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雑誌目次

雑誌文献

臨床婦人科産科8巻12号

1954年12月発行

雑誌目次

原著

絨毛上皮腫の臨牀的観察(第1報)—既応症並びに現症に就いて(その1)

著者: 金子光

ページ範囲:P.683 - P.689

緒言
 絨毛上皮腫に就ては,19世紀中葉,特にMar—chand1),Aschheim2)以来,多くの詳細な研究業蹟3)4)5)が相次で発表され,今日に至つているが,然し,臨牀的に最も必要であるべき,成り立ちに就て,現在の処,不明の点が少くないので之が解決の一助にもと思い,先ず最初に,我々の教室に於ける本症々例に就て,臨牀的観察を試みたので,その結果を簡単に報告する。

月經周期並に妊娠成立に伴う尿表面活性の性格に就いて

著者: 高橋央吉

ページ範囲:P.689 - P.694

I 緒言
 尿の表面張力が種々の因子の影響をうけることは,一般に諸家の認めるところであるが,その性周期との関係に就いても,既に小田1)等は,密接な関係があること,殊に排卵期附近に比表面張力の異常に減少する日のあることを認め,発表している。
 先に著者は,尿表面活性の研究に於て,尿中活性質量の濃淡度を表わす数値と考えられる梶原2)の所謂tanα,及び尿中表面活性質の化学的性質に従属する数値と考えられる高橋の所謂最大酸滷比3)NA2/NB8を検討し,之等の数値が健常尿に於て一定の恒常値を示すにも拘らず,妊娠尿4)に於てはその月齢とともにtanαの増大,最大酸滷比の減少を認め,又黄疸尿5)に於ては,tanαの更に極めて著明な増大,最大酸滷比の著明な減少を認め報告した。

ラボナール静脈麻醉と子宮内容除去術88例

著者: 鑓田進一 ,   壽田鳳輔 ,   星野一正

ページ範囲:P.694 - P.699

緒言
 ラボナール静脈麻酔につては産婦人科領域に於ても安井氏始め多くの人々によつて詳しい報告があるので今更蛇足をつけ加えるところはないのであるが,われわれのクリニックに於ても短時間小手術には好んで静脈麻酔を用いており,殊に妊娠初期の子宮内容除去術には専らこれを単独に使用しているので一応その結果をまとめて報告したいと思う。
 静脈麻酔剤として初めの頃エビパンナトリウムと同一構造を有するチクロパンナトリウム或いはオウロパンソーダ,オルトパンソーダ等を,その後はペントザールソジアムの邦製品ラボナールを,最近はスリタールソジアムの国産品アミパンソーダをも使用しているがここには主としてラボナールの使用成績についてチクロパンナトリウムのそれと簡単な比較を行いながら推計学的考察を加えてみた。

妊娠線に関する臨床的観察—皮下断裂線の統計的観察

著者: 林强爾

ページ範囲:P.699 - P.702

緒言
 妊娠線の臨床的観察を行う目的で余は経産,未産の身体各所の皮膚を観察した。すると未産婦未婚の女子には成長に伴い,皮下組織の断裂によつて生ずる皮下断裂線を認め,これと所謂妊娠線との鑑別が屡々困難を感ずる場合に遭遇した。他面妊娠線の成立機転を考究解明する上には,この皮下断裂線を観察する事も徒爾ならずと考え,未婚の女子を中心として,先ず皮下断裂線の統計的観察を試みた。これよりさき小野四郎氏は妊娠線と皮下断裂線の関係を重視して経産婦200名の身体名所の広義の皮下断裂線即ち,皮下断裂線と妊娠線とを含めたものを調査し報告している。然しこれは全部経産婦を対照としたため妊娠線と皮下断裂線を混同一括しての観察であるから産科学的に妊娠線を追求する上に於ては,いささか不合理であり,幼稚の誹りを免れないものである。この意味よりすれば妊娠線と皮下断裂線の鑑別可能な未婚,未産の皮下断裂線を是非観察しなければならないものと思う。

