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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査17巻13号

1973年12月発行

雑誌目次

カラーグラフ

白血球の変動から見た病態生理・2—単球系およびリンパ球系

古沢 新平

pp.1556-1557

 前号の顆粒球系に引き続き,今回は単球系およびリンパ球系の異常を示した血液像を供覧する.いずれの白血球の変動にも,反応性と腫瘍性(白血病性)とがあり,両者の病態は本来明確に区別されるべきものであるが,形態の上だけから鑑別するのはときに困難で,他の検査所見の助けを必要とすることがある.しかし,形態学的変化だけからどの程度病態生理をうかがうことができるかを考えながら観察することは興味を増す.詳細は本文(技術解説1576ページ)を参照されたい.

技術解説

プール血清の作りかた—化学検査の精度管理

飯田 初代 , 北村 元仕

pp.1559-1568

プール血清の役割

 プール血清とは,いうまでもなくX-R管理図用に利用される凍結保存血清である.‘毎日の検体の流れの中に,2本,ランダムに投入する’だけではない.自動分析装置ではドリフトや突然起こる測定値変動のモニター,あるいは標準液の代用として20本に1本はプール血清を入れる.技術が未熟でバラツキが大きい時も同様である.同時測定の再現性を調べるのも,添加回収試験も,実験の材料はまずプール血清である.異変の発生はプール血清が黙って知らせてくれる.Xの値が異常に動けば,その誤差の原因は徹底的に調べられるから,プール血清は化学検査の技術改善のいとぐちである.休日や夜間の慣れない緊急検査も,プール血清の値がまともに出ていることを確かめて,安心して報告する.また,請われると他の検査室に輸出することもある.私たちはプール血清のことを略して,だれいうとなくPSと呼んでいるが,それは決して‘あとがきpost script’ではなく,私たちの‘powerful servant’なのである.

 それだけに私たちの検査室では,7-8か月に1回,総がかりでプール血清を作る.写真で示したのはプール血清作りの風景だが,たいへんな仕事である.ザイツの細菌瀘過器など,道具立ても仰仰しい.しかし,昔からこのように作っていたわけではない.

リステリア症の臨床検査

永井 龍夫

pp.1569-1575

 リステリア症(以下L症と略記)はリステリア菌(Listeria monocytogenes;以下L菌と略記)の感染症で,ヒトの病型としては髄膜炎が最も多い.なおL症では髄膜炎のみでなく脳炎を伴うことがあり,これはL菌感染症の特徴とされている.化膿性髄膜炎の原因菌にはいろいろの細菌が知られているから,L症の確実な診断には患者材料からのL菌の分離同定が絶対に必要である.したがってL症の臨床検査の主体は細菌検査ということになる.

白血球の変動から見た病態生理・2—単球系およびリンパ球系

古沢 新平

pp.1576-1581

単球系の異常

1.単球の産生機構と機能

 単球の起源については,古くから細胞内皮説と骨髄説とに分かれていたが,近年後者の骨髄造血細胞由来とする説が有力である.また,造血細胞のいずれから分化するかについても,顆粒球系と共通の母細胞から分化する説と独立した別個の細胞系とみなす説とがあるが,近年種々の面から後者の説が有力となっている.エステラーゼ染色において,単球はα-ナフチルアセテートまたはナフトールASアセテートを基質に用いた場合強陽性を示し,ナフトールAS-Dクロロアセテートを基質に用いた場合は陰性ないし,弱陽性を示すのに対し,好中球はちょうど逆の染色態度を示し,両者の有力な細胞化学的鑑別法として用いられている.骨髄細胞をこれらの方法で調べると,両者の染色性をあわせ持った前単球と思われる細胞が認められることから,前骨髄球の一部が前単球に分化するとする考えがある.また,前号で簡単に紹介した軟カンテン法による骨髄細胞の培養で生ずるコロニーには,顆粒球だけでなく,単球またはマクロファージ,あるいは両者の混合したものもかなり認められ,この方法で生ずる各コロニーは,1個の幹細胞が増殖成熟したものと考えられていることから,単球は顆粒球と共通の母細胞から分化する可能性が高い.機能的にも,程度に差はあるが,貧食能,遊走能,殺菌能を有するなど,好中球と類似点が多い.

私のくふう

ネギリングによる組織標本作成

大竹 敬二

pp.1581

 最近外来組織の中で,婦人科での子宮内膜組織の提出が多くなり,中には粘液なのか組織なのか,ミクロフィルターで処理したほうが,安全のように思われるものもある.

 このような粘液に近い組織にかぎり,透明に近く,厚紙に貼りつけたり,いろいろなくふうを行ないながら,アルコール,キシロールと通していっているが,逃げられないかと気をつかうもので,やっと角から見つけた小さな組織も,包埋時にまたどこに入れて置くかと迷う.

総説

皮内反応

佐野 靖之

pp.1582-1588

 GellとCoombsがアレルギー反応をI型からIV型に分類しているが,大別すると即時型アレルギーと遅延型アレルギーとに分けることができる.前者は体液性抗体,後者は細胞性抗体によって惹起されるアレルギーである.前者においてはその発現機序はほとんど解明されており,後者においては,最近リンパ球に関する免疫生物学的研究の進歩によって,ようやくその発現機序が徐々にわかりつつある.免疫学の発達によりアレルギー診断のための検査法も複雑化している.まず詳細な問診,理学的所見に始まって,直接皮膚反応,P-K反応,眼反応,鼻粘膜反応,吸入誘発試験,食餌試験,さらにin vitroの検査として免疫拡散法,白血球ヒスタミン遊離試験,赤血球凝集反応,リンパ球幼若化テスト,好塩基球脱顆粒現象,マクロファージ遊走阻止テスト,螢光抗体法,さらに最近では血清IgE抗体の測定などがあげられる.このうち直接皮膚反応は,穿刺反応(プリックテスト),掻皮反応(スクラッチテスト),皮内反応,貼布反応(パッチテスト)に分類され(表1),その目的によって①診断のための皮膚反応,②免疫機能(特に細胞免疫機能)診断のための皮膚反応に分類される.①として薬剤過敏テスト,感染アレルギーテスト,アレルゲンテスト,自己免疫疾患におけるテストなどがあり,②としてツベルクリンテスト,DNCBテストなどがあげられる.

臨床検査の問題点・58

血液学的検査と生理的変化—赤血球と白血球の変動をめぐって

小宮 正文 , 大竹 順子

pp.1590-1595

血液学的検査で臨床に正確なデータを返すには,検体のどんなところに注意を向ければよいか,今月は検体について外囲条件の種々相を生理的変動に焦点を合わせ,性別・年齢による変化,食事,妊娠などの影響について考える.(カットは赤血球の走査電顕像)

異常値の出た時・12

RT3U(Resin Triiodothyronine Uptake)の高い時,低い時

飯野 史郎

pp.1596-1603

 Saturation analysisによる甲状腺機能の間接的表示法は,トリオソルブ・テストを皮切りにしてレゾマットT3,サイオパック−3というようにしだいにその数を増しつつあるが,その原理は同一で,サイロキシン結合タンパク(TBP)の甲状腺ホルモン不飽和度を知ることによって,TBPに結合している甲状腺ホルモンの相対量を知り,甲状腺機能の指標としようというものである.

 初期においては,TBPの不飽和分を飽和させるのに用いるTriiodothyronine(T3)は131Iで標識されており,遊離の131I-T3を吸着させる吸着剤にレジンを使用したため,本法の一般名はResin131I-T3 uptakeと呼ばれていたが,最近では131Iの代わりに125Iが用いられ,レジンの代わりにサイオパック−3のようにセファデックスG−25が用いられたり,MgCO3またはアルブミンマイクロスフィアが用いられたりするため,これらを一括してResin 131I-T3 uptakeと呼ぶことは不都合となるに至った.

論壇

よい技術者とは…………

松橋 直

pp.1604-1605

 臨床検査に携わる技術者の皆さんの仕事は,来る日も来る日も,同じ操作のくり返しである.マンネリズムに陥りやすい."こんなことなら,全操作を自動化してしまったほうが,能率的であり,高い精度を常に維持できるだろう"と,だれしも機械の部品にすぎなくなっている自分に反問するであろう.

 ところが,実際はそうではない.臨床検査は,医学の領域における宝島なのである.宝を見いだすためには,毎日毎日同じ場所を,あの手この手で探さなければならない.もし,何も見つけられなかったら,また振り出しに戻り,同じ手順で捜索をくり返すだろう.

座談会

検査室を総点検する

上林 三郎 , 北村 元仕 , 平沢 政人 , 松村 義寛

pp.1606-1614

 検査技術のめざましい革新が進む反面,検査室の安全管理,経済性,廃棄物処理などのたいせつな課題がなおざりにされていないか.そこで今月は,有機溶媒の危険性,水の合理的な使い方,ディスポ器具の処理など,具体的に日常の問題を総点検してみる.

化学検査のうつりかわり・12

アドレナリン

佐藤 辰男 , 小林 清 , 小野 磐夫 , 吉永 馨

pp.1615-1620

 われわれに与えられたテーマは,‘化学検査のうつりかわり──アドレナリン’ということであるが,周知のごとくアドレナリン(以下,A)は副腎髄質ホルモンである.動物実験などで直接に副腎静脈にカテーテルを挿入し,種々の条件負荷を行ない,その前後の血中の濃度を測定し,Aの生理作用を調べる方法が行なわれるが,この方法はヒトでは実施困難である.したがって末梢血か,尿中のAを測定することになる.一方,副腎髄質と交感神経系との間には密接な関係があり,しかも交感神経刺激伝達物質はノルアドレナリン(以下,NA)であることが知られている.AとNAとは,ともにベンゼン核に2個のOH基を有するカテコール核と,これに炭素原子2個をへだててアミンを有しており,カテコールアミン(以下,CA)と総称されている.生体の交感神経・副腎髄質系の機能を知るうえには,このCAの測定が最もすぐれており,Aのみを単独に測定することはまずない.

 したがって本稿では,Aという表題をCAと解して,その測定法のうつりかわりについて述べることとする.

霞が関だより・19

総括

I K

pp.1621

 連合赤軍事件というのがあった.その時を契機として脚光を浴びたのが総括ということばであった.このことばは,元来,労働組合などが団体交渉において,要求諸項目に対する成果を最終的にとりまとめて発表する時,「それでは総括します……」というように使われていたもののようであるが,ここでは,昭和48年の終りの号にあたり,医療に関する行政一般をはじめ臨床に関係することがらのうち,ニュースとして落ちこぼれたもので,無下にできないものを拾いあげてみることとした.ただし,ここに書いたものは,落ちこぼれたニュースのすべてではないことを申し添えておく.

検査ノート

血小板数算定に用いる位相差用計算板について

田原口 経貞

pp.1622-1623

 視算による血小板算定法のうち,Brecher-Cronkite法が測定法として最もすぐれていることは,多くの研究者により報告されている1,2)

 私どもも4年前より,本法を血小板算定法としてルーチン検査に採用し,満足すべき結果を得ている.ただ同法に用いる位相差顕微鏡ならびに計算板については若干問題もあり,この点を検討したので,その成績を私見をまじえて述べてみたい.

質疑応答

尿中ウロビリノーゲンの検出用試薬について

K生

pp.1624

 問 尿中ウロビリノーゲンの検査は採尿後日光を避け,なるべく早く検査するようにしています.

 ルーチンの尿中ウロビリノーゲン定性検査においての試薬について,エールリッヒ,コチッコウスキ氏試薬に比し,アルデヒド試薬(クレメンスの処方)のほうが酸度が強く反応が鋭敏のようです.尿中ウロビリノーグン定性検査に用いるにはどちらの試薬がよいか。また両試薬の長短などをお教え下さい.

1973年 人事院勧告解説

医療職Ⅱに特1等を新設—平均15.39%,14,493円を引き上げ

佐藤 乙一

pp.1625-1630

 今年の人事院勧告は激しい物価高と春闘時における政府と総評代表との確認事項もあって,一般的には大幅の勧告が行なわれるのではないかと期待がよせられていた.

 ところで,このような風潮を基礎にして考える時,国家公務員である臨床(衛生)検査技師の扱いがどうなるかということについては,これまた公私立病院を含めこの業界では大きな関心を示していたところである.たとえば大施設の検査技師長であっても現在は医療職Ⅱ2等級止まりということになっていることを考える時,その最高号は20号であり,現行額は本俸が139,300円である.これがたとえばⅠ等級までゆけるにしても17号で止まっており,金額は173,300円でしかない.このような現状でいろい分析してみると,次の2つのうちどちらかの方法がとられるのではないかという考えを持っている人も多かった.たとえば,(1)現在の号数が大幅に延ばされるのではないか.(2)新しい等級が設けられるのではないか.であった.

新しいキットの紹介

免疫拡散板による血清β-リポタンパク測定法の検討

宮谷 勝明 , 高畑 譲二 , 福井 巌

pp.1631-1634

 血清β-リポタンパクの測定法として種々の方法が行なわれているが,超遠心器を用いる方法が最もすぐれているといわれている1).しかし,これらの方法は器械が高価なうえ,操作が複雑で長時間を要する.したがって,臨床検査としては,瀘紙電気泳動法やセルロースアテート膜などの支持体を用いる方法が行なわれていた.

 最近,β-リポタンパクのみ簡単に測定しうる方法が開発され用いられつつある2).著者らは先にデキストラン硫酸を用いる混濁法3)あるいはヘパリンとCaでβ-リポタンパクを沈殿させ,その中のコレステロールの測定を行なってβ-リポタンパクを求めるHoeflmayer-Fried法4)などについて検討を行なったが,今回はManciniら5)によって開発された一元平板免疫拡散板である北研のβ-リポタンパクを用いて測定を行なう方法について検討を行なったので,その成績について報告する.

走査電顕の目・12

再生不良性貧血

小川 哲平

pp.1635-1636

 再生不良性貧血は欧米に比し,本邦に多い疾患で,しかも治療がきわめて困難であるし,また漸次増加の傾向にある.

 再生不良性貧血の成因については多方面から検討され,論議されている.最近では骨髄造血幹細胞の障害によるという説と,骨髄における微細循環の障害によるという説が注目されている.

シリーズ・一般検査 尿検査・6

見落としやすい基本的なミス

猪狩 淳

pp.1637-1638

 尿の一般検査は手技的には高校での化学実験の初歩である.しかし検体として提出されると混濁尿あり,着色尿ありで,正しい検査結果を得るための判定は困難なことが少なくない.「尿検査」の最終回はこのような検査手技,操作のうちで,ふだん忘れられがちな点をあげてみよう.

私たちの検査室

情報化時代にマッチした新システム!—東洋工業株式会社付属病院臨床病理研究検査科

pp.1639-1642

東洋工業付属病院は,広島市の東南部の一角に位置する東洋工業株式会社本社(マツダ,自動車メーカー)の真向かいに設置され,現在,約3万8千名の従業員とその家族の診療と健康管理および地域住民の診療を行なっている中規模の総合病院である.

近年,急速に進展してきたモータリゼーションの中にあって,本社の規模も拡大し,生産も著しく増大し,従業員も激増してきて,これに対応する当付属病院もその機構や運用の限界に達するほどになった.そこでコンピューターを導入し,情報化時代にふさわしい合理的な新しい病院運営方式を開発し,病院管理,健康管理おび生体(臨床検査)情報処理に適用しようという運びになった.私たちの検査室も正確,迅速をモットーに日常検査を遂行する一方,常に新しい分野への挑戦も続けている.‘新しい臨床検査の技術と運営システム’Clinical Laboratory Sys-temの開発と導入と活用がその大きな課題の一つでもある.

検査と主要疾患・12

高血圧症(若年性)

増山 善明

pp.1644-1645

 高血圧の真の原因は今日なお十分には明らかにされていないが,腎性因子(レニン・アンジオテンシン系を中心とした腎性昇圧系と腎髄質の脂質顆粒中の腎性降圧系など),内分泌性因子(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系およびその他のミネラロコルチコイドなど),神経性因子(中枢,圧受容体,交感神経末梢のノルアドレナリン動態など),血管性因子(血管平滑筋収縮機構とレセプター,血管反応性など),Naを中心とした代謝性因子,遺伝因子,血圧調節機構と血行動態面などが相互に関連をもちながら,関与していると考えられている(図1),高血圧の維持には最終的には細動脈収縮を起こさせる刺激が働いている.正常では交感神経末梢より放出されるノルアドレナリンがこれに関与している.この収縮作用を増強させる多くの他因子が高血圧では働いていることが考えられ,なかでも腎性因子やNaの影響が交感神経刺激効果を増大させる方向に働いていることが考えられる.

 高血圧の診断は,1つには原因疾患のある二次性高血圧の鑑別除外であり,他の1つは高血圧とそれによる主要臓器の血管性障害の程度を含めた高血圧の重症度診断である.

検査機器のメカニズム・24

プロトロンビン時間測定器フィブロメーター

竹中 道子

pp.1646-1647

 プロトロンビン時間測定自動機器には多くの機種が市販されている.いずれもプロトロンビン時間のほかに部分トロンボプラスチン時間の測定が可能であり,さらに血小板機能測定のできるものもある.自動測定の原理は大まかに次の4つに分けられる.

(1)エーゼ法の応用で,血漿と試薬の混合液を回転子で攪拌し一定量のフィブリンが回転子にからみつくと,電流回路が閉じてタイムレコーダーが停止する(フィブロメーター,クロットタイマー,プロトロンビンタイマー).(2)凝固が起こることによって濁度が変化するのでこれを光電光度的に濁度変化としてまたは透過光線の変化としてとらえる(クロットレコーダー,プロトロンビンメーター,トロンボマット,エレクトラなど).(3)測定用試験管に金属球を入れ,マグネットで光路に保持しておく.一定量のフィブリンが球について,一定の長さずれると光が通過する。この時点をタイマーにキャッチさせる(クロテック).(4)自動分析器の流れ方式を応用し,酸化鉄粉をテープ上に接着させ,凝固によって鉄粉が凝集するのに伴って光の通過をとらえる(コアグラブ).

検査室の用語事典

自動化学分析

北村 元仕

pp.1649

66) Solvaflex tubing;ソルバフレックス管

タイゴン管にシリコン処理をほどこして耐薬品性を高めた実験用チューブ.脂肪族アルコール,炭化水素,四塩化炭素などの有機溶媒に強いが,エステル,ケトン,クロロホルムなどには使用できない.→タイゴン管

細菌学的検査

坂崎 利一

pp.1650

71) Satellitism;衛星現象

 Haemophilus属の菌,特にH.influenzaeを含む臨床材料を血液カンテン,あるいはチョコレートカンテン上に培養すると,Haemophilusはブドウ球菌集落の周囲にだけ発育し,その他の部分にはほとんど発育しない.このような現象を衛星現象という.これは,Hae-mophilusが発育に要求する発育素(この場合にはジホスフォピリジン-ヌクレオシド)をブドウ球菌が多量に産生するためで,それ以外の部位ではこの物質に乏しいためにHaemo-philusは発育しえない.

Senior Course 生化学

支持体を用いる電気泳動の基本的因子

内田 壱夫

pp.1651

 臨床化学検査室では電気泳動法を利用する機会も多く,支持体としてはセルロースアセテート,カンテン,シアノガム,デンプンゲルなどが多く用いられる.支持体中での電気泳動での分画の動く速さを理論的に取り扱うことはたいへんむずかしく,理論的に予期されたことが,そのとおりうまくいったという例は少ないとされているが,ここでは実験をうまく行なうために,泳動による移動に関与する基本的因子について考えてみたい.

Senior Course 血液

骨髄像の見かた,考えかた(12)

桑島 実

pp.1652

 前回に続き症例について検討する.

症例I:17歳女,胸骨骨髄有核細胞数30万/mm3,巨核球数111/mm3

Senior Course 血清

B型ウイルス性肝炎と細胞性免疫

伊藤 忠一

pp.1653

 オーストラリア抗原(Au抗原)が,B型ウイルス性肝炎(B型肝炎)を引き起こす病原ウイルスときわめて密接に関係している粒子であることに疑をはさむ人はもはやいない.しかし,B型肝炎をAu抗原の感染症とする考え方に単純に首肯する人も少ない.なぜならば,Au抗原に自然に曝露された生体に起こる生物学的反応は個体によって千差万別であり,古典的なKochの3条件を満足するような一般的な感染症とは著しく様相が異なるからである.

 原則的に考えるとAu抗原に感染したあとに起こる病状の発現は,ウイルス側の肝細胞に対する病原性(ウイルスの量,株,伝染経路など)と宿主のもつ感染防禦反応との組み合わせによって規制されると考えられるが,①健康人キャリアーに対して肝細胞毒性でなかったAu抗原が,いったん別の人に輸注されると肝細胞毒性を示してくる.②B型肝炎患者の血液中Au抗原量は健康人キャリアーのそれよりむしろ低いことがある.などの理由から,Au抗原の肝細胞毒性はもしあったとしてもそう強いものではないと考えられる.したがって病状発現は宿主側の因子によって左右されるとする考え方が強い.

Senior Course 細菌

Achromobacter xylosoxidansを同定するための要点

藪内 英子

pp.1654

 非発酵性グラム陰性杆菌の運動性株を同定するためには,被検菌が極毛か周毛かを決めねばならないことは常識となった.運動性の有無を見るだけでは不十分である.新鮮標本での運動状況から被検菌が極毛性か周毛性かを推定することができるが,決定的な所見はやはり染色標本から得られる.ブドウ糖を酸化しない周毛性グラム陰性杆菌としてよく知られているのはAlcaligenesで,この属の菌と極単毛のPseudomonas alcaligenesや極多毛のComamonas terrigenaとの正しい鑑別は,鞭毛形態を無視しては考えられない.

 Alcaligenes faecalisはヒトの腸管内常在菌であるといわれているが,実際にはあまり検出されない.Achro-mobacter xylosoxidansも非発酵性周毛性グラム陰性杆菌で,ブドウ糖からの酸産生が弱くてしかも遅れて発現するため,ブドウ糖非酸化菌と誤認されAlcalige-nesと考えられることが多い.けれどもA.xylosoxi-dansはA.faecalisよりも分離頻度が高く膿,喀痰,血液,脳脊髄液,熱傷,潰瘍,腹膜透析液など各種の臨床材料から純培養状に,あるいはStaphylococcusaureusやPseudomonas aeruginosaなどと混じて検出されている.

Senior Course 病理

酵素組織化学(4)—各種脱水素酵素

堀 浩

pp.1655

 テスト材料として肝,腎,副腎.

Senior Course 生理

補助循環法

三浦 勇

pp.1656

 急性心筋硬塞のような重症の心臓病では,血液ポンプとしての心機能が極度に低下するので全身の循環を維持することができなくなり,生命が脅かされる.このような場合には,緊急手段として心筋を鼓舞する方法──昇圧剤や強心剤が用いられるが,これらの薬剤は傷害をこうむった心筋にいっそうの負担をかけるため,その効果には限界がある.

 補助循環法は,機械によって循環を維持し,心臓病の治癒機転を促進しようという方法である.つまり,ポンプやそれに類似した機構を用い,心臓を休ませ,その仕事を肩替わりし,同時に心筋傷害の治癒に有利な血行動態を作り出すことが日的である.それには,心臓とポンプが交互に動作することが必要である.心臓の収縮期にポンプが血液を吸引すれば,心臓の仕事は減少し,心臓の拡張期にポンプが血液を押し出せば,拡張期の動脈圧が上昇して冠動脈血流量が増すからである.

Senior Course My Planning

技師教育を考える

清水 一男

pp.1657

 検査部門は,その需要が高まるにつれ,ますます多面的なスタッフを要求しつつある.現在,エレクトロニクス,工学,化学……を軽視しては今や検査業務は考えられなくなっている.私自身,学生の教育にタッチしているが,学校教育だけでなく,新しい知識,技術を必要としている検査技師の再教育を考えてみた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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