icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床検査40巻2号

1996年02月発行

雑誌目次

今月の主題 活性酸素とSOD

巻頭言

活性酸素とSOD

片山 善章

pp.123-124

 1964年ごろからFridrichらは,生体酵素系でスーパーオキシド(O2またはO2が発生し,それを消去する酵素を発見した.O2が発見された当初は化学者の興味を引いたが,O2が白血球を刺激することによって生じ,しかも殺菌に関与していることが明らかにされてから臨床医学の領域で脚光を浴びるようになった.1969年にはMcCordがO2を特異的に消去する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)を同定した.その後,O2から生成するヒドロキシラジカル・OHや一重鎖項酵素1O2が生体の組織傷害の因子になっていることが注目されるようになった.また,近年,O2を代表とする活性酸素の臨床医学への応用に関する論文,成書が多くある.しかし,臨床検査領域においてはSOD活性測定については取り上げられてはいるが,"活性酸素とSOD"を主題とした特集はなかったように思う.

 酸素O2の一電子還元によって生じるO2,一電子還元とプロトン付加により産生される過酸化水素H2O2, H2O2の一電子還元によって生じる・OH, O2の励起状態である1O2の4種類の酸素代謝物を狭義に活性酸素という.これらの活性酸素は異物の融解作用や細胞外の組織に傷害を与える.その反応の強さは1O2≒・OH>H2O2>O2であると言われており,多くの場合O2から他の活性酸素が発生し,・OHは最も反応性は高く,細胞膜を攻撃する主因となっている.

活性酸素とSODの基礎知識

活性酸素の生成と生理的意義

坂岸 良克

pp.125-131

 "両刃の剣"とたとえられる酸素分子はその特殊な分子構造のため反応の際に巨大なエネルギーを放出する.

 その分子軌道は2個の不対電子を最外殻に持ち,常磁性を示す.しかし,通常の酸素(三重項酸素)が高エネルギー状態(一重項酸素)になり,あるいは1電子,2電子あるいは4電子還元を受け,またハロゲン化されると"活性酸素"と呼ばれる酸素分子種となる.これらの性状をまとめ,生理的意義を考えてみた.〔臨床検査40:125-131,1996〕

活性酸素と組織傷害

高橋 周史 , 吉川 敏一 , 近藤 元治

pp.132-136

 活性酸素による組織傷害は,活性酸素による細胞膜脂質の過酸化反応や生理的に重要な機能高分子の直接傷害に伴うもののほか,NOとの相互反応などに見られる微小循環系の制御を介したもの,あるいは細胞接着を介したものなどが複雑に絡んでいる.一方,近年活性酸素の情報伝達物質としての意義も明らかにされつつあり,疾患の病態解明,治療への応用を達成するためには,より多角的な活性酸素病態の解析が求められる.〔臨床検査40:132-136,1996〕

SODの種類と生理的意義

小川 健一 , 浅田 浩二

pp.137-145

 SODはスーパーオキシド(O2)を過酸化水素と酸素へ不均化する反応を触媒する酵素であり,銅と亜鉛を含むCuZn-SOD,鉄を含むFe-SOD,マンガンを含むMn-SODの3種が存在する.SODの反応は拡散律速であり細胞内では蛋白質濃度などが高いため拡散が抑制されることを考えると,SODの生理的機能にとってSODのO2生成部位,標的分子への局在性が重要である.〔臨床検査40:137-145,1996〕

SODの細胞内分布と修飾

鈴木 敬一郎 , 谷口 直之

pp.147-152

 3種類のSODのうちCu, Zn-SODは細胞質に存在し,高血糖状態でグリケーションを受け活性が低下する.このような活性低下は糖尿病や老化に関与するのみならず,家族性筋萎縮性側索硬化症において報告されている変異Cu, Zn-SODでも顕著で発症への関与が示唆される.

 また,ミトコンドリアに局在するMn-SODはTNFやIL-1などのサイトカインによって著明な誘導を受け,細胞保護に働いていると考えられる.また血清中のMn-SOD値は卵巣癌,急性心筋梗塞,原発性胆汁性肝硬変などの疾病で上昇しており,敗血症患者のARDS併発の予測にも有用である.〔臨床検査40:147-152,1996〕

活性酸素とSODの測定法

活性酸素の測定法

中野 稔 , 桜井 一志

pp.153-159

 活性酸素が各種の疾患に関与することはまず疑いないと思われるが,それらは反応性が高く不安定なため,特に生体試料での正確な定量はかなりの熟練と知識を要する.本章ではスーパーオキシド(O2),過酸化水素(H2O2),ヒドロキシルラジカル(OH)および一重項酸素(1O2)の4種類の活性酸素の測定法について記載したが,それぞれの反応性を十分考慮した上で目的にあった測定系を選択し,できれば複数の方法で確認することが望まれる.〔臨床検査40:153-159,1996〕

