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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査39巻12号

1995年11月発行

雑誌目次

今月の主題 腫瘍マーカー―最近の進歩

巻頭言

腫瘍マーカー―最近の話題

大倉 久直

pp.1235-1236

 癌の診断と治療の目印になる特異物質という意味での最初の腫瘍マーカーである,ベーンス・ジョーンズ蛋白が発見されてから130余年,今では腫瘍マーカーは癌の臨床に不可欠の検査である.中でもアルファ胎児蛋白(AFP)と,癌胎児性蛋白抗原(CEA)の2つは,世界中で広く利用されており,腫瘍マーカーの概念が成立するうえで決定的な役割を果たした.筆者は腫瘍マーカーを"癌細胞,または癌に反応した非癌細胞が作る物質で,それを体液,組織,排泄物中に検出することが,癌の存在,種類および量を知る目印となるもの"と定義してきたが,後にモノクローナル抗体の導入によって登場した糖鎖抗原やムチン抗原などの新しいマーカーも,すべてこの腫瘍マーカーの概念に含まれる.

 今日では多くの腫瘍マーカーに多種類の血清診断薬と自動測定機器が開発され,日常の臨床検査としてハイリスク患者の追跡,癌診断の補助,潜在性転移の推定,進行癌の治療モニター,予後と再発の予測などの日常診療に用いられているが,これらマーカーについては本誌をはじめ多くの専門誌に取り上げられている.

有望な新マーカー

シフラ

北村 諭

pp.1237-1242

 従来の肺癌腫瘍マーカーは,喫煙,肺の炎症などによる影響が大きいため,肺癌のスクリーニングとして十分満足できるものではない.血清中のサイトケラチン19フラグメントを測定するシフラ(CYFRA21-1)は,喫煙の影響もみられず,偽陽性率も低い.カットオフ値3.5ng/mlを用いると,肺癌全体でも85%の特異度を示し,診断的感度も57.5%であった.扁平上皮癌では73.1%の検出感度が得られ,非小細胞癌,特に扁平上皮癌の有用なマーカーと言える.〔臨床検査 39:1237-1242,1995〕

ProGRP

山口 建

pp.1244-1252

 肺小細胞癌の腫瘍マーカーProGRPは,従来の腫瘍マーカーとは異なるコンセプトに基づいて国立がんセンターを中心に開発されたものである.すなわち,肺小細胞癌細胞の細胞生物学的特性に基づき,その癌に特異性が高く,かつ血液中に積極的に放出される物質としてgastrin-releasing peptide (GRP,ガストリン放出ペプチド)を選択し,さらに,健常者との差異を増幅する目的で,GRP遺伝子産物の中で血液中で安定なGRP前駆体(ProGRP)のフラグメントであるProGRP (31-98)に着目し,これを遺伝子組み替え技術で合成し,測定系の開発に用いた.この結果,Pro-GRPは,正常値と異常値の差異が大きい点で信頼性が高く,肺小細胞癌の確定診断にも役立つほどきわめて特異性が高く,また比較的早期の病態でも陽性となるという特徴を有する新しい世代の腫瘍マーカーとして肺小細胞癌の臨床に役立とうとしている.〔臨床検査 39:1244-1252,1995〕

c-erb B-2

大倉 久直 , 菅野 康吉

pp.1253-1258

 プロトオンコジンc-erb B-2はEGF受容体に類似の蛋白をコードしており,その過剰発現は乳癌手術症例で予後不良を示す因子の1つとされている.

 最近,本遺伝子産物を血清,乳頭分泌液,ならびにER検査用のサイトゾル中に検出する検査法が開発された.本遺伝子産物の検出は,予後不良乳癌の新しいマーカーとして臨床的意義が認められ,今後日常診療にも利用されるだろう.〔臨床検査 39:1253-1258,1995〕

新しいAFPレクチン試薬

武田 和久

pp.1259-1266

 レンズマメレクチンおよび赤血球凝集性インゲンマメレクチンを用いた親和電気泳動と抗体親和転写によるヒトα―フェトプロテインの分画検出キットで得られる肝細胞癌を中心とした悪性腫瘍の診断特性について解説するとともに,関連のある高感度検出法や他のレクチン試薬にも言及した.本法によって見いだされる糖鎖偏倚は肝細胞癌の診断のみならず,予知マーカーとしても有用なことについて述べた.〔臨床検査39:1259-1266,1995〕

体液・分泌液の腫瘍マーカー

乳頭分泌液中CEA

稲治 英生 , 小山 博記 , 野口 眞三郎 , 元村 和由 , 土井 啓

pp.1267-1271

 乳頭分泌液中の癌胎児性抗原(CEA)測定法は体液中腫瘍マーカー測定による早期癌診断の数少ない成功例の1つであり,その普及には簡易キットの開発が大きく寄与した.本法による非触知乳癌(T0乳癌)の診断能は感度,特異性ともに70~80%と良好である.ただし,本法が威力を発揮するのは乳管内乳頭腫との鑑別においてであり,nonsurgically significant dis-charge (膿性,乳汁様,粘性)では偽陽性率が高い.また,分泌液中の測定マーカーとしてErbB-2を併用することによりさらに多くの情報が得られるようになった.本法により発見されるT0乳癌は乳癌のごく一部にすぎないが,腫瘍マーカー測定と早期癌診断という大きな隔たりを縮めたことにその真の意義がある.〔臨床検査 39:1267-1271,1995〕

婦人科の腫瘍マーカー

高松 潔 , 久布白 兼行 , 青木 大輔 , 塚崎 克己 , 宇田川 康博 , 野澤 志朗

pp.1273-1280

 婦人科領域は他科領域と比しても腫瘍マーカーが有用であり,頻用されているが,近年の科学技術の進歩により,当領域にも新たなマーカーが登場してきている.特に血清以外の尿や細胞自体を検体としたマーカーや酵素,遺伝子産物や遺伝子そのものを利用したマーカーなど従来みられなかった新しいタイプのマーカーが開発されている.

 また,既存のマーカーについても,カットオフ値や測定キットを再検討したり,生体内での生理活性や役割といった細胞生物学的側面から腫瘍マーカーを理解することにより,より有効にマーカーを利用しようという研究が進んでいる.〔臨床検査 39:1273-1280,1995〕

尿中BFP

石井 勝 , 清野 祐子 , 田利 清信

pp.1281-1286

 尿中BFPは膀胱癌に有用な腫瘍マーカーで,膀胱癌の陽性率は60~70%である.しかも,早期膀胱癌は60~70%台の陽性率で,尿細胞診に比しきわめて有用である.他方,良性泌尿器疾患の偽陽性率は15%前後で,とりわけ膀胱炎の偽陽性率が60~80%と高い短所がみられた.さらに,尿中BFPは膀胱癌の病状経過,特に治療効果判定にも役だつ.BFP抗体感作ラテックス凝集による尿BFP簡易測定法は膀胱癌のスクリーニングに役だつと思われる.〔臨床検査 39:1281-1286,1995〕

十二指腸液中Ki-ras点変異

井口 東郎 , 菅野 康吉 , 大倉 久直 , 若杉 英之

pp.1287-1292

 分子生物学的手法の発達に伴い体腔液中に含まれるわずかな癌細胞における遺伝子異常の検出が可能となった.膵癌では90%以上にKi-ras癌遺伝子コドン12の点突然変異がみられ,これを標的とした膵癌診断の試みがなされているが,本稿では十二指腸液中Ki-ras変異の解析結果を紹介し,新しい膵癌診断法としての臨床応用の可能性について概説する.〔臨床検査 39:1287-1292,1995〕

癌検診と腫瘍マーカー

ペプシノゲンによる胃癌検診

三木 一正

pp.1293-1297

 検診の効果を上げるにはハイリスク群を設定し,これに対して重点的に実施すればよい.胃粘膜萎縮が胃癌の先行病変であり,胃癌死亡率は胃炎率(萎縮率)と高い相関を認める.5千人規模の職域で,1991~1994年度の4年間,延べ約2万人で,従来の間接X線による一次スクリーニング法に替えて血清ペプシノゲン値による一次スクリーニング・隔年内視鏡二次精検法(血液による胃の健診;胃ドック)を行い,34人(0.17%)の胃癌を発見した.胃ドックの可及的速やかな普及を提言したい.〔臨床検査 39:1293-1297,1995〕

PA(PSA)による検診

秋元 晋 , 市川 智彦 , 島崎 淳

pp.1299-1302

 積極的に検診をすることにより,早期の前立腺癌が検出できる.従来の検査(直腸内触診の癌疑い所見により生検を行った〉により発見された病院受診症例のものでは,約6割が臨床的または病理的に進行癌であった.アメリカにおいて行われたPSAを基本とした検診により発見されたものの1/3のみが進行癌であり,前立腺限局癌の検出率が2倍となった.

 PSA,直腸内触診,経直腸的超音波断層法のなかで,PSAはもっとも正確な検査であり,実際,PSAのpositive predictive valueは乳癌のそれよりも高率であった.〔臨床検査 39:1299-1302,1995〕

癌予防とマーカー

西野 輔翼

pp.1303-1306

癌予防の方法を効率良く開発するためには,介入試験を行うのに適した癌のハイリスクグループを選び出すためのバイオマーカーおよび予防効果を短期間のうちに予測判定するためのバイオマーカーが必要である.このような目的に適合していると考えられているマーカーについて概観するとともに,新しいマーカーとしての開発中のものを紹介する.〔臨床検査 39:1303-1306,1995〕

話題

ルイスA群糖鎖マーカーの類似性

川 茂幸

pp.1307-1308

1.はじめに

 ルイスA群糖鎖マーカーには膵癌診断に広く臨床応用されているCA19-9,KMO-1,CA5O,Span-1,Dupan-2が含まれる.これらは,それぞれの抗体のsialyl Lewisa, sialyl Lewisc糖鎖に対する反応性により整理することが可能と考えられる.

腫瘍マーカーの自己抗体

辻崎 正幸 , 舛谷 治郎 , 今井 浩三

pp.1309-1312

1.はじめに

 イディオタイプネットワークの概念はHIVなどウイルス感染症のワクチンや自己免疫疾患・レセプター病の病因解析に導入され成果を得ている.筆者らは,抗イディオタイプ(Id)モノクローナル抗体(MoAb)をCEA,メラノーマ抗原など腫瘍関連抗原系において確立し,癌の診断・治療への応用の可能性について基礎的研究を行ってきた1,2).本稿では消化器癌を中心とした患者における腫瘍マーカーCEAに対する自己抗体測定系の確立について述べる.

座談会

腫瘍マーカーの効率的利用を考える

大倉 久直 , 北村 聖 , 河合 忠

pp.1313-1323

 河合(司会)本日は"腫瘍マーカーの効率的利用を考える"というテーマで,大倉先生,北村先生にご出席いただき,話を進めていきたいと思います.

 腫瘍マーカーの検査は日常広く使われています.私どもの病院は大体1日あたり980床,外来1,500~1,600名の総合病院ですが1か月に3,500件ぐらいの腫瘍マーカーの検査が行われています.現在,保険診療点数表に載っている項目だけでも30種類を超えています.腫瘍マーカーの検査は癌の補助診断に広く使われていますが,これを適切に使うには相当な専門的知識と,いろいろな腫瘍マーカーの特殊性を理解しておく必要があると思います.そこで,本日は腫瘍マーカーをいかに効率的に使うかについて学問的な面と経済的な面から論じてみたいと思います.

今月の表紙 臨床細菌検査

Prevotella melaninogenica

猪狩 淳

pp.1230-1231

 無芽胞偏性嫌気性グラム陰性桿菌で,種名のmelaninogenicaの示すごとく血液を含む培地上で集落が黒色を呈するのが特徴である.

 臨床的に重要な無芽胞嫌気性菌は,バクテロイデス・フラギリス群,色素産生バクテロイデス群(pigmenting Bacteroides group),フソバクテリウム属である.

コーヒーブレイク

危険がいっぱい

屋形 稔

pp.1252

 本誌5月号に身近かな事件簿と題して昨年の松本サリン事件など恐ろしい出来事に触れたが,本年に入って身近かさはさらに深刻化した.東京の地下鉄で痛ましいサリン禍が発生し,いまや日本中を震憾させたオウム真理教関連事件として取り上げられている.その近くにある芸術座に「蔵」を観に行ったのはその前日なので,一泊した翌朝仕事先に自宅から安否を尋ねる電話が来てびっくりした.

 その少し前の関西大震災のときも前夜和歌山から阪神地区を経て東京に着き,一夜明けてホテルの朝のテレビで惨状を知り,前日のあの辺の風景を思い出し愕然とした,また5月の連休終り頃,イタリアの旅を終えて成田に帰着し,乗り換えのJRのホームやトイレに屑籠1つなく整然としているのに呆れかつ感心したが,直行で新潟へ帰った翌日には新宿の地下トイレで青酸ガス発生の事件が報じられ,つくづく剣呑極まる世相を実感した.

海外レポート

トルコ共和国―臨床検査センターと医療の現状(2)

廣田 正毅

pp.1325-1327

 前号(第39巻10号)では,トルコにおける患者層や医療機関など,医療の現状を総論的に説明した.今号では,同国の臨床検査について詳しく説明する.

学会だより 第6回小児検査医学会議

風と海か素敵な大学町で

戸谷 誠之

pp.1328-1329

 第1回国際小児検査医学会議総会は1995年7月21日から24日までカナダのバンクーバーで開催された.今回も同学会組織委員会の国際交流委員として参加したので,その概要を報告する.この学会は,すでに本誌でも述べたように3年に一度,IFCC主催の総会が開催される前年に開かれ,本年で第6回を迎えた学会である.ではなぜ第1回かというと,その理由は後に詳述しよう.

 今回の学術集会では主催国のカナダでは2回目で前回の東のトロントで,今回は西海岸での開催となった.参加者は主催国をはじめ米国,英国,オーストラリア,フランス,ドイツ,中国,メキシコ,日本など13か国から約250名が出席した.ちなみに,わが国からの出席者は演者として招待された大阪大学微研教授山西弘一博士に加えて,国立岡山病院小児医療センター山内芳忠博士,国立健康・栄養研究所廣田晃一博士,(株)シノテスト野口保彦氏と筆者の5名であった.

学会だより 遺伝子診療研究会第2回学術集会

遺伝子技術の実施,診療への活用をめざして

須藤 加代子

pp.1330

 北海道大学においてわが国で最初の遺伝子治療(ADA欠損症)が始められたばかりの1995年8月9日から3日間,国立京都国際会館において遺伝子診療研究会第2回学術集会が,森徹(京都大学医学部臨床検査医学教授)会長の下に開催された.遺伝子診療研究会は河合忠,森徹両教授を代表世話人として1994年4月に発足,設立され同年12月10日ニッショウホール(東京)において河合忠(自治医科大学臨床病理学教授)会長の下に第1回学術集会が開催された.本研究会は,遺伝子研究の最先端の報告を主として取り扱うのではなく,遺伝子関連技術の実施診療への応用について発表討議し,さまざまな現実的な問題点を議論し,将来のあるべき姿を見極めていくことを意図している.

 第2回学術集会においては,特別講演3題,シンポジウム7セッション,一般演題63題ともりだくさんの内容が4つの会場で行われた.

学会だより 第38回日本糖尿病学会総会

糖尿病研究の進歩着実に

戸辺 一之

pp.1346-1347

 第38回日本糖尿病学会総会は,1995年5月24日(水)~26日(金)まで,金澤康徳会長(自治医科大学大宮医療センター所長)のもと,大宮ソニックシティーで開催された.以下いくつか印象に残った発表について記したい.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・35

糖尿病患者に伴った上顎洞ムコール症

岩 信造 , 片山 善章

pp.1331-1333

検査結果の判定

 図1は患者の入院時に悪臭を伴った鼻腔の黒色の痂皮から綿棒で擦過し,グラム染色を行ったものである.多数の細菌を背景に一直線上に延びた菌糸から直角に分枝した菌糸を認める.また,図2は同時にパパニコロウ染色を行ったものである.壊死背景の中に多数の多核白血球および細菌が出現し,核線も見られる.その中にリボン状で,菌糸の幅は5μmから15μmまであり,菲薄で,オレンジGあるいはエオジンの色素に染まる部分とこれらの色素に染まらない部分も見られる.また,幅の広い無隔性の菌糸に対し,直角状の分枝が認められる.

 入院時の真菌培義の検査では白色でクモの巣状の外観を呈するコロニーを認め,コットン青染色を行うと幅広い無隔性の菌糸に仮根が認められた.その部位から単枝状の胞子嚢子板が伸び,先端に球形で柱軸を持つ胞子裏の形成がみられ,Mucor Rhizopusを分離同定し得た(図3).

トピックス

肺胞微石症

立花 暉夫

pp.1335-1336

 多くの呼吸器疾患の中で,自他覚症状に乏しく,検血,検尿,肝腎機能,電解質他の生化学検査,呼吸機能などの日常の検査成績が正常範囲であることが多いにもかかわらず,全身性に,または,肺に局在性に,潜在性病変を有する原因不明の疾患がある.その代表的な疾患として,前者はサルコイドーシス,後者は肺胞微石症がある.著者は,30年以上ライフワークとして,両疾患の研究を継続してきたが,今回は後者について述べる.

 肺胞微石症は他の呼吸器疾患に見られないいくつかのユニークな特徴がある.

骨形成因子

吉川 秀樹

pp.1336-1337

 1965年,Urist1)により,脱灰骨基質中に発見された骨形成因子(bone morphogenetic pro-tein:BMP)は,in vivoで未分化間葉系細胞を軟骨細胞や骨芽細胞に分化させ,筋肉内に異所性骨形成を誘導する活性物質である.以後,骨基質や骨肉腫からその抽出精製が試みられた.1988年,WozneyらによりBMP-1-4の遺伝子が,次いでBMP-5-8の遺伝子がクローニングされ,BMP-2-8はTGF-βスーパーファミリーに属することが示された2).BMP-2-8は,システインの数(7個)および位置がともに保存されたTGF-βスーパーファミリーに属する分子である(図1).BMP-2の成熟型は,アミノ酸114個の断片がS-S結合ににより二量体となっており,分子量は約30kDaである.BMP-2とBMP-4はもっともアミノ酸相同性が高く(約90%),BMP-5-8は60~70%の相同性を持つサブグループを形成している.BMP-1は,N末端側にプロテアーゼ様ドメインをC末端側にEGF様ドメインを有するBMP-2-8とはまったく異なる分子である2).BMP-2/4のレセプターとしては,現在まで,膜1回貫通型のセリン/スレオニンキナーゼドメインを有する数種の分子(daf-4,CFK-43a,TFR11,ALK-3,6)が単離され,そのシグナル伝達などの解析がなされつつある3)

LAPS法

民谷 栄一

pp.1338-1340

 シリコン微小集積化技術を利用して作製されたLAPS (light addressabie potentiometric sensor)デバイスを用いて細胞のレセプター機能やシグナル分子に対する細胞応答が測定されている.これは,筆者らが長年研究を行っているバイオセンサーの原理に基づくものである1).このデバイスは,シリコン基板上に30nmの酸化シリコン層を熱酸化によって形成後,100nmの窒化シリコン層を低圧CVD法により作製している.さらにプラズマ法によりエッチングを行い,細胞を固定できるマイクロウェルが多連に作製されている2)

 1つのマイクロウェルの大きさは,一例として50μm×25μmである.このLAPSデバイスを用いると,溶液との界面電位が光照射下で光電流として検知できる.特に溶液のpH変化を正確に測定できるという.またわずか100nlの培養液中に1,000個の細胞さえあれば測定できるという(図1).細胞から生成される乳酸やCO2によって培養液のpHが変化するのをリアルタイムに測定できれば間接的に細胞の代謝活性を評価できる(図2)3).培養液の細胞への移送のオン・オフを繰り返して行い,オフ時のpH変化速度をLAPSデバイスにより測定しこれを細胞活性の指標にしている.このシステムにより栄養基質のみならず代謝阻害を与える各種細胞灘物質の測定に適用できる.

質疑&応答 臨床化学

ニーマンピック病タイプC型の病因と診断

衛藤 義勝 , N生

pp.1341-1342

 Q ニーマンピック病C型について,病因と診断をわかりやすくご解説ください.

質疑&応答 微生物

Haemophilus属が血液寒天培地に発育困難である理由

小栗 豊子 , Q生

pp.1343-1345

 Q Haemopphilus属にはⅩ因子とⅤ因子(易熱性)が必要ですが,血液寒天に含まれている血液の動物種(ウマ,ヒツジなど)によって菌が発育したりしなかったりするのはなぜですか.また,チョコレート寒天でV因子は変性しないのですか.

研究

HTLV-I関連疾患における血清中の可溶性L-セレクチン濃度に関する研究

吉木 景子 , 中満 三容子 , 福吉 葉子 , 西村 要子 , 山口 一成 , 高月 清 , 渡邊 俊樹

pp.1349-1351

 接着分子の1つであるL-セレクチンは血清中に可溶性L-セレクチン(sL-セレクチン)として存在する.sL-セレクチンを種々のHTLV-I関連疾患で測定した.急性型,慢性型ATLで有意に高値を示し,その他のHTLV-I関連疾患でも健常人に比べ高値を示した.ATL症例では血清可溶性IL-2レセプターと良い相関を示した.sL-セレクチンがHTLV-I関連疾患のマーカーとして有用であることが示唆された.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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