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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査36巻4号

1992年04月発行

雑誌目次

今月の主題 血管内皮細胞

巻頭言

血管内皮細胞研究の多様性

住吉 昭信

pp.353-354

 およそ血管は,すべての臓器に分布しており,その生理機能の維持に重要な役割を演じている.その内皮細胞は,極めて多彩な機能を有することが明らかになってきているが,このような多様な機能を有する内皮細胞の研究が急速な進歩を遂げたのは,ここ20年そこそこのことであり,それを可能にした最も重要な出来事は,血管内皮細胞培養法の確立とその応用の進歩である.加えて,新しい生体物質化学の研究,同定法,さらに細胞生物学的研究法の急速な進歩,導入に負うところが大きい.

 血管内皮細胞の有する循環調節における共通した機能は,血液循環の究極の目的である末梢組織での物質交換を円滑に行うのに必要な血液循環を維持することで,そのために全身で10m2にも及ぶとされる内皮細胞表面上に接する血液の流動性を保持する働きを有している.そのために各種の抗血栓性(血小板やその他の血球,血液成分が粘着,凝固するのを防止する)機能を有すると同時に,自身は基底膜に付着して,単層(重層化しない)に増生し,血管内腔を開放性に保つ性質を有している.

総説

血管内皮細胞の培養とそのheterogeneity

住吉 昭信

pp.355-359

 血管内皮細胞培養の歴史と問題点について述べた.形態学的および機能的heterogeneityについて,知り得た差のあるところを中心に述べた.今までは主として内皮細胞一般の性質の研究に,大方の注意が向けられていたが,病態生理を踏まえてよりきめ細かく研究を発展させなければならない.動物の内皮細胞は部分的にヒトのそれに類似するが,ヒトの血管内皮にとって代わりうるものではないという点も心にとめておいた方がよい.

技術解説

トロンボモジュリン

石井 秀美 , 木崎 景一郎 , 堀江 修一

pp.361-366

 トロンボモジュリン(thrombomodulin;TM)は,血管内皮細胞膜上に存在する血液抗凝固蛋白質である.内皮細胞が炎症性サイトカインやエンドトキシンにさらされると,TMの発現は低下し,炎症や感染症時において血栓が発症しやすいことの1つの要因と考えられている.一方,内皮細胞へのサイクリックAMPやレチノイン酸の処理によってTMの発現量の増加することが報告され血栓症の予防と治療の面から注目されている.また,循環血漿中にはTMの分解産物である低分子のTM抗原が存在し,血漿中TM抗原量の増加は内皮細胞障害の程度を推測する指標としても注目されている.本稿ではこの様に多方面から注目を集めているTMを,実際に測定する方法を詳述した.

ICAM-1,ELAM-1

東田 朋恵 , 高子 徹

pp.367-371

炎症やアレルギーなど多岐にわたる分野で,接着分子に関する研究が近年注目されている.血管内皮細胞上にICAM-1やELAM-1などの接着分子が発現しているか否かは,フローサイトメトリーを用いて解析することができるが,これには付着性の細胞を剥がす操作が加わる.そこで筆者らは,培養状態の血管内皮細胞を用いて接着分子の発現量を定量的に測定するCELL ELISA法を確立した.本法は,in vitroで血管内皮細胞と白血球の接着に関与する接着分子を特定するために有用であると思われる

P-selectin/GMP-140

半田 誠 , 池田 康夫

pp.373-378

 血管内皮細胞や血小板の貯蔵顆粒膜蛋白P-selectin/GMP-140は,それらの細胞が種々の刺激を受けて活性化されると,表面に速やかに移行する.そして多核白血球や単球の標的となり炎症・免疫細胞が炎症や血栓形成部位へ集簇し,血管外へ遊出するのを助ける.この糖蛋白は特異的糖鎖構造を認識するレクチン様ドメインをその分子上に有する一群の接着分子ファミリー,セレクチンに属する.血小板にも比較的豊富に存在するが,その機能についてはまだ不明である.

