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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査39巻8号

1995年08月発行

雑誌目次

今月の主題 脱中央化検査技術

巻頭言

検査目的に合った検査技術の進歩

片山 善章

pp.865-866

 現在の医療システムにおいて,臨床検査は診断・治療を決定するうえで大きなウエイトを占めていることは周知のとおりである.すなわち,今日の医療の発展のために臨床検査情報の供給体制が拡充されたためであり,それは各種の臨床検査機器・装置が開発されて臨床の要求に応じてきたからである.また,最近では各臨床検査装置をコンピュータに接続して,検査部のコンピュータシステム化が行われ,病院のオーダリングシステムの一環に組み入れられている基幹病院が多くなってきている.そして検査部の臨床へのサービスは検査結果の解析による診断支援システムの実施が行われつつある.

 一方,臨床検査の本来の目的である"その時の患者の症状における検査結果によって,診断・治療を決定する"ための検査技術の進歩・発展も目を見張るものがある.

総論

検査の中央化の功罪

只野 壽太郎

pp.867-872

 1950年代にGHQの指示で始まった日本の臨床検査室中央化の流れは,1980年代の急速に普及し始めた病院診療支援システムの流れに飲み込まれることになった.従来の"検体処理業"としての検査室は,今や"情報処理業"に変わってしまった.

 臨床医にとっては,検査データが"いつでも""どこでも""好きなときに"得られればよいわけで,そのデータがどこで作られようと問題ではない.われわれはこのような変革に対応する検査室を作らなければならない.〔臨床検査39:867-872,1995〕

検査の脱中央化の実際と問題点

中 甫

pp.873-877

 検査の脱中央化とは,ベッドサイド検査やサテライトラボなど患者に近い場所で実施する検査や,患者に直接的に実施する検査と考える.これらの検査は項目を中心としたバッチ型の検査ではなく,個々の患者を単位として逐次検査するランダムアクセス型の検査である.

 患者ごとに迅速,タイムリーな対応ができるという点で優れているが,管理面において種々のくふうが必要である.〔臨床検査39:873-877,1995〕

マイクロセンサーの現状と展望

相澤 益男

pp.879-882

 電界効果型トランジスター(FET)イオンセンサー,マイクロ電極型イオンセンター,酵素FETセンター,マイクロ電極型酵素センサー,光ファイバーセンサーなど,センサーのマイクロ化が最近急速に進展した.マイクロセンサーの進展は医療計測にも大きなインパクトを与えている.医療用マイクロセンサーの研究開発状況とマイクロマシニング技術を導入した新しいマイクロセンシングシステムのチャレンジなどをまとめた.〔臨床検査39:879-882,1995〕

脱中央化検査法の種類と特微

ドライケミストリー

片山 善章

pp.883-886

 ドライケミストリーの名称で注目されたのは,1978年に米国イーストマンコダック社がフィルム技術を応用した分析システムを開発して報告されてからである.現在,エクタケム,富士ドライケム,スポットケム,レフロトロン,セラライザーという装置名で利用されている.これらのドライケミストリーによる装置は「いつでも,どこでも,だれにでも」という条件で利用できる特徴を備えている.このことは検査部から離れた場所で検査ができる検査技術として適している.〔臨床検査39:883-886,1995〕

ドライケミストリー 1.エクタケム250

平井 智子

pp.887-890

 ドライケミストリー法はウエット法のように測定準備に手間取らずいつでも測定できる.エクタケム250はこれに高度な技術を分析器に取り込みオペレーターは簡単に操作できる.新しく開発された免疫化学的測定法も加え測定原理と装置の概要,および精度管理のポイントについても簡単に述べた.〔臨床検査39:887-890,1995〕

ドライケミストリー 2.スポットケム―サテライト検査における有用性―その現状と未来

高田 典彦

pp.891-893

 臨床検査分野にドライケミストリーが登場してはや30年が経過しようとしている.その間医療現場の多種多様なニーズに応えるべく,さまざまな技術革新が実施されてきた.そのドライケミストリー全体を概観し,その特徴および臨床現場での実態について解説し,今後その将来面においてどのような課題が残されているかを記述した.〔臨床検査39:891-893,1995〕

連続血糖測定装置

菊地 眞

pp.894-897

 生化学検査は,血液をサンプルとして行われることがほとんどで,採血に伴う患者の苦痛,感染の危険性のほかに,連続的(または断続的)に長時間モニタリングすることが困難である.本連続血糖測定装置は,経皮的に長時間血糖値をモニタすることを目的にして開発されたもので,角質除去後の皮膚を弱い陰圧で吸引して超微量のSEF (吸引浸出液)を微侵襲的に採取し,これを血液代替サンプルとして用いて,ISFET (イオン感応性電界効果トランジスタ)型グルコースセンサで血糖値変化を計測する.〔臨床検査39:894-897,1995〕

人工膵臓

七里 元亮

pp.898-903

 臨床医学の究極の目標は患者にとって最適の治療を施すことであり,そのためには刻々と得られる生体情報を的確に患者の治療に反映させる必要があり,計測と治療制御のフィードバック・ループを可能とする"治療制御システム"の開発が望まれる.人工膵臓は,治療効果を動的に追跡し,その効果を連続的にフィードバックしながら,インスリン注入量をうまく制御している治療制御システムということができる.〔臨床検査39:898-903,1995〕

ビリルビンリフラクタンスメーター経皮的ビリルビン濃度測定法

山内 芳忠

pp.905-909

 経皮的に血中ビリルビン濃度を推定することのできる機器,ミノルタ黄疸計を紹介して,その測定原理,使用方法,精度と正確度ならびに新生児における臨床的有用性について述べた.ミノルタ黄疸計は大変に小さくて,コンパクトであり,ベッドサイドや外来で簡単に使用できて,しかも血中ビリルビン濃度をほぼ正確に反映するので,新生児黄疸や遷延性黄疸のスクリーニング法,モニター法として有用である.〔臨床検査39:905-909,1995〕

血液ガス・電解質測定装置

細坪 貴久美

pp.910-915

 医学の進歩はより重症な患者を治療の対象にしてきている.重症患者を管理するうえで,状態の急変にいかに迅速に対処できるかということはきわめて重要な因子である.体液のpHや電解質濃度の恒常性は生命の維持に不可欠である.状態が急変する可能性の高い手術部では状態の迅速な把握のため,集中治療部ではさらに原因の検索,治療効果の判定を迅速に行う目的で血液ガスと血漿電解質測定をベッドサイドで実施(モニタリング)している.これらを臨床検査として行う場合の測定法は血液を試料とする観血法のみであるが,モニタリングにおいては患者の状態の変化に即応した連続的モニターとして,経皮法や血管内センサー挿入法などの非観血的測定法も併用されている.臨床現場における測定装置に要求される性能は,精度,安定性,応答速度,操作性である.これらを念頭に置いて観血的血液ガス・血漿電解質分析装置および非観血的血液ガス分析装置の種類と特徴を述べた.〔臨床検査39:910-915,1995〕

尿糖・尿蛋白

芝 紀代子

pp.916-920

 尿糖・尿蛋白検査薬が,1991年10月に一般用検査薬としてOTC市場に登場した.検査薬がOTC市場に登場するに至った社会的背景,市販されている尿糖・尿蛋白検査薬の形態とその特徴,使用上および取り扱い上の注意,最近の動向そして市場性について記述した.〔臨床検査39:916-920,1995〕

トイレセンサー

近清 裕一

pp.921-924

 病院の検査技師が行っていた臨床検査がベッドサイドや一般の人たちが家庭で手軽にできる脱中央検査化が進んできた.しかし材料の採取,測定環境の変化からその結果の臨床的活用には専門家として従来と違った配慮がいる.自己健康管理のプレテストと医療機関の精密検査を切りわけ,効果的に運用する体質改善が必要である.新製品や改良が進む試薬,機器を利用して従来の活用方法を見直し診断,治療に役だつ情報に育てる努力が必要である.〔臨床検査39:921-924,1995〕

妊娠検査

北村 邦夫

pp.925-928

 近年,妊娠検査薬と超音波診断法の著しい進歩によって,妊娠のごく早期に妊娠の成立や異常の早期発見が可能になっている.月経周期が安定している女性などでは,予定月経開始日ごろには妊娠検査薬で陽性を示す例もまれではない.ここでは,臨床現場において行われている妊娠検査だけでなく,薬局などで一般に購入される妊娠検査薬までを紹介し,その基礎と応用について言及したい.〔臨床検査39:925-928,1995〕

咽頭炎の迅速診断

岩田 敏 , 佐藤 吉壮 , 秋田 博伸 , 砂川 慶介

pp.929-933

 咽頭炎の原因菌のうち,最も重要なStreptococcuspyogenes (A群レンサ球菌)に対する迅速診断を中心に概説した.A群レンサ球菌迅速診断用キットは,キットにより所要時間,操作の簡便性,感度,1検体当たりのコストに若干の差はあるものの,培養法の成績とよく一致し,感度,特異性ともに良好で,ベッドサイドにおける早期診断,早期治療に有用である.Mycoplasma pneumoniae,Chlamydia pneumoniaeに対する迅速診断については今後に課題が残されている.〔臨床検査39:929-933,1995〕

感染性下痢症のベッドサイド検査

永山 憲市 , 本田 武司

pp.935-938

 感染性下痢症は臨床において頻度の高い疾患の1つである.下痢の原因は細菌,ウイルス,原虫とさまざまで,検査方法も多岐にわたる.そのため採取された便検体はベッドサイドで検査されることなく検査室に送られることも多い.臨床の場で最も新鮮な検体を用いて検査できるベッドサイド検査が貴重な情報を提供してくれることは言うまでもないが,残念ながらまだ実用的なものは少ない.本稿ではベッドサイドで利用できると思われる感染性下痢症の検査方法の現状について述べた.〔臨床検査39:935-938,1995〕

Holter心電計

増田 喜一 , 片山 善章

pp.939-943

 最近のME技術の著しい発展によりHolter心電計に新しい技術革新の波が押し寄せようとしている.従来から用いられてきたアナログ磁気記録方式(磁気テープ)からデジタル記録方式(ICメモリー)へと移り変わろうとしている.したがって記録器だけではなく解析機を含めたハード,ソフト面においても急速な進展が期待される.一方,検査システムにおいても解析専門の再生センターが利用されるなど検査の"脱中央化"現象がみられる.〔臨床検査39:939-943,1995〕

24時間連続血圧測定計

江畑 均 , 北條 行弘 , 島田 和幸

pp.944-947

 携帯型24時間連続血圧測定装置の普及により,血圧には日内変動が存在し,本態性高血圧患者の血圧日内変動も正常血圧患者のそれと類似しているが年齢や高血圧の重症度によりその変動性に差があることが明らかになってきた.従来用いられてきた外来血圧などの随時血圧値をもって24時間血圧の代表とすることは難しく,白衣高血圧などを除外することも困難である.さらに現時点において1日血圧を測定しなければ夜間や早朝の血圧の変動を予想することは不可能である.また,高血圧によって引き起こされる臓器障害は,随時血圧値よりも1日血圧平均値のほうとより強く相関することが報告されだした.さらに無症候性脳虚血は夜間の高血圧と強く関連することが報告されており,夜間における血圧値も注目されている.こうした知見から24時間連続血圧測定の必要性が強調される.〔臨床検査39:944-947,1995〕

携帯用超音波診断装置

平田 經雄

pp.948-951

 携帯用超音波診断装置には全科で使えるリアルタイム・小型.軽量・低価格の汎用機が普及し,聴診器と同様に使用できる簡便な医療機器として活躍しており,設置場所も初診時検査・治療後経過観察用として外来に,重症患者用や回診用として病棟に,手術やインターベンションの際のモニターとして集中治療室や検査室などにと広範囲である.

 将来は健康管理機器として血圧計同様に一般家庭で使用されるかもしれない.〔臨床検査39:948-951,1995〕

今月の表紙 臨床細菌検査

Corynebacterium diphtheriae

猪狩 淳

pp.858-859

 法定伝染病ジフテリアの病原体である.

 好気性のグラム陽性桿菌で,多形性を示す.大きさは0.3~0.8×1.0~8.0μmで,しばしば一端が,ときに両端が膨大している.芽胞,莢膜,鞭毛はない.菌体内に1~数個の,円形~楕円形に濃く染まる異染小体metachromatic body(Babes-Ernst小体)があり,ナイセル染色で染まる.

コーヒーブレイク

くるま(狂魔)時代

屋形 稔

pp.866

 車の免許を取得してから40年近くになる.昔は高速道路など無論なく国道でも舗装の少ないがたがた道であったが,よく新潟から東京まで往復したものである.三国峠などはトンネルも少ない山道で,トラックが来ると車をよせてすれ違った.段々と道がよくなると途中1回ほど休むだけで7~8時間かけてふっとばしたのを思い出す.

 あまり浮気性でないのでトヨタ車ばかりパブリカ(この時代はパブリカ同士手をふるくらいゆとりがあった)から始まってコロナ,マークⅡなど数年おきに取り替えて乗った.定年になって初めて浮気して潜在的に乗りたいと思っていたアウディに換えた.これは昔岐阜へ遊びに行ったとき岐阜大中検の技師さんに乗せてもらって何と洒落た車だというインパクトがあったためである.ドイツのアウトバーン向きに作られているだけあってスピートを出せば出すほどクッションが下に吸いつくように安定し,あたかも静止したごとくなり国産車のようにスピードを出したという感覚が全くない.最近はエメラルドグリーンのアウディ2,600ccがあまりにセンスよく滑るような走りなので乗り換え愛用している.先日岐阜大のN教授にあの技師さんは今何に乗ってるか伺ったらベンツを乗り廻している由で,くるま人生に親しみを感じた.

学会だより 日本消化器関連学会週間

ますます関心が持たれるHelicobacter pylori

佐藤 貴一

pp.878

 1995年5月9日~12日に,日本消化器関連学会週間(Digestive Disease Week-Japan’95)が,横浜市のパシフィコ横浜で開催された.本学会週間は,第81回日本消化器病学会総会,第49回日本消化器内視鏡学会総会,第26回日本膵臓学会大会,第31回日本胆道学会総会と,そのほか5つの学会の部分参加による合同学術集会である.

 グラム陰性桿菌のHelicobacter pyloriが,胃炎や消化性潰瘍疾患と密接に関連していることが知られるようになり,今回も消化器病学会と内視鏡学会で多くの演題が発表され,注目を集めたので報告する.

目でみる症例―検査結果から病態診断へ・32

アポE異常に伴う高脂血症一家族性Ⅲ型高脂血症

山村 卓

pp.953-957

検査結果の判定

1.アポEの分析

 アポEはVLDLやHDLのアポ蛋白成分の1つで,299個のアミノ酸から成る分子量約35,000の糖蛋白質である.アポEには対立遺伝子に基づく3種類の同位体(E4,E3,E2)が存在し,その分析には等電点電気泳動法(isoelectricfocusing;IEF)が用いられる.これまで,アポE同位体の分析はVLDLのアポ蛋白を等電点電気泳動することによって行われてきた.この方法は血清から超遠心法によってVLDLを分離する必要があり,時間と手間を要する.最近,アポ蛋白の特異抗体の入手が容易となり,血清を試料としてIEFを行い,イムノブロット法によりアポE同位体の分析を行う簡便法が用いられている.

海外レポート

スイス ザンクト・ガレン―Enzym Labor Dr.Weber

川本 真由美

pp.958-960

■スイス連邦

 ここスイス連邦は,フランス,ドイツ,オーストリア,イタリア,リヒテンシュタインに囲まれた,日本の九州よりも小さい,総人口約700万人という小国でありながら,フランス語,ドイツ語,イタリア語,ロマンシュ語を公用語としている.スイスには25のカントン(州)があり,それぞれが独自の規則を持っている.直接民主主義制度,永世中立国,チーズ,チョコレート,時計,観光,銀行の国として知られているのはご承知のとおりである.

