icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査38巻12号

1994年11月発行

雑誌目次

今月の主題 超音波検査―最近の進歩

巻頭言

超音波診断技術の流れ

伊東 紘一

pp.1245-1246

 超音波を利用した検査・診断は1947年のDussikに始まるとされる.しかし,実際に超音波により生体内部を描出することができ,診断に利用できることがわかってきたのは,JJ WildとJM Reidが超音波断層法により癌を描き出した1950年ごろからである.もちろん,現在の超音波検査・診断の発展から振り返ると,1842年のCJ Dopplerと1880年のPiere, Jack Curieによるドプラ効果とピエゾ電気現象の発見は特筆する貢献であったことは言うまでもない.その後基礎,臨床あるいは各科領域における数々の発明,開発,研究により,検査・診断の進歩が加速されてきた.これまでの超音波検査・診断の発展の道のりにおいて数々の山々をなす研究があったが,リアルタイム診断装置とカラードプラ診断装置の出現は特筆すべき大きな山であったといえる.現在の超音波検査・診断のレベルは本号の各論文において示されるところである.これらの超音波診断の流れについて概観してみることにしたい.

 超音波を用いて診断を行ううえで,大きな流れと小さな流れ,非観血的な流れと観血的な流れ,非侵襲的な流れと侵襲的な流れ,定性的な診断と定量的な診断法,解剖的な情報と機能的な情報,各臓器におけるそれぞれの流れなど,さまざまな道筋がみられる.これらの幾筋もの流れを見ていくことにする.

テクノロジー

最近の診断装置

入江 喬介

pp.1247-1252

 最近の超音波診断装置の進歩は目覚ましいものがある.特に,画像診断で重要な画質の向上と,循環器分野から腹部分野へと広く使われるようになったカラードプラの性能向上,および新手法の導入が目立ってきている.この画質向上とカラードプラの新手法と性能向上について述べた.〔臨床検査38:1247-1252,1994〕

組織性状診断の現況とその臨床応用

谷口 信行 , 伊東 紘一

pp.1253-1257

 組織性状診断は,組織の構造・構成成分を知るために,超音波の物理的性質を利用するものであり,音速,減衰量,散乱(反射),非線形パラメータなどがよく検討されている.これらのうち,肝臓などでは脂肪肝などで非侵襲的な検討が行われ,肝内脂肪量など臨床的に有力な情報が得られている.今後,現在の超音波断層像で診断できない方面への発展が期待される.〔臨床検査38:1253-1257,1994〕

体表領域

甲状腺腫瘍の診断

横沢 保 , 森田 新二

pp.1258-1261

 超音波検査用の機種や探触子の選び方,患者の体位,良い甲状腺エコー図を得るためのコツ,われわれの病院で実際に用いられている記録用紙,甲状腺腫瘍の診断基準を述べた.さらに,甲状腺癌診断のポイント,特に甲状腺特有の悪性疑い結節への考え方を概説した.〔臨床検査38:1258-1261,1994〕

末梢血管病変の診断

石光 敏行

pp.1262-1266

 診断対象としての末梢血管病変には,血管の狭窄性病変と拡張性病変に加えて血管内血栓がある.狭窄性病変は主として動脈に生じ,成因の多くは動脈硬化性である.拡張性病変は動脈にも静脈にも生じ壁在血栓の好発部位となる.超音波法は形態的変化だけでなく血流異常も評価できるため,これら病変に対して第一に選択すべき検査手段である.近年,侵襲的手法であるが血管内超音波法が導入され,これにより動脈硬化の詳細な観察が可能になった.〔臨床検査38:1262-1266,1994〕

腹部消化器領域

腫瘍造影法

工藤 正俊

pp.1267-1272

 USアンギオグラフィは,超音波検査と血管造影を組み合わせた新しい手法であり腹部,特に肝・胆・膵領域の腫瘍の血行動態的診断の目的で施行される.特に肝腫瘍においては,正確な血管構築を描出するうえで本法はきわめて有用で,肝細胞癌,転移性肝癌,血管腫,FNH,腺腫様過形成の診断能が向上する.膵腫瘍では,膵癌と腫瘤形成性膵炎の鑑別や,膵島細胞腫の診断に有用である.胆道系の腫瘍では,胆嚢隆起性病変の血流の検出に有用で,良悪の鑑別の一助となりうる.〔臨床検査38:1267-1272,1994〕

