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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査15巻9号

1971年09月発行

雑誌目次

カラーグラフ

骨髄腫細胞

今村 幸雄

pp.846-847

 骨髄腫細胞は形質細胞が腫瘍化したもので骨髄腫タンパクを産生・分泌する.一般に形質細胞に比して核,細胞質ともに大きいものが多く,症例ごとに,また同一標本でも異なった形態を示している.しかし,形質細胞と明確に区別する形態学的・細胞化学的特徴はまだ知られていない.反応性の形質細胞増加でも少数ながらこのような形態を示す細胞がみられることがある(図8).骨髄腫細胞と同定するにはその腫瘍性増殖像を見いだすことがぜひ必要である.

グラフ

骨髄腫の種々相

今村 幸雄

pp.849-852

 骨髄腫の血清,あるいは尿中にはほとんどすべての症例(本症の98-99%)にmonoclonal γ-globulin(M-成分―骨髄腫タンパク,Bence Jones protein)がみられる.したがってこのM-成分の検査は骨髄腫の診断にきわめて有力である.アガロース高圧電気泳動法,カンテン免疫電気泳動法,薄層ゲルクロマト法による骨髄腫異常タンパクの種々相を示す.ただし血清中のmonoclonal γ-globulinは他の疾患でも観察される場合のあることを心にとめておくべきである(図2).

組織と病変の見方 肉眼像と組織像の対比—循環器とその病変(2)

金子 仁

pp.853-856

心疾患として重要なものに心筋硬塞がある.通常インファルクトと呼ぶのはこれである.冠状動脈の一部が硬化症のために閉塞され,支配区域の心筋に壊死の起こったものである.古くなると瘢痕で置きかえられ,白く硬くなる.心筋はひとたび壊死に陥るとほとんど再生せず,替わりに結合織で補充され,ついに瘢痕となるのである.

大動脈の病変のうち最も多いのは大動脈硬化症である.主として内膜に病変があり,脂質,ことにコレステロールがたまり,肉眼的に黄色く見え,組織学的にはコレステリンの針状結晶としてヌケて見える.とぎに石灰沈着が起こる.動脈瘤は大動脈硬化症や梅毒性大動脈炎のとき,往々大動脈に起こるが,ここに載せたのは脳底動脈動脈瘤である.これは先天性に起こるといわれている.破裂すると広範なクモ膜下出血を起こして死亡する.

寄生虫・原虫の生活環・3

横川吸虫—Metagontimus yokogawai

鈴木 了司

pp.858-859

 わが国では,回虫や鈎虫(十二指腸虫)の保有率が最近急速に減少してきているが,都会で依然として残っており,むしろ増加しているとも考えられる寄生虫に横川吸虫がある.

 この寄生虫はヒトの小腸に住み,体長1,5mmぐらいのごく小さい吸虫であり,腸管内で成虫が産み出す虫卵((A))は肝吸虫卵に似ているが,ふたの縁に肥厚突起がなく,卵殻と同一曲線上にあり,卵殻も平滑で亀甲模様がみられない.大きさは通常28-32×15-18μ.産下時には卵内にミラシジウムがすでに形成されており,糞便とともに外界に排出される.

ノモグラム・21

尿素クリアランス

松村 義寛

pp.861

求め方

1.最大クリアランス:Cm (尿量毎分2ml以上のとき)

Cm=U/B×Vの計算は左半分を用いる

検査室の便利表・21

総説

抗体産生の機序

浜岡 利之 , 山下 優毅

pp.865-871

はじめに

 生体は病原菌などの外来刺激をうけるとそれに対して抗体を産生,これらの刺激物質に対し抵抗性を獲得する.生体にこのような抵抗性を与える抗体は,血清タンパクのγ—グロブリン分画に存在することは古くから知られ,最近抗体活性を有するグロブリンを免疫グロブリンと総称するようになった.免疫グロブリンは多種類存在し,ヒトではIgG,IgM,IgA,IgD,IgEの5種類が現在までに知られている.そして,1つの抗原刺激に対しても通常何種類もの異なった免疫グロブリンに属する抗体が産生される.

 表1,図1にこれら免疫グロブリンの種々の性質ならびに構造模型図を示した.各免疫グロブリンは,L鎖およびH鎖よりなる単位から構成され,L鎖およびH鎖はS-S結合および非共有結合でそれぞれが結合されている.L鎖は分子量約22,500で抗原性および構造上の違いにより,κ鎖とλ鎖の2種類に分類される.L鎖は各免疫グロブリンクラスで共通であるが,分子量約53,000のH鎖は,各免疫グロブリンでそれぞれその構造を異にし,各免疫グロブリンクラスとしての特徴を備えている.

技術解説

骨髄腫の細胞と異常タンパク

今村 幸雄

pp.872-878

はじめに

 骨髄腫(あるいは多発性骨髄腫)は10数年前までは珍しい疾患と考えられていたが,1955年ごろから患者数は急激に増加し,現在ではもはやまれな疾患とは考えられていない.厚生省の人口動態統計によると人口10万人あたりの本症による死亡率は1950年0.002人,1955年0.027人,1960年0.157人,1965年0.287人,1967年0.368人と患者数は最近特に急上昇を示しており,Hodgkin氏病の0.5人に近づきつつある.これは一方では患者数の増加ということも考えられるが,他方では電気泳動法に始まるタンパク質分析法の進歩と臨床面への導入,普及とによって異常タンパクの面から患者を発見する場合が多くなったことによるところが大きい.

 特に最近10年間のタンパク質化学,特に免疫化学の進歩によって骨髄腫タンパクと免疫グロブリンとの密接な関連が明らかにされるにつれて,骨髄腫タンパクは一躍免疫グロブリン研究のモデルとして脚光を浴び,一般の関心を集めるようになつた.

血球の冷凍保存と検査(1)

隅田 幸男 , 城島 洋子

pp.879-886

はじめに

 血球には赤血球,血小板,白血球,そしてこれらを生成する骨髄細胞などがある.

 血球を冷凍保存しておく技術は非常に利用価値がある.輸血や稀有型血球の保存に役だつのみではなく,臓器移植を前提とした組織適合性テストや骨髄移植が可能となるからである.

私のくふう

1検体5秒間の高能率光電光度計

福井 昇 , 初野 紀夫

pp.887

考案の動機

 既製型はドレイン能力が弱く,所要時間が長い.また,コック操作が力学的に不安定で非能率的である.

検体検査(特に血液試料)の確実な被検者確認方法

菅沼 源二

pp.929

 検体検査における被検者確認の問題は,検体・情報量の増加に伴ってわれわれの大きな悩みの種であった.

 1970年10月,SMA12/60のIDEEサンプラーIV型が新たに導入されたのを機にその試料カップの改良と真空採血管ならびに血清分離用セパレイドの採用により,検査成績と被検者の確認を確実なものにすることができるようにくふうしてみた.

臨床検査の問題点・32

心電図のとり方

小沢 友紀雄 , 平塚 玲子

pp.888-893

わかりやすい心電図—これは,正しく,読みやすく,目的に合った心電波形であろう.検査技師がこれを得るには,心電計操作の技術的向上のみならず,患者心理の理解や,医師とのきめ細かい連けいが要求される.さて,実際的な問題を検討すると……(カットは心電図の波形)

コンピュータの基礎知識・8

心電図とコンピュータ

渡辺 孝

pp.894-899

はじめに

 心電図のコンピュータ診断は,その目的によって2つの方向がある.その1つは,臨床診断を「目的としたもので,従来,P,QRS,ST,Tなどの電位,幅,各波形間の時間を測定することしかできなかった人間の目の生理限界を越えて,何かしちの新しい重要所見を見いだそうとする試みであり,さらには発見された重要所見をとり入れて,機械的に診断しようとする試みである.もう1つは過去の経験から明らかにされた各種の心電図パターンに基づいて,機械の正確さと高速性を利用し,心電図を分類しようとする試みである.

 いずれにしても,心電図のコンピュータ診断はあくまでも医師の心電図判読の補助として,医師の負担を省力化するところに意義がある.

RI検査の基礎・3

放射線の物理的作用

吉川 春寿

pp.900-904

放射線測定の原理

 放射能の強さを測定したり,放射線の量を測定したりするには,荷電粒子が物質中を通るとき,その飛跡にそって原子や分子が電離されたり励起されたりする現象を利用するのが,一般に行なわれる方法である.γ線やX線のような電磁波(光子)は光電効果,コンプトン散乱,電子対生成によって2次電子を生ずるので,これによって検出,測定をする.

 気体に対する電離作用を利用するのが最もよく用いられる方法である.気体の中を荷電粒子が通るとイオン対ができる.そこに電圧をかけておくと,各イオンは両極へ向かって運動を起こして電離電流を生ずるから,これを測定する.これが電離箱(ionization chamber)による測定である.電離電流は一般に非常に小さいので高抵抗と電位計を用いて測るか,あらかじめ荷電された電位間に流れる電離電流による電位の低下を検電器で知ることによって,放射線の強さを測ることができる.

学会印象記

第20回日本衛生検査学会—新鮮だった講演形式

松永 清輝 , 古川 一郎

pp.905-907

 第20回を迎えた本学会は,さわやかな五月晴れの,5月22,23の両日,新潟市において11の会場で開かれた.

 今学会の特徴は,カラースライドでなければ発表できないような,特別のもののほかは,スライドや壁発表はとりやめられ,明るい会場で,学会特集号の講演集をみながら,講演を聞くことができたことであろう.このはじめての試みに,演題の集まりが心配されていたが,シンポジウム16題,一般演題157題が発表された.

海外だより

—欧米(北欧,東欧,西欧,米国およびカナダ)の病院検査室(3)—ポーランドのワルシャワ市にビエランスキー病院中央検査部を訪ねて

佐々木 禎一

pp.908-912

はじめに

 10月12日コペンハーゲンからLOT (ルーマニア航空)で東欧社会主義共和国の一方の玄関,ポーランドの首都ワルシャワに到着した.

 空港の役人が‘アリガトー’と気さくに話しかけ,ポーターが車までトランクを運んでくれてもチップは取らなかったので,ポーランド第1歩の印象は単純な私には良好であった.

研究

過去6年間のCL3法の成績と,TP3法の成績について

永木 譲治 , 熊谷 エツ子 , 西尾 泰子 , 溝口 かほる , 甲木 孝人

pp.913-915

緒言

 梅毒血清反応検査の標準検査法としては,カルジオライピンを抗原としたところの緒方法,凝集法,およびガラス板法(以後CL3法と略す)の3種類の検査が従来から採用されてきた.しかしながら,これらの検査は生物学的疑陽性反応を示すことがあるため,最近に至って非病原性トレポネーマ・パリダム似後TPと略す)のライター株を抗原としたRPCFや,病原性TPのニコルス株を抗原としたTPHAおよびFTA−200(以後TP3法と略す)の検査法が普及してきた.そこで,われわれも日常の梅毒血清反応において,梅毒診断の確率を高めるため従来のCL3法に加え,TP3法の検査をも併用してみたので,その集計結果について報告する.

ゴールデンベルグ法による血清無機リンの測定

佐藤 松男 , 渡辺 泰助 , 小林 稔

pp.916-918

緒言

 血清中の無機リンを測定する代表的な方法として,Fiske-Subbarow1,5,6)法(以下F-S法と略),Taussky法2,6),Lowry-Lopez3,6,9)などがあげられるが,いずれも簡易性に乏しい欠点をもっている.最近Taussky法を改良したゴールデンベルグ(Goldenberg)法4,6,7)(以下G-b法と略)が発表された.G-b法に関しては簡単な紹介が,降矢によってなされているのみで,わが国においてはその検討が十分に行なわれていない.G-b法は,還元剤を2価鉄とし,除タンパク剤の中に溶かして,チオ尿素で安定化していることが特徴としてあげられる。また,簡易性でも従来の方法に比べて非常にすぐれている.われわれはG-b法について,従来広く行なわれているF-S法およびTaussky8)法(和光キット)との比較検討し,良好なる成積を得たので報告する.

術中細胞診断のための迅速固定,染色法の検討

大田 暉和 , 奥本 隆 , 宮田 鈴恵 , 豊福 恵子 , 芹井 ちか子

pp.919-924

はじめに

 日常,術中の迅速病理診断には凍結切片(以下凍切という)による組織診断法が行なわれているが,その標本作製過程において高度の技術と熟練が要求され,そのうえ短時間で一切片による診断にせまられることや,加温,凍結,融解と急激な諸種の物理的変化を受けることによる細胞ないし組織の避けがたい形態的変化に加えて,人為的な組織の損傷も見られることがあり,これらが診断に大きな影響を及ぼすことは周知のとおりである.

 一方,細胞診のめざましい発展とともに細胞単位での悪性判定が確立され,またその他の病変も細胞診からその推測を可能にする今日,技術的検討を加えることによって細胞診を術中迅速診断に応用できると考えられる.そこでわれわれは約半年前より凍切法と併行してタッチスメアーによる診断を試みてきたが,凍切法よりもいかに時間を短縮し,そしてかつ通常の細胞診標本と変わらないものを作製するかが技術的な問題点であり,少なくとも悪性腫瘍を判定するための必須条件である核構造を保持するには,固定が重要な点と考えられるゆえ,固定法についてその可能性を検討した.

新生児末梢血液成分の検討

正野 昭信 , 池村 勝子 , 村上 嫩子 , 石塚 英子 , 羽山 忠良 , 寺田 秀夫

pp.925-929

緒言

 新生児における血液成分の値は,成人のそれと大きく異なることはすでに周知のことである.しかし新生児の正常値に関する報告は成人のそれに比べれば著しく少なく,また未知の分野も少なくない.

 著者らは,当院で出生した健康新生児の末梢血液成分について,出生直後,24時間後,6日後の3回にわたり,その正常値および幅の経時的変化を検討したので,その結果を報告する.

新しいキットの紹介

Immunocrit法(β-L Test)によるβ-リポタンパク測定の検討—耳朶血を試料とする方法

王 景順 , 楠 信男

pp.930-932

 動脈硬化症,肝疾患,腎疾患,糖尿病の診断および治療の経過観察のために,血中脂質測定の意義は大きい.また,血管壁の変化とβ-リポプロティン(以下β-Lpと略す)との関係について,臨床上意義のある報告がなされて以来,日常検査としてβ-Lp測定の必要性が強調されるようになった.

 β-Lp定量には,塩析法,冷エタノール法,超遠心法,電気泳動法などがあるが,いずれも特殊な器具・機械が必要であり,また,高度の技術を要するために一般的ではなかったが,β-Lpの簡易測定法として免疫学的な方法がHeiskellらによって発表されて以来,Lpの角度から脂質代謝異常を観察することが一般化してきた1)

シリーズ・日常検査における機械化のくふう・9

比色計の比濁用フローセル方式の組み立て

水野 映二 , 仁科 甫啓 , 小野 弘毅 , 北村 元仕

pp.934-935

 チモール混濁試験(TTT)や硫酸亜鉛試験(ZTT)の問題点の1つは,使用する比色計の機種によって測定値が異なることであり,この原因は比色計の光学的構造(セルの形と位置,散乱光の受光形式)の違いによるといわれている.私たちの検査室ではTTTとZTTの測定にColeman Jr.比色計を使用していたが,非能率的なため,前回の3,4月号に掲載した日立101型比色計のフローセル方式を導入し改善を図ろうとしたところ,図1のような誤差を生じ,能率化をはばまれた.

 正常範囲はColeman Jr.で決められている.そこでフローセルを丸形にして受光部へ密着させれば,セルからの散乱光の大部分が光電管にはいり,Coleman Jr.と同様の条件が得られるのではないかと推論した.

Senior Course 生化学

色素結合デンプンを用いる血清および尿アミラーゼ測定

石戸谷 豊

pp.937

 健常人血清アミラーゼは膵唾液腺,肝,その他の組織から由来するが,その相対的量的関係はまだ不明であるが,アイソザイムの面から血清アミラーゼと膵アミラーゼとは異なった性質をもっていることが明らかにされている.しかし,急性膵炎などで特徴的に増加する血清アミラーゼは,膵液アミラーゼに一致したパターンを示し,線細胞の破壊による血中逸脱酵素であることは確かであり,決定的検査法のない膵疾患にとって,今日でもなお重要な酵素診断法の1つであることにはまちがいはない.本酵素はアミラーゼの中のα-アミラーゼに属し,α-1,4グリコイド結合を水解しマルトース,デキストリン,グルコースにする.アミラーゼ測定法として今日まで用いられてきた方法は数多くあるが,その代表的なものはAmyloclastic(am法;Woklgemuth法など)とSaccharogenic(sm法;Somogyi法など)である.

Senior Course 血液

部分トロンボプラスチン時間(PTT)

鈴木 弘文

pp.938

1.測定原理と意義

 被検血漿に十分量の,血小板第3因子作用を有するリン脂質(部分トロンボプラスチン,不完全トロンボプラスチン)と適量のM/40塩化カルシウム液を添加し凝固時問を測定することにより,内因系凝固機序に関与する凝固因子(血小板第3因子は除く)の異常を総合的にスクリーニングする方法である.この方法は1953年Langdellらにより考案されたものであるが,その後多くの研究者により検討・改良が行なわれ,今日では最もたいせつな凝固検査法の1つとなっている.

 PTTが異常を示すのは次の場合が老えられる.(1)第XII,IX,IX,VIII,X,V,IIの各凝固因子の異常(量的もしくは質的),(2)線維素原(第I因子)の異常(量的もしくは質的),(3)循環抗凝血素の増加,(4)プラスミンの異常亢進,(5)消費性凝固障害の存在,(6)抗凝固薬の投与,などである.しかしPTTは第VII,X+III因子の異常の場合は異常値を示さず,また,血小板の異常,毛細血管の異常に起因する出血性疾患の検索には不適当である.一方,血友病の検索には軽症型,重症型を問わず他のスクリーニング法と比してきわめてすぐれている.

Senior Course 血清

動物由来の判定用血清について

村上 省三

pp.939

 血液型判定用血清にはヒトの血清から作った(ヒト由来)ものと,動物を適当な方法で免疫して作った(動物由来)ものとがある.しかし血液型因子に対するすべての抗体が動物を免疫してできるわけではない.広く用いられているのはABO式血液型判定用血清抗M,抗N抗体くらいのものである.

 その他にもわが国では抗Rh0(D)判定用血清としても動物由来のものが使用されているが,最近の研究では,この抗体は正確には抗Rh0抗体ではなくて,実はそれにきわめて近いLW因子に対する抗体であるとされている.それが抗Rh0(D)抗体として一応通用するのは,D因子が陰性のときはLW因子も陰性であり,D因子が陽性であるときはLW因子も陽性であることが大部分で,両者がくい違っていることが非常に少ないからである.しかし新生児血球のように,D因子が陰性であってもLW因子がかなり強いこともあり,逆に成人に時々みられるように,D因子が陽性であってもLW因子が陰性である血球もまれにはあり,こんな場合には動物由来のものでは判定を誤まることになるので,たとえば動物由来の判定用血清では新生児血球の判定はしないようにというただし書きがなされているわけである.

Senior Course 細菌

腸内細菌の検査(2)

永井 龍夫

pp.940

1.大腸菌

 大腸菌(Escherichia coli)は腸管内の常在菌であるが,泌尿器をはじめ種々の感染症の原因菌として検出されることが多い.また大腸菌の中の特定の菌種は乳幼児の下痢症や成人の急性胃腸炎の原因菌として知られており,病原大腸菌と呼ばれている.

 大腸菌の分離培養にはティポール加BTB乳糖カンテンや血液カンテンを使用する.前者は材料中にProteus菌が混在する場合,その遊走をさまたげて孤立集落を作らせるので,目的とする大腸菌の釣菌分離を容易にする.後者は材料中に常在性の球菌類が混在するとき,大腸菌との鑑別分離に具合がよい培地である.

Senior Course 病理

症状と病理組織検査(9)—下痢

三友 善夫

pp.941

 下痢は最もポピュラーな症状の1つで,だれでもが経験していると思われる.そして,1,2回の簡単なものから致命的な重篤なものまで,その種類は非常に多い.そのために下痢の原因の検索もときには容易ではなく,小腸や大腸の粘膜の生検まで行なわれる.下痢はその経過によって急性と慢性に2分される.

 急性下痢の原因はおもに病原微生物の感染によることが多く,細菌性赤痢,アメーバ赤痢,サルモネラ症(急性胃炎,食中毒),腸炎ビブリオ,コレラ,病原大腸菌性下痢,伝染性下痢症(ウイルス)などが上げられる.その診断は便の肉眼的観察と病原体の分離によってなされる。

Senior Course 生理1

心筋活動とベクトル心電図

戸嶋 裕徳

pp.942

 心筋の興奮に伴う電気的変化を視覚的にとらえて,臨床的に役だたせるという目的は,ベクトル心電図も心電図もなんら相異はない.ただベクトル心電図は,心電図と全く異なったパターンを示すうえに,ベクトルという概念そのものが理解しにくいために敬遠された傾向はある.

 一口に言えば,ベクトル心電図とは2台の心電計の作り出す波形を同時に組み合わせたものといえる.心電図は体表の2点間の電位変化を増幅して,時間的経過とともにペンが上下に振れて波形を画いたものである.

Senior Course 生理2

脳波の雑音

山岡 淳

pp.943

 脳波記録者は雑音の鑑別に熟達していて,資料に逐次雑音であるか否かの記入をしておかなければならない.また雑音の除去にも習熟しておく必要がある.以下に,雑音を発生場所別に列挙し,その性質を略述する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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