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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査36巻13号

1992年12月発行

雑誌目次

今月の主題 溶血性尿毒症症候群(HUS)

カラーグラフ

HUSの集中発症―症例と剖検所見

小川 恵弘 , 佐藤 英章 , 中西 洋子

pp.1304-1306

総説

HUS/TTPの病態

菊池 正夫 , 池田 康夫

pp.1311-1315

HUS/TTPは微小循環系に血小板血栓が形成されるために虚血性ないしは梗塞性の多臓器障害が出現する.この血小板血栓形成機序として一次的には微小血管(内皮細胞)障害が起こり,その結果内皮細胞から放出されるvWFの高分子重合体,ずり応力,血小板凝集因子などが関与して血小板凝集塊が形成される.HUS/TTPの予後は血漿交換,血漿輸注により飛躍的に改善され,生存率は80%に達した.この治療がすべての症例に有効ではなく,発癌機序の複雑さを物語っている.〔臨床検査36(13):1311―1315,1992〕

病原性大腸菌と溶血性尿毒症症候群

本田 武司

pp.1317-1322

大腸菌は正常腸内細菌叢を構成するが,一部の特殊な病原因子産生能を獲得した大腸菌は病原性大腸菌あるいは下痢原性大腸菌と総称される.これらの大腸菌はその病原性発現機構に基づいてenteropathogenic E. coli(EPEC),enteroinvasive E. coli(EIEC),enterotoxigenic E. coli(ETEC),enterohemorrhagic E. coli(EHEC)およびenteroaggregative E. coli(EAEC)の5つのカテゴリーに分類される.これらのうちEHEC(腸管出血性大腸菌)は出血性大腸炎の原因菌として1983年に発兄され,Shigella dysntriae 1の産生するShiga toxinと同一ないし類似毒素(Vero毒素:VT 1およびVT 2)を産生する.本菌感染症で問題となる合併症に溶血性尿毒症症候群(hemolytic-uremic syndrome;HUS)があり,死に至る例もあるので注意が必要である.〔臨床検査36(13):1317-1322, 1992〕

Vero毒素研究の現状

竹田 美文

pp.1323-1328

Vero毒素は,大きく分けてVT1とVT2の2種類があり,そのうちVT2には類似した構造を持つ少なくとも4種類のvariantが報告されている.VT1はShzgella dysenteriae1が産生する志賀毒素と遺伝子の塩基配列がまったく同一であり,VT2familyは志賀毒素と約50~60%の相同性がある.したがってVero毒素は志賀毒素様毒素と呼ばれる.Vero毒素の分子レベルの作用機構はよくわかっているが,HUSなどの臨床症状との関連性は未解決である.〔臨床検査36(13):1323-1328,1992〕

技術解説

腸管出血性大腸菌の同定法 1.Vero毒素の検出法

甲斐 明美 , 工藤 泰雄

pp.1329-1333

腸管出血性大腸菌あるいはVero毒素産生性大腸菌感染症の検査室診断の基本は,糞便から分離した大腸菌のVero毒素産生性を確認することにある.このVero毒素検出法としては,菌の産生する毒素そのものを検出する方法と,VT産生遺伝子の存在を確認する方法の2者があるが,本稿では,前者の中でも最も代表的な培養細胞法を中心に紹介した。これらの手法は,また糞便など臨床材料からの直接毒素検出にも応用しうる.〔臨床検査36(13):1329-1333,1992〕

腸管出血性大腸菌の同定法 2.PCR法

小林 一寛

pp.1334-1338

血性下痢や溶血性尿毒症症候群(HUS)の原因となるVero毒素(VT)産生性を確認する方法としてPCR法を開発した.この方法は被検菌の培養を行わず,培養細胞や放射性同位元素を使用しない簡便な遺伝子診断法で,多くの検査室で応用できる.