管腔内超音波検査法―消化器領域における臨床的意義

古川 剛 , 内藤 靖夫 , 塚本 純久 , 丹羽 康正 , 早川 哲夫

pp.1273-1278

 消化器領域の管腔内超音波検査法は,消化管では内視鏡的粘膜切除術を施行するうえで重要な早期癌の深達度診断に,胆管癌では壁深達度,周囲脈管臓器(肝動脈,門脈),リンパ節転移などの進展度診断に,乳頭部ではOddi括約筋の描出が可能で,早期癌の診断を含めた進展度診断に有用である.また,膵癌と限局性膵炎および腫瘤形成性膵炎の鑑別診断,主膵管型粘液産生膵腫瘍の膵管内進展度診断と良悪性の鑑別診断(膵実質浸潤の診断),膵癌の門脈浸潤の有無の診断に有用である〔臨床検査38:1273-1278,1994〕

腹部カラードプラ法―最近の進歩

石田 秀明 , 紺野 啓 , 宇野 篤

pp.1279-1283

 最近急速に普及した腹部カラードプラ法の現状について述べる.検査の煩雑さを補う多くの利点に加え,今後発展すると思われる本法の新しい利用法―三次元表示,パワー表示,コントラスト法,についても触れる.〔臨床検査38:1279-1283,1994〕

膵腫瘍の診断

木本 英三

pp.1284-1287

 膵腫瘍の超音波診断では,腫瘤を明瞭に描出したうえで所見を詳細に読んでいくことが重要である.描出上注意を要するのは膵鉤部であり,pancreatic spar-ingについても知っておく必要がある.膵癌,膵島細胞腫などの特徴や,鑑別診断上の限界についても述べた.鑑別診断には,分解能の高い像の得られる超音波内視鏡の有用性が高い.〔臨床検査38:1284-1287,1994〕

泌尿器領域

尿管病変の診断

棚橋 善克 , 坂井 清英 , 田岡 佳憲

pp.1289-1293

 尿管内エコー法は,ごく細い超音波プローブを直接尿管内に挿入して,近距離から高周波の超音波で腎盂や尿管の断面像を描出する方法である.この方法は手技も容易で,これまで既存のあらゆる画像診断法を用いても描出不可能であった腎盂,尿管の壁の構造・病態を,ほとんど非侵襲的に映像化することができる.〔臨床検査38:1289-1293,1994〕

睾丸腫瘍診断におけるドプラ法―エナジー表示の役割

中村 昌平

pp.1294-1297

 従来,カラードプラ法は,主として循環器などで血流の観察に使用されてきた.ドプラ法の応用範囲を広げる試みとして,癌診断がある.今回特に睾丸腫瘍での,ドプラ法のエナジー表示法の応用に的を絞って述べた.通常のドプラ法が血流の方向,速度を示すのに対し,エナジー表示法では,エネルギー量そのものに対応した色表示がなされる.そのため,雑音が少なく安定した描出が可能で,補助診断法としての有用性が確認された.〔臨床検査 38:1294-1297,1994〕

産婦人科領域

胎児の出生前診断

原 量宏

pp.1298-1301

 すべての妊婦にとって最も関心の高い問題が,胎児の奇形の有無に関することである.香川医大の分娩統計においても,妊娠12週以降においてなんらかの先天異常が3.4%の頻度で認められており,出生前に胎児に異常がないことを確認し,妊婦の不安を軽減しておくことは意義のあることである.不幸にして異常が発見された場合においても,水頭症や消化管の異常などに関しては,出生後早期の手術により大幅に予後が改善されている.また,最近は子宮内においても胎内手術の試みが報告されており,先天異常の早期発見と正確な診断は臨床的にも重要と思われる.〔臨床検査38:1298-1301,1994〕

卵巣腫瘍の診断

秦 幸吉 , 秦 利之 , 北尾 学

pp.1303-1309

 超音波診断法による卵巣腫瘍診断は興味ある領域の1つである.現在に至るまで,卵巣腫瘍の超音波診断に関するさまざまな報告が認められている.本稿ではその現状について解説する.われわれ婦人科臨床に携わっている者は,それらの情報を素直に理解し,個々の認識能力を向上させ,超音波診断法による卵巣腫瘍診断が今後,よりいっそう完成されたものになるよう努めるべきである.〔臨床検査38:1303-1309,1994〕

話題

高速度超音波差分断層法(high-speed DSE)の臨床的意義

石原 謙 , 桝田 晃司 , 長倉 俊明 , 近藤 寛也 , 田内 潤

pp.1310-1313

1.はじめに

 従来のBモード超音波断層法では,通常の扇形走査において毎秒30画面すなわち時間分解能33msの観察に制限され,さらに空間分解能ひいては変位分解能も実際上超音波波長の数倍の約1~3mm程度であり,高精度な変位計測は困難であった.

 そこで,新しい画像診断法として10ms以下の高い時間分解能と,使用超音波波長よりはるかに短い0.05mm (50μm)以下の高精度な変位分解能を兼ね備えた,高速度超音波差分断層浸(high-speed digital subtraction echography;high-speed DSE)を開発1~5)した.その概要とその医学的有用性6~10)のいくつかを述べる.

AQ(自動定量計測)法の現状

冨本 茂裕 , 上松 正朗 , 宮武 邦夫

pp.1315-1317

1.AQとは

 最近,血液と心臓構造物との音響学的特性の差を認識し,両者間の境界を自動的にトレース,心腔断面積をリアルタイムに算出するシステムが開発された(acoustic quantification;AQ).このシステムを用いると,心内腔断面積やそれに基づいて計算される断面積変化率などが精度よく求められることが報告されている1,2).さらに,本システムには2種類の容量測定プログラム(modified-Simpson法,area-length法)が内蔵されており,瞬時瞬時の心室容積を求めることが可能となっている.この装置を使用することにより,従来は用手的にトレースしなければならなかった心内膜境界がリアルタイムにオンラインで認識され,容積計算やその他の心機能指標を算出する際に有用と考えられる.

泌尿器領域のコントラスト法

石橋 忠司

pp.1318-1319

1.はじめに

 1968年Gramiakが末梢静脈からの超音波造影を示唆して以来,心大血管系の超音波造影を中心に熱心な研究がなされてきたが,CT,MRIをはじめとする放射線医学の造影検査の占める重要性と比較して,超音波検査での造影法の開発,意義はいまだに十分とはいえない.これは,ヨード造影剤などとは異なり,安定した薬剤として経静脈的に投与できないからである.多くの超音波造影剤では肺の毛細血管を通過できず,左心系やその末梢の臓器の造影ができないのである.現在開発治験中の超音波造影剤(galactose/fatty acidentrapped microbubble=Levovist)もカラードプラ用であり,泌尿器科領域での充実性臓器の造影には不十分と考えられている.

 現在使用可能な方法は,肝臓で行われるようになった経カテーテル的に炭酸ガスのmicrobub-buleを用いて造影する方法1,2)である.われわれが1992年北米放射線学会(RSNA)でこの領域でいちはやく報告して以来,最近,腎臓,膀胱でも使用されるようになってきた.この超音波造影の方法と結果ならびに症例を提示する.

今月の表紙 臨床細菌検査

Eikenella corrodens

猪狩 淳

pp.1238-1239

 Eikenella corrodensはEikenella属に属する唯一の細菌である.微好気性のグラム陰性桿菌で,ヒトの口腔内や上気道粘膜に常在する.

 血液寒天培地やチョコレート寒天培地に発育するが,普通寒天培地やマッコンキー寒天培地には発育しない.炭酸ガス培養によりよく発育し,通常2.5~10%CO2の環境下で,35~37℃,48時間培養する.集落は小さく(直径0.5~1mm),辺縁扁平,中央凸あるいはドーム状の特徴ある形をし,培地の表面にめり込むように発育するもの(pitting colony, corrode)とそうでないもの(nonpitting colony)が同時に認められる.菌苔は薄い黄色調を呈することが多く,次亜塩素酸塩系の漂白剤に似た独得の臭気を放つ.

コーヒーブレイク

旅愁

屋形 稔

pp.1272

 今の若い世代は明治時代に作詞された"旅愁"という唱歌をご存じかどうか知らない.日露戦争の後の軍国への道を辿っていた頃,西洋のある曲に合わせて日本人により作詞され,大正,昭和にかけて愛唱されたものである.

 "更け行く秋の夜 旅の空の わびしき思いにひとりなやむ 恋しやふるさと なつかし父母夢にもたどるは 故郷(さと)の家路 更け行く秋の夜 旅の空の わびしき思いに ひとりなやむ"

r

𠮷野 二男

pp.1309

 相関係数は,統計学ではRの小文字"r"で略記することになっています.これはcorrelationの中のrからきたものと思います.そして言うときには"アール"と呼ぶことにし,共通して使われています.

 ところが,この文字がギリシャ語の"γ(ガンマー)"に似ていることから,"相関係数ガンマーは……"と言っている人がいます.ギリシャ語で発音したほうがカッコいいかも知れません.発表にもギリシャ文字を使ったりしていますが,いかがなものでしょうか.

学会だより 第10回国際エイズ会議/国際STD会議

地球規模でエイズに挑む

広瀬 崇興

pp.1288

 第10回国際エイズ会議/国際STD会議がアジアで初めてパシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)において,厚生省などの後援で塩川優一組織委員長のもと,1994年8月7~11日の5日間に開かれた.新聞,テレビなどのマスコミで連日報道されていたように,今回は性感染症(STD)の1つとしてのエイズの予防を推進するために,国際エイズ会議と国際STD会議を同時開催することになったと聞く.

 この会議は先進国と途上国も含め世界中の130か国から,研究者だけではなく,HIV感染者,エイズ患者(PWA),sex worker (売春婦),同性愛者の団体,患者支援団体,教育者,行政関係者など約1万1千人(日本人5,500名)にものぼる人たちが参加し,エイズ克服に向けて討議がなされた大会である.昨年のベルリンでの会議では患者団体のデモなどがあり,かなり混乱したようだが今回はほぼ平穏に終えた.

編集者への手紙

COBAS MIRAを用いたラテックス凝集法による血清ミオグロビンの測定における精度向上に関する―方策

山田 満廣

pp.1314

1.はじめに

 現在まで当施設では,急性心筋梗塞の臨床検査診断に利用される血清ミオグロビン(Mb)の測定を,ラテックス凝集法により自動分析装置COBAS MIRA(F. Hoffmann La Roche社)に適用し1)対処してきた.今回,分析装置をCOBAS MIRA Plusに変更することを目的として再現性試験の検討を行ったところ,比較的低値域において大きな"バラツキ"が認められ,まったく満足できるものではなかった.しかし,同機により測定しているアデノシンデアミナーゼ,遊離脂肪酸,CKMB,CH50などの他項目では良好な成績を示すことから,Mbに限定された何らかの原因があるものと考えられ,若干の検討を行った.

座談会PartⅠ・3

遺伝子検査

引地 一昌 , 高橋 正宜 , 村松 正實 , 河合 忠

pp.1321-1324

 河合 今回のテーマは,前回話されたような新しい技術を使って,遺伝子が関連する病気をどのように診断していくかということです.村松先生,その前にヒトのゲノム・マッピング・プロジェクトという,ヒトの遺伝子の構造をみんな解明しようというとてつもないプロジェクトが進んでいるそうですが,これをちょっとご説明いただけますか.

 村松 そろそろ10年ぐらいになると思いますけれども,アメリカを中心にヒトの遺伝子を全部決めよう,しかもDNAのシークエンスを配列のレベルで全部決めようという相談がされました.初めしばらくは,その可能性を検討していたのですが,ようやくいろいろな技術が進んできて,可能であろうということで数年前からアメリカでは,その予算づけが行われ,進んでいます.日本でも,それに呼応して少しずつ進みつつあるのが現状です.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・23

大リンパ球様細胞の出現するhairy cell leukemia

中原 一彦

pp.1325-1328

検査結果の判定

 図1に示す細胞は,類円形の核を有する,大型のリンパ球様の細胞である.特徴的なのは淡青色の広い胞体であり,よく見るとフレア様の大きなひだがあるように見える.この細胞は,わが国でみられる,hairy cell leukemia (HCL)の症例に認められるHCL細胞である.同じHCL細胞でも,欧米型のものは単球様であり様子を異にする.いずれにしろ,このような大リンパ球様の細胞が増えている症例をみたら,まずhairy cell leukemiaを疑うべきである.

トピックス

ミトコンドリア遺伝子異常とslowly progressive IDDMc

小林 哲郎

pp.1329-1330

 ミトコンドリアは細胞内器官のうちで呼吸鎖に関係する代謝(酸化的リン酸化によるATPの産生)の場としてきわめて重要な役割を果たしている.ミトコンドリア遺伝子は核の遺伝子と異なった固有の約16,000塩基から成る環状の二重鎖から成り立っており,ミトコンドリア酵素のうちチトクロームcオキシダーゼをはじめとする13種のサブユニット,また22個のtRNA,さらに2個のrRNAをコードしている.最近このミトコンドリア遺伝子の3,243番塩基の点変異(A→G)と糖尿病の発症が密接に関連していることが明らかになった1~3).その遺伝様式は,他のミトコンドリア遺伝子異常と同様に母系遺伝の様式をとる.

 いくつかの糖尿病の病型の中でも緩徐に進行するインスリン依存型糖尿病(slowly progressive IDDM)の症例に高頻度にこの変異を認めた(表1).一方,急性発症インスリン依存型糖尿病(IDDM),インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)での頻度は1~3%であった.

ヌクレオリン

椎名 義雄 , 大河戸 光章

pp.1330-1331

 核小体は,核質より密度が高い球状体として光学顕微鏡で容易に観察され,リボソーム合成の場である.正常ヒトrRNA遺伝子は第13,14,15,21,22番の5対の染色体短腕上にあり,これが核小体形成部位(nuclear organizer regions; NORs)と呼ばれるもので,有糸分裂の直後は10個の核小体を形成するが,それはすばやく融合し,間期細胞では1個の大型核小体となる.rRNA遺伝子はポリメラーゼⅠによって猛烈に転写され,rRNA前駆体はさらに細胞質で作られた蛋白と大きな複合体を形成し,プロセッシングを受け,リボソームが合成される.

ナノバイオロジー:生体機構を直接目で見る技術

加畑 博幸 , 嶋本 伸雄

pp.1332-1333

1.はじめに

 蛋白質は,核酸やほかの蛋白質に対してどのように作用しているのだろうか.

 近年,蛋白質分子がDNAや別の蛋白質と結合したあと,DNA上を移動したり,結合した相手の構造を変形させたりするなどのダイナミックな相互作用が想定されている1)

超遠心分析:そのリバイバル

高木 俊夫

pp.1334

 "超遠心機"という用語は最高回転数が数万回転/分程度まで可能で,温度と回転数の制御を精度良く行うことができる遠心機を指すと一般に考えられるようになっている.超遠心機は分離のための装置であって,上澄みと沈殿を分離するような初歩的な使用に始まって,密度勾配沈降法のような分離能の優れた方式に至るまでさまざまな様式で愛用されている.しかし,"超"がつく遠心機は強力な遠心場における蛋白質の沈降の様子を観察することを目的として開発されたものであって,主要な推進者の一人であったSvedbergは,沈降係数の単位,S(=10-3秒)に彼の頭文字をとどめている.したがって,40年ほど前までは超遠心機と言えば分析用専用の装置であり,分析用装置を折に触れて分離用に使用することも行われていた.その後,生化学・分子生物学における需要に応えて分離用の超遠心機は質と量の両面で長足の進歩を遂げてきた.他方,分析用超遠心機は,初期の主要目的であった蛋白質の分子量の決定が,ほかの簡便な方法で行えるようになったために衰退の道をたどってきた.

 振り返ると,"物質の沈降の観察"は金をはじめとする鉱物を求めて山野を跋渉した山師たちが,水に懸濁した山土や川砂の挙動を見守って以来の長い歴史を持つ測定法であって,科学のいろいろな局面で他の方法では代え難い貴重な寄与を行ってきた.

資料

コロジオンバッグを用いたセルブロック作製法

坂東 美奈子 , 広川 満良

pp.1335-1338

 コロジオンバッグを用いたセルブロック法と一般的な他のセルブロック法とを比較した.この方法は簡便で,作製時間が短く,細胞成分が少ない検体やすでに固定している液状検体にも応用でき,溶血操作を必要としないなどの優れた点が多く,今後の利用が期待される.

Helicobacter pylori検出のためのWarthin-Starry HE染色の意義

山口 昌江 , 広川 満良 , 清水 道生 , 真鍋 俊明 , 黒川 幸徳

pp.1339-1342

 Helicobacter pylori (H.pylori)の組織学的な検出法として推奨されているWarthin-Starry HE(WS-HE)染色の有用性を検討した.胃生検材料においてWS-HE染色を行い,胃粘膜上皮表面に陽性桿菌が確認された58例中35例に抗H.pylori抗体に陽性の桿菌がみられた.一方,抗H.pylori抗体を用いた免疫組織化学染色でH.pyloriを確認した37例中35例にWS-HE染色陽性桿菌がみられた.既知の細菌(18種類),真菌(8種類),原虫(1種類)にWS―HE染色を施すとMucorを除くすべてが陽性であった.このことから,WS-HE染色は非特異的な染色法であり,胃生検材料で組織学的にH.pyloriの検討を行う際は,WS-HE染色をスクリーニングとして用い,さらに同定するためには抗H.pylori抗体を用いた免疫組織化学染色を行うべきと思われる.

トータルラボラトリーオートメーションに対応する血糖・フルクトサミン自動分析装置の開発

仲 道男 , 広瀬 和典 , 森田 寛二 , 東畠 正満 , 中 恵一 , 下條 信雄 , 巽 典之

pp.1343-1347

 本装置は検体搬送ベルトラインとホストコンピュータによる検査データの一括管理システムに接続可能な全自動血糖・フルクトサミン測定装置として開発した.

 開発の主目的は検査室の効率化を図ることにあり,基本機能のランダム2項目測定,120テスト/時の処理能力に加え,付加機能としてラックID機能や自動洗浄機能などを持たせた.

質疑応答 臨床化学

リバース・ビウレット法

松下 誠 , M生

pp.1348-1349

 Q 蛋白質の測定法として,リバース・ビウレット法が最近報告されましたが,この方法の測定原理と高感度の理由を教えてください.

質疑応答 病理

乳腺の筋上皮細胞

藤井 雅彦 , A生

pp.1350-1351

 Q 乳腺の検体に出現する筋上皮細胞の特徴的所見と,診断上の意義についてお教えください.この細胞は良性であることの絶対的な指標となるものでしょうか.

白血球表面抗原のCD分類と悪性リンパ腫

元井 信 , S子

pp.1352-1355

 Q 悪性リンパ腫のサブセットの分類に用いられているCD分類の意義,およびOKT,Leuとの関係をお教えください.

質疑応答 一般検査

尿中の白血球

伊藤 機一 , 木庭 敏和 , 野崎 司 , 成田 浩喜

pp.1355-1358

 Q 尿中に出現する白血球の種類と病気の関係についてご教示ください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら