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文献概要
追悼
吉田 富三先生を偲んで
著者: 畠山茂1
所属機関: 1横浜市大・第2病理
ページ範囲:P.779 - P.779
文献購入ページに移動 吉田先生は,わが国のみならず世界における癌研究に絶えず刺激と指標を与えてこられた方である.先生のお仕事を知るには,腫瘍学の歴史を若干理解しておく必要があろう.そもそもいまだ細胞の自由発生を信じていた時代に,ウイルヒョウがすべて細胞は細胞から生まれるという有名な金言を掲げ,‘細胞病理学’を確立したのは,1855年のことで今から約120年も前のことであった.この思想を裏付ける基礎的な材料となったのが癌であって,癌も正常の細胞から発生するという理念が確立し,さらに細胞の分裂には細胞の形成を促す刺激が必要であって,刺激の異常または異常なる持続が癌の発生を促すと考えられた.原理的には今日的理解と全く同じであって,120年も前に既に癌に対する考えの基礎は定まっていたのである.先生は癌研究者として将又(はたまた)病理学者として,現在ややもすれば偉大ではあるが歴史上の偶像として省みられないウイルヒョウの思索の跡を丹念に辿り,先生自身の大きな学問的糧を引きだされ,ウイルヒョウの人柄や社会的活動にも多大の感銘を受けていられたようである.先生は難解なウイルヒョウの「細胞病理学」を完訳され,また最近「細胞病理学雑記帳」と題する独創的なお考えを盛り込んだ随想風の読物を連載されている.
1855年から約半世紀の間は,主として人癌組織の形態発生や分類の研究が行なわれ,その基盤の上に,1915年には山極,市川両先生の有名なタール癌が,世界で初めてつくられ,近代癌研究の新しい出発点となった.
1855年から約半世紀の間は,主として人癌組織の形態発生や分類の研究が行なわれ,その基盤の上に,1915年には山極,市川両先生の有名なタール癌が,世界で初めてつくられ,近代癌研究の新しい出発点となった.
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