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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科78巻6号

2024年06月発行

雑誌目次

今月の臨床 子宮頸がん撲滅へ向けた戦略―ワクチンと検診の新たなトレンドは? 総論

子宮頸がん撲滅に向けた取り組み―WHOはどこを目指しているか

著者: 永瀬智

ページ範囲:P.468 - P.472

●「90%の少女が15歳までにHPVワクチンを接種し,70%の女性が35歳と45歳に検診を受け,90%の前がん病変・浸潤がん患者が適切な治療を受ける」ことが達成されれば,子宮頸がんのない世界が実現する.

●高接種率を達成している国の多くが,学校ベースの接種となっている.

●2019年時点,92か国でワクチン接種が国の予防接種プログラムとして導入されているが,地域不均衡は未解決である.

本邦の子宮頸がんの現状

著者: 望月亜矢子 ,   武隈宗孝

ページ範囲:P.473 - P.478

●欧米をはじめとする先進国では子宮頸がん罹患率が低下傾向であるのに対して,本邦の子宮頸がん罹患率は2000年頃から著しく上昇している.

●2013年に厚生労働省が積極的接種勧奨を中止したことにより,2014年以降,本邦のHPVワクチン接種率は1%未満にまで落ち込んだ.2022年に積極的接種勧奨の再開を実施したが,2022年の本邦のHPVワクチン接種率は7%といまだ低値である.

●本邦の子宮頸がん検診は対策型検診であり,2022年の受診率は43.6%と欧米をはじめとする先進国と比較して低い.

子宮頸がんの発がん機序とその制御

著者: 川名敬

ページ範囲:P.480 - P.488

●HPV感染をワクチンによって免疫学的に予防することが有効である.

●HPV感染からがん化へのメカニズムは解明されてきたが,HPVに対する宿主の免疫学的な個人差が発症や病変進行の差になる.

●HPV(予防)ワクチンの世界的普及を目指しつつ,第2の予防としてHPV治療ワクチンによるHPV感染制御も期待される.

HPVワクチン

2価・4価HPVワクチンの効果

著者: 橋本千明 ,   重田昌吾 ,   島田宗昭

ページ範囲:P.490 - P.494

●2価・4価HPVワクチンの有効性に関しては11〜14年程度の持続効果が報告され,長期間の有効性が示されつつある.

●HPVワクチンの子宮頸がんに対する予防効果が海外で示されてきたが,本邦においても2023年に初めて報告された.

●2022年4月よりHPVワクチンの積極的接種勧奨が再開され,今後,ワクチン接種率の回復が期待される.

9価HPVワクチンの効果

著者: 工藤梨沙 ,   関根正幸 ,   榎本隆之

ページ範囲:P.496 - P.502

●9価HPVワクチン(シルガード®9)はHPV6/11/16/18/31/33/45/52/58型の感染を予防するワクチンである.日本人子宮頸がんの約9割に関与している7種類のHPVの感染を予防することができる.

●諸外国に後れを取ってきたが,本邦でも2023年4月から定期接種として公費で接種できるようになり,15歳の誕生日の前日までに初回接種を行った場合には,2回接種(6か月以上間隔を空ける)で完了とすることができる.

●HPVワクチンの積極的接種勧奨が中止された期間に接種機会を逃がした人(1997〜2007年度に生まれた女性)に対しても公費で接種する機会(キャッチアップ接種)が与えられている.

本邦のHPVワクチン接種事業の変遷

著者: 井箟一彦 ,   岩橋尚幸 ,   八幡環 ,   堀内優子 ,   馬淵泰士

ページ範囲:P.504 - P.512

●日本では2013年4月よりHPVワクチンが定期接種となったが,接種後の多様な症状の報告が因果関係の科学的根拠を欠いたまま広がり,同年6月より8年以上もの間,積極的勧奨の差し控えが継続した.そのため,世界的な子宮頸がん予防戦略から大きく後れをとった.

●2022年4月にHPVワクチンの積極的勧奨が再開し,同時に接種機会を逃した世代への公費によるキャッチアップ接種が導入され,2023年4月からは9価ワクチンの定期接種が開始されている.

●今後の課題として,HPVワクチンの意義の啓発・最新情報の発信による国民の信頼回復,定期接種世代の接種率の増加,男性への定期接種導入,接種後の症状に対する診療体制の担保が挙げられる.

HPVワクチンの副反応とその対処法

著者: 佐藤慎也

ページ範囲:P.513 - P.518

●産婦人科医は,有害事象と副反応の定義が異なることを理解し,HPVワクチンについた負のイメージを変える必要がある.

●HPVワクチンの安全性は科学的に証明されており,接種後のさまざまな症状は予防接種ストレス関連反応(ISRR)を含むと考えられる.

●接種後症状の予防や対処にはファーストタッチ医だけでなく,政府,メディア,行政,教育機関,企業,医療従事者の連携が求められる.

大規模疫学研究・社会医学研究

NIIGATA STUDY

著者: 黒澤めぐみ ,   工藤梨沙 ,   関根正幸

ページ範囲:P.519 - P.524

●NIIGATA STUDYは,新潟県のHPVワクチンの公費接種世代を含む20代女性を対象として,自治体の子宮がん検診受診者を登録し,HPV感染率,細胞診異常率,組織診異常率をワクチン接種群と非接種群とで比較する横断研究である.

●HPVワクチン接種によりHPV感染率と前がん病変発症の予防効果が確認された.

●積極的勧奨中止による影響で対象世代のHPV16/18型感染率が再上昇しており,キャッチアップ接種の推進や検診事業の強化などの施策が必要である.

OCEAN STUDY

著者: 八木麻未 ,   上田豊

ページ範囲:P.526 - P.531

●大阪府におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン有効性評価研究(OCEAN STUDY)では,中間解析としてハイリスク型HPV感染率,HPV16/18型感染率が非接種者に比し接種者で有意に低下していることを報告した.

●OCEAN STUDYの中間解析では細胞診・組織診異常率の低下はまだ認められなかったが,その原因としては,症例が蓄積中であることと,接種群ではHPV16/18型以外の感染割合が増加しており,これらの型による細胞診・組織診異常が発生している可能性が考えられた.

●無料クーポン券や母親を介した子宮頸がん検診受診勧奨は一定の効果があるが,課題もあり,日本における子宮頸がん検診受診率の向上には,子宮頸がん検診に関する情報提供,検診体制の構築やアクセス改善に加えて,「がん教育」など受診対象者の予防意識向上と行動変容につながる複合的な方策が求められる.

YOKOHAMA STUDY

著者: 宮城悦子 ,   水島大一 ,   助川明子 ,   鈴木幸雄

ページ範囲:P.532 - P.538

●日本におけるHPVワクチンの接種勧奨差し控えという異常な状況下で,YOKOHAMA STUDYは国内外の子宮頸がん予防情報を周知するために,社会医学研究を行ってきた.

●医学部学生への定点アンケート調査で,子宮頸がん予防の知識と意識,HPVワクチン接種の動向を明らかにした.

●子宮頸がん予防の啓発で対象者の行動変容を起こすために,年齢層や性別などを加味した多様な戦略が必要であると考えられた.

子宮頸がん検診

子宮頸がん検診の現状と今後の方向性

著者: 森定徹

ページ範囲:P.539 - P.544

●欧州,オセアニアなどでHPV検査単独法による子宮頸がん検診が導入されている.

●HPV検査を用いた検診では,液状検体法(LBC法)が有用である.

●今後の子宮頸がん検診を考える際,過去の検診受診歴,HPV statusなどの受診者データベースの構築が望まれる.

症例

腹腔鏡下に異なる治療を施行した非交通性副角子宮の2例

著者: 竹田善紀 ,   谷口真紀子 ,   綾野沙羅 ,   中谷真豪 ,   黒瀬苑水 ,   笹森博貴 ,   福井寛子 ,   新納恵美子 ,   伊東史学 ,   喜多恒和 ,   佐道俊幸

ページ範囲:P.545 - P.551

▶要旨

 単角子宮は全子宮奇形の0.3〜4.0%と稀な疾患で,非交通性副角子宮を伴うものはさらに稀有である.今回,われわれは異なる治療法で管理した非交通性副角子宮の2例を経験したので報告する.

 症例1 : 14歳,0妊.月経困難症のため当院に紹介となり,精査の結果,非交通性副角子宮を認めた.副角子宮と単角子宮は索状構造物を介するのみで,腹腔鏡下副角子宮切除術を施行した.

 症例2 : 35歳,0妊.下腹部痛のため近医を受診し,卵巣囊腫を指摘され,当院へ紹介となった.精査の結果,単角子宮左側に広基性に連続する非交通性副角子宮と左卵巣子宮内膜症性囊胞を認めた.早期の妊娠希望があり,副角子宮は切除せず,腹腔鏡下卵巣腫瘍摘出術を施行した.

 副角子宮切除術における手術の難易度は副角子宮と単角子宮の連結の程度に依存する.月経困難症の改善とともに,妊孕性を損なわない治療を選択する必要があり,個々の症例に応じた対応が必要である.

小型卵巣成熟奇形腫に発生した大細胞神経内分泌癌の1例

著者: 海平俊太郎 ,   上山恭平 ,   篠原拓実 ,   清水綾乃 ,   岡本朗良 ,   柿沼薫 ,   中里宜正 ,   大和田倫孝 ,   柿沼敏行

ページ範囲:P.552 - P.555

▶要旨

 われわれは腫瘍径が5cmの小型卵巣成熟奇形腫に発生した稀な大細胞神経内分泌癌症例を経験した.

 年齢は57歳で,不正性器出血のため近医を受診し,超音波検査で左卵巣腫大を指摘され,精査を目的に当科を紹介された.超音波検査およびMRIでは,左卵巣が長径5cmで囊胞性に腫大し,囊胞壁の一部に充実性成分が混在していた.左卵巣成熟奇形腫の診断のもとに腹腔鏡下両側付属器摘出術を実施したところ,摘出した左卵巣には毛髪があり,組織学的に軟骨成分と甲状腺濾胞,さらに濃染核をもつN/C比高の未分化腫瘍細胞の増殖があり,大細胞神経内分泌癌の混在を確認した.腹水に悪性細胞が存在した(進行期ⅠC3期).初回手術から1か月後に子宮全摘出術,大網切除術を実施し,さらにTC療法を6サイクル追加した.

 卵巣成熟奇形腫においては,特に高齢者では小型であっても摘出し,悪性組織の有無を確認することが望ましい.

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目次

ページ範囲:P.464 - P.465

読者アンケートのお願い

ページ範囲:P.556 - P.556

バックナンバー

ページ範囲:P.557 - P.557

次号予告・奥付

ページ範囲:P.560 - P.560

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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