文献詳細
文献概要
Ex Laboratorio Clinico・20
α-フェトプロテインと私
著者: 平井秀松1
所属機関: 1北海道大学・第1生化学
ページ範囲:P.866 - P.871
文献購入ページに移動癌特有のタンパク質
私が癌研究を志したのは1958年ごろであったから,数えてみればもう20年も前になる.全く時のたつのは早いものだ.その前の十数年間,私は主として電気泳動法などを利用した血清タンパク質の分画法を中心とするタンパク質の物理化学的研究が多かったが,医学部の生化学は臨床医学に密着すべきであるとの平素からの念願もあり,患者に最も近いテーマとして癌を選んだのである.さりとていったいどこから癌にアプローチするかの具体案があったわけではなかったが,タンパク質の取り扱いについては多少の心得があったので,とにもかくにも癌のタンパク質を解析してみようと思いたったのである.
癌細胞には正常細胞には存在しない,癌特異のタンパク質があるに違いない.これはむしろ私の信念に近いものであったかもしれない.とは言っても,正常細胞には存在しない癌特異の酵素タンパクを発見することも,またホルモンタンパクを発見することも私には到底不可能と思われたので,癌タンパクの抗原性を指標に特異タンパクを検索する方法に落ち着いたのである.つまり癌細胞よりの抽出液をもって動物を免疫し,得られた抗血清を正常細胞抽出液で吸収すれば,癌タンパクとのみ反応する特異抗血清が得られるはずだ,この反応を指標にそのタンパクを追求してみよう,といったごくありふれたアイディアであった.
私が癌研究を志したのは1958年ごろであったから,数えてみればもう20年も前になる.全く時のたつのは早いものだ.その前の十数年間,私は主として電気泳動法などを利用した血清タンパク質の分画法を中心とするタンパク質の物理化学的研究が多かったが,医学部の生化学は臨床医学に密着すべきであるとの平素からの念願もあり,患者に最も近いテーマとして癌を選んだのである.さりとていったいどこから癌にアプローチするかの具体案があったわけではなかったが,タンパク質の取り扱いについては多少の心得があったので,とにもかくにも癌のタンパク質を解析してみようと思いたったのである.
癌細胞には正常細胞には存在しない,癌特異のタンパク質があるに違いない.これはむしろ私の信念に近いものであったかもしれない.とは言っても,正常細胞には存在しない癌特異の酵素タンパクを発見することも,またホルモンタンパクを発見することも私には到底不可能と思われたので,癌タンパクの抗原性を指標に特異タンパクを検索する方法に落ち着いたのである.つまり癌細胞よりの抽出液をもって動物を免疫し,得られた抗血清を正常細胞抽出液で吸収すれば,癌タンパクとのみ反応する特異抗血清が得られるはずだ,この反応を指標にそのタンパクを追求してみよう,といったごくありふれたアイディアであった.
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