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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査10巻12号

1966年11月発行

雑誌目次

特集 グラフ特集臨床検査の基礎

グラフ特集号によせて—「臨床検査」10年のあゆみの中から

樫田 良精

pp.5

 今から10年前の昭和32年4月に本誌は生れた。その創刊によせられた冲中重雄教授は巻頭言に,「この雑誌は検査技術員の養成の上に大きな役割をはたすのではないかと期待する。また検査室の医師にとっても大いに参考になるものと思われる。」と述べておられるが,幸にもその後の中央検査室制度の普及発達と共に愛読者層も年々飛躍的に増大し,今や臨床検査関係では唯一の専門雑誌として,ほとんどすべての病院や検査施設に備えられるようになった。

 本誌では十周年を迎えるまでに発展した記念としてグラフ特集号を作り,読者へのおくりものとすることにした。

血液と消化液の採り方

十二指腸液検査

樫田 良精

pp.6-9

 普通十二指腸液といわれるものは固有の十二指腸液(無色・アルカリ性),胆汁,膵液の総称である。十二指腸ゾンデ検査法は胆汁の検査,膵液の検査に2大別される。

 胆汁は肝臓で産生され,胆管を通じて連続的に排泄される。正常空腹時には胆汁は一度胆のう内に貯瘤するが,なんらかの刺激が加わると,たとえば食物摂取により,Odd氏筋が弛緩し胆のう壁が収縮して,胆のう胆汁は反射的に十二指腸内に排出される。胆汁検査では硫酸マグネシウム液を十二指腸粘膜に作用させて胆のう胆汁の排泄反射を起こさせる(Meltzcr-Lyon法)。

採血の手技

野村 武夫

pp.10-17

 血色素量測定,血球計算,血液塗抹標本作製,血糖測定など微量の血液で足りるさいには毛細血管血液を用いるが,0.2ml以上の血液を必要とする場合には一般に静脈血を使用する。その他特殊な検査目的,たとえば血液のガス分析,血液培養などには動脈血の必要なことがある。採血は通常特に指定のないかぎり早朝空腹時に行ない,食事などの諸条件による測定値の変動をできるだけ避げねばならない。

 なお,近年,採血に使用する種々の"使い捨て"disposable器が考案され,その一部はわが国においてもすでに広く実用に供されている。たとえば,毛細管血液を使用する場合には,メスの代りに皮膚穿刺具(図9参照)が用いられ,血糖測定など毛細管血液の一定量採取用の"使い捨て"ピペットがあり,さらに一歩進んで,ピペットもしくはメランジュールを用いずに血色素測定・血球計算用に血液を一定倍数に稀釈できる器具(Unopette)も考案され,市販されている。一方,静脈血の採取には,"使い捨て"注射針・注射筒があり,国産品にすぐれたものがあって,すでに試用の段階を経て正式に採用している病院が多数ある。静脈採血具としてはその他,注射筒を用いずに,ゴム栓真空試験管を代りに使用し,一端を静脈内,他端をそのゴム栓に穿通させた針を介して,血液が自然に試験管内に流入するように工夫した器具(Vacutainer)がある。

小児の採血

西村 昂三

pp.18-21

 小児の採血は,年令によりかなりの難易があります。小児の場合,できるだけ微量の血液で,諸種の検査ができるようにするべきであることは申すまでもありません。しかし小さい乳幼児でも比較的大量の採血をしなければならないことも少なくなく,こうした場合には小児科専門医の特殊技術が必要となりますので,その助けを求めねばなりません。一般に検査技師による採血は,小児の場合毛細管血の採血,すなわち指頭,耳朶,かかとなどからの採血が主となりますが,小児の採血にはその他にどのような方法があるかを一応知っておく必要がありますので,その概略を述べることにします。

 毛組管血の採血は,大きい幼児や学童では耳朶や指頭を用いますが,新生児,乳児,小さい幼児の場合はかかとから採血します。またこれらの穿刺部位から採血用細管を用いて血液を十分とりますと,いろいろの検査に役立ちます。

臨床検査の基礎

ピペットの使い方—血清・生化学の場合

松村 義寛 , 藤原 ムチ

pp.22-25

 10ml以下1ml程度の試薬,試料を0.1%以下の精度ではかりとるためにはピペットが用いられる。

 試薬のうちで粘度の低いもの,主として水溶液はホールピペットで,粘度の大きい試薬や血液などにはオストワルドピペットが好まれる。

顕微鏡操作の基本

寺田 秀夫 , 堀内 篤

pp.26-31

 わかりきったことだと思っていることが案外まちがっている……そういうケースがままある。顕微鏡操作についても正しく行なっている人は案外少ないのでなかろうか。尿沈渣や糞便の検査に,また血液検査や細菌学的検査に日常大切な基本的操作法をしっかり身につけることは医師や検査技師にとって必要な基礎的問題である。ここに示す操作法のグラビヤを今一度めくって自分の今までのやり方と比較して戴きたい。案外見過し得ない自分の誤りに気づかれるかも知れない。顕微鏡も年々少しずつ構造や形が改良されていくので,比較的新しい型のものも含めて説明した。

化学天秤操作法

松村 義寛

pp.32-34

 臨床検査室でもっとも精密な計器が化学天秤である。精度が10,000分の1であるが,正しく使いこなすには相当の注意が必要となる。操作中の振動を極度に嫌うので,振動のない場所に据付けねばならない。天秤用に設計された実験机か,壁面に棚状に固定した台がよい。

 図1のように手をついたりしても振動したり傾いたりすることのない程度に丈夫な必要がある。

目盛の読み方

松村 義寛

pp.35-39

 検査のいろいうな段階で,目盛りを読む操作がある。正しい読み方け再現性のあるものでなければならない。また再現性が保証されるならばどのような読み方であってもよいのであるが,ここには一応の目安をかかげておく。

写真処理の技術

村山 勇

pp.40-48

 写真処理は旧来の経験的技術から脱却して,より科学的な精確さを持って行なわれるようになった。一般に写真はその感光材料の分類より黒白写真感光材料とカラー写真感光材料とに二分されている。前者はグラフによって示す方法で正確にその取扱いを行なうことにより多少の経験による技術的な差はあるにせよ,だれにでも処理することが可能である。しかし後者についてはその感光材料の特性より専門的技術を必要とするため専門業者による処理にゆだねるのが常識ではあるが,処理不可能というわけではない。

 現今写真処理ということは黒白写真処理をいい,カラー写真の場合には特にカラー写真処理として取扱われている。

組織迅速診断と細胞診

術中組織迅速診断

太田 邦夫

pp.50-53

 悪性腫瘍をうたがわれる病変の治療に当っては,まずその病変の質を知ることが必要である。最近速かに確診と治療を行なうために,外科医と病理学者が一体となってことに当る機会がますます増加している。殊に,うたがわしい部位の生検を行ない,その場で組織学的に確診を下して,もし悪性ならば更に広い部分の切除を行ない,もし良性ならばそのまま創口を閉じる場合には,分を争う組織診断を必要とし,外科医と病理学者は,手術室と検査室の両端にあって共同する。

 この場合いかに速かであっても,立派に確診の下せる標本をつくることが第一の条件であって,そのためには,一級技術を必要とする。また手術室と検査室との間の連絡を密にする設備も必要である。

胸腹水の細胞診

石岡 国春

pp.54-57

 胸腹水の細胞診の最も重要な適応は悪性腫瘍であり,悪性腫瘍細胞を証明することによって胸腹水貯溜の原因が悪性腫瘍であることを直接的に証明することができる。胸腹水の細胞診は,胸腹水が容易に採取され,塗抹標本作製までの操作時間も短く,また悪性腫瘍性胸腹水中にはきわめて高率に腫瘍細胞を検出し得るので,胸腹水貯溜の原因が良性か悪性か不明である場合には疾患の予後および治療方針の決定にきわめて大きな臨床的意義を有する。胸腹水の物理化学的性状や肉眼的性状は,良性か悪性かの鑑別に間接的症状としてある程度役立ち得るが,確実な決め手とはならない。胸腹水の細胞診が一般物理化学的検査と同時に日常の検査として望まれるゆえんである。

 胸腹水中に認められる細胞成分は,1)漿膜細胞,2)組織球様細胞(組織球,単球,食細胞,単球様細胞などとも呼ばれる),3)好中球,4)好酸球,5)好塩基球,6)リンパ球,7)形質細胞,8)単球,9)肥胖細胞,10)月重瘍細胞である。試験穿刺で,少量の胸腹水を採取した場合には,穿刺部の皮膚に由来する扁平上皮細胞が認められることもある。これらの細胞成分は原因疾患の種類,病期あるいは,合併症の有無などによって,細胞の数,細胞相互の比率に種々の差異がみられるのみでなく,同一細胞でも変性,崩壊をきたしたり,形態変化をきたすので,これらの細胞の形態学的特徴を熟知することが必要である。

肺がんの細胞診

奥井 勝二

pp.58-61

 細胞診は最近急速に進歩し,多くの人に行なわれるようになった。今年の第7回日本臨床細胞学会総会では東京大学分院外科林田教授,城所博士によっ,て術中細胞診が特別講演としてとりあげられ,非常に優秀な成績を発表され,正確さにおいて組織診のレベルまで達したように傾聴した。細胞診を日常行なう者にとっては大きなはげみであると共に,進歩であると思う。

 肺癌の細胞診を施行するさいに,その検体が喀痰,気管支鏡のさいの擦過物,分泌物あるいは胸水と条件の異なる各種材料をとりあつかわなければならない。それらによって顕微鏡下にあらわれる細胞の形態は異なることは当然である。また同じ剥離細胞でも喀痰と気管支鏡のさいのブラッシングによって得られた細胞では変性・崩解の程度が異なり,細胞判定は後者の場合に容易である。すなわち枯葉と青葉の差があるわけである。

胃の細胞診

山田 喬 , 安藤 豊輔

pp.62-69

 本邦における癌患者のなかで,胃癌に苦しむ者は最も多い。したがって胃癌の正しい診断は臨床検査として最も大切な検査法の一つであろ。幸い,レ線,内視鏡カメラ等の進歩により疑わしい病変をかなり確実に発見できるようになったので,胃癌は早期に正しく診断される機会が多くなった。

 しかしこれらの診断法は肉眼的な診断法であり,決定的な判定を下すことはすべての例で必ずしも容易とは限らない。細胞診は顕微鏡的な診断法であり,個々の癌細胞の形態を認識することにより,確実に癌を診断し得る利点がある。癌の本質が癌細胞そのものにあり,宿主生体からの脱絆的な無限の増殖性と,浸潤発育性に癌の悪性の本質があるから,癌細胞診はその本質にふれた診断法ともいえる。

子宮がんの細胞診

高橋 正宜

pp.70-73

 子宮癌において頸癌と体部癌の比はおおむね9:1で頸癌がはるかに多い。子宮頸癌診断に対する細胞診の価値はきわめて高く,"O期癌"とよばれる上皮内癌の時期に約90%診断が可能である。検査室は外来診察室で作製された塗抹標本を受動的に受けとる消極的な立場にあるが,細胞採取法の正確な標本でなければ細胞診の意義は皆無である。

 後腟円蓋部から分泌物を吸引する腟塗抹標本は月経周期(性周期)の追究,ホルモン環境の変化をみるのに適しているが癌の診断には無力である。頸癌の診断には外子宮口周囲を木製のへら,あるいは綿球で擦過した頸部擦過塗抹法および頸管内膜を擦過した頸管内膜擦過塗抹法が適している。

細菌検査の基礎

細菌接種手技

高橋 昭三

pp.74-85

準備

血液培養手技

小酒井 望

pp.86-91

 血液培養の方法には,(1)採取した血液を抗凝固剤入り試験管に入れ,凝固を防いで検査室へ持参し,検査室で各培地へ混ずる方法と,(2)患者の側へ培地を持参し,採取した血液をその場で培地に混ずる方法とある。なお(2)の方法には,従来の混釈平板を作り,また液体培地に混ずる方法のほかに,市販の培養瓶を使用する方法がある。この培養瓶を使用する方法は,手技が簡単で,往診先でも使えるので,今後広く普及されるであろう。

細菌集落のいろいろ

高橋 昭三

pp.92-96

 分離培地に生ずる集落をみる場合,慢然とみている傾向がないわけではありません。たとえば,結核菌と非定型抗酸菌の培養をくらべると,簡単に区別できるはずですが,培養の判定の時,たまにみられるS型淡黄色の,非定型抗酸菌は,結核菌の専門家でもないと,みのがすことがあります。しかし,ちょっとした注意で,それを発見することが少なくありません。

 集落を観察する時最も大切なことはまず,S型かどうか,もしS型でなければどんな特徴があるかについてみなければなりません。そのほかに,溶血性を注意することはもちろんですが,血液寒天上の集落をみる場合に,著るしく小さいものがあります。その時は,いきなりみてもみえなくて,斜に光をあてると,ごく小さい,しかしあきらかな集落をみることがあります。ヘモフィルス属の菌では,このようなことがしばしばあります。

腸炎ビブリオの検査

善養寺 浩

pp.97-102

 腸炎ビブリオ(学名Vibrio Parahaemolyticus)は元来海棲菌であって,夏期海水温が高くなると急速に増殖し,魚介体に付着して陸揚げされ,生魚介類の喫食による腸炎の原因となる。この腸炎の年間患者数は,統計上はおよそ2万名程度であるが,散発患者を加えれば4万名に近い数となろう。この菌は伝染病菌ではなく,2次感染のみられない食中毒菌である。この菌による食中毒は,本菌が海水中で増殖している真夏をピークとして,6〜9月の問に多発する。しかし海水からは証明されなくなる冬のころになると発生はまったく認められない。

 腸炎ビブリオは分類学上はビブリオ属に属し,コレラ菌とともにこの属のなかの重要な病原菌である。上の写真の電子顕微鏡像のごとく,一端一毛性のべん毛をもつかん菌で,コンマ状を呈さない点が異なる以外,形態的にはコレラ菌に酷似している。この菌と鑑別上問題となる菌に海水性のAeromonas,Pseudomonas, Comamonasなどがあるが,これらの菌は生物学的性状において一部差がみられるほか,通常形態的にはべん毛が2本以上認められる。

寄生虫

診断に役立つ虫卵図譜

石崎 達

pp.104-110

 臨床検査および集団検診のさいに案外見逃されがちで,しかも重要なものの一つに寄生虫卵がある。近頃回虫の寄生率が激減したためにもう日本には寄生虫がいなくなったような錯覚をもつ人が医者の中にも少なくないのは残念てある。糞便の直接塗抹標本(糞便量は5mg内外,ただしセロハン厚層塗抹法では100mg内外),飽和食塩水浮遊法よりえた集卵標本,沈澱法(たとえはMIFC法)よりえた集卵標本には多種類の虫卵が出現する。

 そこでわが国で問題になる16種類の虫卵を同一拡大率で検鏡したときの大きさの大小の関係で比較してみたのがこの虫卵図譜である。虫卵は大きさ,外形,色,穀の厚さ,卵細胞の発育度によって区別する。

主要寄生虫の成虫図譜

石崎 達

pp.111-115

 われわれは虫卵は見るチャンスが多いが,寄生虫の成虫は体内にいるのでなかなかお目にかからない。駆虫剤をのませて,糞便を集め,便濾過器を使用して便を洗いながし,残渣をピンセットで選りわけてみる。

 日本住血吸虫,肝吸虫,肺吸虫は各血管,胆嚢または輸胆管,肺細織中に住んでいるので人体寄生のものはなかなか得難い。しかしこれらは兎,犬などにも寄生させられる。しかし実験動物に寄生しない糸状虫などは成虫が得難い。ここにお目にかけるのは犬糸状虫の成虫である。

血液検査の基礎的手技

ヘマトクリツトの測定

寺田 秀夫 , 天木 一太

pp.116-120

 ヘマトクリット(Ht)の測定を正しく行なうことは,血液検査の第一歩であり,Ht値の変動は赤血球数のそれより,正確な貧血の程度を知る目安になる。測定法にはWintrobe管を用いる方法と毛細管法があるが,前法の場合,血球と血漿を分離する遠心効果と遠心時間により値が変ってくる。原法では回転半径225mm,3,000r. p. m. 30分と規定され,この遠心力(reactive centrifugal force:R. C. R)は2.264Gである。わが国の遠心器の回転半径は米国のそれより短く,したがって回転数を3,000r. p. m. 以上にあげなければ2.264Gに達しない。

LE細胞現象の検査法

山口 潜

pp.124-127

 LE細胞現象はHargravesらによる記載(1948)以来多くの検討を加えられ,全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus,以下SLE)の抗核因子の広汎な研究の発端となったものであるが,SLEのルーチンの臨床検査法として今日なお必要不可欠のものである。LE細胞現象はSLEの80〜90%に陽性にあらわれるといわれ,特異性もたかい。LE細胞の検出法は以前にはLE試験と呼ばれていたが,近年,Hyland社から核蛋白のラテックス結合反応の試薬としてLEテストという名の試薬が市販されるようになり,まぎらわしいので「LE細胞試験」と正確に呼ぶほうがよいと思われる。

 LE細胞は,SLE患者血清中にあるLE細胞因子が試験管内で白血球(貧喰球)に作用して生ずる細胞で,生体内では原則としてみられない。すなわち,患者血液の直接塗抹標本では認められることはない。LE細胞の検出法としては,上述の白血球が被験者自身のものを使う場合(直接LE細胞試験)と,健康人(同型ないしO型)のものを使う場合(間接LE細胞試験)とがあり,前者のほうが簡単でしかも鋭敏である。

血球計算

寺田 秀夫

pp.128-133

 正しく迅速に血球計算を行なうことは,医師としての第一歩であり,またテクニッシャンにとっては基本的な素養である。しかし案外馴っこになって粗雑なやり方になっていないだろうか。近年自動血球計数器のいろいうな型のものができて,現在の趨勢では独立した血液検査室を有する全国主要病院108のうち,すでに32%の検査室で赤血球は自動的に計算されており,急速に増加しつつある状態である。

 しかしながら本来のメランジュールならびに計算板を用いる算定法は決して不必要なものでなく,患者のBed-sideからの検査や救急検査として日常欠くことのできないもので,大病院の検査技師が自動血球計数器に馴れて,計算板を用いる赤血球算定ができないようなことがあってはならない。以下各種血球の算定法のあらましをグラビヤで説明していこう。

血清検査の基礎手技

血液型の判定

村上 省三

pp.134-138

 現在臨床医学で要求されている血液型はABO式血液型だけであるが,それだけでは不十分なことが多い。A型やB型因子についで抗原性の強いRh式血液型のうちのRh0(D)因子の判定くらいはぜひつけ加えたいものである。日本人にもRh0陰性のものが約0.5%ある事実や,不注意の輸血によってできた抗Rh抗体が女性ではその後の妊娠に悪影響を持ち得ること,またはその逆の場合のあり得ること,さらには近く保存血液に関してRh0因子の有無の表示が要求されそうな状勢にあることなどから,せめて抗Rh0判定用血清の使い方くらいは熟知していなければなるまい。

 ABO式血液型は抗Aおよび抗B判定用血清を使って被験血球の血液型を判定するいわゆる表検査と,AおよびB型血球を使用して被験血清中の抗A,抗B抗体の存否を検査して血液型を確認するうら検査との両方を行なうのが常道である。さらに慎重を期するためには表検査にO型血清の併用が,うら検査にはO型血球の併用が望まれる。また判定用血清はかならず国家検定合格品を使うことである。簡単だからといって自製していると,思わぬ失敗をすることがある。

交差適合試験

村上 省三

pp.139-143

 交差適合試験は輸血に際してかならず実施しなければならない検査である。現在われわれは輸血に際して一般には受血者と供血者との間でABO式血液型さえ(一部ではRh0(D)因子も)一致していればよいとする。しかし御承知のように血液型にはたくさんの種類があり,それらの因子に対する抗体を受血者か供血者が持っていることもあり得るので,一部の血液型さえ同じであれば安全であるとはいえない。それで輸血を実施する前にはたしてこの血液をこの患者に輸血していいかどうかチェックする大切な検査法である。

 交差適合試験にもいろいうな方法がある。食塩水法,血清法,アルブミン法,酵素処理法,間接クームス法などである。これら全部を実施するとなると大変な時間と労力を要するので,急の場合には間にあわない。そこで一般にはあまり時間を要せず,しかもかなり正確な方法を実施することになる。それには血清法やブロメリン法がある。輸血で問題になる抗体は主として不完全抗体であるので,食塩水法のみ単独に実施するのはよくない。また上の二つの方法で適合であっても,溶血性副作用と思われる障害を発生した時は,すべての方法を実施して,どの方法で問題の抗体が検出できるかを調べ,爾後はその方法をも加えなければならない。

免疫電気泳動法の手技

臼井 美津子

pp.144-151

 免疫電気泳動法は,Grabarにより創始されて以来10年を経過したが,あらゆる研究分野にとり入れられて,蛋白質,酵素さらには植物の蛋白などの抗原分析に欠くことのできない手技として脚光をあびている。とくに免疫という現象が大きくclose upしてきた今日の医学生物学界での研究分野では,免疫電気泳動法は有力な武器として用いられている。

 抗原物質を,支持体(寒天,セルローズアセテートなど)上での電気泳動により,それぞれの荷電に応じて分離させ,そのあとで抗血清との間に免疫拡散法による沈降反応を行うもので,Grabar以来多くの研究者によりいろいろ工夫改良され,今日では手軽に誰にでも行えるようになってきた。ここでは特別な装置もいらず,ただ安定した直流発生装置と泳動槽だけあれば簡単に行えるような方法を紹介した。

寒天内沈降反応—微量2元拡散法

松橋 直

pp.152-154

 寒天・シアノガム・セルローズアセテート膜などの支持体の中を抗原と抗体とを拡散,衝突させて沈降反応を起こらせ,沈降線を観察する方法である免疫拡散法(Immunodiffusion)は,血清成分の増減の定性検査,特定の成分の定性,定量的変化の追跡法として,日常検査の中に入りつつある。免疫電気泳動法は各成分の増減,異常をみるスクリーニング法として適しているが,ここでのべるのは,抗原と抗体とを向いあわせて拡散させる2元拡散法である。これは術式が簡単であるが,多種の成分を含むものから単一物質を精製してゆく過程で精製の程度をみるのに適している。また,抗血清中の抗体が単一であれば,ヒト血清成分の特定の物質,たとえば,rGグロブリンなどを検出できる。また,ごく簡単な定量法としては,単一抗血清の周囲に,検体の連続稀釈したものを入れて,沈降反応の終価を求めることもできる。さらに正確にする場合は,抗血清をあらかじめ寒天に溶かしこんでおき,その平板寒天にあけた穴の周囲にできる沈降輪の直径あるいは,拡大投影して面積を測定して,標準曲線から定量する方法があり,直ちにつかえる形のImmunoplateとして市販もされている。ここでは,もっ之も基本的でしかも実用的な方法のみを記すにとどめてある。

梅毒の血清学的検査法の判定基準

松橋 直

pp.155-161

 現在行なわれている梅毒の血清学的検査法は抗原として脂質であるCardiolipin-Lecithinをもちいており,わが国では緒方法,ガラス板法,梅毒凝集法などがひろく採用されている。これらの各法の実施法の写真解説は困難であるうえ,多数の解説書が出ているので,ここでは最も大切な部分である判定法の基準ともいうべきものを写真で示したい。

生理検査の基礎手技

心電図をとるさいの必要な心得

樫田 良精

pp.162-168

 心電図をとる人は誰でも次の手順で行なうことが望ましい。

(1)心電計を患者と電源コンセントとの中間の位置におく。

基礎代謝の測定

樫田 良精

pp.169-175

 基礎代謝測定には,直接法と間接法がある。直接法は体より発散される熱量を直接カロリメーターで測定する。間接法はO2消費量と呼吸商をもとめ算出するが,ダグラス袋,無水式基礎代謝計,ベネディクト・ロス型呼吸計,クニッピング呼吸計,エアーベーサル基礎代謝計を用いる各種の方法がある。臨床検査には主として間接法が用いられているので以下これについて説明する。

脳波検査に必要な知識

樫田 良精

pp.176-182

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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