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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査19巻11号

1975年11月発行

雑誌目次

特集 ウイルス疾患の検査法

カラーグラフ

ウイルス抗原の検索—螢光抗体法

倉田 毅

pp.1152-1153

 抗原とそれに対応する抗体とが特異的に結合することを利用して,あらかじめ抗体に螢光色素を標識しておき,螢光顕微鐘により,組織または細胞中の抗原の存在分布を調べる方法が螢光抗体法である.ウイルス学分野においては応用範囲は極めて広く,特に日常検査室でのウイルス抗原の検索には絶対欠かせない手技となっている.短時間で結論が出る点で迅速診断法として極めて有益である.

疾患群と起因ウイルス

病原ウイルスの分類

徐 慶一郎

pp.1155-1160

病原ウイルスの分類

 ウイルス検査を行うに当たって,病原ウイルスにはどのようなものがあるか,それが,現在,分類上どのようなグループに含まれ,どのような基本的性状を持っているのかを知っておくのは,是非必要であろう.

 現在,動物寄生性ウイルスに関しては,Melnick1)の提案に基づく,以下の分類が,一般に採用されている.この中には,現状では,ヒトの疾患と直接関係のないウイルスも含まれているが,ヒトと動物の間には,共通の病原性を示すものも多く,両者を一括した分類は,ウイルスの系統分化の過程を理解する点からも有用であろう.分類の基礎となっているのは,ウィルス粒子の持つ基本的性状で以下のごとくである.

ウイルス検査法概論

血清学的検査法

赤尾 頼幸

pp.1161-1171

 ウイルス粒子の外殻やカプシドは,固有のタンパク質を含む複雑な抗原性を持っているので,ウイルスに感染した宿主は,ウイルス抗原の一つまたそれ以上の抗原に対する種々の免疫反応を示すようになる.したがって細胞性および体液性の免疫が成立し,両者の反応がウイルス性疾患の診断に用いられている.

 細胞性免疫による診断法としては皮膚反応があり,ムンプス,ヘルペス,猫ひっかき病,痘瘡などのウイルス性疾患の診断に用いられている.実際には不活化ウイルスを皮内に接種し,ツベルクリン型の遅延型過敏症の反応があった場合にそのウイルスに対する感染があったと診断するが,一般性は少ないのでここでは省略する.

形態学的証明法—螢光抗体法

倉田 毅

pp.1172-1175

 螢光色素で標識された抗体を用いて,組織または細胞内の抗原との抗原抗体反応を,標識された色素の輝きを指標として観察するのが螢光抗体法である.歴史的には20年あまり前にCoonsがフルオレセイン系色素を用いたのが原法となり,その後数々の改良──特に色素の純度,安定性,標識法,暗視野コンデンサー,などの点で──が行われ,現在に至っている.螢光抗体法は,感度と特異性の面で非常に優れていること,また操作が簡単なため応用範囲は極めて広い.標識しうる抗体が得られるならば,細菌,ウイルス,酵素,組織成分その他などの抗原物質の同定,分布その他の解析に,また日常検査での迅速診断に極めて有力である.総称して免疫螢光法とも呼ばれるが,同じような考え方に立って,標識するものを螢光色素の代わりにフェリチン,酵素(Per-oxidaseなど)を用いる場合は,フェリチン抗体法,酵素抗体法と呼ばれ,電顕下での細胞の微細構造と抗原構造との関連の研究(免疫電顕法と総称)に応用されている.

形態学的証明法—組織(細胞)診

倉田 毅

pp.1176-1179

 ウイルス病を,従来の病理組織学的および細胞診的方法で診断しようとすることは,現段階ではあくまで補助診断の意味しか持ちえなくなってきたし,そのウイルス学領域における応用範囲はそれほど広くはない.すなわち,ウイルス分離,血清学,免疫螢光法および電子顕微銃などによる診断法がこの20年あまりの進歩により,ヒトのウイルス疾患において欠くべからざるものとなった.

 したがってウイルス疾患が疑われる時,できれば上記5項目の診断法をすべて用いるべきであり,それが不可能の場合には3つなり4つなりの方法により確定診断を行わなければならない.病理組織(細胞)学的診断法は,もちろん最低なされなければならないことではあるが,残念ながら極めて特別の場合を除き(例えば狂犬病で脳組織神経細胞中にネグリ小体をみつけること,肝臓における黄熱ウイルスによる特徴的な変化をみつけること,サイトメガロウイルス肺炎の際にみられるふくろうの眼球様封入体など),これだけで疾患の起因ウイルスを推測したり,決定することは不可能に近い.

ウイルス分離法

石井 慶蔵 , 沢田 春美

pp.1180-1189

 ウイルス性疾患の病原診断を効果的に行うには,患者の診察,検査,判定に至る全過程が正しく行われなければならない.検査法の一つであるウイルス分離法にしても同様で,①患者の症状から起因ウイルスの方向づけ,②好適被検材料の採取(採取時期も含めて),③すぐに検査できない場合の保存,輸送,④分離のため接種する宿主動物(または細胞)の選択,⑤その観察方法の5者が正しく行われた時に初めてウイルス分離が可能となる.このうち①については別に述べられるので,ここでは②以下について概論的に述べる.

 なお紙数の制約から簡略に述べる.更に詳細に知るためには専門書1〜4)をみられたい.

ウイルス検査室のデザイン—血清反応

中村 正夫

pp.1192-1200

 臨床検査の立場として,ウイルス検査を行うためには,なお多くの問題点があることは既に述べられているところである1).しかし一方,ウイルス検査の必要性も認められ,その対象となる疾患も増えつつあると思われる.検査術式その他,ウイルスに関する進歩は目覚ましいが,これを実地に応用するためには,今後どのような設備,規模が必要か,主として血清検査を中心に,病院におけるウィルス検査室のデザインを考えてみたいと思う.そのためには,ウイルス検査の特徴および一般血清検査,微生物検査との関連も考慮しなければならない.臨床ウイルス検査の立場では,ウイルス分離あるいは形態学的検査などの意義も大きいが,比較的簡単にできる血清検査が広く行われているのが現状である.これからウイルス検査を始めようとする場合も,まず実行可能な血清検査から試みるのが順序と考えられる.

ウイルス検査室のデザイン—螢光抗体法・ウイルス分離

中村 健

pp.1201-1207

 近年においてウイルス学,臨床ウイルス学の進展に伴ってウイルス診断学も進歩し,日常の臨床にこの成果を導入することがかなり可能になってきている.しかしいろいろな制約があって,ウイルス検査が多くの医療機関で日常検査の一分野として取り入られていないのが現状である.

 現在の検査法では検査室診断をつけるのにたいていの場合,かなりの日数がかかる.ウイルス感染症の治療に,細菌感染症の抗生物質に当たる抗ウイルス剤がほとんどの場合存在しない.技術的な問題,経済的および保険医療制度上の問題がある.

動物ウイルス一覧・1

動物ウイルス一覧

松本 稔

pp.1208

 ほんとは"一覧みたいなもの"である.ちゃんとしたものがほしい方は,次にあげる,この記事の種本をどうぞ."C.Andrews & H.G.Pereira:Viruses of Vertebrates.3rd ed.,1972,Ballière Tindall, London".

 先日,編集の方が見え,人獣共通ウイルスのリストがほしいということから,あれこれ話しているうちに何となく引き受けたが,始めの話とは似ても似つかない,こんなものができてしまった.

ウイルス検査技術

インフルエンザウイルス

武内 安恵

pp.1209-1213

 インフルエンザウイルスの粒子内にはラセン様構造のリボ核タンパク質が含まれS抗原と呼ばれる.S抗原は型特異的で補体結合反応試験により,A型,B型,C型の3型に分類される.このうち特にA型ウイルスは10年またはそれ以上の周期で不連続変異が認められ,現在はH0N1型(1933〜1945),H1N1型(1946〜1956),H2N2型(1957〜1967),H3N2型(1968〜)の亜型に分類されている.更にA型ウイルスは亜型の中でも流行ごとに多少の連続変異が認められる.B型ウイルスも流行ごとに抗原構造に多少の差異がみられるが,比較的緩慢な連続変異のため現在のところ亜型に分けられていない.C型ウイルスはまれに局地的に小流行が認められる程度である.各型の株特異性はHI試験,中和試験などにより分けられる.動物ではブタ,ウマ,トリなどからヒトのA型ウイルスと共通抗原を持つ株が分離されている.インフルエンザに感染すると,発熱,筋肉痛,頭痛,悪寒,咳,咽頭痛,咽頭発赤,チアノーゼ,白血球減少などが認められる.わが国のインフルエンザの流行は通常冬から春にかけて認められるが,ウイルスの変異の程度,抗体保有率,その他環境要因などにより必ずしも一定しない.1957年A型アジアかぜの時は第一波は5月〜7月,第2波は9月〜2月,1968年A型香港かぜは10月〜2月,1973年B型流行は第1波4月〜7月,第2波.9月〜2月に流行がみられている.

パラインフルエンザウイルス

西川 文雄

pp.1214-1219

概説

 1.分類

 パラインフルエンザウイルスは,パラミクソウイルス群に属するウイルスのうち,ヒトに感染してインフルエンザに似た症状を起こすウイルスの総称で,現在1型から4型まで発見されている.4型は抗原構造上A,Bの亜型に分かれる.分類上は,動物のウイルスでパラインフルエンザウイルスと抗原構造の類似しているウイルスも,この中に入れられている.パラミクソウイルス群に属するウイルスを分類すると図1のようになる.

RSウイルス

須藤 恒久

pp.1220-1224

 秋から春にかけて,こども,特に乳幼児の急性気道感染症(ARI)の原因として,最も重要なものは,RSウイルスであるといわれている.RSとは,RespiratorySyncytialの略であって,シンシチウム形成という特異な細胞病原性効果(CPE)を示す呼吸器を犯すウイルスという意味である.

 このウイルスは,1956年米国のMorris1)らによって,チンパンジーの鼻かぜから初めて分離されたので,初めはChimpanzee Coryza Agentと呼ばれたが,翌年Chanockら2)によって,ヒトの間にも,広くARIを起こすことが知られてからRespiratory Syncytial virusと呼ばれることになったものである.赤血球凝集能のないこと,ふ化鶏卵では増殖しないことなどを除けば,インフルエンザ,パラインフルエンザなどと近縁なウイルスでありMetamyxo virusと分類されている.このウイルスが,冬のこどものARIの原因として最も重要なものであることは,世界各地からの報告3,4)で既に明らかにされたことであるが,我々も,わが国での秋から春にかけての小児のARIを検索した結果,RSウイルス感染症は毎年のように流行し,しかも,外国と同様,極めて重要なものであることを確かめて既に報告5,6)したところである.

ライノウイルス,コロナウイルス

金子 克

pp.1225-1229

 かぜ症候群は我々人間の疾病中,最も多い疾病の一つに数えられよう.しかもその病原についてはウイルス,細菌,マイコプラズマなど多種類に及ぶが中でも,ウイルスは病原として,その大部分を占めることがしだいに明らかにされてきている.

 したがってかぜ症候群の病原検索を目的とする場合,ウイルス分離に際してはできるかぎり感受性ある組織培養細胞を多数用意し,またウイルス以外に細菌,マイコプラズマなどの分離も心掛けなければならない.

アデノウイルス

沼崎 義夫

pp.1230-1234

 アデノウイルスは一つのウイルス群であり,ヒトでは1型から31型まで知られている.ヒト以外の動物からも多くのアデノウイルスが分離されている.

 ヒトの病気としては呼吸器と眼が主であるが,まれに膀胱を侵す.またある型のアデノウイルスはハムスターに腫瘍を起こさせるので有名である.

クラミディア

徐 慶一郎

pp.1235-1239

性状

1.宿主域と病原性1)

 クラミディアは,自然界で数多くの鳥類や哺乳類に分布している.

 ヒトにおける感染症としては,感染様式の相違から2群に分けられる.その第1は,直接ヒトからヒトへ感染するもので,トラコーマ,封入体結膜炎,泌尿性器感染症,第四性病がこれに属する.第2のグループは,本来,動物の疾患で,ヒトは偶発的な宿主であり,一般には鳥類から感染するが,その他の家畜や野生の動物からの感染も考えられる.普通には,肺炎が本グループの主たる臨床症状であるが,全身感染症も見られる.また,クラミディアに感染した動物との接触で,ヒトに不顕性感染が起こりうる.動物のクラミディア感染症では,肺炎,脳炎,流産,関節炎,下痢や結膜炎の発生がみられ,また,健康キャリヤーの存在が知られている.

マイコプラスマ

富山 哲雄

pp.1240-1245

 マイコプラスマは細胞壁を欠く微生物群の一つで,ミクソウイルス程度の大きさであるが,適当な人工培地でよく発育する.すなわち,生細胞なしで培養できる最小の微生物といえる.また,動物タンパクやステロイドを要求する独特の微生物である.

 現在,マイコプラスマのうち,肺炎マイコプラスマが,原発性非定型肺炎をはじめとする軽重様々の急性呼吸器感染症の高頻度の病原として知られているほか,肋膜炎,中耳炎,髄膜炎,敗血症,発疹性疾患,眼炎,尿道炎,Guillain-Barré症候群,Stevens-Johnson症候群など広範囲の疾患が報告されている.

ムンプスウイルス

長瀬 正俊

pp.1246-1249

 ムンプスは臨床的には主として耳下腺の腫脹と発熱によって気付かれるウイルス病で,その定型例を流行期にみた場合には臨床的にも比較的診断が容易である.しかし耳下腺の腫脹を認めない不顕性感染も30〜40%はあってウイルス学的検査によって初めてムンプスと分かる場合も予想以上に多い.特に髄膜脳炎を合併(合併率0.5〜10%)した場合にはウイルス学的検査が診断の決め手となりうる.ムンプスは一般的には軽症と考えられがちであるが中枢神経に対する侵襲がまれならずあるほか,睾丸炎(合併率,成人男子の約20%),卵巣炎(合併率,成人女子の約5%),膵臓炎もみられ,最近では心疾患との関係も判明してきているので,検査の重要性が増している.

 感染はムンプスウイルスを含んだ飛沫がヒトからヒトに伝播することによって起こり,発病までの潜伏期は2〜3週間である.

日本脳炎ウイルス

緒方 隆幸

pp.1250-1254

 1967年以来日本脳炎の患者数は急激に減少しており,一方,日本脳炎流行予測事業の一環として行われている屠場豚の血清を指標とした血球凝集抑制抗体測定および採集蚊(主としてコガタアカイエカ)よりのウイルス分離成績などによっても,近年,日本脳炎ウイルスの撒布が異常に減少していることが,これを裏付けているように思われる.しかし,この状態から推測して日本から遠からず日本脳炎ウイルスが消滅してしまうと考えるのはまだ早計である.ヒトおよび感受性動物の免疫の動態,媒介蚊の急増,農薬の種類と使用状況,気象,環境の変化などの因子が偶然重なると,過去の歴史が物語っているような大流行が,またいつ発生するか分からないとみるのが妥当だと考える.したがって日本脳炎の診断も右記に掲げるいくつかの方法があるが,今後の流行に備えウイルス分離とその同定をはじめ,種々の検査手技を熟練しておく必要がある.また抗原や抗血清なども常備しておくことが肝要である.なお現在,血清学的検査の器材,設備がよくなり,また血清,抗原などの量も少なくてすみ,簡便でそのうえ迅速に検査ができるようになったので,検査室では専らこれに重点がおかれる傾向にあるが,患者材料からの病因ウイルスそのものを分離同定することができれば,診断として最も確実であるといえる.

エンテロ群(ポリオ,コクサッキー,エコー)

原 稔

pp.1255-1263

エンテロ群とは

 ポリオ,コクサッキー,エコーの各ウイルスは,いずれもヒトの腸管で増殖するところから一括されて,1957年に初めてエンテロウイルス群と呼ばれた.その後,ライノウイルスとともに,小型(Picoピコ)のエーテル耐性のRNA (rnaルナ)ウイルス,いわゆるピコルナウイルス群の亜群として分類された.

麻疹ウイルス

牧野 慧

pp.1264-1268

 麻疹の診断は特殊な症例を除いて,一般に臨床診断で十分である.特にコプリック(Koplik)斑の確認は重要な診断の手掛かりとなる.臨床診断だけでは不十分な場合もある.例えば.コプリック斑の消失時期に出合った非定型的な発疹あるいは異常経過を示した麻疹,麻疹脳炎と他ウイルス脳炎の鑑別を必要とする場合(特にヘルペス脳炎との重感染),亜急性硬化性全脳炎,無発疹性麻疹にみられる巨細胞性肺炎などは,臨床検査法または実験室内試験法によって的確に診断される.そのためには検査手技をマスターすることはいうまでもないが,検査材料が十分考慮された適正なものであることが重要な鍵となる.適正な検体を採取するには,ある程度麻疹の病因に関する知識が必要である.

風疹ウイルス

植田 浩司 , 吉川 ひろみ

pp.1269-1273

 風疹ウイルスの臨床検査は発疹性疾患が風疹ウイルスによるものか否かの鑑別に用いられる.娠妊初期の3〜4か月の間の風疹罹患妊婦からは先天異常(白内障,心疾患,難聴,新生児栓球減少性紫斑病など)を持つ子供が生まれ,これを先天性風疹症候群と称している.したがってこの検査の成績がしばしば人工流産の適応を決定することになる.先天異常の原因が風疹ウイルスの胎内感染によるものであるか否かの診断をつけることもこの検査の応用で可能である.風疹ウイルスの実験室診断にはウイルス分離1〜3),および風疹赤血球凝集抑制試験(HI試験)4),補体結合反応(CF反応)5,6),中和試験7),螢光抗体法8)があり,わが国でもその方法の解説と検討が行われている9〜12).臨床検査の目的ではHI試験を用いることが最も多い.

痘瘡ウイルス

北村 敬

pp.1274-1279

 痘瘡は,痘瘡ウイルス(variola virus)がヒトに全身感染を起こして呈する重篤な感染症であるが,不思議なことに,痘瘡ウイルスの病原性はヒト以外の動物においては極めて弱く,動物モデルでヒトの痘瘡を再現して研究することができない.これに対して,痘瘡ワクチンに用いられるワクチニアウイルス(vaccinia virus)は,ヒトにおける病原性は痘瘡ウイルスよりはるかに低いのに対し,実験動物,組織培養などにおける感受性の宿主域が極めて広く,動物モデルによる実験的研究が容易に行われる.痘瘡の感染はヒト—ヒト,ヒト—ヒト由来の汚染物件—ヒトの経路で行われるので痘瘡の臨床ウイルス学的検査は患者材料に限られると考えてよい.しかし,一般検査機関で痘瘡のウイルス学的検査を行うことは極めてまれで,多くは,痘瘡の副作用のウイルス学的検索に限られると思われるので,以下の記述の中では,ワクチニアウイルスについてもできるかぎり詳しく説明することにする.

 痘瘡ウイルスには死亡率の高い大痘瘡(variola major)ウイルスと,死亡率の低い小痘瘡(variola minor,またはAlastrim)ウイルスの2種があり,前者はアジア型で,死亡率は40〜50%に及び,後者は南米,アフリカ型で,臨床症状は大痘瘡とほとんど差異がないが,死亡率のみ5%以下と低く,ウイルス学的にも,後述のように両者は区別可能である.

HB抗原

今井 光信 , 高橋 和明 , 津田 文男 , 真弓 忠

pp.1280-1286

 Hepatitis B virus (HBV)の間接検出法として,最近,HBVが作る抗原タンパクを免疫学的方法で検出測定することが一般的になった.今のところ,HBVの作る抗原タンパクは3種類あり,1つはHB surface抗原タンパク(Australia抗原),2つ目はHB core抗原タンパク,3つ目は"e"抗原タンパクである.このHB surface抗原タンパク(HBs抗原)とHB core抗原タンパク(HBc抗原)はHBV粒子と目されている大型球型粒子(Dane粒子)の表面と芯を構成している関係があり,そのためにsurface抗原とかcore抗原とか呼ばれている.しかし,両タンパクとも別々に作られ,特にHBs抗原はそれのみで血中に多量に小球型粒子,管状粒子として出現してくる.3つ目の"e"抗原タンパクは,現在のところHBs抗原,HBc抗原のタンパク粒子とは別々の独立した,分子量も数十万程度のタンパクで,普通,電頭では粒子として捕らえれていない.これら3つのHBVに規定された抗原タンパクの血中への出現をHBVの急性感染症である急性B型肝炎の経過を例として図1に図示する.

単純ヘルペスウイルス

吉野 亀三郎

pp.1287-1291

分離・同定法

 単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus,以下HSVと称す)の疾患は口内炎・角膜炎・口唇ヘルペス・頬部ヘルペス・外陰膣炎・陰茎ヘルペスのように外部に露出した病巣の場合が多いから,直接ウイルスを分離同定して診断に資する率が高い.その他,ヘルペス脳炎の生検材料や死後の剖検材料からの分離も同じ方法に準じて行われる.ただしヘルペス脳炎患者の脊髄液からのウイルス分離は,正常人でも陽性のことがあるので注意を要する.

EBウイルス

中村 正夫

pp.1292-1296

 EBウイルス(EBV)はEpstein1)らによってバーキットリンパ腫(BL)由来の樹立細胞中に見出され,その後,伝染性単核症(IM)2)および上咽頭癌(NPC)3)にも深い関連のあることも知られてきた.もしEBVがこれら疾患の病原体であるとすれば,ヒトの悪性腫瘍の原因になるということと同時に,一つのウイルスが,腫瘍のみならずIMのような非腫瘍性の疾患をも起こすということになり,臨床ウイルス学的にも興味あるものと考える.しかも,抗体保有状況を調べた結果では,わが国においてもこのウイルスはかなり広く浸淫しており,2歳くらいまでの間にほとんどのものが感染するらしいことも分かってきた4).それにもかかわらず,わが国においてどのような疾患を起こすかについてはほとんど分かっていない.

 EBV感染症を知るためには,どのような疾患を対象とし,どのような検査を行う必要があるかなどについて,簡単に述べたいと思う.

サイトメガロウイルス

我妻 嘉孝

pp.1297-1301

 サイトメガロウイルスによる巨細胞封入体症は古くから知られた疾患であるが,1952年,Fetterman1)が生前の尿沈渣に核内封入体を有する巨細胞を認め,生前の診断の可能なることを推定するまでは,剖検によってのみ診断が可能であった.

 そして1956年,Smith2)によってこのウイルスが分離されるに及び,ようやくサイトメガロウイルス感染症の検索が可能となり,その種々の臨床像が解明されてきた(表1).

水痘ウイルス

本藤 良

pp.1302-1308

 水痘ウィルスは形態学的およびその他の特徴からヘルペスウイルス群に属するウイルスで,臨床的には2つの異なる症状,すなわち水痘症と帯状癒疹を生ずることでよく知られている.このウイルスは,in vitroの場合cell-associate (細胞結合性)で培養液中に感染性のcell-free (細胞遊離)ウイルスとしては認められず,また実験動物には感染しない極めて宿主領域の狭いウイルスである.したがって,ウイルスの取り扱い,高感染価のcell-freeウイルスを得ること,抗血清の作製が困難であり,また動物を用いた感染モデル実験が不可能であることなどが研究の進展を妨げてきたゆえんである.最近ではこれら手技の面にも新しい技術,改良が加えられ,本疾患における検査は必ずしも困難なものではなくなってきている.また本疾患と単純疱疹,種痘後第二次発疹および多くの発疹性類似疾患との鑑別診断の必要性が強く要求され,臨床ウイルス学的にも非常に関心が持たれてきている.

 本稿では検査に必要なウイルス取り扱い法と検査法について,検査法の一般原則に従い考察していきたい.

座談会

ウイルス検査のデザイン

徐 慶一郎 , 中村 正夫 , 松橋 直 , 郡司 俊実 , 中村 健 , 折田 定雄 , 高橋 昭三

pp.1310-1319

 ウイルス疾患の治療の進展に伴い,ウイルス検査が中検でルーチン化される施設の増加が予想される.そこでウイルス検査の現況を紹介しながら,ウイルス検査のこれからの中検でのあり方,いかにプランニングされるべきか,更にはその情報をどう臨床に返していくか,そのシステムをめぐって話し合う.

ウイルスのことば

ウイルス・ゲノム

日沼 頼夫

pp.1160

 ウイルスの遺伝子をさす.ウイルスのみならず,すべての生物は遺伝子を持っているわけであるが,その化学的本態は核酸(nucleic acid)である.他の生物の遺伝子はすべてDNAであるが,ウイルスの場合はその種類によって,DNAを遺伝子とするものもあり,RNAを遺伝子とするものもある.遺伝子というものはその生物の複製を行うための本態に対する機能的表現であり,その化学的本態は核酸であるということになる.ウイルス・ゲノム(viral genome)の機能は自己複製を行うだけでなく,宿主細胞のゲノムにも作用する場合がある.例えば腫瘍ウイルスのゲノムは正常細胞を腫瘍細胞にトランスフォームする機能を持っている.ゲノムは,もちろん,一つの機能だけでなく,その大きさ(核酸の分子量)の大きいほど,機能も多数複雑となる.最も小さいRNAファージの場合は,たった3つの機能(3種のタンパクを合成)しか持たないものもある.

SSPE

水谷 裕迪

pp.1171

 Subacute Sclerosing Panencephalitis (亜急性硬化性全脳炎)の略.麻疹ウイルスの遅発性感染型と考えられ,その発生頻度は100万人に1人といわれるほどまれなものであるが,定型例は麻疹罹患数年後に知能低下,人格変化などの症状をもって徐々に発症し,やがてミオクローヌス,アテトーゼ様運動,振顫などの症状も出現し,さらに徐々に進行して遂に脳皮質機能が全く消失し,2〜3年のうちに大部分死亡する,脳波では2〜3Hzの棘波を混じた高圧のparoxysmal burstとこれに続く平低化が両側同期性に一定間隔をおいて現れ,髄液γグロブリンは15%以上に増加し,血清および髄液中の麻疹抗体価が異常に上昇している.脳生検では,神経細胞およびグリア細胞核内にエオジン好性Cowdry A型封入体を認め,電顕で麻疹ウイルスのヌクレオキャプシド(ウイルスの遺伝情報が荷われている核タンパク)様構造を認める.

Transformation

日沼 頼夫

pp.1179

 日本語では,カタカナで"トランスフォーメーション"と一般に記されている.また"転換","形質転換"あるいは"変身"と評している場合もある.いろいろあるのは定着した訳語がないためで,英語でそのまま記すか,上記のカタカナ記載になっているほうが多い,正常細胞を試験管内で培養したものに,ある腫瘍ウイルスを感染させると,その形態が変化してしまう.形態変化だけでなく,増殖度も高くなるし,細胞長面も変化するし,他のこの生化学的性質も変わっている.この変化した細胞には特にmalignant transforma-tionという場合もある.腫瘍ウイルスのゲノムが正常細胞のゲノムに作用して,その細胞の性質を悪性(癌性)に変化させるというのがその機能である.ウイルスのみならず,化学制癌剤でもこのtransformationを起こしうることがある.

急性出血性結膜炎(AHC)

甲野 礼作

pp.1200

 本症は1969年西アフリカのガーナに初発し,3年後わが国に到達し爾来しばしば流行を繰り返している新型ウイルス性結膜炎で,その病原ウイルスは甲野らによって初めて分離きれ,その後世界各地でこの事実が確認された.甲野らはこのウイルスをAHCウイルスと名付けたが,後にenterovirus type70と正式に分類された.初発がアポロ11号の月着陸と時が同じころであったためアポロ11病と俗称される.48時間以内の短い潜伏期の後,激しい結膜炎を起こし,その名のように結膜下の出血を生ずるのが特徴である.び浸性角膜炎も併発するが,一般に予後はよく2週間以内に全治するのが普通である.まれに数日から数週後,脳神経または脊髄の支配領域に運動麻痺を起こすことがあり注意を要する.本症はガーナ初発後アフリカ・ヨーロッパに広がり,1970年以後ジャワ島から全アジアにパンデミーを起こし,患者数は少なく見積っても数百万人に達した.発病3日以内の結膜ぬぐい液をヒト由来の細胞培養に接種するとウイルス分離ができる.培養温度は33℃が至適である.

Simian virus

山内 一也

pp.1239

 サルが自然宿主とみなされるウイルスの総称で,多くはサルの腎臓や脳の組織培養もしくは血液,ふん便などから分離されている.現在75種類以上あり,今後更に増えるものと考えられている.アデノとピコルナ群のウイルスが最も多く約半分を占める.この他,ポツクス,ミクソ,パラミクソ,ヘルペス群などのウイルスが知られている.サル由来のウイルスにはヒトで重症の感染を起こすものがあり,代表的なものとしてヘルペスBウイルスがあげられる.SV40,ヘルペス,サイミリ,サル肉腫ウイルスなどのように腫瘍を作るものもあり,特に後2者はサルに白血病を引き起こすことで重要視されている.サルの腎臓細胞に汚染して空胞変性の原因になるウイルスはfoamyウイルスと呼ばれており,サルの腎臓細胞培養時の大きな障害になっている.

Slow virus感染症

甲野 礼作

pp.1273

 Slow virus感染症は一般に極めて長い潜伏期の後に,徐々に発病し,遷延する進行性経過をとり,予後の悪いウイルス感染症ということができる.これには2つの疾患群があり,第1群はクルー,クロイツフェルド・ヤコブ病(以上ヒト),スクレピー(ヒツジ),ミンク脳症(ミンク)の4疾患が属し,脳に海綿様変性を生ずるので海綿様変性脳症とも総称される.病原は微小で,感染性核酸そのものともいわれ,植物ウイルス学領域で知られているviroidかもしれないという.一切の免疫反応,炎症反応を欠いている.これに対して第2群は,既知のウイルスの持続性潜伏性感染を基盤とし,これに宿主の免疫反応がからみ合って生ずる疾患群である.亜急性硬化性全脳炎(SSPE)はその代表で,ハシカウイルスが原因であり,これに対する宿主の免疫亢進状態がある.一方,多巣性白質脳症は,SV40株のパポバウイルスを病原とし,宿主の免疫不全状態を基盤として起こる病気で,炎症反応を欠き,多巣性の脱髄巣が主病変となっている.いずれもまれな疾患である.

総説

TPHAテストの迅速化,特にMicrotiter法の応用

岩下 健三 , 相河 和夫

pp.1323-1329

 梅毒の血清学的検査法には,従来のCardio-lipin-LecithinによるSTS(serologic test forsyphilis)とNelson-Mayer(1949)により開発された梅毒病原体(Treponema Pallidum)由来の抗原によるTp抗原反応とがある.前者にはガラス板法,緒方法,Kolmer法など,また,後者にはTPI, FTA-ABS, TPHA法などがあるが,前者,すなわちSTSだけで梅毒と断定することの危険なことはいうまでもない.

 というのは,第一にSTSは陽性でも梅毒でないもの,すなわち生物学的偽陽性反応(biologi-cally false positive reaction, BFPといわれる)がマラリヤ,癩をはじめ多数知られているからであり,また,第二にはSTSは陰性でも梅毒であるもの──古い梅毒であるが──が少なからず見出され,かかる例からの感染が決して少ないとはいえないからである.

座談会

TPHAのマイクロ化と迅速化

藤田 和子 , 宮地 隆興 , 河合 忠 , 山田 昇 , 大井 利孝 , 福岡 良男 , 岡本 憲雅 , 松橋 直

pp.1330-1340

 同じテーマの昨年の座談会(Vol.18 No.10)の結果をふまえて改善されたメーカーの試薬を,今年も再度同じ施設に配布し,比較実験をしてみた.その経験とデータから,TPHAのマイクロ化の標準的な方法を追求してみる.

異常値・異常反応の出た時・35

免疫グロブリン

大谷 英樹

pp.1341-1347

 免疫グロブリンの異常を見出す方法として,主にセルロースアセテート電気泳動法が用いられているが,更に免疫電気泳動法による免疫グロブリンの分析,免疫化学的方法による免疫グロブリンの定量法などが利用されている.免疫グロブリンIgG,IgAおよびIgMの測定にはManciniら(1965)の考案した免疫拡散法(single radialimmunodiffusion)ならびに重層沈降反応によるOudin法(1946),また抗原抗体結合物の螢光比濁(fluoronephelometric)による自動化法があるが,前者が日常検査として最も普及しているので,ここでは本法による知見を中心に述べる.

 なお,血中に微量に存在するIgEの定量にはradioimmunoassay法が用いられるが,現在のところ特殊臨床検査室あるいは研究室で行われているにすぎなく,また免疫拡散法はIgEの測定には適しているとはいえないが,約500ng/ml以上の高IgE免疫グロブリン血症のスクリーニングに用いられる.

検査と主要疾患・35

熱傷

吉岡 敏治 , 島崎 修次 , 杉本 侃

pp.1352-1353

1.熱傷とは

 熱傷は単なる皮膚の熱による局所障害と考えてはならない.広範囲熱傷では急激な体液の変化とあらゆる組織臓器の機能低下を来す.またその長い経過中には局所感染,全身感染,致命的な多種多様な合併症が見られる.したがって他に類をみないほどの全身的な変化を来す最大の外傷と考えねばならない.

検査機器のメカニズム・47

皮膚温度計

大橋 重信

pp.1354-1355

 皮膚温度は流入する熱量と,流出する熱量の総和である.四肢の表面では,組織における熱の発生量は血流によって運び込まれる熱量に比べて著しく少ないから,環境条件を一定にすれば皮膚温度は主として血流量に左右される,皮膚温度は代謝,着衣,発汗,環境の温度と湿度および風速などに大きな影響を受けるが,この点に注意すれば,この測定は局所の血流状態の一面を知る手段となる.

検査室の用語事典

臨床化学検査

坂岸 良克

pp.1357

82) Osmolality;モル浸透圧

 Osmolすなわち(モル)×(分子の解離数)当たりの浸透圧で表される濃度.血清,尿では解離が複雑なため他の単位に換算できない.1/1000のm Osmolが常用される.

病理学的検査

若狭 治毅

pp.1358

99) Rheumatoid nodule;リウマチ結節

 これはリウマチ患者の皮下に見られる結節のことで,中央部にAzan-Mallory染色で赤染する類線維素壊死(fibrinoid necrosis)を有し,その周辺に線維芽細胞が柵状に配列し,更に多核白血球をまじえる.

臨床化学分析談話会より・27<関東支部>

1回測定で活発な討論—遊離脂肪酸測定の問題点

野間 昭夫

pp.1359

 第184回分析談話会関東支部会(1975.7.15)が例のごとく東大薬学部記念講堂において行なわれた.当日のテーマは「なぜいけないか,本当によいのか」シリーズの第3回として遊離脂肪酸が取り上げられた.遊離脂肪酸はその代謝および臨床的意義が解明されるに従ってルーチンに検査を行う病院が多くなってきた現在であるが,測定法には多くの問題点を含んでおり,この点に焦点が合わされた.まず春日先生(関東逓信病院)によって,遊離脂肪酸測定を妨害するリン脂質を中心にして講演があり,次いで銅試薬を中心にした観点より中島先生(日本医大)が講演された.最後に臨床的立場より「遊離脂肪酸測定が臨床的に必要か」というテーマで中村(治)先生(慶大)が多くの症例をもとにしたデータを示されて講演された.その3先生の講演の要旨を記述すると,まず春日先生は遊離脂肪酸比色定量法の問題点として.

(1)溶媒で遊離脂肪酸を抽出する場合にリン脂質がどの程度同時に抽出されるか,

Senior Course 生化学

—酵素の初速度測定—ALP Ⅰ

大場 操児

pp.1360-1361

 コード番号3.1.3.1に分類され,系統名は,Orthophosphoric monoester phosphohydrolaseが与えられており,Alkaline phosphataseが常用名となっている.酸性ホスファターゼの系統名も同様で,コード番号は3.1.3.2に分類されている.

 アルカリ性ホスファターゼは,ホスフォエステラーゼ,ホスファミダーゼ,ピロホスファターゼなどのリン酸結合を水解する一群の酵素をphosphataseと総称している.

Senior Course 血液

—検査室から見た血液疾患の特徴—血小板減少症

松原 高賢

pp.1362-1363

 血小板数は通常,14%硫酸マグネシウムを用いるFo-nio法またはBrecher-Cronkiteの直接法によって測定されているが,いずれによるも正常値は15〜40万,平均約25万であるから,10万以下の場合に減少,50万以上の場合に増加と判定してよかろう.

 血小板減少を起こす疾患には種々雑多なものがあるが,表のように分類すると臨床検査の進め方を理解するのに都合がよい.

Senior Course 血清

—最新の免疫学的検査法—免疫不全症候群Ⅴ—治療法

冨永 喜久男

pp.1364-1365

 前回までに免疫不全症候群の主に基礎的な部分を述べてきたが,本号ではその治療について紹介し締めくくりとしたい.

 他の疾患におけると同様,いかなる種類(前号参照)のIDであるかを早期に診断することが最も重要である.また患者の病像は感染症の反復が中心であるところから,適当な抗生物質により感染症を治癒せしめ,更にこれを予防することに努力が払われる.またIDに関する特殊療法としては,Igないし血漿の補充,骨髄や胸腺の移植に加えて最近はtransfer factorが注目されている.

Senior Course 細菌

—病原性球菌の分離,同定—嫌気性菌の分離の基礎

鈴木 祥一郎 , 渡辺 邦友

pp.1366-1367

 臨床細菌学における嫌気性菌の重要性は,最近内外においてますます認められてきた.同時にまた,嫌気性菌の分離,同定の技術の進歩は目をみはるものがある.この方面に携わるものは常に新しい知識と技術の吸収に努めねばなるまい.以下,頁数の関係で詳細は文献にゆずることが多いが,文献にあげた書物は座右において勉強する心構えが必要であろう.

Senior Course 病理

—新しい病理組織標本の作り方—標本作製中に起こる人工産物 Ⅰ

平山 章

pp.1368-1369

 染色標本を作製する時,従来述べてきたいろいろな要素が染色結果に影響を与えるが,本号と次号でそれらの影響を与える因子の代表的なものを取り上げ写真を呈示する.

 いわゆる標本作製に影響を与える因子は数えきれないほどあるが,ここではもちろん最も多く経験する因子についてのみあげる.

Senior Course 生理

人工ペースメーカーの心電図モニター—経静脈カテーテル電極型ペースメーカー

高橋 宣光

pp.1370-1371

 薬物で治療困難な徐脈性不整脈に対し,またこれに合併することの多い心室細動,高度房室ブロック・心停止により起こるアダムス・ストークス発作,急死,または心不全を予防するため,人工ペースメーカー(以下,PM)の植え込みが行われる.その有用性は広く認められ,わが国においてもPM植え込み患者の数は年々増加し,1975年末には総計4,500人に達するであろうといわれている.

 ところが植え込み後の合併症もまれではなく,植え込み後の患者管理の重要さが指摘され,そのため各所にPMクリニックが設けられている.一方,植え込み患者が増すと,一般病院における臨床検査技師もこれら患者の心電図を撮ったり,合併症を診断する機会が増えるであろう.以下,人工PMとして最も多く用いられている経静脈カテーテル電極PM植え込み患者から得られる種々の正常ならびに異常心電図の意義について述べる.

Senior Course My Planning

臨床細菌検査体制への提言

中森 純三

pp.1372-1373

 臨床検査全般にわたり機械化・簡易化が進むなかで,細菌検査はなかなかそれが困難で,経験と熟練とが先行してきた.しかし,検査の種類と量の増加により,検査の精度アップと能率化のために,細菌検査体制を考え直す必要に迫まられている.筆者は地方の病院,検査センターの細菌検査体制の実態調査(本誌Vol.19 No.3)を行う機会を得たので,その中から,問題点を取り上げ,意見を述べたい.

 筆者は細菌相手に禄を食みかなりの歳月になるが,その内容は,ごく一部の細菌を対象とした調査・研究を主としており,いわゆる臨床細菌検査の実務に従事した経験は皆無である.したがって,筆者自身,外野スタンドから主審のジャッジにクレームをつける野球狂を思い出し,まさに"汗顔"の心境であるが,一つの話題提供とご理解願えれば幸いである.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

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今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

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今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

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今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

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今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

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今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

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今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

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今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

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今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

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今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

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今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

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今月の特集2 血算値判読の極意

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今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

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今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

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58巻8号(2014年8月発行)

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今月の特集2 血栓症時代の検査

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58巻6号(2014年6月発行)

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58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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