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ハロセン肝障害
著者: 田中亮1
所属機関: 1北里大学麻酔科
ページ範囲:P.475 - P.476
文献購入ページに移動 ハロセンは1961年以来本邦でも吸入麻酔薬の主役として用いられてきた.ハロセンを摂取するとほぼ50%の患者は術後に軽度の肝障害をきたすといわれている.一方,35000回に1回という頻度で重篤な肝障害を招くことがNationalHalothane Study (1969)によって判明した.ハロセンの肝障害にはいくつかの問題点が指摘される.Rehder1)らは摂取したハロセンは18%が体内で代謝されることをヒトで証明した.代謝経路も判明し好気性代謝の最終代謝産物はトリフルオロ酢酸(TFA)である.TFAは蛋白と結合してハプテンとなり免疫反応の原因となることから肝障害の原因ともなりうる.嫌気性代謝では家兎の実験でジフルオロクロロエチレン(CF2CBrC1),トリフルオロクロロエタン(CF3H2C1)が検出された2).フェノバルビタールの前処置,低酸素でこれらの代謝物質濃度が増加し,この反応過程でフリーラジカルが生成される.肝障害は嫌気性代謝過程でもおこりうることが示唆されている.肝障害の元凶は不明であるが,手術侵襲による肝血流障害,低酸素症,併用薬物による酵素誘導などの因子が考えられる.臨床報告と疫学的調査により判明していることは,劇症肝炎はハロセン初回投与より反復投与例において多いことである.ハロセン反復投与の危険性ついての注意文が1988年厚生省「緊急安全情報」として配布され話題となった.上記情報は「ハロセン使用上の注意改定」であるが,英国医薬品安全性委員会(CSM)の勧告に従い反復使用期間を従来の4週間から3か月に延長した.Inman & Mushin3)によるとハロセン麻酔後黄疸合併例の82%は反復投与例であり,75%は28日以内の投与である.黄疸発症の潜伏期は初回投与で11,4日,反復投与では5.8日である.潜伏期が短縮するのはハロセンに対する過敏性が高まったためではないかと推測している.ハロセン麻酔後の劇症肝炎の危険因子をみると,男女比は1:2であるが男性の予後が悪い.中高年層に多く,小児の発症は稀である.術前に代償性肝疾患を背景にもつ患者はリスクとならない.肥満も因子とされている.この調査では手術室勤務者の肝障害の原因がハロセンか,ウイルス感染かは断定されていない.反復投与の期間設定も大切であるが,2年後の再投与で肝障害をおこしたという報告もあり,医学的に安全期間はないといえる. 最後にハロセンの適応,禁忌にふれる.ハロセン以後の吸入麻酔薬が導入され,ハロセンが唯一の適応となる状況は考えにくくなってきた.筆者は小児の繰り返し投与も避けるべきと考える.喘息例にはハロセンは適切な選択であるが,昇圧薬併用ができない.しかし多くの臨床家はハロセンの調節性,有用性を認めており,新しい麻酔薬への変化を好まないかもしれない.
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