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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査30巻10号

1986年10月発行

雑誌目次

今月の主題 病院内感染防止のための細菌検査

カラーグラフ

病院内感染防止のための細菌検査

三輪谷 俊夫

pp.1054-1056

 病院で治療を受けている患者が,原疾患とは別に病院内で新たに感染を受けて発病することを「病院内感染(nosocomial infection)」と言う.病院内環境はほかの施設や集団よりも感染症が多発する避け難い要因がある.患者は一般健康人よりは感染症に対してはるかに抵抗力が低い感受性体であるか,はるかに濃厚な感染源となる場合が多い.このような濃厚な感染源と抵抗力の弱い感受性体が密に混在している病院内では感染経路が複雑多岐となり,少しでも注意を怠れば,普通の感染症はもちろんのこと,一般社会では起こりにくい平素無害菌による日和見感染症も多発することになる.もしも病院内感染が発生した場合には,患者の苦しみを増すだけではなく,患者とその家族の肉体的・経済的負担を増大するため,医事紛争や医事訴訟に発展する事例が多い.医療者側の不注意や無知によって病院内感染が起こったときには,当然のことながら医療者側の敗訴になってしまう.たとえ医事紛争や訴訟を考えなくても,患者の負担を増大させる病院内感染の発生防止に医療従事者はつねに細心の注意を払うべきである.

技術解説

消毒剤の殺菌効果判定法

藤本 進

pp.1057-1062

 約100年前Kochが芽胞を用いて殺菌剤の検査をしたのが,微生物を目的としての消毒薬検査の始まりであつた.

 その間,消毒薬も検査法も微生物学発展の歴史とともに,発展進歩してきた.最初に芽胞に効果がないものは消毒薬として否定しかけられたりしたが,それぞれの特質もわかってきて,殺菌剤も一種でなく,目的によって使い分けしなくてはならないこともわかってきた.

空中細菌測定法と環境殺菌剤の効果判定法

小林 寛伊

pp.1063-1068

 病院感染防止対策上,環境の清浄化は重要な課題である.空調による空気清浄化技術は大きな進歩をみんが,病院内のどの部分にどのレベルの空調が必要かに関する基準は,本邦ではいまだ検討の段階である.一方,建築,設備的病院環境の清浄化に対する努力は,空調に対するそれより,かなり遅れているのが現状である.

 このような状況において,各施設が環境の汚染状態を明確に把握しておくことは,今後の基準作成のんめにも欠くことのできない基礎的資料につながり,まん,環境汚染と病院感染の関連性を追求するうえでも不可欠である.これらを目的としたいくつかの環境汚染測定法について述べてみたい.

蒸気滅菌,エチレンオキサイドガス滅菌での滅菌効果判定法—特に生物学的モニタリング法

古橋 正吉

pp.1069-1076

 滅菌の効果判定法は,滅菌方法ごとに各種の方法が知られている.本文では病院で利用している蒸気滅菌とエチレンオキサイドガス滅菌を取り上げて生物学的インディケータによるモニタリングの方法を概説した.化学的インディケータも同じ目的で利用されているが,もっとも確実な方法は滅菌指標菌の胞子を用いる生物学的インデイケータによる方法である.これは滅菌法の有効性の測定において究極的な試験法であると考えられている.この方法で陽性の結果が出た場合は,滅菌装置の故障や滅菌工程の不備,被滅菌物の詰めかた,包装方法の改善にくふうする必要があることを示す.計器や化学的インデイケータのデータは故障や滅菌不完全が直ちに判明する利点があるが,生物学的モニターを併用すると滅菌効果判定はより確実なものとなる.市販の生物学的モニターの性能評価と,最近の知見,問題点についても触れた.

環境,特にハト糞からのCryptococcus neoformansの分離・同定法

松田 良夫

pp.1077-1080

 Cryptococcus neoformansは人畜共通病原菌でバイオハザードの病原体危険度真菌分類ではP3にランクされる病原真菌である.この病原性酵母の自然界における生態,疾病および疫学的特徴,菌学,検査方法などについて記述した.