SODの測定―臨床的意義との関連

福島 啓吾 , 一二三 恵美 , 宇田 泰三

pp.160-165

 各SODの分別測定が行えるELISAについて,原理および詳細な測定操作を述べた.この方法は,活性測定法に比べて感度・再現性とも良く操作も簡単である.この方法を用いてCu, Zn-SODについては各種消化器疾患および新生児における日齢変化を概説し,またMn-SODについては悪性卵巣腫瘍および肝疾患での血清SOD量の変化に関するこれまでの報告をまとめた.また両SODの腫瘍マーカーとしての可能性についても触れた.〔臨床検査40:160-165,1996〕

活性酸素と病態

心筋虚血

星合 清隆 , 中澤 博江 , 広田 有希

pp.166-170

 虚血に陥った心筋はATPが減少し,乳酸などの代謝産物の蓄積によるアシドーシスが生じる.また細胞内Ca2+が上昇しミトコンドリア機能が傷害される.この準備状態の心筋に虚血の解除を目的として再灌流(酸素の再供給)するとO2やH2O2などの活性酸素が発生する.これらは遷移金属イオンの存在下でさらに活性な分子種を生成し,細胞膜脂質や蛋白を攻撃する.またO2は一酸化窒素(NO)と反応してNOを消去し,血流障害や白血球の粘着の増悪因子となる.再灌流傷害に対してSODや抗酸化剤を投与した膨大な成績の中で,これらに心筋壊死の減少効果がないとする報告も多い.その原因は実際に組織傷害をきたす活性酸素種と,それらのターゲットが明確でないこと,SODなどの治療薬のターゲットへの到達に問題があるためと考えられている.〔臨床検査40:166-170,1996〕

脳虚血

北川 一夫 , 松本 昌泰 , 鎌田 武信

pp.171-175

 脳虚血,再灌流に伴い活性酸素が産生することは電子スピン共鳴法,極微弱発光法などのフリーラジカル検出手段の進歩により明らかになってきた.その産生源としては神経細胞,グリア細胞,血管内皮細胞,血管内好中球など想定されており,SODをはじめとしたフリーラジカルスカベンジャーの虚血脳保護効果が明らかとなっている.近年,脳虚血による神経損傷に一酸化窒素(NO)が関与することが示され,NOとO2との反応により発生する強力なフリーラジカルであるペルオキシニトライトの虚血病態への関与が注目される.〔臨床検査40:171-175,1996〕

糖尿病―フリーラジカルと抗酸化機構の変動

朝山 光太郎

pp.176-180

 糖尿病では高血糖のために蛋白糖化が亢進するが,この反応には活性酸素が関与しており,生じた糖化蛋白からも活性酸素が産生され,脂質過酸化が促進される.血清の抗酸化物質は予防的抗酸化物質とラジカル消去剤に大別されるが,糖尿病ではこのいずれの防御機構にも機能低下が認められる.細胞内の抗酸化酵素も変動をきたしており,細胞内NADPHやグルタチオンの生成障害もあるために,酸化的ストレスが増加している.糖尿病においては,プロスタノイドの代謝にも変動が起こり,活性酸素の産生の亢進とともに,血管内皮細胞の傷害の原因となっている.体内における遷移金属や抗酸ビタミンCの代謝の変動,蛋白代謝の変動も,糖尿病における酸化的ストレスと関連した異常である.糖尿病では多種類の代謝系の変動によって,種々の部位で酸化・抗酸化のアンバランスが生じ,活性酸素が関与して細小血管障害と動脈硬化の両方の成因になり得ると考えられる.〔臨床検査40:176-180,1996〕

肝疾患

黒瀬 巌 , 石井 裕正

pp.181-187

 各種肝疾患や病態において活性酸素の役割が報告されている.他の臓器と同様に,活性酸素の産生系と消去系のバランスの破綻は,肝内における酸素ストレス(oxidative stress)を介した細胞障害を惹起する.また,活性酸素による攻撃の標的としては,脂質を多く含む細胞膜や酵素を含有する細胞内小器官のほか,核酸(DNA)が挙げられる.したがって,酸素ストレスによる肝障害過程を解明する場合,細胞死の形態としてネクローシス(壊死)のみならず,DNA断片化により惹起されるアポトーシスが重要な概念となってくる.本稿においては,肝臓,特に肝細胞における活性酸素の産生系と消去系について述べるほか,酸素ストレスを介した細胞障害過程,機序について概説した.〔臨床検査40:181-187,1996〕