 しかし実際に生活してみると,日本と比べて保守的であり,また物価高,税金高のためか人々は一般に高収入である.国民は勤勉であり,職種によって異なるが,一般に朝7時か8時には仕事を始め,8時間労働である(昼休みは労働時間に含めない).雪が降れば朝5時ごろから除雪,小石あるいは塩をまき,小さな通りも出勤するころには雪がないのはあたりまえで,花の季節になれば,花を植え,枯れ始めればまた別の花を植え,常にきれいに保っておくというのは驚くべきことである.私はチューリッヒから列車で1時間10分の所に位置するSt.Gallen (ザンクト・ガレン)に住んでいる.ここにはバロック様式の大きなカテドラルがあり,スイスに訪れた際には,ぜひ見ていただきたいほど見事である.

トピックス

lgE微量定量と臨床への応用

古川 漸 , 笹井 敬子

pp.961-964

 IgEはアレルギー性疾患の発症に関与する重要な因子で,その測定はアレルギー性疾患の診断に必要不可欠である.近年,低濃度域のIgEおよび抗原特異IgE抗体の簡便な測定法の進歩により微量IgE定量が可能となり,アレルギー性疾患の病態解明や予知に応用されつつある.

細菌性下痢症と嚢胞性線維症

飯田 哲也 , 本田 武司

pp.964-966

1.嚢胞性線維症とCl-イオンチャネル

 コレラ毒素による下痢に,腸管上皮細胞に存在するcAMP依存性Cl-イオンチャネルが関与していることは,生理学的な解析により早くから明らかにされていた1)が,その物質的な実体については多くの研究にもかかわらず不明であった.しかしながら,最近,遺伝病である嚢胞性線維症(cystic fibrosis;CF)の原因遺伝子が明らかにされたことにより,コレラ毒素による下痢惹起の機構についての研究が新たな局面を迎えている.

 CFは白色人種に多い常染色体劣性遺伝疾患で,米国では出生児2,500人に1人の割合で発症する.発育不全,慢性閉塞性肺疾患,膵機能不全といった臨床症状がみられ,治療をせずに放置すれば重篤な肺感染症や膵機能不全に伴う栄養不全のため幼少期に死亡する.障害の起こる臓器の病理学的な特徴としては,粘稠な分泌液による分泌管や分泌腺の閉塞と,これによる末梢組織の炎症,感染と線維化であり,これらの症状は主に分泌上皮でのイオンや水分輸送の障害による.1983年,Quinton2)がCF患者の汗腺でCl-イオンの透過性異常がみられることを報告して以来,CFの症状の本態がcAMP依存性Cl-イオンチャンネルの異常であることを示す成績が蓄積されてきていた3)

慢性関節リウマチと抗カルパスタチン抗体

三森 経世

pp.966-967

1.カルパスタチンとは

 カルパスタチン(calpastatin)とは,カルシウム依存性中性プロテアーゼの一種であるカルパイン(calpain)の特異的内在性阻害因子である.カルパインはカルパスタチンとともに哺乳動物細胞の細胞質内に普遍的に存在し,細胞内酵素(プロテインキナーゼCなど),細胞内細線維(ニューロフィラメント,ビメンチンなど),受容体蛋白(ステロイド受容体など)を基質として分解し,細胞の情報伝達や分化,増殖などに関与するものと考えられている.ヒトカルパスタチンは673アミノ酸残基から成り,推定分子量72,000の蛋白として合成されるが,SDS-PAGEではアミノ酸組成の特殊性から見かけ上110kDaに泳動される.構造的にはN末端のLドメインと,カルパイン阻害活性を持ち構造の類似するⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳの4つのドメインから構成される.

 筆者らは慢性関節リウマチ(RA)を中心とするリウマチ疾患に,抗カルパスタチン抗体が検出されることを初めて見いだしたので,ここに紹介しておきたい.

C型肝炎ウイルスとアルコール

池田 有成

pp.967-968

 C型肝炎ウイルス(HCV)が発見され,診断が可能になるにつれ,新しい病態が明らかになっている.アルコール性として扱われていた肝疾患のあるものはHCVに由来していた.また,飲酒が関連した代謝性疾患として扱われていた晩発性皮膚ポルフィリン症(porphyria cutanea tarda;PCT)もHCV感染の関与が示唆されている.以下,最近のトピックスについて述べる.

質疑応答 微生物

易感染患者を含む糞便培養検査

上杉 文子 , Q生

pp.969-970

 Q 便培養検査において病原菌以外のKlebsiellaoxytocaなどが有意に分離されることがありますが,病原性はあるのでしょうか.また,報告はどのようにしたらよろしいでしょうか.具体的にご教示ください.

質疑応答 臨床生理

純音聴力検査の平均値

深谷 卓 , 福田 靖

pp.970-971

 Q 「臨床検査』第39巻2号197ページに,純音聴力検査の平均値(PTA)は"通常は4分法(250Hz+500Hz+1,000Hz×2+2,000Hz)/4をとる"とあります.日常,純音聴力検査を行いオージオグラムに記載するときのPTAは(500Hz+1,000Hz×2+2,000Hz)/4で計算しています.この違いをご教示ください.

研究

糖尿病網膜症の重症度と血清アポリポ蛋白

川村 憲弥 , 奥住 裕二 , 森 三樹雄 , 門屋 講司 , 小原 喜隆

pp.973-976

 糖尿病網膜症の進行と血清アポリポ蛋白の関係を明らかにするため,糖尿病患者を次の4群に分類した.網膜症を有しない(NDR),単純網膜症(SDR),増殖網膜症(PDR),増殖網膜症で硝子体出血を有する(PDR+VH)に分類し,血清アポリポ蛋白(アポ蛋白A-Ⅰ,A-Ⅱ,B,C-Ⅱ,C-Ⅲ,E)を測定し,健常対照者と男性および女性群別に比較した.同時に血清脂質との関連についても検討した.アポ蛋白A-ⅠとA-Ⅱは各群間に差が見られなかったが,アポ蛋白B,C-Ⅱ,C-Ⅲ,EおよびB/A-Ⅰは男性および女性群ともに糖尿病各群で増加し,対照に対して有意に高値を示した.また女性群における各群間の比較ではアポ蛋白B,C-IIともに網膜症が最も進行したPDR+VHで有意の増加を示した.血清脂質(TC,TG)との関連では男性および女性群ともに糖尿病各群で増加し,TGでは対照に対して有意の高値を示した.以上のことから,アポ蛋白と血清脂質は網膜症の発症や進行に関与していると考えられた.

資料

ELISA法によるHelicobacter pylori IgG抗体測定キットの境界域に関する検討

櫻井 伊三 , 浪岡 知子 , 中川 泉 , 久住 幸一 , 箱崎 幸也 , 桑原 紀之

pp.977-979

 Helicobacter pylori (H.pylori)感染の診断におけるELISA法による血清抗体価の測定は有用であるが,カットオフ値付近の境界域範疇の検体をどう扱うかに問題がある.そこで,3種のH.pylori抗体測定キットを用いて,カットオフインデックスからこの問題に検討を加えた.その結果,6.5~17.3%の患者が境界域の範疇に入っており,キット間で差が認められた.また,培養法,組織学法,ウレアーゼ法の結果と一致しなかった検体は,大半が境界域であった.

肺小細胞癌マーカーProGRP測定試薬の性能評価

齋藤 美保 , 青柳 克己 , 山本 浩司 , 山本 茂博 , 三宅 嘉雄 , 児玉 哲郎 , 山口 建

pp.981-986

 肺小細胞癌の腫瘍マーカーとして高い感度と特異性を有するELISAを基本原理としたProGRP測定キットに関しての基礎的検討を行った.本キットは再現性,直線性,精度ともに良好な結果となり,共存物質の影響はみられなかった.検体の保存安定性については-20℃凍結保存では免疫活性の低下はほとんど認められず,全自動測定機器による測定も可能であったことから,検査室での多数検体の処理にも十分対応できると考えられる.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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