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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査16巻10号

1972年10月発行

雑誌目次

カラーグラフ

酵素抗体法

亀谷 徹 , 小林 孝好

pp.1064-1065

 酵素抗体法は免疫組織化学の1つの方法として螢光抗体法,フェリチン抗体法とともに組織内,細胞内の特異物質の局在を証明するのに,近年形態学上多方面に利用されはじめている.本法は通常の顕微鏡で細胞内のホルモン,その他の物質の存在場所を色(褐色や紫色など)として観察できるので,その実用性は大きく,将来検査室で大いに駆使されるものと思われる.さらにこの方法は他の2方法の利点をあわせもって電子顕微鏡による観察に応用できる(技術解説参照).

技術解説

α1-フェトプロテイン検査法

向島 達 , 大倉 久直 , 服部 信 , 中山 昇 , 沢部 孝昭 , 坂巻 智恵子

pp.1067-1078

 α1-フェトプロテイン(α-F)は1944年,Pedersen1)により胎児の新しいタンパクとして発見されたFetuinとも関係があるが,1963年,Abelev2)が肝癌マウスの血清中に出現することを見いだした.次いでTatarinov3)が,原発性肝癌患者の血清中に高頻度に検出できると報告して以来,肝癌に特異的に出現する胎児性腫瘍タンパクとして,その診断的価値が注目されてきた4,5).本邦においても,α-F特異抗血清を用いた免疫学的測定法が,肝癌の診断に有用であることが知られ,種々の測定法が開発されて日常の臨床に用いられ始めたが6-12),この分野の研究は今後ますます発展し,近い将来にはいくつかの癌のスクリーニングにはαFと同様の簡単な免疫学的検査法が利用されると思う.

 α-Fの測定法のうら主要なものを表1に示す.また各法の最小感度と肝癌における陽性率を表2に示す.

人工透析と臨床検査

杉野 信博

pp.1079-1082

 人工透析は腹膜・血液透析を両輪として急性および慢性腎不全の治療に普及してきた.前者の特徴は透析が緩徐であり,患者の血行動態に対する負荷も少なく,透析による不平衡症状(急激な血中尿素の低下による脳血液関門を境とする浸透圧不平衡に基づく中枢神経症状)を起こさず,また操作も簡単で安価である利点がある.しかし欠点としては腹部手術直後,腹膜癒着,重篤な肺疾患を合併している患者などでは不可能であり,また透析の効率が低いため重症患者で十分なコントロールを行なうことがむずかしい点,長期透析に不向きである点などがある.また後者の特徴は透析効率がよく,長期透析に適しているが,患者の血行動態への負担が大きく,重症患者では血圧不安定のために危険な場合がある。しかし何よりも高価な治療であり,腎不全患者のすべてを血液透析の対象とするには問題がある.

 図1は腹膜,血液透析の効率を尿素,クレアチニンの除去率より比較したものである.

酵素抗体法によるホルモンの細胞内局在

亀谷 徹 , 小林 孝好

pp.1083-1087

 抗原抗体反応を用いて組織内の抗原または抗体を証明する方法として,Coonsにより創始された螢光抗体法1)は長年にわたり非常に広い範囲で用いられてきたが,

(1)螢光顕微鏡装置が必要なこと.

総説

臨床検査の今後の使命と新しい診断学の開発

樫田 良精

pp.1088-1092

新しい診断学開発の必要性

 今日の医療に客観的な医療情報を提供するという意味で,臨床検査は確固たる基盤を築き,その発達の速さと普及の度には目覚しいものがあるが,一方その陰にはいくつかの反省すべき点が少なくない.

 診断における臨床検査の意義についてまず反省してみたいと思うが,このためには一度その原点に立ち帰って考え直す必要がある.

学会印象記

第22回電気泳動学会春季大会—基礎的研究から臨床的応用まで

山岸 安子

pp.1093

 さわやかな木だちに囲まれた新宿御苑を背にして,静かなたたずまいの野口英世記念会館で,5月20日,第22回電気泳動学会春季大会が行なわれた.今回は麻布獣医科大学,田中享一大会長のもとで,朝から多数の参加者があり盛会であった.

 演題は午前中14題,午後から19題,合計33題にわたり,電気泳動法を中心に基礎的研究から免疫化学および臨床的視野から熱心な討議が行なわれた.

臨床検査の問題点・44

梅毒血清反応をめぐって

福岡 良男 , 堀越 晃

pp.1094-1099

TP反応の出現により,信頼性の高まった梅毒血清反応も,各反応の組み合わせかたや技師の力量によっては,データに(+),(—)の不一致をもたらす。そこで,反応の組み合わせかた,コントロール血清の選択などのほかに,臨床へのデータの返しかたも検討し,日常業務のヒントとしたい.(カットはTPHA法の凝集像.上から陽性,判定保留,陰性)

ME機器の安全対策・10

酸素テント,高圧酸素室を使用するとき

市河 鴻一

pp.1100-1104

 近年,病院における酸素の使用は驚異的に増大し,単に病室での酸素吸入にかぎらず,手術室,回復室,ICU,CCU,新生児室などにいたるまで不可欠のものとなってきた。これは近代医学において,呼吸と循環の生理から人間の生命維持には酸素が絶対必須のものであり,その死亡に直接つながる呼吸停止の原因の大半は,酸素不足によるとまで極言されることから由来するものといえよう.したがって,酸素を使う診療機器も昨今急激にふえ,酸素吸入器はもちろん,吸入療法機器(IPPB),呼吸機能検査機器,酸素テント,麻酔器,人工呼吸器,蘇生器,保育器,高圧酸素室など院内で身近に目にふれる機器も多くなってきた.これに伴いそれらによる事故も頻発することとなってきた.

公害物質の検査法・3

PCB(ポリ塩化ビフェニル)

水谷 民雄

pp.1105-1110

 PCB(Polychlorinated Biphenyls)はビフェニルの多塩素置換体であり,塩素原子の置換数および置換位置の違いに基づく多くの異性体,同族体の混合物である.

 世界的には1930年代から生産が開始されたといわれるが,日本においては1954年に生産が始まり,ここ十数年来生産額が急激に上昇し,工業的に多方面な用途に供せられてきた.

カメラの保守

三橋 昭仁

pp.1111

 最近のカメラは,使用上すべての面において便利になり,たいへん使いやすくなり,故障についても以前と比べ少なくなってきている.

 機種なども豊富に市販され,"バカチョン"カメラから,高級カメラまで自由に選択できる昨今である。しかし,どの機種のカメラでも,使用するときの扱い方,あるいは使用しないときの保存方法,手入れの良し悪しでカメラの寿命に大きく影響するばかりか,それらによっては常時カメラコンディションを最高に保つことは不可能であろう.

論壇

病理解剖の当面する諸問題

内海 邦輔

pp.1112-1113

文化生活と病理解剖

 従来病理解剖は,日常診療における臨床診断の適否および治療の当否をチェックすることにより,臨床医師の診療能力向上に貢献することをもって,その主たる役めとしてきた.そのことは今も変わらないし,むしろ以前よりもいっそう重要性を増している.しかし,最近病理解剖には,以前とは別の重要な意義が加わってきた。最近のわが国における重化学工業の発達は,経済成長と平行して,空気,水,食物,衣料などの生活環境の汚染をもたらし,われわれの文化生活を危機に陥れている.

 水俣病やPCB中毒などは,その氷山の一角である.このような公害病の実体を探り,防止策を講じる際には,病理解剖により,環境汚染物質の体内沈着や,それに起因する2次,3次障害の実体を明らかにすることが必要である.このようにして病理解剖の重要性は,従来の病院という舞台から,茶の間にまではいり込んできたのである.

座談会

小規模検査室のあり方—特に化学検査の限界について

笠倉 貞男 , 関根 和子 , 春日 豊和 , 石井 暢

pp.1114-1121

 小さな病院の小さな検査室—検査数は少ないながら,尿検査から肝機能検査そして電解質検査まで1,2人でやる検査室—は数のうえで大半といわれている.ここでは,その検査業務の特殊性を知り実情を追って,小規模検査室(特に化学)のありかたを話し合う.

検査室の常用機器・4

遠心機,振盪器

北村 清吉

pp.1122-1126

 物質の分離,混合を行なう物理的方法として,電動機を回転源とする方法が多く用いられている.

 電動機の回転軸に回転体(ロータ)をつけた遠心機は,日常の検査において血清分離や血球洗浄,尿中の有形物沈渣などに常用されている.これらの構造や取り扱い方,原理については文献などを参照していただきたい,また,試薬の混合などには電動機の回転軸からギヤー,摩擦式回転伝達板,回転軸と回転台とのエキセントリック結合による方法などにより,撹拌や振盪を実現するという方式が多い.

海外だより

—欧米(北欧,東欧,西欧,米国およびカナダ)の病院検査室(10)—パドヴァ(イタリア)の市立病院中央分析検査部

佐々木 禎一

pp.1127-1130

 1967年夏ヴェニス,ローマを訪れたことがあるが,それから久しぶりでイタリアに足を延ばして前回同様のコースを踏襲して,ローマではPoliclinico A. Gemelli,UniversitáCattolicadel Sacro Cuoreの中央検査部を見学した.

 しかしイタリアでは,型にはまった見学であったこの検査部の印象よりも,当初予定してなかったのにチャンスがあって訪問したパドヴァ(Padova)市の市立病院の中央分析検査部,ラボラトリオ チェントラーレ ディ アナリシ,オスペダーレ チヴィリ ディパドヴァ(LaboratorioCentrale di Analisi,Ospedale Civili di Padova);Central Laboratory for Analysis,CivilHospital of Padova)の模様のほうを紹介しよう.

研究

咽頭粘液からの溶血レンサ球菌の検査法の検討

三井 いく子 , 輿 政子 , 小栗 豊子

pp.1131-1133

 私たちは本院中央臨床検査室に提出された咽頭粘液について,溶血レンサ球菌の分離方法を検討した.また日常検査としてバシトラシンテストによるA群溶血レンサ球菌のスクリーニング検査が行なわれているので,このバシトラシンテストの信頼性について血清学的方法と比較検討した.

日常脳波検査にみられる棘波群の出方

野田 治代 , 石山 陽事 , 江部 充

pp.1134-1137

はじめに

 日常の脳波検査を行なうにあたって,20分を必要所要記録時間とすることが望ましい旨国際脳波学会にJasper1)が提案している.しかしその根拠は明らかにされていない.奥村2)は突発性異常波について,本来それが出現する症例では10分の記録でほとんどが出つくすと報告している.記録時間については必ずしも一致した見解がなく,経験によってそれぞれの検査室で,また検査技師の判断で検査が行なわれている場合が多い.

 記録時間を決めるうえで最も問題となるのは突発性異常波の出現とその出方である.したがってわれわれはその異常波の中で特に棘波群について,(1)記録開始後最初に出現するまでの時間,(2)一定時間内での出現個数,(3)出現間隔の3項目について検討したので報告する.

交差耳朶不関電極法に関する研究

村山 利安 , 吉井 信夫

pp.1138-1140

はじめに

 われわれは数年来不関電極について研究を行ない,平均不関電極,頭部外平衡不関電極その他について発表をしてきたが1-6),ここでは一般に広く用いられている耳朶不関電極を用いたときの脳波の振幅および異常波の変化について,検討したのでここに報告する.

梅毒血清反応に及ぼす逆性石けんの影響

村田 以和夫 , 堀 幹郎 , 宮沢 貞雄 , 小野田 洋一

pp.1141-1143

 梅毒血清反応における生物学的偽陽性反応(BFP)の中には,共通の抗原に対する抗体による免疫学的活性の結果として起こるBFPのほかに,逆性石けんなどの物理化学的性質によって誘発されるBFPが存在することを,著者らは次に述べる実験成績から明らかにした.

(1)個体別血清において,カルジオライピンを抗原とするSTS陰性血清と不一致血清は,逆性石けんの終末濃度が最高1:12800まで偽陽性反応を示し,陽性血清は逆性石けんの混入濃度が1:12800より高い場合には,対照の成績と一致しないことがガラス板法で判明した.

(2)逆性石けんの混在により,緒方法は一様に異常反応を呈するが,遠心沈殿を行なって沈渣血球の有無により完全溶血と不溶血とを判定すると,陽性血清では逆性石けん終未濃度で1:38,400まで完全溶血を起こし,陰性および不一致血清では終末濃度1:153600より希薄なところに血球が残ることがわかった.

(3)プール血清については,ガラス板法とRPRカードテストで陰性血清はそれぞれ1:14400,1:28800の逆性石けん終末濃度まで偽陽性反応が出現した.陽性血清ではガラス板法の2系列(1:3600,1:7200),RPRカードテストの1系列が対照より1段階から2段階程度高く判定された.

新しいキットの紹介

Dade社凝固因子測定試薬(第II,V,VII,VIII,IX,X)および欠乏凝固因子同定試薬の使用経験

木村 寿之 , 川村 秀子 , 黒川 一郎 , 矢口 慧 , 福原 啓之 , 佐々木 鉄人 , 深瀬 定子 , 後藤 光雄

pp.1144-1148

緒言

 凝固因子の個々を独立して測定し安定した値を得ることは,フィブリノゲン,Caイオンなどを除きまだかなり繁雑である.基準となるべき方法が一定しないことと標準物質がないことが何よりの原因であるが,測定に必要な試薬を患者から求めなければならなかったり,手製しなければならないことがいっそう測定値の不統一をまねいていると思われる.測定試薬,標準物質の一定のものが得られ,管理を一様の規準のもとにおいて検討を行なえば,測定値の正確度,精度はかなり向上するといえよう.

 著者らはたまたまDade凝固因子測定試薬の検討を行なう機会に恵まれた.この原理は測定すべき凝固因子のみが高度に欠乏している血漿と,一定度に希釈した被検検体を混じて反応させ,その凝固時間から当該凝固因子の活性値を測定することにあり,このようなくふうは試薬の力価が一定していることから,測定精度の向上に果たす役割は大きいといえる.今回検討した試薬の種類,量に限りがあり,また手技のつたなさもあって十分とはいえないが,現在まで得られた成績をまとめて報告する.

血清遊離脂肪酸測定試薬(NEFA・栄研)の検討

前畑 英介 , 水口 清美 , 中 甫

pp.1149-1152

 今日,最も繁用されている血清遊離脂肪酸(以下,NEFAという)の測定法にはCu錯体を用いたDuncombe1,2),Itayaら3,4)およびLaurellら5)の方法などがあり,またCo錯体を用いたNovák6)およびElphick7)法などがある.

 NEFA測定を原理的に大別11)すると,血清からクロロホルムなどの有機溶媒でNEFAを抽出し,抽出されたNEFAを選択的にアルカリ水溶性の錯金属と配位結合させて,この配位された金属をキレート呈色剤で発色させて比色定量する.

私のくふう

ヒダ濾紙折器

内田 侊子

pp.1148

 日常検査において,ヒダ付濾紙はかなり使用されている.その作成には,迅速性が毎日要求されているが,多くの検査員が,1日数十分というたいせつな時間を使っているのが現状である.私たちは,これを解決するために,工作室と協力し,アイディァは検査室,制作を工作室という形で,ヒダ濾紙折器を作った.

ひろば

10年めのたわごと

村田 徳治郎

pp.1152

 6月16日の朝日新聞の社会欄に,およそ次のような記事があった。‘うつ病急増 うつ病はその人の素質という定説が今日では疑問となり,むしろ社会的誘因つまり失職転勤,仕事の失敗などによって起こるのではないか’という意味のことであった.

 うつ病にも当然軽重はあるだろうが,第三者が納得できないような理由で離職してゆく人,これといった心当たりもないのにふさぎ込んでいる仲間,日常われわれの検査室でめずらしくないことであろう.そのようなとき,今少し心理を分析できる知識があったら,自分自身反省とも悔いともつかないものがある.

霞が関だより・6

検査技師のなかま(1)

K.I.

pp.1153

 衛生検査技師法が制定されたのは,1958年4月のことであり,施行されたのは同年7月からであった.その後一部改正というかたちで,現在の臨床検査技師・衛生検査技師等に関する法律となったのが,1970年のことであり,これが施行されたのが翌1971年1月からであった.この間,名簿の備え付先や,免許証の交付も都道府県から厚生省へ移った.

 さて,この身分制度ができた1958年から今日まで,どのくらいの人々が衛生検査技師なり,臨床検査技師なりの資格を取得したであろうか.

質疑応答

水虫の鑑別

K生 , 香川 三郎

pp.1154

 問 水虫かその他の湿疹かの鑑別,また顔面表皮の真菌の有無を調べるのに,表皮を40%KOHとパーカーインクの同量混液で加温染色を行なっていますが,はっきりした菌の形態がつかめません.菌の形態を教えてください.

検査技師のための解剖図譜・10

三島 好雄

pp.1156-1157

 脳は機能的に大脳半球(cerebral hemisphere),脳幹(brain stem),および小脳(cerebellum)の3つに分けることができる.脳幹には間脳,中脳,橋,延髄などが含まれている.頭蓋腔は大脳天幕により上下2腔に分けられるが,天幕上には大脳半球,間脳が,天幕下には中脳,橋,延髄および小脳がある.

検査機器のメカニズム・10

自動生化学分析装置

瓜谷 富三

pp.1158-1159

1.自動生化学分析装置

 この装置は臨床検査自動化の花形で,本誌でもたびたび紹介されているので,前書きを要しないであろう.この種の装置は分析操作の違いから,フローシステムとバッチシステムに分かれる.前者はチューブに順次試料,希釈液,試薬を混合して流し,透析,加熱などの操作を加えて発色させ,比色計で分析結果を出す.一方バッチシステムは,用手法と同じく試験管の中で反応させる方式で,その過程を自動化したものである.フローシステムはテクニコン社の特許で有名な,すぐれた方式である.一方バッチシステムも,用手法との相関,融通性などの点で特徴をもっている.

 ここではフローシステムを中心にそのメカニズムを述べる.

検査室の用語事典・10

血液学的検査

寺田 秀夫

pp.1160-1161

59)6-Mercaptopurine(6-MP);6メルカプトプリン

 急性骨髄性白血病に対して最も有効な薬剤の1つで,プリン拮抗剤に属し細胞内でチオイノシン酸(thioinosinic acid)に合成されて,核酸合成阻害効果を示す.普通経口的に1日50-150mgを単独またはステロイドホルモンと併用して用いる.また多剤併用療法の1つの薬剤としても用いられる.副作用は骨髄抑制,胃腸障害,肝障害,ときに口内炎などである.また近年は免疫抑制剤として,自己免疫疾患などにも用いられる.

Senior Course 生化学

尿中ステロイド

坂岸 良克

pp.1163

 ステロイドホルモンは血中にごくわずかしかないし,そのうえ化学的にはそれほど反応性の高い物質でもないため,その代謝産物を尿から抽出し,カラム法などで分別しているが,現在までのところ,臨床検査室が扱っているのは17-KS(17-OS)および17-OHCS,時に17KGS程度であろう.

 ここでは若干手間はかかるが,尿中ステロイドを一挙に検出定量できるガス・液体クロマトグラフィー(GLC)法の結果について記してみる.

Senior Course 血液

血小板抗体(3)—血小板抗グロブリン消費試験

安永 幸二郎

pp.1164

 本法の原理は,抗グロブリン血清の力価を抗D抗体感作赤血球であらかじめ測定しておき,自己抗体があると推測される試料を抗グロブリン血清に加えて反応させ,その抗グロブリン血清力価の低下度から,検体における抗体の有無を推定するものである.本法の判定は赤血球の凝集によって行なわれるから,血小板のごとく非特異的凝集反応をきたしやすいものでは便利である.直接法と間接法があり,直接法は患者の血小板(8回洗浄,2×109の血小板を要する)を用いるもので,自己抗体の判定に信頼度が高いが,大量の採血(100-200ml)を要するので臨床検査としては適当といえず,一般には正常(O型)血小板を患者血清で感作して用いる間接法が行なわれる.

Senior Course 血清

補体価の測定法

稲井 真弥

pp.1165

 血清中の補体活性の強さは感作赤血球を材料として溶血反応を用いて測定される.

Senior Course 細菌

catabolite repression—TSI培地での糖分解過程の一考察

橋本 雅一

pp.1166

 TSI培地には,ブドウ糖に対し乳糖としょ糖がそれぞれ1:10の割に含まれていることは周知のことであるが,この培地にたとえば大腸菌を接種したとき,大腸菌はまずブドウ糖を分解し,つづいてしょ糖と乳糖を分解するのであって,この3つの糖の分解は同時に発現するのではないというのが,この培地で糖分解のパターンを読みとることができる機序の1つと言われている.では,なぜ乳糖とかしょ糖に先立ってブドウ糖の分解が起こるのだろうか.このことについて若干私見を交えながら考えてみたい.

 基本的には,細菌もまた経済学的な行動を示すということである.ブドウ糖はいわゆる解糖過程(glycolysisまたはEMP回路)を介して,ピルビン酸にまで分解されてゆく(図1).この過程はどの糖が分解されるときでも同一であると考えてよいが,TSI培地での糖分解の順序のカギをになっているのがこのブドウ糖-6-リン酸なのである.

Senior Course 病理

病理組織標本(2)—包埋から薄切まで

松岡 規男

pp.1167

 脱灰:骨質の少ない骨腫瘍,血液疾愚の骨髄,腫瘍の骨髄転移巣などの脱灰には,トリクロール醋酸を,骨質の多いものでは電気脱灰法を,用いると染色性の障害が少ない.

 包埋:現在化学自動分析機械が注目をあびているが,自動化の中では組織の自動包埋装置が早くから完成し,また実用に非常に役だっている.手作業で行なえば5-7日を要する作業が16-18時間で処理されるものであり,検体の多い,少ないとは関係なく,日常の外科材料病理組織検査に自動包埋装置を取り入れ,検体処理を迅速に行なうべきである.

Senior Course 生理

計測用体表電極(7)—生体電気現象のDC記録と電極

深井 俊博

pp.1168

はじめに

 今回は今までに述べられた心電や脳波などにくらべてずっと緩慢な生体電気現象,たとえば皮膚電気反射(GSR),直流ニスタモグラフ(DC-ENG)における電極の諸問題について概説する.GSRは精神電流現象で,汗腺の興奮にもとづく活動電位をみるものである.測定法としては通電法と電位法の2種類がある.

 通電法では2つの電極を手掌と他の身体部位につけて数10μAの電流を流しておいて,暗算をさせたり,連想をさせたり,外から刺激を与えたり,本人自ら興奮したりすると電流値の増加が生じる.これは見かけ上抵抗が変化したことになるので皮膚抵抗反射(Skin Resistance Reflex;SRR)ともいわれる.

Senior Course 業務指導のポイント

臨床検査の文献の調べかた(1)

福岡 良男

pp.1169

 文献も情報もほぼ同意語であるので,文献の調べ方は情報を検索する方法といってもよい.

 日本でも外国でも一定のルールに従って文献が分類整理されており,文献を抄録した書籍,目次を収録した書籍,その索引などが作られていて,図書館に所蔵されている.また,図書館でも独自に文献カードを一定のルールに従って分類整理して所蔵している.最近は文献をコンピュータに記憶させ,求めに応じてプリントしてくれるところもある.このように文献は整理されているのでわれわれは文献の調べ方さえ知れば,自分の読みたい文献を容易に捜し出すことができる.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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