t-PAとPAI-1

坂田 洋一 , 金子 宗聖

pp.379-383

 血管内皮細胞(ECs)で産生され,放出される組織型プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)およびその生理的阻害因子プラスミノゲンアクチベータインヒビタ-1(PAI-1)が血栓溶解反応の開始段階における制御に重要な役割を果たしている.これらの因子の産生,放出は生体に加わる種々の刺激に応じ微妙に調節されている.t-PA,PAI-1の血中レベルを測定することは線溶系の開始段階のバランスを知る一助になるものと思われる.しかし,これらの因子は日内変動も激しく,また,きわめて不安定であるため再現性の高い成績を得るには,採血時,採血方法,被検検体の処理方法などに注意を払わなければならない.

血小板活性化因子(PAF)

唐沢 健 , 野島 庄七

pp.384-390

 PAFは血管内皮細胞などの炎症細胞からさまざまな刺激に応答して産生されるリン脂質の1分子種であり,エンドトキシンショックなどの病態に深く関与すると考えられている.病態におけるPAFの役割について知るうえで,生体試料中のPAFの定量分析,PAFの標的細胞におけるPAFレセプターの同定,細胞組織におけるPAFの生合成酵素および分解酵素の活性測定は欠かすことのできない研究手段であり,これらに関し最近の進歩を含め解説した.

話題

血管内皮細胞と血液凝固―特にリポ蛋白質結合性プロテアーゼインヒビターについて

加藤 久雄

pp.391-393

1.はじめに

 血管内皮細胞と血液凝固との関係については,人工血管や体外循環装置など医用高分子材料を生体に用いた場合を考えると,容易に想像できる.これらの人工材料が血液と接触すると,白血球や血小板が吸着するとともに,血漿の凝固系プロテアーゼが活性化され,血栓の形成やキニンの遊離など生体にとって不都合な反応が起こることになる.血管内皮細胞は種々の機構からなる抗血栓性機能をもち,血液の流動性を維持する一方,傷害を受けた場合には,速やかに血栓を形成して傷害部位を保護する血栓性機能をもっている.このような相反する機能をもつ内皮細胞により,血液の恒常性が維持されており,そのバランスが動脈硬化などにより崩れると,心筋梗塞や脳梗塞など種々の循環器疾患が引き起こされると考えられる.内皮細胞の抗血栓性については,従来から,細胞表面に存在するアンチトロンビンIIIやトロンボモジュリンによる抗凝固作用や,PGI2の産生による抗血小板作用,t-PAの産生やプラスミノーゲンの結合による線溶促進活性などがよく知られている.ここ数年,抗凝固活性をもつ新しいタイプのィンヒビターが内皮細胞で産生されることが,明らかとなり注目されるようになった.

血流と血管内皮細胞

佐藤 公美 , 川合 陽子 , 池田 康夫

pp.394-397

1.はじめに

 近年,血栓症が増加し死因の上位を占めるようになった.また,人工弁や人工血管などの人工臓器を汎用する際,血栓が形成され問題となっている.従って,血栓形成を防止するために,血栓形成機序を解明することは非常に重要である.

 血栓の形成は,血小板凝集の他,血小板・内皮細胞膜上での血液凝固反応によって起こる.19世紀の病理学者Virchow (1821-1902)は,血栓形成の3要因として,①血管壁,②血液成分,③血流速度の異常をあげた.従来,血管壁や血液成分に関しては,医学・薬学などの分野から研究が盛んに行われているが,血液流動状態に関する報告は少ない.

人工血管と内皮細胞

松本 博志

pp.398-399

1.はじめに

 今日の血管外科学の進歩をもたらしたのは代用血管,中でも人工血管の開発である.血管の拡張ないしは狭窄病変を血管の代用物で置換しようとする目的では,ヒトないし動物の血管が使用され,現在も使用しようとする研究がある.しかし,これまでの処理(加工)方法ではその長期成績は満足のできるものではなかったという歴史がある.一方で人工材料で血管の代用物を作製しようとする研究が行われ,1953年に合成高分子材料を利用した血管代用物による腹部大動脈瘤摘除置換手術に成功した.これは人工血管の最初の臨床使用成功例である.そして,人工血管による血行再建が大動脈を中心とした拡張病変に対する置換手術から,血行障害部位を迂回して血行再建するバイパス手術(bypass grafting)の外科手技としての着想が今日の血管外科の発展をもたらしたと同時に,より長期間の開存性の得られる小口径人工血管の開発を求める主要因でもある.

 一般に移植された人工血管の内腔表面には内皮細胞の増殖を認めない偽内膜と言われる部分と,内皮細胞の増殖を認める新生内膜と言われる部分とが混在するのが通常の病理所見である.偽内膜の部分は移植人工血管の縫合部を越えて約1cm位離れた部分から中央部分にかけての通常所見であり,新生内膜の部分は縫合線を越えて約1cm位までの部分の通常所見である.

血管内皮と血管新生

小林 美枝子 , 三井 洋司

pp.400-403

1.はじめに

 内皮細胞は血管内腔を1層で被覆し,つねに血流と接し,血管系細胞の中でもっとも多彩な機能を持つ細胞である4).その機能の1つに血管新生(angiogenesis)がある.毛細血管は内皮細胞のみから成り,その周囲を周細胞が補強している.血管新生とは,内皮細胞が毛細血管を新しく造成する現象である.

 angiogenesisは,動物の発生.成長に伴う血管網の発達,月経における子宮粘膜での周期的な血管網の発生・退縮,胎盤形成や組織の再生に伴う血管網の発達など生理的な現象だけでなく,傷害や炎症での毛細血管の増生,糖尿病患者の網膜での血管過増殖,固型腫瘍の成長を支える血管新生,さらにAIDS患者に高頻度に出現するカポジ肉腫や血管腫における毛細血管の過形成など病理的過程においてもみられる現象である.したがって血管新生の機構を解明すれば,それを人為的に制御することが可能となり,新たな治療薬や制癌剤の開発にもつながるものと考えられる.既に,このような指向の研究展開も始まっている.

動脈硬化と血管内皮細胞

高橋 将文 , 池田 宇一 , 島田 和幸

pp.404-406

1.はじめに

 血管内皮細胞は,血管内腔を覆うように1層に存在し血液と血管との相互作用における血管側の窓口としての役割を担っており,血管透過性の調節,抗血栓性の調節,血管のトーヌスの調節など多彩な機能を有している.ここでは,動脈硬化巣の形成における血管内皮細胞の関与について概説する.

カラーグラフ

嚢胞

福島 祥紘

pp.350-352

学会印象記 第3回日本臨床微生物学会総会

使命感に燃える新しい学会

菅野 治重

pp.360

 第3回日本臨床微生物学会は,上野一恵教授(岐阜大学医学部嫌気性菌実験施設)を総会長として,1992年1月25,26日に日本都市センター(東京都)において開催され,約800人の参加があった.

 本学会は発足後間もない新しい学会であるが,「臨床微生物学と感染症検査法に関する研究の進歩発展を計る」ことを設立の目的としており,目標の1つとして,現在の臨床微生物検査が抱える諸問題の解決にあたることが挙げられている.

Coffee Break

優しい臨床検査とは

屋形 稔

pp.366

 昨年の暮れにある内科関係の会で作家遠藤周作氏の話を聴いた.万華鏡という題で,鏡を合わせた円筒を動かす度に中の模様が変化するような内容で面白かった.中でも医療側と患者側の抱えている心理情報をもっと積極的に交換すべきであるという論旨はかなり説得性のあるものであった.

 この時も彼がたびたび著作の中に書いている尿検査のびんを持たされて沢山の人のいる廊下を歩かされたみじめな気持も出た.これなどは検査室だけではどうにもできぬ点もあろうが,患者の根抵にうごめく心理状態の理解できる医師や技師をつくることは,技術研修以上に重要なことかもしれない.

999

𠮷野 二男

pp.424

 SFマンガブームのときの銀河鉄道のことで,同じ数字,文字が3字続くのはなにか神秘的なものが感じられる.麻雀でもトランプでも役づきである.臨床検査関係の略号にもこのようなものがあるかと探してみた.

AAA automatic amino-acid analyzer

海外だより

マラウィ

吉田 和弘

pp.407-408

1.はじめに

 マラウィは,東径33~37度,南緯9~17度に位置し,北はタンザニア,西はザンビア,東及び南はモザンビークに囲まれた内陸国である.1964年イギリスから独立し,現首都はリロングェに置かれ,人口は約630万人(推定),面積は12万km2(日本の1/3)で南北に長く,その1/5はマラウィ湖で占められる.地形的には高度750~1,300mの高原が主体でこれを大地溝帯の一部が縦断する.気候は5~10月の乾期と,11~4月の雨期に分かれており典型的なサバンナ気候である.

 基幹産業は農業で,自給作物として主食であるメイズの他に豆類,グランドナッツ,キャッサバなどがあり,また,商品作物としてタバコ,綿,茶がある.特にタバコは日本にも輸出している.

 国民性としては,いかなる他国民にも友好的な気質を持ち,彼ら自身平和を愛している.

口腔疾患の病理・4

嚢胞

福島 祥紘

pp.412-416

 口腔病変のうち,生検を要する疾患の中で最も発生頻度の高い病変は嚢胞である.顎骨の中に長期間,歯原性上皮が存在しており,炎症やその他の原因をきっかけに多くの亜型を有する歯原性嚢胞が形成されるが,これは他の骨にみられない顎骨特有の病変である.

 その他に,他の骨にもみられる嚢胞性病変と口腔軟組織に発生する嚢胞性病変に言及した.

トピックス

成人T細胞白血病ウイルスと慢性関節リウマチ

中山 純子 , 岩倉 洋一郎

pp.417-418

 成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)は,成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスとして知られる1)が,近年ATL以外の疾患との関係が注目されている.HAM(HTLV-1 associated myelopathy)と呼ばれる脊髄疾患はその一例だが,ほかにもATL以外の悪性腫瘍,慢性関節炎,外分泌腺の異常を伴うSjögren症候群,眼のブドウ膜炎などへの関与が疫学的なデータなどから疑われている.ただしこれまでのところ確実に証明されるには至っていない.

 HTLV-1のキャリアのうち,ATLを発症するのは,およそ1/2,000であることを考えると,むしろ他の疾患を多く引き起こしている可能性もある.ATLはHTLV-1の調節遺伝子tax遺伝子が,宿主の遺伝子をも活性化することと関係する可能性が示唆されており2),他の疾患でも同様の機構が働くのかもしれない.

TOPICS

アルコール性肝障害の診断にHCV検査

高田 昭

pp.418-419

 C型肝炎ウイルス(HCV)の検出法の開発につれて,飲酒家の肝障害患者にはHCVマーカーが高率に検出されることが注目されてきている.アルコール(Al)性肝障害患者でのHCV抗体(カイロン第一世代抗体)の陽性率については,肝癌患者では約80%,肝硬変患者では約50%と,かなり類似の成績が報告されているが,その他の病型についての頻度は報告者によってかなり異なっている.これは,Al性肝障害の診断基準が報告者によってかなり異なっており,さらに,多くの報告は大酒家の肝障害のすべてをAl性肝障害として取り扱っていることに起因している.

 大酒家の肝疾患患者には,Alが原因のもの,ウイルス性肝障害が原因の大酒家であるもの,両者が病因に関係しているものがある.さらに,HCVの健康保菌者(その存在はまだ確認されていないが)でのAlに起因する肝障害の可能性も考慮しなければならない.したがって,Al性肝障害とHCVとの関係を考える場合には,Al性肝障害についての正確な診断がまず必要になる.そのための診断基準試案が文部省総合研究(A)「アルコールと肝」研究班(高田班)から提案されているが,その要点は,Alが病因に関係している病態では禁酒によって障害されていた肝機能がほぼ正常値に回復することである.

慢性腎不全患者における血清フランカルボン酸

丹羽 利充

pp.419-421

 筆者ら1~3)は,3-カルボキシ-4-メチル-5-プロピル-2-フランプロピオン酸(CMPF)が血清アルブミンと約98%結合して腎不全患者血清中に著明に増加しており,通常の血液透析ではまったく除去されないことを明らかにした(血液透析前の血清CMPF濃度:平均4.1mg/dl,血液透析後:平均4.8mg/dl,正常値:平均0.36mg/dl).そのため血液透析期間が長くなると体内に蓄積し,血清濃度が高くなることを認めた.

 CMPFは血清アルブミンと結合しているため,透析液中へのアルブミンの漏出を伴う連続携行式腹膜透析(CAPD)ではある程度除去される.このためCAPD患者では血液透析患者に比較して血清濃度が有意に低値を示す(CAPD患者の血清CMPF濃度:平均1.3mg/dl)3)

ビオチンの測定法

星野 忠 , 河野 均也

pp.421-422

1.はじめに

 ビオチン(ビタミンH)はヒトにおいて生体内の炭酸固定,炭酸転移,脱炭酸など,脂肪酸代謝,アミノ酸代謝,糖代謝に関連するビタミンであり,種々のカルボキシラーゼの補酵素として機能していることが知られている.ビオチンがヒトにおいてビタミンであることを初めて報告したのは,1942年,Sydenstrickerら1)によるもので,乾燥卵白を大量摂取したヒト成人にビオチン欠乏症状を認めた.しかし,ビオチンの必要量はヒトの場合,1日に0.1mg摂取すれば十分であると考えられており,通常は食品や腸内細菌によってまかなわれているので,欠乏症になることはなく,その後の進展は最近に至るまで栄養学の片隅にしかなかったようである.近年,ビオチニダーゼ欠損症2)をはじめとするビオチン関連酵素群の先天代謝異常症とビオチン欠乏症3)が次々に報告されるようになり,現在,世界的に栄養学,生化学,医学,薬学領域での研究が展開されている.

invasin

飯田 哲也 , 本田 武司

pp.422-423

 赤痢菌,サルモネラ菌など病原細菌のあるものは,感染,発症の過程において宿主細胞内に侵入する.この細菌による細胞内侵入の機構には一般に遺伝子レベルで協調的に発現調節される多数の因子が関与しており,大部分の侵入性細菌についてその全容はいまだ明らかでない.それらの中においてYersinia属菌の外膜蛋白であるinvasinに関する近年の一連の研究1,2)は,細胞侵入に関与する細菌側および宿主細胞側の両方の因子を分子レベルで明らかにした例であり,他の病原微生物の細胞侵入性の研究に1つの指針を与えると考えられる.

 invasinは,齧歯類(まれにヒト)に経口的に腸管感染し結核様病変を起こすYersinia Pseudotuberculosisから見いだされた103kDaの外膜蛋白質である3).細胞侵入性を持たない大腸菌K12株をinvasinをコードする遺伝子(inv遺伝子)で形質転換すると,この大腸菌は培養細胞に対して侵入性を示すようになる4).つまりinvasinは,それのみで非侵入性の大腸菌に侵入性を付与するのに十分な機能を有していると言える.細菌の細胞内侵入という複雑にみえる現象が1つの遺伝子産物で説明できるというのは驚くべきことである.現在までにinvasinはY. Pseudotuberculosisのほかにヒト腸管病原菌であるY. enterocoliticaからも見いだされている.

研究

ゲル内拡散法による血清補体価および抗補体活性の測定

山田 巖 , 沢江 義郎

pp.425-428

 ゲル内拡散法により血清補体価と抗補体活性の測定を試み,試験管法のそれと比較検討した.その結果,血清補体価はγ=0.87と高い相関性が認められた.また,ゲル内拡散法の反応温度を4℃と37℃で行うことで,cold activationの判定が容易であった.

 一方,抗補体活性の陽性率はゲル内拡散法と試験管法で,よく一致していた.

資料

ホルマリン固定パラフィン切片に有効な抗サイトケラチン抗体の検討

近藤 恵美子 , 角浜 千賀子

pp.429-434

 ホルマリン固定パラフィン切片に使用可能な3社7種の抗サイトケラチン抗体(DAKO社:A 575, Z 622, M 717, M 772, M 821/Immunotech社:KL-1/Labsystems社:PKK-1)を用いて,正常組織,および癌における染色性の比較,および診断への有効性を検討した.今回の結果ではKL-1がもっとも優れ,ほとんどの上皮細胞.癌に鮮明で安定した染色性を示した.しかし,一部の未分化癌などにおいて陰性から偽陽性を示すことより,KL-1単独ではなく,Z 622,またはM 821などとの併用がより確実な鑑別診断が可能となることがわかった.

術中迅速診断標本の検討

小畠 勝己 , 神原 豊 , 南部 雅美 , 沖田 英樹 , 竹下 盛重 , 菊池 昌弘 , 岩崎 宏

pp.435-438

 術中迅速診断標本は人工産物が起こりやすく,凍結および固定が標本作製上,もっとも重要な過程と思われる.そこで筆者らは凍結および固定方法を検討したので報告する.各種の凍結法を行ったが,経済性,扱いやすさ,迅速面から液体窒素がもっとも優れていた.固定液の検討では薄切後,乾燥させずに2%ポリエチレングリコール95%エタノール固定液による固定が組織構築,核クロマチン,核小体ともに優れ,パラフィン標本に劣らぬ標本であった.

質疑応答 臨床化学

リポ蛋白分析用検体の保存法

N生 , 安部 彰 , 野間 昭夫

pp.439-440

 Q リポ蛋白分析用検体は保存中にきわめて速やかに変性してしまいますが,良い保存方法をお教えください.また,その場合の保存の限界も併せてご教示ください.

反応原理の異なる尿蛋白試験紙の使い分け

N生 , 芝 紀代子

pp.440-441

 Q アルブミンが主として反応する尿蛋白試験紙と,グロブリンを含む蛋白が反応する尿蛋白試験紙の,検査室での適切な活用法をお教えください.

血漿を用いたカテコールアミン測定の問題点

M生 , 中井 利昭 , 磯部 和正

pp.442-443

 Q カテコールアミンの測定に血漿を使用したいのですが,ノルアドレナリンでは,血漿を用いた場合の測定値が,血清のそれの約半分という結果を得ています.不一致の原因は何でしょうか.

中性脂肪の生理的変動

Y子 , 熊谷 修 , 柴田 博

pp.444-445

 Q 一般に中性脂肪は食事の影響で変動しますが,正常人では空腹時と食後ではどのくらいの変動があるのでしょうか.ご教示ください.

質疑応答 血液

自動血球分類装置(VCS方式)における分類不能について

濱崎 正 , 堀田 勝弘 , 由木 洋一

pp.445-448

 Q 自動血球分類装置を用いて,末梢血液像のスクリーニングを行っています.データの出ない検体がたまにありますが,これはなぜなのでしょうか.お教えください.

質疑応答 微生物

アメーバ症の現状と診断検査法

K生 , 大友 弘士

pp.448-450

 Q わが国でもアメーバ症が最近増加していると聞きますが,現状と診断検査法について,お教えください.

Clostridium butyricumの疫学と病原的意義

K生 , 小熊 惠二

pp.451-452

 Q  C.butyricumがボツリヌス様毒素を産生しているという報告がありますが,本菌の疫学や病原菌としての意義について解説してください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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