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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査35巻4号

1991年04月発行

雑誌目次

今月の主題 肥満とやせ

総説

肥満とやせ

徳永 勝人 , 松沢 佑次

pp.333-337

 "肥満"は脂肪組織の過度の蓄積であり,一般には標準体重の+20%以上をいう."肥満"の中で糖尿病,高脂血症,痛風などの代謝異常や高血圧,心機能異常などの循環器異常などを有するかあるいは,これら合併症を伴う可能性の強いものを"肥満症"と定義しうる.最近,腹腔内内臓脂肪の増加した肥満がこれら合併症を伴いやすいことが明らかにされている.やせは肥満と異なり,疾患が原因となることも多く,脂肪組織のみならず筋肉を含むすべての構成成分が減少する.

肥満の病態と検査

津田 謹輔 , 清野 裕

pp.339-344

 ①肥満の判定に,最近では体脂肪量と相関の高い体格指数として,BodyMass Index (BMI)がよく用いられている.②脂肪の体内分布による肥満の分類が注目されている.すなわち上半身肥満と下半身肥満,あるいは内臓型肥満と皮下脂肪型肥満という分類である.いずれも前者のタイプの肥満が代謝異常や高血圧を合併しやすい.③肥満に伴うインスリン抵抗性と高インスリン血症が,糖・脂質代謝異常,高血圧の発症に関与していると考えられる.

やせの病態と検査

松林 直 , 玉井 一 , 瀧井 正人

pp.345-351

 やせの原因をエネルギー代謝の面からみると①エネルギー取り込みの減少,②エネルギー放出増加,③両者のアンバランスが考えられる.実際には①食事摂取量の不足,②消化・吸収障害,③栄養素の利用障害,④代謝亢進,⑤栄養素の喪失による.これらの原因疾患は精神疾患,消化器疾患,内分泌・代謝疾患,悪性腫瘍,感染症など幅広い領域にまたがるため,これらの基礎疾患を念頭に置きながら,検査を組み合わせて行わなければならない.

脂肪細胞の肥大化とインスリン抵抗性

江崎 治

pp.353-357

 脂肪細胞が肥大化することとインスリンによる糖の細胞内取り込み量とがどのような関係にあるのか調べた.肥満のモデルラットとして,①老化による肥満ラット,②遺伝性(Zucker)肥満ラット,③高脂肪食肥満ラットを用い,脂肪細胞での糖の取り込み量と,この細胞に発現している2種類の糖輸送体(GLUT 1およびGLUT 4)の細胞内での分布を調べた.①のラットにおいてはGLUT 4は著明に低下したが,GLUT 1は基礎状態で形質膜に多く分布するようになり,結果としてインスリンによる糖取り込み作用は低下したがインスリンとは関係なしに糖を多く取り込むことがわかった.すなわちなぜ細胞が肥大化しながらインスリンの作用が低下するのか説明された.②においても同様にGLUT 1が形質膜へ多く分布するため①と同じような現象が生じた.③においてはGLUT 1もGLUT 4も低下し脂肪酸の細胞内流入が細胞の肥大化に重要であることを示唆した.

話題

ピックウィック症候群

山城 義広 , 小川 隆一 , 福島 保喜

pp.358-360

 近年睡眠時呼吸異常や睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome)が注目されるようになったが,特に睡眠時無呼吸症候群には肥満者が多く,その病態との関連についてさまざまな検討がなされている.

 ピックウィック症候群(Pickwickian syndrome)は極度の肥満と肺胞低換気の合併症例として1956年にBurwellらによって報告された1).呼吸循環器の疾患であると考えられていたが1966年にGastautらが睡眠時の呼吸異常がその主因であるとした2).これ以来睡眠時呼吸異常の研究がさかんになりピックウィック症候群はその代名詞としておおいに使用された.最近では睡眠時無呼吸症候群の1つとして一括されているが,現在でも極度の肥満に睡眠時無呼吸症またその合併症を伴うものはこの名称で呼ばれることが多い.

肥満の外科治療

磯野 可一 , 朱 琮杰

pp.360-363

1.はじめに

 近年,わが国においても食習慣の欧米化に伴い,肥満者の数は増加してきており,その肥満度も高くなってきている.肥満度は高くなるに従って罹病率,死亡率も増加することから,積極的な治療が必要となってくる.肥満症の治療の原則は,エネルギー出納バランスを長期的かつ継続的に負の状態に保ち,肥満の本体である過剰に蓄積された脂肪をエネルギーとして利用させ,減量を図ることであるが,重症肥満においては従来行われている食事療法や運動療法では体重減少が不十分であり,減少した体重の継続的な維持はさらに難しい場合が多い.このように,一般的な治療に困難性と抵抗性を示す肥満症に対して,恒久的な体重減少を得るために外科治療が必要となってくる.

多食症

鈴木 裕也

pp.364-366

1.はじめに

 近年,多食症(bulimia nervosa)の増加傾向が著しいと言われている.本症を取り扱う専門医師が少いことと,治療に要する時間が長期であることから,専門外来はつねに満員であり多食症患者は十分な治療を受けることができないという異常な事態にまで至っている.今後さらに増え続けるであろう多食症について,その概容を紹介する.

力士は肥満か?

山田 公雄

pp.366-368

1.はじめに

 "肥満とやせ"を考える場合,ある方法で求めた標準体重(理想体重)の例えば+20%を超えたもの(肥満),-20%に達しないもの(やせ)はいずれも健康や寿命にとっての危険因子であるという前提から,標準体重に少しでも近づくための方法論となろう.

 一方,大相撲力士にとってはどうであろうか?力士においては体重(=肥満度)が多いことが相撲に勝つための非常に大きな武器であることは疑いがなく,そのために一部の特殊な例を除いてみないかにして体重を増やすかに腐心しており,体重を増やすことが出世の1つのバロメーターとなっている.事実,ある力士が急に強くなるとき,体重の増加を伴うことが多い.一般成人の栄養過多と運動不足による,健康にとっての危険因子としての肥満という語を,"職業上,体重増加を高い価値とする力士"に当てはめることは適当ではないと思われる1)

過食症とミネラル代謝

河野 伸造 , 砂川 洋子

pp.369-371

1.はじめに

 過食症(bulimia,bulimia nervosa)は心理的変化により,まず"むさぼり食い(binge eating)"をし,そして体重増加を防止するために清浄化(purging)を行う食行動の異常である.American Psychiatric Associationによる過食症の診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of MentalDisorders(DSM-III-R,1987)は表1に示すとおりで,従来のRussell(1979),DSM-III(1980)の診断基準に比べて,"むさぼり食い"の最低回数がはっきりと決められ,自分の体型に対する過剰な心配が明記されかなり変わっている.

 ところで,過食症ではこのような食行動異常により,

 (1)歯(エナメル質びらん)

肥満児

村田 光範

pp.371-374

1.はじめに

 第二次世界大戦後,すでに45年が過ぎ,この間わが国は社会・経済的に驚異的な発展を遂げた.現在のわが国の生活状況を端的に表現すれば,豊かで,平和で,自由な西欧型の都市型文化生活ということができる.この都市型文化生活は,表1に示したような問題を抱えており,このような状況のもとで生活しているものにとって,それらの問題はことごとく肥満の背景になっている.そして,この肥満が動脈硬化促進につながる危険因子の1つとして大きな問題なのである.

 このような状況の中で,小児の肥満が各方面から関心を持たれており,ことに学校保健では,しばしば健康上の問題として取り上げられている.また,最近では乳幼児期の肥満も問題にされるようになってきた.

フォーミュラ食療法

齋藤 康

pp.374-376

 肥満症の食事療法は目に触れる多くの食品の中から選択して自分でその量を決めて摂取していくことから始まるものである.この作業(治療)は決して容易なものではない.人が食べるという行為はきわめて多くの要因によって調節されているものであり,決められている内容を守っていくことには多くの障害が待っている.空腹はもちろん,パーティ,誕生会,友だちとの語らい,腹のたつとき(やけ食い),など食欲とは関係のないときにでも食べるという行為は進んでいくものである.これを乗り越えることは肥満症を治していくために必須である.そのためにいろいろな方法が行われているが,フォーミュラ食もその1つであろう.フォーミュラ食とは異なるが文字どおり型にはまって一定に作られているもので中には素材の形や味を残して栄養分,カロリー,を一定にしているものがある.いろいろな種類があって変化に富んだ食事になるという利点がある.簡単に量と内容を規定することができても上述のような食事療法を乗り越える根本的なものとはなりにくい.フォーミュラ食とはすべての必要な栄養分を含む形態を一定にしたものであり,通常食品としての形態はとらない,流動食のようなものになる.

神経性食欲不振症と代謝異常

赤林 朗 , 末松 弘行

pp.376-379

1.はじめに

 神経性食欲不振症(anorexia nervosa)は,主に思春期の女性に発症するやせと不食を主症状とする疾患であるが,広く摂食障害(eating disorders)という概念の中に含まれる病態である.摂食障害の主要なものは神経性食欲不振症と大食症(bulimia)である.厚生省特定疾患・神経性食欲不振症研究班の新しい診断基準を表1にあげる.本症は多彩な身体および精神症状を示すが,器質的な病因は明らかにされておらず,患者およびその家族の心理・社会的な病因が重視されている.したがってその診断にはまず器質的疾患,内因性精神病を除外し,面接,心理検査などにより総合的に積極診断をする.本稿では,本症に比較的特徴的な代謝異常を反映する臨床検査について述べる.これらは補助的であるが本症の診断および病状把握に重要な役割を果たすと考えられる.

癌悪液質

早田 邦康 , 宮田 道夫 , 川上 正舒

pp.379-382

1.はじめに

 "るいそう"は,臨床医にとって患者を診察する際に悪性腫瘍の存在を考えさせる重要な症状の1つである.この徴候は,食欲不振,全身倦怠,貧血,体重減少,水・電解質の異常を伴い,進行すると全身の消耗状態に陥る.このような状態を通常癌悪液質と呼んでいるが,その病態は脂質,蛋白,糖,ビタミン,ミネラルそしてホルモンなどの体液性因子にまで変化の及ぶ複雑なものである.このような病態に対し,以前より多くの研究がなされているが,おおまかには以下のように分類できるであろう.

(1)癌自体の増殖に伴い生体の臓器の機能や形態が破壊されることによる臓器の障害によるもの.

急激な減量と検査

吉田 幸夫

pp.382-384

1.はじめに

 日本体育協会に加盟している各種目競技団体はそれぞれ協会,連盟と呼称に違いはあるが漸次45団体が加盟するようになり,東京オリンピック開催時に新設された岸記念体育館では収容しきれない現状にある.

 これら加盟団体中各国際協会,国際連盟に所属し,オリンピック大会に参加できるのは23競技団体に過ぎず16日間の開催期間中全日程を競技するのは,トラック競技に始まりマラソンで終わる陸上競技と,体重別にライトフライ級からスーパーヘビイ級まで12階級のトーナメントを行うボクシング競技の2種目だけである.

カラーグラフ

黄疸の病理

大部 誠 , 池永 誠 , 奥平 雅彦

pp.330-332

肝臓病の病理・4

黄疸の病理

大部 誠 , 池永 誠 , 奥平 雅彦

pp.386-390

 黄疸の病理形態像を観察するにあたっては黄疸を肝内・肝外の障害部位別に分類して理解することが必要であるが,複数の障害部位が重複して黄疸が発生する病態も多い,抱合型(直接)ビリルビン上昇に基づく黄疸では共通の形態学的変化を認めるとともに,各疾患に固有の病変も見いだされる.また,胆汁色素の小葉内分布にも特徴がある.肝疾患における黄疸発現の意義はきわめて重要であり,予後に重大な影響を及ぼすため,病理形態の正確な把握が要求される.

TOPICS

加算平均心電図による房室結節電位の検出

傅 隆泰

pp.392-393

 房室接合部領域には,活動電位の振幅が大きく,立ち上がりも早いHis束と,振幅が小さく,立ち上がりの遅い房室結節が存在する1~3)

 His束の細胞外電位は電極カテーテルを心房中隔下部近くに留置することにより容易に記録される.また最近では信号加算平均システム内蔵の心電計を用いることにより体表からのHis東電位記録も可能となった4)

腰部誘発電位を指標とした神経伝導速度の意義

藤原 哲司

pp.393-395

 後脛骨神経を足関節部で電気刺激し,表面電極を下部腰仙椎部から下部胸椎部にかけて配置し,求心性神経活動電位を記録すると,第1腰椎部レベルで最大振幅を有する腰部誘発電位を導出することができる(図1).この電位は下部腰椎部では二峰性の陰性電位で低振幅であるが,上部腰椎部に向けて振幅を増大して一峰性の大きな陰性電位となり,上行するとともにふたたび振幅を減衰してゆく.

 この電位はLibersonら(1966)1)によりはじめて表面電極で記録されたが,腰部誘発電位Lumbar evoked potentialまたは腰仙部誘発電位Lumbosacral evoked potentialとして,その後,基礎および臨床に関する研究が数多く報告されている.ここではまず記録法と波形の意義について簡単に触れ,次いで腰部誘発電位を指標とした神経伝導速度測定の意義について述べる.

HPVと子宮頸癌

今野 良 , 田勢 享 , 佐藤 信二 , 矢嶋 聰

pp.395-396

 特定のヒトパピローマウイルス(human papillomavirus;HPV)が子宮頸癌組織中に高率に検出され1),発癌過程に重要な因子として働く可能性があるとして注目されている.

 HPVは約7900塩基対の2本鎖DNAをもつDNAウイルスで,現在その型は60種類以上に及ぶ.これらはDNAのホモロジーの違いによって同定された順番に従い,番号で呼ばれており,子宮頸癌やその関連病変で検出されているのは,HPV16,18,31,33,35,52b,58などである.よく研究されているHPV162)と183)は細胞を不死化させ,NIH3T3cellをtransformationさせることや,有名な子宮頸癌細胞株にintegrateされて存在すること(CaSki,SiHaはHPV16,HeLaはHPV18)がわかっている.また,HPVDNAの初期遺伝子領域(E6,E7 open readingframe)はSV40やadenovirus E1Aの一部とホモロジーが高く,癌抑制遺伝子p53およびRbと結合しているという最近の興味深い知見がある4,5).子宮頸癌とHPVの関係を解明するためには上述した基礎研究を裏づける臨床研究が必要であり,われわれの教室では形態学,電子顕微鏡,酵素抗体法,分子生物学的方法による検討を行ってきた.

血小板結合性IgG

野村 昌作 , 粉川 皓年 , 安永 幸二郎

pp.396-397

 血小板抗体は,自己血小板抗体と同種血小板抗体の2つに大別されるが,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)における血小板減少の主要な原因は,自己血小板抗体と考えられている1).Dixonら2)の報告以来,ITPにおいて血小板表面IgG (PAIgG)を測定することは,重要な診断的意義をもつと理解されてきた.というのも,PAIgGは,血小板数の減少が著しいITP例では陽性率が高く,しかも血小板数が上昇すると,逆にPAIgGが減少する場合が多いからである.しかし最近,ITP以外の症例においてもこのPAIgGの上昇がみられる場合があり,その診断的意義については,多少の異論も唱えられている.一方,血小板結合性IgG (PBIgG)は,血小板数との問に有意な相関はみられず,その意義は不明であるものの,その原因の1つとしてHLA抗原の存在が考えられ,クロロキン処理3)や酸処理4)によるHLAクラスI抗原の除去も試みられている.

 Georgeら5,6)は,健常血小板では血小板1個あたり約2万のIgG分子が存在し,そのほとんどは血小板内部,特にα顆粒に存在し,血小板刺激に伴って放出され,血小板表面にはごくわずかなIgGしか存在しないと報告している.最近,フィブリノゲンなどの血中粘着蛋白は,血小板や巨核球の内部に取り込まれ,α顆粒に貯蔵されるというメカニズムが報告されているが7),Georgeらは,IgG,IgA,IgMおよびアルブミンなども巨核球の内部に取り込まれ,そこから産生されたばかりの幼若な血小板ほど,多量の内因性IgGをもっているとしている.血小板破壊が充進した状態では,幼若血小板の動員が増加していると考えられ,これら内因性の血小板IgGは,増加の傾向にあると考えられる.

グリシン受容体

赤木 宏行

pp.397-399

 種々の神経伝達物質,ホルモン,成長因子が結合するレセプターの分子実体が遺伝子クローニングの手法を用いて次々と明らかにされつつある.これらの受容体は,構造的および機能的特徴の共通項から,3つのグループ(イオンチャンネル型,G蛋白共役型,チロシンキナーゼ型,詳しくは,本誌34巻8月号(1990)の特集を参照のこと)に分類されている.このうち,イオンチャンネル型と呼ばれるものは,細胞膜を4回貫通する受容体サブユニットが4ないし5個集まって1つのイオンチャンネルを構成するタイプのものである(図1,2).この種の受容体は,中枢神経細胞およびニューロンにより直接支配される組織細胞(骨格筋や一部の平滑筋)に存在する.他の2つのカテゴリーに属する受容体が比較的時間経過の長い反応(数分から数時間)を仲介するのに対し,イオンチャンネル型受容体は,ごく短時間(ミリ秒から秒のオーダー)で反応を仲介する.すばやい筋肉の動き,瞬時の思考などの情報処理にはイオンチャンネル型受容体が中心的役割を果たしていると考えてよい.イオンチャンネル型受容体には興奮性のものと抑制性の2つがある.前者はアセチルコリンやグルタミン酸が,また後者には,γ―アミノ酪酸(GABA)やグリシンがそれぞれ伝達物質として作用する.GABAおよびグリシン受容体は,ともにクロライドイオンの透過性を高めることにより抑制作用を引き起こすという共通点を持つが,その実体は異なる物質であることが分子レベルで明らかとなっている.GABA受容体は中枢神経系全域に存在するのに対し,グリシン受容体は下位中枢,特に脊髄に多く存在し,そこで,運動ニューロン(骨格筋を支配する神経)の興奮性を制御している.この受容体が密接に関与する疾患として筋萎縮性側索硬化症(ALS),パーキンソン病,痙性脊髄麻痺などが考えられている.

私のくふう

クレアチンカイネースのアイソザイムとアイソフォームの短時間同時測定

前田 良將

pp.400

 最近,CKアイソフォームについての報告が多くなされ,その臨床的意義も明確にされてきた.しかし,その測定方法は煩雑でしかもすべてのプロファイルは確認できない.そこで,セルロースアセテート膜を用いて両性担体を利用した簡便な電気泳動法を紹介する.泳動条件は,300V,15分である.

資料

神経芽細胞腫検査―尿の汚染防止についての検討

沼田 公介 , 楠井 晴雄 , 平田 史朗 , 澤田 淳

pp.401-404

 神経芽細胞腫検査において細菌汚染によって尿中クレアチニン,VMAおよびHVA量が変化することを10名の乳幼児の尿を使って調べた.その結果,37℃で10日間保存した尿のクロマトグラムに未知ピークが出現した.また,クレアチニン分解菌を10名の尿に添加すると,37℃で10日目にクレアチニン,VMA,HVAが低下した.塩化ベンザルコニウム(尿中濃度0.5%)を尿に添加した結果,細菌による影響はなく,クロマトグラムにも変化はなかった.

 防腐剤付着濾紙を入れた採尿容器を考案した.測定機器に適した防腐剤を選択できるので,どの測定機器にも応用できるものと考える.

大阪空港検疫所で検出された毒素原性大腸菌について

川瀬 英嗣 , 大村 寛造 , 吉田 昭夫 , 南 明宏 , 肥留川 仁志 , 楠井 善久 , 中野 康夫 , 余 明順 , 有田 美知子 , 本田 武司 , 三輪谷 俊夫

pp.405-408

 1989年7月から1990年6月までの1年間に大阪空港検疫所で検便を行った1646名についてETECの検出を試みた.結果は東南アジアで感染した者が大半で,毒素の産生事例数はそれぞれST単独産生株90名,LT単独産生株85名,LT-ST産生株42名,ST,LT,LT-STの複合感染事例13名であった.ETECの検出率は13.97%と他検出菌種に比べてかなり高い割合を占めており,ETECが依然として海外旅行者の主要な下痢起因菌となっていることが示唆された.

臍帯血IgE濃度に関する検討―RIA法の測定系評価と基準値設定について

近藤 雅彦 , 森永 謙二 , 末村 正樹 , 高垣 裕 , 加納 栄三 , 橋爪 孝雄 , 泉谷 徳雄 , 平田 良 , 脇本 博 , 田中 祥介 , 辻本 兵博 , 小林 美智子 , 末原 則幸 , 川本 豊 , 藤村 正哲 , 魚住 光郎 , 藤本 伊三郎

pp.409-412

 IgEリアビーズ(RIA法)の測定系の検討および本法を用いた臍帯血の基準値について検討した.同法は0.25~1000IU/mlの測定範囲を有し,高感度で精度にもすぐれ,ファデザイムPRIST(EIA)との相関もr=0.974と良好な成績であり,臍帯血IgEを感度良く測定できた.パラメトリック法およびCRRP法により臍帯血2177例について基準値を検討した結果,その基準値は0.5IU/ml以下であった.

乳頭分泌液中CEA測定用簡易キット(MS-1002改良型)の検討

西口 隆偉 , 船橋 修之 , 高塚 雄一 , 河原 勉 , 宮内 泰彦 , 佐藤 克幸 , 松浦 崇

pp.413-417

 新しい乳癌の診断薬である乳頭分泌液中CEA測定用簡易キットについて検討を行った.同時再現性,日差再現性はともに良好であり,本キットとCEA定量試薬の測定値はよく相関した.また,1μlという微量の乳頭分泌液を用いて,呈色の強さを肉眼で比較することにより判定ができるなど,簡易性に優れたキットである.本キットは乳頭異常分泌症例において,他の方法では診断が困難な無腫瘤性乳癌の検査法として有用である.

新しい末梢血液検査法Quantitative Buffy Coat Analysis〔QBO〕の有用性について

川田 勉 , 田中 由美子 , 小野 仁 , 池田 正勝 , 丹羽 正治 , 安藤 泰彦

pp.418-424

 Quantitative Buffy Coat Analysis:QBCは緊急検査用に最近開発された簡易血球測定装置である.その測定原理は血液細胞成分を毛細管内で遠心分離し観察されるbuffy coat層を分離拡大させ各細胞成分を定量測定する.QBC法による血球測定の有用性の検討をした結果,従来法に比較して血球算定では同時再現性,希釈直線性に良好な成績で,顆粒球や単核球の比率も視算法とほぼ良好な相関が得られた.

 一部の血液疾患では,特定の測定項目に問題点は残るが簡便性,迅速性,微量性を併せ,QBC法は緊急検査およびベッドサイド検査に適した有用な検査機器と考えられた.

質疑応答 血液

抗好中球抗体の検出法

I生 , 北原 光夫

pp.425-426

 Q 好中球減少症の患者における抗好中球抗体検出法の現況をお教えください.

質疑応答 微生物

デング出血熱の診断法

H生 , 奥野 良信

pp.427-429

 Q 最近輸入感染症として,デング出血熱の症例が散見されるようです.診断法を中心に,デング出血熱について解説してください.

質疑応答 臨床生理

肺高血圧の非観血的診断法

O生 , 石光 敏行

pp.429-432

Q肺高血圧を非観血的に診断する方法についてお教えください

質疑応答 診断学

I型糖尿病発症遺伝子の検索

N生 , 池上 博司 , 荻原 俊男

pp.432-434

 Q I型糖尿病発症遺伝子の検査について,現在どの程度まで臨床的に応用可能になってきているのか,お教えください.

質疑応答 検査機器

プラスチック採血管の特徴

Y生 , 安楽 秀雄

pp.434-438

 Q プラスチック採血管の種類・特徴や検査値に与える影響などについて,ご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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