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文献詳細

雑誌文献

臨床検査33巻3号

1989年03月発行

文献概要

今月の主題 生体内の酸化と還元 巻頭言

生体内の酸化と還元

著者: 中恵一1

所属機関: 1大阪市立大学医学部臨床検査医学教室

ページ範囲:P.249 - P.249

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 生体が必要とするエネルギーは,主として食物の"燃焼"によって得られる."燃焼"とはすなわち,物質代謝における酸化である.Warburgは,この酸化を考えるうえで,酸素の活性化により酸化を触媒する"呼吸酵素"(Atmungsferment)を考えた.一方,Wielandは,"脱水素酵素"を考えた.両説は,水素受容体が反応に関与すると説明することで一つになった.つまり,脱水素反応で,反応の初期物質は"酸化"を受け,水素は水素受容体に渡される.同様の反応が共役し,"呼吸酵素"では酸素分子自身が水素の受容体になり水を生成する.この連鎖反応の典型例はミトコンドリアにおける呼吸鎖である.酸素分子自体が水素受容体になるものを"酸化酵素"と呼んでいる.これらの反応は,水素(あるいは電子などそのエクイバレント)が移動する酸化還元反応である.このことはLavoisierによって開かれた近代化学における"酸化"が酸素と結合する反応であるといわれてきたことを訂正した点で,Wielandが高く評価される所以となった.
 酸素分子を付加する酸化反応を触媒する酵素は,早石らによって発見され"酸素添加酵素(オキシゲナーゼ)"と名づけられた.脱水素酵素と異なるのは,酸素が移動する反応で,酸素ガスが活性化され基質に添加される点である.その一つであるモノオキシゲナーゼは,酸素分子の1原子を基質に添加し,残りの1原子を水素供与体の水素と化合して水にする.ところで,生体内で酸素が還元され水が生成する反応の過程では,電子を受け取って,中間にフリーラジカルと呼ばれる物質を生ずる.O2-(スーパーオキシドアニオン),H2O2(過酸化水素),・OH(ヒドロキシラジカル)であり,励起状態の一重項酸素とともに活性酸素と呼ばれる.好中球を主とする食細胞は,異物の侵入に際して,これら活性酸素を生成し生体防御に働く.細胞内でも,活性酸素を生ずる場がみられる.これと反応して過酸化脂質など不必要な過酸化物が過剰に生成されると,血管障害をはじめとする各種の障害が生ずるといわれ,老化や糖尿病での合併症との関連が示唆されている.生体には,随所で生ずるこれら活性酸素が,反応の場より逸脱した場合に起こる好ましくない反応を防御するために,スーパーオキシドアニオンを過酸化水素に変えるスーパーオキシドジスムターゼなど,スカベンジャーと呼ばれるものをもっている.一般的な物質として,尿酸やビリルビン,ビタミンC,グルタチオン,ビタミンEなどもその作用をもつと考えられる.グルタチオンは特に全体的な還元反応に関与しており,グルタチオン還元酵素欠損症では著しい過酸化水素の代謝障害を起こすことが知られている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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