環境水からのレジオネラ属菌の分離法

池戸 正成

pp.1081-1085

 1976年の夏,米国のフィラデルフィアで原因不明の肺炎の集団発生があり,Center for DiseaseControl(CDC)を中心に精力的な原因究明作業が進められた.その結果,今まで知られていなかったGram陰性桿菌がその原因菌であることがわかり,この菌は新属Legionella,新種Legionella pneumophilaとして命名記載され,本菌による疾患はレジオネラ症(在郷軍人病)という新しい疾患として記載された.その後,この集団発生以前に発生した原因不明の肺炎や,原因不明の熱性疾患(ポンティアック熱)もレジオラ症であったことが判明した.その当時,L. pneumophilaは非常に危険度の高い菌として扱われていたが,その後の研究により自然界に広く生息していることが明らかになり,淡水中のある種の藻類やその他の原生動物例えばアメーバやテトラヒメナなどと共生関係にあることも判明し,淡水の常在菌叢を構成している菌であることが示唆されるようになった.L. pneumophila以外の菌種も,自然環境や冷却塔水などの社会環境から検出されることが多く,したがって冷却塔を中心に社会環境中のレジオネラ属菌の分布を知ることは,本菌による感染症の発生の予防につながると思われる.ここでは,冷却塔水を対象に,選択培地を用いた本菌の分離法を紹介する.

総説

病院内感染防止のための病院管理の実際—感染対策委員会の活動を中心に

熊坂 一成

pp.1087-1095

はじめに

 わが国を代表する病院管理学者の英国での体験談である1).国際病院連盟の研修会に出席したおりに,訪ねたある病院で,彼はまず最初に,その病院の組織図を見せてくれるように頼んだ.しかし,彼を案内していた病院のsecretary (日本の事務長にあたる)は,どうも彼の質問の意図がのみこめなかったようである.なんとその病院には,できあがった組織図がなかったのである.ようやく,訪問者の意をくんだsecretary氏が,ノートに書いて示した組織図は,その病院管理学者を驚かせた.その図は,医師,看護,薬局,放射線,栄養,病歴,施設と各セクションを横一列にならべただけのものであったからである1).英国には,病院全体を一人で掌握する院長というものはいないからやむをえないとしても,医局,医療技術部門などをいくつかに分類し,誰かが責任をもって,指揮し,統制しなければならないはずである.英国のsecretaryは,日本のような素人事務屋ではなく,病院管理の専門教育を受けた人たちである.組織の原理を知らないはずはない.そこで,この病院管理学者は重ねてしつこく問いただした.彼は返答に窮してしばらく考えていたが,ハタと思いあたるふうに,これは書きかたが悪かった,横にならべてはいけないので,円にすべきであると言って,円を描き,円の周辺へ何本もの線を引き出し,これに部門の名前を書いた.

主題を語る

病院内感染防止のための細菌検査

神木 照雄 , 小栗 豊子

pp.1096-1103

 医療技術の高度化,抗生物質の大量かつ長期間の投与,免疫抑制療法などの医療技術の高度化は,一方では患者をハイリスクの状態に追い込む結果となった.近代の病院における医療の中で滅菌や消毒の果たす役割は意外に大きい.もしこれを軽視したり,確実に行わなかった場合には,患者はたちまち感染にみまわれる.

検査と疾患—その動きと考え方・115

白血病の治療と感染症

柴田 弘俊

pp.1105-1111

はじめに

 白血病では高頻度に感染症の合併がみられ,特に急性白血病の寛解導入療法中では,抗白血病剤の多剤併用療法により,好中球の減少する時期に一致して重症の感染症が合併する.そしてこの感染症が現在でもなお高い死亡率を示し,出血死とならんで白血病の治療の最大の障害となっている.白血病の治療に当たる医師は抗白血病剤による治療と同等の努力を感染症対策に対しても払う必要があると思われる.本文では急性白血病に合併する感染症の特徴を検討し,その治療とその予防法につき述べる.また白血病の根治療法としての骨髄移植における感染症についても述べる.

学会印象記

第9回国際細胞学会議/第27回日本臨床ウイルス学会

西 国広 , 平田 守男 , , ,

pp.1086,1104

 第9回国際細胞学会議が1986年5月26日より29日までベルギーのブラッセルで開催された.海外で開催される国際学会に出席するのは二回目であったため,海外旅行と言っても出発前はさほどの興奮もなく,むしろソ連の原発事故によるヨーロッパの大気汚染やアメリカのリビア攻撃によるテロの勃発などの不安感のほうが強かった.5月24日,田中昇博土(千葉県がんセンター所長)を団長とする一行39名がスカンジナビア航空機で成田を発ったのは午後9時半だった.約16時間の長い飛行の後,時差を調整し現地時間5月25日午前11時半ブラッセルに着き,特別仕立てのバスで市内観光の後,万博会場跡の国際会議場へ向かった.無事,登録を終え明日からの学会準備にかかった.

 26日午前9時より開会式があり,会長のGompel博士(ベルギー)の挨拶に始まった.この国際細胞学会議は3年に1回開催され,開会式ではこの分野に優れた業績を残された方に対して毎年1人に授与される国際的な栄誉賞であるモーリスゴールドブラッド賞とMaurice Gold-blatt Cytology Awards)がわれわれの団長である田中先生に,また国際細胞学会の技師賞を山岸紀美江技師(国立がんセンター)に授与された.

シリーズ・生体蛋白質の検査法・10

免疫学的微量定量

石川 榮治

pp.1113-1117

はじめに

 蛋白質は,特殊な例外を除いて,すべて抗原となりうることがよく知られている.つまり,すべての蛋白質に対して抗体を用意することができる.したがって抗原抗体反応を利用して,いわゆる免疫測定法を行うことが可能である.現在までに開発された免疫測定法は数多いが,これらを二つに大別することができる.つまり,標識免疫測定法と非標識免疫測定法である.標識免疫測定法は文字どおり何らかの標識の助けをかりて抗原抗体反応を定量的に観測するものである.非標識免疫測定法は標識を特に使わないで抗原と抗体が反応することにより生成する抗原抗体結合物が巨大分子集合体になり,沈降したり,光を散乱したりする現象を利用する方法である.また,標識免疫測定法を二つに大別することができる.均一標識免疫測定法と不均一標識免疫測定法である.均一標識免疫測定法は,標識抗原や標識抗体の結合型(bound form:B)と遊離型(free form:F)とを分離(B/F分離と言う)することなく抗原抗体反応を定量的に観測する方法である.不均一標識免疫測定法はB/F分離をしたうえで抗原抗体反応を定量化する方法である.一般に,非標識免疫測定法より標識免疫測定法がより高感度であり,均一標識免疫測定法より不均一標識免疫測定法の方が高感度である.つまり,不均一標識免疫測定法がもっとも高感度となる(図1).

シリーズ・超音波診断・10

腎臓

北原 聡史 , 岡 薫 , 竹原 靖明

pp.1119-1122

1.走査法

 腎の超音波検査体位には仰臥位,腹臥位がともに用いられるが,最近では腎を肝,胆,膵などとともに腹部スクリーニングの一つとして検査することが多く,前者が一般的になっている.しかし,腎穿刺術などに際しては後者で行われる.仰臥位における走査は,左右肋間または第12肋骨下縁,右肋骨弓下などから行うが,腎の長軸方向,短軸方向ともに観察することがたいせつである.しかし,体型や腸内ガスなどのために描出が不十分なときは側臥位や腹臥位での背面走査をあわせて行っている.

 検査時は被検者は両腕を頭側へ挙上し,深呼吸を行う.適当な位置で呼吸を一時停止してもらい,探触子を動かしながら腎全体を十分観察することが必要である.

シリーズ・微量元素の検出法・4

体液中亜鉛の定量

玄番 昭夫

pp.1124-1128

亜鉛定量法の種類

 表1のように特別な機器を必要としない比色法から,高価な機器を用いて亜鉛(Zn)のみならず多元素を一斉分析する方法まで多種多様存在する.しかし臨床検査では比色法か,あるいはせいぜい原子吸光分光光度計(AAS)法のいずれかと考えられるので,ここではこの二法に限って述べることにする.なおこの表でオキシンー5—スルホン酸とZnの結合によって生ずる蛍光をゼフィラミンで増強して測定する蛍光法は,血清0.1ml中のZnを十分に測定できる感度を有しているが1),共存物質の影響を受けやすいために特異性がなく,現在まで体液中Zn定量に成功した例を聞かない.また表1にanodic stripping voltammetry (ASV)法というのがあるが,これはフレームレスAAS法と並んでZnを数ppbオーダで定量できる機器分析法の一種であるが2),しかしこの方法は体液中Znの定量には向かない.ちなみにZnに限ってその検出感度を比較するとフレームレスAAS法>ASV法>質量分析法>フレームAAS法>ICP法>放射化分析法という順になる3)

私のくふう

心電図誘導コードの改良

中島 康雄

pp.1132

 乳幼児の心電図記録の際,患児の動揺が大きく短時間で記録を終えることは難しいので催眠剤を用いて記録を行うことが多い.しかしそれでも記録できないことがある.その原因として電極接着による違和感と心電図記録の際の不自然な姿勢が考えられる.私たちは電極誘導コードの改良で患児に与える違和感を少なくし,自然な姿勢で記録を行い,たいへん良好な結果を得ているので紹介する.

免疫電気泳動用ホルダー

森 徳雄

pp.1133

 寒天ゲル免疫電気泳動(IEP)は,ゲル平板,試料孔,抗血清溝の作製,泳動,染色,乾燥と数日を要するが,その間,ゲルの扱いがめんどうで,これを破損しないためには,熟練した技師でもつねに細心の注意が必要である.今回,私は,寒天ゲルIEP検査を容易にするために,IEP用ホルダーを考案したのでここに紹介する.

編集者への手紙

新しい便潜血検査

山田 誠一 , 山田 利津子 , 山本 光祥 , 藤江 一 , 高橋 光辰 , 中村 正夫

pp.1134

 便潜血検査は,消化管の出血性病変,特に,大腸癌やポリープのスクリーニングに有用な検査として行われている.従来の化学的検査方法はヘモグロビン(Hb)の持つペルオキシダーゼ作用により,過酸化水素から活性酸素が発生し,同時に存在する試薬を酸化し,色調に変化を生ずるもので,この色調の変化から血液の有無を判定している.最近,Hbの抗原性に着目し,免疫学的検査が試みられている1)

 ラボシステム社より作られたキットは,第一次検査のフェカツインセンシティブ(フ)ではグアヤック(グ)法の感度を上げ,偽陰性を最小限にとどめ,また,第二次検査の抗ヒトHb抗体を用いたEIA法のラボザイムFECAEIA (ラ)を併用することにより,真のヒトHbを検出し偽陽性のチェックを意図して作られた検査方法である1,2)

研究

フローサイトメトリーによる流血中のリンパ球,単球,顆粒球の絶対数測定

平田 稔 , 三浦 真理子

pp.1135-1138

はじめに

 モノクローナル抗体の普及とフローサイトメトリーの発達とにより,リンパ球サブセット解析の検査が広く行われるようになった.しかし,現在測定されているのはその陽性率であり,サブセットの絶対数を求めるためには,別にリンパ球の絶対数を求めることが必要であった.ところで,フローサイトメーターの中には,サンプルを一定量吸引して測定する機構を持つものがある.同機構を持つスペクトラムIIIは前方散乱光,90°散乱光の二つのパラメーターを同時に表示することにより,末梢血白血球をリンパ球,単球,顆粒球の三つのクラスターに明瞭に区別することが可能である.目的とするクラスターにゲートをかけることによりゲートの中だけ測定されるため,リンパ球サブセット測定のためにリンパ球を分離する必要はなく,全血で測定が可能である.

 Smartら1)は,スペクトラムIIIによりリンパ球絶対数の測定が可能であることを報告している.しかし,彼らのスペクトラムIIIによる測定条件は,通常日本で行われているリンパ球サブセット解析のための測定条件とは異なっており,リンパ球サブセットの絶対数を測定することを目的とすると,彼らの求めた係数をそのまま利用することはできない.

免疫固定電気泳動法を応用したHDL-apoE定量法

池田 裕

pp.1139-1142

目的

 高比重リポ蛋白質(HDL)中のコレステロール(HDL-C)が,虚血性心疾患のnegative risk factorとして広く認識されるようになったが,HDLのアポ蛋白質(apo)の構成異常に関してはいまだ不明の点が少なくない.

 ところで,HDL-apoを測定するには,まず超遠心法で分離したHDLまたはHDLサブクラスについて,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後の分光測光による半定量や,単純免疫拡散法やロケット免疫電気泳動法などの免疫化学的定量法が用いられたり,ゲル濾過分離とRIA定量の組み合わせもある.著者は,より簡便で,臨床検査としても満足できるHDL-apo測定法を検討した結果,蛋白質の検出同定を目的とした免疫固定電気泳動法1)の原理を応用して,HDL-apo定量法を開発した2).今回はHDL-apoE定量法について述べる.

資料

ATLA抗体検出のための新しい凝集反応試薬の評価

小林 進 , 吉田 勉 , 山本 きよみ , 藤田 一之 , 渡辺 和彦 , 山本 直樹

pp.1143-1146

はじめに

 成人T細胞白血病(ATL)は病因論的に,C型レトロウイルス(ATLV)と密接な関連を持つことが明らかになった最初のヒト悪性腫瘍である1).このATLVに対する抗体(ATLA抗体)を保有する者は,同時にATLVのキャリアであることが証明されている2).ATLVの感染経路としては,夫婦間の夫から妻への水平感染,母親から子供への垂直感染3,4),さらに最近,輸血による水平感染が有力視されている5).特に頻回,大量輸血が行われた場合,高率にATLA抗体の陽転化が認められている6).そのため,輸血によるATLVの感染を防ぐ手段として,供血者のATLA抗体をスクリーニングする必要性が生じている.

 ATLA抗体の検出法としては,ATLV産生細胞を抗原とする間接蛍光抗体法1)(IF)が唯一の確かな方法として利用されている.しかし,ATLV産生細胞を最適条件で維持,管理することは一般の研究室では困難である.また,供血者血清のように,一度に大量の検体について,スクリーニングすることは非常に困難である.よって,このような大量検体のスクリーニングを目的とした,ATLA抗体の検査キットの開発が期待されていた.

新しい免疫学的便潜血検査法(固相吸着酵素免疫法)の紹介

多田 正大 , 杉原 千鶴子 , 三好 博子 , 浅野 寿美子 , 三宅 雄一朗 , 内田 壱夫 , 松瀬 亮一 , 豊田 恵波

pp.1147-1150

はじめに

 各種検査法の進歩が目覚ましい今日にあってもなお,消化器科領域では便潜血検査法はもっとも基本的な検査法に位置付けられている.ことに日本人にも大腸癌の増加が著しいことから,そのスクリーニングとして便潜血検査法を活用しようとする気運がみられている1).そのような中にあって,人間のヘモグロビンとのみ特異的に反応する免疫学的便潜血反応法が開発されてきており,注目されている2〜5).私たちも宝酒造株式会社と京都医科学研究所で共同開発された新しい免疫学的便潜血検査法(固相吸着酵素免疫法;TK—1201)を臨床に用いて,大腸癌のスクリーニングにおける有用性と問題点について評価したので報告する.

医学の中の偉人たち・10

Robert Koch 細菌の狩人

飯野 晃啓

pp.1152

 Robert Kochは現在の西ドイツ東部のハノーバーに鉱山技師の子として生れ,ゲッチンゲン大学で医学を修めた.数年間あちこちを転々と勤務した後,今日ではポーランドに属するウォルシュタインという小さな町の地区医師となった.この公務と開業との半々の田舎医者生活の中で,彼の偉大なる業績が始まるのである.妻から28歳の誕生日に贈られた1台の顕微鏡が,彼の数々の研究成果の武器となってくれた.

 まず彼が取り組んだのは,炭疽病(脾脱疽とも呼ぶ)の原因究明であった.当時のヨーロッパに家畜病として流行して,農民たちを悩ませていた炭疽病が細菌によって起こり,炭疽病でたおれた家畜の血液をマウスに注射することによりマウスが同じ病気にかかり死ぬことを突き止めた.

質疑応答

臨床化学 リポプロテインリパーゼの測定法

大谷 勇作 , 福井 巖

pp.1153-1155

 〔問〕リポプロテインリパーゼ(LPL)の測定法とLPL活性の臨床的意義についてご教示ください.

血液 望ましい血小板算定法は

墨谷 祐子 , 鯉江 捷夫

pp.1156-1157

 〔問〕私の施設では,血小板の算定をいまだにFonio法で行つています.直接法に比べると算定部位によりかなりバラつくとのことですが,簡単に実施できるのでまだ捨て難い方法と思われます.中央部を観察するようにしていますが,どのような方法が望ましいでしょうか,ご指導お願いいたします.

血液 プラスミノゲン異常症

T生 , 風間 睦美

pp.1157-1158

 〔問〕プラスミノゲン異常症の病態と出現頻度,また検出法についてご教示ください.

血液 フィブリノゲンの測定法

大田黒 昭雄 , 松田 道生

pp.1158-1160

 〔問〕フィブリノゲンの測定法はチロジン法,重量法,トロンビン法,塩析法などいろいろありますが,それぞれの方法の長所短所および真値についてお教えください.

血液 多発性骨髄腫患者血液の特徴ある固まりかたの機序

河嶋 文代 , 戸川 敦

pp.1160-1161

 〔問〕IgG型多発性骨髄腫のある患者さんの血液が,採血後しばらくすると凝固の途中(?)の段階でこりこりに固まってしまい血清が全然分離されません.8ml採血してこのような状態になったものを遠心すると,最上部に血清様液体が500μl程度しみ出してくるので,その液体で何とか検査を行っています.データとしては,TP 11.0g/dl,Alb2.0g/dl,凝固系検査でプロトロンビン時間に軽度の延長がみられます.骨髄種患者ではたまにこのような状態が観察されますが,この機序についてご教示ください.

免疲血清 CRPはなぜ胎盤を通過しないのか

海川 盛生 , 川端 真人

pp.1161-1162

 〔問〕IgGは胎盤通過性があり,分子量は約15万です.CRPは分子量12万9千でIgGよりも小さいのに,どうして胎盤を通過しないのでしょうか,お教えください.

臨床生理 ベクトル心電図の今日的意義

北原 周明 , 村田 和彦

pp.1162-1164

 〔問〕最近の超音波診断装置の進歩により心臓を直接観察できるようになり,その一方でベクトル心電図の検査依頼が減少しています.そこで,ベクトル心電図の今日の検査における意義および位置づけについてご教示ください.

一般検査 尿沈渣での円柱の観察法

Q生 , 金子 良孝 , 伊藤 機一

pp.1164-1166

 〔問〕尿沈渣で円柱を調べる基準についてお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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64巻12号(2020年12月発行)

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今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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