腎疾患

青柳 一正

pp.188-191

 活性酸素は尿細管を傷害し急性腎不全を起こすばかりでなく,糸球体障害であるピューロマイシンアミノヌクレオシドによる活性酸素増加はネフローゼを引き起こす.尿毒症起因物質とされるグアニジノコハク酸は尿素回路のアルギニノコハク酸から,メチルグアニジンはクレアチニンから活性酸素により産生される.慢性腎不全の進展因子としてラジカルによる尿細管細胞障害が示唆される.〔臨床検査40:188-191,1996〕

自己免疫疾患

神宮 政男

pp.192-196

 自己免疫疾患(膠原病)では細胞免疫異常が病因・病態に関与する.細胞免疫異常や病態には活性酸素が関与している.液性免疫の異常である補体活性フラグメントや免疫複合体は好中球・単球/マクロファージなどを刺激し,NADPH酸化酵素が活性化され,スーパーオキシドが生成・細胞外遊離される.引き続き生成されるその他の活性酸素種を含め,活性酸素は細胞傷害・蛋白分子の変性などを惹起することにより組織を傷害する.〔臨床検査40:192-196,1996〕

児玉 昌彦

pp.197-200

 癌(悪性腫瘍)の原因は,物理的,化学的,生物的と多様だが,酸素ラジカルはすべてに共通したキーワードとなっている.放射線も発癌物質も,酸素ラジカルによって細胞増殖を刺激し,遺伝子を不可逆的に変化させる.ウイルス感染や慢性炎症,ホルモン異常の場合にも,酸素ラジカルは情報伝達の歯車の1つとして,がっちり組みこまれている.癌細胞は,酸素ラジカルに満ちた細胞環境で生まれた異端児なのだ.

 酸素ラジカルは,癌治療にも広く応用されている.放射線,制癌剤,光増感,温熱療法,免疫療法.最近は,癌細胞内の酸素ラジカルを高めて,自殺へ誘導する試みも行われている.

 しかし,今後,最も望まれるのは,体外,体内のラジカルをコントロールすることによって,癌という異端児を生まない体内環境作りをすることであろう.〔臨床検査40:197-200,1996〕

今月の表紙 表在性真菌症の臨床検査シリーズ

皮膚カンジダ症―2.培養検査および分子生物学的検査

山口 英世 , 内田 勝久 , 村山 琮明

pp.118-119

 皮膚真菌症の原因菌が,直接鏡検や鑑別培地上の発育性状からCandida albicans,少なくともCandida属菌種と推定された場合には,分離株について同定検査を行って菌種(したがって診断)を確定することが望ましい.この目的に用いられる主な検査法は,形態学的検査と生理学的検査である.

 Candidaに限らず,一般に病原性酵母の形態学的性状を調べる検査法としては,スライド培養法やダルモ平板法(画線培養法)が広く用いられている.これらの方法によって作成された光学顕微鏡観察用標本から,菌糸,特に仮性菌糸の形成の有無,菌糸の発育形態と様式の特徴,形成される無性胞子のタイプなどを容易に知ることができる.この検査には,旺盛な仮性菌糸発育や無性胞子形成を促すという理由から,コーンミール寒天(ツイーン80含有または非含有)が最適である.

コーヒーブレイク

花火百景

屋形 稔

pp.131

 去年の7月に秋田の大曲市で臨床化学の会があり,時期が早かったが名物の花火のはしりを見せていただいた.盛夏の夜を彩る花火は昔から日本人の趣向に合うものとして愛され続けてきたが,外国でもしばしば夜空をキャンバスに美しく描かれる図を見るようになった.40年近くも前になるがサンフランシスコの金門橋の畔りで市街をバックに見た花火は,あまりに大きな金門湾の広がりのせいで花火が小さく見えた.当時単身留学の心細さもあったのか花火を見て望郷の念にかられたのが昨日のように思い出される.

 花火には絢爛さの中に潜む哀傷が人の心を魅きつけるのかもしれない.炎暑のなかにやがて来る秋の訪れを予感し逝く夏を惜しむうつろいの情感が一瞬心をよぎるのである.新潟でも信濃川にあがる花火が年々豪華さを増してきたが,戦時下でさえこの花火を経験した覚えがある.旧制高校の頃であったが寮の前の通称ドッペリ(落弟)坂の砂の上にマントを布いて寝そべり,申しわけのようにポツンとあがる花火を遠く眺めた.やがて戦場に駆り出される我が身のような果敢なさを覚えたのが心に刻まれている.

