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雑誌目次

雑誌文献

臨床検査40巻13号

1996年12月発行

雑誌目次

今月の主題 基準値

巻頭言

基準値がなぜ注目されているのか

河合 忠

pp.1359-1360

 従来,臨床検査結果を判断する場合には正常値,正常範囲を"物差し"としてきた.しかし,正常値という言葉が一般市民,ときには医療関係者にも誤った印象を与えることが懸念されていた.すなわち,検診が広く行われるようになり,一般市民自身が臨床検査結果に大きな関心を持つようになった.そして,自分自身の検査値が正常値から少しでも外れると,"異常だ","病気だ"と考えがちであるし,正常値に入っていると,"正常だ","病気でない"と早合点する傾向がある.臨床検査結果の判読はそのように単純なものではなく,特に一見健康そうな市民が対象となる検診での結果の判読はかなりの専門的な知識を必要とする.

 もう1つの問題点は,医療関係者とりわけ臨床医の間で正常値という言葉を異なる意味で用いる傾向が広まり,医療関係者の間で相互理解に混乱が生じてきたということである.医師の間で混乱しているのであれば,当然保健婦,一般市民の間にも混乱が生ずることになる.本来は正常値とは,正常人(定義は明確ではないが,一般的に医学的に病気を持っていないと判断された人,すなわち健康人と考えてよいであろう)が示す測定値で,集団正常範囲とは平均値(中央値)±2標準偏差として求められたものである.しかし,近年,臨床検査結果と病気との関係がいろいろな立場から詳しく調査されるようになり,それによって臨床的に重要な関係が明らかになってきた.

総説

臨床検査精度保証での基準値(目標値)

片山 善章

pp.1361-1367

 最近,外部精度管理(external quality control;EQC)を外部精度保証(external quality assessment;EQA)と呼称するようになった.これはEQCが平均値に対なる評価であったのが,EQAは基準値(目標値)を持ったサーベイ試料を用い,評価は基準に対するバイアスで表現する.CDC-NHLBI脂質標準プログラムは基準値を持った試料のサーベイを行っている代表例である.日本医師会臨床検査精度管理調査は平均値による評価であるが,酵素項目について日本臨床化学会勧告法の常用基準法で値付(目標値)して試験的に目標値に対する評価を行っている.(臨床検査40:1361-1367,1996)

臨床的意思決定での基準値の意昧と使い方

河合 忠

pp.1369-1372

 医学的意思決定をするときに基準とする臨床検査の数値または結果を基準値(広義)と総称するが,一般的には医学的に健康と判断された個体について求められた数値または結果を基準値(狭義)とする.基準値には,個人基準値と集団基準値がある.集団基準値として,一般的に健康と判断された個体の95%を含む中央部分を基準範囲とする.臨床医学は本来個人が対象であって,個人基準値を基準にして判断すべきであるが,個人基準値がない場合には,次善の策として集団から求めた基準範囲を利用する.〔臨床検査40:1369-1372,1996〕

健康に関連した基準値

個人的健常値と生理的変動幅

田村 政紀

pp.1373-1377

 医療の原点は個人としての患者である.最終的な医療の処置のための意思決定レベルは個体が備えている基準値に依存せざるを得なくなる.個人の基準値とは何か,変動要因にはどのようなものがあるのか,どのようにして設定するのか,どのように使われるのか,高齢化社会に向かって長寿化の進む中,一病息災の健康寿命を生き抜くためにも,個人の診断基準は個人の基準値によるべきである.〔臨床検査40:1373-1377,1996〕

基準範囲・1 NCCLS―C28Aの内容概説

菅野 剛史

pp.1379-1382

 NCCLSが提示したreference interval (基準範囲)の求め方に対するガイドラインについて,その背景と内容の一部を紹介した.基本は,基準範囲を求めるための集団をどのように明確にするかであり,その手順と方法をできる限り記載したが,誌面の関係で要点だけとなっている.本文はこのガイドラインの一部であるので,実際の運用には,ガイドラインを参考にして運用されることが望ましい.〔臨床検査40:1379-1382,1996〕

基準範囲・2 基準範囲の設定における基準個体の選別・統計処理上の問題点と対応

市原 清志

pp.1383-1392

 "基準個体"をどう定義し,どう選別して,どのような条件で検体を採取するか.また基準群を層別化する目安をどうするか.さらに分布型についてどういう仮定をおいて計算するか,など基準範囲の設定は簡単そうで実は難しい.1992年に出されたNCCLSの指針(案)は,これまで曖昧であった基準範囲設定の全手順を洗い直し,一定の方針を示したという意味で評価される.しかしまだ加筆されるべき事項も多い.本稿ではその問題提起を行うとともに対応策を具体例に沿って述べた.特に重要なことは,"基準範囲"と"病態識別値"を区別して考えることで,いったいどちらを求めようとしているのかを常に明確にしておけば,自ずからその設定方針が定まる.〔臨床検査40:1383-1392,1996〕

基準範囲・3 共同作業による基準範囲設定と共同利用

伊藤 喜久

pp.1393-1397

 基準範囲の各施設間での共同利用は,信頼性の高い精度保証システムの下で測定の標準化が完成され,基準範囲設定法の確立とこれに基づく厳格な実行があって初めて導かれる.ここでは,血清蛋白測定のための新しい国際的標準品CRM470のわが国への導入を契機に,同一測定法を用いて統計学的処理法を駆使して完成された13項目の血清蛋白の基準範囲設定を1例に,基準範囲の設定,共同利用について紹介,考察した.〔臨床検査40:1393-1397,1996〕

臨床参考範囲

臼井 敏明

pp.1399-1402

 臨床参考範囲という言葉は日本ではしばしば患者データを用いて仮の正常値を推定するのに用いられる.その歴史的背景,計算法,評価方法,利用上の問題点,応用例などについて述べた.分析方法の標準化が進められている現在,できるだけ健常人を集めて正しい基準範囲を求めることが望まれる.〔臨床検査40:1399-1402,1996〕

病態識別値

成人病健診における判断基準

後藤 由夫

pp.1403-1408

 健診における判断基準が多様であると受診者に不信感を抱かせることになるので,施設間差は是正すべきである.検査の精度管理は向上したが,健診(人間ドック)そのものの精度管理は手つかずの状態である.政管健保被保険者を対象としている健診の末,標準化委員会では長年この問題に取り組んできたのでその結論を示した.その基準も実施の結果によって改訂すべきものである.今後は健診の膨大な追跡成績をもとに基準値を設定すべきと考える.〔臨床検査40:1403-1408,1996〕

ROC曲線の求め方と注意点

三宅 一徳

pp.1409-1413

 検査の臨床的有用性は,その診断精度(感度・特異度)に依存する.ROC曲線(receiver operating characteristic curve)は,カットオフ値の変更による感度と特異度(偽陽性率)の変化によって描かれ,検査の診断精度を表す特性図である.ROC曲線は診断精度の評価および比較に不可欠の手法であり,病態識別値の設定にも応用できる.本稿では,ROC分析の概念と作成上の注意点を述べた.〔臨床検査40:1409-1413,1996〕

腫瘍マーカーのカットオフ値

大倉 久直

pp.1415-1419

 血清腫瘍マーカーのカットオフ値は,癌と非癌を識別する値ではなく,その患者に癌を含むマーカー産生病変のある可能性が無視できないことを示す1つの境界値である.癌と鑑別を要する多くの良性疾患にカットオフ値を超える陽性例がある一方,正常基準値内の癌症例もまれでない.各腫瘍マーカーのカットオフ値とこれを超える場合の,各臓器癌ならびに良性疾患の確率を知っておくことは重要である.また,進行癌治療後の陰性化や再上昇は根治と再発を示す情報である.〔臨床検査40:1415-1419,1996〕

パニック値

松尾 収二

pp.1421-1425

 パニック値は即治療を要する危険な病態を示唆する異常値であり,速報すべき値である.その対象となる項目は速やかな意思決定を必要とする項目であれば何でもよく,値は臨床的有用性と検査室や診療の場での仕事量を勘案して決めるのが現実的である.速報に際しては,パニック値を漏れなく検出すること,報告書はよく目立ち,すぐに主治医に連絡できるようにすること,検査過誤のチェックが速やかに行えるようにすることが重要である.〔臨床検査40:1421-1425,1996〕

血中薬物濃度治療域

藤村 昭夫 , 坂本 公一

pp.1427-1432

 いくつかの薬物では安全かつ有効な血中濃度の範囲,いわゆる"血中薬物濃度治療域"が明らかにされている.治療域の狭い薬物や体内動態の個人差が大きい薬物ではそれを用いる場合,血中濃度を測定することが望ましいとされており,抗てんかん薬をはじめテオフィリン,ジギタリス剤,アミノ配糖体およびグリコペプチド系抗生物質,リチウム,抗不整脈薬,免疫抑制薬などの血中濃度は臨床で広く測定されている.治療域は絶対的なものではないが臨床上有用である.その利用にあたっては治療域が得られた背景や個々の薬物の体内動態を十分理解することが必要である.〔臨床検査40:1427-1432,1996〕

診断基準

糖尿病の診断基準

金澤 康徳

pp.1433-1434

1.糖尿病とは

 糖尿病はインスリン作用の不足により起こる慢性の高血糖を主徴とする疾患である.その状態が長期間にわたり続くことにより慢性の細小血管および大血管合併症をきたす.糖尿病により特異的と考えられる細小血管合併症(網膜症,腎症,神経障害)を起こし,進行させる血糖値を診断基準に設定する.

高脂血症の診断基準

中村 治雄

pp.1435

1.高脂血症とは

 一般に血清脂質の中で,コレステロール,トリグリセライド(中性脂肪)のいずれか一方,または両者の異常高値を意味している.高トリグリセライド血症に合併しやすい高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールの低値を含めることが多くなるとともに,レムナント,あるいはLp(a)高値をも指すことが多い.

高尿酸血症の診断基準

加賀美 年秀

pp.1437-1439

1.はじめに

 糖尿病,高脂血症,高窒素血症などの疫学的・臨床的研究の歴史とその深さに比し,わが国における痛風・高尿酸血症研究の歴史はきわめて浅く,したがって,今日に至るまで,高尿酸血症の診断基準に関連する事項の理論構成とその普及に乏しく,一般臨床医への説得性を欠いてきた.一方,食生活習慣の欧米化に応じ,わが国における痛風・無症候性高尿酸血症例は増加の一途をたどっている.

 このような背景のなかで,本年2月,日本プリン・ピリミジン代謝学会総会は,総会コンセンサス・カンファレンス"高尿酸血症・痛風の治療指針"において,資料を集約し,高尿酸血症の定義,血清尿酸の基準値,治療基準について,画期的ともいえる学会としての合意を得て,発表した.

免疫グロブリン欠乏症(原発性)の診断基準

窪田 哲朗

pp.1440-1441

 原発性免疫不全症候群には表1に示すような疾患が含まれる.これらの疾患を疑うきっかけとなる症状は易感染性であり,頻回に感染を繰り返し,しかも肺炎,髄膜炎,敗血症などの重症感染症や,日和見感染症などを起こしやすい.その場合に,個々の疾患に特徴的な症状,臨床所見などを参照しながら鑑別診断を進めていくことになる.機械的にあてはめればすむような診断基準はない.

 免疫グロブリン産生障害は主に表1のAの1および2に属する疾患に認められるが,これらのうちわが国における頻度の多い7疾患について,その特徴を表2に示した.ほかの疾患については文献1)を参照のこと.

呼吸不全(血液ガス異常)の診断基準

川上 義和

pp.1442

1.定義

 呼吸不全(respiratory failure)は,ガス交換の面から"肺ガス交換異常により血液ガス特に酸素分圧,炭酸ガス分圧が異常値を示し,そのため生体が正常な機能を営めない状態"と定義されている.したがって,呼吸器ばかりでなく循環器疾患,神経・筋疾患などあらゆる疾患が呼吸不全の状態になりうる.慢性呼吸不全はこのような状態が1か月以上続く場合を指すこと,としている.

蛋白尿の診断基準

鈴木 亨 , 下条 文武

pp.1443

1.はじめに

 蛋白尿は,血尿とともに腎および尿路系疾患の診断にとり,極めて重要な所見である.近年,蛋白尿の発生機序に関する研究は,飛躍的な進歩を遂げつつあるが,個々の疾患における蛋白尿の意義はさまざまである.したがって,蛋白尿の診断に関しても,画一的に考えることはできず,原疾患の正しい認識が大切である.

窒素血症の診断基準

鈴木 亨 , 下条 文武

pp.1444

1.はじめに

 血清中の蛋白以外の窒素化合物は以前から非蛋白窒素(non-protein nitrogen:NPN)として,尿素,尿酸,クレアチニンなどの成分を総称していた.正常者では,血中尿素窒素(blood ureanitrogen;BUN)がNPNの42~48%を占めている.BUNは腎糸球体から濾過され,一部尿細管で再吸収を受け,残りが尿中に排泄される.正常ではNPNの約50%を占めるBUNは,尿毒症では80~90%にも達する.BUNは,NPNとほぼ同様の臨床的意義を有するが,測定法が簡易であり,NPNより病態における変量が大きいため,現在ではBUNが窒素血症の指標として頻用されている.

今月の表紙 表在性真菌症の臨床検査シリーズ

まれな表在性または深在性皮膚真菌症の臨床検査・3

Paecilomyces SP.,Alternaria SP.およびScedosporium apiospermumによる皮膚の感染症

山口 英世 , 内田 勝久

pp.1354-1355

 Paecilomyces sp.は非着色性糸状菌,Alternariasp.は着色性(黒色)糸状菌であり,いずれも通常の環境中に生息する汚染菌とみなされているが,まれにヒトに感染症を引き起こす.Paecilomycessp.に起因する真菌症としては,角膜炎や術後眼内炎など眼の感染症が最も多いが,頻度は低いものの,皮膚真菌症,特に深在性皮膚真菌症の原因にもなる.主要原因菌種は,P.variotiiとP.lilacinusである.

 一方,Alternaria sp.は,表在性または深在性の皮膚真菌症の起因菌となることがあり,特に顔面に好発する.菌種としてはA.alternataが圧倒的に多く,A.tenuissimaがこれに次ぐ.

コーヒーブレイク

道は一原に出づ

屋形 稔

pp.1419

 永い間海外生活をしている検査診断学教室時代の弟子K君が夏休みに一時帰国をした.彼女は教室では学位論文をしあげ検査専門医の資格も取得した後,私の退官寸前に酵素検査の仕事をするために渡英した.1年後英国で大学院を受験したいと言ってきた.賛成してやると厳しい試練を乗り超えて数年後PH.Dも取得し,1年前からは米国の研究所へ移って頑張っている.すっかり洗練されて美しくなったが,研究は段々基礎のほうにはまりこみ,研究費の獲得も容易でないと言っていた.

 私の教室在任時代の最大痛恨時は国立大に講座がつくのが遅きに失したことである.全国では2番目に開講したが,退官まで10年に満たず,育成した弟子も彼女を含め10名足らずであった.それでもなべて卒業成績トップクラスの者が入局してくれ,検査専門医の資格を取得しT.Y.君やS.K.君のように関連の検査畑に進出した人もいる.A.S.君も外国留学後内科畑に進んだが,昨今内科から来る人の逆で,研究も意識的に検査を大切にしているから,それなりに頼もしい味方である.大方が母教室から離れてしまったが,それぞれの道で思う存分伸びてくれれば師としても果報である.

学会だより 第37回日本臨床細胞学会総会

21世紀の臨床細胞学にむけて

井上 勝一

pp.1445-1446

 第37回日本臨床細胞学会は,去る1996年5月30日~6月1日の間,すがすがしい初夏の盛岡で開催された.会長は岩手医科大学産婦人科西谷巌教授である.西谷教授が国内外で多年にわたり培われた業績を凝集した学会といっていい.

 今回の学会の特徴と趣旨は,会長講演"Cyto-metry:Image vs Flow"で述べられている.「細胞診は鋭敏な癌の検出法として評価は高いが,診断法としての特異性は未完成である.近年,癌細胞に特有の遺伝子型にかかわる研究が目覚ましく進歩した.これによって,増殖因子や遺伝子あるいは遺伝子産物が計量できるようになり,これらの不均衡が診断上の重要な情報になりつつある.さて,21世紀の細胞診はいかにあるべきか.形態所見に依存した細胞診から,客観化,自動化そして能率化をもたらす計量細胞診の確立に向けて……」.

学会だより 第16回国際臨床化学会議(ICCC)

第16回国際臨床化学会議ロンドンで開催

戸谷 誠之

pp.1463-1466

 第16回国際臨床化学会議(16th ICCC)は1996年7月17日から12日まで,ロンドンの北部郊外,ウェンベリーで開催された.

 この国際学会は1954年にアムステルダムで第1回会議が開催されて以来,3年ごとに開催されている.これまでの16回のうち,ヨーロッパ地域での開催が9回と圧倒的に多く,次いで南北アメリカ地域で6回,オセアニア地域が前回のメルボルンでの1回と,これまでアジア,アフリカ地域での開催はない.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

遺伝子検査室のデザインの基礎

引地 一昌

pp.1447-1450

はじめに

 遺伝子検査は急速に臨床検査の中に広がってきており,細菌・ウイルスの検出を手始めとしてキットも数多く発売されるようになってきた.遺伝子検査キットについては高い感度を追求していることから各種の核酸増幅法が用いられている.特に,PCR (polymerasechain reaction)に代表されるDNA増幅法,RNA増幅法(NASBA,3SR法など)では実施にあたって核酸の増幅産物によるコンタミネーションに対する注意が必要である1)

 遺伝子検査が広がっていくことにより検査室の設計,設備にっいても従来の検査室とは異なり,新しい概念が必要となってきた.ルーチン検査で核酸増幅法を用いて大量に同一検査を実施する場合にはコンタミネーションを防ぐために検査室の設計に工夫が必要である.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

肺炎マイコプラズマ

石田 一雄 , 賀来 満夫 , 嶋田 甚五郎

pp.1451-1455

はじめに

 肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)は,異型肺炎の主な起炎菌であり異型肺炎全体の30~40%を占める.小児や若年成人を中心に多く発症し,従来は4年ごとに流行がみられたが,最近は年あるいは季節に関係なく,小流行の形でみられるとされる1).本稿では,マイコプラズマ肺炎の診断における遺伝子診断の位置づけについて述べる.

トピツクス

質量分析の臨床検査への応用

中西 豊文 , 岸川 匡彦 , 宮崎 彩子 , 清水 章

pp.1456-1458

 質量分析法(mass spectrometry;MS)の臨床応用は,1966年,田中らのgas chromatography/MS (GC/MS)によるイソ吉草酸血症の化学診断に始まった.先天性の代謝酵素欠損によって蓄積した異常中間代謝物を尿から抽出し,GC/MSで検出・定量し,診断・治療に寄与している.わが国では,松本氏(金沢医大教授)らが中心になり,GC/MSによる尿中有機酸分析が実施され,先天性代謝異常症の研究に大きく貢献してきた.しかし将来,臨床検査に導入するには,定量性と分析精度を高め,ほかの検査項目と同様,精度管理を行う必要があると考える.筆者らの施設では,安定同位元素で標識した内部標準の多種類使用により分析精度が向上し,信頼性の高い定量値が得られた1)

 一方,近年高分子量化合物に対するMSのイオン化法の技術革新がめざましく100kDaを超える蛋白質などを高感度(10-18molレベル),高精度(<0.01%)で分析し得るソフトイオン化法(electrospray ionization; ESI, matrix-assisted laser desorption ionization;MALDI)が開発され,高分子量化合物の検出・構造解析に応用されている.異常ヘモグロビン(Hb)症,家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)では,蛋白質の1次構造の変異により惹起される.

質疑応答 臨床化学

血清中のシスタチンC,β2-マイクログロブリンの同時測定,測定値比率算定の意義

伊藤 喜久 , N生

pp.1459-1461

 Q 血清中のシスタチンCとβ2-マイクログロブリンの比はリンパ球増殖性の疾患の活動状態を反映するといわれていますが,そのとおりですか.またそのメカニズムを教えてください.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

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今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

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