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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査26巻11号

1982年11月発行

雑誌目次

特集 臨床検査のシステム化

システム化とは

1.臨床検査のシステム化を考える

高橋 浩

pp.1234-1236

 ここ数年臨床検査(室)のシステム化は,検査に携わるわれわれ共通の関心事となっていると言ってよい.今後コンピュータがだれにでも使えるようになり,価格も下ってくれば,これを利用してシステム化を図る所がふえてくることは間違いないだろう.それは検査のあらゆる分野にも及ぼうとする勢いを感じるし,筆者が臨床検査の分野に入ってからの30年程の歩みからみてかなり足速やの動きが始まるのではないかという予感がする.しかし,システム化が今の自動化のように一般的になる時代がくるとしても,検査室のシステム化を実行する際には,当然考えておかねばならないことがいくつかあるように思われる.ここにそれをとりまとめて私見を述べてみたい.

 なおこの小文で使用する"システム化"という言葉は検査の中にコンピュータを利用する,すなわちコンピュータ化と同義語的に用いることをおことわりしておく.本来システムとコンピュータとは無関係であるのに,このような慣用がみられるのは多分,これまで検査に,ひいてはわが国の医療においてシステムということが意識されなかったためであろう.

2.業務の流れの分析

里村 洋一

pp.1237-1242

検査室のシステム化とは

 「システム」という言葉は,日本語では,「組織」あるいは「体系」と訳される.今日,システム化とか,何々システムと表現される場合の「システム」に正確な定義づけをすることは,なかなか困難であるが,ここではやさしく,「いろいろな機能を分担する部品(部門,機器)が組み合わされて,全体として,ある目的を達成するように働く集合体」といっておこう.この意味では,どこの検査室も,複数の人間が分担して働いているかぎり何らかのシステム化はなされているわけであるが,本書でシステム化と称しているのは,情報処理技術を用いての検査室の再編成を意味する.すなわち,コンピュータとその周辺機器,自動検査機,通信回線などを利用して,それまで人手により処理されていた部分をかなり大幅に情報機器に委ねることによって高い効率を得ようとすることである.最近のシステム化指向は,年々激増している検査件数と,検査の多様化に,人的組織だけでは対応しきれなくなっている現状と,情報処理技術が発達し,コンピュータの価格が飛躍的に安くなったことによるものである.

 先進的にシステム化を行って成功した病院も数多く現われた.その評価も,ようやく定着しつつある.

3.物流システム

高橋 隆

pp.1243-1253

 ME機器・情報処理システムをはじめとして医療分野に各種の高度な機械設備が導入されるようになって久しい.病院における搬送機器も,医療近代化・高度化を支える設備として更新築時の導入が一般化しているが,その運用・稼動実績となると,必ずしも所期のごとくとはゆかないようである.コンピュータ・システムならば初期には導入意図にはずれることはあっても,ソフトウエアの改良で最終的には何とか所期の目的を達成しえよう.しかしながら,搬送システムとなると導入を誤まると,運用のためのソフトウエア改良のみでは搬送諸問題を解決しえずやむなく,稼動効率が下がらざるをえないことが生ずる.そこで本稿では病院内の物流がシステムとしていかにあるべきか,その効率を上げるには導入前よりどう搬送問題に対処すべきかなどについてふれる.

4.情報システム

開原 成允

pp.1254-1260

病院における情報システムの意義

 病院における最も主要な業務は,患者の診断・治療である.病院においては,この診断治療が,1人の医師によって行われるのでなく,多くの部門,多くの職種の協力によって行われる所に特微がある.

 一つの目的に多くの部門や,多くの人々が関与することになると,その間で意志の疎通をよくしておくことが重要になる.ふだんはあまり気づかないが,よく考えてみると,病院内で,このような連絡のために費やされている時間や,連絡のための手段が多くあることに気づく.例えば,医師から看護婦への指示,病棟から検査室への検査の依頼,薬剤部への処方の依頼,事務への料金の通達など,すべて上記の活動と考えられる.

5.帳票設計

森 忠三 , 阿部 勝利

pp.1261-1266

 検査部門へのコンピュータ導入は,医学の発展とともに増大する検査の質的(項目数),量的(検体数)増大に,中央検査部門の要員増加に対する制約の中で,有効に対処することから出発している.ところが現在ではそれにとどまらず,病院全体の総合的な医療情報システムの一環として,トータル化の中で,他のシステムとの関連が重要になってきている.臨床検査を含めた全体の医療情報が増大するなかで,検査部門だけの独立した電算化は,将来的な展望に欠けるからである.さて,その臨床検査システムの中で,どのような帳票設計を考えるべきかという問題も,同様であって,測定作業の合理化・検査事務処理の合理化のみならず,臨床研究や診断補助に有効な情報サービスを提供すること,さらには医事・病歴との関連も考えなければならない.本稿では帳票設計という観点からシステムをとらえ直してみると同時に,島根医科大学でのシステム的な展望にもふれてみたい.

自動化とコンピュータ

1.分析機器とコンピュータとの接続

佐藤 教博 , 川本 孝男 , 喜利 元貞

pp.1268-1273

 臨床検査のシステム化が進むにつれ,検査室で用いられる分析機器は,自動生化学分析装置,血液分析装置などの大型機器から,分光光度計に至るまで,コンピュータとの接続を前提として設計された機器が増えつつある.この傾向は,分析機器にマイクロ・コンピュータが内蔵されるに伴いいっそう顕著になってきた.

 一方,分析機器とコンピュータとの接続に関しては,JIS規格や国際規格があるものの,機種,メーカによってその方法はまちまちであり,これがシステム化に際し障害になっている例も少なくない.そこで日本臨床検査自動化学会では,都立駒込病院の茂手木先生を委員長とし,コンピュータ・メーカ,分析機器メーカ数社で構成されるインタフェイス検討委員会を発足させ,接続に関しハードウエア,ソフトウエア両面にわたって,標準化のための議論がなされ,この程,指針1,2)としてまとめられた.今後,接続方法は,徐々に統一されていくものと思われるが,ここでは現在行われている代表例をあげ,それぞれの方法について,概要と特徴を述べ,具体例にも触れてみたい.

2.コンピュータ内部処理の仕組—検査依頼から報告書の作成まで

及川 淳 , 村井 哲夫

pp.1274-1277

 検査部をコンピュータによりシステム化する場合,コンピュータにどのようなしくみで検査依頼項目や分析器で測定されたデータが取り込まれ,報告書の作成に至るかは,ブラックボックスのままメーカーに任されることが多い.このしくみについての知識の有無は,システム計画の立案,メーカーと共同作業による仕様の決定,およびシステム運用の成否に大きな影響を持つ.ここでは検査部をコンピュータによりシステム化するに当たって知っておくべき基本的な内部処理のしくみを理解していただくことを目的に,著者らが筑波大学附属病院検査部で現在運用しているシステム1,2)の検査依頼から報告書の作成に至るまでの内部処理のしくみの概要を紹介する.なお当システムでは測定項目すべてについての累積統計,精度管理,細菌検査の臨床材料別,菌別感受性検査のデータ処理なども行っているが,今回のテーマと異なるので省略する.

3.プログラム・パッケージ

田中 博

pp.1278-1286

臨床検査のシステム化とプログラム・パッケージ

 臨床検査部門へのコンピュータ導入は,検査依頼や検査室から発生する患者病態情報の収集・蓄積・管理・検索などの処理の一貫化・統合化,すなわち検査室を中心とした情報流通のシステム化を主な目的として推進されている.

 これらのシステム化の価値は,情報管理の効率化・省力化のみではなく,系統的に蓄積・管理されたデータをさまざまな目的に応じて解析し,それらの結果を基礎,臨床の各部門の活動にフィードバックすることにある.例えば,精度管理や正常値設定のための各種検査値の分布の検定,病態解析のための各検査値間の相関構造の抽出などのデータ解析は,検査部門自体の水準の向上に直結するが,これらの分析はシステム化されたデータに基づいて,日常的かつ効率的に実行し得るのである.

検査部システムの実際

1.東京都立駒込病院

茂手木 皓喜 , 熊井 徹 , 内田 正喜

pp.1288-1294

 都立駒込病院は,「がん」「感染症」を中心とした高度,特殊,専門医療を提供する総合病院として昭和50年4月に改築オープンした.その診療規模は稼動病床数760床,外来患者数1日約1,100名である.

 病院運営にあたっては,当初から,院内情報の一元管理を図ることによる病院機能の効率化のため,コンピュータを最大限に活用している.

2.長崎大学病院

臼井 敏明

pp.1295-1301

 長崎大学検査部では昭和56年2月に臨床化学検査システムを購入し,約6か月のソフトウエア開発の後,56年8月から化学検査データのコンピュータ処理を開始した.使用コンピュータは日本電気ACOS−250で,病院情報システムとオンラインで結合し,患者情報および検査結果の交換を行っている.ACOS−250は汎用コンピュータであり,検査室への汎用機の導入は検査センターの事務処理を含めたシステムを除き,検査専用としてはわが国最初のものと思われる.以下に導入過程と半年間の運用経験について述べる.

3.筑波大学病院

村井 哲夫

pp.1302-1307

 臨床検査部に依頼される検体数が著明に増加した結果,これに対処するため自動分析機器の採用によるいわゆる検査部の自動化とともに検査業務の合理化,精度の向上,検査報告の迅速化などを図る目的でコンピュータによるシステム化が実施されるようになってきた.

 筑波大学付属病院検査部でも昭和54年4月以来ミニコンピュータ2台により,血液一般,生化学,細菌血清の各部門および外来採血室をシステム化し能率よく運用している.ここでは筑波大学付属病院検査部システムの概要を紹介することを目的に,システム化に当たっての目標,実施に当たって様々に解決すべきであった問題点を示すとともに,システムの構成,運用の特微などにつき述べることとする.

4.京都大学病院

中野 博 , 村地 孝 , 平川 顕名

pp.1308-1313

 近年病院業務内容の多用化,業務量の増大に対応するため情報処理の電算機化が行われつつある.京大病院においても昭和52年1月よりミニコンピュータ・ネットワーク方式によって,病院医事部門からシステム化が行われるようになった.検査部は本来患者の臨床検査を行うのが業務内容であるが,検査の施行による経費の算定については医事部門と深い関わりがある.すなわち,検査部は院内においては診療科と医事部門の接点に位置する部門であり,医事部門よりスタートした京大病院の電算機化が次の段階として検査部に及ぶこととなったのは当然の帰結であった.

 昭和54年度オンライン可能な同時多項目自動化学分析機2台,電解質測定機1台が導入されたのを機会に,主として臨床化学部門の検査業務の電算化,自動化を実施し昭和56年1月来使用しているがかなりの成果を挙げ得たと考えている.

5.浜松医科大学病院

菅野 剛史

pp.1314-1320

 浜松医科大学検査部における検査システムは,第一期がFACOM U−400を用いたシステムであり,昭和54年4月より稼動した.このシステムは,医事システムと検査情報,会計情報,患者属性情報の相互送受を可能としたものであり,検査システムとして検査部内での独立したシステムであると同時に,将来の病院情報システムの一環としての機能を持たせうるものであった1).この検査システムは,生化学検査57項目,内分泌検査26項目(ともに負荷試験を扱う),血液検査42項目,免疫学的検査23項目を含み,その中にオンライン自動分析機7台を主要機器として,受付依頼入力より報告書出力までをカバーするものであった.このシステムが病院情報システムの一環として作動するためにはホストコンピュータの容量に制約があった.しかし外来計算での会計情報を検査依頼情報に変換し,同時に外来患者マスターより患者属性を受けとること,前日の入院患者リストとその属性を検査システムに転送すること,入院患者の検査依頼情報を会計情報に変換すること,検査情報を医事システムの一部に蓄積し,MTベースではあるが,これを保管し得たことは,ホストコンピュータの規模が拡大されたことを契機として病院情報システムの一環としての検査システムの位置づけをより確実なものとする可能性を持っていた.

6.自治医科大学病院

河合 忠 , 岩田 弘

pp.1321-1328

 検体検査業務は,検体採取からデータ報告まで非常に複雑でかつ多様な作業があり細分化が著しい.その検査業務を間違いなく,正確で精度の高い水準で行うためには,細分化された業務全体を一貫したシステムとし,効率のよい業務の運営と管理体制が必要なことはいまさらいうまでもないことである.

 最近の自動分析装置は必要検体量が微量のうえ精度が良く測定効率も著しく向上していることは周知のことである.各種の分析装置が進歩した理由の一つにマイクロコンピュータの利用効果があげられよう.測定からデータ処理あるいは精度管理まで行う分析装置はまさに一つの検査システムである.したがって,現在では検体検査のコンピュータシステムを構築する中で自動分析機のオンライン化が問題になることはほとんどなくなったように思われる.しかし,依然として受付業務とか用手法のシステム化などに関しては検査検体の識別(ID)の問題を含めて重要な課題である.特にIDの問題は,システムを左右する基本的な事柄で,避けて通ることはできない.

7.半田市医師会臨床検査センター

関 正己

pp.1329-1338

 半田市医師会臨床検査センターは,知多半島中央の愛知県半田市にあり,社団法人半田市医師会の附属施設として,人口9万余の半田市および近隣12市町の,医療機関280個所と学校,自治体,企業の約800団体を対象に,検体検査および集団検診業務を行っている.1日の平均検体数は2,800検体で,多い日は6,000検体,少ない日で1,800検体である.職員総数は65名である.

 コンピュータの導入は昭和50年8月の報告書作成用のマイクロコンピュータから始まり,現在のシステムで3段階目,3機種目である.検査センターのようなところでは,導入時の教育の時間的余裕が限られているため,いきなりのトータルシステムでは,コンピュータアレルギーが連鎖反応的に起こると思われたため,コンピュータ化は一部の検査の報告書伝票の出力から始め,次いで受付業務と請求業務を2段階目とし,オンライントータルシステムは第3段目とした.

8.医師会臨床検査センターの機能とそのシステム化へのアプローチ

内場 健人 , 大隈 章平

pp.1339-1342

 医師会臨床検査センターの構想の基本理念は,前日医会長武見博士の理論に支えられる,医療資源の開発と配分という医療計画理論にある.すなわち,臨床検査のための設備と機能を,会員のだれでも,必要なときにはいつでも,自由に利用することができるように,その技術を集積し,準備し,共同利用施設として会員に提供しようという施設を医師会臨床検査センターとするものである.この新しい医療機能施設は,地域医療の構造を組織しようとするとき,その中核となるべき性格を持つものである.

 病気の診断は昔から,問診・診察・検査というひとつの流れを持って進められてきた.このうち特に検査部門は,戦後急速な進展を示し,診断に対する検査の情報価値を著しく高めてきた.

9.病理部門のシステム化

石河 利隆 , 横山 友子

pp.1343-1348

 当院では昭和47年に大型電算機が導入され,第一次計画として病歴管理,患者登録・料金計算,検査データ管理,薬品在庫管理などのシステムが発足した.病理部門でもこのシステムの一部として,大型電算機の利用による細胞診・組織診のデータ入力と検索を開始した.当時は病理には入力端末はなく,データの入力は外注に依存して処理され,検索にあたっては必要なデータをリストとして出力するという方法をとっていた1)

 その後,昭和55年に第二次計画が完成された.臨床検査科の情報処理センターにミニコンを設置し,病理には現在使用しているインテリジェントターミナルを置いた.データはインテリジェントターミナルによりフロッピーディスクに直接入力され,正しく入力されていることを確認したうえで,センターのミニコンにオンラインで転送されることとなった.

10.細菌部門のシステム化

大沢 伸孝 , 平田 泰良

pp.1349-1357

 感染症は,有史以来,人類の生存を脅かしてきた医学上最も重要な病気の一つである.今世紀における化学療法剤(主として抗生物質)の開発は,上記の感染症,特に細菌感染症・リケッチア症,クラミジア症に劇的な治療効果をもたらした.

 しかし,1952年ころから化学療法剤および抗生物質の耐性菌の出現が報告され,その後引き続いて種々の抗生剤に対する多剤耐性菌が続々と報告されるようになった1).現今では,抗生剤をどのように使用するかは,臨床上きわめて重要な課題である.

Quality Assurance (精度管理)

1.QAPプログラム

生垣 賢 , 魚住 勝 , 中野 和彦

pp.1360-1368

 工場の生産管理に使用されている統計学的品質管理法が,1950年LeveyとJenningsにより臨床検査の精度管理に導入されて以来,急速に普及し,臨床検査の信頼性の向上と技術的問題点の解明に応用され大いに役立っている.

 精度管理とは,臨床検査に関する医師のオーダー発生に始まり,検体採取,保存,運搬,分析,事務的手続などを経て,利用者である医師の手に報告されるまでのすべての過程で生ずると考えられるエラーや誤差の要因を未然に防止するとともに,これらの要因によって発生したエラーや誤差を速やかに発見し,対策を講じ,常に信頼される検査報告を提供するという一連のプログラムのことである.この精度管理プログラムを実施するためには,a.検査室運営の総合的改善 b.検査室の現状の完全な把握 c.分析技術者に対する教育の充実 d.信頼できる管理資料(コントロール血清など)の入手が必須条件である.

2.精度管理のシステム化とコンピュータの利用

仁科 甫啓

pp.1369-1374

 コンピュータ導入によって,臨床検査領域でのシステム化を実施する場合,検査全般におよぶ日常実務のシステム化に加え,検査データ成績管理の充実を図ることはきわめて重要なことである.特に,コンピュータの特性を生かし,信頼性の高いデータ報告が可能となる成績管理システムを確立することが望まれている.

 分析過程のみの成績管理は一般に精度管理といわれているが,この狭義の精度管理のみならず,採血から報告までの成績管理を広義の精度管理として話を進める.

3.多変量解析による精度管理

武田 裕 , 井上 通敏

pp.1375-1381

 種々の自動分析装置が開発され,短時間で多項目多数の検体を処理することが可能となったが,これらの機器の登場にともなって,精度管理の思想も急速に広まっていった.また,この普及には,コンピュータ化された人間ドックともいうべき自動化総合健診システム(auto-mated multiphasic health testing and services;AMHTS)や検体検査センターなどが各地で活動を行うようになったが,これらの機関では患者もしくは受診者の検体を主に取り扱うところから,検査結果には特に注意を払うことになったことも一因であろう.

 さて,体液試料中の成分を定量的に測定する臨床検体検査では,測定の精度について以下のことを考えなければならない.

診断ロジック

1.診断ロジックとは

古川 俊之

pp.1384-1389

 伝統的な診断学は,症候論すなわち病因と症候との関連性の記述体系に基づいて,個体の状態を同定しようとするもので,論理的な順問題の応用である.言いかえれば医学の知識体系を習得することが診断論理を学ぶことであると考えられてきた.しかし診断とは本来,因果関係の結果から原因を推定するもので,原理的に逆問題であり,医学の知識体系とは当然別個のものでなければならない.診断学の教科書の中には,この点に気付いて症候から病名を検索する関連表や,戦略的に有利な順序を考慮した技分かれ図を採用したものがある.この概念をさらに定式化し,コンピュータで処理できるようにするのが計量診断の目的で,いくつかのロジックはすべて逆問題の型式を踏んでいる.ここでは主な計量診断のロジックを紹介し,その限界特に逆問題の不確定性について考察を試みた.

2.検体検査データによる診断ロジック

上田 智

pp.1390-1398

 いまから30年余り以前,柴田進教授は臨床化学データの組み合わせから病態を推察する診断ロジックを考案し,血液スペクトルと名づけたが,これは今日の計量診断学の先駆けと考えられる業績である.

 最初の血液スペクトルは患者の全身状態把握が目的であり,特定の数項目の臨床化学的検査を行い,その測定値を図示して折線グラフを作成し,そのパターンから全身状態軽度障害,中等症ないしは重症と判定した.図1に示すとおり,当時の肺結核,腸チフス患者の予後とこの全身状態の判別とが相関している様子をうかがい知ることができる.

3.心電図分析プログラム

宮原 英夫 , 藤田 忠和

pp.1399-1405

 わが国におけるここ2,3年間のコンピュータ内蔵型自動心電図解析装置の進歩と普及は目覚しく1),今日では検査件数が極端に少ないユーザーでも自動診断システムの恩恵を受けることが可能になってきた.一方自動心電計端末を使って収集した心電図信号をコンピュータへ送って分析する方式も,前回の心電図記録との比較機能や,大量のデータを貯蔵できるうえ検索も容易であるといった特微のために多くの施設で採用され活躍している.

 これらの自動診断システムの中核をなす分析プログラムは,これまでにたびたび論文や解説の対象2〜4)となってきたが,一般臨床や臨床検査業務に携さわる医師や技師にとって,これらの資料の多くは詳細に過ぎ,何らかの手がかりがなければ取りつきにくいのではないかと心配される.そこでわれわれは,分析プログラムの1例としてミニコン内蔵型IBM 5880心電図記録分析装置(ECG Acquisition and analysis cart)で使用されているIBM 5890プログラムをとりあげ,心電計端末から送られた心電図信号が診断ロジックによってどのように処理され,最終的な診断レポートにまとめられるかについて,概略の流れを紹介した.またIBMプログラム同様アメリカで広く使用されているTelemedプログラムの特徴についても若干言及した.

4.脳波処理のロジック

佐藤 謙助

pp.1406-1419

脳波系の動的活動特性

 1.生体系の興奮活動

 1)生体系の興奮(特)性

 神経,筋,腺その他,一般に生体系の興奮活動の測度の一つである"興奮性"は,閾値刺激の逆数と定義されている.それで

  〔閾値〕・〔興奮性〕=1    (1)

であるが,これは『外的環境からの閾値刺激により,生体系(内的環境)は単位量1の応答("単位応答")を外的環境に起し出す』という「刺激(入力)・興奮(特)性・応答(出力)」関係を与えている(「興奮性の法則」1)).

システム化の展望

臨床検査システム化の展望

林 康之

pp.1422-1428

 臨床検査分野にシステム化という用語がわが国で最初に使われたのが何年にどこでだれがとなるとはっきりしない.臨床検査誌をさかのぼって調べると,1966年自動化が題1)にあげられているがコンピュータは入っていない.6年後の1972年検査室におけるパソコン2),1976年3)に「検査室のシステム化」と題する論文が発表されている.またコンピュータの中検導入は,おそらく1971年関東逓信病院が最初ではなかろうか4).以来満15年になるが,「システム化」の意味も,データ処理のシステム化,単一部門のみのシステム化,検査トータルシステム,臨床検査サブシステム,個人識別システム,情報管理システムなどに数多くの言葉を造りながら範囲を拡大してきた.そして現在では臨床検査のシステム化というと,自動化に伴う部分システム化,臨床検査部全室のシステム化,あるいは病院全体システムのなかの一部としてのシステム化のいずれかを考えるようになった.現在ではトータルシステム化に成功し実用化した病院中検も多いが,米国では既に1963年アラバマ大学病院中検でIBMコンピュータとオートアナライザーを主に,組織検査を除いてシステム化を実施しており,1976年にはほとんどの米国病院検査室でコンピュータが導入されていた5)と言われる.表1はわが国私大中検におけるコンピューターシステムの利用統計の一部であるが,1977年は未利用施設が65%である.

附 臨床検査システム

pp.1429-1437

(株)日立製作所

 日立臨床検査システムHILAS 1430

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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