文献詳細
文献概要
増刊号 産婦人科医のための緊急対応サバイバルブック Ⅲ. 産科編 ❸分娩時・産褥期の緊急対応
産科領域のDICへの対応
著者: 板倉敦夫1
所属機関: 1順天堂大学医学部産婦人科学講座
ページ範囲:P.283 - P.286
文献購入ページに移動遭遇しやすい典型ケース
32歳の特にリスクを認めない39週の初産婦が子宮口全開大後,自然破水をした.その後胎児心拍数陣痛図(CTG)で突然の徐脈を認めた.意識は清明,橈骨動脈を触知して血圧の著しい低下がなく,CTGの心音と母体脈拍が異なることを確認した.酸素を投与し,腹部の触診を行ったが異常な硬さは感じなかった.左側臥位にして内診したが,臍帯は触知しなかった.児頭は小泉門先進,矢状縫合縦径に一致,先進部は+4であったことから,鉗子分娩で児を娩出した.出生体重3,046g,アプガースコア4/7,臍帯動脈ガス分析 : pH 7.09であった.新生児蘇生の初期措置を行っていると,助産師より性器出血が多いと声がかかり,交代して双手圧迫を行いながら人員を集めた.さらにルートを確保してオキシトシン,エルゴメトリンを投与したが,双手圧迫を解除すると出血する状態が持続した.出血に凝血塊を認めず臨床現場即時検査(POCT)でフィブリノゲン82mg/dLであったことから「産科危機的出血」宣言を行い,フィブリノゲン製剤3g,赤血球製剤(RBC)6単位,新鮮凍結血漿(FFP)6単位を同型ノンクロスでオーダーした.検査室よりフィブリノゲン78mg/dL,FDP 238μg/mL,アンチトロンビン(AT)92%,Hb 8.4g/dLであると連絡があった.最終的にRBC 12単位(RBC-LR-2 : 6パック),FFP 12単位(FFP-LR120 : 6パック,FFP-LR240 : 3パック),フィブリノゲン製剤6gを投与し,出血量3,560gで止血が得られた.後日,亜鉛コプロポルフィリン<1.6 pmol/mL,シアリルTn抗原(STN)65.0U/mLと報告があった.
32歳の特にリスクを認めない39週の初産婦が子宮口全開大後,自然破水をした.その後胎児心拍数陣痛図(CTG)で突然の徐脈を認めた.意識は清明,橈骨動脈を触知して血圧の著しい低下がなく,CTGの心音と母体脈拍が異なることを確認した.酸素を投与し,腹部の触診を行ったが異常な硬さは感じなかった.左側臥位にして内診したが,臍帯は触知しなかった.児頭は小泉門先進,矢状縫合縦径に一致,先進部は+4であったことから,鉗子分娩で児を娩出した.出生体重3,046g,アプガースコア4/7,臍帯動脈ガス分析 : pH 7.09であった.新生児蘇生の初期措置を行っていると,助産師より性器出血が多いと声がかかり,交代して双手圧迫を行いながら人員を集めた.さらにルートを確保してオキシトシン,エルゴメトリンを投与したが,双手圧迫を解除すると出血する状態が持続した.出血に凝血塊を認めず臨床現場即時検査(POCT)でフィブリノゲン82mg/dLであったことから「産科危機的出血」宣言を行い,フィブリノゲン製剤3g,赤血球製剤(RBC)6単位,新鮮凍結血漿(FFP)6単位を同型ノンクロスでオーダーした.検査室よりフィブリノゲン78mg/dL,FDP 238μg/mL,アンチトロンビン(AT)92%,Hb 8.4g/dLであると連絡があった.最終的にRBC 12単位(RBC-LR-2 : 6パック),FFP 12単位(FFP-LR120 : 6パック,FFP-LR240 : 3パック),フィブリノゲン製剤6gを投与し,出血量3,560gで止血が得られた.後日,亜鉛コプロポルフィリン<1.6 pmol/mL,シアリルTn抗原(STN)65.0U/mLと報告があった.
参考文献
1)DeLee JB : A case of fatal hemorrhagic diathesis, with premature detachment of the placenta. Am J Obstet Gynecol 44 : 785, 1901
2)Obata I : On the nature of eclampsia. J Immunol 4 : 111-139, 1919
3)Schneider CL : Fibrin embolism(disseminated intravascular coagulation)with defibrination as one of the end results during placenta abruptio. Surg Gynecol Obstet 92 : 27-34, 1951
4)Taylor Jr FB, et al : Towards definition, clinical and laboratory criteria, and a scoring system for disseminated intravascular coagulation. Thromb Haemost 86 : 1327-1330, 2001
5)令和4年度委員会報告周産期委員会.日産婦誌75 : 637-661, 2023
6)Kikuchi M, et al : Fibrinogen concentrate substitution therapy for obstetric hemorrhage complicated by coagulopathy. J Obstet Gynaecol Res 39 : 770-776, 2013
7)Iwasaki Y, et al : Effect of antithrombin III among patients with disseminated intravascular coagulation in obstetrics : a nationwide observational study in Japan. BJOG 129 : 805-811, 2022
8)Shakur H, et al : Effect of early tranexamic acid administration on mortality, hysterectomy, and other morbidities in women with post-partum haemorrhage(WOMAN) : an international, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 389 : 2105-2116, 2017
9)Lee HY, et al : Primary postpartum hemorrhage : outcome of pelvic arterial embolization in 251 patients at a single institution. Radiology 264 : 903-909, 2012
10)Kong CW, To WW : Prognostic factors for the use of intrauterine balloon tamponade in the management of severe postpartum hemorrhage. Int J Gynaecol Obstet 142 : 48-53, 2018
掲載誌情報