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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査18巻2号

1974年02月発行

雑誌目次

カラーグラフ

Yersinia enterocolitica

丸山 務

pp.130-131

 Yersinia enterocoliticaの感染病像は多彩であるが,発生頻度としては,幼児の下痢症,および虫垂炎を疑わせる胃腸炎症状が最も多い.本菌は腸内細菌科としての一般的性状を示し,分離,同定法も赤痢菌やサルモネラに準ずる.ただし,分離培養および確認培養の一部は25℃ 48時間の条件で行う.本菌感染症では血中抗体価の著しい上昇が認められる場合が多いので,抗体価の測定は診断的な意義を持っている.

技術解説

高速自動化学分析装置・1 CentrifiChem

斎藤 正行 , 松田 基 , 実方 悟 , 中村 健三

pp.133-136

 第3の自動分析機として新しく登場した遠心力を利用したいわゆるFast Analyzer (高速自動化学分析装置)は米国Oak Ridge国立研究所のDr.Norman,G.Andersonらによって1968年に開発されたものである.

 この研究はNIHのGeneral Medical SciencesとAtomic Energy Commissionの両機関よりの援助で行われた関係上,これらの頭文字をとって別名GeMSAECとも呼ばれ,アメリカ政府の特許である.

高速自動化学分析装置・2 RotoChem Ⅱ

奥田 清 , 小林 紀崇

pp.137-142

本装置の概要

 基本的な分析原理は他の遠心方式のfast analyzerと同じである.RotoChem Ⅱでは試薬とサンプルを分注したトランスファーディスク(回転盤)を本体に装填し,反応条件をプログラムしたカートリッジ磁気テープを本装置のテープデッキに装着し,コントロールボタンを押すだけで自動的に測定が開始される.コンピューターは測定中の反応経過を8回とらえ,AD変換,単位(IUほか)への換算,希釈率の補正などを行い,その結果が正常値,異常値,リニアーレンジの表示とともに,ディスプレイタイプライターでタイプアウトされて出てくる.もちろん反応条件の変更なども簡単に行うことができ,他の遠心方式の装置(GeMSAEC,CentrifiChemなど)に比して柔軟性に富むということができよう,さらにコンピューターを利用して,データファイリングや統計処理もある程度可能で,応用範囲が広いのが特徴である.

Yersinia enterocoliticaの検査法

丸山 務

pp.143-148

Yersinia enterocolitica感染症

 Y.enterocoliticaがヒトの病原菌として知られるようになってからの歴史は比較的新しい.本菌は虫垂炎との関連から問題が提起されたこともあって,当初は主として,虫垂炎やこれを疑わせる疾患である腸間膜リンパ節炎,あるいは回腸末端炎の一起因菌として,北欧やフランスなど欧州の一部で注目されていた.その後世界各国から報告された本菌感染症例の累積は,本菌が小児下痢症の重要な起因菌となりうること,さらに,敗血症による死の転機をとる急性経過から,関節炎などの慢性疾患にわたる多彩な病像をとることが明らかにされてきた.

 年齢別,症候別発生頻度では,2歳以下の胃腸炎が大部分を占め,高年齢になるにしたがって病像の多様化がみられる1)(図1).

総説

血液型判定における過誤

遠山 博

pp.149-154

 血液型不適合輸血の原因として,次の2種類の失敗のあることは申すまでもない.

(1)血液型判定の誤り;technical errors(判定用血清の不良,判定方法の誤り,判定技術の未熟,特別な血液で元来誤りやすい血液など)

学会印象記 第24回電気泳動学会総会

—新しい検索の場—ワークショップの登場

加野 象次郎

pp.155

 第24回電気泳動学会総会は,10月19,20日の両日,秋たけなわの仙台(宮城県医師会館)において開かれた.

 本年度の総会は,いくつかの点で特色あるものであった.まず,昨年10月1日逝去された児玉桂三先生の追悼会が合わせ行われたことであり,次にワークショップという新たな企画が試みられたこと,そして,シンポジウムの内容に血漿以外の体液が扱われたこと,などが挙げられよう.

