泌される内因性ホルモンが子宮内膜作成に関与する排卵周期と,外因性ホルモン投与が内膜を作成するホルモン補充周期の2つがあり,その特徴を理解し選択すべきである.
▶黄体期子宮内膜機能不全の場合,適切な内膜の分泌変化が障害される可能性があり,それが着床のwindowのずれに関係するため,融解移植のタイミングを前後させ対応する必要がある.

新鮮胚移植と凍結胚移植の安全性

著者: 岩佐武 ,   湊沙希 ,   山本由理

ページ範囲:P.122 - P.125

▶全胚凍結法は新鮮胚移植から開始する従来のIVF/ICSI法と比べて,累積生産率を向上させない.
▶凍結融解胚移植は新鮮胚移植に比べて,中等症および重症OHSSの発症率を低下させる.
▶凍結融解胚移植は新鮮胚移植に比べて,特にhigh responderにおいて生産率を高める可能性がある.
▶凍結融解胚移植は児の出生体重を増加させる.一方,新鮮胚移植は児の出生体重を低下させる.また,移植の方法が妊娠合併症の発症リスクに影響を及ぼす可能性がある.

第3章 生殖補助医療の調節卵巣刺激

卵胞発育の最新理論解説とランダムスタート法―なぜ3日目からの刺激なのか,ランダムスタートでどう変わったか

著者: 黄海鵬 ,   髙井泰

ページ範囲:P.128 - P.131

▶1回の月経周期中に2〜3回の卵胞発育の「波」があるfollicular wave theoryが提唱されている.
▶follicular wave theoryにもとづき,月経周期に関係なく卵巣刺激を開始するランダムスタート法が考案され,月経周期初期から開始する従来法と比べて同等の採卵成績が報告されている.
▶ランダムスタート法は女性悪性腫瘍患者らに対する妊孕性温存症例に広く応用され,短期間での採卵が可能となった.

卵巣刺激法の選択とAMH・AFC―卵巣予備能にあわせた刺激法を

著者: 浅田義正

ページ範囲:P.132 - P.135

▶アンチミューラリアンホルモン(AMH)および胞状卵胞数(AFC)は体外受精における調節卵巣刺激で採れる卵子の数と相関する.当院のデータでは,AMHのほうがAFCに比べてよりよく相関していた.
▶当院では,年齢とAMH値で,不妊治療のステップアップのスピード,調節卵巣刺激法の選択と開始投与量を判断している.
▶体外受精の採卵あたりの妊娠率は,刺激法によって成績が変わるのではなく,成熟卵の数によって成績が変わる.全胚凍結(Freeze All)において,至適採卵数はない.

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)回避の最近の考え方

著者: 北原慈和 ,   岩瀬明

ページ範囲:P.136 - P.139

▶卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスク因子を理解することにより,発症予防を行うことが重要である.
▶OHSS発症リスクが高い場合,トリガーの種類にも注意を払うべきである.
▶妊娠成立がOHSSの増悪因子となるため,OHSSのリスクが高い場合は全胚凍結を考慮するべきである.
▶OHSS発症リスクが高い場合,薬剤を用いた予防法も行われるようになってきている.ただし,適応外使用の薬剤も含まれているため,注意が必要である.

卵巣刺激薬

クロミフェン・レトロゾールを用いた調節卵巣刺激

著者: 唐木田真也 ,   加藤恵一

ページ範囲:P.140 - P.144

▶低刺激周期法であるクロミフェンクエン酸塩(以下,クロミフェン),アロマターゼ阻害薬(以下,レトロゾール)は,下垂体抑制を行わず内因性ホルモンを利用する卵巣刺激法である.
▶低刺激周期法では排卵誘発剤の多量投与を抑えることができるため,重大な副作用も少なく,患者の身体的,経済的負担の少ない優れた卵巣刺激法である.
▶自然に発来するLHサージを見極め,採卵時期を決定することが大切である.そのため,生理的なホルモン動態の理解,卵胞計測,それに基づく判断能力が必須である.

rFSH製剤・ホリトロピンデルタ(レコベル®)の用い方と有用性

著者: 松山玲子 ,   藤本晃久 ,   西井修

ページ範囲:P.145 - P.148

▶リコンビナント卵胞刺激ホルモン(rFSH)製剤は調節卵巣刺激法において中心的に用いられる薬剤である.使用にあたっては単一卵胞発育機序と複数卵胞発育の理論を理解する.
▶卵巣予備能評価に基づく個別化刺激により,高反応者では確実に卵巣過剰刺激症候群を予防し,低反応者では予測収量に見合う低刺激法を選択する.
▶ホリトロピンデルタ(レコベル®)はヒト細胞由来の新しいrFSH製剤であり,血清AMH値に基づいて投与量を決定する.

ホルモン受容体陽性乳がん患者に対する妊孕性温存療法におけるアロマターゼ阻害薬を併用した調節卵巣刺激の意義

著者: 前沢忠志 ,   池田智明 ,   鈴木直

ページ範囲:P.149 - P.154

▶ホルモン受容体陽性乳がん患者に対する調節卵巣刺激において,アロマターゼ阻害薬の使用はエストロゲンの上昇を抑制しながら多数の卵子を保存できる点において有用である.
▶妊孕性温存目的の調節卵巣刺激法として,注射製剤を用いた方法が選択されることが多いことから,アロマターゼ阻害薬の作用による卵巣過剰刺激症候群のリスク低減が期待できる.
▶アロマターゼ阻害薬の使用による体外受精後の妊娠・分娩,新生児の転帰は,自然周期やホルモン補充周期と比較しても遜色がない.
▶アロマターゼ阻害薬の使用による調節卵巣刺激後の乳がんの長期予後については不明である.

自然周期採卵(natural cycle)の意義

著者: 貝嶋弘恒 ,   藤城栄美 ,   米山剛一

ページ範囲:P.155 - P.159

▶卵巣機能低下を伴う高年齢患者には自然周期が適応となる.
▶自然周期の問題点として,黄体化ホルモン(LH)サージの発来,排卵済によるキャンセル率の高さがある.
▶適切な周期における採卵をめざし,妊娠率の向上につなげる.

内因性LHサージ抑制法

Long法・Short法

著者: 銘苅桂子

ページ範囲:P.160 - P.162

▶調節卵巣刺激法は,GnRHアゴニストの投与を採卵周期前の周期から開始するLong法,採卵周期の月経時より開始するShort法に分けられる.
▶Long法は発育卵胞径が均一になるという利点があり,卵巣機能が比較的保たれている症例や,採卵日の調整が必要な症例が適応となる.
▶Short法はflare up効果が期待できるため,Long法を適応とする症例よりもやや卵巣機能低下が予想される症例が適応となる.

凍結融解胚移植の治療成績がよいのはなぜ?

著者: 吉田淳

ページ範囲:P.163 - P.164

▶凍結融解の過程は胚にダメージを与えることがあるが,凍結融解胚移植の成績が新鮮胚移植の成績より高いため,日本では凍結融解胚移植が圧倒的に多く実施されている.
▶その理由として,①高刺激では子宮内膜の成熟が早いため着床率が低下する,②クロミッドを使用した卵巣刺激では,副作用によって子宮内膜が薄くなるときがあり着床率が低くなる,③採卵直後は子宮収縮が多いため着床率が低下する,などがある.

プロゲステロンによる新しい内因性LHサージ抑制―PPOS法による調節卵巣刺激

著者: 山田愛 ,   塩谷雅英

ページ範囲:P.165 - P.170

▶progestin primed ovarian stimulation(PPOS)法は,プロゲスチンを内服しつつ刺激を行う,全凍結を前提とした新しい調節卵巣刺激法である.
▶PPOS法は,調節卵巣刺激中のLHサージ抑制効果を有し,従来のアゴニスト法やアンタゴニスト法と比較して遜色のない採卵成績および臨床妊娠率が得られる方法である.
▶プロゲスチン剤の選択と至適投与量,開始のタイミング,トリガーの選択に関する知見が積み重なり,幅広く臨床応用されるに至っている.

LHサージ誘発法(trigger)

hCG投与とそれ以外のLHサージ誘発法―double/dual trigger・r-hCGとその臨床的意義

著者: 杉山力一 ,   中川浩次

ページ範囲:P.171 - P.175

▶ARTにおけるLHサージ誘起法には,現在,GnRH―アゴニストの点鼻法とhCG製剤の皮下/筋肉投与があり,hCG製剤は半減期が長く,OHSSのリスクを伴う場合は,GnRH―アゴニストの点鼻法が望ましい.
▶GnRH―アゴニストは即効性があり,自然のLHサージと似た状態を作ることができる.一方,下垂体の脱感後やGnRH―アンタゴニスト使用直後は,hCG製剤を用いて誘起を行う.
▶高ゴナドトロピン状態からの卵巣刺激の際には,hCG製剤を使用した誘起が望ましい.

第4章 生殖補助医療時代の一般不妊診療―検査や治療の意義と限界 内分泌学的検査

各種ホルモン測定の実施法と評価法―FSH・LH・E2・P4

著者: 片桐由起子

ページ範囲:P.178 - P.180

▶卵胞刺激ホルモン(FSH)基礎値が15mIU/mLを超える場合は,卵巣機能低下を考える.
▶エストラジオール(E2)基礎値が80pg/mL以上を示すような場合も卵巣機能低下を推測する.
▶天然型プロゲスチン腟製剤投与時の血中プロゲステロン(P4)値は,子宮内膜組織濃度より低く検出される.

インスリン抵抗性の検査と評価法―生殖補助医療での活用法

著者: 北村誠司

ページ範囲:P.181 - P.183

▶多囊胞性卵巣症候群(PCOS)ではインスリン抵抗性のあるケースが認められる.
▶インスリン抵抗値の検査には,空腹時のインスリン値(IRI)や75g経口ブドウ糖負荷後30分のインスリン値,HOMA-Rが使いやすい.
▶PCOSの患者にインスリン抵抗性が認められた場合,メトホルミンやピオグリタゾンが有効なことがある.

甲状腺ホルモンと不妊―TSH・FT4・FT3・抗甲状腺抗体

著者: 吉原愛

ページ範囲:P.184 - P.187

▶甲状腺機能亢進症では月経異常を伴うことが多い.バセドウ病の場合には甲状腺機能を正常に維持することが重要である.
▶甲状腺機能低下症は不妊と関連を認めるが,甲状腺ホルモンを適切に補充することで改善を認める.潜在性甲状腺機能低下症においても,不妊,流産,早産との関連が報告されている.
▶胎児の成長には甲状腺ホルモンが必須であり,妊娠中は甲状腺ホルモンの需要が増加する.母体の甲状腺機能低下症では,児の中枢神経の発達の観点から速やかに甲状腺機能を正常化させることが重要である.

プロラクチンと不妊

著者: 林正美 ,   大道正英

ページ範囲:P.188 - P.191

▶血中プロラクチン(PRL)濃度が高値であっても症状がない場合,マクロプロラクチン血症との鑑別が必要である.
▶高PRL血症の治療にはドーパミンアゴニスト製剤が第一選択とされ,カベルゴリンは副作用が最も少なく使いやすい.
▶卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発症リスクが高い場合,ドーパミンアゴニスト製剤はOHSSの発症率および重症化率を低下させることが報告されている.

卵胞発育モニタリングと基礎体温―排卵日予測の現在と未来

著者: 白藤文 ,   宮崎有美子 ,   折坂誠

ページ範囲:P.192 - P.195

▶卵胞発育モニタリングは,経腟超音波断層法による経時的な卵胞径の計測と,尿中LH測定をメインに,いくつかの検査を組み合わせて行う.
▶基礎体温のビッグデータ解析など,さまざまなデジタル技術を活用して,排卵日を予測しようとする新たな試みが進行している.

卵管疎通性検査と治療

卵管疎通性検査の実施法と評価法

著者: 佐藤健二

ページ範囲:P.196 - P.199

▶子宮卵管造影検査(HSG)において,油性造影剤は水溶性造影剤よりHSG後の妊娠率向上効果が高いと報告されている.一方,油性造影剤は吸収されるまでに時間がかかるため,母児の甲状腺機能への影響は水溶性造影剤より大きいことに注意を要する.
▶HSG後の合併症では,造影剤の血管内流入が最も頻度が高いと報告されているが,肺塞栓や死亡に至るようなケースは稀である.
▶超音波下卵管通水検査はX線撮影設備が不要であり,導入しやすい.超音波診断用造影剤の製造中止があり,生理食塩水にエアバブルを混ぜたものを使用することで代用している施設が多い.HSGと同程度の精度であり,十分なスクリーニング検査が可能である.3Dやドプラの使用で精度を向上できる可能性がある.

クラミジア検査の適応と診断法

著者: 中林章

ページ範囲:P.200 - P.201

▶クラミジア子宮頸管炎の半数以上は無症状である.
▶クラミジアの卵管への慢性持続感染は,卵管性不妊を招く.
▶一般的不妊診療において,現行感染および既往感染を把握するために血清抗体検査を行う.

子宮鏡下選択的通水と卵管鏡下卵管形成術―どのような場合にARTに切り替えるか

著者: 田島博人

ページ範囲:P.202 - P.205

▶子宮鏡下選択的通水で卵管通過性が確認できれば,半年を目途に自然・子宮内精子注入法(IUI)妊娠を期待する.
▶卵管鏡下卵管形成術後も同様に,半年を目途にARTへのステップアップを行う.
▶卵管遠位病変疑いや内膜症合併,30代後半以降などでは,ART導入のタイミングを逃さないようにする.

腹腔鏡検査の意義と適応―体外受精を見据えて

著者: 宇津宮隆史

ページ範囲:P.206 - P.211

▶腹腔鏡手術の発展により,多くの婦人科疾患の治療が腹腔鏡で行われるようになった.
▶不妊治療は可及的人工的手技の少ない方法で行うべきで,その意味でも腹腔鏡検査は重要である.
▶体外受精に入る前に押さえておくべきポイントも腹腔鏡検査・手術で解決できることがある.

子宮因子

office hysteroscopy―どこまでできるか?

著者: 升田博隆

ページ範囲:P.212 - P.216

▶office hysteroscopyという言葉には,外来において行う子宮鏡検査と子宮鏡手術が含まれる.本邦では外来子宮鏡手術を施行している施設はまだ少ないが,欧米では普及している手技である.
▶子宮鏡は,軟性子宮鏡と硬性子宮鏡に大別され,軟性鏡にはファイバースコープとビデオスコープがある.それぞれの利点と欠点を理解し,使用方法や操作方法の違いも熟知したうえで使い分けることが大切である.
▶外来子宮鏡手術の多くを担うのは細径硬性子宮鏡である.細径硬性子宮鏡では多彩な鉗子類が使用でき,軟性子宮鏡や太径の硬性子宮鏡とは取り扱いや操作方法が大きく異なる.
▶細径硬性子宮鏡を使用することで,外来においても無麻酔下で子宮内避妊具の位置補正や抜去,子宮内膜ポリープ切除,軽症のアッシャーマン症候群の癒着剥離,慢性子宮内膜炎の病巣切除などが可能である.

子宮内病変とその治療―子宮奇形・子宮内膜炎・子宮内ポリープ・子宮筋腫

著者: 栗林靖

ページ範囲:P.217 - P.220

▶子宮腔内病変の確定診断には子宮鏡検査が必要である.
▶着床障害を起こす子宮腔内病変の治療には子宮鏡下手術が有効である.
▶子宮腔内病変の改善は妊娠率・生児獲得率の改善に寄与する.

子宮内膜蠕動様運動の検査法とその評価

著者: 吉野修 ,   本田雅子 ,   大須賀穣 ,   平田修司

ページ範囲:P.221 - P.224

▶子宮内膜蠕動様運動は女性ホルモンや器質的疾患の存在により影響を受けており,生理的,病理的意義があると思われる.
▶近年,オキシトシン/バソプレシン受容体アンタゴニストを用いた妊娠率に関する報告が多くなっている.

原因不明不妊症・PCOSへの対応

原因不明不妊症に対する卵巣刺激―クロミフェン・レトロゾール・hMG

著者: 熊澤由紀代

ページ範囲:P.225 - P.227

▶原因不明不妊症では積極的に不妊治療をすることで早期に妊娠が成立し,累積妊娠率が上昇する.
▶原因不明不妊症の治療では排卵誘発下に人工授精を併用することが推奨される.

多囊胞性卵巣症候群の診断と治療―診断とレトロゾールによる排卵誘発

著者: 松崎利也 ,   湊沙希 ,   岩佐武

ページ範囲:P.228 - P.232

▶多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の症状には人種差があり,日本人のPCOSは肥満例が少なく,アンドロゲン過剰症状の頻度が低いなどの特徴がある.
▶日本産科婦人科学会の診断基準は日本人のPCOSを診断するのに適している.この診断基準で診断したPCOS患者は,国際基準も満たしている.
▶レトロゾールはクロミフェンに比べ排卵率,生産率が高く,海外ではPCOSに対する排卵誘発の第一選択薬に位置付けられている.

人工授精の実際

子宮内授精と頸管内授精

著者: 木村寛子 ,   内田浩

ページ範囲:P.233 - P.235

▶自然周期における子宮内授精と頸管内授精とで妊娠率,出生率に明らかな差異があるとはいえない.
▶挿入困難例は無理をせずストレスフリーな頸管内授精も選択の1つである.

人工授精のタイミングとhCG投与,黄体補充のプロトコール

著者: 福原理恵 ,   淵之上康平 ,   横山良仁

ページ範囲:P.236 - P.238

▶hCGをトリガーに使用する場合には,hCG投与後24〜40時間の間にAIHを施行する.
▶自然周期でトリガーを使用しない場合,LHサージの翌日にAIHを行う.

人工授精の際の精子調整・精子凍結の方法と留意点

著者: 福岡美桜 ,   山田満稔 ,   宇津野宏樹 ,   上條慎太郎 ,   浜谷敏生 ,   田中守

ページ範囲:P.239 - P.243

▶人工授精とは,一般的に調整した精子を子宮内に注入する方法を指す.
▶人工授精における精子調整法は大きく密度勾配遠心法とswim up法に分類される.
▶非配偶者間人工授精においては日本産科婦人科学会の会告により凍結精子を使用するよう義務付けられている.

男性不妊―検査

精液検査の実施法と評価法―どういう場合に何を疑うか

著者: 湯村寧 ,   齋藤智樹 ,   竹島徹平

ページ範囲:P.245 - P.249

▶精液検査は男性不妊患者に対するはじめの一歩の検査である.多くの検査方法,検査デバイスが存在するが,射精後1時間以内での検査,治療開始前に2〜3回の検査施行などの原則は遵守すべきである.
▶2021年にWHOは精液所見の正常下限値改訂を行っており,説明時に注意が必要である.
▶精液所見異常の場合,男性不妊を呈する疾患を念頭に置きつつ診療・検査を行うべきである.

泌尿器科的診察・陰囊超音波・CT/MRI

著者: 大橋正和 ,   森田伸也 ,   高松公晴

ページ範囲:P.250 - P.254

▶不妊原因の約半数が男性サイドに存在する.泌尿器科医による男性不妊治療で,①精液所見が改善しART→IUI→タイミングといった婦人科不妊治療の“step down”が可能となる症例や,②性行為が可能となり自然妊娠が可能となる症例が多々ある.男性サイドに問題がある場合は,泌尿器科男性不妊専門医に積極的に紹介してほしい.
▶男性不妊診療は,問診,身体診察,ホルモン採血,陰囊超音波,CT・MRIなどの多角的なアプローチにより行われる.

男性不妊のホルモン測定の適応と実施法

著者: 佐藤雄一 ,   小川総一郎 ,   小島祥敬

ページ範囲:P.255 - P.257

▶男性不妊症例においてはLH,FSH,テストステロンの測定は必須であり,午前中の採血が望ましい.必要に応じてプロラクチン,エストラジオールも測定する.
▶FSH値が7〜8mIU/mL以上の場合は造精機能障害を伴っている場合が多く,精索静脈瘤などの基礎疾患の精査が必要である.
▶低ゴナドトロピン性性腺機能低下症はゴナドトロピン療法により高率に射出精子を認めることから,FSH,テストステロンがともに低値の場合には疑う必要がある.

重症男性不妊に対する染色体・遺伝子検査の適応と意義

著者: 小宮顕

ページ範囲:P.258 - P.262

▶精子濃度が500万〜1000万/mL未満の症例では遺伝学的検査を実施すべきである.
▶無精子症において,精巣内精子採取術(TESE)の適応を決定する際にY染色体微小欠失の検索が推奨される.
▶遺伝カウンセリングを行える体制の構築が必要である.

抗精子抗体の意義

著者: 柴原浩章 ,   本田晴香 ,   武田和哉 ,   脇本裕

ページ範囲:P.263 - P.266

▶男性側の抗精子抗体(ASA)のスクリーニングには,精液検査の際に運動精子上に結合する精子結合抗体を検出する.血中抗体の検出は臨床的意義が低い.イムノビーズテストは製造中止となり,現在はイムノスフェアを行う.
▶妊孕性のある男性が,射出精子上に結合するASAを保有することがある.これは精子の運動能や受精能を障害するという生物作用を有しないASAが結合する場合である.
▶したがって精子結合抗体が陽性の場合には,二次検査として性交後試験や受精阻害試験を実施し,治療方針を決定することが重要である.

男性不妊―治療

男性不妊症に用いられる薬物療法の種類と実施法

著者: 白石晃司

ページ範囲:P.267 - P.270

▶低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対し,ゴナドトロピン療法により高率に射出精子の出現を認める.
▶非内分泌療法は造精機能障害に対し有効性を示すエビデンスは非常に弱いが,有効である症例は存在し,副作用も少ないことから広く処方されている.
▶クロミフェンやアロマターゼ阻害薬は適応を絞れば有効である可能性が高く,今後のエビデンスの蓄積が期待される.

精索静脈瘤根治術の適応と有効性

著者: 辻村晃

ページ範囲:P.271 - P.273

▶造精機能障害は原因不明のものが多いが,原因が明確なもののなかでは精索静脈瘤が最多(36.6%)である.
▶精索静脈瘤を認めた男性のすべてが造精機能障害を呈するわけではなく,また治療したからといっても必ず精液所見が改善するわけでもないので,十分な説明が必要である.
▶近年,顕微鏡下低位結紮術が普及し,全国調査の結果では,約70%の患者で精液所見の改善が認められた.

simple TESEとmicrodissection TESEの適応と実施法

著者: 岡田弘 ,   岩端威之 ,   杉本公平

ページ範囲:P.274 - P.277

▶精巣精子採取術(TESE)は無精子症患者の精巣から精子を回収するために行う.診断目的の精巣生検は行うべきでない.精巣へのダメージを最小限に抑えるため,MD-TESEが基本手技である.
▶MD-TESEは,多数例の経験のある術者が行うべきである.精巣精子の凍結保存とこれを融解して卵細胞質内精子注入法(ICSI)を行うことは,エンブリオロジストの高い技術が要求されるため,施設の整備が必要である.
▶精巣精子は凍結保存し,採卵時に融解してICSIに用いるのが基本であるが,凍結保存-融解に弱い精巣精子があるため,採卵日に合わせてTESEを行うfresh TESE-ICSIが必要な場合もある.

*本論文中,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年4月末まで).

逆行性射精の診断と治療―精子採取法

著者: 小林秀行

ページ範囲:P.278 - P.279

▶膀胱頸部の閉鎖不全にて精液が膀胱に流入することで起きる.
▶アモキサピンが70.6%で有効である.
▶アモキサピン無効例に対しては,精巣内精子採取術(TESE)や膀胱内精子回収法を行う.

第5章 提供精子・提供卵子

精子提供と提供精子の需要,子どもの出自を知る権利

著者: 吉政佑之 ,   浜谷敏生

ページ範囲:P.282 - P.285

▶提供精子の需要は高まっているが,今後ドナーの匿名性が担保されない可能性があることから精子ドナーは減少傾向にある.
▶現在,本邦においてはSocial Network Serviceを利用した個人間の精子提供も散見され,また海外医療ツーリズムも含めさまざまな精子提供形式が存在している.海外ですでに大きな社会的役割を果たしている世界最大のドナーバンクにも日本からアクセスが可能となっている.
▶子どもの出自を知る権利をめぐって,本邦におけるさまざまなドナーバンクの規制,精子ドナー個人情報の管理などについて社会的コンセンサスの形成や法の整備が待たれる.

卵子提供とその問題点

著者: 久具宏司

ページ範囲:P.286 - P.289

▶卵子提供は,通常の体外受精の延長上に位置付けられる技術であるが,胎児が母体にとって遺伝的つながりをもたない「非自己」であることから,妊娠高血圧症候群などのハイリスク妊娠となりやすい.
▶民法特例法の施行により,第三者が関与する妊娠で生まれた子の親子関係が法律で規定された.これまでの判例同様に,卵子提供妊娠で生まれた子の母親は産んだ女性であることが明記された.
▶卵子提供を実施に移すには,子どもの権利条約を尊重し,提供者募集の際の商業主義や優生思想を排除する制度の構築が重要である.産婦人科医の役割は,提供を受けるカップルを適切に診断することにある.

子宮移植の現状

著者: 阪埜浩司 ,   木須伊織 ,   青木大輔

ページ範囲:P.290 - P.296

▶近年,先天性および後天性子宮性不妊女性の挙児のために子宮移植という新たな生殖補助医療技術が1つの選択肢として考えられている.
▶海外ではすでに臨床研究が開始され,これまでに87例の子宮移植が実施され,49名の児が誕生している.
▶子宮移植には他の生殖補助医療技術と同様に多くの医学的,倫理的,社会的課題が内包され,臨床応用にはこれらの課題を十分に鑑みたうえで,慎重に検討される必要がある.
▶子宮移植はこれまで挙児が不可能とされていた子宮性不妊女性に福音をもたらすことが大いに期待される.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.5

奥付

ページ範囲:P.298 - P.298

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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今月の臨床 総合診療における産婦人科医の役割─あらゆるライフステージにある女性へのヘルスケア

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今月の臨床 ゲノム時代の婦人科がん診療を展望する─がんの個性に応じたpersonalizationへの道

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