腰痛の観察

著者: 落合時典

ページ範囲:P.702 - P.704

 腰痛は腰部にくる疼痛状態の総称であつて決定した病名ではない。ただ「いたみ」という一症候だけを共通にした訴述状態の集りにすぎない。従つて腰痛の本態の解明にはこの「いたみ」という要困の追及が先ず唯一の手がかりであると考えられる。
 私は昭和27年4月から昭和28年5月迄当外来を訪れた腰痛患者を観察してきたりころ,総数50例に達したので少数例ではあるがその成績を記しておくことにする。この調査の対照としてとりあげた腰痛はそれを唯一の訴えとするもの或いはそれを第一の訴えとするものに限り,他の症状に随伴した腰痛は除外した。また観察にあたつてはあくまで「いたみ」の追及を中心とし,問診によりその性質状態を分類検討したのであつて,病因的に分類して各個の病因と疼痛状態との関係及び治療経過等はこの調査の主眼目ではない。

病理解剖

妊娠と急性白血病との合併に就て

著者: 鈴村正勝 ,   水谷佐 ,   安井志郎

ページ範囲:P.707 - P.717

 白血病は極めて稀な妊娠合併症の一つで,現在迄86例の報告があるが,この内本邦では慢性症4例,急性症3例を数うるに過ぎない。余等は最近その1例を経験したので之を報告し,併せて従来の文献に依つてその知見の一端を考察したいと思う。

妊娠に合併せる再生不能性貧血の1例

著者: 野間國榮 ,   高木章雄

ページ範囲:P.719 - P.721

緒言
 再生不能性貧血は1888年P.Ehrlichにより初めて記載され,本邦に於いて1917年簡野,入沢,甲賀等が最初に報告して以来屡々報告せられ,今日までに約300例に及び,悪性貧血よりも寧ろ比較的屡々見られると云う。然し本症と妊娠との合併は稀で,少数例の報告があるのでみである。尚本症が「サルバルサン」使用に起因する報告もなされている。
 我々は最近,「サルバルサン」療法を受けていた妊娠8ヵ月の梅毒妊婦に強度の貧血を認め再生不能性貧血なることを確認したが,各種療法の暇もなく死亡せる1例に遭遇したので報告する次第である。

双角双頸子宮重複腟の一側閉鎖による偏側性子宮腟溜膿腫の1例

著者: 津野淸男 ,   秋葉照夫

ページ範囲:P.721 - P.723

1.まえがき
 重複子宮は両側のミユルレル氏管の癒合障害によつて起り,必ずしも稀なものではなく,殊に子宮卵管造影法が行われる様になつてからは,更に発見が容易になつてきたが,我々は双角双頸子宮重複腟で一側の腟が閉鎖されていたため,そこに経血及分泌液が潴溜して,腟溜膿腫を作り,臨床上恰も悪性腫瘍を疑わしめる症状を呈し,開腹手術により始めて確診し得た例を経験したが,今迄に発表が少く,比較的稀有なものと思われるので報告する。

腟嚢腫の2例

著者: 原田浩 ,   関本泰男

ページ範囲:P.723 - P.725

 腟嚢腫の発生頻度に関する文献を討ねるにNeugenbauerは1.8%(婦人科手術患者2000例中)を記載しているが,Wharton(47500例の婦人科手術中0.2%),Wilbrand(0.14%),Rost(0.16%),山岡(0.13%),住吉(0.13%)等の報告は何れも0.2%以下である。即ち比較的稀にみる腫瘍と云うことが出来るが,偶々私共は相次いで本腫瘍の2例に遭遇したのでその概要を報告する。

子宮腟部筋腫と自然分娩自験2例

著者: 矢内原啓太郎 ,   井上啓一

ページ範囲:P.725 - P.727

緒言
 産科の一般常識から云えば産道内に或る一定の大さと硬さの腫瘍例えば子宮頸部或は隆部筋腫又は小骨盤内に下降している卵巣腫瘍等の存在する時には之が分娩を障碍すると考えられ易い。成書の中にもそう書かれてあるものがある。小畑1)は「頸部に発生する筋腫である時は仮令筋腫は小さくとも障碍を起すことが多いから未期まで待つて帝切し核出或は全剔出或はPorro手術を行うことにしている。」と。而し筆者が手近の文献から知り得たことと自験例から思えば腟部及頸部筋腫は分娩障碍を起すことはむしろ例外に属することで多くは自然分娩を経過するらしい。実際Parks及びBarterの云える如く「多くは正規分娩を遂げるもので稀に起る重症例だけが報告されて正規分娩が忘れられておる」の感を深くする。
 川田は一般文献から子宮膣部筋腫は分娩障碍を起すことけ稀であるとし,狐塚は日本文献から子宮膣部筋腫30例を集めたがその中24例(80%)は経産3回以上,19例(63.3%)は5回以上で原発不妊は体部筋腫を合併した只1例であり又最終分娩後5年以内のもの5例ありその4例は正規産を遂げておりこのうち2例は分娩時腫瘍が膣外に脱出していたと云う。

妊娠惡阻及びレントゲン宿醉に封するトラベルミンの臨床使用経験

著者: 松岡廣次 ,   飯藤一彦 ,   岩井長太郎

ページ範囲:P.729 - P.732

緒言
 妊娠悪阻は妊娠中毒症の一つで分類すれば早期妊娠中毒症に属する。而たて本症はヒポクラテスの昔より問題視されてはいるが,未だその原因については多数の仮説があつて明確な解答を得ていないのである。従つてその治療法は古来多種多様の方法があつて枚挙に遑なく,藥物療法を観ても色々な報告がある。レントゲン宿酔はレントゲン線照射による全身的障害作用の一つである。而して本症に関しても空中放電のため発生するガスによるものとか,細胞の破壊産物の吸收に基くもの(Miescher)とか,或は血清中の食塩の減少(Bernhardt)と云い,又ヒスタミン中毒説(藤井)もあり,其の外に種々な仮説,推測があつて本症の原因にも全く定説を有つていない現況である。
 我々は最近,日本衛材提供のトラベルミン(Tr—avelmin)を妊娠悪阻患者23名及びレントゲン宿酔患者3名に使用した経験を得たので略記し,諸賢の臨牀的価値批判の一助とせられたいと思い報告する。

術中嘔吐に対する「トラベルミン」の効果について

著者: 中里善則

ページ範囲:P.732 - P.734

まえがき
 嘔吐の原因は多種多様であつてその対策治療も種々であるが,就中術中嘔吐による手術の障碍は吾々の度々経験するところである。文献によればその原因として
 1)麻酔剤が延髄にある嘔吐中枢を刺戟した場合

水野潤二博士訳「癌の綱胞学的診断」を手にして

著者: 長谷川敏雄

ページ範囲:P.736 - P.736

 予て聞いていた名古屋市立大学水野助教授訳「癌の細胞学的診断」が愈々上梓され,最近出版元の医学書院から1部届けられて来た。之は在ボストンMassachusetts General Hospitalの婦人科担当病院たるVincent Memorial Hospital附属Vincent Memorial Labo-ratoryに於けるMrs.R.M.Grahamを首班とする8人(執れも女性)のスタッフに依て書かれたThe Cyto-logic Diagnosis of Cancerの邦訳で,早速手にとつて見ると,B5版本文218頁の丁度手頃な本で,着手以来2年余の日子を費して漸く完成したものとのことであるだけに,瀟洒たる装訂,洗練された訳文,さては絢爛眼を奪う図版等々総てに於て実に堂々たる出来栄えである。
 先ず訳文の点であるが,「訳者の言葉」として「……原文に忠実にしかも読み易く分り易いようにするのに相当苦心した」云々とあり,又訳者が嘗て筆者に「只1語の適訳を考えるにも数日を費したことさえある」云々とも述懐されたことがあつただけのことはあつて,其の行文のすらすらとしてわかり易く;完全に日本語化しており,こうした訳本にあり勝な一種の「臭み」が全然見られぬことは,之が一体飜訳書なのかと怪まれる位で,今更のように訳者の苦心のほどが偲ばれる。

基本情報

臨床婦人科産科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1294

印刷版ISSN 0386-9865

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