icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査16巻1号

1972年01月発行

雑誌目次

カラーグラフ

病理組織標本の染色

畠山 茂 , 渡辺 美代子

pp.6-7

 対象になった標本は,平均的な死後3-4時間を経過したホルマリン固定による病理解剖組織から選び,日常の病理検査でよく使用される染色法8種類をほどこした.

巻頭言

臨床検査

冲中 重雄

pp.9

 私は今から15年前の本誌の創刊号(1957年4月)に巻頭言を書いた記憶がある.その間,臨床検査領域の進歩発展はまことに目ざましいものがある.医学の終極の目的は申すまでもなく臨床医学であり,疾病の原因,疾病発現までの広い意味の潜伏期,現在の症状,疾病の診断,それに対する適切なる治療,予防へとつながるものである.この臨床医学によい効果をもたらすものは,臨床家の努力もさることながら,その根底をささえるものは科学であり,特に基礎医学である.そうして,この基礎的医学,科学の成果を実際に臨床の場に直結する役割を果たすものが,臨床検査であろう.したがって,臨床検査に携わる方々は,基礎医学,科学から新しい進んだ学問,技術をとり入れ,これを臨床の人々に提供しなければならない.一方,臨床家は患者を診察して直接,診断・治療に携わるのであるが,それとともに,絶えず必要な資料を検査室に送り,そこから得られる分析成果を臨床の場に導入し,両者合わせて,より正確な診断・治療を行なうことが可能となる.

 臨床検査に携わる方々にお願いしたいことは,このルーチンワークの正確性を常に身につけておかなければならないことであり,この正確なルーチンワークを通じ,始めて異常所見が日常の流れ作業の中から自然に発見されうることをよく認識していただきたいのである.このようにして通常見られる病的所見のほかに,時にはまだ記載のなかったまれな異常所見も捕捉しうるのである.このような連帯作業により,日常の臨床の場から患者を通じてわれわれは多くの知識を得ることができるわけである.すなわち,この一見単純な作業により,日々の診断が正しく行なわれ,患者に恩恵を与えることができ,また医学の進歩にも大きな寄与をなしうるのである.すなわち,臨床検査は臨床に直接寄与すると同時に,医学研究のうえにも大きな貢献をなしうることを感じていただきたいのである.

技術解説

表皮の微細構造と機能

橋本 謙

pp.10-20

 ヒフ(皮膚)は身体の外表をおおっている弾性体で,身体を保護するために諸種の機能を営んでいる器官である.ヒフはこのために複雑に分化している.図1にヒフの構造を模式化して示した.

 本項では,表皮の電顕レベルでの形態とその機能である角化機構ならびにメラニン形成について略記し,さらに,経皮吸収と発汗,特に不感知性蒸散を追記して,参考に供したい.

血小板自動算定法の実際

高野 喜久雄 , 奥田 稔 , 大竹 順子 , 長嶋 町子

pp.21-30

 血小板算定は大別して間接法と直接法に分かれ,前者の代表的方法としてはSahli-Fonio法,後者の代表例としてはRees-Ecker法,Brecker-Cronkite法がある.これらの方法はそれぞれ利点・欠点があり,たとえばFonio法では塗抹標本上の血小板の不均一な分布が問題となる.Rees-Ecker法は血小板とゴミとの鑑別が困難なことが指摘されてきた.またBrecker-Cronkite法においても視算の労力と,その不確実さは避けがたい誤差として現われることはすでに知られる1)ところである.

 1965年,Bullらは血小板算定に自動血球計数器を導入し,その自動化の試みを発表した.その後この方法は,欧米において広く認められている2-4)

大腸菌の検査法

坂井 千三

pp.31-35

 大腸菌(Escherichia coli)は,ヒトや動物の腸管内に常在菌叢として生息し,また,土壌とか下水などの自然界に広く分布している.大腸菌の中で,ヒトに対して赤痢あるいは胃腸炎起病性を有するものがある.この大腸菌を正常大腸菌と区別して病原大腸菌と呼んでいる.病原大腸菌は,最初,乳幼児の下痢症原因菌として注目されたが,現在では乳幼児に限らず,成人の下痢症原因菌としても大いに重要視されるようになった1-5)

 また大腸菌は,尿路感染症の原因菌としても重要である6).大腸菌の検査は,その目的によって次の2つに大別されよう.

学会印象記

第9回国際医用生体工学会議—発明から応用発展の時代へ

古川 俊之

pp.36

日本からは37題の出題

 国際MBE (医用電子,生体工学)会議(ICMBE)は1958年パリで組織されて以来,医学の新しい研究プロジェクトとして注目を集め,今回のメルボルンの会議で第9回を迎えた.メルボルン大学医学部で8月23-27日まで行なわれたが,開催国が遠隔の地であったためか,演題数は244題にとどまったが,かえって討論に十分な時間がとれる結果となって充実した会議となった.出題数はオーストラリア73題,アメリカ66題,日本37題,西独12題,以下6題以内の発表であった.

総説

デンマークの臨床検査室

坂岸 良克

pp.37-43

 1960年7月から1962年8月まで過ごした米国オレゴン大学における生活が遠い過去の想い出となって,100%日本人に戻ったところで,国際保健機構(WHO:World Health Organization,欧州ではフランス語のOMSのほうが通じる)のAdvanced Course in Clinical ChemistryのParticipantに選ばれ1971年の前半を欧州で暮すことになった.

 このコースの目的は教育病院検査科の化学の主任のために臨床化学の進歩を伝え,見学し,実際に確かめることにあり,コースは3年めごとに15か国代表15名がWHOによって選ばれ,コペンハーゲンを中心に実施されてきた.そのおもな内容はすでに報告してあるが1),このコースの間に見聞し,体験した北欧の検査室について(すでに佐々木氏の報告もあるが2)),記してみることとする.

臨床検査の問題点・36

ABO式血液型—その判定をめぐって

村上 省三 , 三須 清子

pp.44-49

血液型が輸血や妊娠に重要な意味を有することはいうまでもない.ここでは,ABO式血液型の基本的な検査手技の確認と,判定を誤らせる原因(技術,疾患……)の解明,さらには血液型検査に対する態度を再考する.(カットはABO式各型の反応)

ME機器の安全対策・1【新連載】

なぜ安全対策が必要か—危険がいっぱいの検査環境

長尾 透

pp.50-54

 最近のME機器,一般の医療器械の普及はめざましいものがある.しかも,その種類,構造は急速な医療の進歩につれて,ますます多彩となり,使用者はときに機器にふりまわされるのが現実の姿ではなかろうか.わが国では,さらにこれに加えて旧式な建物,古い電気施設の環境での,新しい機器と使い古された機器とめ併用などが多くの問題をかかえたまま,しかも高度な医療技術を行なうという目的意識が先行して,とかく安全対策はおろそかにされているのが現状である.

 ME学会の専門別研究会であるME機器安全対策研究会は,ME機器安全基準委員会に引きつづいて,ME機器を使用する側からの安全対策やその環境についての研究討論を1970年4月から行なっているが,その議事録から実際に必要な安全対策の注意や知識をできるだけくだいて,本誌に1年間連載したい.そしてこの記事が安全対策に対する関心を呼び起こし,とかく患者不在に陥りがちな日常の診断や治療の安全対策に,お役にたてば幸いである.

追悼文

Tiselius教授の死を悼んで—‘タンパク質の分離’を貫く

平井 秀松

pp.55

 Arne Tiselius教授は有名なティゼリウス電気泳動法のそのTiseliusである.今日,臨床検査に欠くことのできない電気泳動法のその大元の創始者であり,血清タンパクをアルブミン,α—,β—,γ—グロブリンに分画,命名したその彼である.1969年10月あんなに元気で初めての日本を訪れ,3週間あまりの滞在を心から喜んで帰っていかれた教授の追悼を,今こうして書かねばならぬことを本当に悲しく思う.

 彼をかくも強く私に印象づけたのは,彼の非凡な業績よりはむしろ透徹したその人となりなのである.彼こそは人間とは何かということを本当に知っていた人であった.それゆえに彼の謙譲は,真理の前に人がいかに小さなものであるかを体でもって体得したその謙譲さであった.生涯を1つのことに集中しえた人のみが到達しうる境地にいた人である.

座談会

化学検査の試薬—自家製か市販キットか

北村 元仕 , 斎藤 正行 , 貝原 俔子 , 土屋 登美枝 , 渡部 昭子 , 松村 義寛

pp.56-65

 近年,検体検査は増加の一途をたどっている一方,相変わらず人手は不足している.機械化が進んでいるとはいえ,それだけで問題は解決しない.そこへ登場したのがキットであるが,これは果たしてほんとうに信用してよいものか.

 今月は‘キット賛成’‘いややはり自家製試薬を’という対立する2人を中心に,賛否を話し合っていただいた.

海外だより

—欧米(北欧,東欧,西欧,米国およびカナダ)の病院検査室(5)—ユーゴスラヴィアのベオグラードでドクトール・ドラギッシャ・ミシォヴィッチ病院とセルビア共和州母子健康研究所の検査室を訪ねて

佐々木 禎一

pp.66-71

はじめに

 疲労の身にむち打って,久しぶりに晴れ上がった東欧の空を飛び,10月18日の夕刻Jugoslavia(以下ユーゴと略記)のBeograd(ベオグラード)に到着した.それは,ブカレスト(ルーマニア)—ソフィア(ブルガリア)間の飛行機が吹雪で欠航したため,急拠モスクワ始発の国際超特急というのに乗せられ,1晩食物も暖房もない冷たい車輛の中,つらい旅をした時1)の悪天候とは全く段違いの快適なものであった.

 東欧といっても,ユーゴはチトー政権下西欧にも顔を向けているため,市街では新しい高層建築が次々完成し,物資も豊富で,最早西欧に舞戻ったような感じさえいだかしめるようであった.しかしその内部の医学事情に関してはほとんど紹介されておらず,われわれにとってはきわめて興味深いものである.

技師長の業務について

藤沢 武吉

pp.72-75

 近年,臨床検査の発展と普及に伴って検査件数と検体数の増加は急上昇の一途を示し,中央検査科はますますマンモス化している.いまや近代医療機関にあっては臨床検査の中央化は常識とされ,中央検査システムは病院にとって診療上はもちろんのこと,経営上からも,欠くことのできない存在となっている.

 そのためにりっぱな検査室の新築,新しい検査機械器具の導入,検査技師の増員などその動きにはめざましいものがある.

研究

人生検リンパ節の酵素組織化学—組織処理法の影響について

鈴木 裕

pp.76-80

 人体生検材料を使用して酵素組織化学的検索を行なう場合,ドライアイス・アセトン新鮮凍結切片を作り,このままかまたは適当な固定液で短時間固定後,酵素反応を行なう方法が普遍的である1,2).しかしこの方法は固定による失活の激しい一部の酵素は別として,すべての酵素の検出を,このような,新鮮凍結切片で行なうことは,組織構造の保存度や酵素の拡散などの点からいろいろと問題があると思われる3)

 すでに血液塗抹標本による酵素組織化学の臨床への応用は,朝永ら4)を始め諸所で試みられてきているが,実質臓器の生検への酵素組織化学の応用の要請もかなり高まってきている.人体生検例では,数多くの症例の比較対照が,観察の主眼点になるゆえ,取り出した組織の処理,反応条件などは,各個差の少ない,安定したものであることが強く要望される.この意味から,著者は通常行なわれてきた生検例の酵素組織化学の組織固定法に再検討を加え,現在のところ最良と思われる方法をここに示してみたいと思う.

ギムザ(Giemsa)染色法の一検討

橋本 史子 , 鈴木 五穂 , 黒川 一郎

pp.81-83

はじめに

 GiemsaがEhrlich以来のいわゆるTriacid stainの伝統にたち,アズール—II,アズール—II—エオジン・グリセリン・メタノールの組成をもつ染色法を考案したのは1899年であるといわれている.

 以来,日常血液検査への本試薬の恩恵ははかりしれないものがあろう.

青壮年男女における血液検査成績の検討

斎藤 富樹 , 佐藤 正之 , 三谷 善一郎 , 中口 洋一 , 山本 英作 , 船水 孝介 , 田中 繁 , 野村 晃 , 山内 孜允 , 馬場 浩作

pp.84-88

はじめに

 われわれが正常値を求める場合,健康と思われる人を対象にして正常値を設定するのであるが,その上限と下限ではその差がきわめて大きいことが多い.これが臨床上実用的でないので通常平均値と標準偏差で表わしている.しかしこれに含まれるのは実際測定した正常値の約2/3のみで,残りの1/3のものは含まれなくなり,ここに平均値の限界がある.また正常値の根拠としての平均水準,価値永準,変動性,一般性,設定条件などがあり,この点をできうるかぎり考慮にいれて検討を加えた.

 日本人の正常血液所見は小宮博士などが行なった,全国的な大規模な調査成績‘日本人正常血液像’が信頼できるので,主としてこれに従い,特に血算にあたっては,血球の計算上の分布誤差,メランジュールによる希釈誤差など,正確度に欠けるうらみ,さらに時間を要しかつ目の疲労を生ずるなど,顕微鏡による欠点を勘案して,多検体を迅速に処理できる再現性のよいTOA MIC-ROCELLCOUNTER(MCC II)を使用して成人男女の血液検査を行なったので報告する.

結核菌耐性検査におけるリング拡散法の研究—第3報 2次薬についての検討

平峰 繁

pp.89-92

 特定のシャーレに作った1%小川培地に菌を接種し,ディスクの薬剤をドーナツ状に拡散させてその耐性度を測定するリング拡散法1)は,SM,INH,PAS,KMの4剤が2枚の培地で行なえることを先に報告2)したが,今回はTH,EB,VM,CPMについて,稀釈法と本法との相関関係からそれらの成績判定表を作成するとともに,直立拡散法との比較も行なったので,合わせてここに報告する。

 なおCSについては,150例ほど行なったが,市販のディスクが20mcg感性菌でも阻止帯が0という結果であり,Lot NO.を替えてもディスク中のCS力価が相当ドロップしていて,短い阻止帯しか形成しなかったので一時中止し,改めてメーカーに品質のよいディスクの作製を依頼して,目下実験を継続中である.

ひろば

臨床検査技師免許証を職場に

橋本 嘉夫

pp.80

 1970年5月21日,衛生検査技師法の一部改正の法律が公布され,1971年1月1日から施行された.この法律によって新たに臨床検査技師という制度ができ,検体として血液の採取と,生理学的検査(心電図検査ほか8種類)を臨床検査技師が担当できるようになった.そこで,現在衛生検査技師の免許を持ち検査に従事する多くの仲間が,厚生大臣指定認定講習会を受講し,8月22日第1回臨床検査技師の国家試験に臨んだ.

 よく働きよく遊べのレジャー時代,暑い6-8月の時節に,われわれはよく働きよく学んだ.

私のくふう

攪拌器を利用したクロム硫酸の作り方

海藤 秀敏

pp.83

 いまだクロム硫酸は,血沈用,血清鉄用,電解質用など多くの器具の洗浄に用いられている.そのクロム硫酸を作る際,手によって硫酸を混和していたが,攪拌器を使って自動的に混和することを思いつき,硫酸混和時の危険をなくした.硫酸の滴下には,分液ロートを使っている.この方法だと,分液ロート内の硫酸がなくなれば,それを補充してやるだけでクロム硫酸ができる.

新しいキットの紹介

ビリルビンキットの検討

河喜多 龍祥 , 佐竹 幸子

pp.93-96

 血清ビリルビン定量は,肝胆道疾患はもちろん新生児溶血性疾患,不適合輸血,先天性および後天性溶血性貧血など各種の血液疾患に対して,診断・治療上欠くことのできない指標であり,臨床化学検査において重要な種目の1つである.その測定法の代表的なものに,(1)Evelyn-Malloy法,(2)Jendrassik法,(3)Michälsson変法などがあるが,現在最も広く用いられているのは,ビリルビンがジアゾ試薬と反応して生じるPink-Violetのアゾビリルビンを比色定量するEvelyn-Malloy法である.今回このEvelyn-Malloy法の改良法で,測定操作を簡易化し,また血清量が微量で測定可能な試薬キットが栄研化学より発売され試用する機会を得て,若干検討したのでその結果を報告する.

質疑応答

臨床検査技師の採血について

D生 , 堀篭 章史

pp.97

 問 臨床検査技師(以下,技師)の採血行為は,採血をした技師がその検査を行なうことを前提として認められたものであるとされていますが,下記の場合違法とならないでしょうか.

1)技師Aが採血した検体を,技師Bが実際の検査測定をしたとき.

Senior Course 病理

電顕によるウイルス性疾患の検索

三杉 和章 , 高田 多津男

pp.111

 電顕を組織検査に用いることによって大きく開かれた分野の1つはウイルス性疾患の病理である.光学顕微鏡では推論の域を脱することができなかった病変を,電顕では個々のウイルス粒子までも明らかにとらえることができるので,ウイルスによって起こる細胞内の病変がしだいに明らかになってきた.一方,種々のウイルスについて,その超微形態的特徴も明らかにされてきたので,電顕像からウイルスをおおよそ分類することも可能になってきている1).すなわち,電顕検査を行なうことによって,ウイルス性疾患を相当詳しく診断することも可能になっている.

 このように,実用的な見地からもウイルス性疾患の電顕による検索はさらに広く行なわれるべきものと思われる.しかし,実際の臨床材料を検索する場合に,ウイルス性疾患の疑いが明らかになったときには,ホルマリン固定,あるいはパラフィンに包埋された材料だけしか残されていないことが多い.すなわち,電顕試料作製法として一般に行なわれるような方法で試料を処理することができない状況になっており,このため,電顕検査をあきらめてしまうことも多いようである.

Senior Course 生化学

臨床化学における量と単位

坂岸 良克

pp.107

1.国際的統一の勧告

 化学に関する国際的統一連絡をしている国際純正応用化学連合(IUPAC)は,種々の委員会を組織して,世界中の化学的活動を相互に理解し認め合えるよう努力している.たとえば物質名,化合物名を共通の規則に従って表わすことが計画され,その組織名がかなり普及してきた.

 臨床化学についても臨床化学委員会(CCC)が組織され,標準物質,正常範囲などの問題を検討しているが,この中の小委員会が1966年に‘臨床化学における量と単位’という勧告を公布した.これはDybkærとJφrgensenがまとめたもので,国際臨床化学会議(IFCC)もこれに加わった.小委員会はさらに臨床化学量・単位委員会(CQUCC)に発展し,Dybkærを委員長にして目下作業を続けている.

Senior Course 血液

血小板数

安永 幸二郎

pp.108

 血小板の第定法には,直接法と間接法があり,最近は自動血球計算器による方法も用いられるようになった.それぞれ長所と短所があるが,現在臨床検査室の検査法として一般性をもつのは直接法であって,その中でもBrecher-Cronkite法がすすめられる.

Senior Course 血清

免疫学の進歩とその臨床検査への応用

稲井 真弥

pp.109

 本年は私がこの欄を担当し,主として抗原,抗体および補体について解説することになった.現在血清検査に携わっておられる方々にはもちろん,その他の検査に従事しておられる人にも,役にたてばと思っている.

Senior Course 細菌

腸内細菌の分類とその系統発生

橋本 雅一

pp.110

 腸内細菌を含む類縁の菌群を属に分類し,さらに明確に種を区別し,分離された菌株をこの基準に従って同定するとなると,かなりの混乱が生じてくることがある.これは,菌属の決定,種の定義で,研究者によってその基準が必ずしも一致していないことに原因がある.このような混乱を統一し,少なくとも腸内細菌の系統的分類を可能にする考え方としてまとめたのが表と図である.

 この表では,まず腸内細菌を混合酸発酵群とブチレン・グリコール発酵群とに2大別してある.腸内細菌がブドウ糖を利用して増殖したときの終末代謝産物は,CO2とH2をほぼ1:1に発生しながら,乳酸,酢酸,コハク酸など各種の酸を大量に産生する菌群と,CO2とH2を5:1の割に発生し,酸の産生はごく少量で,それに替わって大量のブチレン・グリコールを産生する菌群に分けられる.この糖発酵形式は,メチル赤試験とV-P試験の成績と関連がある.特にブチレン・グリコール発酵はピルビン酸のアセトイン縮合を伴う.この発酵形式の違いから,腸内細菌の鑑別にあたっては,V-P試験をこれまで以上に重視する必要がある.発酵形式によって大別された菌群について,乳糖分解性その他日常用いられる生理学的および生化学的性状の結果から,腸内細菌を大まかに属に分類したのが表に示した結果である.

Senior Course 生理

電極の条件

杉山 吉彦 , 又吉 正治

pp.112

1.インタフェイスとしての電極

 人間工学ではman-machineシステムということばがよく使われる.そこではman-machineインタフェイスが,人間と機械・道具との接面ということで,人間工学における主要な概念の1つになっている.同じように,医用工学(ME)の最も重要なテーマもman-machineインタフェイスにあるべきであるが,従来に限っていえば,比較的なおざりにされていたといわざるをえない.

 1969年の第9回ME学会大会での重要なテーマの1つとして,‘生体とトランスジューサとの結合上の諸問題’が取り上げられたが,いま1つの盛り上がりが見られなかったのは,ME研究者の間に,たとえば心電計というと増幅器,レコーダの特性とか,いわゆるハード偏重の思想が強すぎて,生体と機械の結合面についての地味な研究者がきわめて少ないという事情に起因すると思われてならない.

Senior Course 業務指導のポイント

検体確認(ID)について

松橋 直

pp.113

 臨床検査では,それぞれが担当している検査の精度管理がやかましく論ぜられており,その成果は着々と上がりつつある.しかし,思わぬところに‘落とし穴’があるものである.その第1は,検体の取り違いであり,第2は,報告書の書き違いである.ここではおもに第1の問題にふれてみよう,

検査技師のための解剖図譜・1【新連載】

肺臓

三島 好雄

pp.100-101

 肺の機能は胸郭・横隔膜などの運動によって,外気が鼻咽喉から気管・気管支を経て肺胞にはいり,ここで血液との間でガス交換を行なうことであり,このような意味で肺の構造を気管肺胞系と血管系の2つに分けて考えることができる.肺や組織におけるガス交換は純粋に物理的な現象であって何ら特殊なものではないが,肺呼吸や組織呼吸が効率よく行なわれるためには,血液が体内を循環しなければ無意味であり,呼吸機能と循環機能とはこのように密接な関係にある.

 肺は右が3葉(上・中・下),左が2葉(上・下)に分かれているが,この肺葉はさらに数個の肺区域(pulmonary segment)から成立しており,各区域は固有の気管支と動静脈をもっており,解剖学的に単位とみなすことができる.

検査機器のメカニズム・1【新連載】

心電計

瓜谷 富三

pp.102-103

1.はじめに

 検査機器,特にME機器のメカニズムを取り上げるにあたって,最も広く使われている心電計から始めたい.このシリーズでは毎号1機種ずつ解説する関係で,エレクトロニクスの基礎的な事柄を十分説明できないが,読者の多くは,臨床検査技師国家試験に関連して医用電子工学を学ばれているので,そのレベルから話を進めたい.

検査室の用語事典・1【新連載】

一般検査,血液学的検査

寺田 秀夫

pp.104-105

1) Acid-base balance;酸・塩基平衡

 細胞外液中には,陽イオン(塩基)としてNa,K,Mg++,Ca++があり,陰イオン(酸)としてCl,HCO3,SO4,HPO4,有機酸イオン,タンパクイオンなどがある.これらの陽イオンと陰イオンとがバランスを保とうとする状態を酸・塩基平衡と呼び,その陽も重要な緩衝系は,炭酸重炭酸系(H+HCO3⇄H2CO3⇄CO2+H2O)である.比較的陽イオンが多くなった状態をアルカローシス,陰イオンが多い場合をアシドーシスという.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら