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rRNAに基づく細菌の系統分類

著者: 鈴木健一朗1

所属機関: 1理化学研究所微生物系統保存施設

ページ範囲:P.1107 - P.1108

 いま,リボソームRNA(rRNA)の塩基配列が細菌の分類体系を変えようとしている.1977年,rRNAの解析によって真正細菌(eubacteria)とは系統をまったく異にする古細菌(archaebacteria)の存在が明らかにされた.この解析に用いられたのはrRNAカタログ法と呼ばれる,16SrRNAをヌクレアーゼT1処理して生じたオリゴヌクレオチドのプロファイルをみる方法であった.今や過去の手法になってしまったが,この方法でStackebrandtのグループは放線菌を含むグラム陽性細菌を精力的に調べ,これらの分類体系の再構築を行った.その結果,形態は細菌においてあまり重要ではなく,むしろ細胞成分の分析に基づく化学分類が生物の系統をより反映していることがわかってきた.
 1988年,やはりrRNAの解析に基づいてProteobacteriaという綱(class)の設立が提案された.綱とは属(genus),科(family),目(order)のさらにその上に位置する高次分類階級である1).Proteobacteriaには大多数のグラム陰性細菌が含まれ,その数は140余属にのぼる.Proteobacteriaはさらにα,β,γ,δの4つのグループとそのいずれにも入れられないものに分けられる.この分類をみると,従来の経験的大分類,すなわち光合成細菌,イオウ酸化細菌,窒素固定細菌などという群別はまったく意味を失い,両者のギャップの大きさに驚かされる.現在,この新しい分類にうまく対応した表現形質が発見されていないので,このままではこの分類体系自身もその存在価値を改めて問いたただされることになろう.ProteobacteriaはrRNAの解析のみによって分類されているが,16SrRNAの塩基配列のほか,5SrRNA塩基配列,rRNA-DNA交雑など複数の解析法によるデータをつなぎ合わせているため,全体像を示す系統樹は得られていない.この点は,今後分類階級と生物間距離の間がどのような関係になっていくかという重要な問題につながっている.

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1367

印刷版ISSN:0485-1420

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