学会だより 第42回日本臨床病理学会総会

感銘を受けた総会長講演/臨床病理学新時代の幕開け

片山 善章

pp.201-202

 第42回日本臨床病理学会総会が1995年11月16日~18日の3日間,自治医科大学臨床病理学教授の河合忠先生を総会長として,宇都宮市の総合文化センターにおいて開催された.今回の総会は以下の3点が大きな特徴であったと思われた.

 (1)海外からの演者による特別講演,招待講演,指定講演,一般講演の企画.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Technology編

ハイブリダイゼーション(総論)

川口 竜二 , 引地 一昌

pp.203-208

ハイブリダイゼーションの原理

 一本鎖化されたDNAは親和性の高い他の一本鎖DNAやRNAとそれぞれ水素結合をすることができ,2本鎖を形成する.この2本鎖の形成は塩基の相補性により行われる.すなわち,アデニン(A)はチミン(T)〔またはウラシル(U)〕と2重結合で,またシトシン(C)はグアニン(G)と3重結合を行う.この塩基鎖同士が結合することをハイブリダイゼーション(対合)と呼ぶ.通常DNAは2本鎖で存在するが,熱変性により容易に一本鎖化する.そこで,あらかじめ配列が明らかな標識した遺伝子(プローブ:probe)とハイブリッドを形成するかどうかを調べることで目的遺伝子を検査(または解析)することができる.そのためのいくつかの方法が開発されている.

シリーズ最新医学講座―遺伝子診断 Application編

出生前診断

種村 光代 , 鈴森 薫 , 八神 喜昭

pp.209-212

はじめに

 出生前診断(prenatal diagnosis)とは,胎児が重篤で致死的な遺伝性疾患などに羅患している可能性があり,なんらかの手法により精度の高い診断情報が得られる場合に,妊娠中の母体を通して,出生する前の児の予後を知るものである1).遺伝子診断技術を導入する際には,一般的に,絨毛,羊水,胎児血が使用されることが多い.しかし,最近欧米では,着床前診断(preimplantation diagnosis)という,受精卵を用いて診断を行う方法も開発され2),出生前診断の領域は飛躍的に拡大しつつある.

 本稿では,最近開発されてきた新しい技術の紹介も加えながら,産科臨床における出生前診断の実際について解説する.

トピックス

フローサイトメトリーを用いた尿中単核球の解析―腎疾患診療への応用

堀田 修

pp.214-215

 血尿を有する患者の診療に際し,内科的疾患であるか,泌尿器科的疾患であるかの鑑別,さらには,内科的腎疾患が疑われた場合,いかなる腎症が存在するかの2点が問題となる.筆者らは尿中単核球の解析が血尿患者の疾患ならびに病態の鑑別にきわめて有用であることを見いだしたのでここに紹介する.

 血尿を呈し,進行性の経過をたどる糸球体疾患はいずれも基本的には,増殖性糸球体腎炎の形態をとる.現在,全国で約15万人の慢性腎不全患者が透析医療を受け,その数は年々約1万人ずつ増加を続けている.その中で増殖性糸球体腎炎は糖尿病性腎症と並び,慢性腎不全の最も主要な原因疾患群である.

ポリフェノールと健康

板倉 弘重

pp.216-217

1.はじめに

 活性酸素あるいはフリーラジカルが動脈硬化や癌,老化その他種々の病態を引き起こすことが知られ,抗酸化防御系が健康の維持に重要であるとされる.抗酸化防御系に大切な栄養素としてビタミンE,ビタミンC,β-カロチンあるいはセレニウムなどが知られているが,この他にも食品に含まれる抗酸化物質としてポリフェノールが最近注目されるようになった.

ビタミンEとストレス

平原 文子

pp.218-219

 塞冷暴露に対する生体の反応から生まれたストレスの概念は,汎適応症候群の全身的なものから,局所炎症,創傷などの局所的なものもあり,いまだ定義づけられているものではない.ビタミンE (以下Eと略す)研究の分野では,通常は酸化的ストレス(oxidative stressまたはoxidantstress,以下ストレスと略す)を指し,酸素分子の還元で生じる活性酸素(表1)がストレスの原因となる.生物にはこれらの活性酸素を消去する酵素,スーパーオキシドジスムターゼやカタラーゼなどが備わっており,通常は活性酸素の生成と消去の間にはバランスが保たれている.合目的なことに,過剰の活性酸素が細胞内で生じるような場合にはこれらの消去機構が誘導される.さらに活性酸素によって生じたDNA損傷を修復するシステムも重要な防御機構であり,SOS応答反応として,あるいは適応応答の結果として活性酸素によって誘導される.しかし,負荷が過剰なときは活性酸素の産生を介して生じる多くの変化が生体に種々の障害をもたらし,病態的変化が発生する.それに対して,Eをはじめとする活性酸素消去剤の補給はこれらの症状の予防や軽減に有効とされている.

血清アミロイドA4(SAA 4)

山田 俊幸

pp.220-221

 血清アミロイドA (serum amyloid A: SAA)は,炎症時にその濃度が著増する急性相反応物質(APR)の1つであり,その名のとおりAA (2次性)アミロイドーシスでの沈着線維の前駆体として知られている.SAAには遺伝子多型が存在し,これまでいくつかの亜型の追加がなされてきたが,最近新しいアイソタイプのcDNAと対応する蛋白の同定がなされ,APRとしての性質を示さないことから構造SAAと命名された1).現在では,この新タイプはSAA 4と呼ぶほうが一般的である.ここでヒトSAAファミリーをまとめると,APRとしての性質を有し,アミロイド前駆体となりうるのがSAA 1, SAA 2であり,遺伝子SAA 3は非発現,それにSAA 4とおおまかに分類される.参考までに現在商品化されている測定試薬はAPRとしてのSAA 1, SAA 2を定量するものである.

 SAA 4とSAA 1の一次構造相同性は50%,前者にはその中程に8個のペプチドが挿入されている(図1).そのため糖鎖結合部位が生じ,血清中では糖鎖結合型(分子量約16,000),非結合型(13,000)がほぼ同量存在している(図2).生理的状態ではSAA 4血中濃度は50~100μg/mlで(APR-SAA基礎レベルの約10倍),炎症時にはむしろ低下する傾向にある2)

質疑応答 一般検査

便潜血反応で触媒法が陰性で免疫法が陽性になる原因

三宅 一徳 , 河合 喜久子

pp.222-223

 Q 便潜血反応で,触媒法(便潜血スライド5,シオノギ)が陰性で免疫法(メイチェックヘモプレートGS)が陽性のことがありました.触媒法が陽性で免疫法が陰性のことはあるのですが,逆のことが起こる原因は何でしょうか.お教えください.

尿沈渣中の封入体細胞

伊藤 機一 , 成田 浩喜

pp.223-226

 Q 小児科からの尿検査で,尿沈渣に封入体細胞が検出されました.これはどのように考えたらよいのでしょうか.また,封入体細胞の臨床的意義についてもご教示ください.

研究

白血球DNA定量に及ぼすホルマリン固定の影響

桑岡 勲 , 中西 和夫 , 長谷 一憲 , 山崎 亜矢子 , 桑名 恭子 , 坂田 優美 , 古賀 順子 , 長家 尚

pp.227-230

 ホルマリン固定パラフィン包埋切片標本からのDNA定量は組織との対比が可能である利点を有するが,その定量性が低下する欠点が存在する.この定量性が失われる要因を明らかにするために,リンパ球,顆粒球,単球の3者を全く同一条件下でホルマリン固定の影響をDNA定量して検討した.ホルマリン固定は細胞質のみならず核にも直接影響し,かつその影響の程度は細胞の種類によって異なるため定量性が低下することがわかった.

慢性関節リウマチ患者における免疫グロブリンクラス別リウマトイド因子測定

北橋 繁 , 水原 祐次 , 松井 正 , 巽 典之 , 小池 達也 , 油谷 安孝

pp.231-235

 RA患者を中心に,免疫グロブリンクラス別RFとしてエイテストIgGRF(エーザイ)とイムノエリット・RF(G)(東洋紡)をELISA法で測定した.臨床との関連性は,IgG・RFとstageの間で関係が認められ,G-RFと異なる結果であった.これは主に,G-RFの二次標識抗体のクラス特異性の問題からIgMに属するRFによる影響が考えられた.クラス別RFでは,標識抗体のクラス特異性によって測定結果が異なり,これが施設間差の一因となる.標準品が作製されていないことから今後,測定単位の統一が必要であると考えられる.

私のくふう

セロファンチューブを用いた簡単な透析培養法

実川 裕子 , 長島 陽子

pp.236

 従来,培地由来の高分子を含まずに菌産生蛋白のみを簡便に得る方法としてセロファン表面培養法が行われている.この方法は,特に培養液を濃縮しなくても高濃度の蛋白を含む培養液が得られるので,基礎的研究のみならず,臨床検査の領域でも毒素産生性などの検討に用いられている.しかし,従来の方法では製作者によって装置にバラツキができ,また,三角フラスコを使用するので培養スペースなどの問題もあって,一度に多数の菌株を培養することはかなり困難であった.そこで,今回筆者らはより簡便な方法として中試験管を用いていくつかのくふうを試みてみた.

資料

妊娠・非妊娠のChlamydia抗原検出および年度別・年齢別の陽性率

山本 豊 , 松本 裕史

pp.237-239

 昭和62年8月12日から平成7年3月31日(1987~1995)までの期間において,当院産婦人科を受診した妊婦(15~20週),および非妊婦の子宮頸管炎などを疑う患者計11,917症例について,Chlamydia trachomatis抗原の検出を年度別に試み,陽性率を検討した.全体の陽性率は6.5%であり妊婦5,711症例の陽性率は3.5%,非妊婦6,206症例の陽性率は9.2%であった.

 年齢別による妊婦,非妊婦の11,105症例は昭和63年4月から平成7年3月までの期間非妊婦(15~20歳)20.3%,妊婦(15~20歳)13.2%,非妊婦の若年層に陽性率が高かった.年度別では妊婦における陽性率はわずかであるが年々増加の傾向がみられた.また非妊婦では年度別増加はないものの妊婦に比べ依然として高い陽性率を示した.

TMA-HPA法によるHLA-DRB 1タイピングキットの評価

平田 蘭子 , 前田 平生 , 菅野 優子 , 安田 広康 , 大戸 斉

pp.241-247

 非RIで,SSO法の一種であるTMA-HPA法によるHLA-DRB 1タイピングキットを検討した.その結果,検討した176検体のうち判定可能率は99.4%であり,血清学的結果との一致率は100%であった.本法は,簡便,正確,短時間に多数検体をタイピングでき,移植医療でのHLA-DNAタイピングに有用であると考えられた.

基本情報

臨床検査

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1367

印刷版ISSN 0485-1420

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

64巻12号(2020年12月発行)

今月の特集1 血栓止血学のトピックス—求められる検査の原点と進化
今月の特集2 臨床検査とIoT

64巻11号(2020年11月発行)

今月の特集1 基準範囲と臨床判断値を考える
今月の特集2 パニック値報告 私はこう考える

64巻10号(2020年10月発行)

増刊号 がんゲノム医療用語事典

64巻9号(2020年9月発行)

今月の特集1 やっぱり大事なCRP
今月の特集2 どうする?精度管理

64巻8号(2020年8月発行)

今月の特集1 AI医療の現状と課題
今月の特集2 IgG4関連疾患の理解と検査からのアプローチ

64巻7号(2020年7月発行)

今月の特集1 骨髄不全症の病態と検査
今月の特集2 薬剤耐性カンジダを考える

64巻6号(2020年6月発行)

今月の特集 超音波検査報告書の書き方—良い例,悪い例

64巻5号(2020年5月発行)

今月の特集1 中性脂肪の何が問題なのか
今月の特集2 EBLM(evidence based laboratory medicine)の新展開

64巻4号(2020年4月発行)

増刊号 これで万全!緊急を要するエコー所見

64巻3号(2020年3月発行)

今月の特集1 Clostridioides difficile感染症—近年の話題
今月の特集2 質量分析を利用した臨床検査

64巻2号(2020年2月発行)

今月の特集1 検査でわかる二次性高血圧
今月の特集2 標準採血法アップデート

64巻1号(2020年1月発行)

今月の特集1 免疫チェックポイント阻害薬—押さえるべき特徴と注意点
今月の特集2 生理検査—この所見を見逃すな!

63巻12号(2019年12月発行)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向
今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

63巻11号(2019年11月発行)

今月の特集1 腎臓を測る
今月の特集2 大規模自然災害後の感染症対策

63巻10号(2019年10月発行)

増刊号 維持・継続まで見据えた—ISO15189取得サポートブック

63巻9号(2019年9月発行)

今月の特集1 健診・人間ドックで指摘される悩ましい検査異常
今月の特集2 現代の非結核性抗酸菌症

63巻8号(2019年8月発行)

今月の特集 知っておきたい がんゲノム医療用語集

63巻7号(2019年7月発行)

今月の特集1 造血器腫瘍の遺伝子異常
今月の特集2 COPDを知る

63巻6号(2019年6月発行)

今月の特集1 生理検査における医療安全
今月の特集2 薬剤耐性菌のアウトブレイク対応—アナタが変える危機管理

63巻5号(2019年5月発行)

今月の特集1 現在のHIV感染症と臨床検査
今月の特集2 症例から学ぶフローサイトメトリー検査の読み方

63巻4号(2019年4月発行)

増刊号 検査項目と異常値からみた—緊急・重要疾患レッドページ

63巻3号(2019年3月発行)

今月の特集 血管エコー検査 まれな症例は一度みると忘れない

63巻2号(2019年2月発行)

今月の特集1 てんかんup to date
今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

63巻1号(2019年1月発行)

今月の特集1 発症を予測する臨床検査—先制医療で5疾病に立ち向かう!
今月の特集2 薬の効果・副作用と検査値

62巻12号(2018年12月発行)

今月の特集1 海外帰りでも慌てない旅行者感染症
今月の特集2 最近の輸血・細胞移植をめぐって

62巻11号(2018年11月発行)

今月の特集1 循環癌細胞(CTC)とリキッドバイオプシー
今月の特集2 ACSを見逃さない!

