icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査38巻1号

1994年01月発行

雑誌目次

今月の主題 MRI

巻頭言

MRIの進歩

荒木 力

pp.5-7

 MRI(magnetic resonance imaging)は核磁気共鳴現象(NMR;nuclearmagnetic resonance)を利用した画像診断法である.NMRは1946年に,Bloch1)およびPurcellら2)が各々独立に発表した現象で,その業績により1952年にノーベル物理学賞を受けている.

 NMRはその後一貫して物理化学の分野における主要な研究手段として発展してきた.これが医学の分野の注目を集めるきっかけとなったのは,癌組織の緩和時間が正常組織に比べ有意に延長しているとするDamadianの論文3)と,実際に管に詰めた水をNMR現象を利用して画像化したLauterburの論文4)である.その後,1977年から78年にかけてNMRを利用した画像法が次々に発表され5~7),1980年のSNM (米国核医学会)やRSNA(北米放射線学会)において製品として機器展示され多くの医学関係者の注目を集めた。

MRIの基礎

NMRの原理

吉田 英夫

pp.9-12

 核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance;NMR)は,一定の静磁場の中で原子核のスピンの向きが変化するのに伴って観測される現象である.共鳴により吸収,放出される電磁波はラジオ波の周波数程度できわめて弱いエネルギーである.ここでは人体中最も観測しやすい1H原子核についてNMRの原理,緩和現象について概説した.〔臨床検査38:9-12,1994〕

MRIの原理

阿武 泉

pp.13-19

 "NMRの画像化"の説明は"NMR現象"のそれと異なり難解である.NMR現象ではコマという直感的に理解しやすいモデルで説明できた.一方,NMRの画像化が難解であるのはフーリエ変換の概念を,数式を使わないで直感的かつ正確に説明することが難しいためである.本稿では多少不正確であるが,NMRの画像化とはおおよそこのようなものであるという直感的なイメージとして理解していただきたい.〔臨床検査38:13-19,1994〕

MRIの機器と取扱い

菊池 務

pp.20-24

 近年ではMRIは画像診断のみならず,機能診断の可能性も高く評価され始めており,臨床医学の診断法として従来のモダリティにみられない深遠な可能性を持っている.これらMRIの機器の性能を最大に活用するためには,NMRの原理や画像構成技術の把握とともに,ハードウエアの性能を左右する基本的要因を十分理解し,常に安定した状態に保守管理することが重要である.また本機器の特性である強磁場と高周波パルスから,患者やスタッフの安全保護に対する配慮が必須条件である〔臨床検査38:20-24,1994〕

MRIの臨床応用

頭部

青木 茂樹 , 浜走 倫人 , 町田 徹

pp.25-30

 MRIの頭部での有用性は確立し,ほとんどの腫瘍を中心に多くの病変についての所見がすでに報告されている.MRIの特徴の1つに,水素原子の状態の違いにより信号強度が変化して生化学的情報が得られる点があり,出血,蛋白濃度の違いなどにより特異的な信号強度を示す場合がある.ここではそのような信号強度の変化を示す病変や,読者に比較的馴染みやすいと思われる臨床検査で異常所見が出るような病変を中心に解説する.〔臨床検査38:25-30,1994〕

脊椎・脊髄

白水 一郎 , 青木 茂樹 , 町田 徹 , 大久保 敏之 , 荒木 力 , 佐々木 康人

pp.31-38

 脊椎・脊髄の画像診断は,単純X線撮影,X線CTに加えてMRIの出現により著しく進歩した.MRIは骨の影響を受けず,X線を使用するCTに対して相補的であるばかりか,脊髄などの軟部構造の描出には圧倒的に優れ,またガドリニウム製剤による増強効果は診断上重要なことが多い.現状のMRIの特徴と利用法を血心に,脊髄の正常像と各種病的状態について概説した.〔臨床検査38:31-38,1994〕

