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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査15巻10号

1971年10月発行

雑誌目次

カラーグラフ

ウイルス性疾患にみられる封入体

三杉 和章

pp.950-951

ある種のウイルス性疾患では特徴的な封入体が,細胞の特定の場所に出現する.封入体の大部分はウイルス粒子の集合したものであり,病理診断の有力な手がかりとなる.細胞質内に出現する封入体を細胞質内封入体と呼び,ワクシニア,狂犬病,伝染性イボなどにみられる.核内に出現するものを核内封入体と呼び,単純ヘルペス,水痘症,巨大細胞封入体症,アデノウイルス感染症などにみられる.その他,ハシカなどでは巨細胞が出現し,天然痘,黄熱病,ジステンパーなどでは核内,細胞質内の両方に封入体がみられることがある.

グラフ

検疫のしごと—横浜検疫所を訪れて

編集室

pp.953-960

検疫とは,外国からもち込まれて人に感染するコレラ,ペスト,痘そうおよび黄熱の4種類の伝染病(検疫伝染病)が,外国から来る船舶・航空機によってわが国に侵入することを未然に防ぐことをいう.

検疫所では,検疫伝染病のチェックアップのほかに,汚染された船舶・航空機が発見ざれると,乗客,乗員を検疫所の措置揚などに停留・隔離し,乗物の消毒を行なう.

寄生虫・原虫の生活環・4

小形条虫—Toxoplasma gondii

鈴木 了司

pp.962-963

小形条虫とは

 昔は萎小条虫(または矮小条虫)と呼ばれていた条虫で,本来はネズミ族の寄生虫で世界的に分布している.ことに温帯,熱帯に多く,人体寄生例もふつうにみられ,小腸の中部以下に寄生している.

 全長10-25mm,幅0.5-0.9mmの小さい条虫で,頭部は球形で周囲に4個の吸盤をもち,尖端には24-30本の鉤が環生している額嘴を有する.体節数は200内外.末節に近い受胎節は終宿主の腸管内で切り離されて消化されるので,受胎節の中の虫卵は糞便に混ざって外界に出る.

ノモグラム・22

メトヘモグロビンと一酸化炭素ヘモグロビンの簡易定量法

松村 義寛

pp.965

解説 ヘモグロビン(Hb)の酸素と結合したもの(HbO2),メトヘモグロビン(Met-Hb),一酸化炭素と結合したもの(CO-Hb)はそれぞれ色調を異にしており,吸光度・波長曲線が異なっている.560nm,540nmでの吸光度の比をHüfnerの係数と呼んでいるが,上記のヘモグロビン誘導体はHüfnerの系数を異にするので,もしそのうちの2成分のみの混合物ならば,Hüfner係数を測定することで,両者の存在比が求められる.

 血液試料を酸素を溶存する水で100-200倍にうすめると還元型HbはHbO2となるが,Met-HbやCO-HbはすみやかにはHbO2には変化しないので,Hüfner係数を求めることでHbO2に混在する割合が求められる.

総説

染色体異常症

津田 克也

pp.969-975

 人類の染色体の研究はすでに19世紀の終わりごろより始められていた.組織培養法の開発によって,人類の染色体数が46であると発表されたのは,1956年TjioとLevanによってであり,1959年Lejeuneらによりダウン(Down)症候群が最初の染色体異常による先天性疾患として確立された.1960年,Moorhead1)らにより末梢血液培養法が報告され,いっそう染色体研究が容易となり,オートラジオグラフィー法の技術開発と相まって,数多くの先天異常が染色体異常によるものであることがわかってきた.

 染色体異常の頻度は松永の表2)によると,新生児1000人あたり約5人になる.既知のモザイク(mosaic),新しい症候群などを考えればさらに多いと予想され,自然流産個体に染色体異常が高率に認められることより,胎児初期では予想外に多く出現すると考えられる.

技術解説

炭疽(脾脱疽)の検査法

安藤 敬太郎

pp.976-981

 わが国では最近,炭疽にはウシの次にヒトがよく罹る.1965年の岩手県に起こった炭疽騒ぎ以後も,新潟県(1965年),岡山県(1967年),秋田県および青森県(1970年)などと,人体感染例は跡が絶えない.これらの感染源は,ほとんどが炭疽死したウシであり,接触感染したヒトは例外なく皮膚に炭疽癰を形成している,当然これらの患者は,ウシの管理人を筆頭に,屠場の従業員や獣医師など,ごく特殊な職種に限られている.したがって,ヒトの場合には,職業と皮膚の特徴的病変が炭疽を疑う有力な根拠になるといえよう.しかしながら,人獣ともに,炭疽の確定診断は細菌学的検査によらねばならない,以下検査法の概要について説明する.

血球の冷凍保存と検査(2)—輸血前後の検査

隅田 幸男 , 隅田 松子 , 城島 洋子

pp.982-989

はじめに

 冷凍保存された血球が解凍後に果たして,輸血,あるいは移植に役だつかどうかを判定するのが臨床検査である.

 6年前の1965年,冷凍血液が本邦に紹介されたとき,隅田はその輸血の可能性をどうやって判定してよいのかについて考え悩まされた.あのころ,紹介者であるHugginsが1つでも2つでも,こうして処理してでき上がった冷凍血液を輸血する場合には,これこれの検査をして,万一こうであったならば,輸血に使用してはならないというような基準を説明してくれておりさえすれば,私たちはその追試に際してどんなに役だったかしれない.

臨床検査の問題点・33

尿沈渣の実際

林 康之 , 田中 和雄

pp.990-997

腎や尿路を主に,全身性疾患の鑑別診断のスクリーニングを果たす尿沈渣は,簡便な検査として広く普及している.しかし,一定のデータを得るための検査条件が必ずしも標準化されていない.検体の保存,遠心時間,混入物の見分け方など実際面の問題を検討する.(カット写真は尿沈渣にみられる偏平上皮細胞)

シリーズ・日常検査における機械化のくふう・10

沖縄の臨床検査技師—検査への高い熱意—よい指導者不足が悩み

只野 寿太郎

pp.998

 7月13,14日,沖縄那覇市で行なわれた,第1回臨床検査技師受験資格取得講習会に出席し,沖縄滞在中に検査技師と話しあう機会をもち,また那覇病院や石垣島の八重山病院の検査室を見学する機会を得た.日本復帰を目前にひかえた沖縄の臨床検査制度の問題点を述べたい.

 戦後,米軍の監督下にあり,本土と異なる医療制度をもつ沖縄は,臨床検査の面でも,本土では見られないいくつかの問題点をもっている.この問題点とは,

クロライドカウンターの電解フローセルの組み立て

水野 映二 , 仁科 甫啓 , 小野 弘毅 , 北村 元仕

pp.1038-1039

 体液クロールの分析法としては,従来滴定法および比色法が用いられてきたが,操作の煩雑さ,共存成分の妨害,試薬の品質による値の変動あるいは必要試料の多いことなどに問題を残していた.近年になってエレクトロニクスの技術が進歩して,1958年CotloveらによってAutomatic electrometric titratorが開発され,米国Buchler社,英国Evans社,ポーランドMarius社,および日本平沼産業(株),常光産業(株)などから臨床用の製品が市販されるようになった.

 私たちの検査室でも平沼産業製のクロライドカウンターを日常検査に導入したが,本装置では電解セル(小ビーカー)に血清0.1mlを採り,電解液5mlで稀釈し,電極および攪拌棒を装着してから電解を開始する.この電解前の操作をできるだけ簡略化するために,電極部に電解セルを固定し,サンズピペットとミニペット分注器を組み合わせて,図1のような電解フローセルのシステムをくふうした.

コンピュータの基礎知識・9

脳波とコンピュータ

中川 泰彬 , 高橋 和明

pp.999-1003

はじめに

 電子計算機の普及とともに脳波の世界にも電子計算機が導入され,脳波分析がこれを用いて行なわれるようになったのは十数年前からである.

 最近は脳波などの生体現象の分析専用の小型コンピュータやミニコンピュータが多くの研究室,検査室に設置されるようになって,脳波を直接オンライン(On-Line)で分析することも容易となり,研究,臨床の分野でその有用性が認められ広く採用されている.

RI検査の基礎・4

GM計数装置

吉川 春寿

pp.1004-1009

GM管の作動原理

 放射能の測定にはいろいろの装置があるが,最も広くトレーサー実験に使用されるのはガイガー・ミュラー計数管(Geiger-Müller counter),略してGM管である.

 図1のような,円筒電極とその中心に張られた針金を電極としたガス入り計数管があるとする,中心線を陽極,円筒を陰極として,電圧をかけておく.いまこの中に放射線が入射すると,その飛跡に沿ってイオン対を生ずる.もしもそこにかけた電圧(印加電圧)が0のときは,生じたイオン対はすべ再結合してしまうが,印加電圧を上げるに従って再結合するものが減り,残りのイオンはそれぞれ反対荷電の電極に吸いつけられるからパルス電流が流れる(再結合域).

私のくふう

血清の分離と保存—真空採血管とカラーゴムキャップの利用

菅沼 源二

pp.1009

 生化学検査における血清分離の方法は,分析系の自動化が進むとともにますますとり残された問題として,クローズアップされてきました.

 本誌9月号にて,より確実な被検者確認のとり方とともにセパレイドを用いた血清分離の方法を採用していることをご紹介いたしましたが,血清,K,GL,酵素などの検査材料としての血清分離,あるいは検査終了後の保存用被検血清の分離などは,セパレイドを用いてもなお,従来どおり駒込ピペットなどを使って血清分離を行なわねばなりませんでした。しかし,このようなやりかたでは,検体問の汚染や,検体ごとにピペットを取り替えることによる器具の洗浄など,能率の面からも決して満足すべき状態ではありません.

ヘマトクリット毛細管立て

大竹 敬二

pp.1025

 近年血球算定の自動化により,少ない人員で数多い患者の採血をしなくてはならず,ヘマトクリットの本数も増加し,1日に50-80本と処理しなくてはなりません.一連番号で整理しながら遠心していますが,破損したりバテが取れ抜けたり,最後の整理で赤血球との大きな差があったり,途中で忙しさのあまり順番をつめたりして,成績チェックで結果が合わなくて,腹を立てたりした苦労を多少なりとも解決したものです.

論壇

検査技師教育の歩み—臨床検査技師の誕生に際して

小酒井 望

pp.1010-1011

 改正された技師法が今年から施行され,新たに臨床検査技師が誕生することになり,教育年限も3年以上と引き上げられ,技師学校も3年制への移行を始めている.この機会にわが国の技師教育の歩みをながめてみよう.

座談会

臨床検査のパイオニア—広明竹雄氏の退職を記念して

真鍋 真之 , 西畑 泰次郎 , 広明 竹雄 , 小酒井 望

pp.1012-1019

日本の臨床検査とともに歩んできた広明竹雄氏(62歳)が第一線を退かれた."今日の臨床検査のめまぐるしい進歩に追いつけなくなったので…"は非情なまでに仕事の厳しさがうかがえる.検査技師の大先輩・広明氏の生活と足跡をふり返って,検査生活の糧としたい.

海外だより

—欧米(北欧,東欧,西欧,米国およびカナダ)の病院検査室(4)—ルーマニアの首都ブカレストで血液学センターと内科学研究所の検査室を訪れて

佐々木 禎一

pp.1020-1025

はじめに

 東欧の門戸ポーランドで病院検査室を見学した1)が,このときにはワルシャワ着から始まって病院訪問,そして次のルーマニア(Romania)*1)のブカレスト(Bucureşti;Bucharest)*2)に向けて飛び去るまで,ビエランスキー病院のDr. Saganが親切に案内してくれた.おかげで通常は旅行,訪問の交渉,見学,そして帰着まですべてひとりで行動している私にとって,それはとても楽な大船にも乗ったような気楽さがあった.

 しかし,次の訪問地のルーマニアは,外来者の私にとってとても親切ではあったが,ホテルが満員でことばの皆目通じない家庭に民泊した2)ことや,あらかじめ病院訪問の許可がなかったことなどのため,予想していたとおりかなりの苦労をせざるをえなかった.今回は首都のブカレスト市で訪問した,表題の2研究所について検査室の内容と検査業務とを中心に報告してみよう.

研究

加熱比濁法による血漿フィブリノゲン測定法の検討

野中 登志子 , 冨田 和子 , 石川 文江 , 緒方 久子 , 白川 充

pp.1026-1028

 先天性ならびに後天性出血素質はもちろんのこと,種種の感染症や悪性腫瘍におけるフィブリノゲンの動態は,それらの患者に対する診断や治療,はたまた予後判定にきわめてたいせつな資料となりうる.また産婦人科領域や手術後の患者では,ときとして急激なフィブリノゲン減少症が起こるため,緊急検査として,その測定を要求されることがある.

 フィブリノゲンの測定法として,最も一般に利用されているのは,加熱比濁法1)とチロジン法2-5)とであろう.しかし,チロジン法は操作が比較的複雑であり,その点加熱比濁法は操作がきわめて簡単で,かつ測定結果を得るまでに30分もあれば十分である.

血清脂質分画の相関性について

山田 満廣

pp.1029-1032

はじめに

 生体内の脂質代謝を知る指標として,血清中の脂質濃度の測定から得られた情報がきわめて重要である1).血清脂質濃度が,異常高値を示した場合,高脂血症というが,これは血中脂質の1つ以上が高値であるものを指すとみてさしつかえない.これには,1965年のFredrick-sonの高脂血症分類がきわめて成因と治療に結びつき,しかも比較的簡易化されていることで有用である1)(表1).

 最近,多くの研究により動脈硬化症の進展に脂質が重要な役割を果たしていることが明らかとなり,臨床検査の分野でも,動脈硬化症,糖尿病,ネフローゼ症候群などの疾患の診断,治療効果,予後の判定などの情報を得る手段として,血清脂質の測定が要求されるようになった.

Hoeflmayr-Fried法改変による総および遊離型コレステロール直接定量法

宮谷 勝明 , 福井 巌

pp.1033-1037

 総コレステロール中のエステル型を測定するには,遊離型コレステロールをジギトニンで沈殿させ,それを集めて洗ったのち測定するのであるから,ジギトニンによる沈殿,洗浄純化,その回収という操作の過程で,誤差が生じやすく技術的に,困難な測定法の1つと考えられる1,2).このような理由から遊離型コレステロールの簡易化が進められ,すでにLiebermann-Burchard反応を利用したHoeflmayr-Fried法3)やKiliani反応を利用したRosenthal変法4)などによる総および遊離型コレステロール直接定量法の出現をみた.

 われわれはさきにこれらの遊離型コレステロール直接定量法3,4)について検討を加えてきたが,今回は日本商事で開発されたHoeflmayr-Fried法に改変を加えた総および遊離型コステロール直接定量法を検討する機会を得たので,その成績について報告する.

ひろば

7年めのあぐらの脱出

海藤 秀敏

pp.1032

 先日テレビのナイターを見ていた時,ある解説者が次のようなことを言った.‘野球選手にとって,5,6年めが一番たいせつな時期だ.最初の1,2年めはただもうがむしゃらに一生懸命プレーし,5,6年めでようやくプロ生活に慣れ,5,6年で無難に自らのプレーをこなす.けれども,この時期に一番あぐらをかきやすい.’と.

 私は技師生活7年めのプレーヤーだ.学生のころの実習病院が,現在の私の職場,生化学をするようになり(ほんとうは私は細菌,特にウイルスをしたかったのだが…)コレステロールとホルモンの定量を与えられた.以来7年間,酢酸とエーテルの臭いを嗅ぎ続けている.これは一生嗅ぎ続けそうだが.......

Senior Course 生化学

血中インスリンのラジオイムノアッセイ

石戸谷 豊

pp.1041

 糖尿病は血中インスリン(以下「イ」)量の絶対的あるいは相対的欠乏によるとされている.比較的最近までは,この血中「イ」量の分泌機能は血糖の変動の面からのみ推測されてきた.しかし血糖には多くの内部調節機構があるため,「イ」分泌機能の実体を把握することができない欠点があった.またin vivo「イ」bioassay, in vitro「イ」bioassayはいずれも「イ」および「イ」以外のホルモン,すなわちInsulin like activityを測定しているわけであり,またルーチン検査として取り入れるにはきわめて煩雑であった.したがってすぐれた血中「イ」量測定法の確立は,糖尿病研究者の長年の課題であったわけである.

 1960年Yalow and Bersonが放射性ヨードをラベルした「イ」と「イ」抗体を使って,血中「イ」のいわゆるラジオイムノアッセイにはじめて成功し,糖尿病をはじめとする各種内分泌疾患の研究に一大進歩をもたらした.現在では,測定法の簡便なことで,すでに研究者の手からはなれて一般検査室の検査法となってきている.

Senior Course 血液

血漿トロンビン時間—(Thrombin time)

鈴木 弘文

pp.1042

 被検血漿にトロンビン溶液を添加し,その凝固時間を測定する検査法であり,主としてフィブリノゲンの減少,抗トロンビン物質の存在を検索する凝固第Ⅲ相のスクリーニング・テストの1つである.従来,このトロンビン時間測定はルーチン検査としてはあまり用いられていないが,手技が簡単,測定結果がただちに得られる,臨床的意義が比較的大であるなどの理由により,今後おおいに使用されるべき検査法の1つといえる.

Senior Course 血清

ABO式新生児溶血性疾患の診断(1)

村上 省三

pp.1043

1.はじめに

 同じ新生児溶血性疾患でも,抗Rh抗体などによる揚合は,出産前に検査して得られた血清学的なデータから,生まれ出る子供の重症度をほぼ予知できるが,ABO式の場合はなかなかうまくいかない.その理由として考えられることは,ABO式の抗体は妊娠や輸血以外にもいろいろな原因でできたり,強くなったりすることがあり,それが逆にくるべき妊娠や出産に悪影響を及ぼすこともありうるが,Rh式の場合には,抗体のできる理由が限られているので,抗体価と重症度がより強い相関を示すことや,Rh因子の場合は胎児血球にも胎生期のかなり早期から見いだされ,出産時にはほぼ成人と同じくらいまで発達しているが,ABO式の場合はA型因子やB型因子は出産時でも成人の約半分ぐらいまでしか発達していないので,新生児の血球の特性をも考慮にいれなければならないことなどがある.

 Rh式の場合は最近抗Rhγ—グロブリンの活用などから,新生児溶血性疾患の発生頻度はむしろ減少の傾向にあるが,ABO式の場合にはそのような恩典もなく,その相対的な頻度は上昇傾向にある.さらにSpeiserらによれば各種の予防接種がこれを強めている可能性すらあるといっているから,事態はますます混乱をきわめていることになる.

Senior Course 細菌

ヘモフィールスの検査

永井 龍夫

pp.1044

 ヘモフィールス(Hemophilus)は慢性気管支炎,肺炎などの呼吸器感染症の検査材料(主として喀痰)から検出される菌種で,その発育増殖にX因子およびV因子と呼ばれる発育因子の,いずれか一方または両方を必要とする.これらの因子は血色素中に豊富に含まれており,X因子はヘミン,V因子はNAD(Nicotinamide Adenine Dinucleotide)とその本態も明らかになっている.

 検査材料からのヘモフィールスの分離にはチョコレートカンテン培地が使用される.チョコレートカンテンは加熱溶解したカンテン培地の温度が高い(80℃-90℃)うちに血液を加えて作るもので,熱のために血液がチョコレート色を呈するところからその名がある.

Senior Course 病理

症状と病理組織検査(10)—出血

三友 善夫

pp.1045

 出血は全身のいずれの部分にも起こる症状であり,同時に致命的な病変でもある.その原因も非常に種類が多い.血管壁の損傷破綻または血液透過性の亢進によって血管内の血液の全成分が体外,皮下,粘膜下,体腔内,組織内に出現する状態である.

 病理組織学的な出血現象の検討は次のおもな要素がなされる.

Senior Course 生理2

循環動態と心電図

村山 正博

pp.1047

 心電図と循環動態とは必ずしも密接な関係があるわけではない.心電図は圧,血流,収縮力といったような心臓の機械的収縮に伴う諸現象(循環動態)とはただちに結びつかない.たとえばQRS波の大きさは,心収縮力の強さとは無関係であり,それは心室壁の厚さ,心臓の位置およびそれらの変化による心臓と電極との相対的距離の変化とか,電気的フィールドの変化とかいった誘導条件により定まるものである.

 しかし,臨床的に各種の循環動態に変化を及ぼすような条件が,心臓または全身循環系に生じた場合,その結果として各心房または心室に,肥大,拡張が起こり,心電図上に変化をもたらす.すなわち心電図からただちに循環動態を推測することはできないにしても,肥大とか拡張とかいった心臓の形態学的変化を推測することにより,その背景にある疾患,ひいてはある程度の循環動態を間接的に憶測することはできる.したがって心電図をみる場合,通常ただちに疾患名を診断することはしないで,たとえば‘心電図上,典型的な右室肥大,僧帽性Pの存在があり,これは僧帽弁狭窄症にCompatible (相当する)所見である’といったいい方をする.

Sennior Course 生理1

脳波記録時の患者への接し方

原 俊夫

pp.1046

1.患者はすべて不安をいだいている

 われわれ自身が何かの病気で病院を訪れたとしよう.われわれは病院にはなじんでいるにもかかわらず,診察を受けたり検査されたりするときには不安になる.ましてや,一般の患者さんの気持は,なおさら不安であり,あるいはイライラしているに違いない.

 このようなとき,病院勤務者すべての応待のしかたが,患者に対してどのような心理的影響を与えるかは容易に想像できるであろう.患者とは,決して単に‘病んだ臓器をもっている人’なのではなく,‘病んだ臓器をもって悩み,不安になっている人’なのである.すなわち,患者への接し方の根本は,患者を単に身体を病んだ人としてではなく,そのために悩み,不安をいだいている人としてとらえるところにある.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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64巻12号(2020年12月発行)

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増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

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今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

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今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

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64巻5号(2020年5月発行)

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64巻4号(2020年4月発行)

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64巻3号(2020年3月発行)

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今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

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63巻8号(2019年8月発行)

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今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

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62巻3号(2018年3月発行)

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今月の特集2 実は増えている“梅毒”

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今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

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60巻10号(2016年10月発行)

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今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

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今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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