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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査24巻7号

1980年07月発行

雑誌目次

今月の主題 微量金属

カラーグラフ

水俣病(メチル水銀中毒)の病理

武内 忠男

pp.748-750

 水俣病は化学工業で使った無機水銀がメチル化し,魚介類にメチル水銀として蓄積し,それをヒトや動物が一定量以上摂取した場合に起こった中毒症である.そのメチル化は化学工場内の過程で副成されて排水とともに出されるものと,スウェーデンやカナダのように排水されて湖底バクテリアでメチル化するものなどがある.摂取メチル水銀化合物は体内で蓄積性があり,発症値以上になるとその量いかんにより,最重症者(死)から軽症者までの中毒患者が発生する.このものも脳血液関門を破り,脳実質に侵入し,神経系統を侵す特性を持っているが,一般臓器組織も全く無障害とは言えない.しかし臨床症状は主として脳神経障害である.

技術解説

鉛中毒の検査

和田 攻 , 岩井 秀明 , 呉 国用

pp.751-761

 鉛中毒が発生する環境には,①一般環境と,②産業環境があるが,我が国での現状はほとんどが後者である,前者にはかつては鉛含有白粉による乳児の中毒,自動車排気ガス由来の鉛ないし鉛管由来の鉛による長期微量摂取,工場排水由来の鉛の経口摂取などが問題となったが,現在では典型的な中毒の発生はない,米国などでは鉛含有塗料由来の鉛の小児による異食症に基づく経口摂取が大問題となっていたが,我が国では幸いにみられない,したがって現在の我が国の鉛中毒の発生の可能性は活字鋳造,印刷,蓄電池製造,陶器工,鉛鉱山・精錬工など鉛作業者であり,これに対し鉛中毒予防規則(昭和47年)が制定され,この規則に従って予防対策がたてられている.

 鉛中毒の検査法には,①直接法と,②間接法がある.前者は血夜,尿ないし毛髪中の鉛を直接測定し暴露・健康影響評価をするもので,後者は吸収鉛による生体反応,特に骨髄造血系でのヘム代謝異常を指標とするものである.本篇ではこれらの主なものにつき解説した.

エネルギー分散螢光X線による生体試料中の微量金属の分析

松本 和子

pp.762-766

 臨床検査の中にNa,K,Mg,Feなど金属分析の項目がある.これに加えて最近ではいわゆる公害病あるいは職業病として,有機水銀,カドミウム,鉛,ヒ素,銅,六価クロム,ニッケルカルボニル,マンガン,タリウム,アンチモン,スズなどの中毒が問題となり,例えば毛髪,血液,尿などの中のメチル水銀,無機水銀の分析,あるいは血液,尿中の鉛やカドミウムの分析などが必要となっている.

 これらの金属分析には,原子吸光分析や比色分析が広く用いられているが,これらの方法は試料形態が溶液に限られているため,複雑な前処理に人手と時間を必要としている.最近,半導体検出器とコンピューターによるデータ解析システムを備えたエネルギー分散螢光X線法が,広い分野の分析に用いられているが,本法は試料を非破壊のままで多元素同時に測定できるという特徴を有している.人間の疾病には先ほど述べたように,有害元素が体内に入り起こる場合のほかに,体内での代謝異常などにより金属元素の体内分布が正常時と異なり,直接・間接に疾病を引き起こす場合がある.このようなケースに対しては,生体内の多数の元素分布をパターン的に把握することが診断のうえで重要になろう.エネルギー分散型螢光X線法は多元素同時測定法であるので,今後,臨床医学にとって有用になるものと思われる.本稿ではエネルギー分散螢光X線分析法について解説し,その生体試料への応用を紹介する.

毛髪と水銀

住野 公昭

pp.767-773

 環境汚染はより広義の環境破壊に比して,その対象は化学物質に限られている.国内各分野の努力により環境汚染の勃発時からこの10年,よほどその状況は改善されたと言ってよい.したがってこの時期に環境汚染による健康障害の検診・診断の機会が増加してきているとは言い難い.また局所的な暴露が最も懸念される化学物質取り扱い職場においても,金属中毒の発生要因の増大は認められない.一部中小零細企業従業員の検診などの問題は残っているが,それでも水銀に限ればその管理はより良い方向に向かっている.その意味では,より微量のより長期の金属暴露の影響が検討されている段階である.

 したがってこの稿の意義は微量水銀中毒への啓蒙と,その指標としての毛髪分析を水銀専門家に依頼することなく自施設で行える教育を行うことにあるであろう.なお水銀の分析法はこの10年飛躍的に進歩したと言えないので,実技面の記載は旧稿に若干の加筆にとどめたことを諒とされたい.

総説

微量金属と生体

吉川 博

pp.775-782

 生物と金属との出合いは,生物の発生した時点である.哺乳類はその発生時においてヘモグロビンに鉄を持っていた.爬虫類はヘモグロビンと同じように酸素運搬の作用をするヘモシアニンを持っているが,これは鉄の代わりに銅を持っている.同じ機能を有するものでありながらなぜ爬虫類では銅を取り込み,哺乳類は鉄を取り込んだのかはたいへん興味あることであるが,いまだこれを説明することはできない,生物中の金属は,生物が海水中で発生した時点で海水中から幾つかの金属を必要として取り入れたわけであろう.

 こうした生体内の微量金属は生体の保持,栄養の面から考えると,ビタミンやホルモンのように生体内では合成できないもので,外界から摂取しなければならないし,時に生体内でその原子価は変えることはあっても,代謝されることはない.そうして欠乏しても,また逆に過量でも健康障害を起こしてくるものである.

臨床検査の問題点・129

微量金属測定機の選び方

高原 喜八郎 , 長谷川 敬彦 , 野本 昭三

pp.784-790

 微量金属測定における原子吸光法は,操作が簡便であり短時間で測定できることから,従来の炎光法などに代わって,ここ10数年で臨床検査室での標準法的存在になってきている.しかし,測定対象金属や検体の種類によっては機種の選択やアタッチメントの採用が重要な問題となり微量測定だけに,大きく精度にかかわってくる.

(カットは血清鉄測定の単能機)

検査と疾患—その動きと考え方・43

水俣病

徳臣 晴比古 , 出田 透 , 寺本 仁郎 , 永田 仁郎

pp.791-796

 医療の究極の目的は疾病の治療である.だれしも1日も早く健康体になりたいと待ち望んでいる.この目的にそうためには病気の正しい把握,すなわち正確な診断をすることが最も重要なことである.似通った症状を呈する多くの疾患,従来余り遭遇しない症状・所見の患者について正しい診断をするのには熟練した診断技術による所見の把握と,これを基本にした予想疾病,更にはその考え方を裏付ける検査が必要である.

 最近の医療機器の発達はこの病気へのアプローチ構図をしばしば逆にしてしまっている.体力の衰えた年老いた人が検査,検査と引き回されている光景は大衆の医療への不信感を駆り立てており,大いに反省すべきところである.

臨床化学分析談話会より・82

第6回冬期セミナー(青森県大鰐)

小亀 圭司

pp.774

 臨床化学分析談話会の主催による第6回臨床化学検査に関する冬期セミナーが,1980年2月13〜15目,青森県の大鰐町スキー場内にあるおおわに山荘を会場に開催された.セミナー開催を引き受けるのが遅く,各方面へのアナウンスメントや準備が不十分であったことから,多数の方々の参加が得られるかどうか,例年にない積雪量の不足でスキーは大丈夫かどうか,不安を抱きながらの新年を迎えたが,開催日が近づくに従って予想をはるかに越える参加申し込みと積雪をみて,世話係一同安堵の胸をなでおろし,開催日を迎えることになった.

 <第1日目>セミナー開始までに127名が受付を終え,それぞれセミナー会場へ参集した.

編集者への手紙

影山信雄氏の手紙「コントロール・サーベイの中性脂肪をきちんと測ると落第点がつく」(Vol.24 No.6)への返事

北村 元仕

pp.783

 お手紙,たいへん興味深く,また重大な問題提起として拝読しました.その趣旨は次のようにまとめられると思います.

(1)中性脂肪の酵素法はいずれも水解後に生じた遊離グリセロールを定量するが,血清中にもともと存在するグリセロールを検体盲検値としてきちんと控除する方法は国産市販キットではLPL-DNPH法のみである.

Ex Laboratorio Clinico・43

替え刃事始

武石 詢

pp.797-801

はじめに

 1978年3月発売以来,急速に利用されてきたフェザー替刃式ミクロトーム刀の誕生は,決して初めからそれを目標としてできたものではなく,かなり偶然の産物であった.しかしこの偶然が実を結んだのは,それ以前の長期にわたる関係各分野での研究がほぼ極限まで煮詰められていたためであり,したがって替え刃事始を述べるにはまず,替刃及びミクロトーム刀双方の歴史をたどらねばならない.

負荷機能検査・7

パンクレオザイミン・セクレチン試験

竹内 正 , 渡辺 伸一郎 , 白鳥 敬子

pp.802-808

 急性膵炎の診断には血中・尿中のアミラーゼの測定が古くから行われており,アミラーゼの測定法の改良や,アミラーゼに関する多くのパラメーターを増やすなど,現在に至ってもその意義は失われていない.しかし慢性膵炎や膵癌の診断に関してはアミラーゼの診断的価値は低く,むしろ近年開発された各種の機能検査法,形態学的検査法がはるかに優れている.

 膵液の検査は慢性膵炎や膵癌の診断に期待されるが,その採取法,刺激負荷法に問題があった.膵液採取法としてはエーテル試験が古くから行われていた.エーテルは膵外分泌刺激剤であり,これを十二指腸内に注入することにより膵液が流出するが,注入後多くの場合,上腹部灼熱感,酩酊感などを訴え,時に上腹部に激痛を訴えることがあり,これをエーテル痛と言い,慢性膵炎の際に診断的価値があるとされていた.この方法では十二指腸内容の定量的な採取は行われておらず,液量,膵酵素量の測定から診断的意義を求めることはほとんど行われていない.

多変量解析の応用・7

クラスター分析

古川 俊之 , 田中 博

pp.809-817

はじめに

 クラスター分析は,主成分分析や因子分析と同様,外的基準を設けずデータの内部構造を分析する手法である.この手法ではデータを構成する個体問,あるいは特性変量問に定義された類似度あるいは距離を手掛かりにいわゆる似た物同士を集め,全体を幾つかの集落(クラスター)に分割する.それゆえ手法は個体や特性変量群を分類する目的で用いられることが最も多いが,分析の観点からデータ構造を明らかにする意味でも用いることができる.例えば因子分析などによってもどうしても解釈できない結果が得られるようなとき,クラスター分析を適用すると,一様と考えられていた対象が実は異なった二つの集団であったことが分かる場合がある.

 その意味で多変量解析法を適用する前に,まずクラスター分析によって個体間,特性変量間の親近関係をあらかじめ明らかにしておくことを勧める専門家も少なくない1),クラスター分析で留意しなければならない点は,分析を始める前に使用する類似度やクラスター構成法の特徴を知っておくことである.すなわち,分析者が個体間あるいは特性変量間に与える類似性の定義,あるいはクラスター構成法の種類によって幾とおりもの結果が存在することである.本解説では,どの多変量プログラムパッケージにも用意されている代表的クラスター分析について,その特徴とプログラム使用法を述べたい.

研究

尿中に出現した封入体細胞について

笠井 明子 , 久保 育代 , 高橋 正宜

pp.820-822

はじめに

 今日尿検査,特に沈渣において,ただ単に沈渣中に出現する白血球,赤血球,上皮細胞などの数を記載するだけにとどまらず,異型細胞をスクリーニングすることが要求されている.

 古くからウイルス疾患と封入体細胞の関連性について注目されてきたが1〜3),日常検査における尿中出現頻度の記載はなされていない.そこで我々は日常検査で外来,入院時の検尿について,特に小児科の尿沈渣中に封入体細胞が多く見られることに注目し,封入体陽性細胞と臨床疾患との関連について検討した.また腫瘍細胞診を目的として依頼された泌尿器科検体で,悪性腫瘍と封入体細胞の出現頻度についても併せて検討したので報告する.

濁度測定法による血清中ヒアルロン酸の検出

藤田 清貴

pp.823-826

緒言

 ヒアルロン酸(以下HA)は1934年,Meyerら1)によってウシの眼のガラス体から分離きれ,命名されたものである.HAを含む組織としてはこのほか臍帯,皮膚,大動脈,関節液などが知られている2).これらの組織では一般に蛋白と結合し,HA—蛋白複合体として細胞間で結合水を採り,ジェリー状のマトリックスを形成して細胞を保持し,滑剤として働くとともに,外力とかバクテリアの侵入に対する保護の役割を果たしている.

 1957年,Deutsch3)はヒトの血清中からHAを検出し,国内でもHAによるものと思われるアルブミン分画異常が報告されるようになってきた4〜6).著者も7)老人において"カギ型"アルブミンを経験し,患者血清中からHAを証明した.しかしながら血中HAの増量の臨床的意義についての解明はまだなされていない.また検出,同定法についても,頻度が少ないためか,微量分析法としては電気泳動法7,8)以外,最良の方法は確立されていないのが現状である.

ルミノール化学発光の臨床化学分析への応用—その基礎的研究

大澤 一爽 , 藤田 幸江

pp.827-832

はじめに

 発光現象を応用した微量分析の方法は,入射光を必要とする従来の分光分析法と比べ,発光というエネルギーを直接検出するという点でユニークな存在になりつつある.しかしここで取り上げた化学発光であるルミノール,その他ルシゲニン,生物発光のルシフェリン,エクオリンなど,いずれもその発光現象の機構は十分に解明されていない,それにもかかわらず,発光現象の応用例が数多く報告されている1,2,7).本文でも発光機構を検討しながら,ルミノール+触媒+H2O2による化学発光反応でH2O2の定量を試みたが,求めようとするH2O2の信号が雑音に埋まってしまうという現象がみられた.雑音を消去したとしても,発光数積分値—H2O2濃度曲線を,一つの直線で表すことができない場合があった.

 この直線性の濃度範囲を明確にできないところに,微量分析への応用に対する弱点が存在する.しかし微弱光計測技術の諸特性からみると,微量で少数の光子数を計数するところに最適値が存在する.入射光強度に相当する化学発光反応液の濃度をどこに定めるべきかをH2O2定量という点で提供してみようと思う.

免疫拡散板による血中炭酸脱水酵素Bの測定法

宮谷 勝明

pp.833-835

はじめに

 炭酸脱水酵素(以下CA) Bは甲状腺機能亢進症における血中CA-Bの低下,甲状腺機能低下症,真性多血症や一部の肺気腫における血中CA-Bの上昇など1)が報告され,注目されている.この酵素2)はCA-A,CA-B,CA-C,CA-D,CA-M,CA-Tなど約12種類から構成されていて,現在のところ免疫化学的にはCA-B,CA-Cの測定が可能とされている.従来の方法3)では臨床的にスルホンアミドやシステインなどのSH化合物4)が投与されている場合,活性は酵素量に比例して抑えられることが指摘されていた.

 これらの影響をほとんど受けないとみられる免疫化学的測定法1,2)が開発されたが,抗ヒト特異血清,特に標準物質の純化が容易でなかったため,臨床検査領域においては一般的でなかった.

尿直接鏡検法による小学生児童の尿中赤血球,白血球数正常値について

小沼 哲 , 松沢 東子 , 金子 昭雄

pp.836-838

前がき

 各種集団検診で尿検査が実施され,尿蛋白,潜血反応に異常を認めるとき尿中細胞成分検査が行われる.赤血球,白血球,円柱類,上皮細胞などが出現する質的な問題とともに,赤血球数,白血球数などの正常値,異常値の量的問題がある.

 尿沈渣における遠沈鏡検法の精度上の問題点は,小林ら1,2)の指摘するとおりである.また沈渣の定量的検査はAddis3)以来多数報告されているが,集団検尿に用いるには問題点も多く,更に従来法との相関,精度上の問題も存在する.

血小板凝集能とATP放出能の検討—Lumi-Aggregometerでの検討

高木 康 , 尤 芳上 , 新谷 和夫 , 石井 暢 , 井出 徳宏 , 佐野 欣一

pp.839-842

はじめに

 血小板機能には凝集能,粘着能及び放出能が知られている.これらのうち凝集能,粘着能は比較的研究され,近年心筋梗塞,脳血栓などの血栓性疾患との関連1〜3)が注目されている.これらに比べ放出能は放出されるADP,ATP,セロトニンなどの化学物質4)が微量なため,詳細な研究が最も遅れている血小板機能の一つである.

 今回我々はFeinmannら5)によって開発された,血小板凝集能とATP放出能を同時に測定可能なLumi-Aggregometer(Chlono-Log製,AHS—ジャパン扱い)を用い,血小板凝集とこの際に生ずる放出反応を特にATPについて観察し,その基礎的検討とともに若干の臨床的検索を加えたので報告する.

私のくふう

薄層クロマトゲラフィーにおける正確なスポッティングの工夫

高橋 豊三 , 武山 直子

pp.843-844

 薄層クロマトグラフィー(TLC)は,各種の物質を分離するのに有力な手段として広く用いられている.特に脂質研究の分野で,複合脂質や単純脂質の分離に優れた技術の一つとして使用されている.上述のようにTLCがしばしば使用される理由は,次のような多くの長所を有していることにある.すなわち操作の簡便さ,鋭敏な感度と高い分解能,広範囲の物質への適用性,加熱などによる有機化合物の検出,定性反応の容易さなどが挙げられる.

 しかし実施するに当たって,初心者がまず困ることはプレートへの試料の滴下である,試料は1〜10μg/mlの濃度の溶液とし,毛細管を用いて通常,直径数mmの円形または3mm×1cmの棒状に滴下する.デンシトメトリーを行う場合にはできるだけ小さく,しかも一定の大きさ(約2mm)になるように注意して滴下しなければならない.ところがこのスポッティングが意外に難しい.最近は高性能薄層クロマトグラフィー(HPTLC)が開発されて,従来の20×20cmのプレートの代わりに,その1/4(10×10cm)の大きさのものを用いて短時間に,しかもより優れた分離能が得られるようになった.この場合もプレートが小さくなったことにより,より精密に小さなスポットとして試料を滴下することが要求される.

新しいキットの紹介

Kyo Lipo KitによるHDLコレステロールの測定—特に異常リポ蛋白出現例における検討

池田 敏 , 渡辺 誠 , 武田 和久 , 長島 秀夫

pp.845-848

はじめに

 近年,高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-Chol)が動脈硬化症,特に冠動脈硬化性心疾患の負の危険因子として注目を集めており,日常の臨床検査としても頻繁に測定されるようになった.この一因として,HDLの分離が沈殿法の開発によって容易に行えるようになり,また分離されたHDL中のコレステロール(Chol)も酵素法で簡便に測定できるようになったことが挙げられる.しかし沈殿法によるHDL-Cholの測定には,中性脂肪(TG)が高値を示す血清に認められる沈殿物の浮上,HDLサブクラス間における沈殿物生成の差など問題がないわけではない.

 今回我々は,TGが高値でも比較的沈殿を生じやすいとされている1,2)リンタングステン酸ナトリウムとMgCl2による沈殿法(NaPhT-Mg2+法)によってHDL-Cholの測定を行い,従来から行っているデキストラン硫酸とMgCl2による沈殿法(DS-Mg2+法)の成績と対比し検討を加えた.特に肝内胆汁うっ滞時に高率に認められるSlow-migrating HDL (HDL-S)3)及びその他の異常リポ蛋白4)の,2種類の沈殿剤に対する反応性の差異について,ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動(PAGE)による解析を行い,興味ある結果を得たので報告する.

検査室の用語事典

脳波検査

江部 充

pp.849

69) intermittent photic stimulation;間欠光刺激

 断続的に明滅する閃光刺激.脳波検査での賦活法の一種.通常クセノンランプによる閃光を3〜50Hzくらいの頻度で,10秒間ぐらいずつ眼に照射する.閃光を与えたとき,あるいは閃光を中止した直後に突発性異常波の出現することがある.てんかんの診断,特にphotosensitive epilepsy (光原てんかん)の診断には必要な賦活法である.

筋電図検査

渡辺 誠介

pp.851

57) innervation ratio;神経支配比

 一つの運動神経細胞が何本の筋線維を支配しているかということを示す.細かな動作をする筋では小さく数十本の単位であり,姿勢を保つ筋などでは大きく数百本以上である.

質疑応答

臨床化学 酵素法下でNaFの血糖値に及ぼす影響

K生 , 高阪 彰

pp.853-855

 〔問〕酵素法による血糖値の測定では,解糖阻止剤であるNaFの使用を禁じていますが,NaFを使用したときいかなる反応機構で酵素反応を阻害し,血糖値にどの程度影響を与えるのでしょうか.またどのような酵素法にもNaFなどは使用してはならないのでしょうか.酵素法による場合,経済的かつ血糖値に影響を与えないような解糖阻止剤がありましたらご紹介ください.

臨床化学 コレステロールのUVのrate法は?

Y生 , 野上 清信 , 中 甫

pp.855-856

 〔問〕脂質でもトリグリセリドはUVのrate法がキット化されていますが,コレステロール測定法は現在呈色法のend point法が主流です.コレステロールのUVのrate法は不可能なのでしょうか.

血液 自動血球計数器による白血球の再現性

S子 , 新谷 和夫

pp.857-858

 〔問〕現在トーアCC−108の自動血球計数器を使用していますが,白血球は9,000以上と4,000以下を再検査しています.低値のものが高値になることはまずありませんが,高値のものが低値(半分くらいの値)になることがしばしばあります.モニターの波形に変化は見られず,計数時間なども正常なので異常をチェックすることが難しいのですが,どのように考えたらよいのでしょうか.白血球の再現性と精度管理についてご指導ください.

免疫血清 ヒツジ赤血球に対する異種凝集素

K子 , 水谷 昭夫

pp.858-860

 〔問〕緒方法で,まれにヒツジ赤血球に対して異種凝集素が働いて判定できないことがあります.その場合ガラス板法,凝集法,あるいはTPHA法において結果は出るのでしょうか.また異種凝集素で結果が出ない原因について教えてください.薬剤には関係ないのでしょうか.

 何年も梅毒血清反応をしている人で,途中から異種凝集素のために判定できなくなることがあるのでしょうか.あるとすればどういう場合ですか.

病理 特殊染色時の固定

T生 , 笠原 健弘 , 竹田 桂子

pp.860-863

 〔問〕特殊染色(特にAzan染色)においてホルマリンよりZenker液で固定したほうがよく染まるのはなぜですか.また塩化第二水銀とホルマリンの作用はどのように異なるのですか.

臨床生理 心機図におけるA波率とET/PEP

K生 , 沢山 俊民

pp.863-866

 〔問〕心機図においてA波率,ET/PEPの両者が異常の場合はもちろん心機能低下と言えるでしょうが,片方が異常の場合はどのように考えればよいのでしょうか.A波率異常,ET/PEP異常はそれぞれどのような疾患と結び付くのでしょうか.A波率とET/PEPの関係について教えてください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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