頭頸部・縦隔

高原 太郎 , 中島 康雄 , 新美 浩 , 尾上 正孝 , 石川 徹

pp.39-46

 MRIはCTに比較して,放射線被曝がないことや軟部組織分解能が高いことなど種々の利点を持っている一方,撮影範囲に磁性体があると撮像不能であることや,対象の動きの影響を受けやすいことなどの欠点がある.特に頭頸部(特に喉頭,下咽頭)と縦隔は,嚥下や呼吸運動,血流などに起因するアーチファクトが出やすい部分である.アーチファクト対策としてはフローコンペンセーションやSAT (サット)パルスなどと称されている技術,息止め撮影,加算回数の増加などが効果がある.MRIの特性を理解したうえでこれらの対策を講じることが肝要である.〔臨床検査38:39-46,1994〕

上腹部

伊藤 亨 , 小西 淳二

pp.47-52

 上腹部におけるMRIは,その特殊なコントラスト,特に水分,脂肪,磁性体,血流に対する特徴的な信号強度によってこれまでの画像診断法とは異なる有意義な情報をもたらす.そのため,いまや肝腫瘤性病変の拾い上げ,および鑑別診断において大きな役割を担っている.症例を中心にCTと比較しながらMRIの上腹部における現状を概説する.〔臨床検査38:47-52,1994〕

骨盤臓器

作山 攜子

pp.53-60

 骨盤のMRIについて撮像法,骨盤のMRI解剖について述べ,特に女性性器については,子宮,卵巣,卵管について解剖学的知識をまとめ,MRIが理解しやすいように記した.さらに女性性器のMRIの適応についても述べ,若干の病的症例を提示して説明した.〔臨床検査38:53-60,1994〕

四肢・関節

横山 健一 , 是永 建雄 , 蜂屋 順一

pp.61-66

 MRIは軟部組織間のコントラスト分解能が高く,人体の任意の断面を容易に得られることから,骨・関節・軟部組織疾患においてもその有用性は非常に高い.また,従来のX線検査では明瞭に描出しにくい軟骨,靱帯,腱などを直接観察することも可能であり,整形外科領域の画像診断で,必要不可欠な検査として認識されつつある.本稿では,この領域におけるMRIの臨床応用の実際について概説する.〔臨床検査38:61-66,1994〕

新技術

MRアンギオグラフィ

似鳥 俊明 , 土屋 一洋 , 蜂屋 順一

pp.67-70

 多数あるMRIの技術のなかでも,MRアンギオグラフィの臨床応用の進歩が目覚ましいが,現在の主流であるtime-of-flight法とphase contrast法の原理と特徴を述べ,臨床例を紹介した.血流に敏感で造影剤を用いず血流情報が容易に得られるMRIの特質をうまく活用した技術で,さらに画質の改善が得られ,臨床応用が広がると期待される.〔臨床検査38:67-70,1994〕

MRスペクトロスコピー

今村 惠子

pp.71-75

 MRスペクトロスコピー(MRS)は臨床用高磁場MR装置を用いて実施され,代謝物質をin vivoで検出するものである.それによりエネルギー代謝や膜のリン脂質代謝などを非侵襲的にうかがい知ることが可能となった.これらは他の検査では得難い情報であり,治療経過の観察や診断へと臨床応用が広がるであろう.〔臨床検査38:71-75,1994〕

コーヒーブレイク

北冥に𩵋あり

屋形 稔

pp.7

 新潟大学の医学部会議室に"北冥有𩵋"―秋艸道人という扁額がかかっており,教授会のときにいつもつらつらと眺めていたものである.北の海に魚が泳いでいるという意で,書のことは半解であるが"𩵋"という字がぴんぴんと躍動して迫力があった.秋艸道人とは秀れた東洋美術史学者,類いまれな歌人,そして独往の書家として名高い会津八一氏のことである.

 私が戦後の医学部学生時代下宿していた銀行家H氏宅に,時折筋向いの大地主I氏邸(のち北方博物館分館)に寄寓している鬼瓦のような顔の岩乗(頑丈)な体躯の人が遊びに来た.H氏と早稲田大学同級とかで,しばらくはこの人が新潟きっての文化人会津氏とはつゆ知らなかった.終戦を機に故郷の新潟へ帰られたもので,10年後大学病院で76歳で没された.晩年は特に書道に力を注ぎ,この扁額も渾身の作の由で,I氏一族で当時医学部長をしていた伊藤辰治氏が懇請していただいたという.単純な語句では味わえぬ筆力というものがあり,これが蓋し書道なのであろう.

Da

𠮷野 二男

pp.38

 分子量を表すには,無名数で1,000とか1万,あるいは4万何千などと言いならわしてきましたが,最近では,SI単位の普及とともに,単位名を付けて呼ぶことが行われています.その単位名として,原子論の研究に業績のあったDalton Jの名を冠して"ダルトン"を用い,記号として"Da"と記すことにしました.

 これらの記号を作る約束ごととして,化学記号と同じく,ローマ字の大文字を用い,2字にわたるときには,次の字は小文字とするということになっていますので,Daとなります.これを"Dal"と記したり"Dalt"としたり,ただ"D"と記したりしているのを見かけますが,Dでは重水素の化学記号と同じになってしまいます.

学会だより 第40回日本臨床病理学会総会

英知を結集した斬新な企画で

戸谷 誠之

pp.8

 "21世紀の臨床検査をめざして"をメインテーマに掲げ,第40回日本臨床病理学会総会(総会長:広島大学坪倉篤雄名誉教授)は1993年10月20~22日に広島市において開催された.

 本年の総会は,坪倉総会長による"遺伝子診断による性の判定"と題した講演,放射線影響研究所重松逸造教授の"原爆放射線の健康影響"と自治医科大学河合忠教授の"JSCPの国際交流の歴史と展望"の2つの特別講演をはじめ,6題のシンポジウム,教育講演,一般演題701題(口演,示説を含む),さらに6テーマの技術セミナーと関連各学術専門部会講演会などと,例年にも増して盛り沢山なプログラムであった.主会場を広島国際会議場大ホールに,近在する3施設の13会場とともに行われたこの会は,参加者総数が約2,200名(総会事務局調べ)と盛況となった.

座談会

臨床生理機能検査の展望

下杉 彰男 , 松岡 瑛 , 荒木 力 , 石山 陽事 , 河合 忠

pp.77-86

 1993年春に一部改正された政令により,臨床検査技師が行える生理学的検査に,①熱画像検査,②磁気共鳴画像検査,③眼底写真検査(散瞳薬を投与して行うものを除く),④毛細血管抵抗検査,⑤経皮的血液ガス分圧検査が追加された.これを受けて,新たに追加された検査について具体的に解説するとともに,臨床生理機能検査の今後の展望についてもお話し合いいただいた.

 なお,この座談会が行われた後,1993年9月末の改正により,さらに眼振電図検査および重心動揺計検査が加えられた.

海外レポート

アルバニア社会主義人民共和国―(1) Tiranë大学での特別講義とSpitali Klinik Nr.1の臨床化学検査室

佐々木 禎一

pp.88-90

■はじめに

 わが国で中央検査部制度が導入された二十数年以上前は,海外の検査や検査室の実態についての情報はきわめて少なかった.たまたまそのころこの分野に仲間人りした筆者は,海外出張の折,多くの国々の検査室を訪問し,その実情や印象を,本誌を中心に二十数か国について50回余にわたって紹介してきた1,2)

 その後すべての分野と同様に,諸外国との交流の機会も増し,このような紹介記事はあまり必要なくなったが,最近訪問することができた"アルバニア社会主義人民共和国"(以下アルバニア.その後の東欧の政変により,国名は変わったが,ここでは当時の国名を用いた)の,臨床検査,病院および医療の現況は,近隣の欧州諸国でも入手不可能な,きわめて珍しい稀有の情報と思われたので,本誌上に紹介しようと思う.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・13

1gA腎症における尿沈渣像

島田 勇 , 河合 忠

pp.93-95

●検査結果の判定●

 表1に尿沈渣結果を示す.

 赤血球が多数みられており,同時に円柱,特に赤血球円柱がみられていることから糸球体腎炎が考えられる.

トピックス

空調病・加湿器肺

佐藤 篤彦 , 源 馬均

pp.96-97

 加湿器や空調設備の汚染微生物(抗原)を反復吸入することによって感作され発症する過敏性肺臓炎を,空調病・加湿器肺(ventilstion peumo-nitls: VP,換気装置肺炎)と称する.

 VPの最初の報告は,1970年アメリカのBana-szakらで1),会社事務員27人中4人が悪寒,発熱,息切れで発症し,胸部X線像では,びまん性に微細粒状影の散布が認められ,事務所での再暴露を避けることで治癒している.事務所の空調設備には,加湿器とヒーターが組み込まれており,その冷却水とスチームコイルからMicro-polyspora fanieに類似した好熱性放線菌が検出され,菌抽出物と患者血清の沈降反応は陽性であった.患者は抽出物の吸入試験で7-12時間後に症状の再燃を呈した.以後,アメリカからはM.fanieやThermoactinomyces vulgarisなどの好熱性微生物に汚染された加湿器による発症例が多数報告された.家庭用での散発例もあるが,大工場内の空調を共同使用する部門の従事者50名中26名が発症したとの報告2)にみられるように,事業所内を起因環境とする報告例が多数であった.

直腸の粘膜脱症候群

佐藤 明

pp.98-99

 耳慣れない言葉であるが,文字どおり大腸,ことに直腸粘膜の脱出(肛門外へ脱出する顕在直腸脱と脱出しない潜在直腸脱がある)に起因すると考えられる一連の疾患で,特徴的な臨床ならびに病理像を呈する.本病態の名称については多少の混乱がある.すなわち,初期には直腸孤立潰瘍(solitary ulcer of the rectum)1)と呼ばれ,各年齢層の男女に発症するが,特に若年者の直腸前壁にみられる孤立性潰瘍病変で,病理組織学的には粘膜固有層の線維筋症が特徴であるといわれた.

 その後,潰瘍の多発する例や潰瘍のない平坦な例,逆に隆起した例もあり,これらは前述した共通の組織像を有していることから"症候群"という語が付加され,直腸孤立潰瘍症候群と呼ばれるようになった.さらに,直腸脱・痔核脱出・結腸瘻・回腸瘻の粘膜や慢性腸重積の被覆粘膜にも同様の組織像がみられ,これらの粘膜病変の共通原因が粘膜脱出に求められることから,十年ほど前に粘膜脱症候群(mucosal prolapse syndrome2);MPS)という名称が提唱された.臨床像,病理形態学的ならびに生理学的な知見が集積されるに従い,MPSが用いられるようになってきている.

bacterial biofilm

中山 一誠

pp.99-101

 細菌の付着(bacterial adhesion)に関しては,鞭毛(flagella)および線毛(pili)が大きな役割を果たしている.鞭毛が運動器官として機能を有するのに対し,線毛は2つの機能を有する.1つは他の細胞への付着であり,もう1つはsex piliとしての役割である(図1).

アルコール性肝障害と遺伝子

田中 文華 , 小俣 政男 , 塚田 悦男

pp.101-103

 酒屋の前を通っただけで酔っぱらってしまうとか,斗酒なお辞さぬと平然としていられる,あるいは量は飲めても酒に呑まれてしまうというように,酒に対する感受性が個々の人々によって異なることが昔から経験的に知られている.最近の分子生物学的研究により,遺伝子がこれらの現象の一部を規定し,ひいては,肝障害進展への一要因となっていることが明らかにされつつある.以下に,われわれの研究室で明らかとなった最新の知見を述べたい.

 経口摂取されたエチルアルコール含有飲料(以下アルコール)はアルコール脱水素酵素(ADH)により酸化され,有毒のアセトアルデヒドになる.この有毒物質はさらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により代謝されて酢酸となり,次いで,水と二酸化炭素にまで分解されて体外に排出される.なお,過剰のアルコール摂取時,またはADH, ALDHの機能低下時には,チトクロームP450(CYP)が誘導され,アルコール代謝のバイパス的役割を担っている.これらの酵素決定遺伝子のうち,ADH2, 31), ALDH2およびCYP IIE1には多型が存在し,個々の人々でアルコール代謝能力が遺伝的に異なる.すなわち,生まれながら不快感なくアルコールそのものの作用を享受できる者,逆に,アセトアルデヒドの不快な作用(顔面紅潮,嘔気,動悸,頭痛など)を強く受け2)飲酒を好まない者が自然と存在する.

私のくふう

コルベン,ビーカー固定台の工夫

大竹 敬二

pp.104

 細菌検査を行うには,三角コルベンを用いての培地作りから準備を始めます.しかし,粉末培地を用いて高圧滅菌溶解された培地を各々のシャーレや試験管に規定量分注するとき,枚数や本数が多いと,軍手,手ぬぐいを用いて高温の溶解液の取扱いをしなくてはなりません.この作業はいつも重さと熱さに悩まされ,手首の力はかなり要求されます.また,足元に落ちたり,机上を染めたり,白衣にかかったりなど危険なことがたびたび発生します.

 そこで,この不安定で持ちにくく,しかも重くて熱い三角コルベンを,台上に固定するだけで安全にしかも能率良く分注作業ができるような固定台を考案しました.

研究

飲用茶利用の感受性を中心としたMRSAに対する効果および臨床応用

斎藤 奈緒子 , 松山 隆 , 森田 秀 , 二川原 和男 , 舟生 富寿 , 川口 俊明 , 松山 茂

pp.105-107

 各種茶葉抽出液のMRSAに対する効果について検討した.これらの抗菌作用は緑茶が最も大きく,以下紅茶,中国茶の順でコーヒーには認められなかった.緑茶抽出液の効果は,3%以上で顕著であり,その他のStaphylococcus属にも作用を示した.MRSA咽頭保菌者に,3%緑茶抽出液のネブライザー吸入を試み,咽頭での陰性化を認めた.しかし,鼻腔には無効であり,さらに濃度および施行方法についての工夫が必要と思われた.

資料

カルシウムの酵素的測定試薬の検討

杉岡 陽介 , 眞重 文子 , 大久保 滋夫 , 渡辺 信子 , 大久保 昭行

pp.109-113

 血清および尿中カルシウムの酵素的測定試薬について基礎的検討を行った.本試薬は60mg/dlまで原点を通る直線性を示し,広範囲な測定域を有していた.同時および日差再現性のCVはそれぞれ0.97%以下および1.71%以下と良好であった.共存物質の影響を検討したところ,ヘモグロビン,ビリルビン,濁度,蛋白質,および各種の金属について影響は認められなかった.特に,o―クレゾールフタレインコンプレキソン法に影響があるアルブミンおよびマグネシウムも本酵素法にはまったく影響がなかった.内因性アミラーゼは,7,000IU/l (ブルースターチ国際単位)まで影響を認めなかった.カルシウムの標準的測定法である原子吸光法との相関は良好であった.

糖尿病外来における微量アルブミン尿の簡易測定試験紙によるスクリーニング

後藤 峰弘 , 杉浦 浩 , 富田 明夫 , 普天間 新生 , 加藤 克己

pp.115-118

 糖尿病患者70例の空腹来院時尿を用いて,尿中微量アルブミン簡易測定試験紙(BMテストMAU®)の有用性を検討した.本試験紙による判定は,アルブミン濃度(rs=0.944)のみならずアルブミン指数(rs=0.788)とも有意な正相関を示した.アルブミン濃度およびその指数との比較による診断感度は,それぞれ100,90.9%であり,陰性者の判定に良好な成績であった.糖尿病の外来診療において,微量アルブミン尿のスクリーニング検査を行うのに十分有用であると考えられた.

デタミナーHTLV-1抗体の有用性―ウイルス粗抗原を用いたEIA法キットとの比較

梅本 正和 , 楠原 浩一 , 蔵屋 一枝 , 持冨 実

pp.119-122

 HTLV-Iキャリアの母親から出生した乳児を生直後より観察し,PA法で疑陽性になった32例の血清でデタミナー(リコンビナント抗原を使用)とE社EIA(ウイルス粗抗原を使用)の比較検討を行った.4例に不一致がみられ,いずれもデタミナー(+),E社EIA(-)であった.その後の経過を追えた3例ではデタミナーの陰性化も確認できた.デタミナーはE社EIAよりもより感度がよいと考えられた.

質疑応答 臨床化学

血清鉄の日内変動

増田 詩織 , 大場 康寛 , N生

pp.123-125

 Q 血清鉄には日内変動があり,朝は高く夜は低いと言われていますが,どの程度のものでしょうか.また女性性周期との関係についてもお教えください.

CA 19-9のRIAとEIAとの乖離

大川 二朗 , 宮脇 章 , S子

pp.126-127

 Q 腫瘍マーカーのCA 19-9はRIA法とEIA法で解離する検体がときどきみられます.その原因をお教えください.

家族性高HDL血症

千葉 仁志 , K生

pp.128-129

 Q 家族性高HDL血症についてお教えください.

質疑応答 微生物

MRSAの検出と薬剤感受性試験の留意点

平田 泰良 , 井上 松久 , I生

pp.129-132

 MRSAのスクリーニングにオキサシリンやメチシリンの感受性検査が用いられますが,微量液体希釈法で測定する場合,培地に食塩を添加することが推奨されているのはなぜでしょうか.

ひと―ベノジェクトⅡリレー訪問

高橋 正宜

土田 一男

 小説に序章があり終章があるように,人生ではいくつかの転機に出会うことが多い.私は元来ケセラセラ型で標準線を行くつもりであったから,卒業後病理学の選択も安易な気持ちで,先輩の奨めに応じただけであった.戦後の留学は,外貨の乏しい日本では米国のフルブライト資金や西独のフンボルト資金などが主要な奨学金で,フルブライトを選んだのは新鮮な米国学派の臨床病理に接してみたかったからである.

 当時の大きな病理学の成書の1つにAndersonの名著があり,Anderson教授の指導を受ける機会を持ちたいと思っていた.実際には,病理学の一分野である細胞診断学を学ぶ(Hopman準教授)ことを通してAnderson先生に接する機会をやっと得ることができた.ばらばらの剥離細胞像から得る腫瘍や内分泌異常,炎症など,臨床情報の広さと美しいPapanicolaou染色との出会いは,帰国後某国立大学助教授の椅子をお断りし,母校の病理学教室を去る転機となることになった.序章はまさに波乱万丈であった.

今月の表紙 臨床細菌検査

Helicobacter pylori

猪狩 淳

 Helicobacter pyloriは1983年,オーストラリアのWarrenとMarshallがヒトの慢性胃炎患者の胃粘膜中に高率に認め,この細菌の分離・培養に成功して以来,本菌と胃粘膜障害との関連性について精力的に検討が進められている.H. pyloriは健康人の胃粘膜にも生息するが,現在では胃疾患,特に慢性胃炎の原因菌とする考えが定着しつつある.

 慢性胃炎患者の胃粘膜生検材料から分離されたらせん状の細菌,Campylobacter様細菌は分類上Campylobacter pyloridesと命名されたが,C. pyloriに訂正された.さらに,菌体脂肪酸組成などの性状が明らかにされるに至り,現在ではH. pyloriに改められた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら