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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査20巻9号

1976年09月発行

雑誌目次

カラーグラフ

—細菌の塗抹・培養 Ⅲ—腸管感染原因菌 2

小寺 健一

pp.880-881

腸管系感染症のうち,Shigella属菌による疾患は近年減少しているが,一方Salmonella typhi,Salmonella Paratyphi AおよびB,Salmonella sendaiを除くSalmonella属菌による食中毒型腸管感染が増加しつつある(保菌率は約0.6%).患者からShigella属菌を分離同定するに当たって注意しなければならないことは,Shigella属菌は大腸菌その他と共通抗原をもっている.特に病原大腸菌などは,生物学的性状のうち,TSI培地18〜24時間培養では,乳糖非分解性でガスを産生せず,赤痢菌の因子血清に凝集するので,誤って赤痢菌と判定されやすい.また,分離に当たってはいうまでもなく,SSカンテン培地は選択性が強くて分離率が悪いので,DHL培地などの選択性の弱い培地の併用が望ましい.

S. typhiについて,院内感染を予防する目的で入院予定者の保菌者検索を約1年間行ったところ,数例の保菌者を検出したことがある.特に胆石症の患者などは,ぜひ入院前に検査した後入院させることが必要である.また,新生児のサルモネラ感染の防止対策として,妊産婦の入院前検便は必須である.

技術解説

血小板抗体検査・1

安永 幸二郎 , 大熊 稔

pp.883-890

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic th-rombocytopenic purpura;ITP)の発生機序に血小板の自己免疫が関与するという見解は多くの人によって支持されており,血小板減少症患者の血清中に血小板抗体を証明することは本症の診断に一つの有力なよりどころを与えるものである.

 血小板抗体の検出には血小板凝集試験,混合凝集試験,補体結合試験,抗グロブリン消費試験,セロトニン摂取阻止試験,セロトニン放出試験,血小板第3因子放出試験,ウサギ血小板減少効果などがある4)が,これらの検査成績は必ずしも同一の態度をとるものではなく,抗体力価の高いものではほとんどすべての検査で陽性の成績が得られるが,ある検査で陽性でも,他の検査は陰性という場合もしばしばみられ,このことは血小板抗体の多様性を示唆するものと老えられる.したがって,血小板抗体の証明法はなるべく二,三の検査,それも機序の異なる検査法を並行して行うことが望ましい.以下,①血小板凝集試験,②血小板補体結合試験,③血小板抗グロブリン消費試験,④血小板14C—セロトニン放出試験,の4検査の実施方法について,教室で行っている方法を中心に解説することにする.

コントロールチャートの読み方・2

𠮷野 二男

pp.891-896

双値法(Twin Plot method)

 管理用検体として2種類の濃度のものを用いる.もし,一つが正常値付近のものならば,もう一つは異常値付近の値をもつもの,あるいは高い値のものと低い値のものというようにする.

 従来用いられていた管理用検体は,ほぼ正常値付近の値のものであったが,臨床検査は正常値付近の値を精密に求めるのも必要であるが,異常値を見付けだし,その精度についても信頼性の十分高いものであることが必要である.

ヒス束心電図

比江嶋 一昌

pp.897-904

 以前は,心電図は読めるけれど,不整脈は苦手とした人が多かった.その理由は,複雑な不整脈に出会った場合,電気生理学にある程度精通していて,推理を働かせないと,標準心電図だけからその不整脈を分析するのが,難しかったためである.ところが,ヒス束心電図の臨床への登場とその発展に伴い,心腔内のいろいろな場所から同時にそれらの電位が記録されるようになり,その結果,不整脈の分析も一段と容易になって,しかもその説明に信ぴょう性がいっそう加わってきた.

 ヒス束心電図は,また心房あるいは心室ペーシング法を組み合わせることにより,更に有用性を増し,現在電気生理学検査法の一つとして広く臨床に応用されている.

総説

エンザイムイムノアッセイ

加藤 兼房 , 石川 栄治

pp.905-911

 生物学・医学の新しい分野で免疫学が果たす役割は,最近日増しに大きくなってきている.基本的な生体の機能はいうに及ばず,多くの疾患が免疫学的な観点から解明され,また解明されつつある.こうした生物学・医学の発展に伴って免疫学的手法も進歩するとともに頻繁に使われるようになってきている.

 古くから病原微生物やそれらに対する抗体の検出には免疫学的手法が使われてきたことは周知の事実であるが,最近では免疫現象とは全く無関係に生体物質の微量を検出あるいは測定する目的で免疫学的手法が使われることが多くなってきた.そうした方法のなかにはimmunoelectropho-resis, immunodiffusion, agglutination,螢光抗体法,酵素抗体法,radioimmunoassayなどがある,酵素免疫測定法(エンザイムイムノアッセイ)は,最近研究が始まったばかりの,そうした新しい方法の一つである.

臨床検査の問題点・82

ユーグロブリン溶解時間

藤巻 道男 , 大竹 順子

pp.912-918

線溶測定のスクリーニング検査としてユーグロブリン溶解時間測定は,フィブリン平板法とともに広く行われている.しかし,その観察に長時間を要したり,検体のフィブリノゲン濃度や添加するトロンビンの力価など測定上の問題点が多い.

(カットは血液線溶活性自動記録装置)

異常値・異常反応の出た時・45

心電図STの変化

石見 善一

pp.919-923

 心電図のST・T変化が心疾患に多いことが初めて気付かれてからまだ50年前後にすぎないが,現在ではそれらが日常の循環器疾患診療に極めて重大な意味をもつものであることは改めて申すまでもない.

 ST変化はT変化とともに心電図異常中最も頻度が高く,予後的意味も大きく,しかも他の検査法では分かりにくいなどのために重要視される所見ではあるが,その意味づけには慎重を要する場合も少なくなく,ST・T変化を安易に冠動脈硬化症に結びつけることは厳重に戒めなければならない.その意味では心筋障害の表現として半ば常識化しているST異常の意味を再検討することは決して無意味ではない.

新しい肺機能検査法・Ⅲ

フローボリュームカーブ

西田 修実 , 平本 雄彦

pp.924-930

 最近,末梢気道部病変を早期に検出する目的でフローボリュームカーブ(flow-volume curve)の測定が多くの施設で実施されている1,2).フローボリュームカーブとスパイログラフィーとの関係は図1のようになっていることをまず知っておかねばならない3).すなわちスパイログラフィーは肺気量変化と時間との関係をみるのに対して,フローボリュームカーブはflow (流速)とvolume(肺気量)との関係をみるものであり,このカーブから各肺気量位における流速が分かる.またフローボリュームカーブの下行脚は後述するように時定数(compliance×resistance)の逆数であるので,下行脚の変化から時定数の異常が一見して分かるという利点がある.

 本稿では,flowおよびvolumeの測定法,フローボリュームカーブの歴史,フローボリュームカーブにおける最大呼気流速(Vmax)についての理論,フローボリュームカーブ測定の臨床的意義,フローボリュームカーブの問題点などについて解説を試みたいと思う.

質疑応答

ファイバースコープの介助

U生 , 佐藤 乙一

pp.931

 問現在,私の病院ではファイパースコープの介助を臨床検査技師が行っています.この介助は技師が行うべきものでしょうか,また法的に行ってはいけないものでしょうか.更に,ファイバースコープの検査そのものを技師が行ってはいけないものでしょうか.

中検へ一言・中検から一言

患者さんとともに,他

小栗 隆

pp.932-933

筆者は血液部門を担当している内科医の一員であるので,常日ごろ多くの中検の技師の方々と接する機会は多い.今回"中検へ一言"の原稿を依頼されたので,いい機会であるので医者として,また中検側への要望として,現状の検査の在り方を反省してみたい.最近の臨床検査法の進歩は著しいものがあり,しかも中検の機能の重要性は日ごとに高まっている.仕事の内容も自動機器の導入により多様化し,しかも流れ作業式の形がとられている.今後はまた中検の位置付けは患者の診断,治療に際してますます検体の微量化,得られたデータの処理の迅速化が望まれることであろう.このような現況と将来の方向付けを考えるとき,医者側と中検の方々が愚者より得られたデータをめぐって絶えず検討し意見を交わすことが必要であることは論をまたない.高度な自動機器によって得られたデータが,必ず正確な患者の病態像を示しているとは限らない.例えばCoulter Counter Mo-del Sは電気特性検出型の自動血球計数器であるが,抗凝固剤の種類によって血球容積が動揺し,赤血球恒数が変化する.これらのことは医者側と中検の方々との密接な連絡および検討がなされなければ赤血球恒数の誤った読みから,患者の正確な病態像の把握が不可能となり,患者の治療に誤りが惹起される.

座談会

エンザイムイムノアッセイ

宮井 潔 , 高木 康史 , 玄番 昭夫

pp.934-940

最近,化学検査でのエンザイムイムノアッセイの進出は注目されている.測定原理はラジオイムノアッセイと同様であるが,相違点や特徴は何なのか,今月は斯道の専門家に"エンザイムイムノァッセイ入門"を語っていただく.(総説参照)

研究

尿酸の迅速酵素比色法

岩田 一郎 , 加藤 実 , 関 知次郎

pp.941-943

はじめに

 尿酸は核酸成分の主なる終末代謝産物であり,血中の尿酸量は食物摂取,プリン体の異常代謝,腎からの排泄などを反映し,痛風,骨髄腫,腎障害などで異常な高値を示す.

 尿酸の測定法を大別すると,尿酸の還元性を利用した方法1〜4)と,ウリカーゼにより尿酸を特異的に分解し,紫外部吸収の減少から尿酸量を測定する5,6)か,あるいは生成した過酸化水素を他の酸化還元酵素を介して比色へ導く方法とがある.一つはウリカーゼ・カタラーゼ法であり7),もう一つはウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法で,色原体としてCu・ネオクプロィン8),MBTH・ジメチルアニリン9),4—アミノアンチピリン・トリブロムフェノール10),O—ジアニシジン11)などが用いられている.

耳朶単極誘導における電極間距離とフィルターに関する研究—Ⅱ.棘波性脳波異常について

村山 利安 , 久下 陽子 , 吉井 信夫

pp.944-946

はじめに

 頭皮上に置かれた活性電極と耳朶を結んだ単極誘導の中で活性電極と同側の耳朶を不関電極とした同側耳朶単極誘導と,反対側の耳朶を不関電極とした交差耳朶単極誘導の徐波性脳波異常に及ぼす変化については既に発表した1).今回は棘波性脳波異常について,その波の持続時間,振幅およびHi cutフィルター使用時の変化について両単極誘導を比較検討した.

編集者への手紙

adw型HBs抗原と抗r型HBs抗体が血清中に共存した一例について

藤田 和子 , 堀 況子 , 白井 美江子 , 嬉野 るみ子 , 佐藤 蓉子 , 瀬戸 幸子 , 塚田 理康

pp.947

Letter to Editor

 当院血清検室査ではHBs抗原検査法として電気向流法(以下Es法),赤血球凝集阻止法(以下HI法),免疫付着現象(以下IA法)を,抗HBs抗体検査法として電気向流法,受身赤血球凝集反応(以下PHA法)を用いてきましたが,その中で同一血清中にHBs抗原と抗HBs抗体が共存するまれな一例を経験し,そのHBs抗原と抗HBs抗体の型特異性を決定することができましたので,次にお知らせしたいと思います.

学会印象記 第26回電気泳動学会春季大会

新しい技術の応用に期待

桑 克彦

pp.948

 第26回電気泳動学会春季大会は,日本医科大学教授大川公康大会会長のもとに,6月18,19日の両日,例年のごとく野口英世記念会館において開催された.今回は演題数の増加に対し,十分な討論を考慮して例年より1日多く2日間にわたり,パネルディスカッションと44題の一般演題に対し,講演会場は参加人員約350名で満員となり,熱気に包まれた.

 電気泳動,クロマトグラフィーなどの技術がうまく組み合わされて,更に免疫学的分野を応用して,生物・医学の解析がなされるようになってきた現在,臨床検査においてもこれらの技術応用がルーチン化される必要がある.そこで"電気泳動と免疫反応を応用した臨床検査"と題して四つの異なったタンパク(αF,HB抗原,IgE,補体成分)についてパネルディスカッションが行われた.

新しいキットの紹介

新しい血液凝固検査,ヘパプラスチンテストの検討

青木 紀生 , 青木 英二 , 伊藤 八千代

pp.949-952

はじめに

 クマリン系抗凝血薬投与時に活性低下を示す血液凝固第II,VII,IX,X因子の総合活性をコントロールする目的で考案されたトロンボテストは,低凝固能において良好な成績が得られるように調節されており,また抗凝血薬服用者のトロンボテスト値は,第II,VII,X因子活性が同程度に低下している肝障害患者の値よりも強い活性低下を示すことが注目され,抗凝血薬服用者の血漿中には阻止物質(PIVKA, Protein induced by VitaminK absence or antagonists)が存在することが明らかにされた1)

 このことからOwren2)はトロンボテストの長所を生かし,阻止物質の影響を受けることなく,正常および異常凝固能を鋭敏,かつ正確に測定できるヘパプラスチンテスト(Hepaplastin test, Nyegaard社製,エーザイ発売)を考案した.

新しい機器の紹介

初速度測定用光度計Quick Rateとその応用

斎藤 正行 , 秋山 正一郎 , 西川 隆 , 目次 由美子 , 恩田 由美子 , 山本 忠男 , 坂野 泰 , 間部 杉夫

pp.953-957

はじめに

 今日,血清酵素活性値は日常診療上必須の情報で,臨床から依頼される化学検査の30%を占め,私の検査部門でも月3万件を超えている.しかし,これらすべてが正しく活性測定が行われているとはいえない.

 もともと酵素活性の測定には国際生化学連合酵素委員会が勧告している次の3原則,

Fiberoptic Oximeterの検討

岡田 芳明 , 金 英基 , 桂田 菊嗣

pp.958-961

はじめに

 測定機器の目指すところは,小型・軽量化と測定の迅速化,測定精度の上昇である.検体を血液に限れば,試料の少量化と連続測定が期待され,相反する事象ではあるが,非観血的な手段が望まれる.血液ガス分析に関しては,機器の測定精度は十分満足すべきものとなったが,反面,試料を少量化したがために生ずる誤りが問題になりつつある,また,連続測定に関しては,較正方法,安定性などに未解決な問題が残されていると考えられる.

 最近,私どもは連続的モニターを意図して開発されたPhysio-Control社のin vivo Oximeterを使用する機会を得,二,三の問題点を検討したので報告する.

検査と主要疾患・45

肺線維症

田中 元一

pp.964-965

 肺線維症の概念については,現在混乱して用いられているので,ここでは"原因のいかんにかかわらず,広範な肺内病変の線維化による肺機能の低下のため,呼吸困難をはじめ,その他随伴症状を呈するもの"と理解するが,この概念は肺の炎症性疾患すべてを総括するために,その診断基準を定めることも困難である.したがって現在研究の対象となっている原因不明のびまん性間質性肺炎を中心に臨床検査の要領を述べることとしたい.

検査機器のメカニズム・57

イオン電極

石橋 信彦

pp.966-967

 1960年代の半ばから登場したイオン電極は,従来のガラス電極と同様に膜電位を分析に用いる膜電極である.この電極には表1に示した銀塩などの難溶性塩を感応膜とした固体膜型電極とイオン交換液などの有機溶媒の溶液を感応膜とした液膜型電極がある.この他にこれら電極とガス透過性膜を組み合わせたガス感応電極や酵素含有膜を組み合わせ,酵素の作用で生成物を検出して基質を分析する酵素電極などがある.ここでは基本的電極である固体膜および液膜電極について作用機構と分析法の基本を説明しよう.

検査室の用語事典

臨床検査のRI用語

山県 登 , 松村 義寛

pp.969

21)しゃへい

体外放射線による被ばくを制限するには,時間,距離およびしゃへいの3方法がある,しゃへいを行うには放射線の透過力の違いに注目する必要がある.α粒子には紙1枚で普通は十分であり,1〜10MeVのβ線には厚さ1cmまでの有機ガラスでよいが,γ線やX線では更に重い材料の鉄や鉛が必要となる.(→37)半価層)

臨床検査のコンピューター用語

鈴木 孝治 , 春日 誠次

pp.970

91) Label (ラベル)

ファイルを管理したり処理をするためにファイルに付けられた記号または番号のことをいう.磁気ディスクや磁気テープなどにファイルを書き込むとき,その初めまたは終わりにラベルを入れ,そのファイルが正しく利用されるようにラベルチェック(Label check)して使用される.

臨床化学分析談話会より・37<関東支部>

形態から機能へ—新しい解毒機能へのアプローチ

溝口 香代子

pp.971

 第192回分析談話会関東支部例会(1976.5.18)は,定例会場である東大薬学部記念講堂にて開催された.今回は,新しいテーマ"診断へのアプローチ・シリーズ"の第1回として,新しい解毒機能へのアプローチをメインタイトルとし,東大薬学部・今成登志男先生と,東大医学部第1内科・鈴木宏先生によって話題提供がなされた.

 今成先生は,薬物代謝の種々の機構を説明され,薬物投与実験を臨床化学に応用したいとの意図で,イソケトピン酸の測定法について話題を提供された.

Senior Course 生化学

—臨床化学検査における酵素化学—酵素による定性・定量分析 Ⅸ

山下 辰久

pp.972-973

共役反応を用いる定量法・1

 これまで3回にわたって(本誌,20(6)〜(8)参照)酵素分析のデザインを組む場合に考慮しなければならない問題点のいくつかについて述べてきたが,ここで酵素分析を行う場合しばしば遭遇する共役反応を用いる測定法について考えてみよう.

 既に本誌(20(5),556,1976)で述べたように,ある物質(S)が酵素反応S+S'→P+P'に関与しており,かつ反応物質の生成物質への転換が完全で,しかも反応物質(S)と生成物(P)との性質が化学的にも物理的にも違っている場合には,容易にその物質(S)の濃度を測定することができるが,反応物質あるいは生成物質のどちらも物理的または化学的方法で測定できない場合に遭遇することがしばしばある.このような場合には,これら成分のどれか一つを更にもう一つの酵素反応と共役させることにより測定しなければならない.このように共役反応を導入することにより,酵素的に測定されうる物質の数を増加させることができる.

Senior Course 血液

血液凝固 Ⅱ—血小板

黒川 一郎

pp.974-975

 血小板は直径2〜3μmの無核の細胞で,骨髄内で巨核球から分化,産生される.成熟巨核球は分葉して深い凹みをもつ核と豊富な細胞質とをもつ直径50μm以上の大型細胞であるが,細胞質は内層・中層・外層と三つに区別でき,そのうち中層が最も広い.中層内には0.2〜0.3μmのいわゆる血小板顆粒,粗面小胞体,糸粒体,リボゾームおよび小胞などの小器官が存在する.小胞は血小板産生の基礎になるもので,これは互いに融合し変形して,あたかも小胞の膜構造が伸びて周囲の細胞質を区切ったようにみえ,多数の分離した単位となっており,これが血小板になると考えられている.そのための小胞の膜構造を血小板分離膜と呼ぶ人もいるが,これは血小板の形質膜になると思われる.

 以上のように,血小板の産生能は通常,巨核球の細胞質面積に比例する.成熟血小板が完成するまでの期間は前駆細胞である幹細胞の発生から約10日間である.

Senior Course 血清

—血清検査の基礎—ウイルスの補体結合反応など

浅川 英男

pp.976-977

ウイルスの補体結合反応

 ウイルス性疾患診断に欠かせないのは患者血中の抗体の検索である.その抗体の証明には,中和抗体,赤血球凝集抑制試験,補体結合反応などを用いるのが通常である.しかしそれぞれの抗体には特徴があるので,それをふまえて検討することが大切である.図に感染からの抗体の消長を示した.この図が示すように抗体価のピークは3〜9週目にあって,中和抗体は12週まで下がり,以後3年までプラトーを示す.赤血球凝集抑制抗体は12週までは急激に,以後緩やかに下がる.それらに比較して,補体結合反応は9週でピーク,10か月で完全に消失している.以上のことから感染の有無を臨床的見地からみるときは,補体結合反応により抗体の消長をみるのが都合が良いように思う.それは,ウイルスの感染には不顕性感染があって,経過を追ってその消長をみて,明らかな低下を認めれば新しい感染と判断しやすい利点があるからである.

 ウイルスの補体結合反応では梅毒の場合と異なり抗体減量法Kolmer法を用いる.それは,先に述べたようにウイルス性疾患では不顕性感染があって,抗体価の変動を追求するのにはそのほうが都合が良いと思われるからである.

Senior Course 細菌

腸内細菌の分類 Ⅵ

坂崎 利一 , 田村 和満

pp.978-979

Klebsiella属の分類

 Klebsiellaは,俗にいうFriedländerの肺炎桿菌を代表とする一群の菌集団で,1885年にTrevisanがドイツの細菌学者Klebsにちなんで命名した.Klebsiellaの分類には約80年にわたる混乱の歴史がある.その俗名が示すように,本菌の発見,命名の当時,本菌は呼吸器感染症の原因菌と考えられ,Klebsiellaの名はもっぱら呼吸器由来菌株のみに用いられていたが,命名上の混乱は1900年にBeijerinckの記載したAerobacterにはじまる.BeijerinckはEscherich(1885)によって報告されたBacillus lactisaerogenesを中心とする一群の菌をgenus Aerobacterとしてまとめ,その代表菌種をAerobacter aerogenesとしたが,Beijerinckの記載したA. aerogenesは"周毛性の運動性菌で,非運動性菌もあり,30℃でもっともよく発育するが,37℃ではわずかしか,またはまったく発育しない"菌であった.A. aerogenesとKlebsiellaとの混乱は,その後の研究者が37℃またはそれ以上の温度でも発育する菌をA. aerogenesと誤解したことに原因する.Beijerinckの"非運動性のA. aerogenes"の性状をもつ菌で,37℃で発育するものはKlebsiellaそのものである.

Senior Course 病理

—病理検査の技術と知識—病理検査材料の整理

三友 善夫

pp.980-981

 病理検査材料の保存整理は,①検査後に更に精細に病変を検索する必要性,②教育,③疾病史上の価値などの主な三つの目的のためになされる.①および②は当然であるが,③は現在は一般的なありふれた疾患でも10年,20年後にはまれになる場合を考えて保存する必要がある.例えば20〜30年以前には粟粒結核症やチフスは剖検材料で見られたが,現在は極めてまれなものとなっている.現在しばしば認められる進行癌の末期像を将来どの程度見られるか,また治療法の進歩発展の推移を知るうえでもステロイド剤,抗癌剤,大量の放射線照射などの投与例とこれらの使用されなかった過去とを比較検討する点でも,慎重に保存整理された材料は必要となる.したがって,病理標本は単なる検査材料のみでなく医学上でも図書と同等の価値を有する財産である.

Senior Course 生理

—電気生理検査に必要な電気の基礎知識—心電計のブロックダイヤグラムとその働き

石山 陽事

pp.982-983

 前回まで回路計算を中心に差動増幅器,フィルター回路,記録部について述べてきたが,今回は図1に示す心電計のブロックダイヤグラムによって,今までの知識を全体的にまとめてみる.

Senior Course 共通

廃棄物の処理・2—化学検査

丹羽 正治

pp.984-985

 最近は公害への社会的関心が高まり,廃棄物対策はどの施設にあっても注目されつつある.今回は化学検査室における正しい廃棄の仕方を,有機溶媒を例としてまとめたので紹介する.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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