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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査18巻13号

1974年12月発行

雑誌目次

特集 日常臨床検査法

フリーアクセス

樫田 良精

pp.1369

 今日の日常診療における臨床検査の増加の勢いは,まことにすさまじい.たとえ病床数や外来患者数があまり変わらなくとも,5年間で検査件数は2倍,あるいはそれ以上に急増している.受診者の質の変化から,一方診療の内容がきめ細かくなったために,臨床検査に依存せざるを得ない度合いがそれだけ増した結果である.検査室側としては検査の自動化,簡易化,データ処理技術の導入など,次々と受け入れ体制の強化に努めているが,急増する需要になかなか追いつけないのが一般の施設の現状である.

 日常の臨床検査を合理的に行うには,いろいろなくふうや配慮が必要であるが,その一つにup to dateな日常検査法を絶えず吸収して活用することがたいせつである.本誌の使命の一つはこの最新の情報を絶えず読者に提供することにあるので,この線に沿って毎号の編集に努力しているが,多種多様の検査項目すべてを網羅することはなかなか困難である.特に検査法が安定している項目,あるいは進歩発展のあまりない項目は取り上げられる機会が少ない.この欠点を補う意味で本誌では"日常検査法"の特集を臨時増刊号の形式で,ほぼ4年ごとに行っている.

Ⅰ.スクリーニング検査と精密検査

1.化学—1)肝臓

屋形 稔

pp.1371-1373

 最近の臨床検査の進歩,特に臨床化学検査の簡易化と自動化は,かなり複雑な検査もほとんどルーチン化に困難を感ぜしめない.肝臓に関する検査はこの傾向が最もポピュラーなもので,スクリーニング検査と精密検査を分けるとしても,臨床的意義および目的別選択がそのおもな条件と考えられ,それに検体採取の難易性や経済性の点などが少々加わったものと考えてよい.ただ検査法の進展を顧みると,二,三再現性の低い方法や測定上問題の多いものがなお用いられているものもあるが,しだいに評価を変えつつあるし,また新しい手技が開発され,肝疾患の診断上欠かせないものも出現してきている.これらも現在精密検査の目的のみに用いられていても,遠くない将来スクリーニング検査化されるものが多いと考えられる.

1.化学—2)腎,尿路

折田 義正 , 安東 明夫

pp.1374-1377

腎,尿路疾患におけるスクリーニング検査と精密検査

1.スクリーニング検査の定義

 スクリーニング検査の意味については,本特集の各項で述べられるであろうが,腎,尿路疾患のスクリーニング検査の満たすべき条件とその目的についてはじめに触れておく.

1.化学—3)糖尿病

水野 美淳

pp.1377-1381

 糖尿病とは素質の疾患である.血糖,尿糖が最もよく糖尿病の診断に利用される検査ではあるが,その値は非糖尿病者と糖尿病者との間に,どこからが糖尿病という判然とした境界はない.また他の疾患で尿糖陽性,あるいは高血糖になる疾患は非常に多く,検査法として,糖尿および高血糖は決して糖尿病に特異的なものではない.しかし糖尿病は血管合併症を起こしやすい素因の疾患であり,治療を要する糖尿病患者の範囲が莫然とはしているが,合併症予防のためには,かなり早期の軽度な糖尿病の発見が必要である.

 一般に感度(sensitivity),特異性(specificity)がともにすぐれた検査法があれば診断は容易であり,そのような検査はその疾患の本質につながるものが多い.糖尿病で得られる検査所見はほとんどが量的な変化であり,かつ特異性もないことが糖尿病の診断を困難にしている.

1.化学—4)内分泌・1 甲状腺疾患

玄番 昭夫

pp.1381-1382

甲状腺疾患と臨床検査

1.甲状腺疾患患者の分布

 群馬県は地方病性の甲状腺腫(単純性甲状腺腫)患者が多いことで有名であるが,表には群大病院第1内科甲状腺外来を訪ずれた1,649名の疾患の種類と頻度とを示した.このように外来甲状腺疾患患者の40〜50%は甲状腺機能亢進症であり,そして約5%に同低下症が認められる.しかし残りの半数は甲状腺機能障害がないか,あるいはあっても軽度のことが多い単純性甲状腺腫,炎症性疾患,そして腫瘍などの患者である.したがって甲状腺疾患における臨床検査は,機能障害を疑う場合と,そうでない場合とではいくぶんその検査の選び方が違ってくる.

1.化学—4)内分泌・2 副腎

臼井 敏明

pp.1383-1385

 副腎は組織学的,機能的および発生学的に全く異なった副腎髄質および副腎皮質と呼ばれる2つの内分泌組織から成りたっている.したがって,検査も2つの項目に分けて述べる.

2.血液—スクリーニング検査と精密検査

新谷 和夫

pp.1386-1389

 スクリーニング検査は操作が簡単で得られる情報が広範なものとか,不特定疾患,すなわち健康状態の異常の有無を対象とする検査であるというように定義され,精密検査とは別個のもののように考えられやすい.しかし,これは検査法自体の問題というより,検査項目を選定する側からの問題というのが正しく,同一検査が,ある場合スクリーニングの目的で実施され,他の場合,精密検査の目的で実施されているという事例をみれば明らかである.なおスクリーニングを目的とする場合でも,たとえば人間ドックで実施する項目のように不特定疾患を対象とした広義のものと,特定疾患,たとえば肝疾患を対象とした狭義のものが区別されている.

 本文では広義のスクリーニングとしての血液学的検査を取り上げ,次いで血液疾患,出血性素因を対象とした精密検査について記すこととする.

3.血清—臨床検査法における定量法の意義

木村 一郎 , 吉田 理恵子

pp.1390-1393

 患者血清などからその疾患に特有な抗体や抗原を検出し,正確な診断の助けとするとともに,他の必要な情報を得ることが血清学的検査法の目的であろう.現在は多数の検体の処理のため,簡便な定性または半定量的検査法が多く用いられるが,定量的な方法の意義が失われたわけではない.

 抗体についていえば,健康人でも試験抗原に対する正常抗体や,以前の感染,予防接種などに由来する免疫抗体を持つことが多く,患者では別の疾患,近縁の病原体由来の抗体などを持つことがあるので,抗体の定性的証明がただちに診断につながるわけではない.しかし,これらの抗体は定量すると量が少なかったり,その他の定量的操作で鑑別が可能となる.さらに,疾病の経過や治療と並行して抗体価も消長するので,時期を追って得た定量値の比較は診断のみならず病状,治療効果などに対する重要な情報を与える.

4.細菌—塗抹検査と培養検査

高橋 昭三

pp.1394-1396

 この2種の検査は,本来異質のものである.しかし,塗抹検査はスクリーニング検査であると一般的に考えられている.その理由は,塗抹陰性培養陽性の例が普通多くみられ,培養検査のほうが感度が高いとされるからである.一般に,尿道分泌物中のリン菌を検出しようとする場合,塗抹鏡検法は,培養検査法よりもやや低い検出率を示すにすぎず,それに対し未治療の結核患者では,検出率が培養では塗抹の104倍にも及ぶといわれる.手近な検体では,尿沈渣の鏡検で菌が1個みつかる時,培養ではおよそ105/ml,すなわち1白金耳で103の菌が生ずると考えられている.この数字は,上に述べた例でも著しい差があり,むしろたまたまこのような差があったと言ってもよい.両検査法の意義については別に考察しなければならない.

5.病理—スクリーニング検査としての細胞診クラスⅢの問題点

高橋 正宜

pp.1397-1400

 細胞診の応用領域は広く悪性腫瘍の診断,婦人科領域の性ホルモン環境の検索,細胞遺伝学的検査など多彩である.癌の診断的見地からみても,(1)癌の形態学的判定として診断の裏づけをなす場合,(2)スクリーニングとしての役割を果たす場合,(3)手術中治療方針決定のための迅速診断に応用する場合などがある.それぞれの目的に応じて検査の処理法,判定のしかた,報告のしかたなどに差異がある.

6.生理—1)呼吸器

小池 繁夫

pp.1401-1403

 病院の外来に咳,痰,熱を訴えて診察を求めてくる一般的な呼吸器症状を呈する患者に対して,現在行われる検査は問診,聴打診,視診であることは言うまでもない.ここで強調するまでもなく,一般に検査法,特に呼吸器にあっては生理学的検査法,肺のRIによる検査,ファイバースコープや生検の方法が飛躍的に進歩し,そのデータの精度も20年前に比べれば隔世の感がある.

 しかもその信頼度はきわめて高いものになり,客観性も高いものになったことは事実である.それだけに,それぞれの検査法も専門化し,かつ高度の基礎知識に基づいて,患者一人一人について選択されねばならない.いたずらに現在行われている検査法をすべて上述の患者に施行することは,患者のためにも決して賢明なことではなく,医師にとっても無用の混乱を招く結果ともなりかねない.

6.生理—2)循環器

加藤 和三 , 藤井 諄一

pp.1403-1406

 現在,循環器疾患について行われている臨床検査は表に示すとおりであり,それぞれの目的と意義,手技の難易,被検者の負担,普及度によりスクリーニング検査と精密検査に分けられる.なかには両方に属するものもあってその区別は必ずしも明確ではないが,検査効率の向上のためには,それぞれの位置づけをわきまえておくことが重要であろう.

Ⅱ.化学

1.化学検査用キット一覧

斎藤 正行 , 塙 勇至

pp.1407-1413

 今日はキット万能時代と言われる.このたび整理してみてそのことばが身にしみた.自ら作ったころの苦労を思い出すと現在の人々は本当に幸福だと思う.

 病院検査室の使命は"患者の診断・治療のために情報を医師に提供すること"に異論はなかろう.ある人は新しい病態を発見するためと考えようが,いずれにしろ多くの,また深い生体内情報を見つけることである.その一つの手段として生活細胞を取り囲む体液,血液およびその排泄物中に存在する物質の定性・定量分析がある.昔はこれらの分析範囲はきわめて限られていて,私が化学検査室に専任で働くようになった25年前は輸液療法が導入されたころで,その関連項目を主体に約20種類の定量分析であった.それでもスタッフが私と薬大出の2名であったため毎日のように超勤が続いた.

2.吸光分析

荒木 仁子

pp.1414-1417

 光の吸収を利用した可視光領域の分析を比色分析といい,紫外光,赤外光領域を含めた分析法を吸光分析という.ここでは可視部を中心とした吸光光度分析を主として述べる.

3.電気泳動

大谷 英樹

pp.1418-1423

 電気泳動法は,支持体の種類,ならびに化学的染色法,酵素活性を応用した染色法などにより,また免疫化学的方法を組み合わせることによって非常に多くの方法が考案されている(表1).日常検査として有用な電気泳動法としては,血清タンパクの分析に用いられているセルロースアセテート電気泳動法(CA-Ep)ならびに免疫電気泳動法(I-Ep),α1-フェトプロテイン,オーストラリア抗原の検出に役だつElectrosyneresisおよび,ヘモグロビン異常症のスクリーニングに利用される電気泳動法が重要な位置を占め,そのほかにリポタンパクならびにLDHの電気泳動法があげられる.紙数の関係で,ここでは血清の電気泳動法を対象とし,日常のCA-Ep,ならびに現在普及しつつあるI-Ep,リポタンパクおよびLDHアイソエンザイムの電気泳動法を中心に,その検査のすすめ方と意義について解説する.

4.ラジオイムノアッセイ

出村 博 , 出村 黎子

pp.1423-1427

 ラジオイムノアッセイ(RIA)は1959年にBersonとYalowによって開発された免疫学的な超微量測定法であり,当初は血中インスリン値の測定に用いられた.1962年にHunterとGreenwoodが抗原にヨウ素を標識するのにすぐれたクロラミンT法を発表したことと相まって,この15年間にRIAはGH,TSHやACTHなどの下垂体前葉ホルモンに始まり,副甲状腺ホルモンやグルカゴンなどの測定に次々に応用され,今日ではほとんどあらゆるタンパク性ホルモンがRIAによって測定されるようになった(表).

 非タンパク性ホルモンである甲状腺ホルモン(T3,T4)やステロイドホルモンのような低分子化合物についても,アルブミンなどの高分子化合物を縮合させて動物に注射して抗体を作ることによってRIAが可能となった.またホルモン以外の物質,たとえばジゴキシンのような薬物,オーストラリア抗原のようなウイルス,サイクリック-AMPのような酵素やビタミン剤(B12)などについてもRIAが可能となった.

5.単能機器分析—1)アンペロメトリー,クーロメトリー機器

宮地 隆興

pp.1428-1432

 体液中の各種物質の濃度を測定して,体内で起こっている状態が,正常かあるいは病的かを明らかにしようとする努力が臨床検査として広く発展し,多くの方法が実施されている.そのうちで電気化学的な原理に基づき,電極を用いて各物質の濃度を測定することが,たいせつな化学分析法のひとつとして最近注目をあびてきた.本方法は簡単で迅速で精度もよく,緊急時の検査法として最良のものと考えられる.以下,一般的原理とその応用例をクロライドメーターとグルコースアナライザーにとって紹介したい.

5.単能機器分析—2)340nmの吸光光度計

降矢 熒

pp.1432-1435

 Warburgらは,1935年にピリジンヌクレオチドが部分的に還元されると,特異的な紫外部吸収帯が現れることを発見した.当時は非常に驚異的な現象として多くの人々に受け入れられたが,今日ではこの紫外部吸収帯は340nm付近に極大を示し,NAD(Nicotinamide-adenine dinucleotide)のピリジニウム型がジヒドロピリジン型へと変化したことによることが判明している.また,NADP(Nicotinamide-adenine dinucleotide phosphate)もピリジンヌクレオチドのひとつであり,還元されるとNADの還元型と同様に340nmに極大を示す紫外部吸収帯が現れるので,340nmの吸収を測定することによりNADH(還元型NAD),NADPH(還元型NADP)を定量することができる.

 したがってNAD依存反応やNADP依存反応では,酵素反応の進行に伴う340nmの吸収の増減あるいは酵素反応の完了に伴う340mnの吸収の変化を測定することにより,試料中の酵素活性を求めたり,あるいは試料中に存在する酵素基質となる物質の濃度を知ることが可能である.

5.単能機器分析—3)屈折計

浮田 実

pp.1436-1438

 屈折法は臨床検査に古くから応用されていたが,当時の屈折計は測定に比較的長時間を要し,かつ技術的にもむずかしかったためにあまり利用されていなかった.その後温度補正式の屈折法が開発され,その簡便性,迅速性および再現性にすぐれていることから,わが国でも盛んに日常検査に用いられるようになった現在,屈折法は血清タンパク質,尿比重,およびブドウ糖などの測定に利用されている.

6.負荷試験

竹内 正

pp.1438-1442

 生体に物理的・化学的負荷を加えてそれに対する反応をみることにより,負荷を与えない状態では得られない情報を得る検査法を負荷試験と言っている.ある場合には刺激試験でもある.ごく手近な例をあげれば,心電図検査で,安静時には正常心電図であったものが,運動負荷によって異常心電図が現れて冠状動脈の不全が診断されるなどで理解されるであろう.また生化学検査の領域では,ブドウ糖負荷試験が代表例として適当であろう.空腹時血糖が正常または異常値の患者に経口的にブドウ糖を飲ませ,経時的に血糖を測定することによって,その最高血糖や血糖曲線から糖尿病であるかどうか,またその程度を知りうる.このように負荷前では得られない細かい情報を得ることができる.

 次に生体に化学物質を与えて,生体がそれを除去する作用をみることによって,ある臓器の機能をみるのも一種の負荷試験と考えられる.たとえば肝機能検査のBSP,ICG負荷試験,腎機能検査のPSP試験などがこれである.

Ⅲ.血液

1.血液学的検査における自動化機器

新谷 和夫

pp.1443-1447

 日常臨床検査法の特集で血液学的検査として機械化法が取り上げられるのは当然であるが,視算法があえてはずされているのをみると,機械化法の普及がいかに著しかったかをあらためて認識させられるところである.表題では自動化機器としてあるが.凝固関係を除くと主体は血球計数ということになる.

 そこで本文の内容は自動血球計数器(以下カウンターと記す)に限定されるわけだが,カウンターということばを厳格な意味で用いるとすればヘモグロビン,ヘマトクリットなどの測定も組み込んだものをカウンターと称してよいかという問題がでてくる.しかしカウンターという呼称が広く普及している点,血球計数の自動化が先行しそれにヘモグロビン,ヘマトクリット測定が付加されたという歴史的経過を尊重して,カウンターということばを広義に用い,例示したような場合も,血液学的自動検査装置などの名称を用いず多目的カウンターと表現することとしたい.

2.血液学検査の精度管理

服部 理男

pp.1448-1453

 検査成績は理想として"真の値"を表すものであるべきであるが,実際には種々の理由で誤差が含まれた値を用いている.したがって検査成績を利用する側は誤差範囲を知ったうえでデータを活用するべきであるが,多数の臨床検査について内容を十分知ることは今後ともますます困難になっていくであろう.したがって検査を担当する側で,データの品質(quality)に責任を持ち,臨床医にデータの信頼限界について知らせる努力を続ける必要がある.検査結果をできるだけ正確にし,しかも均一の内容を持たせることが精度管理(成績管理1))の目標であるが,最近各種の検査で検体数が急速に増加しており,正確でしかも実施容易である検査法や自動機器が採用される反面,多数の検体がいっせいに誤った結果となる危険も増大している.精度管理は正しい検査手段を選択する技術的な面と,誤った検査結果を早期に発見する管理事務的な面から成っているが,まず後者の面から述べる.

3.血液像(対談)

原島 三郎 , 亀井 喜恵子

pp.1453-1457

鏡検に際して

 原島 亀井さんの検査室では,血液標本を見る場合に,顕微鏡の倍率は何倍を使っていますか.

 亀井 ふだんは200倍で全体を観察し,白血球分類には400倍のノーカバーレンズを使用しています.そして異常な細胞が出ると油浸の100倍にしています.

4.LE細胞

東條 毅

pp.1457-1461

 LE細胞試験は今日なお重視される免疫学的検査法であり,LE細胞が陽性か陰性かは大きな臨床的意味を持っている.

 LE細胞試験が臨床に取り入れられてから全身性エリテマトーデス(SLE)患者数が激増したという過去の事実がある.今日ではSLEに対する認識が高まっていて,定型例での誤診は比較的少なくなっている.現在の焦点はむしろ非定型例にあり,腎炎,胸膜炎あるいは血小板減少性紫斑病などとして治療されている症例である.LE細胞陽性という報告がこれらの症例に届いた時は,主治医はSLEを誤診していなかったか,全経過を慎重に再検討しなければならない.

5.骨髄像

寺田 秀夫

pp.1462-1468

 骨髄穿刺検査(Bone marrow aspiration,Bone marrow puncture)は日常臨床各科,特に内科領域で最もしばしば行われる臓器穿刺診断法のひとつである.しかし臨床医が正しくその適応を選び,正確かつ迅速に穿刺し,また慣れた検査技師が採取された骨髄血をすばやくしかも確実に検査に移さないと,せっかく患者に緊張感と痛みを与えたにもかかわらず,無意味な検査になってしまう場合も少なくない.

 また骨髄穿刺を行えばすべての診断情報が得られると過度の期待を持ちやすいが,必ずしもそうではなく,骨髄像の成績と他の臨床検査成績を組み合わせて,初めて確実な診断に至る場合が多い.特に新生児や小児の骨髄像は,たとえ専門の血液学者が観察しても,十分な自信が持てない場合が多く,小児臨床を熟知する小児科専門医が臨床像と組み合わせて判断する必要がある.

6.顕微鏡と血液検査(対談)

植竹 敏文 , 岩田 弘

pp.1469-1475

 岩田 血液像をルーチンワークとして行うためには,そのための顕微鏡,あるいはレンズが望まれるわけです.そのひとつとして血液像専用といってもいいほどよく使われるノーカバー対物レンズがありますが,1000倍よりは解像力が低下しやや"見え"が悪い.臨床検査としてはたしていいものかどうかという問題もありますし,またもっと見えがよくなるようなレンズ,顕微鏡の使い方があるんじゃないかと思うのです.まず光学系のことについて説明していただきたいと思います.

7.出血・凝固検査法—特にスクリーニング検査

松田 道生

pp.1475-1480

 出血および凝固検査法として今日までに報告され,かなり広く応用されているものだけを取り上げても,とても限られた紙面で述べつくせるものではないし,またそれは必ずしも本特集の目的ではないと思われるので,本稿では止血機作,血栓ないし凝血塊の形成と溶解の機序に簡単に触れ,その理解のうえに立って,"いま,眼の前に出血傾向ないし血栓形成を思わせる患者がいる時にどのように検索を進めたらよいか",という点に焦点をしぼり,主としてスクリーニング検査として最低必須と考えられる項目を選んで述べるつもりである.したがって,スクリーニングの段階でさらに検索を進める必要が生じた時には,文献の項にあげるいくつかの教科書ないし報告を参照されるようにしていただきたい.

Ⅳ.血清

1.梅毒血清反応のすすめ方

水岡 慶二

pp.1481-1482

 現在わが国の検査室で採用されている方法は,脂質抗原の反応(STS)では緒方法,ガラス板法,梅毒凝集法,RPRサークルカードテスト(RPRCT)などが,トレポネーマ抗原の反応ではTPHAテストとFTA-ABSテストが主体となっている.各施設ではこれらの反応のうちから,そこの施設の実情に応じた適当な方法をいくつか選び,それらを組み合わせて検査しているが,永井1),堀越2)らの調査報告にもみるとおり,その組み合わせ方はいくとおりにも及んでいる.こんなにいろいろな組み合わせがでてくるのには,各施設なりにそれぞれ理由があると思うが,もう少し統一されてしかるべきではなかろうか.

 そこで,ここには梅毒の血清学的検査は,検査の目的に応じ,こんなような組み合わせですすめばよいのではないかという私案を述べてみることにする.

2.血液型検査のすすめ方

村上 省三

pp.1483-1485

対象となる血液型の範囲

 血液型検査が必要になる時は,輸血を意識しての場合が圧倒的に多いので,ここではテーマを一応"輸血関係"に限らせていただく.

 主題の場合,検査室で対象となる血液型はABO式血液型とRh式血液型とが主になるであろう.後者のうちではRho(D)因子は必要不可欠であるが,Rho(D)因子陰性者については他のE-locusやC-locusに属する因子もあわせ実施することが望ましい.しかし検査技術そのものはD因子の場合とたいして変わりはないので,D因子の場合の技術に習熟すればよい.

3.リウマチ血清反応のすすめ方

長田 富香

pp.1485-1487

 リウマチ血清反応の目的は,慢性関節リウマチ患者の血中に出現するリウマチ因子(reumatoid factor)の検索である.しかしリウマチ血清反応として広く行われているRAテストの各種疾患における陽性率は,表11)にみるように膠原病をはじめ,肝疾患,腫瘍,ウイルス疾患などにも高頻度に陽性反応を示すことが明らかにされた.そこで現在ではRAテストは慢性関節リウマチの診断のほかに,多くの自己免疫性疾患の診断の一助としても利用されるようになった.

4.HB抗原検査のすすめ方

関根 暉彬

pp.1488-1489

 Hepatitis B antigen(オーストラリア抗原,Au抗原,HBAg)を検索することは診断,治療などの目的のためのみならず,医療従事者自身の健康管理にとっても非常に重要なことである.1973年のWHOのレポートの中に,患者はすべてHB Agを検査し,患者から医療従事者へ,また患者から患者への感染を予防することが必要であるとの記載がみられる.検査法の各論は別にゆずって基本的な問題について述べてみたい.

5.抗核抗体検査のすすめ方

渡辺 言夫

pp.1490-1492

抗核抗体

 全身性エリテマトーデス(SLE)でLE細胞が見いだされるが,LE細胞形成に抗核抗体が重要な意義を有している.抗核抗体は,(1)DNAに対する抗体,(2)核タンパクに対する抗体,(3)ヒストン(histone)に対する抗体,(4)核分画のリン酸エキスなどを含み,核タンパクに対する抗体がLE現象に関係すると考えられている.すなわちLE因子は抗核タンパク抗体の一部であるといわれている.

6.ウイルス検査,特に血清反応のすすめ方

赤尾 頼幸

pp.1492-1494

 耳下腺炎,麻疹,風疹または水痘のように特有な臨床症状を呈し,それによって病原ウイルスの診断がつくものもあるが,ウイルス性疾患ではこれらのウイルス病は例外であって,ウイルスの感染によっては,よく似た臨床症状を示すことが少なくない.このためにウイルス性感染症では,病原となったウイルスを決定するには,(1)患者材料よりの病原ウイルス分離試験(2)分離されたウイルスについて血清学的に既知の抗血清を用いた同定試験,(3)患者血清について血清学的な検索(血清診断)が必要である.

 しかし同じ微生物学的な検査法とはいえ,ウイルス検査は細菌検査と比較すると検査目的,検査技術,検査費用の点で大きな相違があり,日常診療の中にウイルス検査を微生物検査の一つとしてルーチン化することは現状では因難さがある.ここで本論にはいるまえに,ウイルス検査の目的と必要性にふれることとしたい.

7.免疫グロブリンの定量法

尾辻 省悟 , 山下 巧

pp.1494-1498

 血清免疫グロブリン(Ig)には少なくとも5つ,すなわちIgG,IgA,IgM,IgDおよびIgEのクラスが知られており,それらの測定には抗原抗体反応の特異性を応用した免疫学的方法が用いられている.IgEのようにきわめて微量のものは放射性同位元素を用い感度をあげて測定される.

 本稿では日常測定される機会の多い,IgG,A,Mについて日常検査上最も一般的なゲル内拡散法のうち,一元平板免疫拡散法*1)と試験管内単純拡散法*2)を略述し,精度や日常検査への応用性の面から比較検討を加えてみたい.いずれの方法にも既製品が市販されている(表1).

8.細胞性免疫をめぐる検査法

河野 均也

pp.1498-1500

 細胞性免疫機構とは,胸腺の影響を何らかの形で受けたT-cell(Thymus derived or dependent lymphocyte)が主役を演ずる免疫機構を言い,ツベルクリン反応などの遅延型過敏反応や,臓器移植の拒絶反応などは細胞性免疫で説明される代表的な免疫反応である.また,T-cellについては,リンパ球幼若化現象やヒツジ赤血球との間にみられるロゼット形成性など,新しい知見が相次いで報告されている.これらの生体内での免疫反応や,試験管内でのT-cellの量的あるいは質的な検索法を応用して,種々の疾患についての細胞性免疫機能が検索され,数多くの知見が得られつつある.

Ⅴ.細菌

1.検体輸送—1)結核菌

工藤 祐是

pp.1501-1503

 最近の抗酸菌病の多様化と抗酸菌学の進歩は,結核菌を含むこれらの細菌の臨床検査をますます複雑なものとしている.一方,多くの臨床検査機関は増大する業務に追われ,このような変化に対応しきれないのが実情である.そのうえ,抗酸菌は他の細菌に比べ発育が緩慢であるため,成績を出すのに時日を要し,検査が全体の流れにのりにくいことも,この分野の拡充を妨げているように思われる.

 このような理由から,中規模以下の臨床検査機関ではしかるべき専門機関にこれらの検査を依頼せざるを得ないであろうし,またそのほうが賢明である場合も多くなるであろう.

1.検体輸送—2)腸内細菌

坂井 千三 , 伊藤 武

pp.1503-1505

 腸内細菌のなかには,赤痢菌,サルモネラ,病原大腸菌,エルシニア・エンテロコリチカなど多数の病原菌が含まれている.これらの病原菌の検査の対象となる材料は,糞便,血液,髄液,吐物,また死亡者の腸内容,臓器などきわめて多彩である,しかし,現在までに開発実用化されている腸内細菌用の保存・輸送培地は,主要材料となる糞便中の病原菌の保存を目的としたものに限られている。そこでここでは,一般検査室で取り扱う頻度の高い病原菌を対象にした糞便保存液について紹介する.

 なお,血液中の病原菌の検査に用いられているカルチャーボトルは,本来血液中の病原菌の増菌培地であるが,短時間であれば保存にも使用できるのでそれについても若干述べることとする.

1.検体輸送—3)リン菌

小野田 洋一

pp.1505-1506

リン菌検出と社会問題

 分泌物を染色して双球菌を見つけ,これをリン菌と断定した時に起きる患者の心理状態にはいろいろの反応が見られる.

 りん病に感染する機会があって発病しても不思議はない状態の人は,リン菌が検出されても当然と受け止めるが,身に覚えのない人にとっては重大問題であろう.ことに婦人にとって,信頼している夫からこの菌を感染させられたと考えた時そのショックは大きく,離婚問題とまではいかないまでも夫婦間に波風が起きることが多い.反対に,夫の側に身に全く覚えがなかった場合,妻の不貞と妄想が進み家庭争議というようなこととなることが多い.

2.分離培地の選択—1)嫌気性菌

鈴木 祥一郎 , 二宮 敬宇

pp.1507-1509

 近時,嫌気性菌の分離を実施する臨床細菌検査室がふえていることは非常に喜ばしい.臨床材料から初めて嫌気性菌を分離しえた時のうれしさはまた格別である.これを機に,"嫌気性菌ではないか"という目をもって臨床材料に接するはずである.このような態度が嫌気性菌の分離率を高めるのである.嫌気性菌の研究は,最近になって早いテンポで進み始めてきたので,機会あるごとに新しい知見を吸収するように努められたい.

2.分離培地の選択—2)好気性菌

奥住 捷子

pp.1510-1511

 どのような菌にせよ,その菌を分離しようとしないかぎり,分離できる保証はない.それは,分離培地として何を選ぶかで決まるとも言えよう.検査材料ごとに出現の可能性のある病原菌はある種類に限られているので,成書には多種多様な分離培地を使うことがすすめられているが,実際に検査にあたる場では必要かつ十分な培地を選び,最少の培地で十分な数量,すなわちそこに現れる可能性のある菌を分離できるようにしなければならない.ここには,分離培地を選択するうえでの二,三の注意点について述べる.

 言うまでもないが,臨床細菌検査の特殊性は他の検査と異なり,病原菌の確認により病名が決定することがしばしばある.患者の受持医との連絡を緊密にし,検査の目的(感染の原因菌の決定,消長,追求,感染の有無の確認)を明確にし,臨床症状(疑いのある目的菌,菌交代症),治療歴(抗生物質,副腎皮質ホルモン剤,免疫抑制剤など),検体採取の方法,採取場所などを考慮に入れて検査を進めていく.

3.尿路感染症における検査上の注意点

名出 頼男

pp.1511-1514

尿路感染症概論

 多くの細菌検査室において最も頻繁に扱われる検体は尿である.尿路の大部分は健康人では無菌であり,したがって尿路感染症にあっては,採尿法に誤りがないかぎり起因菌の検出は容易であることと,薬剤耐性菌の検出率の高いことがこの現象をもたらす大きな原因である.

 一口に尿路感染症と言っても,その内容は単一ではなく,腎盂腎炎を主体とする上部尿路感染症と膀胱炎を主体とする下部尿路感染症に大別される.尿路感染症も,他の一般感染症と同じく感染成立にあたっては種々の感染準備状態が基底に存在し,その程度,可逆性もしくは自然消失傾向の有無などにより感染症の経過が異なる.表にその代表的なものを示したが,これらは互いに重複することが少なくない.基礎疾患の判然としないものは単純性症と呼ばれ,表にある器質的・機能的尿路異常のあるものは複雑性症と呼ばれることが多い.単純性症の多くは急性症で,複雑性症のかなりのものは慢性症となる.

4.臨床細菌検査における菌の同定の将来

坂崎 利一

pp.1514-1517

 細菌を取り扱う場合には,意識するしないにかかわらず菌の同定が常に付随しているが,その同定をどこまでの範囲で行うかは,菌の種類,目的,同定する人の立場,研究室の規模などによって異なってくる.たとえば,われわれの研究室では腸内細菌の同定には必ずしも生化学的テストのみにとどまらず,必要な場合にはDNAのGC%,あるいはDNAの相同性についても調べ,さらに血清型やファージ型の決定まで行うが,臨床検査室における同定はごくわずかのテストで属か,詳しく行って種までの範囲にとどまっている.これは,同じ同定作業であっても,目的と必要性が異なるからである.したがって,"細菌の同定の将来の動向"を語るにしても,必ずしも一律には述べられないであろう.しかし,本誌の対象とするところは"臨床検査の中の同定"であろうと思われるので,それを中心にしてわたくしの考えを述べてみたい.

Ⅵ.病理

1.産婦人科領域において,感染症あるいは治療の細胞診所見に及ぼす影響

石束 嘉男

pp.1519-1525

 膣・頸管細胞診で認めうる細菌ないしはその他の微生物はかなり多岐にわたり,そのうちあるものは常在非病原性であるが,ときには病原性のものもあり,いずれも上皮細胞に対し一定の細胞学的変化を惹起するものも少なくない.したがって,病原菌それ自体の認識はもちろん重要であるが,逆にある一定の特異な細胞変化を認めることにより,それを引き起こした微生物の存在を推定しうる場合も少なくない.

 今回は産婦人科領域,主として膣あるいは頸管部にて炎症性変化を起こしうる微生物について概説するとともに,それによって引き起こされる細胞学的変化を述べ,さらにそれとはやや趣を異にするが,機械的刺激による組織修復に伴う細胞変化についてもふれてみたいと思う.

2.細胞診のための検体採取・固定・染色

池田 栄雄 , 田中 昇

pp.1525-1529

 細胞診の精度を高め,良好な確診率を維持するうえに,細胞学的観察が重要であることは申すに及ばず,それ以前に検体採取から始まって,良好な標本(smear)を作製することがまずたいせつである.不良な検体採取によってフォールス・ネガティブになることは当然である.

 多くの場合,検体採取が医師の手によって行われるが(婦人科,穿刺など),排出ないし採取された材料がラボラトリー・サイトロジーに送られ,それからスメアを作る喀痰,穿刺液,胃液,髄液などに対する技術的な操作は,すべて技師にまかせられる領域で,スメアの良否を左右する重要なる責任を負っているので,十分に習熟しておかなければならない,細胞診専門技師に限らず,検査技師全般に通じてひととおりは修練しておく必要がある.所属検査部で細胞診を実施していない場合でも,固定標本を専門施設に送付すれば細胞診の目的は達せられるからである.

3.迅速切片作製法

平山 章

pp.1529-1532

日常検査に使われる迅速標本作製法

 現在病理組織検査の中で,迅速標本作製を必要とする場合は何と言っても手術時の迅速診断であるが,最も多く使われている標本作製法としては,次の2つがあげられる.すなわち,固定標本や生標本を電子冷凍器や炭酸ガスなどで凍結して,室温でザルトリウス型ミクロトームやユング型ミクロトームで薄切する方法と,クリオスタット(cryostat)のごとく凍結資料を冷凍室内に入れ,冷却したミクロトームおよびミクロトーム刀で薄切する方法である.

 この両者の基本的な相違点は,前者は簿切の際凍結した資料は室内にあり室温の影響をうけやすく,標本の温度を一定させることがむずかしく,多くの場合は"感"に頼って薄切せざるを得ず,また,標本の厚さも一定せずせいぜい15μくらいの厚さのものが得られるにすぎない.しかし,この場合電子冷凍式のものでは標本の冷却温度の調節は比較的容易であり,また,ユング型ミクロトームに取りつけることが可能であるので,ザルトリウス型凍結ミクロトーム方式に比べて比較的均等な厚さの,しかもかなり薄い(10〜15μ)標本が薄切しうる.

Ⅶ.生理

1.負荷試験—1)心電図,心音図

蔵本 築

pp.1533-1537

負荷心電図

1.負荷心電図の目的

 負荷心電図は狭心症様の胸部圧迫感,疼痛があるが,安静時心電図が正常またはわずかな変化を示すにすぎない時,発作が冠不全によるものかどうかを調べるために行われる.狭心症のある人でも安静時心電図はほぼ半数が正常であり,狭心症発作は普通数分以内に安静によりおさまることが多く,長時間の連続モニターなど特別な方法を用いなければ,発作時の心電図変化を確認することはできない.したがって運動などの負荷を加えて心臓の酸素需要を増加させ,心臓の酸素不足(冠不全)の状態を心電図で判定する方法である.このように負荷心電図検査は狭心症を誘発する危険があるため,医師の指導のもとに十分注意して行うことが必要である.

1.負荷試験—2)脳波

三宅 浩之

pp.1537-1539

脳波検査の目的と負荷脳波の役割

 一般臨床検査の一つとして脳波検査が行われているが,臨床医学の中で脳波検査の果たす役割とその意味づけについて考えることから話をすすめることにしよう.

 脳波が脳の電気現象の一つの反映として,脳機能と密接な関係があることはよく知られている.現在,臨床医が脳機能を探る方法としては,神経学的諸検査,精神医学的諸検査など,身体各部の運動機能,感覚機能,反射,思考・判断・記憶などの精神活動機能などの外部から知りうる現象を通して,神経・精神生理学的な論理を駆使する方法が最も重要である.これは脳の総合活動やコントロール機能を間接的に推定し,診断・治療に応用する方法である.これとは全く経路の異なる脳機能の反映として脳波が診断上の位置づけを得ている.したがって,神経学的検査,精神医学的検査(もちろん,突発的一時的機能異常であるてんかんなどにおいては,臨床経過,現病歴による推定診断も含めて考える)などによる論理的診断と,脳波所見の経験的変化とが一致することで診断の正確度を増すことになる.

1.負荷試験—3)テレメーター心電図およびその磁気記録法

佐藤 忠一

pp.1539-1542

 心電図検査におけるテレメーター法および磁気記録法(以下,テープレコーダー法と記す)の意義を明らかにするため,簡単に負荷試験法の発展の経過を振り返ってみたい.

2.呼吸機能検査のすすめ方—1)一般検査

白石 透 , 毛利 昌史

pp.1543-1546

 呼吸機能検査は非常に多くの種類の測定項目を有するのが特徴であって,解答を求められている課題に対応して,そのうちのいくつかを組み合わせて施行すべき性質のものである.

 一般検査とは,肺の機能的異常の有無を判断すべき,いわゆるスクリーニング検査として用いられる呼吸機能検査項目を指すものと解される.このような目的のためには,従来,スパイログラムが用いられ,その結果によって,さらに精密な検査に進むべきかどうかを判定してきた.しかしながら,大気の汚染などに由来するいわゆる気管支炎の初期には,病変は気管支径2mm以下の,いわゆるサイレント・ゾーンに限局しており,通常のスパイログラムによっては異常を検出しにくいことが明らかとなってきた.その結果,スクリーニング検査のあり方があらためて問われている現状であって,数年のうちには"一般検査"の内容も大きく変化する可能性がある.

2.呼吸機能検査のすすめ方—2)特殊検査

白石 透 , 毛利 昌史

pp.1546-1551

特殊検査とは?

 数多くの呼吸機能検査項目のうち,一般検査に含まれるものを除いた残りの検査項目が,便宜上特殊検査と呼ばれている.何が"特殊"かと言えば,検査項目の選択が臨床側の医師に任されているのではなく,臨床側はその患者について解決したい問題を提起し,検査室の責任者あるいは肺生理専門医が最も適当と考えられる検査項目,検査順序を決定するという点であろう.一般検査の項ですでに述べたが,スクリーニング検査のあり方は近いうちに大きく変わるかもしれない.呼吸機能検査のうち,特殊検査とされるものは表1のごとくきわめて多数にのぼるが,上記の意味での特殊検査としては不適当で,むしろ一般検査として扱いたいものもある.本稿ではこの準一般検査というべきもの,最近注目されている検査などを重点的に解説することにする.

Ⅷ.一般検査

尿の試験紙

猪狩 淳

pp.1553-1554

 試験紙法の利点は術式がきわめて簡単で,特殊な装置や器具を使用する必要のないこと,その場で結果がわかること,検査室の大小,検体の多少にかかわらず利用できることである.それで集団検診,病院,診療所の臨床検査室で広く利用されており,また疾病のスクリーニング検査として利用価値が高いと考えられている.しかし厳密な定量性に欠け,試験紙によっては偽陽性,偽陰性,特に薬尿や濃厚な着色尿は判定不能となるなどの欠点もある.尿検査における各種試験紙法の術式や判定法に関してはこれまでに幾多の技術解説書1,2)などで述べられているので,本稿では試験紙法を実施する時の一般的な注意点と2,3の成績評価における問題点をあげるにとどめた.

Ⅸ.共通機器の進歩

日常検査と共通機器(座談会)

吉野 二男 , 浅川 英男 , 藤巻 道男 , 富山 哲雄 , 松村 義寛

pp.1555-1561

 司会(松村) "共通機器の進歩"というテーマで,日常,われわれの検査室で,技師の皆さんが共通して使っているもの,病理,血液,血清,その他いろいろのところで出てきて,しかも,共通したものというと,天秤,遠心器,ピペット,試験管,そういうものについて,いろいろお話をおうかがいしたいのですが,吉野さん,ひとつお願いします.

 吉野 共通機器の進歩は非常に速いので,なかなか追いつけない,使いきれない,という現状にあるのではないかと思います.私どもみたいに教育に携わっておりますと,新しい人にできるだけそういうことを知ってもらうようにしているんですが,せっかく,機器が進歩しても,使いきれないでいるというのは,残念だと思います.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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