臨床検査の問題点・60

血液培養検査

藤森 一平 , 木村 雅英

pp.156-160

菌の検出率を高めるには,カルチャーボトルの性質をよく知って使い分けなければならない.培地の選択,血液の接種量,採血時期などの技術面の検討のほかに,臨床側の要求にこたえる検査データの出しかたを話し合う.(カットはカルチャーボトルに生えた菌)

異常値の出た時・14

カルシウム

稲垣 克彦 , 柳沢 勉

pp.161-166

 カルシウム(Ca)はリン酸とともに骨骼の形成にあずかるほか,重要な生理機能の発現に不可欠の因子でもある.神経,筋の興奮,血液凝固,またタンパクと結合しやすく酵素タンパク,膜タンパクに結合してそれらの生物学的活性を調節し,ホルモン合成またその作用の発現などと密接な関係を有している.

 成人1人における生体内Caは約1kgでその99%は骨にあり,軟組織に4g,細胞外液には1gが含まれているにすぎない.

論壇

これからの臨床検査

黒川 一郎

pp.168-169

 臨床検査が医療体系の一環として重要なポイントであることはすでに言いつくされているようにみえる.しかし,このような議論があまりにもくり返されると一種の不毛さも感じられるのである.

海外だより

台湾で訪ねた臨床検査室—台湾医学会総會参加のおりに

佐々木 禎一

pp.170-174

 1972年11月,私は台湾医学会第65届総會(The 65 thAnnual Meeting of The Formosan Medical Associa-tion)のシンポジウムに招かれ,牧野秀夫(名古屋保健衛生大,内科),野本昭三(信州大病院,中検)両先生およびTechnicon日本支社の坪武氏とともに台湾を訪れた.

 ちょうど日中国交回復の直後であったためいろいろの懸念推測も口にされたが,結果的には全く友好に満ちた旅行であった.私としては3回目の訪台であったが,今回は学会シンポジウムへの出席と,栄総医院核子医学中心でのセミナーとが主目的であったこと,前記諸先生といっしょだったこと,かつての知己に逢い旧交を温めえたこと,さらに初めて台北市以外の南部を訪問するプランがあったことなどで,初めての台湾訪問のような心境であった.

臨床化学分析談話会より・6

臨床家のするどい観察—臨床家からの提言と分析者の責務

菅野 剛史

pp.175

 167回の関東支部談話会はアイソエンザイムシリーズの第2回でアルカリホスファターゼを特集し,血清アルカリホスファターゼについて東大医・第1内科の鈴木宏先生,尿のアルカリホスファターゼについて東大分院・泌尿器科の阿曽佳郎先生と,王子病院内科の井上昇先生に実例を中心に話題提供をお願いした.以下その概要を紹介する.

1)血清アルカリホスファターゼのアイソザイム

研究

関東逓信病院システムにおける臨床検査データ処理(Ⅱ)—その果たすべき機能と将来構想

春日 誠次 , 鈴木 康之

pp.176-179

 前号には本病院において現在行われているコンピューターによる8つのシステムの概略とその中のひとつである臨床検査のデータ処理システムについて述べた.この現行システムは,システム化以前に行われていた検査室の機能ないしは作業の流れには基本的にふれず,データのファイルという面でコンピューターを利用する方針をとっている.これは臨床検査の現行作業を行いながら,新しいシステムへ移行する過程からすればその第1歩としてやむを得ないひとつの方向であった.検査室内の作業の流れに直接ふれないでデータファイルにのみコンピューターを利用するということは,検査室の作業の繁雑をコンピューターの利用によってより合理的にするのとは別な方向であって,現行の作業に加えてデータファイルのための新たな作業が加わる結果をまねいている.

 一方でこのような繁雑さに加えて,本院における臨床検査データ処理システムの現況としては,

新しい機器の紹介

免疫拡散板による血清IgDおよびIgE測定法の検討

宮谷 勝明 , 高畑 譲二 , 福井 巌

pp.180-182

 免疫グロブリンは,現在IgA,IgM,IgG,IgDおよびIgEの化学的,生物学的性状の異なったタンパクが確認されている1).この中でIgDの免疫グロブリンの占める割合はわずか0.2%である2)とされ,IgEのそれはさらに少なく0.002%に過ぎない3)とされている.このように,きわめて微量成分であるために,正確でしかも容易に測定しうる定量法の開発が望まれていた.最近,Faheyら4)によって完成された一元平板免疫拡散板であるBehringwerkeのIgDおよびIgEを用いて測定を行う場合の測定条件について吟味を加えるとともに,あわせてこれらの測定法を用いて健常成人の血清IgD,IgEをも測定したのでその成績について報告する.

ひろば

小さな誇り

大竹 敬二

pp.182

 検査室仲間から,‘君は何の必要があって,これほどまでに,医療機器に執念を持ち続けるのか,くだらん’とよく言われる.その忠告のたびに,経済的にも決して恵まれない私にも限度はあると反省している.

 しかし限度ある多くの悪条件の中で,多くの方々が努力し,進歩・発展していることだけは確かである.その甲斐あってか,今までの検査部長は,医師または専門職の人に限られていたが,地方の検査技師にも,検査部長になっている方が最近特にふえてきた.また,その方々の理論水準もかなり向上され,技師としての自信と誇りを,若い方々に植えつけるようになった.

物価の高騰に悩む

村田 徳治郎

pp.188

 ピペット操作している時,試験管に試薬を注入した前後の管に注入したかどうか一瞬まようことがよくある.神経を集中しようと努力しているのだが,頭からどうしても離れてくれぬものがある.

 近頃は朝目をさますたびに物が高くなっていることである.しかも生活必需品の上昇には目をまわしてしまうほどである.月給日の翌日でさえ,欲しい技術書なり医書さえ今日このごろは家計を思えば遠慮せねばならなくなった.共稼ぎしてなんとかやりくり算段できたのが,妻君の出産・育児で赤字になった家計のうめあわせをするため,夜おそくまで内職をする友人も珍しくない.医療機関は他の企業と異なり利潤のみを目的としていない以上,そこに働く多くの医療従業員はまさに今日の物価の高騰のため深刻に悩んでいるのである.その不安,心配が仕事の場に持ちこまれそれが仕事に大きな影響を及ぼすのは当然のことである.ましてや労多くして賃金の低い医療機関では,人手不足はますます拍車がかかり看護婦をはじめ患者の給食員らは1人で何倍かの仕事をせざるを得ない状態である.それでも今日では1人の給与で1人が1か月賄なえないのである.

新しいキットの紹介

改良されたアミラーゼ測定キット"DyAmyl-L"の検討

竹久 元彬 , 野中 清美 , 富浦 茂基 , 八島 弘昌

pp.183-188

はじめに

 α-アミラーゼ測定法として,初めて色素結合基質を用いる方法がBabsonら1,2)やCeskaら3,4)により開発されて以来,Amyloclastic法5-7)やSaccharogenic法8,9)などの従来法の欠点である基質デンプンの不安定さや不均一性を解消し,正確度,再現性を向上させ,測定精度を許容範囲内に収めうる代表的アミラーゼ測定方法として,一躍注目を浴びるに至った.さらに市販キットとしてReactone Red 2Bと結合したAmylopectinを基質とする"DyAmyl",Cibacron Blue F3GA-Amyloseを基質とする"Phadebas"などが知られている.これらの市販キットについては種々検討が加えられ,多くの報告10-13)により,その優秀性が実証されている.しかしながら測定に際して用時に基質を溶解させねばならないので非常に煩雑であること,また尿アミラーゼ測定に関しても,いま一歩不満足なものであった.

 今般,Warner-Lambert KKより"DyAmyl"に続いて新たに発表された"DyAmyl-L"キットは,基質と沈殿試薬を液状とし,操作を簡易化させ,沈殿試薬の溶媒をメチルアルコールからエチレングリコールモノメチルエーテルに変更し,測定精度,正確度,再現性などの点において良好な結果が得られるとしている.

MICROSTIXの使用経験—細菌尿の簡単な検査

田尾 巴子 , 鶴田 良子 , 高野 洋子 , 山口 司 , 柴田 進

pp.189-192

 尿路感染症の検査室的診断は,患者から可及的無菌状況で採尿し,①それを遠心沈殿して沈渣を検鏡し,膿球および細菌の有無を調べ,②尿の細菌培養を行い,そこに検出される細菌の種類と数を観察する2方面の技術に要約される.

