icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査39巻2号

1995年02月発行

雑誌目次

今月の主題 平衛機能検査

総説

平衡神経科学とは

坂田 英治

pp.137-141

 平衡神経科学は前庭平衡系の病態生理に関する研究・臨床を主な分野としており,神経内科学,神経眼科学と対比し,かつならび称せられている,平衡神経科学はつまり,聴覚・前庭平衡系の神経学であり,在来の神経学と耳科学の境界にある."運動に関した脳幹・小脳の神経学"であり"後頭蓋窩の神経学"とも言われる学際的な学問である.その主として扱う患者は習慣的にめまい・平衡障害,耳鳴や難聴を主訴とする.〔臨床検査39:137-141,1995〕

平衡神経系の解剖と生理

古屋 信彦

pp.142-146

 平衡覚は姿勢保持,注視などに深くかかわっているため,日常的にはまったく意識されていないが,ひとたびMenière病などによって平衡覚が攪乱されると,患者さんは異口同音に激しい不安感に襲われると言う.これらは前庭脊髄反射,前庭動眼反射の異常であり,そしてその生理機構がかなり解明されている.また他の感覚と平衡覚は小脳で統合され円滑な運動が可能となっている.本稿ではこれらの働きについて述べる.〔臨床検査39:142-146,1995〕

平衡機能検査の進め方

吉本 裕

pp.147-151

 めまい検査の主体をなすのが前庭眼運動系または前庭脊髄系の異常をつかまえる平衡機能検査である.平衡機能検査は原則的に以下の順序で進められる,①簡単な検査→特殊な機械を用いる検査,②四肢・身体平衡機能検査→眼運動平衡機能検査,③刺激のより弱い検査→より強い検査(後に行うテストに影響を及ぼさないため),④(同種の検査でも)定性的検査→定量的検査.〔臨床検査39:147-151,1995〕

技術解説

体平衡の検査

時田 喬

pp.153-159

 体平衡機能検査は,立ち直り反射などの直立制御機構,静的・動的な姿勢反射を観察し,平衡障害の程度の把握,病巣・病態診断を行うもので,平衡機能検査の基本である.従来,直立検査,書字検査,足踏検査,歩行検査が行われてきたが,近時,重心動揺検査が導入され身体動揺を記録・分析し結果を客観的,定量的に評価できるようになった.〔臨床検査39:153-159,1995〕

眼振の記録,ENGの検査

大都 京子 , 遠藤 まゆみ , 工藤 弘恵

pp.161-170

 めまい・平衡障害の検査法には種々あるが,今回筆者らは眼振計(ENG)を用いた検査法の実際を技術者の立場から述べた.

 個々の検査の目的を考え,波形の増幅や紙送り速度を変化させ目的にかなった記録をとることが肝要である.また,異常な眼球運動が出現した際には,必ず眼の観察を忘れないなど日常心がけている事項をもとに,検査上のポイントを述べた.さらに,良い記録をとるために知っておきたい異常な波形などを図示した.〔臨床検査39:161-170,1995〕

異常自発眼運動の検査

徳増 厚二

pp.171-176

 異常白発眼球運動は,まれにみられる主として小脳・脳幹,大脳基底核を中心とする.中枢神経系の異常による自発性の病的な眼球運動の総称で,単に異常眼球運動ともいう.代表的な異常自発眼球運動を,急速眼球運動(saccade),振子様眼球運動,epilepsyの眼球運動,意識障害時の眼球運動,眼位の異常,単眼眼球運動に分類して述べ,それらの特徴を表にまとめた,その診断的意義,発現についての考えを一部述べ,検査上の注意点をまとめた.〔臨床検査39:171-176,1995〕

頭振り刺激検査

亀井 民雄

pp.177-180

 頭振り眼振は潜在性前庭性不均衡を反映して頭振りによって誘発される眼振であり,暗所Frenzel眼鏡下に認められる限りすべて病的とみてよい.主として水平方向に誘発され単相性と2相性があり,障害の患側や病期の診断に役だつ.水平方向の頭振りで垂直向に誘発される場合は中枢障害が疑われる.発現機序に関し,近年,眼速度蓄積仮説によって説明されることが多い.〔臨床検査39:177-180,1995〕

視運動性眼振の検査

高橋 正紘

pp.181-183

 視運動性眼振は周囲景色の移動で起こる反射性眼球運動であり,小さな移動視標を固視するための追従眼球運動とは異なる機構である.通常,ドラム回転あるいはスクリーンへの投影により,左右方向で最大速度120°/s,毎秒4°/sの加速減速刺激が用いられる.紙送り速度1mm/sで記録し,パターンとして評価する(OKPテスト).反射の解責任部位から,小脳,脳幹障害のスクリーニング検査として有用である.〔臨床検査39:181-183,1995〕

視運動性後眼振の検査

伊藤 彰紀 , 坂田 英治

pp.184-187

 視運動性後眼振(OKAN)は文字どおり視運動性刺激を取り去った後に出現する後眼振である.従来からヒトではOKANは出現しにくいと言われているが,適正な条件下に検査を行えばヒトでも十分に誘発することができ,平衡機能検査の1つとして用いることができる.その臨床診断的意義についての解釈は慎重でなければならないが,眼振の微細な左右差の検出,病巣局在の補助診断,前庭代償の評価などに有用と考えられる.〔臨床検査39:184-187,1995〕

回転刺激検査

矢野 裕之 , 肥塚 泉 , 久保 武

pp.188-189

 めまい・平衡障害を主訴とする患者に診断を行う上で,平衡機能検査は重要な役割を果たす.回転検査は前庭―自律反射などの不快な反応を被検者に起こすことなく被検者の平衡機能を評価することが可能である.回転検査で主に用いられている定速同転刺激と振子様回転刺激について概説を加えた.〔臨床検査39:188-189,1995〕

温度刺激検査

藤田 信哉 , 松永 喬

pp.190-192

 温度眼振の検査は,主として外側半規管の機能を見る検査である.眼振発生のメカニズムは,外側半規管内に内リンパ流動が起こり,これが前庭眼反射を誘発するためである.

 温度刺激方法には,冷温交互注水法のほかに少量注水法があり,どちらも臨床的に有用である.眼振の詳細な評価には,フレンツェル眼鏡下の肉眼観察による持続時間やENG記録下の緩徐相速度が用いられている.最近では,コンピュータを駆使した眼振の分析が広く行われてきている.〔臨床検査39:190-192,1995〕

visual suppression test

竹森 節子

pp.193-195

 visual suppression testとは,温度眼振が明所固視により抑制される現象を用いて病巣診断を行う検査法である.正常値は,66±11%である.

 visual suppressionの減少は40~10%,小脳の片葉や小節の障害でみられる。visual suppressionの消失―温度眼振の明所固視時の増強は10%以下,橋の旁正中能の障害,下頭頂葉の障害で見られる.またvisual suppressionの増強は一側の内耳機能廃絶後の代償過程を知ることができる.〔臨床検査39:193-195,1995〕

めまい・平衡障害の補助的診断法

聴力・聴覚検査

深谷 卓

pp.196-200

 平衡機能検査で,疾患の部位が性状を診断するうえで必要な聴覚検査の種類とその解釈を述べた.聴覚検査にも得手・不得手があり,解釈するうえではその限界を知っておく必要性を強調した.〔臨床検査39:196-200,1995〕

内科的検査

横田 淳一

pp.201-205

 めまい,平衡障害症例の病巣診断には詳細な神経内科学的所見を検討することが必要である.特に,脳幹(脳神経),小脳(協調運動)所見は責任病巣の診断上重要である.また,全身状態は内耳および脳に直接,間接的に影響を与えることから,めまい疾患においても十分な一般内科学的検索が必要である.特に脳,循環器の危険因子(糖尿病,高脂血症など),循環器障害および内分泌障害などは十分に留意して検討する必要がある.〔臨床検査.39:201-205,1995〕

話題

末梢障害と中枢障害の鑑別

八木 聰明

pp.206-209

 末梢障害と中枢障害を鑑別する必要性はどこにあるのであろうか.めまい,平衡障害を起こしている原因部位がどこにあるか,すなわち病巣局在を診断することは,それだけでも診断学的興味の深いところである.しかし,単に診断学的興味のみでこれらを鑑別するのではない.末梢・中枢障害の鑑別が直接治療に結びつく点からもこの鑑別は頃要である.すなわち,末梢障害では直接生命に影響を与えないが,中枢障害ではその障害が直接生命に関与することがあるからである.〔臨床検査39:206-209,1995〕

平衡機能障害の認定

田口 喜一郎

pp.210-211

 平衡機能障害の認定に関しては,身体障害者福祉法(福祉法)と労働基準法(労基法)および労働災害補償保険法(労災法)との両者における認定という意味で述べる必要があるが,労基法および労災法における平衡機能障害の認定に関する事項はやや曖昧な点が多いので,主として身体障害者福祉法における"平衡機能障害"について述べる.

動揺病と平衡機能

坂田 英治

pp.212-213

1.はじめに

 "酔い"にはいろいろのものがある.酒によるほろ酔いから泥酔,周囲の雰囲気に酔う,といったものから,自己の弁舌に酔う,飛行機酔いから宇宙船に酔うことまで,その共通するところは"われを忘れる"ことである.

 "乗物酔い"は,人間が乗物を考え出してから,これに苦しみだしたものである.われわれは,この酔いを解決できないまま馬車・汽車・自動車・電車・飛行機・宇宙船と次々と発明して乗物酔いの種を増やしてきた(図1).

日本平衡機能検査技術者会の活動

山口 洋子

pp.214-215

 1971年(昭和46年)の10月に,日本平衡神経科学会主催により,全国各地から33名の耳鼻咽喉科検査技術者が参加して,第1回平衡機能検査技術講習会が順天堂大学において開催されました.助教授の坂田英治先生(現在・埼玉医科大学平衡神経科教授),医局長の市川銀一郎先生(現在・順天堂大学耳鼻咽喉科教授)はじめ,諸先生方の熱心なご講義,それに各講師の先生方が書かれた論文を手作り製本されたテキストもすばらしいものでした.

 このテキストは,基礎的に重要な事柄がコンパクトに書かれており,現在でも初めて平衡機能検査に携わろうとしている方には最適な本であるとたいせつに保持しています.

今月の表紙 臨床細菌検査

Cardiobacterium hominis

猪狩 淳

pp.130-131

 Cardioacterium hominis(C.hominis)はヒトの鼻腔,口腔,咽頭の常在菌であり,ときに他部位の粘膜にも存在する.また胃腸管にも認められることがある.本菌による感染症は心内膜炎が唯一であり1,2),血流を介して心臓弁膜に障害がある例や人工弁装置例に感染する.中には,心弁膜に異常がない例にも発症することがある3).症例の多くは心内膜炎発症前に抜歯などの歯科治療や歯周囲炎の既往を持つ.

 本菌の臨床分離株のほとんどは血液培養により分離され,市販の血液寒天培地に発育する.

学会だより 日本臨床検査自動化学会第26回大会

没個性的な日本的汎用型自動分析装置の新展開

加野 象次郎

pp.152

 日本臨床検査自動化学会第26回大会は,三井記念病院部長水岡慶二大会長の下,9月23,24の両日,千葉県幕張市の幕張コンベンションセンターで開かれました.自動化学会の魅力が,学術大会もさることながら,機器や試薬の展示会にあることは言うまでもありません.学会事務局によると,今年は秋雨に煙る雨模様の天気にもかかわらず,学術大会への登録者は2,500名,展示会への参加者は8,000名を超え,昨年を上回る規模であったそうですが,機器・試薬展示会への参加者が圧倒的に多いことも本学会を特徴付けるものの1つでありましょう.

 この展示会を見るたびに私がこれまでいつも感じていたことは,日本と欧米の装置や技術の違いです.臨床検査の自動化は,Skeggsによる連続流れ方式の生化学分析装置Auto Analyzer (1957年)や,Coulterによる血球計数機Coulter counter (1956年)に始まると言われています.これらは,まさに一世を風靡したのですが,その後,Centrifichemなどの遠心方式の機器,DuPontによる錠剤試薬とプラスチックバッグのaca, Kodakによる多層フィルム化学のEktachemなどに代表される画期的な装置が,欧米,特に米国より続々と出てきます.

学会だより 第7回国際肥満学

トロント:オンタリオ湖畔ウォーターフロントへ4年振りに世界各国の研究者が集う

大野 誠

pp.244-245

 第7回国際肥満学会(International Congress onObesity)は,1994年8月20~25日,カナダ最大の都市トロント市において,マニトバ大学医学部エンジェル教授を会頭に盛大に開催された.本学会は1974年ロンドンで第1回大会がもたれた後,3~4年おきに,ワシントンD.C.,ローマ,ニューヨーク,エルサレ開催され,前回(1990年)の大会は大村裕九大名誉教授を会頭に神戸で成功裡に挙行されたのはまだ記憶に新しいところである.本大会へは,前回の実績をさらに上回る23か国から約1,400名の参加者が集い,20年前の第1回大会の参加者約400名とは比べようもないほど,肥満に対する世界的な関心が高揚している事実が示された.会場となったウエスティン・ハーバーキャッスルホテルは,近年,開発が目覚ましいオンタリオ湖畔ウォーターフロントの中心に位置する超高層ホテルであり,学会場は隣接するコンベンションセンターとホテル内の会議室を使って,連日サマータイムの朝7時より活発な討論が交された.

 本学会では発表演題をテーマ別にTrack 1~6に分け、各Trackごとにシンポジウム,一般口演発表,ポスター発表の場を設定し,5日間で総数627題の研究成果が紹介された.このほかに,2~3のテーマに絞って有名教授による早朝の"教育講演"と夕刻の"ソクラテス討論"が企画された.

コーヒーブレイク

Nacl

𠮷野 二男

pp.180

 食塩,塩化ナトリウムのことです.このように記されているのを見ました.

 化学記号は普通の活字体の大文字を用い,2字目には同様に活字体で小文字を付けると決められています.筆記するときには,個人的なメモであったらどんな字体でも構わないと思いますが.

銀座

屋形 稔

pp.200

 この夏の厳しさは格別であった.元来暑さには強い方で夏は嫌いではないが,30度台が何日も続いたのにはいささかうんざりした.新潟でもそんなだから東京の街路を歩くとやけつくようであった.そんな東京でも月に4~5回せっせと新幹線で運ばれて行くのは,昔から東京の街が好きだからである.子供の頃も東北の田舎から上京するのが楽しみで,母や兄達に連れられて銀座をキョロキョロしながら胸を弾ませて歩いた.戦中に中学から高専へ進む時新潟と東京の双方に合格したが,さすがに大戦たけなわであったので新潟へ行ったのが今でも満たされぬ思いとして胸の底にくすぶっているのかもしれない.

 近ごろは身につけるものなども,どこでもいいのに銀座界隈で需めることが多い.洋服は銀座三越の近くの英国屋が気に入っているが,先方も特選会などの催しの時は必ず招いてくれるので大抵のぞいて来ることにしている.銀座百店会で発行している"銀店百店"という小型のPR誌を読むと,下手な週刊誌そっちのけの面白さで,内容が豊かで銀座の雰囲気もよく出ており編集も行き届いている.常連の平岩弓枝さんが最近号に"夏の終わり"という冴えたエッセイを寄せていた.

座談会 PartⅡ・3

遺伝子検査

引地 一昌 , 高橋 正宜 , 島田 馨 , 河合 忠

pp.217-220

癌遺伝子と癌抑制遺伝子

 河合 今回の座談会も終わりに近づきました.前回お話しした発癌と遺伝子の関係について,もう少し掘り下げてみようと思います.まず癌関連遺伝子には,昔はプロトオンコジーン,癌原遺伝子と言われていた癌遺伝子と,癌抑制遺伝子(anti-oncogene=tumor suppressorgenes)の2つがあると言われています.引地先生,この2つの癌関連遺伝子の特徴を簡単に解説してください.

 引地 癌遺伝子そのものは正常の細胞にもあって,その機能としては分化発生の段階から細胞を増やすための何らかの役割をしているわけです.ところが最近わかってきた癌抑制遺伝子というのは,その癌遺伝子を調整している遺伝子である.つまり癌遺伝子が細胞を増やす方向に働く遺伝子だとすると,細胞増殖を抑えるための調節遺伝子であり,この癌抑制遺伝子に異常があるために,抑えきれなくなって癌遺伝子が活性化し発癌する,という状態です.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・26

上気道閉塞パターンが診断に有用であった気管腫瘍(気管腺様嚢胞癌)

福井 順一

pp.221-225

●検査結果の判定●

 フローボリュームカーブと肺機能解析値を図1に示す.

 上段の治療前の検査では肺活量(VC),機能的残気量(FRC)は正常であるが,努力肺活量(FVC)は若干低値である.1秒率は正常であるが,ピークフローは低値である.フローボリュームカーブではピーク形成後フローは速やかに低下し,下降脚の平坦化を認める.上部気道狭窄病変に伴う上気道閉塞パターンと考えられる.呼吸抵抗値も若干高値である.

トピックス

Cyclospora感染症

松本 哲哉

pp.226-227

1.はじめに

 ヒトの長びく水様性下痢の原因として,その形態学的特徴からcoccidian-like bodiesあるいはcyanobacterium-like bodies(CLB)と呼ばれる抗酸性の微生物が重要であるとの報告が1980年代後半から世界各地で相次いだ.この微生物は当初はcyanobacteriumであろうと考えられていたが,Ortegaら1)によってCyclospora属の原虫と同定されるに至った.1953年の時点ですでにIsospora natalensisという名前の原虫が下痢便中に存在したという報告がみられており,形態学的な類似点からこの原虫もCyclosporaと同じものであろうと考えられている2).本稿では,Cyclo-sporaに関するこれまでの報告をもとに,その特徴について述べる.

新コルポスコピー所見分類―新旧分類の相違点

長谷川 壽彦 , 高橋 峰夫

pp.227-229

1.はじめに

 コルポスコピー所見分類については,大きな流れとして,英米語圏とドイツ語ラテン圏それぞれで独自のものがあり,研究交流に支障をきたしていた.1975年に開催されたオーストリア,グラーツにおけるInternational Federation for Cer-vical Pathology and Colposcopy (IFCPC)第2回国際会議で世界統一の所見分類が採択され,わが国独自の手直しは多少あるが,その分類が日本語訳も含め現在広く使われている.コルポスコピー所見評価実績の集積や子宮頸癌の自然史におけるhuman papilloma virus (HPV)関与の実態など,コルポスコピーを取り巻く環境の変化に対応した所見分類が必要になったとして,1990年イタリア,ローマで開催された第7回国際会議で,新コルポスコピー所見分類が採択された.日本婦人科病理・コルポスコピー学会でその日本対応を作成し,今後コルポスコピー所見分類としてわが国で定着を図ることとなった.新分類は,前述したように学問の進歩に合わせて新しい事項を入れたが,これを大きな変化と考えるか,小さな変化と考えるかは人それぞれで,筆者らは大枠が同じであり,対応に苦慮するような変化はないと考えるので,小変化として新旧の所見分類が入れ替わることは容易と考える.

肝細胞癌の分子生物学的診断

相澤 良夫 , 戸田 剛太郎

pp.229-230

1.はじめに

 わが国では肝細胞癌患者が年々増加し,その約3/4がC型肝炎ウイルス(HCV)に,残りのほとんどがB型肝炎ウイルス(HBV)に起因するとされている.近年,肝細胞癌の高危険群(ウイルス性肝硬変および進行したウイルス性慢性肝炎患者)に対し,AFPの測定と画像診断が定期的に行われ,小肝細胞癌が早期に発見されるようになった.

 肝細胞癌の早期診断は,前述の腫瘍マーカー測定と画像診断により効率的に行われており,分子生物学的手法は応用されていない.肝細胞癌の分子生物学的診断は,癌の発生が単中心性が多中心性発生かの鑑別や,癌発生メカニズムの解明,癌の進展度,悪性度の判定などに応用されている.また,癌の遠隔転移の診断法として,末梢血中の腫瘍細胞を高感度に検出する方法も開発されている.以下にこれらの分子生物学的診断法について概説する.

海外レポート

米国インディアナ大学キャンパス内Wishard Memorial Hospital

山田 俊幸

pp.231-233

■インディアナ大学メディカルセンター

 米国はシカゴの南,車で3時間のところにインディアナ州の州都インディアナポリスは位置している.Indy 500マイルという世界的なカーレースの開催地であるというほかはこれといった特色のない地方都市である.そのダウンタウンのはずれに医学部を中心としたインディアナ大学の広大なキャンバスがあり,北側半分の敷地を大中8-9の病院群が占めている.各病院とも例えば小児病院,精神病院といった特徴を持ち,いくつかは大学と全く経営系統が違うものもあるが,基本的には大学医学部のスタッフが同じキャンパス内にあるこれらの病院に分散し診療を支えている.かくいう筆者も,担当教授の勤務の関係で,正式な所属はインディアナ大学医学部なれど,勤務地は退役軍人病院内の研究室になっている.この病院は文字どおり,退役軍人の慢性疾患,外傷後遺症を.主な対象にしており,検査室の規模は小さく,特筆すべきものはない.

 本稿の依頼を受ける以前にキャンバス内最大である大学病院の検査室を訪ねたので,少し触れさせていただくと,とにかく大きな(部屋が多数)ラボで,例えば血液部門は,血算,血液像,免疫血液,凝固といった各小部屋に分かれて,それぞれ4~5人の技師による.イムノアッセイの部屋では,ケミルミアナライザー,IMxがそれぞれ2~3台雑然と並んでおり,全体として日本の検査センターに似ているという印象を受けた.

質疑応答 臨床化学

数平均分子量と重量平均分子量

鈴木 優治 , 0生

pp.234-235

 Q 数平均分子量と重量平均分子量について,数式を使わずにわかりやすくご説明ください.

尿中NAGの健診における意義

伊藤 喜久 , O生

pp.235-237

 Q 健診で随時尿による尿中NAGをチェックしていますが,尿中クレアチニンで補正しない場合の生理的変動幅はどれくらいですか.生理的変動はどのような場合にみられますか.また,尿中NAG値はどの程度から"病的"と判断すればよいのでしょうか.糖尿病などの基礎疾患も考えられず,薬物投与もなく,検尿やBUN,クレァチニンなどにも異常のみられない場合と,基礎疾患のある場合それぞれについてお教えください.

 さらに,尿中NAG以外になんら異常を認めず,NAG値が十分病的意義を有すると考えられる場合の対処のしかたについてもご教示ください.

質疑応答 輸血

術前貯血式自己血輸血実施上の問題点

稲葉 頌一 , O生

pp.237-238

 Q 最近,自己血輸血を行う施設が増えていますが,採血上の注意点や保存上の注意点(採血バッグの種類,保存期限など)を教えてください.

資料

甲状腺機能検査の基準化の試み―free T4および高感度TSH

佐藤 誠也

pp.239-243

 米国甲状腺学会が発表したfree T4および高感度TSHに関するガイドラインについて紹介した.これはイムノアッセイ全般の基準化に一石を投じる学会の姿勢として注目される.また,臨床上問題となる測定法の現状について記述した.

気管支鏡検査による肺癌診断率の検討

鐵原 拓雄 , 大杉 典子 , 広川 満良 , 中島 正光

pp.247-250

 組織学的に肺癌と診断された359例において,気管支鏡検査における生検組織診と細胞診の成績を比較検討した.生検組織診および細疱診全体の検出率はそれぞれ74.1%,74.9%,正診率は87.7%.82.4%であった,生検組織診と細胞診を併用した場合の検出率は85.0%であった.多くの検査法を組み合わせることで診断精度の向上がみられたが,6通りの細胞診材料採取方法の中で,特に生検鉗子洗浄液と吸引痰の検出率がよく,この両検査と生検組織診との併用が最も有用(検出率84.1%)と思われた.また,末梢型肺癌である腺癌では生検組織診よりも細胞診のほうが検出率,診断率ともに高く,その診断的価値がうかがえた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら