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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査39巻4号

1995年04月発行

雑誌目次

今月の主題 薬物検査

総説

薬物動態

千葉 寛

pp.385-392

 薬物の生体内運命は,呼吸,分布,代謝,排泄の4つのカテゴリーに分類されるが,それぞれの過程について薬物の生体における挙動と,それに影響を与える因子について概説した.また,生体における薬物挙動を数量的に扱う手法として,薬物動態(pharmaco-kinetics)について基本的な概念を紹介し,その応用について示した.〔臨床検査39:385-392, 1995〕

薬物代謝とチトクロームP-450

三田 智文 , 今井 一洋

pp.393-398

 生体に投与された薬物は,主に肝臓のチトクロームP-450によって代謝される.P-450は単一の酵素ではなく多くの分子種(アイソザイム)の集合体であり,おのおのの分子種が多様な薬物の代謝に関与している.P-450による薬物代謝能は,遺伝的多型などにより個人差がみられるのをはじめ,同一個体でも,併用薬物,加齢,疾患などの影響で変動する.これらの要因を考慮して薬物検査,薬物療法を行うことが重要である.〔臨床検査39:393-398, 1995〕

癌の多剤耐性機構

鶴尾 隆

pp.399-402

 臨床において抗癌剤が効かなくなる耐性化の現象は広く認められている.この耐性化のうち,多くの抗癌剤が同時に効かなくなる多剤耐性の現象が最近明らかにされた.本稿では近年のトピックスである多剤耐性についてその分子機構,臨床発現と,生理学的意味を述べ,多剤耐性に対する治療の基礎的アプローチについて述べる.〔臨床検査39:399-402, 1995〕

薬物受容体の機能と病態

栗山 欣弥 , 大熊 誠太郎

pp.403-408

 薬物受容体には細胞膜受容体と核内受容体があり,前者はその構造からイオンチャネル内蔵型,G蛋白質共役型および自己リン酸化型受容体に分類されている.イオンチャネル内臓型受容体はイオンの細胞内への流入を介してその機能を発揮し,G蛋白共役型受容体および自己リン酸化型受容体はそれぞれG蛋白質および受容体内蔵のチロシンキナーゼの活性化を介して細胞内情報伝達系に情報を伝達する.受容体機能異常のみならず,受容体に機能的に共軛する細胞内情報伝達系の異常が,多くの疾患の病態に関与していることが順次明らかにされつつある.〔臨床検査39:403-408, 1995〕

技術解説

血中薬物濃度の標準測定法

西原 カズヨ

pp.409-414

 血清および血液中薬物濃度の標準測定法としては,特異性の高い高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が用いられている.このHPLCの原理を十分認識し,種々の前処理方法,分析条件を選択することにより,多くの薬物の分離測定が可能になる.このことから多くの薬物が併用投与され,いくつかの活性代謝物を血清中に含む抗てんかん薬の濃度測定はHPLCの適用が便利である.また,数種類の不整脈治療薬の濃度の同時測定も可能である.

 一般的な前処理法(液―液抽出法,カラム抽出法)およびHPLC分析法(吸光光度計,蛍光光度計使用)を用いた3種類の定量法,それぞれ抗てんかん薬,抗不整脈薬およびアミノ配糖体系抗生物質について具体的に示した.〔臨床検査39; 409-414, 1995〕

薬物代謝産物と測定法

久保 博昭

pp.415-420

 薬物が代謝される過程での第I相反応(酸化,還元,加水分解反応)と第II相反応(抱合反応)について述べ,また測定例として抗腫瘍薬であるメトトレキサートとその代謝産物(7-ヒドロキシメトトレキサート)の測定法および抗結核薬でありN-アセチル化遺伝的多型性のプローブドラックであるイソニアジドとその代謝産物(アセチルイソニアジド,イソニコチン酸,イソニコチニルグリシン)の測定法について述べる.〔臨床検査39: 415-420, 1995〕

シクロスポリンの新しい測定法

打田 和治 , 高木 弘

pp.421-424

簡便かつ特異性の高いモノクローナル抗体を用いたシクロスポリン蛍光偏光免疫測定法(FPIA法)について測定原理を概説するとともに,わが国で行われているシクロスポリン血中濃度測定quality assessmentの結果から,FPIA法とRIA法の測定法上の問題点と今後の課題を述べる.〔臨床検査39;421-424, 1995〕

癌の薬剤感受性試験

石田 智之 , 西條 長宏

pp.425-432

癌の薬剤感受性試験の目的は2つある.抗癌物質のスクリーニングと,患者に対する抗癌剤投与の指針である.前者は現在SDI法やHTCAで物質そのものの特性を明らかにし,ヌードマウスを用いて生体内の動きを予想するということが行われている.後者の場合,in vivoでのテストが最も適していると思われるが理想的なものはなく,さまざまなin vitroのテストを行って最も適している方法を探っている状態である.〔臨床検査39:425-432, 1995〕

薬物中毒の分析法

小澤 和雄 , 黒岩 幸雄

pp.433-437

薬物中毒において中毒原因物質を分析することは治療の一助となりうる.同定をすることにより治療の方針を立て,定量することにより中毒の重症度に関する指標が得られる.しかし,薬物分析に時間がかかりすぎると得られた結果も臨床的には役に立たないものとなってしまうので速やかに結果を出す必要がある.そこで今回は,中毒時の薬物スクリーニングに汎用されているTOXI-LABと最近利用施設が増えてきたREMEDi-HSを中心に薬物中毒の分析法について解説する.〔臨床検査39; 433-437, 1995〕

毛髪中の薬物分析

中原 雄二

pp.439-446

毛髪薬物分析の歴史に続き,毛髪の組織構造や生態に関して説明し,①毛髪試料の前処理,②毛髪中の薬物の抽出法と分析方法,③薬物使用量と毛髪中薬物濃度の相関,④毛髪中の薬物の移動,⑤毛髪中の薬物分布と薬物使用歴,⑥毛髪中の薬物の安定性,⑦血中薬物濃度の比率と毛髪中濃度,⑧毛髪への薬物取込率,⑨毛髪分析による薬物依存症の診断への試み,⑩覚醒剤ベビー,⑪多剤乱用,の項目で毛髪中薬物分析の基礎から応用まで述べた.〔臨床検査39: 439-446, 1995〕

ドーピングの検査法

植木 眞琴

pp.447-449

近年国際レベルのスポーツ大会ではドーピング検査を実施することが必須とされている.1994年9月の国際オリンピック委員会(IOC)通知ではドーピングを,①薬理作用別に分類された禁止薬物の使用および,②薬理的,化学的,物理的不正操作と定義し,さらに使用制限のある薬物について処方のガイドラインを示している.ここ数年最も深刻なドーピングは蛋白同化剤の乱用であり,特に生体内で合成される生理的ホルモンが問題となっている.ここではドーピング検査の概要と結果判定上の問題などについて解説する.〔臨床検査39: 447-449, 1995〕

話題

GST-π

高山 哲治 , 高橋 康雄 , 新津 洋司郎

pp.450-453

1.はじめに

 Glutathione S-transferases (GSTs)ファミリーは,細胞の中に豊富に存在するGlutathioneを利用し,生体外,あるいは生体内で生じた毒性物質を中和する酵素である.これまで,少なくとも4種類のα,μ,π,θなどと呼ばれるアイソザイムグループが同定されている.一方,GST-πは,癌組織でしばしば正常な組織に比べて発現が高まっていることもよく知られているところである.また最近では,癌組織における抗癌剤耐性の獲得にきわめて重要な意義を持っていることも明らかにされつつある.そこで本稿では,GST-πの癌細胞における発現の増強,抗癌剤耐性への関与,およびGST-πを標的とした耐性克服の試みについて最近の知見を述べてみたい.

DNAトポイソメラーゼ

河野 公俊 , 和田 守正

pp.454-456

1.はじめに

 遺伝子の本体であるDNAの構造とその変換に関与する酵素は,細胞内のさまざまなDNA代謝にとって重要な役割を担っている.原核細胞において,DNAの構造変換はDNAの複製修復転写や組換えの過程に重要である.いっぽう真核細胞においては,さらにヌクレオソームとクロマチンの構造形式にも重要である.したがって,この構造変換を担う酵素であるDNAトポイソメラーゼは,細胞増殖に必須であり,その阻害剤は細胞致死を引き起こす.阻害剤は,有効な抗菌物質や制癌剤として,臨床ですでに用いられている.

免疫抑制剤

馬杉 峻

pp.458-460

1.はじめに

 近年の世界的な臓器移植による医療の目覚ましい進歩は,優れた免疫抑制剤の開発に負うところが大であり,免疫抑制剤の研究開発の歴史は,臓器移植の発展の歴史とも言える.免疫抑制剤は,移植後の最大の課題である拒絶反応を抑制し,術後の移植治療を成功させる鍵を握っている.本稿では,これまで臨床的に使用されている免疫抑制剤を作用別に整理分類するとともに,現在開発途上にある新薬を含めて,最近の免疫抑制剤の展開を紹介してみたい.

今月の表紙 臨床細菌検査

Vibrio cholerae

猪狩 淳

pp.378-379

 コレラ菌は種Vibrio choleraeのうちO1抗原を持つものに限られている.O1血清型以外(O2~O138)は非O1型コレラ菌(non-O1グループ),いわゆるNAGビブリオと一括され,コレラ菌とは明確に区別して扱われる.ただし,非O1型コレラ菌群も,O抗原の違いだけで,形態,生理・生化学的性状の点ではコレラ菌(V. cholerae O1)とまったく異なるところがない(図1, 2)1)

 ともにグラム陰性,通性嫌気性,芽胞を持たない桿菌で,菌体は通常コンマ状に彎曲している(ビブリオ・コンマ:V. commaと呼ばれたこともある).単極性の鞭毛を持ち,活発に運動する(図3, 4).発育至適温度は37℃前後,発育至適pHは7.6~9.0で,アルカリ性側でよく発育する.普通寒天培地など一般の培地で発育する.選択培地には,TCBC寒天培地,ビブリオ寒天培地などが用いられる.

コーヒーブレイク

γγ

𠮷野 二男

pp.392

 ガンマーガンマーと言っています.重さの単位として使われました.臨床検査関係で,抗生物質などの微量の濃度を表すのに,それまでに使われていた単位よりもっと小さい量を示す単位の必要性が生じたとき,mgまではよく使われていましたが,当時,それ以下の単位については一般的に了解されたものはありませんでした.そこでmgの1,000分の1に対して,新たに重さの単位としてγ(ガンマー)という記号を使いはじめました.おそらく,グラムに対するアルファベットのgのギリシャ文字を当てたのだと思います.

 それでもなお,小さい単位表示が必要となってきたときに,そのγの1,000分の1を,γを重ねてγγ(ガンマーガンマー)と呼んで使用し,学会発表などにも用いられました.

菊作り

屋形 稔

pp.456

 最近,旧制高校の恩師故N先生の長男で,読売新聞の論説委員をしているA君の「コラムニストの目」という講演を聴く機会を持った.現在連載している夕刊の読売寸評を1,000回以上も続けた経験からくる教育談議で,小学校の腕白小僧だった者を知る人間として感慨深いものがあった.

 話は終生教師生活をされた父君の思い出から始まった.菊作りと魚釣りが趣味であったということで,そういえば晩年お住まいの庭に菊をはじめ種々の花卉が一見乱雑に植えられていたのを思い出した.A君は,父君が特に見ごたえのある菊を作ろうという努力でなく,もっぱら水をやることが趣味であるのを感得したという.時期が来れば花は開くという教育のこころみたいなものを知らず知らず教えられ,子供の教育ものびのびとさせるべきもので過剰な手をかけすぎ,教育のための教育の横行する現状に批判をこめた論旨であった.

学会だより 第17回日本血栓止血学会総会

各会場で議論白熱の二日間

石井 秀美

pp.438

 現在のわが国における死亡原因を疾患別に見ると,第1位は悪性腫瘍(癌),2位は心疾患そして3位は脳血管異常である.しかし2位の心疾患の多くが心筋梗塞であることや,3位の脳血管異常の多くが脳梗塞や脳出血であることを踏まえ,死亡原因を病態学的に分類すると血栓症および出血素因が1位となる.日本血栓止血学会ではこのような血栓症や出血異常を予防し治療するための研究成果を発表し討議している.

 第17回日本血栓止血学会学術集会は1994年11月24,25日の両日,千葉市幕張メッセ国際会議場で風間睦美先生(帝京大学第一内科教授)を会長に開催された.本学術集会には約850名の医師,研究者,技師が参加し,一般演題180,特別企画の演題6題が発表された.本学会は症例報告などにとどまらず,止血機構や血栓症および出血素因の病態を先端的な生化学的解析法を用いて解析した報告が多いのが特徴で,本学術集会でも血小板,血液凝固因了,線溶系,血管壁およびこれらの境界領域の最新研究成果が発表された.

学会だより 第26回日本小児感染症学会総会

各界の意見交換の場を提供

秋田 博伸

pp.457

 第26回日本小児感染症学会は1994年11月24~26日の3日間,島根県松江市で鳥取大学医学部小児科学教授,白木和夫会長のもとに500人近い会員が出席して開催された.会期中,この時期としては晴天に恵まれ温暖な気候であったため,寒いと予想して東京から持参したコートがまったく不要であった.会場の"くにびきメッセ"はJR松江駅から,くにびき橋を渡り徒歩約7分で行くことができ,宍道湖,中湖,松江城などが望める景色の良い所に位置している.

 本学会は招待講演1題,特別講演1題,シンポジウム1題,一般演題162題の出題があり,招待講演は,米国NIHのDr.Robinが現在認可されているワクチンのワクチン効果についての総説的な講演を行った.特別講演は鳥取大学医学部ウイルス学,日野茂男教授が行った.成人T細胞白血病の原因としてhuman T-lymphotropic virus type l(HTLV-1)が注目されているが,HTLV-1キャリア母親の母乳から子供に感染する率が高いため母子感染防御対策が重要である.そのため現時点ではキャリア母親の母乳栄養は中止することが基本的方針であると述べている.

学会だより 第34回日本臨床化学会年会

基礎・臨床・技術とその実践

桑 克彦

pp.494

 第34回日本臨床化学会年会が,1994年11月4,5日の両日東京・日本都市センターで大久保昭行年会長(東京大学医学部臨床検査医学教授)のもとに開催された,日本臨床化学会(JSCC)はIFCC (国際臨床化学会:世界53か国参加)の日本の加盟団体であり,その活躍は標準化の作業などを通して国内外に現れてきている.しかし臨床検査室の現場にまでは深く浸透していないので,一般の技師には少し遠い存在でもある.

 臨床検査は検体検査,病理学的検査,生体検査に大別される.このうち検体検査の領域が臨床化学になる.したがって,生化学,一般,免疫・血清,血液・凝固,微生物の領域が含まれるので,実際は多彩な内容を持っている.

海外レポート

アメリカ合衆国VA Medical Center San Francisco

吉田 稔

pp.461-463

はじめに

 Veterans Administration Medical Center (以下VAMC)は,日本では退役軍人病院あるいは郷軍人病院と訳される米国独特の医療施設である.一般に政府の保有する広大な敷地に建設されており,米国の病院の中でも比較的環境に恵まれていると言える.患者は病院の性格上,中・高齢の男性が多いといった特殊性がある.San Francisco (以下SF)のVAMCはFort Mileyと呼ばれる丘の上にあり,病院からは有名なGolden Gate Bridgeが展望できるほか,GoldenGate Parkにも近い風光明媚な環境にある(図1).筆者は1993年5月からVAMCのLaboratory Medi-cine(Jack Levin教授,血小板産生とエンドトキシン研究で有名)に留学しているため,今回VAMCSFの検査室の現況につき紹介する機会を得た.ただし,筆者は血液内科医であり必ずしも日本の臨床検査室の実態に詳しくないこと,またその興味が細菌検査室,輸血室,血液検査室などにあるため,やや偏った内容となることをお許し願いたい.

座談会 PartⅢ 最近の進歩・2

遺伝子検査

村松 正實 , 山森 俊治 , 桜井 兵一郎 , 高久 史麿 , 河合 忠

pp.465-468

 河合 実は遺伝子の変化を捉えるいう検査は,いわゆる遺伝病で古くから行われていたわけです.従来は1遺伝子の変化が起こるとそれが即病気につながる単因子遺伝病という形のもので広く使われていたのですが,だんだん遺伝子検査が広く応用されるようになると,日常,普通にみられるような病気,いわゆるcommon diseasesについても遺伝子変化の存在が,だんだんわかってきて注目されてきました.

 村松先生,多因子遺伝病が注目されてきた背景を少しご説明いただけますか.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・28

GC/MSによる有機酸代謝異常の診断―プロピオン酸血症とマルチプルカルボキシラーゼ欠損症の鑑別診断

山口 清次 , 木村 正彦

pp.469-472

GC/MS分析結果の解釈

 図1―Aは尿中有機酸のガスクロマトグラムである.尿中有機酸は0.2mgクレアチニン相当の尿に内部標準(マルガリン酸,テトラコサンそれぞれ20μg)を加え,酢酸エチルとジエチルエーテルで溶媒抽出し,オキシムTMS誘導体化して分析したものである.DB-5キャピラリーカラム(0.25mmφ×30m×30m,膜厚1μm)を用い,GC/MSは島津製QP5000で分析した.温度条件は100℃4分間保持後,4℃/分で280℃まで昇温分析を行った.

 図1―Aのa)が症例1のプロピオン酸血症(PA),b)が症例2のマルチプルカルボキシラーゼ欠損症(MCD),c)が正常コントロール(乳児)である.症例1では

 印で示したように,3―OH―プロピオン酸(3HP),プロピオニルグリシン(PG),メチルクエン酸(MC)の異常増加が認められる.それぞれのピークは図1―Bに示すようなマススペクトルによって同定確認されている.3HP,PG,MCはプロピオニル―CoA由来の代謝産物であり,症例1はプロピオニル―CoAの蓄積所見からプロピオニルーCoAカルボキシラーゼ欠損症,すなわち,PAと化学診断された.

トピックス

新生児に関する用語についての学会勧告

戸谷 誠之

pp.473

 日本小児科学会と日本新生児学会は共同して新生児に関する用語の混乱を是正する勧告を発表した(日本小児科学会雑誌 98:1946-1950, 1994).これは,先にWHOから発表された"疾病および関連保健問題の統計分類"の第10回修正(いわゆる"ICD-10"が1995年1月から発効することにより,従来から混乱がみられた新生児に関する用語を学会として適正化するために行われた措置である.

 内容は次の5点について述べられている.

ヒトT細胞,NK細胞の初期分化段階の指標

堀 利行

pp.474-476

 T細胞も他の血液細胞と同様,多能性造血幹細胞に由来するが,原則として胸腺の微小環境下で分化成熟する1).これまでのところ,一次造血臓器から胸腺に移動してくる細胞がどのような分化段階の細胞であるかの詳細は不明である.ヒトにおいては,胎児標本の病理組織学的研究から,胎齢7週ごろに肝臓から胸腺原基に集積してくるCD7の細胞がT細胞系前駆細胞ではないかと考えられている2).われわれの解析でも胎児肝内にCD7CD 3の細胞が確かに存在し,それらが大きくCD7lowとCD7highの2つの集団に分けられることを確認している.しかし,多色染色で表面抗原を詳しく調べてみると,CD 7lowはCD 34+の多能性造血幹細胞を含む未分化な血球系前駆細胞から成るheterogeneousな細胞集団であるのに対して,CD 7highの大部分はCD 3CD 56であり,表面形質のうえではNKにきわめてよく似た細胞であることが判明した.

 それでは,CD 7high,CD 3は本当にT細胞系の前駆細胞であるのか,あるいはNK細胞と呼ぶべき性格の細胞なのであろうか.この点を明らかにするために,胎児肝からCD 7high,CD 3,CD 56細胞をセルソーターで精製し,種々の標的細胞に対する細胞傷害活性を検討したところ,図1に示すようにほとんど成人の末梢血のNK細胞に匹敵するキラー活性を示した3)

ドライケミストリーにおける総カルシウムの新しい比色定量法

天野 芳和

pp.476-478

1.はじめに

 血中総カルシウムの測定は,発色剤としてOCPC(o-cresolphthalein complexsone)を用い高アルカリ条件下で比色定量する方法が一般的である1,2).しかし,OCPC法においては,近年その反応系が高pHであるため空気中の炭酸ガスの影響を受け,測定値が低下することが示唆されている3).反応に必要な各試薬を薄膜に含有させ,積層一体化した多層分析フイルムを用いるドライケミストリーにおいても同様な問題が生じる.

 今回,新しい比色定量用試薬として,クロロホスホナゾⅢ(chlorophosphonazo-Ⅲ;CPA Ⅲ)を導入した新規の血中総カルシウム測定用多層分析フイルム(商品名:富士ドライケムスライドCa-PⅡ;以下スライドと略す)を開発した.

質疑応答 臨床化学

アポBの測定

梶川 達志 , 河西 浩一 , 高橋 修

pp.479-481

 Q 高脂血症患者のアポB測定を行う際,高値のため希釈して測定したところ,原検体と大きく乖離した結果となり,何度やっても同様でした.そこでSRID法で確認したところ2倍希釈の値となりました.この原因としてどのようなことが考えられるでしょうか.

質疑応答 その他

多量のデータを整理活用するためのメディア

鹿島 哲 , R子

pp.481-484

 Q 多数の論文や報告および莫大な資料の控えを取ったり,保管したり,持ち運んだり,交換するのに適した方法を教えてください.

研究

HPLC/カラムスイッチング法を用いた尿中ヒポキサンチン,キサンチンの自動分析法

鷲見 聡 , 木戸内 清 , 大場 悟 , 和田 義郎

pp.485-488

 HPLC/カラムスイッチング法では2種類の異なる性質のカラムで2度連続的に展開するため,尿中の代謝産物の高分離が可能である.この方法を用いて測定した結果,健康幼児(2~6歳)の尿中ヒポキサンチンは23.9±12.6μmol/mmol Cr,キサンチンは27.9±11.6μmol/mmolCr,健康小児(7~15歳)のヒポキサンチンは10.8±5.89μmol/mmol Cr.キサンチンは12.6±7.41μmol/mmolcr,健康成人(30~49歳)のヒポキサンチンは7.41±3.58μmol/mmol Cr,キサンチンは7.66±6.27μmol/mmolCrであった.HPLC/カラムスイッチングは正確かつ簡便な方法であり,幅広い応用が期待できる.

軟部組織内細菌における染色前処理法の意義

榊原 英一 , 来海 節夫 , 千田 澄江 , 明壁 均 , 高木 規夫 , 稲垣 宏

pp.489-493

 軟部組織の壊死を伴う細菌感染症6例の軟部組織標本に水酸化ナトリウム・アルコール溶液処理後,ヘマトキシリン・エオジン,細菌検査用グラム,ギムザ染色などの一般的な染色を行い,組織内細菌を観察した.処理前の標本には色素顆粒が多く,処理後では色素顆粒が消失した.処理後のグラム染色とギムザ染色の両標本で全例の細菌が確認できた.激症型A群溶レン菌感染症とVibrio vulnificus感染症において,組織内細菌は炎症細胞を伴わずにそれらの特徴的形態所見を示した.この研究で使用した技法および得られた成績は,病理検査における組織内細菌の確認に,また細胞診や細菌検査による細菌感染症の迅速診断に貢献するであろう.

私のくふう

専用薄切セット台の製作

安藤 千秋

pp.495

1.目的

 滑走式ミクロトームは作業台に置いて使うのが通例であるが,多数のブロックを荒削りから本削りまで行っていくと,パラフィンの削り屑が山のように集積し,左手の作業能率を妨げる原因となる.それを解消するために考案したのが,滑走ミクロトームを置く台(滑走專用台)と,作業台から滑走専用台までの段差を利用しスロープを作るための木製の台(補助受皿台)である(図1).この滑走専用台と補助受皿胎を生かし,荒削りしたパラフィンが手前に落ちた場合,ハケで前に押し出すと塵取りに溜まるようになっている.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

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今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
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62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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