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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査16巻12号

1972年11月発行

雑誌目次

カラーグラフ

カルチノイド腫瘍の銀親和性反応

曾我 淳 , 畑野 高四

pp.1378-1379

 典型的なカルチノイド腫瘍は,セロトニンを産生しいわゆるカルチノイド症候群を伴い,組織学的にも特異な形態を示すと同時に,銀反応(銀還元性反応:argentaffin reaction)に陽性を示す機能性腫瘍であるとされてきた.しかし,最近の研究によると銀還元性反応が陰性であっても,銀親和性反応(argyrophil reaction)が陽性であるカルチノイド腫瘍が、特に上部腸管や気管支原発のものにしばしば存在するため,この種の腫瘍の診断に際しては銀還元性と銀親和性の両反応を必ず試みることが必要であり,従来のように前者のみでは不十分なのである.

 また両者ともに陰性のカルチノイド腫瘍も予想外に多く,私どもの調査では本邦症例62例のうち約1/2が無反応性,1/4が銀還元性,1/4が銀親和性細胞からなるものであった.

技術解説

日常診療に必要な血小板の検査

竹中 道子 , 河合 忠

pp.1381-1392

 止血は血小板,毛細血管,凝固因子の3つの協調作用で行なおれることはよく知られている.血小板は特に最初の止血血栓を作る重要な機能をもっている.血小板に関係した異常は2つに大別される.すなわち1つは血小板数の異常であり,もう1つは血小板機能の異常である.近年血小板の研究がすすむにつれて,従来からいわれていた原発性血小板機能異常のほかに,軽度ないし中等度の出血傾向を示すいろいろな疾患の中に,血小板機能の異常を伴っているものが発見されている.

 原発性血小板機能異常症には血小板無力症(Thrombasthenia, Thrombocytoasthenia),血小板障害症(血小板病,Thrombocytopa-thy)とこれらに血友病を合併した病型が知られている.続発性血小板機能異常症は,尿毒症,肝硬変症,白血病を主とする骨髄増殖性疾患,SLE, Wiskott-Aldrich症候群,血小板減少性紫斑病,多発性骨髄腫,マクログロブリン血症などの疾患に合併してみられる.

色素希釈法

赤塚 宣治

pp.1393-1400

 近年循環器疾患のみに限らず,循環動態の変化を適確に把握し,病的状態の改善に,その情報を応用していこうとする努力がなされている.循環動態の把握には,一般に,心電図,各種動静脈圧,ガス分析,循環,心拍出量,各種循環量(循環血液量,循環血漿量など)などの記録,測定が行なわれる.ここで概説する色素希釈法は,このうちの主として心孤出重測足を目的とするものである.色素希釈法は,広く指示薬希釈法と呼ばれるものの一部であり,色素を指示薬にしたものを意味している.色素以外の指示薬としては,アイソトープ,熱,アスコルビン酸などが用いられる.

血友病の検査—その進め方と意義

伊藤 正一

pp.1401-1407

 血友病は古くから知られている先天性血液凝固異常症で,伴性劣性遺伝にて原則として男子にのみ見られ,関節・筋肉など深部出血を特徴とする出血性疾患である.これには血液凝固第Ⅷ因子の欠乏である血友病Aと,第ⅠⅩ因子の欠乏である血友病Bの2つがあり,これら因子の欠乏により凝固第I相の異常,すなわち内因性トロンボプラスチン形成の不良をきたす.

 先天性凝固異常症としては,この他第ⅩⅡ,ⅩⅠ,Ⅹ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅱ,ⅩⅢ,フィブリノゲンの各因子欠乏症と,第Ⅷ因子の低下に出血時間延長を伴うv-Willebrand病とがあり,これらを総称して血友病類似疾患という.

ひろば

囲碁を習う

海藤 秀敏

pp.1400

 暇にまかせて約2か月くらい前から碁を習い始めた.習うといっても本格的に入門しての学びではなく,職場の碁の先輩に胸をかり,盤上にいくつかの石を最初に配置してから打ち始める.勝敗は常に10戦10敗である.

 碁盤上361の場所で自分の領分(碁の用語で地という)はほんの少ししか取れない.むずかしいものである。他の勝負事(将棋,麻雀など)に比べてみて,私には最もわかりにくい.考えてみるに,囲碁も私の仕事である検査も机上での,頭の内だけの知識だけではどうにもならない.やはり盤上での実戦が,実験室での試験管を使っての実験が,本当に自分の血となり肉となる.またそのようにして覚えたことは,なかなか忘れるものではない.それと,また,何をおいても最もたいせつなのは碁の定石であり,検査の基本であろう.

総説

実験動物(家畜)の血液型

細田 達雄

pp.1408-1413

 実験動物は医学の研究に欠くことのできないものである.したがって,目的の研究に十分な成果が得られるか否かは用いられる実験動物の種類と個体によって大きく支配される.そのためラットなどは純系にしたものが実験に供用されている.しかし,同じ系統のものでも個体により血液型が著しく違っているから,それを無視して実験が行なわれた場合,研究目的によってはまったく予期に反する成果しか得られない場合も起こりうる.したがって,実験動物が現在どんな血液型に分類されているかを知っておく必要がある1).血液型は赤血球の分類と血清の多型の2つに大きくわけられる.

臨床検査の問題点・45

骨髄像の読み方

古田 格 , 亀井 喜恵子

pp.1414-1421

骨髄における血球の分化と成熟は,時の流れと同じく,動的に変化しており,この流れを知ることは病気の解明にもつながる.

ここでは,骨髄を組織レベルで観察し,これを構成する細胞群とそれらの細胞の分化・成熟の原則にふれ,いくつかの血液疾患についても言及する.(カットは,正常の骨髄生検像)

ME機器の安全対策・11

デフィブリレータ,心臓ペースメーカー,人工心肺,人工腎臓の安全対策

伊藤 弘多加

pp.1422-1426

 ME機器の安全対策において今までに取り扱ったのは,高圧酸素タンクや酸素テントのような治療器を除き,一般的事項ならびに診断装置関係が主であった.ここでは近時急速な進歩と普及を示し,生体の機能に直接深い関連をもつME治療装置としてのデフィブリレータ,心臓ペースメーカー,人工心肺,人工腎臓について安全対策上からの検討を試みたい.

 これらの装置はいずれも短期間,あるいは長期間にわたる生体の機能回復や機能代行を目的としているので,装置の設計,製造,保守などにおいても,また臨床上の適応の決定やその使用についても高度の信頼性と安全性が考慮される必要がきわめて大きい.これら装置は,生体に接触する部分に生体反応の少ない金属や高分子材料が用いられ,機構部分や電子回路に非常に高い信頼性が要求されるとともに,人間工学的な立場より誤操作をなくし,かつ誤動作を未然に防ぐ処置など多方面からの検討が加えられている.特に心臓ペースメーカーにおいては,安定した状態が2年以上,さらに今後は10年以上も持続されなければならなくなってきている.

私のくふう

オートアナライザー用サンプル中のフィブリン塊除去法

内田 敬嗣

pp.1426

 オートアナライザーを操作している人なら,一度は経験したことがあるであろうサンプル中のフィブリン塊(カタマリとなっていれば肉眼的にも確認できるが,透明なゼリー状になっている場合が多いから始末が悪い)によるチューブのつまりを除去する目的でマッチの軸(または,つまようじ)を利用して効果を上げているので,ご披露したい.

 すなわち,図のように,サンプルカップに採取したサンプルの中を,マッチの軸で1-2度,静かにかき回してやると,フィブリン塊は軸に付着してくるからこれを除去できる.本くふうのミソは,乾燥したマッチの軸を用いることである.濡れているとフィブリン塊がくっついてこない.

尿などの迅速採取ピペット

中嶋 精一

pp.1432

 尿量採取が多い場合などは,駒込ピペットでは取りにくく,またしばらくするとどうしても先端に,採取液がたまり,不便なのはよくごぞんじだと思われる.これを少しでも解決し,早く,多量に処理できるように考案してみた.

 どこの検査室にも,テーハー式分注器の使用していないのがあると思われる.それを用いてみた.

公害物質の検査法・4

かび毒(マイコトキシン)—アフラトキシンB1の検査法

倉田 浩

pp.1427-1432

 ある種の青かび,こうじかびなどが産生する第2次代謝生産物中に強い発癌性をもつ物質が存在することが動物実験で証明されたのは,ここ10年来のことである.このような発癌性かび毒を産生するかびが,わが国民の主食であるコメやムギなどのいわゆるデンプン性食品を基質にしてその発育のみでなく,かび毒の産生性もきおめて良好であることが種々の実験で証明されている.この中でかび汚染ピーナッツ粕による七面鳥の中毒事件に原因したかびAspergillus flavusの産生する毒素アフラトキシン(以下AFと略す)は,最も強力な発癌性を有するものとして注目されている.

 AFB1ではラットの慢性毒性実験によると,飼料中15ppbの極微量で,雄ラットでは68週,雌ラットでは82週間で100%肝癌を誘発している.投与量とラットの1日の喫食量で換算すると毎日約0.2μg与えたことになる.このような極微量で発癌性を示す物質はこれまでに知られていない.

学会印象記

第8回国際臨床化学会議—精度管理,標準血清などに活発な討議/第11回日本ME学会大会—ME医療をリードする電算機

佐々木 禎一 , 桜井 靖久

pp.1433,1448-1449

 6月18日から23日まで第8回国際臨床化学会議(8th International Congress on Clinical Chemistry;ICCC)がデンマークのコペンハーゲンで開催された.

 総会長は例のガス分析機で有名なProf.Poul Astrup(コペンハーゲン大学付属病院Rigshospltalet臨床生化学検査部)で,デンマーク臨床化学会(The DanishSociety for Clinical Chemistry)により運営された.

論壇

自動化に即応する教育はいかにあるべきか

菅沼 源二

pp.1434-1435

 医療の技術革新の波は情報科学の進歩とともに病院の自動化,EDPS化へと進展してきた.臨床検査自身生体情報の収集が目的であってみれば,自動化,EDPS化の先端においてその波を受けざるをえないところであろう.

 医療の第1次技術革新(抗生剤,手術の安全性など)がもたらした疾病構造の変化と高齢者の増加など人口構成の変化は,国民の健康に関する意識の高揚とともに,成人病を中心とする予防医学の発達をもたらした,そしてこのことは短時間に多人数の健康チェックや健康管理という,検査を中心とした医療の形態を生み出したが,ここにおける集団検診(Multiphasic mass Exam.)は当然自動化とEDPS化の方向をたどらなければならなかった.

座談会

精度管理・1—わが国の歩みと現状

佐藤 乙一 , 藤沢 正輝 , 林 康之 , 斎藤 正行

pp.1436-1443

10年前,‘デタラメな臨床検査'と評されたわが国の精度管理も,その後のサーベイをみるとかなり向上しつつある.しかし,検査室内の精度・正確度はともかくinter-hospital (病院間)の検査成績はまだまだである.まず成績向上のためには……

検査室の常用機器・5

超純水製造装置

原口 忠征

pp.1444-1447

 科学と産業に使用される水は,たいがい水中に存在する汚染物を除去または減少するために処理されねばならない.多くの場合,1つあるいは2つの汚染物を除去したり減少したりすることのみが要求されるが,最近発展している精密を要求する応用面においては,すべての汚染物を除去せねばならない.

 たとえば,きわめて高純度の水は試薬を製造するためには不可欠であり,同様な高純度の水は多くの実験室でも必要である.概してこの純水という考え方において,過去10-20年間に種々の要素が変わってきた.すなわち水の中に含まれる汚染物の許容範囲はppmからppbの限度として定義されつつある.今日,高純度の水は電子工業界などの精密工業・製医薬工業においては1日あたり300-400トンもの多量の使用が要求せられ,研究所などにおける分析検査に要する水として,もちろん欠かすことのできないものである.

海外だより

—欧米(北欧,東欧,西欧,米国およびカナダ)の病院検査室(11)—米国で訪ねた病院の検査室の印象

佐々木 禎一

pp.1450-1454

 だれしも興味をもっている外国の病院検査室の現状をテーマに,従来私は主に欧州や東南アジアのいくつかの例を紹介してきた1,2)

 今回の旅行で欧州を回ったのち米国に渡ったが,そのおりに訪問した2,3の病院の検査室を紹介してみよう.

研究

てんかん波検出のための過呼吸負荷時間延長のくふう

小原 甲子 , 藤森 まり子 , 菊地 美喜子 , 加藤 宣子 , 飯島 真 , 土屋 俊夫

pp.1455-1457

はじめに

 てんかんの診断に果たす脳波の有用性はいうまでもない.てんかん波を検出するために種々の賦活法がある.われわれは過呼吸負荷時間の延長を試みて,2,3の結果を得たので報告する.

組織材料の取り扱い方の違いによる形態学的差について

村井 哲夫 , 宮木 考治

pp.1458-1460

はじめに

 臨床診断の目的で肝臓,腎臓などの充実性臓器の生検がしばしば実施されており,その形態といわゆる臨床検査所見との関係もしだいに明らかになってきた.しかしさらに検討すべき点も多い.たとえば疾病の経過を調べるために同一症例の針生検材料,手術材料,剖検材料の形態学的な比較を行なうと,しばしば大きな差が見られる.疾病の経過による形態学的な変化が1つの原因であるが,さらに組織材料採取法の違い,およびその後の材料取り扱い方の違いによるでき上がった組織標本の形態学的な差が大きな原因である.それゆえ形態学的な変化を経時的にとらえ,機能検査所見との比較などに際しては,このことを十分に考慮し実施されねばならない.

 著者はこの組織材料採取法およびその後の取り扱い方の違いによる,でき上がった標本上の形態学的な変化を調べる目的で,家兎を利用し,実験的に材料採取法,標本固定法の違いによる差の比較,ならびに死後経時的に臓器変化を調べた結果を検討した.またこれらの材料について著者が従来行なってきたIntegrating eye piece Iにより組織計測を行なうことにより,標本上の形態学的な差を推計学的に検討した.

新しい機器の紹介

リューコサイトメーターによる白血球算定の使用経験について

北島 幸一 , 足立 恵美子 , 菅野 与作 , 高原 喜八郎

pp.1461-1463

はじめに

 白血球数の算定検査は年々どこの病院でも日常件数の増加に伴って,耳朶採血から静脈採血による検査の方向へと移行してきている.それと平行して抗凝固剤,使用器具,検査法などもまた複雑化しており,近年は各種の自動血球計数装置が目算法にとって替わりつつあるが,いずれも100万円前後の高価品であるのが普及を妨げている.従来から白血球算定は計算板法によつて最も多く行なわれてきたが,この方法は算定が算定者自身の目によるというところから,白血球を他のものから区別するという点ですぐれており,他のどんな精密な機器でもこの点には及ばない長所をもっている.

 しかしこれにも,種々の要因で測定誤差を生じてくることはよく知られているところであった.最近われわれは米国Biolar社のリューコサイトメーター(Leucocytometer,以下LMと略す)というセミ自動化白血球専用測定器を使用する機会を得たので,ここにその使用経験を報告する.

新しいキットの紹介

一次元免疫拡散法によるCRP試験の検討

青木 紀生 , 出田 修 , 成瀬 順

pp.1464-1467

はじめに

 C-反応性タンパク(C-Reactive Protein,CRP)は正常ヒト血清中にはみられない病的タンパクで,1930年Tilletらにより発見された1).発見当初は患者血清が肺炎双球菌のC-多糖体(C-莢膜物質)と沈降反応を示したことから,C-多糖体に対する特異抗体と考えられ,CRPと呼ばれるようになった.しかし,その後CRPは一般に炎症性病変や組織壊死性病巣が存在する場合に,急性相反応物質として高頻度に血中に出現する非特異的な病的タンパクであることが,MacLeadらにより発見された2)

 CRPは生体内に病変が起こってから12-24時間のうちに血中に出現し,活動期を過ぎれば比較的すみやかに消失するため,CRPの検索は各種疾患の診断,経過観察および治癒判定を知るうえに役だち,その臨床的意義は大きく,今後ますます利用度は高まるものと思われる.現在のCRP検出法としては,抗CRP血清を用いて毛管内で沈降反応を行なうAndersonらの方法3)(以下毛管法と略)が一般的に普及しているが,今回われわれは一次元免疫拡散法によるCRP試験であるCRP-Plate‘北研'について2,3の基礎的検討を試みたので,その成績について報告する.

霞が関だより・7

検査技師のなかま(2)

K.I.

pp.1468

 前号では,検査技師のなかまのうちでも‘衛生検査技師'それも身分法制定以後現在まで,衛生検査技師という資格を有している人たちがどのくらいいるかの観点から,国家試験受験者数・合格者数というかたちで,実数を示しながらその推移を述べてみた.

 今回は,試験に合格し,免許を取得した人たちのうちでもどのくらいの人たちが病院や診療所において自分の技術を生かしているだろうかという観点から,前号で概略した医療施設調査に基づく‘就業者数’によってみてみることとした(検査技師が,病院や診療所以外の場所で‘技術を生かす’ところは、衛生検査所で業務を行なう場合や,学校や養成所で生徒に教える場合などがあるが,ここでは‘病院・診療所に勤めている人たち’に限ることとした).

検査技師のための解剖図譜・11

血管系(1)—構造

三島 好雄

pp.1470-1471

1.動脈(artery)

 動脈は心臓から組織や器官の毛細管に血液を輸送するパイプであり,心臓から遠ざかるにつれて管径は減少するが,分枝の数が増加するので分枝内腔の断面積の総和は次第に増大する.動脈は機能的に弾性線維組織により弾性を,平滑筋組織により収縮性をもって血圧変動に対処しており,この両者の割合は動脈の部位によって異なり,末梢にいくにつれて平滑筋組織の占める割合が増加している.弾性動脈,筋性動脈,細動脈の3者に分類されている.

検査機器のメカニズム・11

シンチスキャナとシンチレーションカメラ

瓜谷 富三

pp.1472-1473

1.アイソトープイメージ装置

 核医学検査法で使われる代表的な装置として,シンチスキャナとシンチレーションカメラのメカニズムを説明する.いずれも患者にラジオアイソトープを与え,特定の臓器で摂取される状況を,体外から計測し形態を記録する.シンチスキャナは分解能・測定範囲の点ですぐれているが,γ線検出器の走査は機械的な方法であるため測定時聞が長い(10-40分)のが欠点とされている.

 これに対してシンチレーションカメラは機械的走査部のない方式で,時間的なむだがなく,短寿命のRIを大量に使用でき,時々刻々の変化も精密にとらえることができるようになった.シンチレーションカメラはいくつか種類があるが,ここでは光電子増倍管を多数使うアンガー型について述べる.

検査室の用語事典・11

血液学的検査

寺田 秀夫

pp.1474-1475

72) Thrombocytopenic purpura;血小板減少性紫斑病

原因不明の特発性血小板滅少性紫斑病(ITP)と骨髄造血機能の低下に基づく骨髄巨核球の減少による続発性血小板減少性紫斑病に分類される.前者は自己免疫疾患とされ,骨髄巨核球は減少せず急性型は小児に,慢性型は思春期以後の女性に多く,ステロイド剤,代謝括抗剤,摘脾などが有効.後者は再生不良性貧血,白血病,抗癌剤の長期投与,放射線障害などの場合である.

Senior Course 生化学

細胞内外の電解質とpH

坂岸 良克

pp.1477

 体液の電解質は,

陽イオン濃度=Na+K+8 mEq/l

Senior Course 血液

血小板抗体(4)—セロトニン摂取試験とセロトニン放出試験

安永 幸二郎

pp.1478

 血液中のセロトニンの大部分は血小板に存在するが,これは血小板で合成されるのではなく,摂取されるのである.この摂取を抑制するものとして,レセルピン,イミプラミン,などの薬剤が知られているが,血小板抗体にもこの効果が認められ,血小板抗体の検出に利用することが行なわれる1,2)(セロトニン摂取試験).

 一方,血小板にトロンビンやコラーゲンを作用させると,ADP,セロトニン,血小板第3因子などの放出がみられるが,血小板抗体にもこの効果がみられ,かなり鋭敏であるところから,われわれはこれをセロトニン放出試験として報告した3)

Senior Course 血清

免疫付着反応(Immune adherence)

稲井 真弥

pp.1479

 Immune adherence (IA)は抗原抗体および補体の複合物が,何も処理していない霊長類の赤血球または他の動物の血小板に付着し,凝集と同じような現象を起こすことをいう.このような現象は1900年代のはじめごろから,種々の微生物すなわち細菌や原虫類で認められていたが,1953年R.A.NelsonによってIAと名づけられた.Nelsonは梅毒の病原体Treponema Pallidumが抗体と補体の存在下で赤血球に付着することを認め,Treponema pallidum immune adherence (TPIA)と名づけ,梅毒の血清学的な検査法として発表した.

Senior Course 細菌

Shigella sonneiのコリシン型別試験

橋本 雅一

pp.1480

 1932年Gratiaは,大腸菌のある菌株が同種のあるいは類縁のほかの菌種の菌株に殺菌的に作用する拡散性の物質を産生することに注目し,大腸菌を殺す作用をもつ物質という意味で,この成分をコリシン(colicin)と名づけた.このほかにも,Bacillus megaterium,Pseu-domonas aeruginosaとかYer-sinia pestisが産生し,主として同種のほかの菌株に殺菌的に作用する同様な成分も,メガシン(megacin),ピオシン(pyocin)およびペスチン(pestin)などと呼ばれ,このような成分が細菌の産生する殺菌性成分としてバクテリオシン(bacteriocin)と総称されている.バクテリオシンは,殺される細菌のなかで増殖しないという点で機能的にバクテリオファージとは違った成分であり,またこの成分に感受性を示す菌種の範囲がきわめて限定されているうえに,化学的にはタンパク質かポリペプチドである点で,抗生物質とも区別される.

 コリシンは大腸菌によって産生されるだけでなく,サルモネラとかソンネ赤痢菌によっても産生される.このような知見からAbbott & Shannon(1958)は,ソンネ赤痢菌のコリシン産生性を利用してこの菌種を細かく分類する方法を考案した.これがこの菌種のコリシン型別と呼ばれる方法で,最近ソンネ赤痢菌による赤痢が細菌性赤痢の主体となっている点で,その感染経路,感染源の追求などの免疫学的研究に広く利用されている.

Senior Course 病理

病理組織標本(3)—染色1

松岡 規男

pp.1481

 病理組織学的検索ではヘマトキシリン・エオジン染色が最もたいせつで,正しく染色されていれば,多くのものは診断がつけられるが,詳細な鑑別診断を要する場合には特殊染色もしばしば行なわれる.ワンギーソン染色,ワイゲルト弾性線維染色,エラスチカ・ワンギーソン染色,アザン染色,格子線維鍍銀法,脂肪染色,鉄染色,糖原染色,粘液染色,多糖類染色,線維素染色などは常に染色できる状態でなければならない染色法の最低限といえるものである.これらの染色はどのような病変組織に用いられるかを理解しておくことは必要である.

Senior Course 生理

心臓ペースメーカの刺激電極

豊島 健

pp.1482

 完全房室ブロックを中心とする刺激伝導障害の患者の心臓に,パルス的な電気刺激を行なって正常な心拍数を回復させてやせるのが心臓ペースメーカの役めである.この手法に必要な装置は,刺激パルスを発生する発振器(ペーサ)とこの出力を心筋まで導びく電極の2つである.発振器は電源として数個の水銀電池を内蔵したトランジスタ式のパルス発振器であり,体外に出して使う携帯型,体内に植え込んで使う植込み型,携帯型の特殊な変形である誘導型の3種がある.

Senior Course 業務指導のポイント

臨床検査の文献の調べかた(2)

福岡 良男

pp.1483

1.文献速報雑誌でさがす方法

 文献速報雑誌が雑誌社,あるいは製薬会社の学術部から発行されている.最も新しい文献をさがすのに便利である.

(1) Labo-Report (栄研化学):生化学検査の文献

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

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今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

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今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

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今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

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今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

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今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

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今月の特集2 標準採血法アップデート

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今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

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今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

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今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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