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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科77巻3号

2023年04月発行

雑誌目次

今月の臨床 乳腺―産婦人科医が知っておくべき必須知識 総論

乳腺の構造と機能

著者: 今西宣晶

ページ範囲:P.326 - P.332

●皮下組織は全身で一様ではない.乳房では乳腺を挟んで浅層と深層で構造が異なり,また乳房の下縁,内側,外側では線維組織が深部に係留され,乳房というマクロの形態が形作られている.

●異なる皮下組織に挟まれた乳腺は体表外胚葉が皮下に向かい樹状に増殖した産物である.この樹枝の壁は2層の細胞からなる管腔構造(乳管)となり,その終末部が乳腺の本体となる.

●皮下組織と乳頭,乳輪,乳腺の解剖については図を用いた.互いの図を関連付けて理解していただきたい.

プロラクチン分泌の制御とその異常―新たな知見を含めて

著者: 生水真紀夫

ページ範囲:P.333 - P.340

●プロラクチンは,視床下部ドパミンにより抑制的に制御されている.

●プロラクチンは,プロラクチン受容体を介して自分自身の分泌を抑制している.

●高プロラクチン血症により,乳漏と月経異常が生じる.

●プロラクチン受容体欠損症は,泌乳欠如と高プロラクチン血症を示す.

乳がんの治療と管理

乳がんの最新治療戦略

著者: 上田亜衣 ,   石川孝

ページ範囲:P.341 - P.346

●乳がんは受容体発現状況によってサブタイプ分類がなされ,薬物治療の選択が異なる.各サブタイプに対して周術期・再発治療に投与可能ながん治療薬が次々に開発され,日常臨床で使用され始めている.

BRCA1/2遺伝子変異陽性かつHER2陰性乳がんの周術期および進行再発期において,PARP阻害薬の有効性が示された.特にBRCA1遺伝子変異陽性乳がんの主要なサブタイプであり,予後不良なトリプルネガティブ乳がんでPARP阻害薬が予後の改善につながることが期待されている.

初期治療―外科治療,化学療法・放射線療法

著者: 林田哲 ,   北川雄光

ページ範囲:P.347 - P.352

●乳がんは初期治療の段階で全身病ととらえて治療を行うべきであり,手術・放射線治療といった局所に対する治療と並行して,全身に対する薬物療法が必須である.

●サブタイプごとにまったく異なるがん種と考え,使用する薬物療法を根本から変化させていく必要がある.

●乳がん治療では根治性の追求は当然であるが,乳房の整容性にも配慮を行う必要があるため,時には乳房再建術を検討しつつこれを実現する必要がある.

維持療法と産婦人科(体がん)検診

著者: 小林陽一 ,   中野紗弓 ,   松本浩範

ページ範囲:P.353 - P.357

●タモキシフェン(TAM)投与中に子宮内膜がんの発症リスクは上昇するが,子宮内膜がんによる死亡率は上昇しない.

●TAMを投与されている患者には内膜増殖症や内膜がん,子宮肉腫のリスクについて十分説明する.

●TAM投与中の乳がん患者,特に閉経前の症例では定期的な婦人科検診は不要であるが,不正性器出血などの症状を認めた場合にはすみやかに婦人科を受診させる.

遺伝性乳がん

著者: 中村清吾

ページ範囲:P.358 - P.362

BRCA1/2遺伝子は,元来がん抑制遺伝子であるが,その病的バリアント(変異)により,遺伝子不安定性が生じ,遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を引き起こす.

●2020年4月より,乳がんもしくは卵巣がんの既発症者では,HBOCを疑われた場合のBRCA検査およびHBOCが確定した後のリスク低減目的での対側乳房切除術,卵管卵巣摘出術が保険適用となった.

●gBRCA遺伝子病的バリアント(変異)陽性であれば,乳がん,卵巣がんはもとより,遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がんや治癒切除不能な膵がんでもPARP阻害薬の1つであるオラパリブが効果を示す.

乳がんから発見されたHBOCの産婦人科検診・治療

著者: 西野幸治 ,   安達聡介 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.363 - P.369

●乳がんを契機に診断されたHBOC患者の健康管理における最大の目的は,卵巣がん,対側乳房や残存乳腺からの新規乳がんなどの2次がんの発生・罹患を防ぐことにある.

●そのなかで,卵巣がんを早期発見できる有効な検診は存在せず,リスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)のみが,唯一強く推奨される対策法である.

遺伝性乳がん(BRCA1/2, Li-Fraumeni)の着床前遺伝子検査―新しい審査体制を含めて

著者: 佐藤卓 ,   水口雄貴

ページ範囲:P.370 - P.376

●遺伝性乳がんを含む,遅発発症の遺伝性疾患に対する着床前遺伝子検査(PGT-M)の実施に関しては,今なお議論があるが,欧米においては確実にその実施数を増加させている.

●わが国においても,平成10年の日本産科婦人科学会の会告以来,PGT-Mの適応の要件である「重篤な疾患」の基準については大きな変更がなかったが,近年は日本産科婦人科学会や個々の疾患の関連学会を中心に再考がなされつつある.

●遺伝性乳がんに対するPGT-Mの技術は確立している.近年では,自らの遺伝的状態を調べることなく,かつ次世代にも確実に病的バリアントを引き継がせない目的で実施される「非開示PGT」の実施の要望が,遺伝性乳がんの患者のなかでも高まりつつある.

乳がんの早期発見

日本の乳がん検診―その有効性と問題点

著者: 植松孝悦

ページ範囲:P.377 - P.383

●40代日本人女性の検診マンモグラフィの感度は47%である.

●日本人女性の検診マンモグラフィの受診率は50%未満である.

●検診マンモグラフィ単独と乳房超音波検査を併用した乳がん検診マンモグラフィの成績を比較したJ-STARTは,リスク層別化乳がん検診のランダム化比較試験と解釈できる.

ホルモン補充療法,ピルと乳がんリスク・検診の有効性

著者: 片岡明美 ,   阿部朋未 ,   大野真司

ページ範囲:P.384 - P.388

●有子宮女性へのエストロゲン+黄体ホルモン併用療法は長期投与により乳がん発症リスクを増加させ,子宮摘出後女性へのエストロゲン単独療法においても乳がん発症リスクを増加させる可能性がある.

●低用量経口避妊薬(OC)と低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)の使用は乳がん発症リスクを増加させる可能性がある.

●女性が自分の乳房の状態に日頃から関心をもち,乳房を意識して生活する「ブレスト・アウェアネス」という習慣は,今後の乳がん早期発見における新しい考え方である.

乳がんと妊孕性温存,妊娠出産,再建

乳がんと妊孕性温存

著者: 中村健太郎 ,   洞下由記 ,   鈴木直

ページ範囲:P.389 - P.396

●乳がん治療は妊孕性低下リスクがあるため,若年乳がん患者には妊孕性温存に関する情報を初回のがん治療前に提供すべきである.

●妊孕性温存療法は,がん治療に支障のない範囲内で行うべきであり,個々の患者の希望や乳がんの状況を考慮して選択される.

●胚凍結,卵子凍結は確立された方法であるが,治療開始前の凍結個数には限界があり,妊娠率は凍結時の年齢に依存する.

●卵巣組織凍結の主なる適応は35歳以下であり,移植による卵巣機能回復が期待できる方法だが,有効性と安全性の検証は十分でない.

乳がん患者の妊娠・出産・授乳

著者: 安井理 ,   関沢明彦

ページ範囲:P.397 - P.405

●思春期・若年成人世代がん患者における妊孕性温存例の増加や高年妊娠率の上昇を背景に,乳がん患者の妊娠・出産・授乳例が増えている.

●乳がんと妊娠・出産・授乳の関連について情報提供を行う際は,エビデンスに基づいた適切な情報提供が望まれる.

乳房再建術・豊胸術の最新知識

著者: 加賀谷優 ,   三鍋俊春

ページ範囲:P.406 - P.415

●乳がん切除後の乳房再建には,大きく分けて自家組織再建(血管付きの組織である皮弁)と人工物再建(シリコンインプラント)の2つがあり,いずれも保険適用である.

●乳房再建術の施行時期は,乳房切除術と同時の「一次再建」と,後日の「二次再建」がある.また,1回で再建を完了する「一期再建」と,組織拡張期(エキスパンダー)で皮膚を伸ばしてから後日再建を行う「二期再建」がある.

●遺伝性乳がん卵巣がん症候群に対するリスク低減乳房切除術が新たに保険収載され,同時にこの疾患における乳房再建にも保険が適用拡大されている.

母乳育児

妊娠と乳房・産褥乳腺炎―産褥乳腺炎,陥没乳頭,乳頭腫瘤

著者: 堤清明 ,   永井敦 ,   永井泰

ページ範囲:P.416 - P.422

●乳腺炎の前段階である乳房緊満や,うつ乳の防止には排乳の促進を図ることが肝要で,乳房マッサージは逆効果を生じるおそれがある.

●陥没乳頭は乳房の大きさに比べて乳管が短く乳頭が突出できないことが原因で,妊婦の5人に1人程度はおり,軽度なものなら吸引矯正が可能である.

●妊娠中および産褥期に乳頭・乳輪にできる腫瘤は軟線維腫が多く,外用局所麻酔剤を使えば痛みもなく簡単に切除できる.

母乳の特徴と母乳育児の得失

著者: 和田友香

ページ範囲:P.423 - P.428

●母乳育児支援には「The Ten Steps to Successful Breastfeeding(母乳育児がうまくいくための10のステップ」が有用である.

●産科病棟や産院を退院する際にお土産として粉ミルクを渡すことは「The International Code of Marketing of Breastmilk Substitutes(母乳代用品のマーケティングに関する国際規準)」違反である.

●母乳には人工乳に含まれないマクロファージ,リンパ球などの細胞成分,マイクロRNA,ホルモン,サイトカインなどが含まれており,感染防御をはじめ多くの得を子どもにもたらしている.

●母乳育児には母親と子どもへの得だけでなく社会への得〔医療費削減,人工乳の容器・哺乳瓶・乳首などの廃棄による環境への負担の軽減,災害時にも清潔に母乳を与えられる(=人工乳が必要な子どもへの人工乳が不足しない)など〕もある.

症例

体外受精反復不成功のため人為的透明帯除去を実施することで形態良好胚が得られ,生児を獲得できた1例

著者: 和田麻美子 ,   平山和宏 ,   藤井調 ,   伊勢田千裕 ,   船木那津美 ,   千葉幹子 ,   赤石一幸 ,   谷川原真吾 ,   星和彦

ページ範囲:P.429 - P.433

▶要旨

現在,移植当たりの妊娠率の高さから胚盤胞移植が主流となっているが,正常受精卵が得られても,フラグメントの発生や細胞分割不良などによる胚発育不良のために胚盤胞が得られず胚移植ができない難治性不妊の患者も少なくない.今回,形態不良胚が多く,なかなか胚盤胞が得られない難治性不妊症例に対し,自施設での孵化補助法の手法を応用し前核期胚の透明帯を完全除去・培養したところ,形態良好な胚盤胞を得,凍結融解胚移植により単胎妊娠が成立した.妊娠経過は順調で,妊娠41週帝王切開で3,753gの男児を分娩した.

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目次

ページ範囲:P.322 - P.323

次号予告・奥付

ページ範囲:P.436 - P.436

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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