 ところが検鏡も培養もめんどうであるから,それらを回避し簡単な操作で尿路感染症の患者をふるい分けようとする技術が考案された.まず水の汚染の検査に使用されていたGriess (1879)の亜硝酸塩試薬1-4)を細菌尿のふるい分けに応用する試みがWeltmannによって(1925)行われ2),次いで呼吸活動をしている生菌が,2,3,5-tri-phenyl tetrazolium chloride(TTC)を不溶性で紫紅色のformazanに還元する事実(Wundt,1950)5)に着目し,TTC試薬に一定量の尿を加えて紫紅色沈殿物(37℃4時間)を生ずることをもって細菌尿を検出しようとする単純なテストが発表された(Simmons andWilliams,1962)6)

昭和48年度第27回,28回二級臨床病理技術士資格認定試験学科筆記試験

金子 仁 , 富田 仁 , 吉岡 守正 , 小林 稔

pp.193-205

問題

臨床化学

1)次のような検査成績報告書が出来上った.この場合あなたはどうしますか?

(ただし,血清は約0.3mlしかのこっていない)

霞が関だより・21

やる気と認識—秋の国家試験から

K.I

pp.206

 昨年11月14日,第5回臨床検査技師国家試験,第22回衛生検査技師試験の合格発表があった.過去に行われた他の職種の試験もそうであったが,概して秋の試験は結果がよくないというのが数字のうえからみて言える.

 秋の試験は,受験者数も,春の試験より少ないので,わずかな数によって結果を示すパーセンテージも上下しやすく,見方もいろいろあるが,一般的には次のようになるのではないかと思われる.

質疑応答

血中δ-ALADの測定法について

T生 , 和田 攻

pp.207

 問 下記の方法にてδ-ALADを測定しているが,正常値(0.74〜1.46)よりもはるかに低値がでるがどこに問題があるのでしょうか.考えられる点は,①吸光度をmg/lになおしHt値を1/100倍したものを活性値としている,②凍結時間の多少,の2点であるが,そのほかにどんな点に問題があるのか.なお私の求めた活性値の範囲は0.16〜1.23です.

測定法

日常検査の基礎技術

試験菌株の保存法

坂崎 利一

pp.209-216

 どのような分野の仕事であろうと,微生物を扱う人たちにとって,株の保存は実務に付随する重要な業務である.臨床細菌検査室においても例外ではなく,特に近年,細菌検査の精度管理の必要性が叫ばれているおりから,それに用いる菌株の保存は,これからの臨床検査においては,ないがしろにできない仕事となろう.

 この種の菌は従来しばしば標準菌株と呼ばれているが,この名称は当たらない.生物には標準はありえないし,同じ菌種,同じ血清型であっても,すべての点において完全に同じ菌は存在しえない.それぞれどこかで異なっている.したがって,精度管理に用いる菌株はもちろん由緒正しいものでなければならないが,それは"標準菌株"ではなくて"試験菌株"あるいは"パイロット菌株"と呼ばれなくてはならない.

検査と主要疾患・14

慢性関節リウマチ

塩川 優一

pp.218-219

1.慢性関節リウマチ(RA)の概念

 RAは年齢よりいえば30〜50歳で発病することが多く,性別では女性に多い疾患(80%)である.そのおもな臨床症状は慢性の多発性の関節炎で,関節の変形をきたし,ついには寝たきりになることがある.また内臓にもしばしば病変を認める.

検査機器のメカニズム・26

マグネチックスターラー

水野 映二

pp.220-221

 溶解攪拌,滴定攪拌に使用されるマグネチックスターラーは1個掛の小形から10個掛の大型まで,また加熱攪拌のホットプレート式,および恒温攪拌のウォーターバス式など表2に示すように53種類余り市販されている.今回はその一例の最も簡単な構造の装置について述べる.

検査室の用語事典

常用病名

伊藤 巌

pp.223

10)エリテマトーデス;lupus erythematodes

 全身性エリテマトーデス(略称SLE)とも呼ばれ,患者の80〜90%が女性で,発病は15〜40歳に多い.膠原病の一種で,原因については自己免疫説が有力である.臨床症状は多彩で,顔面の定型的な蝶形発疹を欠くことも少なくない.血液または骨髄穿刺液からLE細胞を証明することが,診断上重要である.しばしば腎病変を伴い,その程度が予後を左右する.治療には副腎皮質ホルモンが用いられる.

血清学的検査

伊藤 忠一

pp.224

8)α-Fetoprotein;αフェトタンパク

 成人肝では産生されないが胎児の肝で産生されるα-globulinである.胎生6週ごろより産生されはじめ,12週から14週で最高値血清濃度(300mg/dl前後)に達し以後徐々に減少し,生後はほとんど血清には検出されなくなる.肝癌,奇形腫などの際に成人の血清中にも高濃度に出現するので,その臨床的診断に応用されている.

走査電顕の目・14

尿沈渣—結核菌

木下 英親 , 田崎 寛

pp.225-226

 腎・膀胱結核も,肺結核と同様,化学療法の出現以来発生頻度は減少してきているが,近年にいたりその減少速度の緩慢化が指摘され,最多発年齢の高年齢化,発生年齢の分散化などが一般的傾向となっている.臨床症状としては,膀胱炎症状が初発症状として最も多いが,腎部腫瘤,側腹痛,腰痛の腎症状や,発熱などの不定症状も多くなり,無症候性血尿を主訴とするものもまた,化学療法時代にはいって増加しているとの報告がある.

 このように,腎・膀胱結核の疫学像,臨床像が変化して,診断がむずかしくなってきているが,尿中結核菌の証明と,静脈性腎盂撮影,逆行性腎盂撮影などによる腎盂像,膀胱鏡検査による膀胱粘膜の所見が,腎・膀胱結核の診断法であることにかわりはなく,これらにより,治療方針が決定され,臨床経過の観察が行なわれている.

シリーズ・一般検査 ふん便検査・2

便の定性検査,顕微鏡的検査

猪狩 淳

pp.227-228

 消化管,特に腸管の吸収機能を知る臨床検査はいろいろあるが,手軽に,患者に負担をかけずにできるものは便検査であろう.便の外観,性状をよく観察することで腸管の機能の良否,炎症性変化の有無を見当づけることができ,さらに便中物質の定性,定量検査,顕微鏡検査で,その状態を確かめうる.

私たちの検査室

日本の結核病学界の中枢にあって—財団法人結核予防会結核研究所附属療養所 臨床検査科

pp.229-232

 往時の結核のメッカ,清瀬市の一角に,この長い名前の私たちの検査室がある.池袋から30分足らずで,近年の街の発展ぶりには目をみはるものがあるが,清瀬村時代の静寂な武蔵野のたたずまいを懐しむ人も多い.この地に13もあった療養所のほとんどが装いも新たに病院と名を変えた今日もなお,古い木造のままで,療養所の名を固執しているのは,いかにも時代遅れのようであるが,古い革袋にも新しい酒は盛られつつある.従来,日本の結核病学界の中枢にあって幾多の業績をあげてきた当研究所の技術を,呼吸器疾患全般に広げ,この専門分野における最高レベルの診療を目ざしてスタッフは日夜努力している.その最も重要な裏付けとなっているのが,私たちの検査室である.

付・私たちの検査室

新しい検査室へ飛躍!

工藤 是祐

pp.233

 歴史的にみると,当療養所は他の病院とは異なり,研究所の診療部門として発足したために,臨床検査室が独立の機能を持つようになったのは比較的近年のことである.

 附属療養所の開設は昭和22年であるが,当初,検査室として結核菌検査を中心とする1室と洗浄滅菌室が用意され,医師1,検査手4がこれにあたった(研究所には以前から病理,細菌,生化学の3部門があった).この状態がしばらく続いたのち,結核の化学療法時代にはいり,また臨床検査の成長期にもあたり昭和35年ごろから急速に規模を拡大して現在に至っている.したがって現在の部屋は需要の増大に応じ,他目的の部屋を次々に譲り受けたため,まにあわせの感が深く,また器材も十分とはいえず,およそ時代の先端をいく検査室といった外観はない.

Senior Course 生化学

自動化学検査・2—自動化の基礎(2)

中 甫

pp.234-235

 前号で自動分析におけるサンプリング,試薬分注および混和,恒温装置について述べたが,今回は,吸光分析,データ記録,その他について解説し,注意点を述べる.