 VTはある種のファージDNAによって介達され,その構造遺伝子も明らかになっている.この遺伝子の存在をDNAポリメラーゼの酵素反応によって人為的に増幅し,わずかな菌株から検出するもので,きわめて高感度の方法である.たいした設備,DNA抽出操作などは必要ではなく,使用する試薬類も長期間保存が可能で,結果は約3.5時間で得られる.ここで紹介したPCR法はVT型別も同時に行う方法で疫学的にも有効と考える.〔臨床検査36(13):1334-1338,1992〕

腸管出血性大腸菌の同定法 3.血中抗体検査

竹田 多恵

pp.1339-1343

EHECは下痢や出血性大腸炎などの消化器障害にとどまらず,感染後1週頃からHUSや神経系障害を併発するために,早期の鑑別診断が重要である.しかし,こうした重症化がみられる頃には感染からの時間が経過していることや抗生剤などの投与を受けており,原因菌が検出できないことが多い.このように培養陰性の例では患者血清中のEHEC菌体O抗原(LPS)に対する抗体検索が本菌感染症の診断上有用である.LPS抗体(IgM)は初発症状後1週間にはすでに高値として検出されるため早期診断法として有用である.一方,VT抗体(IgG)は20~30日になってようやく上昇がみられ,しかもその値はわずかであること,健康成人血清中からもしばしば高い抗体価が検出されることなどから,疾患との因果関係を判定するには慎重でなければならない.〔臨床検査36(13):1339-1343,1992〕

von Willebrand因子重合体の検査

安室 洋子 , 滝 正志 , 富田 幸治

pp.1344-1349

von Willebrand因子(vWF)は血管内皮細胞および骨髄巨核球で生産される高分子糖蛋白質である.損傷された血管の内皮下組織と血小板を接着させる接着分子として働き,一次止血に重要な役割を果たしている.von Willebralld病はこのvWFの先天性異常症として数多くの変異種が存在する.この診断のためにはvWFの抗原量,活性値,マルチマー分析が行われる.近年では後天性のvWFの異常症が報告され,HUS/TTPにおけるマルチマー分析で急性期に出現し,寛解期に消失する正常なlargemultimerより大きな分子のsupranormalが血小板凝集の強力な惹起物質となるとの報告もあり,HUS/TTPの病態解析に大きな意味を持つものと考えられる.〔臨床検査36(13):1344-1349,1992〕

血中遊離ヘモグロビンの定量法

金森 由朗 , 永友 緑

pp.1350-1354

通常,ヘモグロビンは赤血球内にあるが赤血球の分解によって遊離ヘモグロビンが生じる.遊離ヘモグロビンは速やかに処理され血漿中には非常に微量しか存在せず通常臨床的には問題となることはない.しかし体外循環,熱傷などにより大量に溶血すると腎障害を引き起こすことがある.血中遊離ヘモグロビンを測定するに当たっては総遊離ヘモグロビンと,ハプトグロビンと結合していない遊離ヘモグロビンとを区別して扱う必要があり,前者の測定法として基本となるシアンメトヘモグロビン法と現在一般に行われているTMB法を,後者の測定法としてELISA法を紹介する.〔臨床検査36(13)1350-1354,1992〕

血小板凝集因子の検査

花房 秀次 , 稲垣 稔

pp.1355-1359

HUS急性期には,血小板凝集が亢進し腎において血栓を形成し,血小板減少,溶血性貧血,腎機能障害が生じると考えられている。しかし,患者血小板を用いての凝集亢進は証明されていない.その理由は患者末梢血においては血小板数の低下が存在すること,あるいは流血中の血小板は活性化後の疲弊した状態にある可能性が強いためである.一方,これまで患者血漿中の血小板凝集因子については,健常者血小板を用いて種々の検討がなされてきた.HUS急性期の血小板凝集亢進は,血漿中の血小板凝集の元進因子の増加か抑制因子の減少,あるいは血管内皮細胞障害により生じると思われる.HUSは症候群であり,その原因により血小板凝集へ与える因子も異なることが推定される.〔臨床検査36(13):1355-1359,1992〕

話題

ヘモグロビン尿と腎障害

黒田 満彦

pp.1360-1361

1.ヘモグロビン(Hb)尿

 溶血によりHbが赤血球から血中に放出されても,Hbは直ちに尿中に排泄されず,下記のような過程を経る.遊離のHbや鉄には腎その他の生体組織を傷害する危険性があるため,その防御のためとも理解できる生体機構が存在する.それらは1,2)①Hbは血清蛋白中のハプトグロビンやヘモペキシンと結合し,血清の結合能(約100mg/dl)以上になるまで,尿中にover flowしてこない.②また,Hbの分子量は約65kDaとほぼアルブミンの分子量に相当するため,正常な糸球体では濾過を受けにくい,などである.近縁のヘム蛋白であるミオグロビン(MgB)も,筋組織の傷害により血中に放出された後類似の処理を受けるが,相達する点もある.まずα2グロブリンと結合するが,その結合はかなりルーズであり,また結合能もHbの約50%(3~15mg/dl程度)と小さく,さらに分子量もHbの約1/4(約17kDa)と小さいため,MgBは尿中に排泄されやすい.Hbに比べMgBによる腎障害が起こりやすい要因の1つとも言える.

 Hbの排泄が30mg/dl以上に達すると,肉眼的にも認識できるようになる2).一般に,Hb尿や血尿は鮮紅色を呈するのに対し,MgB尿は褐色調とされているが,Hbや血尿も尿中で時間が経つと変化し,メトヘモグロビンなどの褐色調を呈することがあるので,色調による鑑別には限界がある1,2)

薬剤とHUS

酒井 糾

pp.1362-1363

 薬剤とHUSについて治療薬剤の選び方,使い方,今後の展開についてまとめた.

 溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome;HUS)は急性腎不全,赤血球の破壊を伴った溶血性貧血と血小板減少を特徴とする症候群であり,単一の疾患を示しているものではない図1,2に糸球体内血栓の像を示す.このためHUSは世界各地でみられるが,その頻度,年齢,重症度に相違がみられる1)

連載 重複表現型の白血病細胞・6

好塩基球と肥満細胞との重複表現型を持つ中間的細胞

榎本 康弘

pp.1300-1301

 組織肥満細胞(MA)はマウスにおいては骨髄由来で,ほかの血液細胞と同一な幹細胞が起源であることが明らかにされている1).一方,ヒトにおいては好塩基球(BA)と肥満細胞の前駆細胞における分化や増殖についてはいまだに不明の点が多.しかし骨髄増殖性疾患(MDS)2)や慢性骨髄性白血病の際には,同一細胞に肥満細胞と好塩基球の両方の特徴を持った中間的な細胞が出現することが明らかにされており,これらの形態的事実から両細胞が共通の前駆細胞から分化することが示唆される,今回はMDSの1症例で,末梢血に出現したPPO様反応陽性の芽球および成熟好塩基球に肥満細胞と好塩基球の表現型を併せ持つ細胞について解説する.

COFFEE BREAK

Classic

𠮷野 二男

pp.1328

 生化学で物質代謝の過程に,classic pathwayとalternative pathwayという説明がある.

 臨床検査では,このalternatlve pathwayによる産物などを検出することで,代謝異常を見いだす手掛かりになる.

汝の道を歩め

屋形 稔

pp.1343

 梅雨も明けてカッと真夏の太陽が照り始めた7月下旬.南国土佐は高知市で臨床病理学会の中国四国支部例会が開催された.この機会に例会長の佐々木匡秀教授から講演の依頼を受け,遙々と越後の国からとんで行った.というのは佐々木教授の用意した演題が「私の夢みた検査とは」というはなはだ難しいが魅力のある題であったことと,中・四国こそわが国で最初に検査を学問体系に取り込んだ草分け的な土地柄であったからである.

 いうまでもなく県立山口大学時代に臨床病理学講座を開設し,のち川崎医科大学・学長になられた柴田進先生がその中心で,80歳近くの今日もかくしゃくとして会場に見えられ,はりのある声で特別講演もされた.中・四国には佐々木教授をはじめ息のかかった門弟が沢山おり,しかも杓子定規でなく個性的な人が多く,検査の世界で活躍しているのは周知のところである.

血管病変の病理・6

血管性腫瘍

長田 宏巳 , 絹川 典子 , 沢田 達男 , 根本 則道 , 桜井 勇

pp.1364-1370

血管性腫瘍には,血管成分が腫瘍化した病変から,血管組織から成る腫瘍様組織奇形までさまざまな病変が含まれる.WHO分類では血管由来の腫瘍および腫瘍様病変を大きく良性と悪性の2つの群に分類しているが,さらに,Enzingerらは良性,中間群,悪性の3群に分類している.〔臨床検査36(13):1364-1370,1992〕

トピックス

酵素抗体二重染色法による異種ウイルス抗原の同時検出法

佐藤 由子

pp.1372-1375

 感染症の病理学においては,診断上または発症病理の解明のためには,病巣と病原体との関連を明らかにする必要がある.ウイルス感染材料では,病巣の一部を用い病原ウイルスを分離することは基本的に重要である.病理学的には,ウイルスの感染細胞で生成されるウイルス蛋白(ウイルス抗原)を免疫蛍光法や酵素抗体法などで検出することが簡便かつ確実な方法である.

 近年,単クローン抗体作製法,あるいは単一特異性抗体作製法などの進歩で,ウイルス増殖過程でみられるいくつかのウイルス蛋白抗原を特異的に染め分けられるようになってきた.

TOPICS

コイロサイトーシス

岩成 治

pp.1375-1376

 コイロサイトーシス(koilocytosis)とは組織標本や細胞標本に空洞細胞(koilocyte)が出現している現象を指し,Ayreによって最初に発表され,Kossによって子宮頸部上皮内癌との関連が予見されてから注目されるようになった.また,電顕によりkoilocyteの核内にウイルス粒子が認められ,in situハイブリダイゼーション法により,そのウイルス粒子はhuman papilloma virus(HPV)感染であることが確認された.さらに最近発達した分子生物学からHPV型別のkoilocyte出現率も調べられたが,condylomaの原因と考えられる6あるいは11型や,子宮頸癌の原因と考えられる16あるいは18型などの型には,出現形態も出現頻度も相関しないことがわかってきた.また,最近HPVの感染の認められた異形成が癌に進行しやすいという報告もあり,子宮頸癌の二次予防や,異形成のfollow-up上,HPVの感染の有無を知ることは重要で,koilocytosisを初めとするHPV感染の細胞所見(dyskeratosis,smudgednucleation,multiple nucleation)に注目する必要性が出てきた.そこでアメリカの細胞学会を中心とするThe Bethesda Systemによる細胞診断のレポートでは,HPV感染の有無をはっきりと報告することになっている.

モノクローナル抗体;Ber-EP4

伊藤 仁 , 長村 義之

pp.1376-1377

 病理組織診,細胞診に免疫組織化学的手法である酵素抗体法が導入されて以来,診断に有用な抗原の局在が観察可能となり,現在では多種多様の抗原に対するさまざまな抗体が市販されている.これらの中でも特に日常のルーチン業務においては,組織型を決定するためのマーカーが頻用され,腫瘍が上皮性であるか,非上皮性であるかに用いられるkeratin,vimentin,carcinoembryonicantigen (CEA),epithelial membrane antigen(EMA),leukocyte common antigen (LCA)などの使用頻度が最も高い.

 近年,DAKO社より市販されているモノクローナル抗体Ber-EP4は,乳癌細胞培養株を免疫原とする新しい上皮性マーカーであり,扁平上皮の表層細胞,肝細胞,壁細胞を除くすべての上皮細胞,癌細胞の細胞膜および細胞質と反応し,中皮細胞および筋肉,リンパ組織などの間葉系細胞や,神経,神経膠細胞では陰性を示す.したがって現在頻用されているkeratin,CEA,EMAなどの上皮性マーカーと同様に,上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍の鑑別に有用であり,また肝内胆管は陽性を示すが,肝細胞では陰性のため,肝内胆管癌と肝細胞癌との鑑別に有用であると言われている1)

痴呆症の診断に眼球運動の検査

藤井 充 , 深津 亮 , 高畑 直彦 , 山田 光穂

pp.1377-1379

 欧米諸国と同様に本邦でも高齢化社会を迎え,急速に増加した痴呆老人は医学のみならず,社会的にも大きな関心を集めている.アルツハイマー病(AD)は"世紀の病"とも称され,基礎および臨床の場で世界の研究者の注目を集めている代表的な痴呆疾患である.その臨床像の特徴は記憶障害,健忘に加えて初期から特有の視空間認知障害など高次神経機能の障害を示すことにある1)

 一方,ADの臨床像の背景をなす大脳の責任病変部位は,核医学診断法などの画像診断,神経心理学的検査などから頭頂葉を中心とした後方連合野であることが明らかにされてきた.頭頂葉を中心とした脳領域は視覚情報の統合処理に重要な脳部位であり,同領域が障害されるADでは種々の視覚認知障害が出現することに着目して,視覚構成課題を遂行している時の注視運動を新しく開発された眼球運動分析装置,頭部運動検出装置などを用いて解析してきた.その結果ADに特徴的ないくつかの新しい所見が認められた.以下にその研究の概要を記す.

血管新生阻害剤;エポネマイシン

長谷川 雅巳 , 室田 誠逸

pp.1379-1380

 血管新生は,発生・成長期に認められるばかりでなく,固形腫瘍の増殖,慢性炎症,糖尿病性網膜症,創傷治癒,動脈硬化などさまざまな病態で認められる現象である.

 固形腫瘍における血管新生とは,癌細胞が血管新生促進因子(angiogenin,bFGF,VEGFなど)を産生し,栄養補給路となる毛細血管の形成を自ら誘導しようとするものであり,癌の化学療法において,固形腫瘍の栄養補給路となる血管の形成を阻害することは癌の増殖抑制につながり,抗癌効果が期待できる.

学会印象記 第39回日本臨床病理学会総会

医療の最終的な目標は患者のニーズに答えることを痛感

桑島 実

pp.1381

 10月14日から3日間,臼井敏明総会長のもと,わが国における西洋医学教育発祥の地である長崎市において第39回日本臨床病理学会総会が開催された.17年前,同じ長崎で開かれた22回総会に比べると,シンポジウム7題,フォーラム1題,専門部会講演会6題,技術セミナー7題,一般演題は693題と約1.5倍の膨大な内容となった.初日は別として,シンポジウムと一般演題をまんべんなく聞くのはもはや不可能となった.このため一般演題は抄録の通読にとどめたが,中には他学会の抄録集に掲載されているのと同一演題がいくつかあり,ごく少数だが演者,内容ともほとんど同じというものまであった.総会の発表には常にoriginalityがあって欲しいものである.研究者としての姿勢を問いたい.

 さて,臨床病理学ほど広範な分野が包含された領域はあまりない.しかし「臨床」と付くかぎり,患者あるいは人の健康と生きがいに直接,奉仕できるものでなければならないはずである.これは,総会記念として頂載したテレホンカードに印刷されているポンペの言葉「…ひとたびこの天職を選んだ以上,もはや医師は自分自身のものではなく,病める人のものである…」に集約される.医師に限らず医療人すべてに通じる言葉といえよう.

海外だより

マラウイ

薬師寺 小百合

pp.1382-1383

 医療従事者としての意味をもう一度見つけようと…

 朝8時30分,職場に到着すると同時に私を待ち受けている山積みになった検体.机の上を整理する間もなく早速仕事に取りかかる.やってもやっても減らない検体の数々.緊急検査の依頼もひっきりなしに入ってくる.休む間もなく,時には昼休みもとれず,とにかくその日の仕事の区切りがつくまでひたすら働き続ける.そんな生活が日本で3年間も続いた.

 何か人の役に立つような仕事をしてみたい,それなら医療従事老になろう,そうして選んだ臨床検査技師という仕事だったのに,その頃の私はこの自分自身が選んだ仕事を嫌いになりかけていた.超人的な忙しさと検体処理に追われるだけの日々.医療に従事しているという実感などまったくなく,機械の歯車の一部にでもなったような気分だった.一生こんなことを続けていくのは嫌だ….

研究

バイオプロッターによる化学療法剤併用効果判定法について

澤畑 辰男 , 磯部 和正 , 中井 利昭 , 吉澤 靖之 , 長谷川 鎮雄

pp.1387-1390

吸光度変化をとらえることにより,細菌増殖を測定する機器であるバイオプロッターを用いて,化学療法剤併用効果を判定する方法の検討を行った.使用菌株は臨床経過の明らかなMRSA株を用い,抗生剤の組み合わせはホスホマイシンとフロモキセフ,ホスホマイシンとセフメタゾールとした.併用効果判定はコントロール吸光度値に対する併用薬剤の吸光度値の割合を比較した.

1)バイオプロッターの細菌増殖による吸光度値と定量培養による細菌数との相関は良好であった.

資料

脳波検査における眼球運動除去方法

高木 康宏 , 石井 みゆき , 宮内 利郎 , 富岡 理恵 , 萩元 浩 , 中里 浩味 , 遠藤 青磁 , 山口 公 , 梶原 晃

pp.1391-1394

健康正常成人5例,精神疾患患昔5例の計10例を対象に,被検者自身に閉眼させる,眼瞼を手で押さえる,濡れタオル,乾いたタオル,10gの米入りお手玉,20gの米入りお手玉を眼瞼にのせるの6通りの方法で,眼球運動除去効.果を検討するとともに,脳波トポグラフィーを用いて各方法の脳波に及ぼす影響について検討した.その結果米入りお手玉による方法は眼球運動除去に効果があるのみでなく,脳波に及ぼす影響がなく有用であることが示唆された.

簡易血糖測定機の静脈血を用いたサテライト検査への応用に関する基礎的検討

吉岡 克宣 , 下條 信雄 , 中 恵一 , 奥田 清

pp.1395-1398

固定化酵素電極を利用した簡易血糖測定機(グルテストEおよびグルテストセンサー)のサテライト検査への応用に関する有用性について基礎的な検討を行った.同時再現性は良好で,抗凝固剤や解糖阻止剤の干渉および環境温度の影響は認められなかった.また比較参照法との相関も良好でサテライト検査として有用なシステムと考えられた.しかしヘマトクリット値が極端に低い場合には正誤差を与えることや,採血後検体を放置すると解糖阻止剤の添加とは関係のない測定値の変動がみられることに留意する必要があった.

全身性強皮症(PSS)患者における抗Scl-70抗体(ELISA法)の特異性についての検討

前田 学 , 市來 善郎 , 渡部 裕子 , 松原 勝利 , 平野 久代 , 森 俊二

pp.1399-1402

保存血清を用い,抗Scl-70抗体の有無を第1群全身性強皮症(PSS)146例,第2群非PSS52例,第3群非膠原病37例,第4群膠原病疑い28例を対象にMESACUP Scl-70テスト(ELISA法)と従来の二重免疫拡散(DID)法で比較検討した結果,前者は第1群18例,第2,3群各1例,第4群2例,後者は第1群16例,第2群1例に陽性を示した.第1,3,4群のELISA法のみ陽性の5例をウエスタンブロット法で再検したところ,第1群2例と第3群1例に陽性バンドを認めた.以土から,ELISA法はDID法より鋭敏で,数値化できる点が特徴と考えられた.

質疑応答 臨床化学

肝疾患由来のアルドラーゼアイソザイム

田中 光夫 , 浅香 正博

pp.1403-1405

 Q アルドラーゼは筋由来と肝由来のものとがありますが,アルドラーゼアイソザイムで由来の区別ができるものでしょうか.また,肝疾患ではどのような場合,どれぐらいの上昇がみられるのでしょうか.併せてご教示ください.

臨床的に信頼できるメイラード反応終期産物

S生 , 川上 正舒

pp.1405-1408

 Q メイラード反応終期産物(糖化蛋白終期産物)にはいろいろな種数があり,また,その抗体も種々開発されています.現在どの方法によるものが,臨床的に最も信頼できるのでしょうか.ご教示ください.

CK-MB異常

T子 , 高木 康

pp.1408-1410

 Q 心筋梗塞と思われる患者で,CK (UV法);690IU/l,CK-MB (免疫阻害法);1,700IU/lの測定結果となりました.このような総活性値とアイソザイム値が逆転した原因として考えられることをお教えください.また,CK-MBの最良の測定法について併せてお教えください.

質疑応答 血液

フィブリノゲン量の著しい高値

K生 , 巽 典之 , 福田 哲夫

pp.1410-1411

 Q フィブリノゲンが1,300mg/dlと高値を示す症例がありました.成書には170~140mg/dlが正常値と書かれています.この異常高値をどのように考えたらよいのでしょうか.

質疑応答 免疫血清

検査室できるリンパ球機能検査

O生 , 鈴木 洋司

pp.1412-1414

Q 上記についてお教えください

質疑応答 資格制度

臨床検査技師が取得可能な資格

N生 , 朝山 均

pp.1414-1416

 Q 上についてお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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