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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査36巻9号

1992年09月発行

雑誌目次

今月の主題 赤色尿

総説

赤色尿

折田 義正

pp.949-953

赤色尿は患者に気づかれる最も著明な症状である.赤色尿の原因を生体代謝物(あるいは生体内物質),薬物,食品添加物などに分類し,赤色尿の原因決定のための検査の手順を示した.〔臨床検査36(9):949-953,1992〕

技術解説

着色尿の検査

今井 宣子

pp.954-962

尿外観の観察,特に尿色調と混濁の観察により得られる情報は多い.特に,血尿,ヘモグロビン尿,ミオグロビン尿,ポルフィリン尿,ビリルピン尿,メラニン尿,アルカプトン尿,乳び尿などは,尿色調異常がきっかけとなって気づかれることが多く,臨床的意義は大きい.尿色調は,摂取食品や投与薬剤によっても紛らわしい呈色を示すため,的確で慎重な判定が要求される.〔臨床検査36(9):954-962,1992〕

尿潜血反応の精度管理

五十嵐 すみ子

pp.963-968

尿潜血反応は尿検査のなかで最も利用される検査であるが,検診ごとに,施設間の陽性率が異なることがある.尿潜血反応試験紙は反応感度のメーカー差,製品ロット差があり精度管理上問題点が多い.現在市販されている尿潜血試験紙の問題点と精度管理の方法を述べ,判定の統一化による施設間成績の互換性について触れた.〔臨床検査36(9):963-968,1992〕

ラテックス凝集反応による尿中微量ヘモグロビンの検出

伊藤 喜久

pp.969-973

尿中ヘモグロビン(Hb)の検出を目的にラテックス凝集反応法を新たに開発した.標準抗原,免疫原はヒトヘモグロビンAo(HbAo)を赤血球から分離精製し,家兎に免疫して特異抗体を得た後,すでに確立された方法によりラテックス粒子に感作し作製した.試験紙法に比べ測定感度は約120ng/mlと高感度で,しかも,アスコルビン酸による偽陰性,ミオグロビンによる偽陽性などの非特異的反応が避けられ,尿中Hbを特異的に検出が可能となった.臨床的応用では,種々の患者の尿沈渣で赤血球数が4個/毎視野以上ではおおむね試験紙法による潜血反応と同様な結果が得られ,一方,これ以下の赤血球数では,尿浸透圧が500mOsm/kg・H2O以下の低張状態においても検出され,患者の異常病態をとらえている可能性も示唆された.今後,試験紙法の補助検査として将来の臨床的応用の拡大も期待される.〔臨床検査36(9):969-973,1992〕

ミオグロビン尿

川越 裕也

pp.974-978

ミオグロビンの構造,その役割と代謝の概略を示し,古典的測定法と近年開発された迅速鋭敏な方法を紹介した.代謝には腎機能が大きく関与し,測定値について腎不全時にはクレアチニン値で補正を要することを示し,迅速法は抗ミオグロブリン抗体を用いるRIA法とラテックス凝集反応について詳述した.結果の判定について,異常値を示す場合を骨格筋の障害によるもの,心筋の障害によるものとその他に分けて述べ,特に最近問題になっている高脂血症治療剤による横紋筋融解症の診断,急性心筋梗塞の治療や予後の指標としてミオグロビン測定の重要性の増していることを強調した.〔臨床検査36(9):974-978,1992〕

ポルフィリン尿

関 正人 , 大井 洋之

pp.979-982

ポルフィリンは,ヘモグロビンなどヘム蛋白の構成成分であるヘムの前駆物質で,ウロポルフィリン,コプロポルフィリン,プロトポルフィリンおよびこれらの前駆物質であるδ―アミノレブリン酸,ポルフォビリノーゲンが主な検査対象となる.主として,遺伝的異常による代謝障害であるポルフィリン症や鉛中毒,また,肝疾患,貧血などによる二次性のポルフィリン尿症の際に,尿中,赤血球,糞便中のいずれかにポルフィリンが増量する.尿ポルフィリン体により赤色尿となるが,δ―アミノレブリン酸,ポルフォビリノーゲンは無色である.ポルフィリンの排泄経路,産生臓器により測定対象は異なり,検出には,定性試験,比色,蛍光法による定量,また,HPLCなどによる分画定量が行われる.〔臨床検査36(9);979―982,1992〕

アルカプトン尿

大浦 敏博

pp.983-986

アルカプトン尿は,ホモゲンチジン酸酸化酵素の欠損により尿中に多量のホモゲンチジン酸が排泄される疾患である.アルカプトン尿症の診断には,日常的には定性試験でスクリーニングを行い,陽性となった尿に関して薄層クロマトグラフィーで確認するのが最も簡便である.本稿では,肉眼的定性反応,薄層クロマトグラフィーについて詳しく述べ,最後に最近報告されたHPLCを用いる方法を紹介する.〔臨床検査36(9):983-986,1992〕

病態解説

発作性夜間血色素尿症

藤岡 成德

pp.987-992

発作性夜間血色素尿症(PNH)は夜間睡眠時の血管内溶血,肉眼的ヘモグロビン尿,汎血球減少症,易感染性,深部静脈血栓症,出血傾向,鉄欠乏性貧血など多彩な症状を示す後天性血液疾患である.これらは血球減少とともに,補体制御蛋白などのGPI結合膜蛋白の欠損という質的異常に原因があることが明らかにされた.わが国のPNH例の末梢血液.骨髄所見,血液生化学所見,補体溶血機序,合併症と予後などについて述べた.フローサイトメトリーによる分析で,PNHの血球異常は赤血球,顆粒球,血小板などすべての血球に観察され,PNHがクローナルな疾患であることが明確になった.その発症に再生不良性貧血との関係が注目されている.〔臨床検査36(9):987-992,1992〕

溶血性尿毒症症候群

五十嵐 隆

pp.993-997

下痢に続発する溶血性尿毒症症候群(HUS)の主たる原因は,先進諸国では現在,ベロ毒素(VT)を産生する腸管出血性大腸菌(VTEC)感染である.ベロ毒素は腎や脳の血管内皮のレセプターと結合し蛋白合成を阻害して血管内皮障害を生じ,急性腎不全や急性脳症を引き起こす.HUSの起因菌となるVTECの血清型はわが国では大半がO 157:H 7で,一部O 26やO 111が占める.VTEC感染の診断は便培養によるVTECの証明が最も確かな方法であるが,血清中の抗VTEC抗体と抗VT抗体の上昇によっても推定することが可能である.〔臨床検査36(9):993-997,1992〕

尿路結石の破砕法

馬場 志郎

pp.999-1004

尿路結石の治療法は1970年代の後半に内視鏡下手術が開発され,また1980年にChaussyらにより体外衝撃波砕石術が報告されて以来,これらの技術が急速に世界的に普及したため大きな変化が起こった.その後開発された各種の新しい衝撃波発生法や内視鏡下砕石法の組み合わせにより,尿路結石の治療には今や外科手術は不要となると同時に,より専門的な治療技術が必要とされるに至っている.〔臨床検査36(9):999-1004, 1992〕

連載 重複表現型の白血病細胞・3

巨核球系と赤血球系の性格を併せ持つ白血病細胞

榎本 康弘

pp.944-945

 前号のPO反応の項で,PPO(血小板ペルオキシダーゼ)反応には巨核球系とそれ以外の系にも同様な局在で反応がみられ,PPO様反応と呼ばれていると記載した.

 写真1は隣接する細胞A,Bの両方にPPO型の反応が出現し,Aの細胞には血小板特殊顆粒(PSG)の形成が見られることから巨核球系の細胞と同定できる.またBの細胞にはフェリチン粒子(FE)の集団(限界膜は不明瞭)が見られ,細胞膜にはフェリチン粒子を容れる微飲小胞(rhopheocytotic invagination,▲印)の形成があるなどにより赤血球系細胞と同定され,この反応はPPO様になる.またこの細胞は,PO反応によりヘモグロビンの合成がまだ発現していない未熟赤芽球といえる.PPO型の反応では巨核球系細胞のほうが赤血球系紺胞より強い活性を示すことが多い.

COFFEE BREAK

ある学会の風景

屋形 稔

pp.973

 陽春4月に新潟で第6回臨床検査自動化学会春季セミナーのお世話をした.折よく例年より10日ほど早く桜花が満開となり,会場の佐渡汽船ターミナルビルに通ずる信濃川沿いの若桜も見頃で会員を喜ばせた.

 地方で行われる全国学会で成果をあげることができるのは,内容のキメ細かさである.特に自動化学会総会のごとくマンモス化した展示会を併せ行わねばならない会では,年1回地方で行うこの会における目的は新しい機器を身近かで体験するということにつきる.この意味で,同じビルの中で講演会と機器のセミナーを行い,会員もメーカの学術担当者もじっくりと討論できたことはきわめて合目的的であった.

mg/dl

𠮷野 二男

pp.998

 一般化学,分析化学,その他で習った溶液中の物質の濃度は分母をリットルで表すのがほとんであろう.容量分析に使った規定液はいうまでもなくリットルが単位である.

 なぜ,医学,医療,臨床検査では,濃度の分母がdlなのであろうか.SI単位の導入に際してこんな疑問にぶつかる.そこで調べてみてもこれだという根拠は見当たらないので,想像してみることにする.

海外だより

ソロモン諸島

古賀 さつき

pp.1006-1007

 ソロモン諸島は1978年7月,英国領より独立した人口30万人余りの小さな国です.パプアニューギニアの東側に位置し,ビスマルク諸島の南に北西から南東にかけて1,500kmに伸びる2条の大小の島々からなっています.首都ホニアラのあるガダルカナル島は第二次世界大戦時"餓島"とも呼ばれ,多くの日本兵が戦いその若い命をおとした激戦地の1つでもあり,現在も至る所でその当時の跡を見ることができます.

 私の赴任先である国立中央病院は首都ホニアラにある当国唯一の総合病院であり,外国人医師も含め約20名の医師が勤務しています.検査技師はアシスタントも含め16名.彼らの多くは海外で3年以上の教育を修め資格を取得し,自国の病院で勤務し,自分たちの仕事に誇りを持って仕事をしています.

学会印象記 第31回日本エム・イー学会

拡張し続けるBMEの分野

田中 博

pp.1008

 工学の医学領域への適用を目的とし,医学と工学の両分野にわたる学会として特徴のある日本エム・イー学会も,今年で設立30年を迎えた.5月3~5日に東京電機大学で開催された第31回日本エム・イー学会大会は,その30周年記念ということで,数多くの記念セッションが企画され,盛況であった.

 大会プログラムとしては,領域を拡大しつつある医用生体工学を総括する記念講演が14題のほか,特別講演が3題,米国からの招待講演が2題,記念シンポジウムが2,シンポジウムが5,ワークショップが5,ナイトセッションが4,企業セッションが2,さらに新たな試みとして若手研究者によるポスター発表によるコンペティションが初日の午後2会場を使用して催された.さらに並行して「臨床工学技師研究発表会」が同時開催された.これだけ特別企画があると,例えばシンポジウムと記念講演とワークショップが同時間にあったりして,なかなか思うように参加できないのは残念であったが,これも医用生体工学全体をカバーしようとする主催者側の熱意と,それだけ医用生体工学の範囲が多様になったことの現れであろう.

学会印象記 第42回電気泳動学会春季大会

新たなる技術の進歩へ―故平井秀松名誉会長追悼大会

須藤 加代子

pp.1032

 電気泳動学会は蛋白泳動研究会の名称で1950年創立され,その後電気泳動研究会,電気泳動学会と名称は変遷してきた.また会の機関誌は『生物物理化学』の名称で隔月刊行されている.故児玉桂三先生が初代の会長として20年間務められ,昨年6月生誕100年記念式典を行ったことは記憶に新しい.第二代会長として同じく20年間学会を支えてこられた平井秀松先生が昨年12月20日ご逝去された.

 第42回電気泳動学会春季大会は故平井秀松名誉会長の追悼大会として,1992年6月4,5日の2日間,恒例の野口英世記念会館(東京都)で橋本信也東京慈恵会医科大学教授を大会長として開催された.追悼講演は小林貞男電気泳動学会副学会長の司会で竹尾和典学会長と島尾和男副学会長が,今ではなつかしく感じられるTiseliusの電気泳動装置の開発とその応用にはじまる故平井秀松先生の業績を語られた.会員一同ご冥福を祈ると同時に,今後の学会の発展を考え身の引きしまる思いであった.

血管病変の病理・3

動脈硬化症

山田 勉 , 楠美 嘉晃 , 桜井 勇

pp.1011-1020

動脈硬化症の成立にはリポ蛋白の重要性が知られているが,そのほかにも動脈壁では多数の因子が複雑に影響しあっている.これらの特徴を踏まえて動脈硬化症の成因およびその進展に関与する諸因子を含めて,基本的な形態学的分類を中心にして説明した.特に粥状硬化症は臓器血流障害を生じ虚血性心疾患などの原因ともなるので,成人病の対策上も動脈硬化症についての理解が要求されよう.〔臨床検査36(9)11011-1020,1992〕

トッピクス

分子指示薬の開発

上野 昭彦

pp.1022-1023

1.はじめに

 シクロデキストリン(CD)は,環状オリゴ糖であり,構成するグルコースの数が6,7,8個のものがα,β,γCDとして知られている.これらは,水溶液中でさまざまな分子をその空孔内に取り込み包接化合物を形成する.CDは,デンプンに酵素を作用させて工業的に生産されており,その包接機能の応用は医,農薬,化粧品,食品など,広範な分野にまたがっている.

 筆者らは,CDを分子検出のためのセンサーあるいは指示薬に変換する研究を行ってきた.CD自体は,分光学的に不活性であるが,これに芳香環を化学結合して分光学的に活性な化合物に変えることができる.そして,これら修飾CDを用いて,ゲスト分子包接による蛍光や色の変化に成功し,新型センサーの領域を築きつつある1~6)

マウスの肥満抑制物質―コレステノン

鈴木 邦夫

pp.1023-1025

 コレステノン(cholest-4―en-3―one)はコレステロールの3位の水酸基(―OH)がカルボニル基(―O)に変わり,B環の二重結合(△5)がA環(△4)にシフトしたもので,生体内では腸内細菌のコレステロールオキシダーゼ(cholesterol:oxigenoxidoreductase)によって腸管内で生成される物質である(図1).コレステノンはコレステロールと化学的性質は似ているが,生体に対する生理学的作用は異なる.すなわち,コレステロールとコレステノンはそれぞれ膜活性および不活性ステロイドとして知られている1).コレステロールは膜の構成成分として必須であり,分子間の濃縮効果により安定な膜の形成に寄与しているが,コレステノンにはそれらの効果はない.コレステノンが細胞膜の形成を阻害すればアポトーシスなどの細胞死を招き2),リポ蛋白質膜の形成に干渉すればリポ蛋白質による脂質の輸送が阻害されると考えられる.

高速三次元CTの臨床応用

小林 尚志 , 松枝 清 , 青木 祐子 , 堀越 英孝

pp.1025-1027

1.高速CTスキャンのしくみ

 従来のCT撮影法では,患者の身体を1秒に1cmずつ移動させながらいったん停止させ,通常2秒で全周を1回撮影する.このようにして10cmの区間を10枚の写真に撮り,できあがった人体の水平断面像を基にCT診断を行っていた.今回新しく開発された高速CTスキャン(HITACHICT W-2000 Volume Scan)では,撮影管を全周に連続回転させながら,同時に患者を寝台ごとノンストップで撮影ガントリー内に移動させ,連続撮影が可能となった.

 自験の250例のほとんどは寝台を5mm/秒でノンストップ移動し,全周を1回転1秒のスピードで連続撮影した.さらに,画像として写真に出す間隔は2mmとし,従来のCTの5倍の精密さで情報を収集した.この新しいスキャン法では20秒で10cmを撮影終了することになり,撮影時間は従来の1/3~1/9に短縮される.従来の方法を「大根切り」とするなら,新スキャン法は「リンゴの皮むき」のようならせん状の撮影法といえよう.

カンピロバクター感染症とギラン・バレー症候群

藤本 秀士 , 天児 和暢

pp.1027-1028

 Campylobacter jejuniは,細菌性下痢症の主な起因菌として知られるが,まれに反応性関節炎やReiter症候群などの合併症が報告されている1).最近,このような合併症の1つとして,C.jejuni感染後に発症するGuillain-Barré症候群(GBS)が注目されている.

 GBS,多発性神経根炎(polyradiculoneuritis)は,急速に進行する運動神経麻痺を主体とする疾患で,重症例では呼吸筋も侵され死に至る2).この病気は,なんらかの原因で自己に対して生体防御機構が働いて末梢神経髄鞘(ミエリン)を破壊してしまう,いわゆる自己免疫疾患とされている.患者の大部分は,麻痺の起こる数週間前に上気道感染や消化器感染に罹患しており,このような先行感染が自己免疫異常の誘因と考えられている.しかし,その機序についてはほとんどわかっていない.

イムノトキシン:毒素の治療への応用

本田 武司

pp.1028-1029

 最近,植物や微生物の産生する"生物トキシン"の構造や作用機序に関する知見が蓄積し,これらのトキシン(毒素)を疾病の予防や診断・治療へ応用する可能性についての研究が盛んに行われている1).多数知られている生物トキシンのうちでも,リシン,ジフテリア毒素,緑膿菌外毒素などの蛋白合成阻害性毒素は強力で,1ないし数分子の細胞内移入により細胞を死滅させる.

 これらの毒素はA-Bモデル構造を有しており,標的細胞上のレセプターに結合(binding;B)するサブユニット(あるいはドメイン)と,毒素作用(active;A)を発揮するAサブユニット(ドメイン)から成っている.毒素そのものを用いると生体にとっては不都合な毒作用を発揮してしまうが,B部分を癌細胞などの標的細胞に特異的に反応するモノクローナル抗体(MAb)などに置き換え,これを担体としてAサブユニットを望む標的細胞に特異的に移入させると,目的とする細胞を特異的に死滅させることができる.このようにMAbを担体とした生物トキシン(のAサブユニット)を組給わせたものがimmuno-toxin (IT)である2).したがって,ITはdrug delivery systemの1つで,そのしくみの類似性からミサイル療法とも言われる.

私のくふう

水流循環式染色用ガラスバット

大谷 静治 , 佐藤 昇志 , 池田 卓也 , 池田 真美

pp.1030-1031

 顕微鏡用組織学標本の染色用ガラスバットは現在,数種類が市販されており,染色目的によって使い分けられている.そのなかでも縦型染色用ガラスバットは最も使用頻度が高く,その種類は2種類ある.HE染色などのような金属の染色カゴが使用できる染色用ガラスバットと,鍍銀染色のように金属の染色カゴが使用できないような染色のためのミゾ付き染色用ガラスバットがある.このミゾ付き染色バットはバットの両脇にミゾが10か所付いており,スライドグラスが一度に10枚染色できるものである.

 しかし,ミゾ付き染色バットには次のような問題が指摘される.すなわち,スライドグラスを入れた状態では,スライドグラスとスライドグラスの間が仕切られて水が循環しにくくなる.そのために染色液や試薬などの流水水洗の過程が不十分となり,染色ムラなどの原因となる.そして,これを防ぐためには水洗にかける時間を長くするか,何度も水を手で交換しなければならないため,染色の全過程に要する時間や手間が必要以上に多くなるなどの弊害が生じる.

研究

血中総分岐鎖アミノ酸濃度測定の糖尿病における臨床的意義―酵素法を用いた検討

中 恵一 , 下條 信雄 , 奥田 清

pp.1033-1038

 分岐鎖アミノ酸(ロイシン,イソロイシン,バリン)の血中総量を測定する方法として最近開発された酵素法を追試検討した.この結果,3種のアミノ酸に対し特異性が高く,再現性にも優れた信頼性のある測定法であることがわかった.そこで,本法を用い,健常値を求めたところ血中総BCAA濃度として210~570μmol/lで,男性が女性に比し高値を示した.また,血中BCAA濃度はインスリンの作用により低値となり,その欠乏状態,すなわち糖尿病では血中BCAA濃度が上昇することを実験動物で明らかにした.

18FDGポジトロンCTを用いた虚血心筋蘇生能の定量的評価―糖負荷と空腹時の比較

森反 俊幸 , 斎藤 正男 , 大嶽 達 , 佐々木 康人 , 横山 郁夫 , 杉本 恒明

pp.1039-1042

 虚血性心疾患患者を対象に空腹,糖負荷時でFDG-PETを施行し,心筋収縮エネルギーのうちグルコースに依存する割合を求めて心筋蘇生能の定量的評価を試みた.正常心筋でグルコース依存度は空腹時16%,糖負荷時85%であるが,蘇生能の保たれている虚血心筋では空腹時に高く,糖負荷時に低くなる.また空腹時にグルコース依存度が正常値でも糖負荷時に低い場合は心筋蘇生能の低下を意味し,心筋蘇生能の判定には空腹,糖負荷時の比較が重要である.

資料

Cloned-Enzyme-Donor-Immunoassay(CEDIA)による血中T4,T-Uptakeの測定法の検討

青野 悠久子 , 高田 美絵 , 山口 ひろ子 , 矢内 千鶴子 , 桜井 泰子 , 内村 英正 , 大久保 昭行 , 三橋 知明 , 久保田 憲

pp.1043-1048

 インビトロ甲状腺機能検査のなかでも重要な総サイロキシン(総T4)の測定は,現在主としてRIAやEIAで行われている.従来のEIAは酵素を標識体として用いるが,最近遺伝子工学のDNA組み換え技術を用いたCloned-Enzyme-Donor-Immunoassay(CEDIA)のキットが開発され,その検討を総T4およびT-Uptakeについて行った.再現性,他のEIAとの相関,各疾患の濃度など,汎用自動分析機器(COBAS MIRA-S,HITACHI 7150,TBA-30 R)3機種を用い検討したところ,日常検査試薬として有用と考えられた.

質疑応答 臨床化学

ヘモグロビンAlc値の基準

T生 , 清瀬 闊

pp.1051-1053

 Q ヘモグロビンAlcの値は測定方法によって異なります.何をもって基準とすればよいのでしょうか.正確さについて標準をお教えください.

酵素法によるクレアチニンクリアランスの測定

K子 , 折田 義正

pp.1053-1055

 Q クレアチニン測定をJaffé法から酵素法に変更しました.血中・尿中クレアチニンとも従来に比較すると低値を示すのはもちろんですが,特に尿中クレアチニンが低値を示しやすいようです.従来のCcrの正常値,計算式をそのまま使用してもいいものでしょうか.対処法をお教えください.

質疑応答 血液

血液塗抹標本作製時の乾燥温度

M生 , 小河原 はつ江 , 城下 尚

pp.1055-1058

 Q 血液塗抹標本作製時の乾燥温度は,成書にはドライヤーの冷風乾燥で行うと書かれていますが,熱風乾燥のほうが赤血球はきれいに染色されます.熱風乾燥不可の原因について,お教えください.

質疑応答 免疫血清

抗セントロメア抗体の臨床的意義

T生 , 茂木 積雄

pp.1058-1060

 Q 抗セントロメア抗体の検査法,疾患分布,最近の話題などについて,お教えくさい.

質疑応答 微生物

antibody coated bacteriaの検査手法と意義

K生 , 松本 哲哉 , 賀来 満夫 , 原 耕平

pp.1061-1063

 Q 尿路感染および呼吸器感染時のantibodycoated bacteriaの検査手法と意義について,お教えください.

質疑応答 その他

カードを用いた患者カルテの管理

N生 , 椎名 晋一

pp.1063-1064

 Q 患者カルテ管理のためのカードとしてICカード,光カードなどの導入が提案されています.導入にあたって,磁気カードも含め,それぞれのメリット,全国的な規格統一の現況について,お教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

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今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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