Senior Course 血液

網赤血球の増加と減少

中島 弘二

pp.236-237

 赤血球は骨髄内で生産され末梢血中に供給される.血管内を循環し120日後網内系に取り込まれ破壊される.破壊された量だけ骨髄より補われ,血管内に一定量の血液を保っている.

 赤血球およびその母細胞である赤芽球のすべてを包含する解剖学的系統をerythronと呼び体内のガス運搬を受け持つひとつの臓器として考える.erythronを3つに分けると便利である.すなわち赤芽球,網赤血球,成熟赤血球でありその関係を図1に示した.幹細胞より分化した赤芽球は成熟することにより核が濃縮し細胞質がせまくなり細胞質内にヘモグロビンが生産蓄積されていく.成熟が進むにつれて核はさらに濃縮し無構造となりやがて脱核する.この時点において,完全に成熟した赤血球とは区別される.すなわち脱核したばかりの赤血球はなおミトコンドリア,リボゾーム,セントリオール,ゴルジ小体を含んでいる.ニューメチレン青,ブリリアントクレーシル青による超生体染色によって成熟赤血球と区別されるがこれらの色素によってみられる顆粒状,糸状構造は色素による人工産物であり,リボゾーム,ミトコンドリアなどの細胞内微小構造物の凝集沈殿である.その形態学的特長により網赤血球と呼ばれている.ライトまたはギムザで染色した場合網赤血球は青味を帯びた大型の赤血球として染まる(多染性大赤血球).細胞内に残っているRNAが青く染まる.血管内に入った網赤血球はさらに24時間の間にヘモグロビンののこり20%を作る.

Senior Course 血清

ウイルスの血清学的検査—補体結合(CF)反応

中村 正夫

pp.238-239

 ほとんどのウイルスについて行いうること,また,手技も比較的簡単であるので,ウイルスの血清学的検査方法として最も広く応用されている.

 CF反応は一般に感度が低く,特異性の点で他の反応に多少劣る。また,抗体価の上昇も遅い.乳幼児では一般に抗体産生能が低いため,CF抗体価が認められない場合もある.このようなことは本反応の短所である.

Senior Course 細菌

検査業務での滅菌と消毒の実際

三輪谷 俊夫 , 神木 照雄

pp.240-241

 臨床検査は検査材料の採取から始まる.特に微生物学的検査には検査材料の雑菌汚染(contamination)がその検査結果に重大な悪影響を及ぼすことは周知の事実であり,なにぶん相手が肉眼で見えないものであるだけに,ちょっとの不注意で汚染され,貴重な検査をふいにしてしまうことがある.検査過程において雑菌汚染が起こりうる可能性として次の4つの場合が考えられる.

Senior Course 病理

臨床病理学的立場よりみた電子顕微鏡学・2—電子顕微鏡の種類,特徴および操作法

相原 薫

pp.242-243

 光顕と電顕の基本的相違は,光顕は可視光線を用い,電顕は電子線により像をとらえようとすることにあり,光顕では結像系にガラスレンズを用い電顕では電子レンズを用いている(図1).

Senior Course 生理

心音図

田中 久米夫

pp.244-245

 心音図は1894年W.Einthovenにより始められたが,臨床的使用に耐えうる心音計は,第二次大戦を契機として進歩を遂げた電子工業により完成をみたものである.

 心音図は,臨床的には聴診所見の客観化および恒久的保存記録として利用され,正確な時相の決定や分析もでき,心機図法を応用すればいっそう詳しい心機能の状態をつかみうるなど,心機能検査には欠くことのできないもののひとつである.

Senior Course My Planning

Laboratory Diagnosisとこれからの臨床検査室のEDPS

Y生 , 菅沼 源二

pp.246-247

昨年秋に行われた第5回臨床検査自動化研究会(東京)にも見られるように,現在検査室では,自動化機器をどう使うかから,打ち出されたデータをどう処理するか,またコンピューターをどう生かすかが問題とされている.ホスピタルオートメーションの進むなかでこの"自動化検査室"の問題を技師としてどう考えていったらよいか……

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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