62巻10号(2018年10月発行)

増刊号 感染症関連国際ガイドライン—近年のまとめ

62巻9号(2018年9月発行)

今月の特集1 DIC診断基準
今月の特集2 知っておきたい遺伝性不整脈

62巻8号(2018年8月発行)

今月の特集 女性のライフステージと臨床検査

62巻7号(2018年7月発行)

今月の特集1 尿検査の新たな潮流
今月の特集2 現場を変える!効果的な感染症検査報告

62巻6号(2018年6月発行)

今月の特集1 The Bone—骨疾患の病態と臨床検査
今月の特集2 筋疾患に迫る

62巻5号(2018年5月発行)

今月の特集1 肝線維化をcatch
今月の特集2 不妊・不育症医療の最前線

62巻4号(2018年4月発行)

増刊号 疾患・病態を理解する—尿沈渣レファレンスブック

62巻3号(2018年3月発行)

今月の特集1 症例から学ぶ血友病とvon Willebrand病
今月の特集2 成人先天性心疾患

62巻2号(2018年2月発行)

今月の特集1 Stroke—脳卒中を診る
今月の特集2 実は増えている“梅毒”

62巻1号(2018年1月発行)

今月の特集1 知っておきたい感染症関連診療ガイドラインのエッセンス
今月の特集2 心腎連関を理解する

60巻13号(2016年12月発行)

今月の特集1 認知症待ったなし!
今月の特集2 がん分子標的治療にかかわる臨床検査・遺伝子検査

60巻12号(2016年11月発行)

今月の特集1 血液学検査を支える標準化
今月の特集2 脂質検査の盲点

60巻11号(2016年10月発行)

増刊号 心電図が臨床につながる本。

60巻10号(2016年10月発行)

今月の特集1 血球貪食症候群を知る
今月の特集2 感染症の迅速診断—POCTの可能性を探る

60巻9号(2016年9月発行)

今月の特集1 睡眠障害と臨床検査
今月の特集2 臨床検査領域における次世代データ解析—ビッグデータ解析を視野に入れて

60巻8号(2016年8月発行)

今月の特集1 好塩基球の謎に迫る
今月の特集2 キャリアデザイン

60巻7号(2016年7月発行)

今月の特集1 The SLE
今月の特集2 百日咳,いま知っておきたいこと

60巻6号(2016年6月発行)

今月の特集1 もっと知りたい! 川崎病
今月の特集2 CKDの臨床検査と腎病理診断

60巻5号(2016年5月発行)

今月の特集1 体腔液の臨床検査
今月の特集2 感度を磨く—検査性能の追求

60巻4号(2016年4月発行)

今月の特集1 血漿蛋白—その病態と検査
今月の特集2 感染症診断に使われるバイオマーカー—その臨床的意義とは?

60巻3号(2016年3月発行)

今月の特集1 日常検査からみえる病態—心電図検査編
今月の特集2 smartに実践する検体採取

60巻2号(2016年2月発行)

今月の特集1 深く知ろう! 血栓止血検査
今月の特集2 実践に役立つ呼吸機能検査の測定手技

60巻1号(2016年1月発行)

今月の特集1 社会に貢献する臨床検査
今月の特集2 グローバル化時代の耐性菌感染症

59巻13号(2015年12月発行)

今月の特集1 移植医療を支える臨床検査
今月の特集2 検査室が育てる研修医

59巻12号(2015年11月発行)

今月の特集1 ウイルス性肝炎をまとめて学ぶ
今月の特集2 腹部超音波を極める

59巻11号(2015年10月発行)

増刊号 ひとりでも困らない! 検査当直イエローページ

59巻10号(2015年10月発行)

今月の特集1 見逃してはならない寄生虫疾患
今月の特集2 MDS/MPNを知ろう

59巻9号(2015年9月発行)

今月の特集1 乳腺の臨床を支える超音波検査
今月の特集2 臨地実習で学生に何を与えることができるか

59巻8号(2015年8月発行)

今月の特集1 臨床検査の視点から科学する老化
今月の特集2 感染症サーベイランスの実際

59巻7号(2015年7月発行)

今月の特集1 検査と臨床のコラボで理解する腫瘍マーカー
今月の特集2 血液細胞形態判読の極意

59巻6号(2015年6月発行)

今月の特集1 日常検査としての心エコー
今月の特集2 健診・人間ドックと臨床検査

59巻5号(2015年5月発行)

今月の特集1 1滴で捉える病態
今月の特集2 乳癌病理診断の進歩

59巻4号(2015年4月発行)

今月の特集1 奥の深い高尿酸血症
今月の特集2 感染制御と連携—検査部門はどのようにかかわっていくべきか

59巻3号(2015年3月発行)

今月の特集1 検査システムの更新に備える
今月の特集2 夜勤で必要な輸血の知識

59巻2号(2015年2月発行)

今月の特集1 動脈硬化症の最先端
今月の特集2 血算値判読の極意

59巻1号(2015年1月発行)

今月の特集1 採血から分析前までのエッセンス
今月の特集2 新型インフルエンザへの対応—医療機関の新たな備え

58巻13号(2014年12月発行)

今月の特集1 検査でわかる!M蛋白血症と多発性骨髄腫
今月の特集2 とても怖い心臓病ACSの診断と治療

58巻12号(2014年11月発行)

今月の特集1 甲状腺疾患診断NOW
今月の特集2 ブラックボックス化からの脱却—臨床検査の可視化

58巻11号(2014年10月発行)

増刊号 微生物検査 イエローページ

58巻10号(2014年10月発行)

今月の特集1 血液培養検査を感染症診療に役立てる
今月の特集2 尿沈渣検査の新たな付加価値

58巻9号(2014年9月発行)

今月の特集1 関節リウマチ診療の変化に対応する
今月の特集2 てんかんと臨床検査のかかわり

58巻8号(2014年8月発行)

今月の特集1 個別化医療を担う―コンパニオン診断
今月の特集2 血栓症時代の検査

58巻7号(2014年7月発行)

今月の特集1 電解質,酸塩基平衡検査を苦手にしない
今月の特集2 夏に知っておきたい細菌性胃腸炎

58巻6号(2014年6月発行)

今月の特集1 液状化検体細胞診(LBC)にはどんなメリットがあるか
今月の特集2 生理機能検査からみえる糖尿病合併症

58巻5号(2014年5月発行)

今月の特集1 最新の輸血検査
今月の特集2 改めて,精度管理を考える

58巻4号(2014年4月発行)

今月の特集1 検査室間連携が高める臨床検査の付加価値
今月の特集2 話題の感染症2014

58巻3号(2014年3月発行)

今月の特集1 検査で切り込む溶血性貧血
今月の特集2 知っておくべき睡眠呼吸障害のあれこれ

58巻2号(2014年2月発行)

今月の特集1 JSCC勧告法は磐石か?―課題と展望
今月の特集2 Ⅰ型アレルギーを究める

58巻1号(2014年1月発行)

今月の特集1 診療ガイドラインに活用される臨床検査
今月の特集2 深在性真菌症を学ぶ

57巻13号(2013年12月発行)

今月の特集1 病理組織・細胞診検査の精度管理
今月の特集2 目でみる悪性リンパ腫の骨髄病変

57巻12号(2013年11月発行)

今月の特集1 前立腺癌マーカー
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査②

57巻11号(2013年10月発行)

特集 はじめよう,検査説明

57巻10号(2013年10月発行)

今月の特集1 神経領域の生理機能検査の現状と新たな展開
今月の特集2 Clostridium difficile感染症

57巻9号(2013年9月発行)

今月の特集1 肺癌診断update
今月の特集2 日常検査から見える病態―生化学検査①

57巻8号(2013年8月発行)

今月の特集1 特定健診項目の標準化と今後の展開
今月の特集2 輸血関連副作用

57巻7号(2013年7月発行)

今月の特集1 遺伝子関連検査の標準化に向けて
今月の特集2 感染症と発癌

57巻6号(2013年6月発行)

今月の特集1 尿バイオマーカー
今月の特集2 連続モニタリング検査

57巻5号(2013年5月発行)

今月の特集1 実践EBLM―検査値を活かす
今月の特集2 ADAMTS13と臨床検査

57巻4号(2013年4月発行)

今月の特集1 次世代の微生物検査
今月の特集2 非アルコール性脂肪性肝疾患

57巻3号(2013年3月発行)

今月の特集1 分子病理診断の進歩
今月の特集2 血管炎症候群

57巻2号(2013年2月発行)

今月の主題1 血管超音波検査
今月の主題2 血液形態検査の標準化

57巻1号(2013年1月発行)

今月の主題1 臨床検査の展望
今月の主題2 ウイルス性胃腸炎

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら