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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査37巻6号

1993年06月発行

雑誌目次

今月の主題 甲状腺の検査

総説

甲状腺の機能

内村 英正

pp.583-589

甲状腺ホルモン(T3,T4)はヨードを含み,ヨード代謝と密接に関係する.生成,分泌はTSHにより調節されている.T3,T4は甲状腺濾胞内のサイログロブリン内に貯蔵され,必要に応じて分泌される.血中のホルモンは,そのほとんどは結合蛋白と結合しているが作用は遊離型が起こす.血中のT3のほとんどは末梢組織でT4の脱ヨードによって生成され,その反応は種々の状態や薬物により影響される.ホルモンの生成を抑制する物質を抗甲状腺剤と称するが甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の治療に用いられる.〔臨床検査37(6):583-589,1993〕

技術解説

甲状腺ホルモン,TSH

小林 功

pp.591-596

 臨床医が甲状腺関係の検査をオーダーする場合には,まず患者の甲状腺の触診や特徴ある臨床像からヒントを得る.血中甲状腺ホルモン濃度とTSHは必須の検査項日であり,これにより甲状腺機能異常の把握が大部分の症例で可能となる.

 甲状腺ホルモン(T4,T3)としては,遊離型(F) T4とFT3測定の時代に入り,TSHは高感度測定法が広く普及している.本稿ではFT4,FT3,TSHをめぐる最近の話題を含め解説する.〔臨床検査37(6):591-596,1993〕

抗TSHレセプター抗体

橋本 琢磨

pp.597-602

 抗TSHレセプター抗体(TRAb)の測定は可溶化ブタ甲状腺膜分画をレセプターとしたラジオレセプターアッセイで行う.一方,TSAb,TSBAb測定はラットFRTL-5細胞を用いて血清と反応させ,産生されるcAMP量を測定(バイオアッセイとcAMPのRIAを組み合わせる)するという方法で行っている.最近,TSH受容体ペプチドにRIを標識し,血中の抗TSH受容体抗体を測る方法も行われており,TRAbに多様性があることが明らかになりつつある.さらに組換えヒトTSH受容体を用いた方法も開発されてきた.〔臨床検査37(6):597-602,1993〕

抗サイログロブリン抗体,抗ペルオキシダーゼ抗体

青野 悠久子

pp.603-609

 バセドウ病,橋本病は,自己免疫疾患として知られており,大部分の患者の血清中に甲状腺組織に対する自己抗体が検出される.多くの自己抗体の中でも,抗サイログロブリン抗体と抗マイクロゾーム抗体(甲状腺ペルオキシダーゼに対する抗体といわれる)の検出は重要である.その臨床的意義と検査法に関し,日常検査に広く普及しているPA法と高感度RIA法,EIA法について述べる.〔臨床検査37(6):603-609,1993〕

甲状腺シンチグラム,甲状腺摂取率

御前 隆 , 笠木 寛治 , 小西 淳二

pp.611-614

 放射性ヨードまたは過テクネシウム酸を用いて甲状腺シンチグラムと甲状腺摂取率が得られる.シンチグラムでは甲状腺自体の形態の評価はもちろん,腫瘍性病変や異所性甲状腺の検出が可能である.甲状腺摂取率は甲状腺機能亢進症では上昇,無痛性甲状腺炎などの破壊性甲状腺中毒症では低下を示し両者の鑑別に非常に有用である.また,摂取率を指標とする負荷試験にはヨード有機化障害の診断に用いられる過塩素酸塩・ロダンカリ放出試験およびバセドウ病の休薬時期の決定などに利用されるT3抑制試験がある.

画像診断

横山 直方 , 和泉 元衛

pp.615-618

 甲状腺の画像検査として,超音波検査とCT (またはMRI)が中心となる.超音波検査は無侵襲性,操作の迅速・簡便性から,日常診療における画像検査のfirst choiceとなっている.び漫性甲状腺腫では甲状腺の大きさの測定,潜在性結節の検出,結節性甲状腺腫では内部構造の変化に基づく悪性度の評価,嚢胞性変化の把握に有用である.CT(MRI)は,腫瘍の進展度,周囲組織への圧排,浸潤の把握に有用である.〔臨床検査37(6):615-618,1993〕

術中迅速診断

長沼 廣

pp.619-623

 医療技術の進歩とともに病変の早期診断と縮小手術が時代の趨勢となりつつあり,術中迅速診断の重要性が増している.甲状腺腫瘍の質的な診断においては,超音波検査と穿刺吸引細胞診の併用によりかなり正確な術前診断が可能になってきている.しかし,適切な手術を行うためには確定的な病理診断が不可欠であり,術前診断が不確定なもの,病変の広がりが不明なもの,リンパ節転移の有無が不明なものなどは,その確認を迅速診断に頼らざるをえない.ただし,迅速診断にもいろいろ問題点かあり,必ずしも万能ではない.迅速診断の適応,有用性,限界などを十分に知り,臨床家と綿密な連絡をとることにより,精度の高い術中診断をすることができる.〔臨床検査37(6):619-623,1993〕

細胞診

都竹 正文

pp.624-628

 甲状腺疾患に対する穿刺吸引細胞診は術前検査法として手技が簡単で,患者の苦痛が少なく繰り返し実施でき,針穿刺による合併症もみられないという安全性に加え,質的診断が高いという利点があり,今日では術前の確診を得る手段として,わが国では一般化しつつある.本稿では各種疾患の診断上のポイントとなる細胞所見について述べるとともに,現時点での診断上の限界についても付記する.〔臨床検査37(6):624-628,1993〕

病態解説

バセドウ病

越智 幸男 , 乾 武広

pp.629-635

 バセドウ病は甲状腺機能亢進症を呈する病態であるが,特徴的な3症状(甲状腺腫,頻脈,眼球突出)を有する疾患である.多くの仮説が提示されていたが,1956年に本症血中にLATSが発見され,これが甲状腺刺激抗体IgGであることから,自己免疫機序が本症の病因に深く関与していることが明らかになった.また,近年TSHレセプターアッセイにより,本症患者血中の甲状腺刺激抗体(TSAb)はTSHレセプターに結合する抗体(TRAb)であることが明らかになった.未治療バセドウ病の90%はTRAbが陽性であるが,治療により症状が改善すると陰性化することが多い.TSAbの抗原検索また眼球突出惹起の本態など多くの未解決の問題点がある.〔臨床検査37(6):629-635,1993〕

橋本病

網野 信行

pp.636-641

 橋本病は臓器特異的な代表的自己免疫疾患である.成人女性の30人に1人の割合で出現する.潜在性病型は血中甲状腺マイクロゾーム抗体測定により診断が付けられる.橋本病が進行すると徐々に甲状腺機能低下症が発生する.橋本病患者の約10%が明らかな甲状腺機能低下症を示す.橋本病の経過中,急性増悪を示し一過性に甲状腺からホルモン漏出が起こり,破壊性甲状腺中毒症が発生することがある.痛みのないことから無痛性甲状腺炎といわれる.出産後はこの病態が上一般婦人の約20人に1人の割合でみられ,出産後甲状腺炎といわれている.最近の病態解析から橋本病はバセドウ病と同じ甲状腺における一つの自己免疫疾患と考えられつつある.〔臨床検査37(6):636-641,1993〕

甲状腺癌(乳頭癌,濾胞癌,未分化癌)

林 雄三

pp.642-646

 甲状腺濾胞上皮由来の悪性腫瘍には乳頭癌,濾胞癌(一括して分化癌)と未分化癌があり,両者は生物学的,形態学的に大きく異なっている.頻度は乳頭癌が最も多く,濾胞癌は5%程度,未分化癌の頻度はさらに低い.乳頭癌の診断基準は細胞所見,特に核に置かれ,濾胞癌では被膜浸潤と脈管侵襲の有無が重視される.未分化癌は生物学的にきわめて悪性であり,60歳以上の高齢者に多く,男性の占める比率が高い.〔臨床検査37(6):642-646,1993〕

髄様癌

宮内 昭

pp.647-651

 甲状腺髄様癌はC細胞由来の癌であり,カルシトニンとCEAを産生する.髄様癌には多発性内分泌腫瘍症2A型,2B型として常染色体優性遺伝する遺伝性のものと散発性のものとがある.診断のきっかけとして穿刺吸引細胞診が重要であり,高CEA血症が発見の契機となることがある.遺伝性群ではカルシトニン測定による家族のスクリーニングが重要であり,ごく最近はDNAマーカーを用いた発症前の診断も行われるようになっている.〔臨床検査37(6):647-651,1993〕

話題

TSHレセプター

女屋 敏正

pp.653-655

1.はじめに

 分子生物学的手法の進歩とともに当然のようにTSHレセプター(TSH・R)もクローニングされた.したがって,TSH・R遺伝子も単離され,5′-上流域の解析なども進められている1).また,同時にTSHおよびTSH・R抗体の作用部位に関する論文が多数発表されている.特にTSH・R cDNAの一部を欠損させたり,置換した変異TSH・Rを作製してその反応性を検討する方法がまず行われたが,多くの報告において必ずしも一致した結果が得られていない.

 本稿では誌面も限られているので,合成ペプチドを用いた筆者らの方法でいかなる新知見が得られたかを紹介する.

T3レセプター

三橋 知明

pp.656-657

1.はじめに

 甲状腺ホルモン受容体は細胞核内に存在するホルモン依存性転写因子である.すなわち,甲状腺ホルモン受容体は甲状腺ホルモン(T3)という細胞外からのシグナルを受容し,ほかの情報伝達系と相互作用しつつ,標的遺伝子のプロモーター領域の甲状腺ホルモン反応性DNA配列に結合し,標的遺伝子の発現を転写段階で調節している.この甲状腺ホルモン作用の基本的概念は甲状腺ホルモン受容体のクローニング1,2)により実証されたが,その後に得られた知見により甲状腺ホルモン作用の全体像はきわめて複雑であり,多くの情報伝達系と密接な相互作用を行っていることが明らかにされつつある(図1).

バセドウ病の治療―新しい考え方

橋爪 潔志

pp.658-659

1.はじめに

 バセドウ病の治療法として次の3つがある.第1は外科的治療,第2は放射線治療,第3に内科的治療である.外科的治療はバセドウ病が甲状腺を刺激する免疫グロブリン(TRAb)にその原因があることがわかって以来,主流ではなくなり,内科的治療が困難なときにのみ行われるようになっている.放射線治療は欧米では最も一般的な治療法である.わが国ではそれほどでもない.本邦で最も普及しているのは内科的治療法であるが,欧米でも最近しだいに内科的治療が主流になりつつある.

甲状腺癌の新しい診断法―甲状腺癌特異性モノクローナル抗体(TCM-9)

森 徹 , 須川 秀夫

pp.660-662

1.はじめに

 画像診断技術の進歩および穿刺吸引細胞診の普及によって,甲状腺癌ことに乳頭癌の診断はかなり的確になった.しかし,結節性甲状腺腫の診断上最も重要なことは,①良性腺腫と濾胞癌の鑑別,および②未分化癌の診断であり,血中サイログロブリン(Tg)測定や201Tlシンチを含めて,現行のものでは不十分と言わざるをえない.もちろん,術後経過観察上のTg測定の意義は認められるが,今求められるのは,未分化癌を含めた癌特異性マーカーである.

 従来からTgに対するモノクローナル抗体の検討が進められているが,なお癌特異性と言えるものはみられない.本稿では,筆者らが作製した甲状腺癌特異性モノクローナル抗体の概要を紹介するとともに,今後の方向として期待される遺伝子診断の現状を紹介する.

鼎談

甲状腺疾患診断へのアプローチ

内村 英正 , 紫芝 良昌 , 三村 孝

pp.664-674

甲状腺疾患は身近な病気として,発症の頻度も高く,多くの検査項目がある.ここでは甲状腺関連の検査に的を絞り,その選び方,異常値の解釈,また新しい検査技術について今後の展望を語っていただいた.

ひと―ベノジェクトⅡリレー訪問

山中 學

pp.577-578

 私の星座は天秤座.30日なので乙女座寄りの片下がりだが,星座の名前から自分では結構バランス感覚はあると思っている.取り過ぎると,他人は優柔不断でずるいというかもしれない.またあまりバランスを考えると,何事もトップにはならないようだ.

 小学6年,当時塾はないが種々の模擬試験を受けた.ほぼ全東京の受験者の順番が付く.7年制高校はもちろん府立一中は無理といわれ四中に決めた.中学4年の暮れ,補習科を含めた3学年合同の模擬試験で数学は落第点以一下.一高はちょっと,静高ならといわれ箱根を越した.がむしゃらな勉強もしない,といって徹底的にサボれない.天秤座の性格なのか私だけのものか.寮で同室の友人は二人ともクラスのトップとなり,私はその下を上下した.軍国調に対抗した反軍主義.バランスが必要だったようだ.

学会だより 第8回日本環境感染学会総会

社会的注目を集め参加者激増

菅野 治重

pp.590

 第8回日本環境感染学会総会は,川名林治会長(岩手医科大学細菌学講座教授)のもとに,1993年2月19~20日,笹川記念会館(東京都)において開催された.最近,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を代表として,院内(病院)感染の問題が社会的にも大きな関心を集めており,院内感染防止対策を主要な研究課題として設立された本学会には,会員のみならず,院内感染に取り組む多くの関係者の期待が集められている.今回の総会には例年を大きく上回る1,000名を越える参加者があり,院内感染の問題の深刻さを象徴していた.

 本総会のプログラムで,特に関心を呼んだ企画として,Ms.Patricia Lynch (Harbourview Medical Cen-ter, USA)による"米国におけるInfection Control Nurse(ICN)の役割",Dr.Barry Cookson(Center Public Health Services, UK)による"英国における病院(院内)感染対策(MRSAなど)"の2題の招請講演が挙げられる.院内感染の問題では明らかに開発途上にある日本としては,この問題の先進国における院内予防対策の実状を知ることは,今後日本における対応を考えるうえで大変有益であり,時宜を得た企画と思われた.

COFFEE BREAK

うどん考

屋形 稔

pp.609

 戦前に馬市で全国的に有名だったのは岩手の盛岡と福島の白河であった.馬市には名馬,凡馬が無数に集まり時ならぬ殷賑を極めたものであった.白河から数里離れた私の田舎町も4月になると10日くらいオセリと称する小さい馬の競り市が開かれ,小学校から帰って香具師の店を見物に出かけるのが楽しみな年間の重要イベントであった.ザラ紙の立川文庫が露店に並んだり,バナナや瀬戸物の叩き売りが面白かったが,臨時に店を出すうどん屋の一杯5銭玉のうどんを食べるのが堪らなく楽しみで,あの味は半世紀以上たった今でも舌に残っているのである.

 その後,全国に旅して土地柄のうどんやそばの味を楽しみ求めているが,うどんは西高東低で関西のほうが讃岐うどんをはじめ大阪のケツネうどん,名古屋のきしめんなど総じていい味である.しかし美味求真というが,真に近いのが幼年時の祭りのうどんというのはどういうわけであろうか.ものではなく思い出の名残りが加味されるのであろうか.

H

𠮷野 二男

pp.618

 略語としてはホルモン(hormone)を表すものとして用いようとする提案がなされたことがありました.それまでも抗利尿ホルモン(antidiuretic hor-mone)をADH,副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotrophic hormone)をACTH,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone)をPTHなどと略されて使われてきました.

 脱水素酵素(dehydrogenase)はDHとして使ってきましたが,乳酸脱水素酵素(lactate dehy-drogenase)をLDとしてHをつけないこととし,いまではだいぶ普及してきているようです.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・6

Ⅲ型高脂血症とアポEアイソフォーム

久保 信彦 , 櫻林 郁之介

pp.675-677

●検査結果の判定●

 アガロースゲル電気泳動法により血清リポ蛋白分画を行った.図1に血清リポ蛋白分画像を示した.アガロースゲル膜の原点に塗布した血清を電気泳動法により展開して脂質染色した所見では,陰極側からβ,preβ,αのリポ蛋白の分画が出現する.これらはそれぞれLDL,VLDL,HDLリポ蛋白に対応している.図1に示した検体では,対照検体と比較してpreβ~β分画が増加しており,しかも幅広いパターンが均一に認められる.これはbroadβと呼ばれており,著明に増加したβVLDLに対応している.LDLは減少している.この所見はIII型高脂血症に特徴的な所見である.

TOPICS

日本病理剖検輯報

藍沢 茂雄

pp.678-679

 今日の臨床検査・画像診断の発達を考慮しても,病理解剖の重要性が低下したとは思えない.日本病理剖検輯報(以後輯報)は,世界で唯一の一国を網羅する剖検症例の記録を集積した出版物である.第1輯は1958年に発刊され,今日までに33輯を数える.この編集が日本病理学会によりもくろまれた理由は,第1に疾病の全国分布を知るうえで最大の資料となること,第2に全国に散在している症例を互いに利用しあえる道を講ずることにある.

 この種の刊行物は,10年,20年と集積したときに初めて資料としての真価を発揮する.編集の対象は日本全国すべての大学附属病院および年間10体以上の剖検例を持つ主要な約500施設の国公立私立病院である.発行当時は年間約1万体であったが,最近は4万体前後を数えるに至った.日本人死亡の5.5%に相当する.

短時間でできる毒性検査

一色 賢司 , 西本 普喜子 , 山庄司 志朗

pp.679-680

 近年,食品,医薬品あるいは化粧品などの安全性や毒性に関する情報を効率的に得るために,ヒト細胞を含めた各種培養動物細胞を用いる毒性試験が行われるようになった.培養動物細胞を用いる研究手法は,動物実験に伴う膨大な経費や時間を削減できるうえ,再現性や定量性が向上することもあって動物実験の代替や縮小への貢献が期待されている.これまでに報告された方法では,細胞膜の損傷,酵素活性や代謝活性などの細胞機能毒性,高分子合成能,あるいは細胞増殖能の低下などを指標として,細胞毒性を検出している.

 われわれは,ビタミンK3(メナジオン)存在下での細胞の過酸化水素生成能を指標とする化学発光法により,生育状況を迅速に観察する手法を開発し,新たな細胞毒性試験法としての応用を試みた1).図1にその原理を示した.

カテコールアミンの超高感度測定法

今井 一洋

pp.680-681

 カテコールアミン(CA)は神経伝達物質,あるいはホルモンとして生体内で重要な役割を担っている.生体における存在量が微量であるがために,従来,その測定法にはガスクロマトグラフィー/質量分析法,薄層クロマトグラフィー/放射能標識酵素分析法などの高感度分離分析法が用いられてきた.近年,簡易な分離分析法である高速液体クロマトグラフィー(HPLC)がカテコールアミンの分離・検出にも利用されるようになり,その検出部には高感度検出法である電気化学検出,蛍光検出が多用されている.

 最近,HPLCの検出部をより高感度化するために,化学発光反応が利用されるようになってきた.なかでも過シュウ酸エステル化学発光反応は,HPLCのポストカラム反応検出手段として利用すると,蛍光物質をフェムトモルレベル(10-15モル)で高感度に検出できる1)

バイオセンサーを用いるAIDSの検査

熊谷 善博 , 高井 信治

pp.682-683

 分子認識を行う目的でこれまでに数多くのセンサーが開発されてきた.なかでもバイオセンサーは化学センサーの一部で,分子認識素子の性質により酵素センサー,免疫センサーなどが知られている.このうち免疫センサーは,免疫反応に基づく蛋白質,ポリサッカライドやペプチドなどの高分子物質を選択的に検出することが可能である.そこで,現在社会問題化している疾患,AIDSの検査法の開発を行った.

 この研究ではモデルシステムとして遺伝子工学的にHIV被覆蛋白質の部分構造を免疫グロブリン超可変部に分子移植した抗原と,HIVenv蛋白質に対するモノクローナル抗体を用いて,抗原抗体反応を起こさせ,この時の光反射スペクトルの変化を促えて測定可能な系を構築した.

LPSによるマクロファージ活性化の開始機構―LBPとCD 14の役割

西島 正弘

pp.683-684

 グラム陰性菌の細胞壁に存在するリポポリサッカライド(LPS)は菌体内毒素(エンドトキシン)の本体であり,発熱,ショック,インターフェロン誘発,抗腫瘍活性など多彩な生理作用を示す.LPSに対し生体が示すこれら諸反応の中で中心的役割を果たしているのはマクロファージである.したがって,LPSに対するマクロファージの応答機構の解明はきわめて重要な研究テーマである.

 マクロファージはngオーダーの微量のLPSにより活性化を受け,プロスタグランジン,IL-1,TNF,活性酸素など種々の生理活性物質を産生・放出する.このLPSによるマクロファージ活性化の第一ステップはLPSのマクロファージへの結合であるが,最近,この反応に2つの蛋白質,LBP (lipopolysaccharide binding protein)とCD14が関与することが明らかにされた1,2).すなわち,LPSはまずLBPと結合し,その結果形成されるLPSとLBPの複合体がCD14に結合することによリマクロファージが活性化されることが判明した(図1).

研究

砂場からの犬・猫蛔虫卵検出法

宇賀 昭二 , 松村 武男 , 東塚 伸一 , 木田 吉人 , 片岡 陳正

pp.685-688

 公園の砂場の砂を検体とする犬・猫蛔虫卵の検出法を述べた.本法は比重1.200のショ糖液を用いた遠心沈殿浮遊法をこの目的のために改良したものである.その特徴は,①200gもの砂を一度に検査できるうえに48%の回収率を有する,②操作は簡便かつ経済的であることに加え,③検査に要する時間は1時間以内である,などの特徴を有している.このため本法は,Toxocara属線虫卵による住環境汚染状況の日常検査のみならず,公衆衛生学的見地からの疫学調査にも適した方法であると考えられる.

編集者への手紙

改良型および旧型アセス・ピークフローメーターの比較

川根 博司 , 沖本 二郎 , 副島 林造 , 小島 健次 , 神川 敦子 , 今西 美喜

pp.689-690

 わが国でも気管支喘息患者の客観的な肺機能の評価のために,小型・軽量化された簡便なピークフローメーターが普及しつつある.われわれは,すでに英国製ミニライト・ピークフローメーター(ミニライトと略す),米国製アセス・ピークフローメーター(旧型アセスと略す)の正確度および精密度について検討し,報告した1).ところが,最近,目盛りが変更されて上限が高くなったアセス・ピークフローメーター(改良型アセスと略す〉が市場に出回るようになった.そこで,今回はこの新しい改良型アセスの正確度,精密度について検討し,旧型アセスと比較してみることにした.

質疑応答 臨床化学

プロテオグリカンの測定に酵素を用いる理由

高垣 啓一 , Q生

pp.691-693

 Q 上記についてお教えください.また,用いる酵素はプロテオグリカンのどこに作用するのですか.

質疑応答 輸血

光カードシステムによる献血者の管理

関口 定美 , 田村 弘侯 , Q生

pp.694-695

 Q 光カードが臨床分野で応用され始めています.献血者の管理にも使われているようですが,現状と将来の展望について,お教えください.

交差適合試験でブロメリン法(+)間接抗グロブリン試験法(-)の患者への輸血

小松 文夫 , T生

pp.695-696

 Q 交差適合試験で,ブロメリン法だけが(+)の結果が出ました.これはどのように理解すればよいのでしょうか.また,この後,輸血をするまでにどのようなことをすればよいのでしょうか.併せてお教えください.

質疑応答 臨床生理

ドブタミン負荷心エコーの臨床的意義

谷口 信行 , K生

pp.697-698

 Q 上記についてお教えください.

純音聴力検査で用いる単位

森山 春子 , 宮野 寿美子

pp.698-699

 Q 聴力検査で,CPS,Hzの単位が用いられていますが,両者は同じものですか.最近ではCPSは見かけなくなりましたが使われなくなったのでしょうか.併せてお教えください.

質疑応答 その他

測定データの統計処理

佐藤 岩太郎 , S生

pp.700-704

 Q 測定データを整理する場合,種々の統計処理を行い,客観的な判断を下す必要があります.しかし,データの検定法にはt検定,F検定,χ2検定など,さまざまなものがありますが,初心者にはたいへん理解しにくい面があります.これらの検定法はどのような処理に適用でき,またどのように使い分ければよいのでしょうか.例をあげて詳しくお教えください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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